俺は
あのフィオーレ一の魔導士ギルドのマスターに就任した、聖十大魔導マカロフの後継者だ!
なんて、胸を張って言えたもんじゃねえな。それは誰よりも俺が分かっている。
荷が重いなんてもんじゃねえわ。役者不足にも程があらぁな。
俺以上の奴等なんて
更には、若い連中の勢いはすげえ。S級魔導士昇格試験に意気揚々と挑戦しに行く奴等だ。一癖も二癖もあるようなガキどもだが、自信と上昇志向の高さは眩いものがある。俺みたいに挫折して自分の力量を弁えるようなヤツからしたら、羨ましいばかりだ。若いってのはいいよなあ。
だから、まかり間違っても、ギルドマスターになるような器じゃねえんだ、俺は。
なのに、俺はマスターになってしまった。その理由は単純で理不尽なものだった。
つまり、俺以上にマスターに相応しいような奴等は全員、いなくなってしまったからだ。
今も思い出せるあの日。動揺と激怒と不安でギルドが揺れた一日。
それは、S級魔導士昇格試験で天狼島に赴いた中核メンバーが全員、天狼島ごと消息を絶ったという報告がされた最悪の日だった。その原因は、アクノロギアという存在。伝説上にしか語られない生物であるドラゴンで、記録では国を滅ぼしたとかいう黒竜。
評議院の野郎が淡々と報告する現実を、俺たちは受け入れられなかった。
受け入れられなくても、現実は変わらずに過ぎていく。そいつのいう事には、新しいギルドマスターを選任しておけだと。決まらなければ評議院の方から推挙することになるんだと。
評議院は既にあいつらが帰ってこねえっていう前提で話を進めやがった。すまし顔の評議員の胸倉に掴みかかった若い奴がいたが、俺はいいぞ、ぶん殴ってやれ、なんて思っちまった。振り返ってみると俺も冷静じゃなかった。評議院は別に悪くもねえ。悪いのはアクノロギアとかいうやつだ。
俺は、彼女の、リュウさんの言葉に冷や水を浴びせられたよ。
すぐに彼女の下へ古株連中が集めさせられ、今後のことを話し合うことになった。俺もその中にいた。彼女は冷静に、今後の見通しを話し、それに対応すべくどう動くかを指示出してくれた。中核メンバーが抜けた
そんな彼女に心無い言葉をかけてしまったことは、一生物の後悔だ。
「なあ、リュウさん。あいつらがもう、帰らねぇって思ってんのか?」
「帰ってくるあの子らのためにも、ギルドを守って迎えないといけないからねぇ」
馬鹿か俺は。
彼女も不安じゃない訳がねえんだ。でも、あいつらのことを信じ、やるべきことをやろうとしていた。
それは、もう中年にもなって、子供もいるような俺たちこそが果たすべき役目じゃねえか。
俺は、彼女のようにギルドを守る大人の姿を、若い奴等、そしてロメオに示さなければならねえ、とそう強く誓った。
だが、まさかギルドマスターをやらされるとは思わなかった。
「マスター? マカオ坊で良いんじゃないかい?」
「ええええええ!!? 俺!? リュウさんの方が適格でしょ!! 今もギルドに色々指示出してるし!」
評議院からの猶予期間間際で、ギルドの維持やあいつらの調査などでてんやわんやだった俺らも、早く四代目ギルドマスターを決定するように急かされていた時だ。
俺やワカバといった今やギルドの中心になってしまった中年連中や、若い奴らの信頼も厚く、満場一致で彼女をマスターにしようと思って、声をかけた。
だが、彼女は逆に俺を指名してきた。
聖十大魔導を固辞したことは知っている。だが、今はギルドの非常事態であり、何かしらの信念があってもそこを曲げてもらって、ギルドマスターに就任してもらおうと説得しようとした。しかし、彼女がマスターを断ったのも、きちんとした理由があった。
「ギルドを存続させるためには、身も蓋もない言い方しちゃうけど、一も二にもなくお金だよ。今は稼ぎ頭が軒並みいないからねぇ。あの子たちは損害も多く出しちゃうけど、広い目で見ると収支はプラスだったしね。もちろん、今いるみんなのことを信じてない訳じゃないけど、私は依頼を達成して報酬をギルドに入れる方がベストさ」
論理的に説明されると反論のしようがねえ。所詮俺は木っ端魔導士で、初めてギルドの財政や仕事の割り振りなんて考える立場になったからだ。
結局丸め込まれたように、俺が四代目ギルドマスターに就任した。
もちろん、俺なんかじゃギルドを上手く回すのに不足がすぎる。ベテランではあると思っていたが、今まではマスターの庇護下で活躍できていたことを痛感した。マスターの書類仕事も、他のギルドとの連携も、評議院とのやり取りも、今まで何度もトラブルを起こしてしまった。
マスターの偉大さと自分の不甲斐なさに涙が出る思いだったよ。
特に、新しくマグノリアに勃興した
奴らが持ち掛けてきた話は、財政的に苦しいのを見かねて融通してあげようっつう、つまりは借金だ。それもグレーゾーンぎりぎりの金利のな。目減りする金庫に焦っていた俺は、その利息にも気づかずにサインしようとしてしまった。
それを止めたのも彼女だった。
遠征でいくつものクエストをこなし、最前線で報酬を稼いでいた彼女が運よく、頭を悩ませていた俺を見かねて問い質してきた。そして、借用書の記載事項を一読した彼女が眉をひそめて制止してきた。
「いやらしいねぇ。小難しい専門用語を散りばめて、文字の大きさも読みづらくしている。マカオ坊、これに契約しちゃうと、このギルドハウスを手放すことになるよ」
「そんなっ!?」
「これは最早罠と言っていいね。悪いけど、マカオ坊。これには口を出させてもらうよ。金輪際彼らとは契約事は一切なし。いいかい?」
同じ街を本拠地とするギルドで、互いに目の上のたん瘤だったことは分かっていた。だが、そこまでして貶めようとしてくるとは思わなかった。
自分の脇の甘さを悔いる俺に、彼女は優しく語りかけた。
「マカオ坊を心配させないように、もうちょっと踏ん張らないといけないねぇ。お金のことは心配しないで。甘い話には注意だよ。ギルドは任せたよ、マカオ坊」
それから彼女は、より報酬の出る高難度のクエストを評議院などから引っ張り出して受注するようになり、更に遠征を増やし、ギルドに戻る機会は減ってしまった。
事務作業中、ギルドの預金がどかんと増額された時には、彼女の有難みを痛感すると同時に、金稼ぎに奔走させてしまっていることが申し訳なく感じてしまう。
四代目ギルドマスター。この肩書がなんて重く虚しいことか。
そうして、
俺がやれたことなんてほとんどねえ。彼女の支えがあったからこそ、このギルドハウスを売らずに済んだし、将来を不安に思っていてもこのギルドを見捨てようとしなかった者も多く、マグノリアの住民からも差し入れや手伝いに来てくれることが多かった。
俺が後一歩のところで心が折れずに済んだのも、彼女のおかげだ。
それでも、ずっと俺を蝕んできた現実がある。
息子のロメオだ。ナツに憧れて魔導士を志し、7年の間に
その感情を失ったような無表情を見るたびに、心が軋む音が聞こえた。
そんななか、ようやく待ち望んでいた時が訪れた。
人が少なく寂しい空間に、騒がしい連中が帰ってきた。7年前と変わらない姿で、笑ってそこにいた。
俺とロメロは泣き笑いを浮かべた。
7年間守り続けて、あいつらを迎えられたのは嬉しかった。ようやくみんなの苦労が報われるってもんだ。俺も肩の荷が降りて、ギルドマスターを返上することになる。
マスターからは礼を言われたが、俺は素直に受け取れなかった。7年間、彼女と他の奴等の支えがあってこそ、頑張り続けることができた。本当に褒められるべき人物は他にいる。
そして一番の功労者である彼女はここにはいなかった。
「のう、マカオ。リュウさんはおらんのか?」
「ああ、リュウさんな。今は遠征に行ってる」
「遠征じゃと?」
みんなが帰ってきた後も、彼女だけがこの場にいなくて未だに出稼ぎに向かっている。本当は、すぐにでも呼び戻したかったが、金になるようなものは全て売りはらっちまったから、連絡用の道具は今のギルドにはなくて、彼女と連絡を取ることができない。
もっと俺が上手く財政を遣り繰りできていれば、と思う。精神的支柱だった彼女がギルドにいないというのは、残された者たちにもかなりの不安感となっていて、定期的に帰ってくるその時を心待ちにしていた程だった。
独り立ちできてないようで恥ずかしいが、それほどに大きな存在だった。そんなリュウさんにもいち早く、みんなが集まるこの光景を見せたかった。
次に戻ってくるのは、大魔闘演武が終わる頃ぐらいか。
大魔闘演武ってのは、この7年の間に新しく開催されるようになった魔導士たちの大会だ。フィオーレ中の魔導士ギルドが参加し、自分たちの魔を競い合う。ここで優勝した魔導士ギルドは名実ともに最強のギルドという名誉を手にすることができる。
かつては、俺たちも参戦していた。あいつらがいなくなって、凋落の一途を辿るギルドの名誉挽回を目指して。確かに中核メンバーがいなかったが、一人一人の得意分野なら相当の実力者だし、競技内容が上手く合致すれば優勝できる。
そう思って挑んだ訳だが、ものの見事に惨敗。毎年競技内容は変更され、得意分野を活かすことができずに敗退した。そして得られたのは真逆のフィオーレ最弱という汚名だ。マグノリアだったらそこまでじゃないが、他の街では最弱のギルドと侮辱され、それを苦にした魔導士が脱退してしまうという悪循環に陥った。
まさしく俺たちにとってはトラウマだ。フィオーレ最弱という汚名を返上できずにあいつらを迎えてしまったのは本当に悪かったと思っているが、それでも参加には反対だった。残された他の奴等も一貫して反対だった。
だが、ロメオが呼びかけ、ナツが気勢を上げ、優勝賞金を聞いたマスターの鶴の一声で参加が決まってしまった。
いや、別にナツ達のことを信じてない訳じゃないんだが。
ナツ達の実力は7年前とあまり変わっていないのに対して、今の魔導士のレベルは大きく向上している。俺たちも最弱という立場を甘んじて受け入れるつもりはなく、7年間鍛練を重ねてきている。俺もギルドマスターの仕事の合間に訓練しているんだ。その成果もあって、相応に実力は向上している。あのマックスだって、ナツと互角に渡り合えている。
それでも、俺たちが最弱と言われるのは、他のギルドの成長が著しいからだ。特に、
そこのマスタージエンマと一度だけ顔を合わせたことがある。なんだよ、あの肉体。筋骨隆々過ぎて圧倒されたわ。俺の中性脂肪じゃ相手にもならねえ。
そん時の邂逅は今でも忘れられねえ。見下され侮辱されたのに、実力差は明確だったから、反論もできずに俯くことしかできなかった。思い出すとむかむかしてきやがった。
参加が決まった以上、俺たちは全面的に応援するだけだ。俺たちが果たせなかった雪辱を頼むからよ、あの野郎に吠え面かかせてやってくれや。
……後で聞いた話だと、ナツ達は夏合宿の三か月間をとある事情で無為にしたらしい。辛うじて、秘密の助っ人のおかげで、リカバリーができたみたいだが。期待した直後に冷や汗をかかせるのはやめてくれ。
大魔闘演武の開催地は、フィオーレ王国の中心地、花咲く都のクロッカスだ。
街の中央部には、フィオーレ王族の居城、華灯宮メルクリアスが聳え立つ。街はその名の通り至る所に花が咲いていて、華やかな街並みには、フィオーレ王国の豊かさを象徴している。元より観光地として有名で、各地から人が訪れる場所だったが、大魔闘演武を前にして魔導士や観戦客で更に多くの人で賑わっている。
大魔闘演武が行われる会場は、郊外にある西の山に建造された円形闘技場ドムス・フラウだ。
今大会の参加チーム数は113。これまでにない膨大な数だ。この数を8チームまで絞るための予選が行われることになった。昨年度までは予選なんてものはなかったが、毎年参加ギルドが増えて内容が薄くなっているという指摘があったため、8チームでの本選でより盛り上がらせようという企画にはなるほどと納得できた。
そして、113というチームは、フィオーレ中の魔導士ギルドの総数より多い。そのことにも理由がちゃんとある。今年のルール改正で、各ギルド2チームまで出すことができるようになったからだ。
そして我らが
Aチームは、ナツ、グレイ、ルーシィ、エルザ、そしてエルフマンだ。本来はウェンディが参戦する筈がどうやらウェンディに何かあったらしくて、リザーブ枠を使ってエルフマンが急遽出ることになったらしい。
Bチームは、ガジル、ジュビア、ミラ、ラクサス、そしてミストガンだ。エドラスの一件は俺も聞いてるし、本来いるはずないんだがもちろんからくりがある。
ミストガンという籍を利用して別の人物を出場させた訳だ。そいつの名はジェラール。エルザの因縁の相手で、7年の間に脱獄したそいつが、マスターに頼み込んで参加することになったらしい。思う所がない訳じゃないが、マスターが決めたことなら仕方ない。それに腐っても聖十大魔導だった男だから実力は折り紙付きだ。俺としてはこっちが大本命だな。ナツ達には悪いが。
2チーム本選出場できたのはうちのギルドだけだ。誇らしい気持ちで一杯だわ。それに競技次第じゃ協力して有利に進めることもできるしな。
……速攻でナツが敵対宣言したが。まあ、そういう奴だよお前は。
こうして2チームも予選を突破できたのは、うちらのギルドの実力を誇示できたと言っていい結果だ。Aチームが現れたときは最下位で突破したことを嘲るブーイングを飛ばしていた観客が、Bチームが現れたときはどよめいていたからな。
とは言え油断はできない。他の出場ギルドも粒揃いだ。
だが、評議院が認めた以上、俺たちも口を噤むしかない。そうとなったら、この大魔闘演武でぼこぼこにしてやることを応援するしかねえ。結成した応援団の気力がより一層強まるってもんだ。
「「「「「フレーフレーフェアリーテ・イ・ル」」」」」
「フレーフレーフェアリーテイル♪」
「…………ん?」
なんか、聞き覚えのない少女の声がしたような。
声の方を向いてみると、ウェーブ状の長い金髪の少女が、裸足をぷらぷらとさせながら、観客席の淵に腰掛けて拳を振り上げている。
ちょっと待て。まさか。
「マスターメイビス!!!」
やっぱりか! 話に聞いていたとおりの風貌。この少女が初代ギルドマスターのメイビス・ヴァーミリオンか。マスターメイビスの登場に度肝を抜かれたが、なぜここにいるんだ?
「応援に来ちゃいました」
「来ちゃいました……ってアンタ……」
「大丈夫です。ギルドの紋章をつけた人しか私の事は見えてませんから」
「いや……そういう問題なのか?」
「だって……ずっと天狼島にいるのもヒマなんですよ」
拗ねたように頬を膨らませる少女は、天狼島でアクノロギアの襲撃から守ってくれた恩人だ。マスターメイビスが言うからには特に大きな問題もないんだろう。
いつの間に来ていたことには驚いたが、俺はギルドマスターとして伝えたかった言葉があるから、気を取り直して声をかけた。
「マスターメイビス」
「ん? あなたは……」
「四代目ギルドマスターだった、マカオ・コンボルトと言います…………この度は、あいつらを、マスターを救ってくれてありがとうございました」
俺はマスターメイビスに深く頭を下げて感謝を伝えた。
ギルドの連中は目を丸くしているし、他の観客は誰もいないのに頭を下げる俺を怪訝そうに見てきた。だが、マスターメイビスと会う機会なんてこれからあるかも分からないものだ。マスターとして不甲斐ない俺だったが、それでもギルドをまとめることの責任があった。だから、盛り上がっている所に水を差すようなものだとしても、この想いを伝えるべきだと思った。
「顔をあげなさい。四代目」
「…………はい」
顔を上げた俺の目に映ったのは、さっきまでの少女然としたあどけないものではなく、初代ギルドマスターとしての威厳と風格、そして母親のような慈悲深さを感じさせる微笑みだった。
「私こそ、あなたに感謝を伝えたい。
「……別に……俺ぁなんもできてねぇ。他の連中が踏ん張ってくれたおかげだし、リュウさんのおかげでやってこれたんだ」
「確かに彼女の献身がみなを支えたことでしょう。ですが、それは逆も然りですよ。誰が欠けても、今の
「…………」
くそっ。年甲斐もなく涙が溢れてきやがった。
「父ちゃん? 泣いてんのか?」
「おいおいマカオ。中年親父の涙なんて誰得だよ」
「うっせ! 黙ってろ!」
茶々を入れてきたワカバに怒鳴った後、もう一度、マスターメイビスに礼を伝えた。
「ありがとうございます、マスターメイビス」
大魔闘演武のプログラムはポイント獲得制だ。一日の内容は、競技パートとバトルパートに分かれる。
競技パートは8チームからそれぞれ一人ずつ計8人出場し、コンセプトに応じた競技で順位を付けを行ってポイントが割り振られる。バトルパートは、大会側が選出した魔導士がそれぞれ勝負して、ポイントを争う形になる。
そうして、五日間に渡って獲得したポイントの総数が最も多いギルドが優勝、フィオーレ最強の魔導士ギルドとなる。
そして一日目、意気込み挑みに行った我らが
競技パートでは、グレイとジュビアがワースト1、2。バトルパートでは、ルーシィが妨害を食らって敗北、ミストガンを演じたジェラールが良く分からねえが、いきなり悶絶してぶっ倒れた。
幸先悪く、底辺からのスタートとなってしまった。だが、落ち込んでいる奴なんて一人もいねえ。初日の残念会は、惨敗したにも関わらず意気軒昂と奮い立つ奴等で盛り上がった。
必ずあいつらは巻き返す。そう俺たちは信じている。
その諦めない心を信じているが、それ以上に、仲間を想う心というものを観客たち、そして俺たちに見せつけてくれたのが二日目の出来事だった。
夜が明けて、大魔闘演武二日目競技パート。
内容は
……なんだが、人選が最悪だった。
よりにもよってAチームからは乗り物酔いが弱点のナツが出場した。競技名から予測できたはずだろ。見返してやりたい気持ちは分かるが、もっと冷静になっておけよ、ナツ。
じゃあ、Bチームは大丈夫か、と思ったら、こっちも乗り物酔いでグロッキーになっているガジルが出場していた。あれだけ大丈夫だと豪語してたくせにナツと同様にフラフラだった。ガジルの方は乗り物酔いにはならないと言っていたが、どうやら体質が変わっていたらしい。
そして、同じ位置で千鳥足になっているのが、
三人とも極端な乗り物酔いで弱っている。共通点は全員が
「うおおぉぉぉおおお、前へ! 前へ進むぅううううう!」
「ヌオオオオオオオオオオ!!」
「お、お、お」
先頭集団が次々とゴールするなか、最後尾でフラフラと走り続ける三人。やがて、相手のスティングが競技を放棄することにして、その場に立ち止まった。
「カッコ悪ィ。力も出せねえのにマジになっちゃってさ。いいよ…………くれてやるよ、この勝負。俺たちはこの後も勝ち続ける。たかが1点2点、いらねーっての」
「その1点に泣くなよボウズ」
相手が止まっても、かまわずナツとガジルはゴールを目指す。冷や汗をダラダラ流しながらも、必死の形相で前へ進む姿は、初めは滑稽に見えて笑っていた観客たちもやがて静まって目が離せなくなっていた。
それは俺たちもだ。
「一つだけ聞かせてくんねーかな?」
足を止めたスティングが、二人に疑問を投げかける。
「何で大会に参加したの? アンタら。昔の
それは正直思った。確かにかつての名誉を取り戻そうって意思はみんな共通して持っていたし、最強とか頂点とかを目指す意欲の強さは、若い連中、特にナツなどは人一倍強かった。
だが、それはあくまで求道的な目標で、世間の評価や周囲の目線などは歯牙にもかけない男だった。そうじゃなきゃ、クエストのたびに損害を出すトラブルメーカーにはなってねえ。相手の人物評はあながち間違いじゃない。
そんな質問に対するナツの回答に、俺は、俺たちは涙を堪えることができなかった。
「仲間のためだ」
そうだった。常にトップを目指す向上心の強さも、他人に左右されない芯の強さも、仲間を想う絆の強さには敵わない。ナツはそんな男だ。
「7年も……ずっと……俺たちを待っていた…………どんなに苦しくても悲しくても、馬鹿にされても耐えて耐えて…………ギルドを守ってきた…………仲間のために俺たちは見せてやるんだ!
みんな号泣していた。
涙で視界が歪むなか、ロメオと肩を組みながら、ナツとガジルの雄姿を目に焼き付ける。
観客もまた、息を呑んで二人の奮闘を見守っていた。
フラフラになって倒れ込んでも、這って這って這い続けて、そうしてゴールまで辿りつくことができた。
「
終了のアナウンスとともに、静寂から観客のざわめきが戻ってきた。
「あいつらの執念……みてーなの、スゲーな……」
「何なんだあいつら……」
「
「少し感動しちまった……!」
「俺……!! 応援しようかな、
ざわめきはやがて、少しずつ称賛へと変わり、やがてパチパチと拍手となった。会場を一帯を包むようなものじゃなくて、控えめでまばらな拍手だったが、風向きが変わったように感じた。
二人のおかげで、
この光景を見る事をどれだけ夢想し続けたことか!
だが、ここにいる全員が噎び泣くなか、唯一見て欲しかった人はここにはいなかった。
無性に今、リュウさんに会いたい、とそう思った。