俺が今まで聞いてきた、俺を形容する言葉は“あのマスターマカロフの孫”だ。
じじいは
その強大な名前が、俺の後ろに影のようにずっと付いて回りやがる。
初めてのクエストでも、流石は“あのマスターマカロフの孫”。
クエストに失敗した時も、“あのマスターマカロフの孫”なのに。
S級魔導士となった後も、“あのマスターマカロフの孫”だから当然。
呪いも同然だった。じじいの孫というだけで、俺は正当な評価が得られねぇ。どいつもこいつもが色眼鏡を通して評価してきやがる。
おべっか、やっかみ、煽り、侮辱、失望。全て俺がじじいの孫だから受けてきたものだ。俺が
じじい、『魔法の本質は心にある』んじゃなかったのか?
何が心だくだらねぇ。
誰もかれもが、ラクサスという一人の男の本質を知ろうとしねぇボンクラばっかりだ。有象無象が俺を通してじじいを見る。じじいという巨大な影に隠れて、俺という男は誰の目にも留まらない。
それが、俺が憧れていた
じじいを素直に慕っていた餓鬼はもう何処にもいねえ。無知で馬鹿な餓鬼は死んだんだ。
そんな人生の中でも、俺は一つの真理を得た。
それは、力こそ全てだということだ。
餓鬼だった俺は弱かった。弱者という意味でも病弱という意味でも弱かった。
そのせいで初めの頃の依頼は大体失敗続きだった。失敗したら“あのマスターマカロフの孫”なのにと言われ、その苛立ちとみっともねえ自分に対する怒りでどうにかなりそうな日々だ。
そんな時に、父イワンが与えてくれた力が俺の身体に埋め込まれた。
雷の滅竜魔法の
これが俺に強さを与えた。そしてその強さが、俺にラクサスという男を齎した。
俺が雷の
それまで鬱憤が積もり重なっていたことと圧倒的な力に酔いしれていたこともあって、慌てふためく盗賊団を気持ちよく叩き潰していた。逃げ惑う奴等を一匹残らず、雷の餌食にしてやった。
全て片付いた時に、盗賊の一人が怯えながら俺を見て言った一言が、俺に名前を与えた。
「ひぃ……か、雷の裁きだ…………す、すいません…………い、命だけは、ラクサス様、命ばかりはお助けを…………!」
死屍累々になる中で、俺の肩書を思い出す余裕もなかったのか、命乞いする男の目には、ラクサスという男がいた。
圧倒的な力をもって、敵対者を叩き潰す暴虐の化身。傍若無人な雷神。
それが
俺は天啓を得た。
力こそ全てだ。力があれば、評価も、功績も、名誉も、全てが
それが俺が掴んだ真実。
だからこそ、じじいがイワンを破門し、追放したことが許せなかった。
イワンは俺に力を与えてくれた恩人だ。後ろ暗いことや犯罪まがいなことばっかりやってる奴で、息子の俺からみても馬鹿やってるどうしようもない奴だったが、俺は見放すことができなかった。
だが、普段は
所詮は口だけのじじいが、
口だけと言ったら、あのばばあもそうだ。餓鬼の頃からギルドにいて、物心ついた時からの付き合いだが、その時から姿形が変わらずにいる得体の知れねえばばあだ。
餓鬼の頃は、ばばあの
既にばばあも見限っていたが、俺にとって許せねえのがここ最近の有様だ。
認め難いことに、ばばあの実力は未知数だが、俺やミストガン、エルザ以上に強いことは明確だ。あるいはギルダーツやじじい以上に強えかもしれねえ。俺がギルドに加入した時には既にS級魔導士で、第一線で活躍する姿を未だに鮮烈に覚えている。
俺が最強だと宣言しても、ばばあがいつも脳裏にちらつきやがる。それを無視できるほど俺は無知蒙昧じゃねえ。
だが、そんなばばあはあろうことか、S級魔導士が充実してきたからとかほざいて、クソみてえな依頼ばかり受ける昼行燈に成り下がりやがった。
力を持つくせに、それを腐らせるような有様が認められなかった。それは、力を追い求める俺を遠回しに馬鹿にしているかのように感じられた。だがもういいさ。もう俺にとっちゃ、耄碌した隠居ばばあでしかなくなった訳だからな。
じじいもばばあも分かっちゃいねぇ。
力を追い求めることで、
力がなければ、
俺が俺であるために、一人の男であるために、
そのために、最強のギルドが必要だ。最強ギルドを支配し、君臨する。
それだけが、
そうだ。力が全てだ。
力さえあれば何もいらねぇ。
ギルドの輪なんか知ったことか。
立ち塞がる者は全て敵だ。立ち向かってくる者は全て邪魔者だ。
だから全て消し去る必要がある。
目の前で麻痺して動けてねえ双竜も、エルザもミストガンも、じじいもばばあも、ギルドの奴らもマグノリアの住民も。
「全て消え去れぇ!!!」
両手を前に構えて、魔力を注ぎ込む。両手の間に集中する魔法は、
これで
何か、倒れ伏した餓鬼が叫んでいるが、
それで終わりだ。
「おおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
「やめてーーー!!! ラクサス!!!!!」
どこか遠いところで、女の声がする。聞き覚えがある気がするが、どうでもいい。とにかくこの魔法を発動するだけだ。
「リュウさんが、リュウさんが死にかけてるの!!!」
ふと、その言葉が耳朶に響いた。俺は一度魔力を緩めて、その女に耳を傾ける。
「神鳴殿のせいで全身血だらけで!! いつ死んでもおかしくないくらい重体で!!!」
そう言えば神鳴殿の撃破スコアがばばあだけ飛び抜けて高かったな。300個も破壊するなんて、死んで当然の筈だ。念には念を入れて
生きてるのが不思議なくらいだ。
「それにマスターだって先は長くないの!! 余命も幾ばくも無いって!!!」
そうだったな。じじいももう88か。いつまでもくたばることなく居続けるような感じだったが、いつ死んでもおかしくないような年か。確か持病もあったし、老い先短い身であることを俺は忘れていた。
「だからお願いっ!!! もうやめてっ!!! 二人の下へ行ってあげてぇ!!!!」
そうか二人とも倒れてんのか。二人とも俺の前からいなくなるのか。
「ラクサスゥ!!!!!」
それは
「丁度いいじゃねぇか。これでこの俺がマスターになれる可能性が再び浮上した訳だ」
その場の全員が絶句したが、
全てのギルドの頂点に君臨し、全てを支配する暴君となる。誰もかれもが
それだけが、
「俺が一から築き上げる!!! 誰にも負けない!!!! 皆が恐れ戦く最強のギルドをなぁ!!!!!」
「おまえは……何でそんなに……!」
邪魔者が何か睨んでくるが、もう遅い。
「
両手の間に溜まった魔力を押しつぶすように両手を叩き合わせた。
神々しい光が広がっていき、街全体を包み込んでいく。
これで、俺の敵は全て消え去った。
「はぁ、はぁ…………ははは! 俺は……じじいを超えた……!」
魔法の手応えを感じて確信した。“あのマスターマカロフの孫”なんかじゃない、本当の
だが、直後に聞こえてきた咳き込む音がして、直ぐにその方向へと目を向ける。
「ゲホッ、ゲホッ」
「ゴホッゴホッ」
「ケホッケホッ」
そこにいたのは、
なのに、目の前にいる奴らは追っておらず、ただ立ち込める煙に咳き込んでいるだけだった。
「そ、そんなばかな……! なぜだ!? なぜ誰もやられてねえ!!?」
どういうことだ!? 訳が分からねえ!!
見渡しても、誰もかれもが無事だった。傷一つなかった。
奴らも困惑しながら、互いの無事を確認し合っている。
「どうなってやがる!!! あれだけの魔力を食らって平気な訳ねえだろ!!!」
全ての魔力を注ぎ込んだ筈だ。街全体を覆うほどの魔力だ。
だが、平然とした様子に狼狽するしかなかった。
そこに、大聖堂に新たに訪れた男がいた。
「ギルドのメンバーも、街の人も皆無事だ……誰一人としてやられていない……」
「そんは筈はねえ!!!
魔法陣も、こめるべき魔力も全て問題なかったはずだ。
発動したが最後、敵と認識した者を全て消し去っていなきゃおかしい。
フリードの報告は間違っている。
「それがお前の心だ。ラクサス」
なおも言い募ろうとしたしたが、フリードの言葉に二の句が継げなかった。
「おまえがマスターたちから受け継いでいるものは力や魔力だけじゃない。仲間を思うその心。
「心の内側を魔法に見抜かれた……」
「魔法にウソはつけないな、ラクサス。これがおまえの本音という事だ」
突き付けられた事実に、俺は体を震わせることしかできなかった。
俺の心。俺の本音。俺は本当は奴らを仲間だと思っていただと。俺は本当は仲間を大切に思っていただと。
違う! 違うはずだ!!
奴らは力を手に入れるために邪魔な存在でしかねえんだ!!!
そう俺に言い聞かせるために絶叫する。それこそが
「違う!!! オレの邪魔をする奴は敵だ! 敵なんだ!!」
「もうやめるんだ、ラクサス。マスターたちのところに行ってやれ……」
「じじいもばばあどうなってもいいんだよ!! オレはオレだ! じじいの孫じゃねえっ、ラクサスだっ!! ラクサスだぁあーーーっ!!!!」
そうだ、俺は
「みんな知ってる」
思考が止まる。
「思い上がるなバカヤロウ。じっちゃんの孫がそんなに偉ぇのか、そんなに違うのか」
俺/
「血の繋がり如きで吼えんじゃねぇ!!! ギルドこそが俺たちの家族だろうが!!!!!」
そいつは俺/
「てめえに……何が分かる……!!」
この虚しさを、この怒りを、この絶望を!
分かる奴なぞ誰もいねえ!!!
「何でも分かってなきゃ仲間じゃねえのか…!」
そいつがあまりにも真っ直ぐに、俺/
だから俺/
それが最後の戦いの幕開けだった。
「知らねえから互いに手を伸ばすんだろぉ!!! ラクサス!!!!」
「黙れぇぇぇぇえええええ!!! ナツゥゥゥウアアアア!!!!」
力を追い求める男の、最後の戦いだった。
結末は長くは語らねえ。
俺が負けて、ナツが勝った。
力に固執した男が、仲間のために立ち上がった者たちに力で敗北した。
それだけの話だ。
結局は、ただの反抗期でしかなかった、ということなんだろうな。
大人ぶった子供の癇癪が、ギルドの皆を傷つけてしまった。皆を傷つけてまで手にしたかったものはがらんどうでしかなかったことが今になって分かった。力に振り回されていたことが馬鹿らしくて、白昼夢から覚めた気分だった。
「じじい、ばばあは?」
「てめえ! どの面下げて会いに来やがった!」
「そーだ! そーだ!」
ギルドの連中から反感を買うのも当然だ。帰れと言われたら大人しく帰るつもりだった。
「よさないか…………奥の医務室だ」
「オイエルザ!」
だが、特に被害を被った側のエルザが反対する奴らを制止した。
まだ非難する奴らもいるが、エルザの一声で渋々といった空気になり、俺は医務室へと向かった。
だが、進行上にいたエルザは俺が近くに来ても退かずに、面と向かって俺を睨みつけてきた。
「リュウさんから言われたから通すが、本当は私も面会を認めるつもりはなかった」
エルザは一見に冷静に周囲を制止していたが、内に秘めた激情は比べ物ならないほど猛っていたらしい。
睨みつける目の奥には、殺気すら感じられた。
「私もレヴィから聞いただけだが惨憺たる状態で、聞いただけでも身の毛がよだつものだった。今でこそ元の状態で傷一つなく見えるが、貴様のせいで死にかけていたことだけは肝に銘じておけ」
「……ああ…………」
そうだ。暴走していた時は気にも留めなかったが、今になって背筋が凍るような思いだ。神鳴殿を300個を破壊するなんて自殺行為にも程がある。今生きているのが奇跡なくらいだ。
今の俺は、彼女が死ななかったことの安堵と死にかけさせたことの罪悪感で足元が竦む思いだった。
合わせるような顔を持ち合わせていないが、顔を合わせない訳にはいかねえ。
エルザの忠告に神妙な思いで頷くと、そこでエルザは横にずれて道をあけた。
エルザに感謝しながら、医務室に向かうとまた別の奴が立ちはだかった。
「んぐぁ゛ーーーっ!! ふぁぐあぐーーーっ!!!」
俺を負かした張本人、ナツだった。俺に勝った癖して、俺以上の負傷で全身を包帯でぐるぐる巻きにしている奴が、動かせる左腕を俺に向けて指先を突きつけた。
「ぎがんふぎどがごごばかごうふぇはごど! あどおいうこほうお〇×〇△×▽□!!!」
包帯は口元までも覆っていて、ナツの言葉はくぐもって聞き取れねえ。周りの連中もナツが勢いよく叫んだにしては何が言いたいのか分からずに呆けている。さっきまでの不満気な空気もどこかに消えてしまっている始末だ。
だが、俺には何となくわかった。
そこにファントムの男、いや、ガジルがナツの意図を補足する。
「2対1でこんなんじゃ話にならねえ。次こそはぜってー負けねえ。いつかもう一度勝負しろラクサス!! だとよ」
だろうな。お前はそういう奴だよ、ナツ。
ナツの啖呵をスルーして、ナツの横を通り抜ける。
「
無視されたと思ったのか、ナツが尚も叫んだ。
俺は後ろ手に片手を上げて返答とした。
お前の馬鹿正直で真っ直ぐなところは嫌いじゃねえが、先ずは体を治せ。再戦はその後に付き合ってやるよ。
医務室に入り、ベッドに横になっている二人を見る。特に命に別状はなさそうだった。
扉の向こう側から酒場でがやがやとうるさい奴らの声が聞こえてきた。
「騒がしい奴らだ」
仲間を傷つけた男が医務室に入っていったというのに、既にそのことも忘れてファンタジアのことで話題が持ちきりになっている。その能天気さに呆れればいいのか、それとも俺の事を赦したと判断すればいいのか分からず、結局は軽口を叩くしかできなかった。
寝込んでいた二人の内、じじいの方が体を起こして、俺の方を向いた。
「おまえは……自分が何をしたかわかっているのか」
じじいの視線が俺を射抜く。顔を合わせに来たはずが、その真っすぐな目を見ることが出来ず顔を背けたままになってしまった。
だが、じじいは俺の惰弱な性根を許さずに、強い言葉を突きつけた。
「儂の目を見ろ」
有無を言わせぬ声色が、俺の顔を動かす。
その真剣な表情が、俺の過ちを強く自覚させてきた。
「ギルドというのはな、仲間の集まる場所であり、仕事の仲介所であり、身寄りのねえガキにとっては家でもある。お前のものではない。ギルドは一人一人の信頼と義によって形となり、そしてそれはいかなるものより強固で堅固な絆となってきた…………おまえは義に反し仲間の命を脅かした。これは決して許される事ではない」
「わかってる」
そう、これは許されてはならない俺の罪だ。悪びれるつもりも、逃げるつもりもねえ。
今となっては不毛な駄々でしかなかったが、俺にはこれしかないと思い込んでいた。
「俺は……このギルドをもっと強く……しようと…………」
力こそ全て。力こそ絶対。力がある俺が本当の俺だとずっと思っていた。
誰も歯向かうことのできない最強のギルドがあれば、俺は俺を肯定できると思っていた。
だが、ナツたちの体当たりで俺は思い違いをしていたことに気付いた。既にギルドの奴らやマグノリアの住民たちは俺を俺として見続けていた。全ては俺の独り相撲でしかなかった。
犯した罪の大きさに拳を握りしめて打ち震えるしかなかった俺に、もう一人が柔らかく声をかけてきた。
「まったく不器用なんだから……もう少し肩の力を抜いたらどうだい?」
ばばあ、いや、リュウの奴だった。さっきまでは目を瞑っていたから眠っていると思っていたが、どうやら会話を聞いていたらしい。
身体を起こすリュウは無傷で何のダメージも負ってないように見える。だが勘違いしちゃならねえ。死ぬ寸前まで追い込まれたことと、その元凶が俺であるという事実は目を逸らしていけないんだ。
「誰に似たのか……ねえ、そう思わないかい?」
「…………それは儂に言っておるのかのう?」
「リュウ、俺は…………」
軽口でじじいと語っているところを遮るように声をかけた。だが、それ以上に言葉が続かない。
リュウが優しく微笑むから、餓鬼の頃に悪戯をして怒られてしょげていた時に、慰められた時の感情が呼び起こされて言葉が続かなかった。
結局、俺はそういう所でも子供でしかなかった。
「私自身も思う所はある。でももう取り返しのつかないことをしてしまったから、どんな苦しみがあれ、もう斟酌することはできないの」
そして俺以上に後悔や苦悩に満ちた表情になるものだから、俺はもう黙ることしかできなかった。
「ラクサス坊。テイクイットイージーさ。自分を認めてあげて、周りを認めてあげなさい。そうすれば、今まで見えなかったものが見えてくるし、聞こえなかった言葉が聞こえてくるものさ。人生はもっとずっと楽しいものだよ」
以前はあれほど鬱陶しいと思っていた、彼女の教訓が素直にこの身に入ってくる。
そして、じじいも続けて俺を慮るような穏やかな口調で続けてきた。
「儂はな……お前の成長を見るのが生きがいだった。力などいらん。賢くなくてもいい…………何より元気である。それだけで十分だった」
その言葉はあまりにも家族の情が詰まったもので、俺にとって身に余るものだった。
こんな深い愛情を向けられているのに、気付こうともせずにただ歯向かって、その命を蔑ろにしようとした。
愛情と罪悪感で板挟みになって打ち震えるしかなかった俺に、じじいは最後にマスターとして俺のケジメをつけた。
「ラクサス…………お前を破門とする」
その処罰に愕然としてしまったが、当然のことだ。
俺は仲間たちの命を危険に晒した。
「ああ……世話になったな」
だから素直に受け取って、俺はその場から離れた。
医務室の扉を開きながら、俺は最後に孫として声をかけた。
「じーじ……リュウも、体には気を付けてな……」
「出てい゛げ……!」
その涙声を聞き取らないように医務室の扉を閉めた。
後は身支度して街を離れるだけだ。
そのために自分の家に向かおうとしようとしたとき、閉めたはずの背後の扉が開き、医務室からリュウの奴が追ってきた。
「私にも一言かけさせてくれないかい?」
あまりにも自然体で声をかけてくるものだから呆気に取られてしまった。
「……俺はもう破門された身だ……」
「だからと言って、もう話すこともないって訳じゃないよ。これからの
彼女の言葉に含まれていた単語が俺に突き刺さった。
「……まだ、
「もちろん。例え破門されようと私にとってはそれは変わらないよ。ラクサス坊、必ずまた会えるから、それまで元気にいて頂戴ね」
どこまでも俺のことを考えてくるその表情に、ずっと言えなかった言葉がすっと出た。
「ああ……本当に、悪かった…………リュウ姉……また会おうな」
俺が子供だった頃、無邪気に彼女を慕っていた頃の呼び名だった。
今まで大人ぶっていたメッキが剥れて、何の蟠りもなくこの名で呼ぶことができるとは思ってもいなかった。
その名で呼ばれた彼女が嬉しそうに微笑んだ顔が目に焼き付いた。
雷神衆とも別れ、俺は一人、マグノリアを出る。
ビックスローとエバは納得できずにいたが、フリードは粛々と見送った。また会えるよな、と言われたが特に返事もしなかった。運が良ければ、また会えるかもしねえな。
だが、マグノリアを出る前に少しだけ
俺が騒動を起こしたせいで、延期にはなったが恙なく開催にこぎつけたみたいだ。
雲一つない夜空に花火が打ちあがり、街の大通りをフロート車が電光を発しながら隊列を組んで進んでいる。
ルーシィ、レヴィ、ビスカのダンス。
エルフマンの全身
グレイとジュビアの水と氷のイリュージョン。
エルザの換装魔法による舞。
ナツの炎文字。いや、お前は休んどけよ、文字完成してねえじゃねえか。
そんな風に皆のパフォーマンスを眺めていると、観客たちの言葉に次に現れるキャストが分かった。
「マスターだ! マスターが出てきたぞ!!」
「リュウさんもいる! リュウさーーーん!! こっち見てくれえーーー!!」
最後尾の一際大きいフロート車の一番高い舞台上に二人がいた。
じじいは猫を模した服装でご丁寧に尻尾までつけて恰好で、両腕を素早く動かしながらあらゆる角度を向いてその動きを見せていた。
リュウの方も、犬を模した服装と尻尾までつけた出で立ちでじじいと対照的にしながらも、じじいの動きを追従するように動いていた。この上ない美貌を備えておきながら、じじいに付き合って変な動きをしていることに観客もまた悲喜こもごもの様子だった。
「りゅ、リュウさん!?」
「何か妙にファンシーだ!」
「そのコミカルな動きやめてくれ……」
「マスターと同じようなふざけ方やめて~!」
だが、結局は皆がその面白おかしいパフォーマンスに笑みを浮かべていた。
魔導士も住民も一体となって笑い合い、喜びを分かち合う
俺はその歓声を一歩離れたところで聞きながら、昔のことを思い返した。
俺がファンタジアに参加する時に、じじいが不参加で客席で見守ってくれた時があった。
俺はじじいを見つけられるか心配していて、だけどじじいは俺に自分のことなど気にせずに楽しめばいいと言った。
だから俺はメッセージを考えたんだ。
親指を人差し指を立てた右腕を空高くまで掲げる姿。
俺がじじいを見つけられなくても、俺はいつでもじじいを見ているという証。
そんなこと、今まで忘れていたっていうのにな。
感傷に浸ってばかりいる訳にはいかない。
ギルドの皆も住民たちも全員が楽しむことができている。ファンタジアは無事成功した。
それを見届けて、俺はその場から離れようとした。
その時だった。
珍妙な踊りをしていたリュウが突如立ち止まると、両手を合わせると魔法を発動した。
「
そうして創り出した雷の化身。雷によって構成された大きな人形の像がフロート車の上部に出現した。観客たちがどよめく中、その像が、いや、じじいも、それだけじゃない、ギルドの奴ら全員がとった同じポーズに俺は言葉を失った。
親指を人差し指を立てた右腕を空高くまで掲げる姿。
俺が考えたメッセージだ。
それが、意味することは。
「じーじ…………リュウ姉…………」
たとえ姿が見えなくても。
たとえ遠く離れていようとも。
いつでも俺を見ている。
俺をずっと見守っている。
そして、いつかまた再会できる日を、と。
「ああ…………ありがとな…………」
俺は溢れる涙を堪えきれずにその場から立ち去った。
そうだな、また、いつか、な。