妖精の尻尾のリュウさん   作:ただの馬鹿

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脆き鉄心、鍛造の時

なぜ、あんなに毛嫌いにしてた妖精の尻尾(フェアリーテイル)に加入することを決めたのか。

 

俺でも分かんねぇ。

 

俺は幽鬼の支配者(ファントムロード)が誇る鉄の滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)鉄竜(くろがね)のガジル様だ。

 

好きに生き、自由に暴れ、気に食わないやつをぶっ潰す。

 

残虐、残酷、残忍な悪党。それが俺のはずだ。

 

だが、妖精の尻尾(フェアリーテイル)との全面戦争後、その芯がブレているのを感じている。

 

俺の根幹を支える鉄の滅竜の力。それが、火竜(サラマンダー)との対決に敗れたことで、足元が揺らいでいるような感覚がずっとあった。

 

負けた直後は気づいていなかった。すぐに火竜(サラマンダー)にリベンジして、次こそは完膚なきまでに勝利する。そう息巻いていた。

 

だが、幽鬼の支配者(ファントムロード)が解散し、行き場を失い、飯の糧を求めて彷徨う内に、そんな激情も鳴りを潜めた。憂さ晴らしに適当に歯向かう奴をしばき倒しても、何故か心が満ち足りねぇ。

 

それまでは相手の心をへし折り、遊び道具にでもしてれば満足できていたはずだ。だが、どうにも気が乗らねぇですぐに相手を解放しちまう。

 

一体俺はどうしたいのか。何を求めてんのか。

 

今まで考えたこともなかった問が頭から離れず、荒んだ日々の中、自問自答を続けていた。

 

 

 

 

 

 

俺に、言葉や文化、そして魔法を教えてくれた鉄竜メタリカ―ナが突然姿を消してからのこと。

 

俺はメタリカーナを探す旅に出た。会う奴会う奴全員が(ドラゴン)の存在を妄言として切って捨てる。嘲け笑うゴミ共は全員叩きのめしてやった。気に食わなねぇからな。

 

だが、少し旅を続ければ、奴らの言い分にも理由があったらしい。(ドラゴン)は伝説の生き物、あるいは既に絶滅していて、今生きているようなものはいないというのが一般的な考え方だ。それなら、俺の言葉を信じないのも無理はねぇ、とは思っちまった。ぶん殴ったのは後悔してねぇがな。

 

そうしてしばらくした後、メタリカ―ナを諦めた訳じゃないが旅を止めることにした。魔導士が生きていくためには魔導士ギルドに加入する必要があったからだ。

 

俺はイシュガルでも最大といっていいギルド、幽鬼の支配者(ファントムロード)に加入した。

 

選んだ理由は特にねぇ。ただ最大最強と言われているからそこにしただけだ。

 

そこは力こそ全ての世界。傍若無人な振る舞いも、メタリカ―ナから授かったこの力さえあれば、誰も文句は言ってこねぇ。

 

爽快だった。メタリカ―ナの存在こそ信じねぇ奴らだが、俺の鉄の滅竜魔法に誰もが恐れ戦き、褒め称える。他の奴らに手を出しても誰もが許す。敵対者をいたぶれば報酬が貰える。

 

この上なく居心地がいいところだった、はずだ。

 

だが、解散後宛てもなく彷徨う中で疑念が生じてきた。本当か? 本当に俺の居場所はあそこだったのか?

 

鬱陶しいだけだったはずの、あのばばあの言葉が脳裏を過りやがる。

 

 

 

 

 

 

全面戦争の少し前、評議院に呼び寄せられた時のことだ。

 

ファントムは最大のギルドとは言っても不祥事を揉み消すような権力を持っている訳じゃねぇ。だから、俺がちとやり過ぎちまった時とかは良く評議院の裁判を受けにいくことがあった。

 

その度ごとに毎回呼び止めてくるやつがいた。ベルノとかいう偉ぶったばばあだ。俺が餓鬼の頃、最初に評議院に呼ばれたときから、毎回毎回絡んでくることに俺はうんざりしていた。

 

「待ちぃや、ガジル」

 

「またアンタかよ」

 

「何度もゆーとるけどアンタ…………ファントム抜けた方がええよ」

 

言うことは大体同じだ。ファントムは俺がいるような場所じゃない。ファントムは苛烈にやりすぎるきらいがあって、俺がそこにいることは良くない結末になる、というようなことだ。

 

だが、俺にとってファントムは好き勝手できる場所だ。そこを離れるなんて考えられねぇ。

 

俺はいつも否定していた。

 

「いちいちでしゃばるんじゃねぇ」

 

「ファントムの最近の動向は目に余る。このままじゃ……」

 

「オイコラ、ババア。この鉄の滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)ガジル様に指図すんのか」

 

「何度でもゆーよ」

 

ばばあは俺の睨みに動じることもなく、真っすぐと見つめ返して来やがる。

 

「アンタみたいな若者はぎょーさん見てきたけど、みんな本当はさみしがり屋なんや」

 

「てめえ…………」

 

ばばあは俺を侮辱しているんだと思った。

 

誰がさみしがり屋だ。俺を馬鹿にするのも大概にしやがれ。

 

そんな心の弱え餓鬼みたいな男に見えんのか、てめえはよ。

 

「正しく生きろとは言わんよ。でも、意味のある生き方をするんや」

 

「おう……意味ならあるぜ!! 今度戦争するんだ! 妖精の尻尾(ケツ)とな!!」

 

そうだ。この鉄の滅竜魔法をもって、敵を潰す。

 

目障りな妖精(ハエ)と、もう一匹の火竜(トカゲ)を空から叩き落とす。

 

それが、俺の生きる意味だ。

 

 

 

 

 

 

そう思っていたはずだ。

 

だが、俺は負けた。ファントムも消えた。

 

なら、俺の生きる意味はなんなんだ?

 

ばばあの言葉が巡り続ける。

 

答えの出ない問いにいらつき、適当に邪魔者をしばく。だが心は晴れず重くなっていくだけだ。

 

いや、生きる意味なんて必要ねぇ。

 

所詮、俺は根無し草。

 

好きに生き、自由に暴れ、気に食わないやつをぶっ潰す。

 

そして最後にどっか相応しい場所で野垂れ死ぬ。

 

そうだ、それでいい。この歩みも、死に場所を探しているだけのことだ。

 

それだけのことなんだ。

 

 

 

 

 

 

そんな時だ。俺に手を差し伸べるような物好きなやつがいたのは。

 

とある廃村で鉄屑の山に腰掛けて、鉄を貪っていた俺に小柄な老人が声をかけた。

 

「よぉー旨いのかね。鉄ってのは」

 

「マスターマカロフ……!?」

 

そいつは敵対していたはずの妖精の尻尾(フェアリーテイル)のマスター、マカロフだった。

 

気安い口調で、ゴミ山を登り、俺の元へと近づいてきた。

 

「先日ジュビアがウチのギルドに入ってのう」

 

「何だと!?」

 

「いや、おまえさんの事もずいぶん心配しておったぞ」

 

「何考えてんだあの雨女!!」

 

同じファントムに所属していた幹部同士で、同年代ではあったから他の奴らよりは近い存在ではある。だが、こうやって気にかけられるような筋合いはねえ。

 

解散以降は一度も会ってはねえし、あの女がどういう意図で差し向けてきたのか分からねえが余計なお世話だと思った。

 

だが、マカロフが次に続けた言葉に驚愕した。

 

「自ら闇に堕ちる事はない。どうじゃね、ウチのギルドへ来んか?」

 

「冗談じゃねえ!! 本気で言ってんのかてめえ!!」

 

この爺さんの頭を本気で心配した。どこの誰が敵対した魔導士をスカウトするのか。

 

だが、その真剣な表情と言葉が、俺の苦悩を見透かしたかのように突き刺さった。

 

「世の中には孤独を好む者もおる。しかし孤独に耐えられる者は一人もおらん」

 

俺はその言葉に反発できなかった。

 

今までは自分のことを孤高の男だと思っていた。他者を黙らせる実力があり、横暴で冷酷な一匹狼だと、自分でそう気取っていた。

 

だが、孤独、という言葉が重く圧し掛かり、今まで自分を形成していた鉄竜(くろがね)のガジルというメッキが剥がれ落ちていく。

 

思わず俺は、罪悪感も欠片もなかったはずの自身の凶行を、虚栄心を守るための言い訳に使ってしまった。

 

「お、俺はアンタのギルドを壊したんだぞ」

 

「そんな事はもうえーわい」

 

「……アンタの仲間を、キズつけた」

 

「それはたとえどんな事があろうと許さん」

 

マカロフの容赦ない断言に、体が硬直した。

 

以前の俺なら糾弾する言葉を鼻で笑っていたはずだ。

 

それなのに、自分の罪を自覚させられる感覚に心が軋んだ。

 

「だが……闇に堕ちようとする若者を放っておいたとなれば、ワシは自分をもっと許せなくなるだろう」

 

そして、マカロフが続けた言葉に、硬直した体が震えだす。

 

一体どういう気持ちでその言葉を聞いていたのか、今の俺には言語化できなかった。

 

背けていた顔を見遣れば、ただ彷徨い続けていた俺に、手が差し伸べられていた。

 

「これは救いでははない。明日へのただの道標。進むか止まるか、決めるのは自分自身じゃ」

 

「……俺は…………」

 

俺は…………その手を……………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ガジル坊が妖精の尻尾(フェアリーテイル)に入るなら心強いねぇ。歓迎するよ、よろしくね」

 

俺はその手を握らなかった。鼻を鳴らして飯に戻る。

 

そいつは、ファントムのマスタージョゼが警戒していた女だった。全面戦争時に、その女を不在を狙ったところからも、ジョゼの警戒心の高さが表れていた。

 

俺はジョゼに直談判した。当時は、たった一人の女を怖がって尻尾を巻いているようにしか見えなかったからだ。

 

その時に聞いたのが、その女の実力の高さだった。実は、その女はマカロフやジョゼが認定を受けていた聖十大魔導の授与を固辞したという経歴があるとのことだった。聖十を二人同時に対抗することは困難だとして、S級クエストで北方の大陸に遠出した隙を突くことにしたということだ。

 

俺は弱腰だと内心侮蔑していたが、実際に魔導収束砲「ジュピター」を無効化し、煉獄砕破(アビスブレイク)を粉砕して、ジョゼの幽兵(シェイド)を相手取って防衛線を破らせなかった光景に、ジョゼの言葉の正しさを知った。

 

そして、その得体の知れなさに警戒した。

 

実はその女が言うように何回か面識がある。

 

評議院に何かした用があって出向いているみたいだが、俺が裁判で呼ばれた時と合致したときは声を掛けてきていた。ベルノのばばあと親しいみたいで、ちょうどうざったらしい説教を言いに来た時に良く同席していた。

 

俺にとってはただの宿敵にいる一介の女魔導士でしかない。特に会話をすることもなくガン無視を決め込んでいた。

 

知人以下の人物だ。

 

その女が、ギルドを壊したことも、仲間を傷つけたことにも怒らずに、歓迎するといって握手を求めてきやがった。更には心強いだと。

 

俺は警戒さえしたというのに、そのあまりにも真っ直ぐな言葉に対応できずに逃げちまった。そんなだせえ振る舞いにも、その女は肩を竦めるだけだった。更には、疑惑の声を上げる女に対して、責任をとるから信じてあげろ、なんてことを言いやがった。

 

俺のことを良く知らない癖して、なんでそこまで言えるのか、俺には分からねえ。

 

一体、何を考えているのか。

 

 

 

 

 

 

その後は、気に食わねえ火竜(サラマンダー)の野郎と顔を合わせた。こいつらは警戒する様を隠しもしないが、それが当たり前だ。どこの誰が馬鹿正直に受け入れられるのか。

 

火竜(サラマンダー)が居心地悪いとかぬかすが同感だ。疑惑の視線が向けられる針の筵状態だし、ましてや、火竜(サラマンダー)と同卓なんてのはな。

 

だが、俺はこのギルドを抜けるつもりはなかった。マカロフの言葉が頭に残っている。このギルドを抜けたとして、次に俺はどこに行くのか。それが俺の本当の望みなのか。

 

自問自答は終わってない。だが、一人彷徨っていたときに感じた、足元が揺らぐような感覚が今はなかった。だから、俺は今なおここにいる。

 

まあ、流石に隣に火竜(サラマンダー)がいるのは耐えられそうにないがな。隙を見て足蹴にでもしてやるか。

 

 

 

そう考えていた思考が、あの女の歌で真っ白になった。

 

透き通る歌声と、込められた暖かな感情。その今まで聞いたことのない歌唱力の高さに驚愕したのもある。俺も弾き語りは得意だから、その力量に感服した。

 

だが、それ以上に、彼女の目線が俺に向けられているのを見て悟った。

 

これは俺に向けられた歌だということを。

 

歌っているのは子守唄みたいなもんだ。だが、俺にはここにいることを認める歓迎の歌だと感じた。

 

ただの妄想かもしれない。

 

だが、マカロフに次いで、あまりにも真っ直ぐなその信頼に、警戒も忘れて俺は呆然としてしまった。

 

 

 

我に返ったときには火竜(サラマンダー)の足を踏んづけていた。確かに足蹴にしてやろうとは思っていたが、これは故意じゃなかったが火竜(サラマンダー)の野郎は勘違いしていた。

 

そこからは乱闘の始まりだ。ファントムじゃありえない騒々しさに呆気にとられたが、妖精の尻尾(フェアリーテイル)にいるんなら慣れねえといけねえらしい。

 

前途多難な未来に冷や汗をかいた。

 

 

 

 

 

 

マカロフやリュウからは認められても、ギルドの大多数は不信感を抱いている。

 

特に、俺が傷つけた三人からは隔意を持たれていた。いや、女はただ怖がっていただけみたいだが。

 

あとの男二人が報復に絡んできたが、俺は抵抗しなかった。

 

攻撃されて苛立たなかった訳でもねえし、仲間として認められたいなんて風にも思っていなかった。

 

ただ、マカロフやリュウの信頼を裏切るようなクソ野郎になりたくなかったからだ。

 

そんな場に現れた男がいた。

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)のS級魔導士、ラクサス。

 

こいつは俺の存在が気に食わなかったらしい。いや、正確には、マカロフの意図を、敵だった俺を味方に抱き込んでギルドを守ろうとしたと曲解して激高していた。

 

そして俺に攻撃を仕掛けてきた。

 

さっきまでとは比べ物にならないほどの雷撃の威力。抵抗はしないと決めていても、体に走る激痛に苦悶の声が漏れてしまう。

 

更にあろうことか、制止の声を受けたことにも怒って、傍観していただけの女に対して雷撃を放ちやがった。咄嗟に女を守るため、身を挺して雷撃を代わりに食らった。この時はほとんど何も考えてなくて、体が勝手に動いてしまった。

 

白けたのかそれ以上の追撃もなく、俺はその場から立ち去って仕事へと向かった。

 

それ以降、誰かから絡まれることもなくなったが、俺にとってはどうでもいいことだった。

 

俺のことを認めようが認めまいがどっちでもいい。

 

俺には俺のすべきことがあったからだ。

 

 

 

 

 

 

「お゛まえが幽鬼の支配者(ファントムロード)のガジルちゃんかよ゛ぉ」

 

俺の目の前に立っている髭面の男。

 

闇ギルド大鴉の尻尾(レイブンテイル)を率いるマスター。

 

マカロフの実子、イワン・ドレアーがいた。

 

「そんでえ、妖精の尻尾(フェアリーテイル)に復讐するため、お゛れたちの仲間になりでえと?」

 

「ギヒッ! ああ、この鉄竜(くろがね)のガジル様を虚仮にしてくれた代償を払わせてやりてえからな」

 

「ぞうか。な゛ら、お前は妖精の尻尾(フェアリーテイル)に潜入してお゛れたちに情報を流すスパイをやれ。そうじたら認めてやるよ゛お」

 

これが俺に任された役目。

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)に潜入したスパイを演じながら、大鴉の尻尾(レイブンテイル)の情報をマカロフに伝える二重スパイ。

 

マカロフの実子でありながら、その思想と人格を危惧したマカロフが直々に破門にした危険人物。

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)を敵視し、いつかは戦うことになる相手の情報を得るため潜入するには、元ファントムで復讐心を抱いていると勘違いさせやすい俺が適任だった。

 

闇ギルドを練り歩き、度重なる交渉の末、ようやく面会することができた。

 

これでようやく、俺は自分の務めを果たすことができる。

 

「ああ、妖精の尻尾(フェアリーテイル)を始末するためにな」

 

そう、妖精の尻尾(フェアリーテイル)を守るためにな。

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