妖精の尻尾のリュウさん   作:ただの馬鹿

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妖精たちの祭り

収穫祭。

 

農作物の収穫時期となる秋の行事。無事に農作物を収穫できることに感謝し、来年の豊作を記念する祭りだ。

 

農業や酪農を主な産業とするフィオーレ王国でも、収穫祭とは大きなイベントであり、各都市、各村にて盛大に催されていて、誰もが心待ちにするハレの日となる。美酒美食といった出店や演劇芸能の興行、商会のバーゲンセールや個々人が持ち寄るフリーマーケット。より取り見取りの催し物の数々に、誰もが喜びを分かち合う。

 

マグノリアもまた収穫祭を控え、住民たちは浮足立ち、街外からも人々が来訪して心待ちにしている。屈指の商業都市であるマグノリアの収穫祭は規模も大きく、魅力的なイベントが目白押しだ。

 

その中でも、マグノリアが誇る魔導士ギルド、妖精の尻尾(フェアリーテイル)ファンタジア(大パレード)は最も期待されている最大のイベントだ。

 

魔導士たちが操る魔法は一般人には見慣れないものであり、その魔法を使って絢爛で美麗なパレードがマグノリアの大通りを練り歩く様は見る人全てを魅了する。このパレードが見たいがために遠路はるばる足を運ぶという人たちも多い。

 

そしてもう一つ。マグノリアの住民たち、特に男衆にとって見逃せないイベントがあった。

 

容姿端麗な女性陣が並ぶ妖精の尻尾(フェアリーテイル)の中でも、一番の美人を決めるコンテスト。

 

人呼んで、ミス・フェアリーテイル!

 

 

 

 

 

 

「ってのがあるんだよ。ルーシィ」

 

ハッピーが手渡してきた収穫祭のチラシには、ミス・フェアリーテイルの項目があった。参加要件は妖精の尻尾(フェアリーテイル)の女性であること。そして、その優勝賞金が50万(ジュエル)ということが記載されていた。

 

「50万(ジュエル)!!? 家賃7か月分!! そしてなんてあたし向き!!!」

 

その金額を目にしたルーシィに電撃が走る。ルーシィは常に金欠だが、今月は輪をかけてお金がなかった。というのもリクエストボードに張られた依頼書には、お手軽で金払いの良い依頼がなかったため、ここ最近依頼を受けていないからだ。

 

いつもなら、依頼料が高額だが危険な仕事でも、ナツに付いていくことで依頼料の山分けで家賃に充当できていた。いや、ナツのコバンザメになっている訳ではなく、ルーシィはルーシィなりに死線を乗り越えて活躍もしている。ただ、ルーシィ単体ではそういった危険な依頼に向かっても自殺行為だと分かっているため、ナツに付いていくか、エルザたちとのチームで事に当たるのが常だった訳だ。

 

だが、楽園の塔の事件でエーテリオンを食うという無茶に走った副作用からか、ここ数日、ナツはグロッキーな状態であり、ナツと依頼に行くことができなかった。また、グレイは新しく加入したジュビアの世話をマカロフから言い渡され、エルザは新しい鎧に不具合があるとしてメーカーに抗議しに行った。そのため、誰かと一緒に依頼に行けず、ルーシィは今月の家賃も払えそうにないほどの資金難だった。

 

とはいえ、大体ナツ、時折グレイとエルザ、稀にハッピーがやらかして依頼料の減額になるので、ナツがいたとしても常日頃から素寒貧なのは変わらないのだが。

 

そんなルーシィにとって50万(ジュエル)という報酬は魅力的過ぎた。

 

「ミラやカナも出るけど、ルーシィだって負けてないよ」

 

「えー!? ミラさんも!? 週ソラのグラビアやってる人よ!!」

 

報酬の前に立ちはだかる強敵を知り、ルーシィは少し怯む。

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)の女性陣はルーシィをして魅力的な女性ばかりだが、中でもミラジェーンは愛読書の週刊ソーサラーでグラビアを掲載されるほどの美人である。ルーシィが妖精の尻尾(フェアリーテイル)に入る以前から憧れていた女性であり、自分の容姿に自信があったとしても勝ち目が薄いと感じてしまった。

 

「で……でも、あたしの方が若いし!! フレッシュな魅力って事で……。いける! いけるわ!! 50万(ジュエル)!!! 絶対優勝してやるんだから!!!」

 

ルーシィは虚勢を張るあまり、かなり失礼な理由で自分を鼓舞していた。腰をくねらせて若さをアピールするルーシィにハッピーは呆れている。

 

「おまえ、そんな金にがめつい女だったんだな」

 

そしてナツが引き気味にルーシィを茶化した。

 

「が、がめ。っていうかあんたのせいでしょ! あたしが依頼に行けないのは!! っていうかなんで元気になってんのよ!! 昼過ぎまで死んでたじゃない!!」

 

ルーシィがナツを指差した。ナツがルーシィの家に不法侵入するのはいつものことだが、今日昼頃はぐったりしていたナツが、けろっとした顔で自分の家にいることにルーシィは憤った。

 

もう自分の家に入られるのは半ば諦めているが、自分の金欠の原因が平然とした顔でからかってくることが腹立たしい。

 

「ここに来る前にリュウに会ってよ、だるいのを治してもらったんだ」

 

「リュウさんが?」

 

ルーシィの脳裏に彼女の姿が浮かぶ。

 

付き合いが短いながらも会話をする機会は多い。その人となりや、ギルドに対する愛情の深さを知るにつれてルーシィにとっても暖かく、思わず甘えたくなってしまいそうな包容力に溢れた女性だ。

 

同時に、謎が多いとも感じていた。例えば、いったいいくつなのかとか、いつからギルドにいるのかとか、色々気になるところも沢山あった。

 

そして、何の魔導士なのか、ということもルーシィは知らなかった。例えば、自分なら星霊魔導士、ナツなら炎の滅竜魔導士といった具合だ。

 

だが、ファントムの大立ち回りを目撃しても、使う魔法に一貫性がなく、代名詞的な魔法も分からなかった。今回、ナツの副作用を治したこともそうだ。一体どういう魔法を使ったのだろう。

 

ルーシィが思案しているところに、ナツが声をかけた。

 

「おまえも早く寝ろよ。祭が近えんだから」

 

「そうね……って、ここはあたしの家なんだからあんたがさっさと帰りなさい!!」

 

我に返ったルーシィがナツとハッピーを叩きだした。

 

 

 

追い出されて、自宅に帰る途中にナツが思い出したことをハッピーに伝えた。

 

「そういや、さっきのやつなんだけどよお」

 

「ミス・フェアリーテイルのこと?」

 

「おー。別に興味ねえから聞き流してたんだが、リュウのやつも出るらしいぞ」

 

「…………え?」

 

「さっき治してもらった時、ついでに聞いた」

 

「…………」

 

彼女の美貌はお世辞抜きで妖精の尻尾(フェアリーテイル)1、いや、イシュガル1だ。猫のハッピーには人間としての容姿の基準というものが良く分からないが、それを抜きにしても彼女は正に美の極致であり、老若男女問わず惹き付ける魅力があることは分かっている。

 

もちろん好みはあるだろうが、ハッピーにはもう結末が見えてしまっていた。

 

目を$マークにして、珍妙なポーズをとっていたルーシィにハッピーは黙祷した。

 

 

 

 

 

 

ミス・フェアリーテイル、開幕。

 

収穫祭でマグノリアの街が多くの人で賑わう中、妖精の尻尾(フェアリーテイル)のギルドハウスは異様な熱気に包まれていた。ギルドの面々だけではなく、マグノリアの住民、いや街外から来ている人たちもいて、広い酒場を特設ステージに変えた客席が大人数(特に男)で密集していた。

 

「マグノリアの町民の皆さん、及び近隣の街の皆さん。お待たせしました!!! 我が妖精の尻尾(フェアリーテイル)の妖精たちによる美の競演!!! ミス・フェアリーテイル開催でーーーす!!!」

 

ステージ上でマイクを握りしめ、軽快な喋り口で場を盛り上げる司会。グッズショップの売り子も務める多彩さを持つ男、マックスだ。

 

口達者なマックスだが、いつも以上のテンションで会場を熱狂させていた。

 

というのも、マックスは自身に課せられた最大のミッションをこなしたことへの達成感があったからだ。

 

マックスが早速、出場者の一人目を呼ぶ。

 

「エントリーNО1!! 異次元の胃袋を持つエキゾチックビューティー!! カナ・アルベローナ!!!」

 

舞台幕の裏側で、出場者の女性たちが控えている。そこから司会に呼ばれた者が舞台に上がり、アピールタイムで自身の魅力を最大限発揮して、観客を魅了する。そして、投票により選ばれた一人が優勝するという流れだ。

 

まず最初に呼ばれたカナがステージに上がると、自身の扱う魔法の札(マジックカード)を空中へと飛ばし、大量のカードで自身の身体を隠す。

 

そして、一瞬にして水着姿になってポーズを取った。

 

「50万……いいえ……酒代は頂いたわ」

 

その魅惑のプロポーションを披露し、カナは不敵に微笑んだ。

 

舞台裏で様子を見ていたルーシィがそのアピールに驚く。

 

「水着……!? ずるい!」

 

「なるほど……その手があったか」

 

「―って、エルザも出るの!?」

 

「いやなに、雷帝の鎧の修繕に入り用でな。全力で行かせてもらう」

 

「や、家賃がとおのいて……」

 

いつの間にか傍にいたエルザに、ルーシィは自分の勝利が手から零れ落ちるのを感じた。エルザもまた出場者で、その強さと厳格さばかりに注目が行きがちだが、ミラジェーンにも劣らない美貌の持ち主で、文句なしの優勝候補だ。最近は雰囲気も柔らかくなっていて、男女問わず人気も上がっている。ルーシィの勝ち目が更に薄くなった。

 

そんなルーシィの悲観も差し置いて、カナの水着にヒートアップする観客に応えるかのようにマックスが熱弁を振るう。

 

「エントリーNО2!! 新加入ながら実力はS級! 雨もしたたるいい女!! ジュビア・ロクサー!!!」

 

次に呼ばれたジュビアにとって、観衆の他の男たちなど眼中にない。しかし、恋敵であるルーシィに打ち勝ち、そして愛しのグレイを悩殺するため、自分の魅力を最大限に発揮する。

 

自身の身体を水へと変化させ、水流を発生させる。そして、その水流の中から水着姿を披露するという演出も合わせた魅せ方は、会場のボルテージを更に加熱させた。グレイは平然としていたが。

 

「グレイ様見てますか!!」

 

「またしても色仕掛けか!」

 

ジュビアの水着姿にルーシィが憤った。ルーシィはアピールタイムに色仕掛けをするなんて考えもなく、健全な方法で挑もうとしていた。だが、こうも単純に乗せられる男どもを見ていると腹が立ってくる。

 

自分ももっと露出を増やすべきか、なんて考えていると遂に最大の壁が現れた。

 

「エントリーNО3!! ギルドが誇る看板娘!!! その美貌に大陸中が酔いしれた!! ミラジェーン・ストラウス!!!」

 

「待ってましたー!!」

 

「優勝候補ー!」

 

「本物だあ!!」

 

グラビアも掲載されるほどの美貌と知名度に会場が最高潮になる。

 

その中でも、ミラジェーンは自然体だった。軽く微笑みながら観客に手を振っている。そんな彼女が選んだアピールポイントは前二人と同じく自身の使う魔法だ。

 

「私……変身魔法が得意なんで変身しまーす」

 

ミラジェーンは変身魔法で、自分の顔だけ変化させた。

 

「顔だけハッピー」

 

「えーーーーーーーーーーー!」

 

その予想外なアピールに会場も困惑する。ミラジェーンの身体はそのままで、首から上が猫であるハッピーの顔に変わるという、そのアンバランスさは会場の熱気に冷水を浴びせた。

 

「顔だけガジルくん」

 

「ぶーーーーっ!」

 

次に顔だけが強面なガジルになったことで、実は会場にいたガジルが噴出した。はっきりいって気持ち悪い。笑ってるのはハッピーだけで、エルフマンに至っては姉の奇行に愕然とするしかなかった。

 

このコンテストの趣旨を理解できてないかのような行動に、ルーシィは自滅行為だとほくそ笑んだ。

 

会場も一気にテンションが下がってしまったが、マックスが気を取り直すように声を張り上げた。

 

「エントリーNО4!! 最強の名の下に剛と美を兼ね備えた魔導士!!! 妖精女王(ティターニア)のエルザ・スカーレット!!!」

 

いつもの鎧とスカート姿で歩いてくるエルザに、静まった会場も再び声を上げて盛り上がる。

 

「キター!」

 

「エルザーーー!」

 

「かっこいい!!」

 

「あれが妖精の尻尾(フェアリーテイル)最強の女か!」

 

ルーシィがエルザの人気に驚いた。エルザは、ミラジェーンとはまた違った方向で人気を集めている。元より容姿が優れていて男たちの人気も高い方だったが、その武勇と堂々たる姿は女性人気も高かった。客席の女性陣の黄色い声も上がり、ルーシィの中で危機感が高まってくる。

 

「私のとっておきの換装を見せてやろう」

 

ステージに上がったエルザが魔法を展開する。魔力の渦がエルザを包み、観客から見えなくなる。そして現れたエルザの服装に会場が度肝を抜かれた。

 

「ゴスロリ!!!?」

 

なんと黒を基調とした可憐なゴスロリ衣装を纏っていた。黒のフリルがあしらわれたミニスカートとベルスリーブ、スタイルを強調するコルセットと純白が際立つブラウス、そして緋色の髪を纏め上げた大きな黒いリボン。普段の凛々しさから一転して、可愛らしい印象を与えるファッションに、会場が一瞬の驚愕の後に歓声で埋め尽くされた。ミラジェーンによって落とされたテンションがエルザによって一気に引き上げられる。

 

「フフ……決まった」

 

エルザもその反応の良さに不敵な笑みを零した。

 

「エルザ、キャラ変わり過ぎよ~……」

 

「そうだねぇ。エルザ嬢もずっと明るくなって何よりだよ」

 

「いや、明るくなりすぎですよ…………って、リュウさん!!!??」

 

「やあ。ルーシィ嬢、楽しんでいるかい?」

 

勝ち目がこの上なく薄くなったことで肩を落としていたとき、声をかけてきた人物にルーシィは仰天した。

 

この世ならざる美貌を持った彼女がそこにはいた。

 

ルーシィは恐る恐る確認する。

 

「ま、まさか、リュウさんも……?」

 

「うん。年寄りの冷や水にしかならないから遠慮してたんだけど、マックス坊に熱烈に口説かれちゃってねぇ。あそこまで熱心に迫れちゃったら、一肌脱いであげないと女がすたるってものさ。ルーシィ嬢の次だよ。8番目。縁起が良いねぇ」

 

「え、いや、え、あー…………一肌脱ぐって、本当に脱ぐ訳じゃないですよね」

 

梯子を外されたような衝撃にしどろもどろになりながらした質問にルーシィ自身も何聞いてるんだと思った。

 

「ふふ、どうだろうね?」

 

はぐらかしながら流し目でルーシィを見る彼女には、普段の老成された雰囲気からは感じられなかった蠱惑的な色気が感じられて、ルーシィは一瞬に心臓を鷲掴みされたように魅了された。

 

だが、直後にがっくしと項垂れる。ただでさえ、カナとジュビアの色仕掛けとエルザのギャップ萌え作戦に、50万(ジュエル)への道筋が先細りになっていたのに、思わぬ伏兵の登場に道行が途絶えたように感じた。

 

どんよりと落ち込むなかでも、ミス・フェアリーテイルは続いていく。

 

「エントリーNО5!! 小さな妖精、キューティ&インテリジェンス! レヴィ・マクガーデン!!!」

 

レヴィは自身の魔法、立体文字(ソリッドスクリプト)で周囲を彩る。文字を立体化して空中に浮かばせると、その文字は表している意味の通りに現実へと表出される。色とりどりのマジックレタリングは見る者の目を喜ばせる。

 

「エントリーNО6!! 西部からのセクシースナイパー! ビスカ・ムーラン!!!」

 

ビスカの魔法はエルザと同じ換装だが、呼び寄せる武器が違う。銃器を呼ぶ換装で銃士(ザ・ガンナー)と言い、その狙撃の腕前は標的を逃がさない。ステージに設置したターゲットを狙い撃つ姿はエキゾチックな凛々しさに溢れていた。

 

ビスカのアピールが終わると、次はルーシィの順番となる。

 

「ほれ、ルーシィ嬢。出番だよ」

 

「はい~~~」

 

最早ルーシィのやる気は落ち込んでしまっていた。昨日にはもう自分のものだと思っていた50万(ジュエル)が見えなくなっている。

 

とは言えやるからには全力を出す。気を取り直して、舞台裏で呼ばれるのを待った。

 

「エントリーNО7!! 我らがギルドのスーパールーキー! その輝きは星霊の導きか……ルーシィ・ハー」

 

「だーーー! ラストネームは言っちゃダメェ!!!」

 

思わず大声を出して、マックスの口上を遮ってしまった。大財閥の令嬢が50万(ジュエル)という金額に必死になっていると思われたくなかったからだ。今となっては遠い夢のようだが。

 

「何だ?」

 

「さあ、どうしたんだろ?」

 

「いやでも、かわいいなあの娘」

 

いきなり叫んでステージに飛び出してきたルーシィに会場が俄かにざわついた。だが、首を傾げたのも少しの間だけで、ルーシィの容姿に惹かれる観客もちらほらといて、ルーシィのアピールを期待して待っている。

 

「あはは。えーと……あたし星霊と一緒にチアダンスします」

 

苦笑しながらルーシィは準備をする。ジャケットを脱いで、クロップドトップスとミニスカートのチア衣装になると、金鍵を取り出して星霊を呼び出した。

 

「開け、処女宮の扉! バルゴ!!」

 

光り輝きながら現れた星霊バルゴはいつものメイド服姿ではなく、ルーシィと同じチア衣装を身に纏っていた。大胆な露出のチア衣装で現れたバルゴの容姿に、観客も色めきたつ。

 

「おお、あれが星霊か!」

 

「黄道十二門の激レア星霊だってよ!」

 

「か、かわいいなバルゴさん。オレ、ファンになりそう」

 

「オイコラそこ! あたしより盛り上がらない!」

 

「なるほど…………今度は公衆の面前での羞恥プレイというわけですね、姫」

 

「ひ、姫? まさか呼ばせてんのか?」

 

「かわいい顔しててもまさかの本性……」

 

「いったいいつもはどんな過激なプレイを……」

 

「ちっがーーーーーう!」

 

いつも通りのバルゴの発言が、観衆の誤解を招いていて、ルーシィが大声で否定した。アピール前から前途多難な様子にルーシィは頭が痛くなってきた。

 

必死に誤解を解いてからアピールのチアダンスを始めた。この時のために練習を重ねてきたから、バルゴとの息はピッタリだ。容姿の優れた少女二人が、まったく同じ動きで踊り切った時には、観客もまた歓声を上げた。

 

一時はどうなるかと思ったが好評だったようで安心したが、エルザの歓声に比べて小さかったために落胆もしてしまった。

 

バルゴも閉門して、ただ一人舞台裏に帰ってきたルーシィを彼女が出迎えた。

 

「お疲れ様、ルーシィ嬢。息の合ったダンスで素晴らしかったよ。思わず見とれちゃった」

 

「うわ~~ん、リュウさ~ん。あたしの50万じゅえる~」

 

「おとと。まだまだ分からないよ。結果を待とうじゃないか」

 

そう言う彼女は優勝確実候補だったが、ルーシィは構わず彼女に泣きついた。

 

自分の出番を控えているのに、よしよしとルーシィの頭を撫でる彼女だったが、遂にマックスが彼女の口上を始めた。

 

マックスにとって、彼女をこの場に呼ぶことができたのが最大の功績だった。周囲からも求められるなか、目立つことを好まない彼女をコンテストに出場させるなど無理難題だと思いながらも、諦めずアプローチを続けたことが実を結んだ。その達成感から本来公平であるべきところなのに、彼女の口上に注ぐ熱量が青天井になってしまった。

 

「エントリーNО8!!! それは地上に舞い降りた奇跡!! 仙姿玉質たる美しさが全人類を虜にする!!! その名も!!!」

 

「はいはい、リュウさんだよ~」

 

マックスの熱を帯びた口上に被せるように現れた彼女の口ぶりは何処までも通常運転だった。

 

彼女の登場に、観衆が水を打ったように静まり返る。まさかのサプライズゲストに現実についてこれなかったのだ。

 

普通なら静寂に満ちた会場に戸惑うところだ。マックスもまた予想外の反応に、焦燥感に冷や汗を流す。

 

だが、彼女は特に動揺することもなく、柔らかく微笑みながら観衆に手を振った。

 

「みんな、よろしくねぇ」

 

「「「「「うおーーーーーーー!!!!!!!」」」」」

 

「っうおう」

 

そして会場が爆発した。その音量にさしもの彼女もびっくりした。

 

信じられない光景に誰もが目を疑い、隣り合った人と目を合わせて現実を確かめ合っている。

 

「おいおいおい、リュウさんかよ!!! こんな場に出てくるなんて、そんなのありか!!?」

 

「まじか、ましかよ!! 今日のミスフェア、やばすぎんだろ!!!」

 

「ふ、ふつくしい…………き、きてよかったぁ…………」

 

「マックス、ありがとう!!! おまえは神だ!!! いや、神は彼女だ!!!! アーメン!!!!!」

 

「あ、あ、興奮して、鼻血が……」

 

驚天動地のサプライズに会場が最大の盛り上がりを見せる。多くの人が知って通り、彼女はこの世で最も美しいと言われるほどの美貌の持ち主だが、その活動は慎ましやかで、容姿をひけらかすこともなければ、パフォーマンスを行うこともなかった。

 

だが、この場に出てきてアピールタイムを行うというサービスに、興奮、陶酔、狂喜乱舞の渦が湧き起こっていた。

 

「落ち着いてー! 落ち着いてー!」

 

マックスが熱狂を抑えようと声を張り上げるが、一向に収まる様子がなかった。

 

その時、パンっと手を叩く音が響く。乾いた小さな音がしただけだが、それだけで観衆は落ち着きを取り戻した。

 

彼女が手を合わせた状態で壇上に立っていた。彼女が観衆を鎮めるために手を叩いたのだ。

 

「はい、落ち着いて頂戴な。今からアピールするからねぇ。みんなに見ていてほしいのよ」

 

彼女のその言葉に観衆はハッと理性を取り戻す。そして、迷惑をかけてしまったことにバツが悪くなるが、彼女がアピールしてくれるのを楽しみに待つことにした。

 

「うんうん、ありがとうねえ。それじゃあ、とっておきの、用意してきたから」

 

そう言って、彼女がアピールに入ろうとした時だった。

 

「ん?」

 

後ろから、肩をトントンと叩かれ、彼女は後ろを振り返った。

 

そこで、彼女が振り返るのを待っていたのは、扇情的な緑衣を着て、オークルの髪を束ねている女性、雷神衆の一人、エバーグリーンだった。

 

「くだらないコンテストはこれにてお終い♡」

 

眼鏡を外した裸眼を彼女は直視してしまった。

 

エバーグリーンの石化眼。見る者を石化する魔眼。

 

彼女は石と化した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

急転。

 

ミス・フェアリーテイルに乱入してきた妖精の尻尾(フェアリーテイル)のS級魔導士ラクサスと、その一派の雷神衆、フリード、ビックスロー、エバーグリーン。

 

最近のギルドの雰囲気に対して憤懣を抱いていたラクサスが突如として開いた祭り、バトル・オブ・フェアリーテイル。

 

ミス・フェアリーテイルに出場した女性陣全員を石化して人質とし、その場の魔導士たちに参戦を強制した。

 

険しい顔で睨みマカロフにかまわず、ラクサスは開催を強行した。

 

制限時間は三時間。バトルフィールドはマグノリアの街全域。

 

時間切れは石化した者たちを粉微塵を招く。

 

ラクサスと雷神衆の4人と、その他の100人が戦い、最強を決める余興。

 

マグノリア中を駆け巡って、ラクサス雷神衆を探し出し、倒すことができたら人質を解放する。

 

それが、バトル・オブ・フェアリーテイル。

 

そう言って、ラクサスは雷の閃光を放って姿を消した。

 

残された者たちがギルドに残された人質を救うため、ラクサスたちを追って、マグノリアの街を駆け巡る。

 

だが、ラクサスの本当の企みは違う。

 

雷神衆の一人、フリードが扱う術式魔法。ローグ文字の術式が刻まれた結界が、その範囲にいる者に対して、あらゆるルールを課す。設置に時間がかかる分、罠として絶大な効果を発揮する結界のルールを、魔導士たちは守るしかない。

 

ギルドでは年齢制限と物質制限を課された結界により、マカロフと石像の出入りを禁止された。

 

そして街中には、戦闘強制の術式が張り巡らされて、ラクサスと雷神衆を探しに行ったはずの魔導士たちが同士討ちを強要されていた。人質の命がかかっていて、誰もかれもが正常な思考で事態を把握できずに、頭に血が上ったまま、ラクサスの思い通りに共食いを始めてしまう。

 

ラクサスと雷神衆を探して倒せば人質を解放する、という言葉は嘘だった。

 

ギルドに残されたマカロフには、フリードの術式で経過時間と残り人数を知らされ、仲間同士で潰し合い、そして次々と倒れていく様を見せつけられる。

 

そうして、マカロフの心を挫いて、マスターの座を手に入れる。

 

それが、ラクサスの目的だった。

 

 

 

全てがラクサスの思惑通りに進んでいた。

 

前もってマグノリアの街の全域にフリードの術式を仕込み、用意周到に進めてきた。

 

マカロフは石像と化した者を救うため、ギルドに隠れていたリーダスを東の森に住む顧問薬剤師ポーリュシカの下へと派遣したが、街の外縁に既に張られた術式によって阻害され、フリードと争い敗れた。

 

そして、ラクサスたちを探しにギルドを飛び出していった魔導士たちは、全滅した。思いを寄せるビスカを救うために戦っていたアルザックはフリードに敗れ、姉ミラジェーンを助けるために奔走していたエルフマンはエバーグリーンに翻弄されて負けて、先生と慕う彼女を虚仮にしたことへの報復に向かったグレイはビックスローと接敵し、罠に嵌められて敗北した。

 

そして表示された残り人数が二人。それは、マカロフと共にギルドに取り残された二人の滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)、ナツとガジルだった。

 

ラクサスの想定外でもあったが、二人はギルドの術式によって参戦を阻まれていたのだ。術式のルールに反していないはずの二人が出られない理由は、二人にとっても、ラクサスにとっても分からない。ただ、ラクサスにとって都合が良いことは確かだった。

 

これでラクサスを止められるものはいなくなった。

 

 

 

マカロフもまた、もう諦めるしかないかと挫きかけた時、ナツが突拍子もないことを言い出した。

 

「仕方ねえ! エルザを復活させるか!!」

 

「何!?」

 

石化された人間に下手な衝撃を加えると割れてしまう。エバーグリーンによって石化された者の末路をマカロフは知っている。ナツの暴挙はエルザを殺すことと同義だ。

 

マカロフは慌ててナツを止めようとする。

 

「ちょ……ちょっと待たんかいっ! おまえ……どうやって……」

 

ナツはあっけらかんと答えた。

 

「燃やしたら溶けんじゃね? 石の部分とか」

 

「やめーーーーーーーーーーい!!!」

 

あまりにも考えなしのナツの行動にマカロフは大声を上げた。

 

「エルザを殺す気か!!!」

 

「やってみなきゃわかんねえだろ」

 

「いや、流石にやめておいた方がいいねぇ」

 

その場にいたマカロフ、ナツ、ガジル、ハッピーのものではない、女性の声がナツを横から止めた。

 

一瞬誰だか分からずに思考が停止したが、改めて振り返ると、石化したはずの彼女が何ともない様子で、体を伸ばしながら笑っていた。

 

「リュウさん!!!??」

 

「やあ。いやー、エバ嬢の石化眼(ストーン・アイズ)も強くなってるねぇ。《復元》するのにも時間が掛かっちゃった。まいったまいった」

 

「なんだよ! おまえ、石化してたんじゃなかったのか?」

 

「石化はしてたよ。ただ、こんなこともあろうかと、と思って時間差で《復元》が発動されるようにしてるんだよね」

 

彼女の《復元》の力は、対象を問わない。物質であろうと生命体であろうと、他者であろうと自己であろうと、等しく元に戻す力だ。

 

だが、彼女でも意識をしないと力を行使できない。エバーグリーンの石化眼(ストーン・アイズ)によって石化した者は意識も奪われ、思考が停止してしまう。彼女もまた、石化中は思考ができずに、力を行使できない状態だった。

 

ただ、彼女はその事態も見越して手を打っていた。自分に対する《復元》の力を、意識を奪われた場合には自動で発動できるようにしていた。

 

つまり、こうして動いていられるのも、彼女の用心深さが功を奏した結果だった。

 

「それで今どうなっているのか、説明してくれるかい?」

 

 

 

 

 

 

「なるほどねぇ。ラクサス坊が」

 

「すまんのう、リュウさん……ウチのクソガキが…………」

 

「いやいや、やんちゃなのは男の子の性さ。とはいえ、このままじゃいけないのも確かだしねえ」

 

ラクサスの暴走ともいうべき事態に慌てる様子は見せなかったが、とはいえ放置し続けることもできない。彼女はエルザの石像に両手をかざすと、《復元》の力を行使した。ナツのような乱暴な真似をすると、完全に石像と化しているエルザの身体を破壊し兼ねないため、細心の注意を払って、エルザの身体を元に戻すことにした。

 

「正命回帰」

 

彼女がそう言うと、エルザの石像が光り、ギルドを照らす。その輝きが収まると、その光源になっていた場所に、石化が解かれたエルザが立っていた。

 

「暖かい……」

 

石化から目覚めたエルザが安心したように呟く。問題なく動けている様子に、一人取り戻せたことの安堵でマカロフもほっと胸をなでおろした。

 

「エルザー! 生きてっかー!?」

 

「エルザが復活したーーー!!!!」

 

ナツとハッピーもまた、エルザが復活したことに両手を上げて喜ぶ。

 

「一体、何が……」

 

さっきまでミス・フェアリーテイルで賑わっていた会場から人々が姿を消し、マカロフたちしか残されていない状況にエルザは困惑した。彼女が最後に覚えている記憶は、アピールタイムを終えて控えに戻って来た時に、普段はギルドにいないはずのエバーグリーンが急に現れて驚いたところだ。

 

エバーグリーンの魔眼によって石化されたであろうことは分かったが、両目で直視し完全に石化していた間は意識がなく、外部の情報は入ってこない。

 

そんなエルザに、一部始終を知り、事態を冷静に把握しているマカロフが説明した。

 

「バトル・オブ・フェアリーテイル…………ラクサスめ、なんて非道いことを」

 

「うん。ちょっとおいたが過ぎるみたいだから、エルザ嬢。懲らしめてきてくれないかな?」

 

「リュウさん、おいたなんてかわいいもんじゃないわい」

 

「そうか? 最強を決めるだけのことだろ?」

 

彼女は、ナツの無垢な言葉に苦笑いしながら、エルザに対して動き方を指図した。

 

「エルザ嬢にはまず、エバ嬢を撃破してきてほしい。私も順々に石化を解いていくけど、インターバルが必要だから時間がかかるからね。エルザ嬢がやってくれれば一気に解除されるから」

 

「はい、分かりました」

 

「それと、はいこれ」

 

そう言いながら彼女は創り出したゴーグルをエルザに手渡した。

 

「エバ嬢の魔眼は直視さえしなければ大丈夫だからね、これ使って頂戴な」

 

「ありがとうございます。お任せください」

 

エルザはゴーグルを受け取って、早速街中に向かおうとする。ギルドの門扉に身体を向けると、術式によって表示された残り人数が変動していることに気づいた。

 

「復活すると残り人数も律儀に変わるということか。凝ったことを」

 

「ナツ、ガジル、エルザ、リュウさんの4人ってことだね」

 

ハッピーが残り人数の内訳を上げて確認した直後、更に数字が動いて5人となった。

 

「!!」

 

「1人増えた」

 

「誰だっ!」

 

マカロフが並ぶ石像に目を向ける。レヴィの石像の前に立って、力が行使できるようになるのを彼女が待っているだけで、新しく復活した者はいない。

 

「皆、石のままじゃ。一体……」

 

「なーに、言ってるのさ。もう一人いるじゃないか、最強候補が」

 

マカロフの疑問に呆れたように正解を述べる彼女。

 

その言葉にエルザもまた不敵な笑みを浮かべた。

 

「そうか、参戦を決めたのか」

 

そう、ちょうど同じ頃、マグノリアの街に足を踏み入れた参加資格者がいた。

 

謎に包まれたS級魔導士。

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)の最強候補の一角、ミストガン。

 

「うんうん。ガン坊の活躍にも期待しようじゃないか」

 

「が、がんぼう…………?」

 

「うん? 何か変かい?」

 

彼女のあんまりなネーミングセンスに、意気込んで飛び出そうとしたエルザの出鼻が挫かれてしまった。

 

 

 

 

 

 

彼女により、レヴィが復活した。

 

フリードの術式は文字魔法の一種。立体文字(ソリッドスクリプト)という魔法を扱う才媛であり、語学が堪能で古代文字の翻訳も手掛けるレヴィであれば、フリードの術式の解除ないしは改変ができると考えたため、エルザの次に優先した。

 

彼女の力で無理矢理術式を破壊することもできたが、それに対する報復措置を警戒した。人質にされたとはいえ、ここまで用意周到なラクサスが彼女の力を考慮しない訳がない。だから、術式には正攻法で対応した方が良いと思って、レヴィを頼ることにしたのだ。

 

レヴィに事情を話すと、即答で協力してくれた。数多くの古代文字の専門書を書庫から引っ張り出してきて、術式の解読を始めた。ガジルが傍によってその作業を横から覗き見したがまったく分からなかったほど難解な情報が並ぶ。

 

レヴィは子供の頃から世話になった彼女から頭を下げられ、自身の得意分野で役に立てることを喜んだ。そして、ラクサスの暴走を放ってはおけないと思い、その才智溢れる頭脳を急回転させる。

 

そんな最中の出来事だった。

 

パリィン。

 

軽い砕けるような音を響かせながら、残っていた女性陣の石化が解除されていく。

 

「あれ、何これ?」

 

「んん?」

 

「ジュビア、どうしたのでしょう?」

 

意識が戻った直後で、記憶がぶつ切りであり、それぞれが困惑していた。

 

「エルザ嬢がやってくれたみたいだねぇ」

 

「おお! 元に戻ったー!!!」

 

「よくやってくれたエルザ!」

 

人質が解放されたことにマカロフたちが喜ぶ。

 

いや、喜びながらも一人だけ悔しい思いをしていた者がいた。

 

「あ~! もうちょっとで何かが掴めそうだったのに~!!」

 

レヴィだった。

 

彼女に頼まれて術式の解読に急いでいたが、人質はもう解放された。術式を書き換えることができれば、戦闘としては役に立てなくても、皆を助けることができると意気込んでいたが、人質が解放されたとなると、こんな悪趣味な催しも続ける必要はない。もう終わり(ゲームセット)だ。

 

残念ではあるが、皆が無事に解放されたのなら、万々歳だ。

 

そう思ったのも束の間、ラクサスの暴走はとどまることを知らなかった。

 

 

 

ラクサスの横暴に女性陣が憤り、マカロフが最大級の罰を下す意思を見せるなか、ナツが皆をなだめてラクサスのことをあまり怒らないであげるように言った。

 

ナツはこの催しを深刻なものと捉えていない。仲間同士の諍いなんて、妖精の尻尾(フェアリーテイル)では日常茶飯事で、むしろ最強決定戦という建前を信じていた。

 

ナツは仲間であるラクサスを信じていたからだ。

 

彼女もまた、ラクサスのことを信じている。だが、彼女はそれ以上に知っていることがある。ラクサスが宿す力の源泉が、一筋縄ではいかない代物であることを。

 

突如、ギルド中にアラーム音が鳴り響き、術式の情報ボードが空中に幾重にも浮かび上がる。赤地に髑髏マークの画面から、ラクサスの声が聞こえた。

 

「聞こえるかジジイ。そしてギルドの奴等よ」

 

「ラクサス」

 

ナツが画面を睨みつける中、ラクサスの次の言葉に、マカロフ、そして彼女もまた驚愕した。

 

「ルールが一つ消えちまったからな、今から新しいルールを追加する。バトル・オブ・フェアリーテイルを続行する為に俺は神鳴殿を起動させた」

 

「神鳴殿じゃと!!?」

 

「っ」

 

「さあ、俺たちに勝てるかな? それともリタイアするか? マスター」

 

情報ボードが消えていくなか聞こえてくるラクサスの哄笑に、マカロフが激高する。

 

「何を考えておるラクサス!!!! 関係のない者たちまで巻き込むつもりかっ!!!!! っぐ!」

 

そして血圧の急激な上昇によるものか、持病の発作を起こしてマカロフが心臓を押さえて倒れこむ。

 

「じっちゃん!」

 

「どうしたの!?」

 

「大変!! いつものお薬!!」

 

マカロフの急な発作に周囲が騒然とする。ミラジェーンが医務室に薬を取りに行く。

 

「みんな。私が医務室に連れていくから」

 

彼女は、小柄なマカロフの体躯を横抱きにして、ミラジェーンの後を追う。他のみんなもマカロフが心配で追従するが、途中でマグノリアの街を見渡すことができ、空中に浮かぶあるものに驚く。

 

「何だあれ」

 

「雷の魔水晶(ラクリマ)?」

 

医務室に入っていくマカロフを心配げに見ながらも、ナツ達がギルドの展望台へと出た。

 

マグノリアの街の外郭の上空を浮かび、街全体を囲うように配置された魔水晶(ラクリマ)。その一つ一つから強大な帯電が確認できる。一つだけでも人体に酷い損傷を齎すほどの電力をもつそれが約500個。それら全てが一斉に放電したら街中に無数の落雷が降り注ぐことが予想された。

 

そんな未来予想図に誰もが青ざめるなか、いち早く対処したのがビスカだった。

 

ビスカはスナイパーライフルを換装すると、浮かんでいる魔水晶(ラクリマ)を狙撃して破壊した。だが、突如ビスカの身体に電撃が迸り、そのダメージによってビスカは失神して倒れこんでしまった。

 

「生体リンク魔法!!?」

 

その原因をカナが看破した。魔水晶(ラクリマ)は攻撃したものと連結する魔法がかかっていた。つまり、破壊してしまうとそれが帯電していた電撃が跳ね返ってくる仕組みだ。これでは魔水晶(ラクリマ)を破壊することができない。

 

ラクサスの暴走は、まったく関係のない非力な住民たちすべてを人質にとって、その命を危険に晒していた。

 

「このままじゃ街の人たちが!」

 

「ラクサスをやるしかない! 行くよ!!」

 

ルーシィやカナ、ジュビアといった戦える者たちが街へと駆け出して、ラクサスを探し始める。ミラジェーンも戦えないまでも、弟エルフマンを探しに街へと走りだした。

 

「何考えてんだあの野郎!! やりすぎだろ!? いい加減にしろよラクサス!!!」

 

ラクサスを信じていたナツは遂に許容範囲を超えたのか、展望台の欄干を乗り越えて外に駆け出そうとした。だが、未だに術式は有効で、ナツは不可視の結界に阻まれる。頭突きや殴打を繰り返すがビクともせず、ただ血を流すだけだった。

 

「待って、ナツ!! 今すぐ解くから落ち着いて!!!」

 

レヴィがナツを制止した。術式の解読は途中まで進んでいて、人質が解放されて役目が終わったと思ったところに新たな人質を取られてしまった。レヴィはすぐに解読を再開して、戦えない自分に変わって、ナツやガジルを送り出すために全力を尽くす。

 

「ふう…………もう年なんだから無理しないでほしいんだけどねぇ」

 

医務室から、彼女が出てきた。

 

「リュウ! じっちゃんは!?」

 

見えない壁に格闘していたナツだったが、マカロフの容態が気になり、彼女のもとへと駆け寄った。

 

「一応、峠は越えたよ。ただ、今は寝かせておいてあげて」

 

彼女の力によって危篤状態は脱したマカロフだったが、未だに失神したままでビスカと共に医務室のベッドで眠っている。

 

「元々持病持ちだったからねぇ。私の力で症状を落ち着かせることはできるけど対症療法でしかないんだよ。余命もそんなに無いんだから無茶しないようにさせないと」

 

「そんなっ!!」

 

彼女の言葉を聞き逃せず、床にノートを広げてガリガリと解読方法を書き込んでいたレヴィが顔を上げた。

 

「リュウさんなら治療できるんじゃないんですか!? だって、重傷だって治したし、大病だって治してきたじゃないですか!」

 

「ごめんねぇ、レヴィ嬢。私の力は全能じゃないのよ。体を《復元》したり、生命力を与えたりはできるけど、老化を止めたり寿命に抗ったりするような、この世の理を覆すような力じゃないの」

 

「そんな…………」

 

彼女が申し訳なさそうに表情を悲しませるのを見て、レヴィは二の句が告げなかった。

 

「だから皆も気をつけてね。同じ時間を生きているといっても、老人と若人じゃ生きているスピードが違うんだから」

 

「っ! そ、それだあ!!!」

 

「うん?」

 

「何がだよ?」

 

ピンっときたレヴィが彼女を指差した。いきなり叫んだことに周りが怪訝そうにするが、レヴィはノートの置いてある床に四つん這いになって、今までで最も速く指を動かして書き込みをしていく。

 

「そうだよ! 二つの文法を違う速度で解読していくんだ!」

 

解読中、ずっと引っかかっていた部分に対するヒントを彼女の言葉から見つけ出し、レヴィの頭がフル回転だ。取っ掛かりさえつかめれば、後は規則に従って文章を変換するだけでいい。

 

「解けたっ!」

 

レヴィは解読しきった文面を掲げて、喜びを顔に表す。

 

「「おおっ」」

 

「すごいねぇ」

 

レヴィの功績に素直に驚きを見せるナツとガジル。彼女もまた、レヴィの成長を喜び目を細めた。

 

「待ってて! 今すぐ術式を書き換えてくるから!」

 

レヴィがギルドの門扉まで駆け寄って、魔法の羽ペンで術式を変換する。

 

その間、彼女がナツとガジルに声をかけた。

 

「ナツ坊、ガジル坊。ラクサス坊を頼めるかい?」

 

「おう!!!」

 

「お前はどーすんだよ」

 

ナツは素直に了承して拳を叩き合わせるが、ガジルは彼女の行動を質問した。

 

彼女の実力はトップクラスで、ラクサスを止めるのも彼女なら容易ではないかと考えたからだ。ラクサスの実力は分からないが、彼女がラクサスに劣っているとは思えない。

 

「私は念のために備えておくことにするよ。だから周りのことなんか気にせず、ラクサス坊に真っ向からぶつかってあげてくれないかい?」

 

その言葉の意図をガジルは掴めきれなかった。

 

「書き換えたよ!」

 

レヴィの言葉を受け、それ以上追及せずに、走り出したナツの後を追ってガジルもまた駆け出した。

 

 

 

 

 

 

バトル・オブ・フェアリーテイルも佳境に入る。

 

残っていた雷神衆、ビックスローとフリードも撃破された。

 

特にフリードを倒したのがミラジェーンだと言うことはギルドメンバーを驚かせる出来事だろう。妹リサーナを失ったトラウマから、かつての魔法を失ったミラジェーンは非戦闘員だった。ミラジェーンが街に出向いたのはあくまでエルフマンを連れ戻すためだ。

 

しかし、その途中でフリードと接敵し、敗北したエルフマンが再度フリードと戦おうとしてしまった。フリードの敷くルールを破ったことに対する罰として、エルフマンがなすすべなく、フリードの魔法、闇の文字(エクリテュール)によって傷めつけられる。

 

その光景が、ミラジェーンのトラウマをフラッシュバックさせ、失われた魔法、接収(テイクオーバー)サタンソウルを蘇らせた。

 

ミラジェーンはフリードに止めを刺すことなく、手を差し伸べたことでフリードは戦意を喪失し、残されたのはラクサスただ一人となった。

 

 

 

残り時間6分。カルディア大聖堂にてラクサスとミストガンが接敵したころ。

 

マグノリアの街全体を見渡せるギルドの展望台に立ちながら、彼女はラクサスのことを思う。

 

ラクサスの増長が招いた今回の事態。誰しもがラクサスの非を責め、その傍若無人な振る舞いを糾弾することだろう。

 

だが、彼女にラクサスの非を追求するつもりはまったくなかった。それよりも、ラクサスの孤独に寄り添ってあげられなかった自分を責めた。

 

彼女はラクサスの抱えていた苦悩を知っている。

 

親の七光りと蔑まれ、正当な評価を得られないことの苦しさ。

 

知っていたのに事ここに至るまで苦しませてしまった自身の不明を恥じた。妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士やマグノリアの住民はラクサスのことをちゃんと見ているから、彼女も感覚が薄らいでいたのかもしれない。一歩街の外に出ただけで、ラクサスを形容する言葉は“聖十大魔導マスターマカロフの孫”になるということを。

 

その苦しさが、ラクサスの力の源泉たる魔水晶(ラクリマ)と共鳴した。

 

ラクサスは、雷の滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)だった。

 

とはいっても、ナツやガジル、ウェンディたちとは性質が異なる。ドラゴンから直接教わった者たちは第一世代の滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)とされるが、ラクサスは滅竜魔法の魔水晶(ラクリマ)を体に埋め込まれた第二世代の滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)だ。

 

強力なドラゴンの力を得ることができるが、人間がドラゴンの力を扱うのには代償がある。

 

ドラゴンの魔力は、御することができない人間の凶暴性を助長する。

 

ラクサスの心の奥の思いとは裏腹に、相手を叩き潰そうとする行動は最早自分でも抑えられないくらいにエスカレートしてしまう。

 

彼女にとってラクサスは小さい時から見守ってきた大切な仲間だ。ラクサスに道を誤らせるつもりはなかった。

 

 

 

 

 

 

ラクサスとの戦闘を中断して、神鳴殿を破壊していたエルザの脳内に念話(テレパシー)が響く。

 

『おい!!! みんな聞こえるか!!? 一大事だ!!! 空を見ろ!!!』

 

それはウォーレンの念話(テレパシー)だった。

 

街中にいる妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士たちに伝達された念話(テレパシー)が、バトル・オブ・フェアリーテイルで冷静さを失っていた者たちに正気を取り戻させた。

 

空を見上げた者たちの視界に映る雷の魔水晶(ラクリマ)

 

困惑する者たちに、ウォーレンの必死な言葉が伝わってくる。

 

『あの空に浮かんでる物をありったけの魔力で破壊するんだ!!! 一つ残らずだ!!! あれはこの街を襲うラクサスの魔法だ!! 時間がねえ、全員でやるんだ!!!』

 

その言葉を受け取った全員が驚愕する。

 

エルザもまた驚いた。エルザは自分一人で片付けるつもりだったが、耐雷属性特攻の雷帝の鎧がなく、一個壊すごとに跳ね返ってくる電撃によるダメージで息も絶え絶えだった。命を捨てる気などさらさらなかったが、頭の冷静な部分が空中の約500個の魔水晶(ラクリマ)を壊した場合は、自らの命がないことを伝えてくる。そんな孤軍奮闘だったなかの援軍に藁を掴んだような思いだった。

 

「ウォーレン。おまえ、なぜ神鳴殿の事を……」

 

エルザの呟きに反応したのは、ウォーレンではなくその後ろにいたグレイだった。

 

『その声はエルザか!? 無事だったか!?』

 

『エルザだって!?』

 

『石から戻ったのか!』

 

エルザの存在に気づいた者たちの喜色に満ちた反応が聞こえてくる。石化してしまった女性陣を救うために皆が相争っていたのだ。皆がエルザの解放を喜んでいた。

 

エルザだけではなく、その他の石化されていた者たちの安否を気にする反応もあった。

 

『オイ……エルザが無事って事は他の娘たちは……!?』

 

『レヴィは……!?』

 

『みんな無事よ。安心しなさい』

 

『ビスカもギルドにいるわ』

 

特にチームシャドウギアのジェットやドロイ、両片思い中のアルザックが安心したようにほっと息をついた。

 

ただ、安堵してばかりではいられない。今なお神鳴殿は起動中で、街に落雷を降り注ぐその時を待っている。

 

ウォーレンが急いで破壊を優先するように皆を促した。

 

『すまねえ。俺の念話(テレパシー)はギルドまでは届かねえ。とにかくこれが聞こえてる奴だけでいい!! あの空に浮いてるものを……』

 

『ウォーレン坊ありがとうねぇ。私も混ぜてくれるかい?』

 

「リュウさん!!?」

 

『先生!?』

 

『リュウさんだ! リュウさんも無事か!!』

 

突如念話(テレパシー)に割り込んで聞こえてきた彼女の声に、聞こえていた皆が驚きと喜びに満ちた反応を見せる。

 

その中でも念話(テレパシー)のネットワークを構築していたウォーレンが一層驚きの声を上げた。効果範囲の外にあるギルドにいると思っていた彼女からの応答だったからだ。

 

『リュウさん!? ギルドにいる筈じゃ……』

 

『そうだよ。まあちょっとだけ繋げさせてもらったから。そんなことより、今は時間がないからね。皆で空に浮いてるあれらを壊すとしようか』

 

「リュウさん!? あれには生体リンク魔法が……!」

 

『うん。だけど街のみんなのためにもやらなくちゃね。とても痛いだろうけど、みんな、やれるかい?』

 

『おおーーー!! リュウさん、お任せください!!』

 

『ウォーレン! 言いてぇことがあるが先にあれ壊してからだ!!』

 

『マカオ、おめえにゃ無理だ! 寝てな!!』

 

『んだとワカバ! ジジイの癖にはしゃぎ過ぎだよ!!』

 

『行くよハッピー!!』

 

『本気? ルーシィ痛いよ』

 

『痛くてもやるのっ!!』

 

リュウさんの鼓舞するような言葉に、全員が意気揚々と空を睨みながら魔法を行使し始める。

 

その力強い意志にエルザは笑みを浮かべながら、自分と他のメンバーに発破をかけるように大声を上げた。

 

「私は北の200個をやる。だから他の皆は」

 

『だめ。エルザ嬢、やるにしても100個だよ』

 

だが、エルザの決意は彼女によって制止された。

 

「リュウさん!? しかし!」

 

『雷帝の鎧をもってないでしょ。200個は確実に死ぬ。それは認められないね』

 

彼女の予測はエルザも頭のどこかでは分かっていた。だが、自分が破壊する数を減らしてしまうと魔水晶(ラクリマ)を残してしまう。エルザは彼女に反論しようとした。

 

「ですが、それじゃあ……!!」

 

『問答の時間はないよ。みんな準備はいいかい?』

 

『おお!!』

 

「くっ……リュウさん…………」

 

しかし、ぴしゃりと反論を打ち切られたエルザは歯噛みをする。

 

エルザは直感していた。彼女は明言していなかったが、エルザが減らされた分を誰が破壊するのか。彼女は自分の指示で発生した後始末を別の誰かに片付けさせるような者ではないことを、エルザは知っている。

 

エルザが壊すのは100個。街中に繰り出している魔導士が約100人で約100個。では、残りの約300個は?

 

苦悩している時間は許されない。エルザは100個の剣を空中に換装して、魔水晶(ラクリマ)へと投擲する。同時に、他の魔導士たちも魔法を発動して、魔水晶(ラクリマ)を破壊した。

 

マグノリアの街を覆っていた魔水晶(ラクリマ)の円環が、号砲花火のように轟音と煙を上げながら崩壊する。

 

その残骸が光の粒子を撒き散らすのを見て、住民たちは余興の花火かなにかと思って喜んでいる。だが、破壊した魔導士たちは阻止できた喜びも束の間、跳ね返ってきた電撃を受け、その激痛に悶絶した。

 

全員がその場に倒れこみ、中には気絶したものもいる。とは言え、神鳴殿を破壊し、住民たちを守ることができたことに念話(テレパシー)を通して喜びを分かち合った。あるいはラクサスの思惑に嵌り、仲間を傷つけあったことをお互いに謝っている。

 

エルザも100個分の雷撃をくらって倒れこみ、念話(テレパシー)越しで仲間たちの和気藹々とした会話を聞いていた。だが、その表情は悄然としていて、会話に混ざる気力がなかった。

 

「リュウさん…………」

 

エルザは心配そうにギルドのある方向へ顔を向けた。気絶したのか、今聞こえる念話(テレパシー)に彼女の声は聞こえない。エルザは今すぐにでも彼女の無事を確かめに行きたかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………流石に、300個分の雷は…………効くね…………」

 

ギルドの展望台で倒れ伏した彼女の惨状は目も当てられないものだった。

 

シミも日焼けもない白い素肌には、樹枝状に分岐した赤紫色の電紋が走っていて、目を覆いたくなるほどの痛々しさがあった。近くの地面には吐血した血だまりがあり、黒々とした血液が地面を伝って、彼女の衣服を汚している。

 

指一本動かせない状態で、彼女は目を閉じる。力を行使するために、今しばらく休養を必要としていた。

 

《復元》の力があれば、瀕死状態から元の状態まで回復できる。だが、石化から自力で復帰し、石化から2人復活させ、300個の魔水晶(ラクリマ)を破壊したことで、力を使い果たしていたため、今すぐに《復元》を発動することができそうになかった。

 

「……………………誰も、来ない……と、いいんだけど、ねぇ…………」

 

そう呟くと彼女は意識を失った。

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