妖精の尻尾のリュウさん   作:ただの馬鹿

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S級魔導士昇格試験

エドラス世界から、ナツたちとミストガンの奮闘によってアースランドの妖精の尻尾(フェアリーテイル)とマグノリアが元通りの姿に戻った。

 

ミストガンによるアニマの逆展開は、エドラス中全ての魔力をアースランドへと流出させた。その結果、仲間たちの魔水晶(ラクリマ)とともに、ナツたちもアースランドへ帰還し、さらにはエクシードたちもアースランドへと移動してきた。

 

エクシードたちが翼で空を飛び、一足先にマグノリアの様子を見てきたが、誰もエドラスで魔水晶(ラクリマ)になっていたことに気付いていないため、混乱することもなかった。

 

そのことに安心する面々だったが、ただ1人、シャルルがエクシードたちの存在に噛みついた。

 

危険だからエドラスに返すべきであるとシャルルは主張する。シャルルはエクシードたちに不信感を抱いていた。それは生まれた時から刷り込まれていた使命だったり、エクスタリアで受けた仕打ちだったり、拒絶するに足る十分な理由があった。

 

シャルルが隠し通したかった使命。それは、滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)の抹殺だった。つまり、シャルルは大事な存在であるウェンディを殺すために差し向けられたと思っている。それは許しがたいものだった。エドラスでは、エクスタリアを救うために行動を起こしたが、それとこれとは話が別だった。

 

しかし、事の真相がエクシードの長老、重鎮たちから語られる。

 

シャルルやハッピーを初めとしたエクシードの卵をアースランドへと送る計画、それは滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)の抹殺を建前としたもので、真意はエクシードの子供たちを避難させるというものだった。

 

女王シャゴットの未来予知により、エクスタリアの落下という危機が迫っていることが判明し、当時はそれを人間たちの攻撃によるものだと推測した。脆弱なエクシードは人間と戦っても勝てないから、エクシードという種族の未来をまだ生まれていない子供たちに託すことにした。国中の卵を徴収し、エドラス王国のアニマを通してアースランドへと避難させた。

 

そして、混乱を避けるため、人間たちの目を欺くために滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)の抹殺という名目をでっち上げたということだ。

 

アースランドに生まれたエクシードたちは本来使命も何もなく、まっさらな状態で生まれる。つまり、ハッピーのように何も知らないのが正常なのだ。

 

しかし、シャルルにはシャゴットと同じような未来予知の能力を備えていた。それにより、エドラスの情報を断片的に知ったことで、名目でしかなかったものを自らの使命だと錯覚してしまったという訳だった。

 

真相を知り、シャルルは愕然としながらも、エクシードたちもまた事情があったのだと理解を示した。感情ではまだ飲み込めないが、シャルルはウェンディ譲りの優しさを持っているから、いずれは歩み寄ることもできるだろう。

 

女王シャゴットの謝罪を受け、シャルルはエクシードたちを受け入れた。そして、その抱擁は、まるで母親の温もりをシャルルに感じさせた。ずっと、孤独に苦悩を抱え続け、自分の生きる意味を疑い続けてきたシャルルはエクシードたちとともに自分を赦すことができた。

 

エクシードたちが新天地を求めて飛び去っていくのを見届けて、シャルルの因縁は終わった。

 

 

 

 

そこにガジルが待ったをかける。

 

ガジルは周囲にとって至極些細なことに悩んでいた。それは相棒の存在だった。ナツにはハッピー、ウェンディにはシャルルがいるが、同じ滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)である自分にはエクシードの相棒がいないことを気に病んでいた。

 

そして、エドラスで運命的な出会いを果たした。パンサーリリーである。

 

滅竜魔法で魔水晶(ラクリマ)を砕き、皆を解放しようとしたガジルを妨害したのがパンサーリリーだった。その戦闘力と、種族の爪弾き者だという境遇にシンパシーを感じ、自分の相棒にすると勝手に認定していた。

 

エクシードたちが去っていった後も探しまわっていたガジルのもとに、パンサーリリーが草むらから現れた。

 

その姿は、筋骨隆々だったエドラスの時とは異なり、ハッピーやシャルルと同じ二頭身だった。

 

どうやらアースランドの環境に適合できず、元の姿を維持できるのは短時間だけになってしまったようで、アースランドでの戦闘力は制限されてしまったのである。

 

そんなパンサーリリーは、ミストガンが所属していた妖精の尻尾(フェアリーテイル)に興味を抱き、ガジルの誘いを受けるつもりだった。ガジルは男泣きしながら、その小柄な体躯に抱きついた。

 

こうしてエクシード関連の話は終結した。

 

 

 

 

 

エドラスからの来訪者、いや帰還者がもう1人いた。パンサーリリーが怪しい奴だとして、捕縛し、ナツたちの面前に連行した女性の姿に、古参メンバーが目を剥いた。

 

リサーナ・ストラウス。他でもない死んだと思われていたミラジェーンとエルフマンの妹である。

 

初めはエドラスのリサーナが来てしまったと思ったが、興奮しながら涙ぐむ姿に、正真正銘こちらのリサーナであることに気付き、リサーナも首肯した。

 

ナツやハッピーは純粋に生き返った、と喜ぶだけだったが、死者が生き返るなんてありえないことで、他の面々は混乱の極みだった。

 

だが、死んだ、ということ自体が勘違いだった。

 

ナツたちは依頼先で死亡したことをミラジェーンやエルフマンから伝えられただけであり、更には、ミラジェーンが勘違いしていた死に際も、本当は散発していたアニマによって吸い込まれていただけだった。ミラジェーンは光ながら天空へと昇って消失していく姿を死んでしまったと勘違いしたという訳だ。

 

空っぽの棺桶と死体のない葬儀。確かに何人かは違和感を感じていたが、ミラジェーンに事の経緯を問い詰めようとする者は誰一人としていなかった。記憶も混濁し、見てて痛々しいほどに憔悴しきっていて、今にも自殺しそうな絶望の表情を前に声をかけることさえ憚れる有り様だった。

 

だから、皆一様に、リサーナは死んでしまったという事実を飲み込んだ。

 

しかし、それは間違いだった。それはギルドにとって、そしてミラジェーンとエルフマンにとって福音だろう。

 

ナツたちは、今も教会で虚ろの墓前で祈っている二人のもとに、急いでリサーナを連れて行った。

 

 

 

 

 

 

死に別れたはずの家族との再会。現実を疑い、正気を疑い、それでもなお駆け寄る妹の笑顔と、抱きついてきた温もりを感じて、失ったはずの繋がりを取り戻したミラジェーンとエルフマンは豪雨にうたれるのにも構わず、ただただ強くリサーナを抱き締めた。

 

二度と失わないようにと。

 

そして、ギルドもまた、リサーナの帰還に驚愕し言葉を失ったが、現実を認めると皆が涙を流して大喜びだった。リサーナに飛び付こうとした不届き者はエルフマンによって叩きのめされたが。

 

それからギルドはどんちゃん騒ぎだ。クエストに行く予定を急遽中止して、歓喜の宴を開催する。いつも以上に騒がしいが、失った時間を取り戻すかのように、感極まった歓声は皆が酒場で寝落ちするまで止むことはなかった。

 

リサーナのこともあり、他のギルドメンバーにも、エドラスの一件は周知された。魔力が枯渇していく世界と、自分たちと同じ姿形をしているエドラスの妖精の尻尾(フェアリーテイル)、そしてミストガンの正体。ナツたちが語る別世界の存在を法螺吹きと疑うような者はいない。エドラスの自分を知って笑い合ったり、ミストガンとの離別を惜しみ合ったりして、祝宴は盛り上がった。

 

だが、そこに彼女の姿はなかった。

 

彼らにとって、魔水晶(ラクリマ)にされていた時の記憶はなく、エドラスで戦ったメンバーも彼女と出会ってはいない。だから、今、彼女がエドラスに取り残されて彷徨っていることを知る者はいなかった。

 

彼女の不在に最初に気付いたのはリサーナだった。忌まわしき故郷から連れ出し、自分たち家族を救い出してくれた恩人で、生存を伝えたいと思って周囲を見渡したが、いつものようにカウンターでお酒を飲みながら微笑み見守る彼女の姿がなかった。

 

「ねぇ、リュウさんはいないの?」

 

リサーナが声に出したことで周りも気付いた。

 

彼女が一声かけずにいなくなることなどほとんどない。行方不明になるなんて異常で、ギルドが俄にざわつき始める。

 

そこに、マカロフが落ち着くように言った。

 

「あのリュウさんじゃぞ? 確かに珍しいことじゃがその内ひょっこり帰ってくるわい」

 

マカロフの言葉に、それもそうかとあっさり納得して宴気分に戻る。積み重ねた信頼によるものだった。

 

そんな中、ただ1人、リサーナだけが唇を尖らせた。

 

「早く会いたかったのに」

 

 

 

 

 

 

年の瀬。

 

マグノリアも冬を迎えた。底冷えする厳しい寒さに住民たちが家に籠り、年明けの準備をしている一方、妖精の尻尾(フェアリーテイル)では逆に慌ただしく、クエストへと出向く者が多かった。

 

それは、年末に行われるとある恒例のイベントがあるからだ。

 

「仕事仕事ーー!!」

 

「あいさー!!」

 

「ちょっと! 仕事ならあたしも……」

 

「わりぃ! この時期は一人で行くんだ!!」

 

ナツもまた、依頼板(リクエストボード)から剥ぎ取った依頼書を握りしめながらハッピーと一緒に外へと駆け出していく。いつもはペア、あるいはチームでクエストに挑んでいるルーシィが同伴しようと声をかけるも、ナツは一言謝ると、そのままギルドの門扉を出て行ってしまった。

 

「ただいまぁ!!」

 

「おかえりグレイ。服は?」

 

「それどころじゃねぇ! 次の仕事だ!!」

 

半裸のままクエストから帰還してきたグレイも慌ただしい様子で、一息つく暇もなく次の依頼書を探すためにそのまま依頼板《リクエストボード》の下へと急いだ。

 

二人だけじゃない。数多くの魔導士が依頼書に群がっており、特に意欲的な若者たちの姿が多かった。

 

「姉ちゃん! 俺はこの仕事行ってくる!!」

 

「仕事仕事~!」

 

「うおおおおっ!!」

 

「おいてめえ、それはオレが先に」

 

「知るかよ!!」

 

「「チーム・シャドウギアはこの時期解散だぁ!!」」

 

我先にと受付嬢のミラジェーンへ依頼書を手渡していく者たちによって、座っていたカウンター席から追いやられたルーシィが困惑しながら問いかけた。

 

「何事なの~?」

 

「直に分かるわよ」

 

次々と差し出される依頼書を慣れた手付きで捌いていくミラジェーン。受付嬢として熟練された事務処理能力だった。ルーシィの問いにも答えずに、目の前の依頼書に集中するミラジェーンの姿に、ルーシィはそれ以上この場で追求することを諦めた。

 

ルーシィは慌ただしく仕事に向かう者たちとは逆に、通常運転で変わらない者たちへと視線を向ける。

 

ウェンディとリサーナは、シャルルが話す予知能力について興味津々で聞いている。少しずつコントロールができるようになってきた予知能力をシャルルが実演し、的中させたことに驚いている様子だった。それは、中年魔導士のマカオとワカバの若い女性に対する下世話で下品ないつも通りの男の会話だったが。

 

また、エルザとパンサーリリーは剣を使った模擬戦を行っていた。パンサーリリーは短時間ではあるがエドラスでの屈強な身体に戻ることができ、魔戦部隊時代の剣捌きを振るうことができる。短い時間ではあるが、エルザと互角の打ち合いを演じたパンサーリリーは同時にエルザの力量の高さを実感し、そしてガジルは自らの相棒の実力を誇示した。

 

そんな、いつも通りのギルドの風景だ。

 

「なんか、せかせかと仕事をする人もいれば、まーったくいつも通りの人もいて、何が何だか……」

 

「明日になれば分かるさ、ルーシィ嬢」

 

「そうは言っても気になるのは気になるというか…………って、リュウさん!?」

 

結局はぐらかされたままか、とその言葉にもやもやしていたルーシィだったが、ミラジェーンではなく彼女の言葉だったことに気付くと同時に仰天した。

 

行方不明だった彼女が素知らぬ顔で隣のカウンター席に座っていたからだ。

 

「やあ、ルーシィ嬢」

 

「び、びっくりしたあ」

 

「リュウさん! もう、心配してたんですよ!」

 

「ごめんねぇ、ミラ嬢。帰ってくるの遅くなっちゃって」

 

「いえ、無事ならそれでいいんです」

 

「リュウさ~ん!!」

 

「おっと?」

 

帰還が遅くなってしまったことを詫びる彼女のもとに、リサーナが駆け寄ってきた。

 

そして、飛びついて抱き着くのを受け止めると、涙ぐむリサーナの頭を撫で始めた。

 

「リサーナ嬢。そう、無事だったんだねぇ」

 

「うん、うん! また会えてよかったよぉ……っ!」

 

「よく帰ってきたねぇ。元気そうで何よりさ」

 

優しい手つきには慈愛が溢れていて、リサーナは失ってしまった家族の暖かみを改めて実感できた。

 

ギルドに帰ってきてから一刻も早く再会して、自分のことを伝えたかったのに、行方不明と聞いて残念がった分、子供の頃のように甘えてしまった。彼女の事だからマスターの言う通り心配無用だったが、それでむしろ、感動の再会が後日にずれてしまったことの拗ねるような気持ちも含まれている。

 

ナツやエルフマンがこの場にいないため、人の目もあまり気にすることなく彼女に身を委ねることにした。

 

「リ、リサーナ?」

 

「あらあら。姉としてちょっと妬けちゃうわね~」

 

「リサーナさん、いいなぁ」

 

「ウェンディ、何か言った?」

 

「う、ううん! なんでもないよシャルル!」

 

そんなリサーナを微笑ましい様子で周囲の女性たちが見守っていた。

 

「ぐすっ、それにしても、どうしていなかったの、リュウさん?」

 

エドラスの一件以後、不在だった理由を聞くと、彼女は軽く頭を搔きながら答えた。

 

「実は私もエドラスに飛ばされていたんだよねぇ」

 

「リュウさんもエドラスに? そういえば、リュウさんはミストガンの正体をご存知だったのですか? なら、エドラスのことも?」

 

近くに来たエルザが尋ねる。収穫祭直後、ミストガンのことを聞き出そうとしたが、口止めされていたことを理由に教えてくれなかったことを思い起こした。

 

ミストガンの正体は、エドラスのジェラールであり、エルザ達が戦ったエドラス王国の王子だった。ただ、ミストガン自身はアニマ計画に反対し、国王に反旗を翻していた。ミストガンの活躍がなければ、仲間たちを救う事ができなかったかもしれない。もう会うことはできないが、ミストガンには深く感謝していて、もっと仲良くなりたかった大切な仲間である。

 

同時に、エルザにとってはジェラールとは別の人物であるということがはっきりしたため、ある意味安心した人物でもあった。

 

そんなミストガンのことを彼女は知っていた。ならば、以前からエドラスという別世界のことを知っていたのか、とエルザが確認した。だが、彼女はその質問には首を横に振った。

 

「ガン坊が魔力を持っていないことと、イシュガルの人間ではないことは知っていたけど、エドラスというのは、アニマの事件の後で聞いたことだよ。ちゃんとした原因は分からないけど、私だけまったく別の大陸に飛ばされたみたいでねぇ。更には、みんなが帰ってこれたというアニマにもなんでか吸い込まれなかったから、王都まで行ってガン坊に助けを求めるのに時間がかかっちゃった」

 

「そう、だったんですね。大変な目にあってしまわれたみたいで」

 

「うん。まあ良い経験だったかな」

 

彼女はあくまで簡単に経緯を説明しただけで、エドラスに向かうまでのミストガンとのやり取りや、ミストガンに語った仮説については含めなかった。エドラスの一件はもう終わったことで、わざわざそこまで話す必要がなかったからだ。

 

その後に、エルザたちから軽くエドラスでの出来事を聞いて、エルザ、ルーシィ、ウェンディ、シャルル、ガジルにそれぞれ労いの言葉をかけた。

 

最後にリサーナを撫でるのを止めて、頭を下げて改めて謝った。

 

「だから、肝心な時に遅れちゃってごめんねぇ」

 

彼女の手を名残惜しそうに見ていたリサーナだったが、彼女に謝られると、首を横に振って真っ直ぐ彼女の顔を見つめた。

 

「ううん、もう気にしてないよ。これからもよろしく、リュウさん!」

 

 

 

 

 

 

一段落した頃合いを見計らって、ルーシィがおずおずと話を元に戻した。

 

「それでその~リュウさん、明日って一体なにが?」

 

「サプライズを台無しにするなんて大人げないことはできないよ。ま、楽しみにしてなさいな」

 

「ええ~気になる~~~」

 

好奇心が抑えきれないルーシィがカウンターに突っ伏した。

 

そのカウンターにひょいっと小さい体を乗せて彼女に近づいた者がいた。

 

ハッピー、シャルルに次ぐ新しいエクシード、パンサーリリーだ。

 

「どうも、パンサーリリーと言います。貴方の名前は?」

 

「やあ、私のことはリュウさんと呼んでね。これからよろしく、リリー坊。さっきの剣捌き見てたよ。流麗で堅実な太刀筋だった。心強い限りだよ」

 

「き、恐縮です」

 

いきなり面と向かって誉められて気恥ずかしく感じてしまったパンサーリリー。その言葉を離れた場所で聞いて自慢気にしているのが、相棒にしているガジルだった。

 

「そっか、ガン坊が言っていたのがリリー坊、君のことなんだねぇ」

 

「がんぼう…………ああ、王子のことですか。王子が俺のことを?」

 

聞きなれない呼び名に誰のことか分からなかったが、ジェラール王子のアースランドでの名前がミストガンだったことを思い出した。エドラスでの再会時は、切羽詰まった事態でゆっくりと話をすることもできなかったから、パンサーリリーは彼女が王子と交流関係があったことを知らない。

 

そんな、彼女から自分のことを王子から聞かされたと知って少し驚いてしまった。

 

「うん。ガン坊にとって目指すべき憧れだって言ってたよ。この世界で1人で戦えたのもリリー坊のおかげだって」

 

「王子が…………」

 

パンサーリリーは王子の心境を知り、深く感じ入った。確かに自分は命の恩人で、王子の選択に大きな影響を与えていたことは何となく分かっていた。

 

それでも、初対面の者を経由してでも聞かされた真っ直ぐな尊敬の意を知って、嬉しいやら恥ずかしいやらで口をつぐんだ。

 

彼女が目線を、離れた場所で腕組みしているガジルへと移していった。

 

「ガジル坊も、エドラスではお疲れ様。それに良かったねぇ、こんな素晴らしい相棒ができて。仲良くやりなさいな」

 

彼女は知っている。ウェンディ加入直後から、自分にエクシードの相棒がいないことを気に病んで、街中で猫探ししている姿を見ていたから。

 

ずっと孤独というものを無自覚に苦しんでいたのを見抜いていたから、ともに歩める存在ができたことをか彼女は我が事のように喜んだ。

 

「…………おう」

 

そんな真っ直ぐな視線に耐えられなくなって、そっぽを向いたガジルは軽く返事をした。

 

 

 

「そうだ、リュウさん。一応確認してもらえませんか? もう変更は難しいですが、リュウさんも関係者なので」

 

ミラジェーンが彼女へと声をかけた。突然で目的語を抜かした話題に、ルーシィやウェンディが首を傾げるが、彼女はすぐに了承した。

 

「ああ、そうだったねぇ。今からかい?」

 

「はい。奥の事務室でマスターがお待ちです」

 

「分かった。今行くよ」

 

カウンター席から腰を浮かした彼女は、奥の廊下へと歩いていく。

 

「えっと、一体何ですか?」

 

「ふふっ、秘密」

 

「え~ん。なんか今日気になってばかりで仕事行けない~」

 

ルーシィが再三質問するも、隠し通されてしまって結局もやもやが解消することはなかった。

 

 

 

翌日に控えた妖精の尻尾(フェアリーテイル)一大イベント。

 

その計画書を持ちながら頬杖をついているマカロフに、入室した彼女が一言かけた。

 

「やあ、マカロフ坊。ただいま」

 

「おお! リュウさんか。よく帰ってきた」

 

彼女の存在を認めたマカロフが計画書を机に置くと、笑って彼女を出迎えた。必ず帰ってくると信じてはいたものの、やはり無事な姿を見ると安堵するものだ。

 

マカロフの向かいの椅子に腰をかけた彼女が早速本題に入る。

 

「ミラ嬢から聞いてはいるけど、もう本決まりなんだって?」

 

「うむ。既に選抜も済み、内容も定まっておる。見てくれるか?」

 

「はいはい」

 

そうしてマカロフがさっきまで持っていた計画書を彼女に手渡した。

 

そこに記載されているタイトルが、妖精の尻尾(フェアリーテイル)S級魔導士昇格試験。

 

これこそ、魔導士たちがいつも以上に張り切っていた理由である。

 

 

 

 

 

 

S級魔導士。

 

それは、確かな実力と知力、そして積み重ねた実績で一つの試練を乗り越えることによって得られる証だ。S級魔導士であれば、受注資格が制限されるS級以上のクエストに挑戦することができるとともに、ギルドの方針や運営に対する発言力を有することができる。

 

まさにギルドの中枢を担う、名実ともにトップレベルの魔導士であるが、S級魔導士は誰しもがなれる訳ではない。

 

多数の魔導士を抱える妖精の尻尾(フェアリーテイル)でも、現在S級魔導士であるのは、マカロフを除き、エルザ、ミラジェーン、ギルダーツ、そして彼女だけだ。ラクサスは破門、ミストガンは脱退となったため、更に稀少な存在となった。

 

では、S級魔導士になるにはどうすれば良いのか。それが、年末に開催されるS級魔導士昇格試験である。この試験に合格することで、ようやくS級という一つの頂に到達することができる。だから、年末近くのこの時期は、出場するためにいつも以上に張り切ることになる訳だ。

 

出場者の選任はそれぞれのギルドの一存に任されている。妖精の尻尾(フェアリーテイル)では、マスターと現役S級魔導士の合議によって、出場者と試験内容を決定している。一年間の各員の働き、武力や知能、そしてギルドの看板を背負っていける魂の持ち主であるかを幾度かの会議を重ね、その資格を見極めている。

 

今回の試験も、従来通り会議を行っていた。だが、その期間、S級魔導士である彼女は不在であり、会議に欠席したまま計画は本決定されてしまった。既に、翌日に迫っているので、計画の変更をすることも難しい。

 

ただ、彼女はそんなことを気にしてはいない。今この場に来たのも、あくまでS級魔導士としての仕事であり、今更口出しするつもりもなく、確認するためだけに計画書を流し見た。

 

候補者は8名。

 

試験内容は、武力と運を試す一次試験と知力と考察力を問う二次試験の二段階構成。

 

試験会場は、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の聖地、天狼島。

 

そして合格者は、一名のみ。

 

彼女が読み終えると感じ入るように目を細めた。今年もこの時期を迎え、ギルドの若芽が開花しようと奮闘する姿を見ると、微笑ましくも頼もしく感じるものだ。

 

特に、今回の候補者たちは加入当初の子供の時から見守ってきた者たちだから、より一層感慨深いものがある。

 

「光陰矢の如し、というものだねぇ」

 

みんなの成長ぶりに思わず独り言ちた後、一つだけ気になった点があったため、念のため確認をとった。

 

「うん、特に異論もないけど、今年はこれで行くってことで良いのかい?」

 

「? うむ、中々見所がある奴らばかりじゃ。今年は挑戦者も多く、天狼島が最適じゃろ。今年はギルダーツもおるしのう。奴に手伝ってもらうことにした。あ~、リュウさんには悪いがギルドで留守番してくれい」

 

彼女の確認をマカロフは少し誤解した。

 

今年の試験は、例年にはない特殊な状況だった。まず候補者の数か多い。今までなら1名か2名程度、あるいは候補者なしで開催しないということもざらにあり、過去と比べても8名は飛び抜けて多い。また、天狼島を利用することも稀だったし、ギルダーツが試験官として参加するのも珍しい。

 

そんな特殊な試験になってしまったことか、それとも彼女が試験に携われないことを指摘しての確認だとマカロフは思った。

 

だから、彼女の疑問を正確に汲み取れずに回答した。

 

「そう。マカロフ坊が言うなら分かったよ」

 

そして彼女も納得してこの話を打ち切った。

 

 

 

二人の会話は噛み合わないまま終わってしまったが、これも彼女がずっと不在だった負い目から、マカロフに一任したことの弊害だ。

 

彼女が気になったのは、候補者の一覧だ。一覧には、エルザやミラジェーンの所見や、マカロフの総括が記載されている。

 

ナツ・ドラグニル。

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)一の問題児でありながら、その爆発力と戦闘勘で、数々の格上を倒してきた実績を持つ炎の申し子。感情の昂ぶりで高まる火力と、絶望的な状況でも諦めない心の強さはイシュガルでも随一である。

 

逆に、その熱しやすい性格が足を引っ張ることもあり、その折り合いをつけられるかがこれから重要となってくるだろう。暴走しやすいところを改めてほしいと切実な思いが綴られていた。

 

グレイ・フルバスター。

 

氷造形魔導士であり、物質系の造形を得意とする対応力や応用力の高さは目を見張るものがある。火力面ではナツに一歩遅れるところはあるが、冷静な目線と熱い心を持っていて、状況を打開する突破力は十分にある。

 

特に目立った課題はなさそうに見えるが、時折近視眼的になってしまうという短所がある。それは過去に端を発したものであるため、今回の試験では問題になることはないだろうが、懸念点として記載されていた。

 

ジュビア・ロクサー。

 

幽鬼の支配者(ファントムロード)のS級魔導士の地位であるエレメント4の一角であり、実力、経験ともに申し分ない。自身の身体を水に変化させる魔法は攻守ともに隙がなく、新参者でありながら第一線級の実力者だ。

 

一方で課題点は割と明白だ。自身の魔法に対する依存度が高く、相性差をひっくり返す馬力には心もとない。そして、感情面も未熟なところが見受けられる。グレイを恋い慕う一途さは微笑ましいものだが、その思い入れの強さが非常時にどうでるかは未知数だとしている。

 

エルフマン・ストラウス。

 

ファントム戦でトラウマを克服し、全身接収(テイクオーバー)を会得した成長ぶりは目覚ましい。その精神的な成長と勢いは評価に値するものであり、根性強いところはギルド一だと言って良いだろう。

 

とは言え、不安なところがあるのも否めない。正直なところ、単純な戦闘能力には突出したところはなく、手数の少なさは対応力の低さとして表れている。そのため、真正面からの殴り合いでは真価を発揮できるだろうが、圧倒的な格上、技巧派との戦闘、相性の不利などで地力不足を覆すことができるかが問われるだろう、とある。

 

カナ・アルベローナ。

 

今回の候補者の中で唯一の経験者であり、今回で五回目の挑戦になる古株だ。同世代の他メンバーよりも先んじて挑戦者となるのにも、きちんとした理由がある。使用する魔法は所持(ホルダー)系で、魔法の札(マジックカード)という魔道具を扱う。一枚一枚にそれぞれ異なる能力が付与されたカードを状況に応じて臨機応変に使用することができ、無類の対応力と柔軟性を誇る。その手数の多さに比例して技量が要求される玄人向けの魔法だが、カナは十全に扱えているため、その技量の高さが見込まれている。

 

しかし、実際には4回落第している。普段通りの実力を発揮すれば合格していただろうが、今までの試験では動きがぎこちなく、焦りや不安が原因となって失格していた。更には年々、試験結果が悪くなっていて、自信の喪失が見て取れた。本番に弱い気質なのかもしれないが、その克服は必須である、と分析がされている。

 

フリード・ジャスティーン。

 

事前の仕込みで相手にルールを強制する術式魔法と、ある程度の即応性を持ち、高速戦闘も可能な闇の文字(エクリテュール)を併用して戦うことができる隙のなさは驚嘆に値する。オールレンジで対応可能であり、自身の優位を相手に押し付ける戦術は嵌りさえすれば完封さえ可能な代物だ。

 

以前は雷神衆としてラクサスに追従するばかりで、その自立心に懸念があったが、バトル・オブ・フェアリーテイルの一件を経て、精神的にも一皮むけた男となった。後は、当日まで会場に術式を仕込めないという試験自体に相性が然程良くないという点がネックであるだろう。準備が不十分な状態での立ち回りや適応力が鍵となるだろうと書かれていた。

 

レビィ・マクガーデン。

 

扱う魔法は、文字の意味が持つ性質を具現化、立体化させる立体文字(ソリッドスクリプト)。その具象化にはおおよそ制限はなく、オールラウンダーな活躍が出来る強みがある。だが、それ以上に注目すべきなのは、勤勉さによる知識量と思考力に基いた明晰な頭脳だ。ギルド屈指の才媛であり、他のメンバーにはない長所だと言える。

 

一方で短所はやはり戦闘力と魔力量の乏しさであり、決め手に欠ける点は否めない。今回の試験構成では、必ずしも武力がなければ合格できないというものではないため、十二分に合格の可能性はあるが、試験を抜きにしても決定打となる攻撃力を身に着けて欲しいと評価されていた。

 

そして、最後の一人。メスト・グライダー。

 

彼女は候補者に名を連ねているその男の存在を良く知っている。ここ数年間妖精の尻尾(フェアリーテイル)に顔を出しておらず、ギルドの魔導士として活動していない男だ。

 

それもそのはず。メストは現在、評議院で働いているからだ。だが、妖精の尻尾(フェアリーテイル)を脱退した訳ではない。元々妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士だったが、マカロフの命令によって評議院に潜入して、情報を収集している所謂スパイとなっている。

 

マカロフに抜擢されたのも、扱う魔法が瞬間移動(ダイレクトライン)と記憶操作魔法という、スパイとして破格の能力を持っているためであり、ギルドの仲間たちや評議員の記憶を改竄して、とある重要な情報を抜き取るために秘密裡に捜査をしている。

 

そんなメストの、ギルドに対する忠誠心の高さと仲間を想う気持ちの強さ、自己犠牲の精神は疑いようもないものだ。評議院に潜入する際、自身の記憶も改変してまで違和感を持たせない徹底ぶりにも表れている。そのため、評議院での活動は実質的に評議院の一員としてのものとなり、自身でさえも評議院の者だと思い込んでいるので、今に至るまで怪しまれるようなことになっていない。

 

そして、自身に施した記憶操作はマカロフによって解除される仕組みになっている。年に数回、マカロフが評議院に訪れた際、記憶を取り戻させたメストから、抜き取った情報を聞き出すという流れだ。

 

そのスパイ活動について、マカロフは彼女に対しても秘匿し、あくまでマカロフとメストの両者間でだけで話を進めていた。メストは評議院入りの時に、彼女を含めたギルドメンバー全員に記憶操作を行い、ギルドからメストの存在を抹消してから、評議院のドランバルドとして活動し始めた。だが、彼女に対する記憶操作は働かず、彼女はメストという仲間(家族)のことを忘れてはいなかった。

 

忘れないまま、メストが評議院入りしたことを何か事情があると思い、邪魔立てしてはいけないのだろうと考えて、マカロフやメストに事情を聞き出そうとしなかった。つまり、彼女はメストがスパイ活動に従事していることを正確に把握していない。

 

そこで今回の候補者一覧にいきなりメストの名前が出てきたことで、これもまた何かしらの事情でマカロフが認可したのかと彼女は考えた訳だ。マカロフはきちんとメストの行動を押さえている筈で、今回の参加もマカロフが関わっていると思い、既に本決まりの計画を覆そうとはしなかった。

 

だが真相は、評議院の役割にのめり込み過ぎたメストが、出世のために妖精の尻尾(フェアリーテイル)の不祥事をすっぱ抜こうとして、試験に出場者として逆潜入したというものだ。マカロフが出場を認めたのも、メストの記憶操作が施されてしまったことによるものだ。

 

彼女の信頼とギルド方針への放任主義が悪い方向に働き、十分な意思疎通がなされず、メストの試験参加は認められることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、S級魔導士昇格試験出場者の発表がなされ、会場が喜び悲しみ入り交じった声で満ちる。

 

彼女もS級魔導士なため、檀上に立って発表を聞いていたが、今回は留守番をすることを伝えた後、候補者たちに激励を送った。

 

発表後の一週間後。試験を受けるためのパートナー選びを経て、遂に試験当日となった。

 

試験会場となる天狼島は大陸から離れた孤島である。そこに出発するためにハルジオン港に集結した面々の見送りとして、彼女もまた足を運んでいた。

 

彼女は、試練への船出となる候補者たちに声をかけていく。昇格試験は完全に安全という訳ではない。今までの試験でも死傷者が出たことはある。マカロフの代になってからは細心の注意を払っているが、今回の天狼島も危険な生物はいるため、激励とともに無事を祈って一人一人に話しかけた。

 

そこで、贔屓目はしないよう心掛けていたが、ある事情を抱えていた一人の女魔導士、カナに対しては少しばかり時間をかけてしまった。

 

「カナ嬢。気を付けてね」

 

「リュウさん……私…………」

 

「いつも通りの実力を出せば大丈夫よ。それに、いつも言ってたけど、あの子は名乗り出てくれたら心底嬉しがると思うけどね」

 

「……でも、そんな資格なんて…………」

 

「家族に資格なんてあるわけがないさ。思いがあれば繋がりは切れない。思うことに間違いなんてないよ。一心に思い続けるカナ嬢には、必ず応えてくれるはずさ」

 

「…………」

 

彼女の言葉に、カナは終ぞ浮かない顔のままだった。

 

そのまま、船に乗り込もうとするカナに、最後に軽く微笑みながら彼女は声をかけた。

 

「カナ嬢。帰ってきたら、久しぶりに飲み明かさないかい? とっておきのやつがあるからさ。吞兵衛のカナ嬢のお眼鏡に適うといいけどねぇ」

 

「…………フフ。私以上の酒豪の癖に…………楽しみにしてる」

 

カナは最後に小さく笑って、船上へと渡っていった。

 

 

 

水平線上へと消えていく船を見届けてから、彼女はギルドへと戻った。

 

明日には、新しいS級魔導士と、一皮向けた姿のみんなを迎えることができるだろう。

 

その祝宴の準備でもしようか、と考えながら帰路についた。




難産でした
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