大魔闘演武は波乱に次ぐ波乱、激闘に次ぐ激闘の末、優勝者が名声と栄誉を勝ち取り終わった。
途中、紆余曲折は多くあった。
二日目の夜。
三日目のバトルパート。
その目的は、
ちなみにその後の話をすると、大会での狼藉を受けて、改めて
また、
三日目のバトルパート直後。
ミストガンの格好に扮したジェラールが、かつてメストとして
元々ジェラールは、脱獄後に元
評議員に見つかるという失態を犯してしまったが、ジェラールはやがて、その発生源を突き止める。そして、大会の裏に潜む思惑ととある計画の存在に辿り着くことになる。
四日目のバトルパート。
三日目に
四日目のバトルパートは2対2のタッグバトルとなり、実力以上にコンビネーションが注目される。そして、最大の注目を浴びた対戦カードが、
四日目の夜。
タッグバトルで敗れたスティングとローグはマスタージエンマの忿怒を甘んじて受けていたが、スティングの相棒、エクシードのレクターが仲裁に入ろうとした。しかし、それを目障りに思ったジエンマがレクターを消し去ったことがスティングの逆鱗に触れ、スティングは叛逆を起こしてジエンマの身体を滅竜魔法で穿った。最終日を前に、最強のギルド
一方、タッグバトルでナツが一人で闘うために除け者にされたガジルは、闘技場ドムス・フラウの地下で目撃したものを伝えるために、ナツやウェンディを含めた仲間たちをそこへ連れていった。そこは朽ちたドラゴンの骨が散乱した、ドラゴンの墓場とも言うべき場所。
そこでナツたちは400年前の歴史を知る。ウェンディの魔法、ミルキーウェイは残留思念を呼び寄せて具現化する幽体召喚魔法だ。これにより、400年前に亡くなったドラゴン、ジルコニスから当時の話を聞くことができた。
そこで語られたドラゴンという種の滅亡、その契機と経緯、大戦の話とその終焉に誰もが絶句した。
かつてドラゴンは世界の支配者であり、大地、大空、大海にて覇を築いた君臨者だった。同時に人間も存在していたが、ドラゴンにとっては食料同然の塵芥に過ぎなかった。だが、ドラゴン族の中には人間との共存を謳う者もいて、それがやがて共存反対派との亀裂を生み、戦争へと発展した。
戦力は拮抗していたが、やがて共存派のドラゴンが打ち立てた戦略が、世界を変えた。それこそ、人間にドラゴンを滅する魔を授けて戦争へと参加させるという、
しかし、ここで生じた誤算が、ドラゴンという種の絶滅を招く。
一人の
滅竜魔法の末路はドラゴンへと変貌することだという。ナツたちはその真相を知って言葉を失った。
そうして、ドラゴン同士の大戦は、ドラゴンと化した一人の人間によって終結した。以後、幾数名の生き残りはいたもののドラゴンは種族として滅亡し、人間が変わって世界の霊長として繁栄した。
その大戦は古代からの言い伝えに習って、竜王祭と呼ばれるようになった。竜王祭とは、ドラゴン族の頂点、すなわち竜王を決める闘争のこと。そして、400年前の竜王祭は、人間でありながら竜の王として誕生した異例の事態だった。
その王の名はアクノロギア。ドラゴンでありドラゴンならざる暗黒の翼。
ジルコニスから齎された情報に混乱する中、地下を訪れた王国騎士団団長アルカディオスとその部下となっていたユキノが訪れる。そして連れられた先、華灯宮メルクリウスの秘匿された一室にある巨大な扉エクリプスと極秘裏に進められていたエクリプス計画、そして大魔闘演武の全容が語られる。
大魔闘演武は参加した魔導士たちから魔力を接収して、エクリプスを起動するためのカモフラージュだった。ジェラールが感知していた黒い魔力もエクリプスのものだ。エクリプスには時を渡る力があり、400年前の過去、ゼレフが不死になる前に戻って打倒するというエクリプス計画が水面下で進められていた。
だが、そこに横槍が入る。エクリプス計画に反対していた国防大臣ダートンの乱入だった。歴史を修正することの危険性を説くと同時に、エクリプス計画で必要不可欠な黄道十二宮の金鍵を所有する星霊魔導士ルーシィとユキノを拘束し、他のメンバーを追放してしまった。
最終日前日。
大魔闘演武と主催者である王国側の陰謀、エクリプス計画との関連性を知ったナツたちは、ルーシィが王国兵に捕まってしまったことをマカロフたちに報告した。ナツはすぐにでも助けに向かおうとしたがマカロフは鉄拳で黙らせた。今回の相手は王国で後先構わず突入しても分が悪い。
だからといって、仲間を攫われて黙って見ているようなギルドではない。マカロフは救出のための一計を案じた。
最終日。
大魔闘演武の最終戦はクロッカス全域で行われる大乱闘。このサバイバルゲームを経て、真に最強のギルドが決定されるため、観客席のボルテージも振り切れるほどに最高潮だった。フィオーレ中の注目を集める最終戦、それは王宮の目も例外ではない。ダートンからは優勝した場合は便宜を図ろうと言われたが、ルーシィを拘束した張本人の言葉を馬鹿正直に信じることはできない。とはいえ、優勝は当初の目的でもあるし、そのか細い希望を切り捨てる訳にもいかない。
そのための二正面作戦。
大魔闘演武はグレイ、エルザ、ジュビア、ガジル、ラクサスの本命メンバーを出して、普段通りの応援を続けることで王宮の目を逸らし、同時にナツ、ウェンディ、ミラジェーン、ハッピー、シャルル、パンサーリリーの別動隊がルーシィの救出に向かう。
それがマカロフの作戦だった。
最終戦の方は、妖精軍師と謳われたマスターメイビスの入れ知恵により、優勢にことを進めることができた。全てがメイビスの予測通りの展開となった訳ではないが、
ミネルバが間一髪のところで救出したレクターを人質にして勝利を求めたため、スティングはなりふり構わず勝ちに行こうとしたが、心の奥底で求めていた絆というものを見せつけてられたことで、例え勝ったとしてもレクターに顔向けできないと思ったのだ。決着後、ミネルバから解放されたレクターを抱き寄せて、スティングは憑き物が落ちたように泣いて笑った。
大魔闘演武は
そして、その裏で同時進行していた救出部隊は結局王宮の目を欺くことに失敗し、ルーシィ救出後に王宮の地下へと落とされて処刑部隊の餓狼騎士団を嗾けられた。しかし撃退することに成功し、ルーシィとユキノを連れて地上へと戻る。
その時に邂逅した人物に、全員が呆気にとられた。
それがルーシィ。姿形がまったく同じの二人目のルーシィだった。変身魔法や瓜二つの他人などではない。混乱する面々にそのルーシィが語る。自分は未来から来たと。
大魔闘演武の裏で進められていたエクリプス計画は、エクリプス2計画となり、その扉は開かれるその時を待っている。
エクリプスとはゼレフの残した負の遺産の一つ。良識を排し魔導の深淵を結集した扉は、時渡りの奇跡を生んだ。しかし、エクリプスの使い道は時間跳躍だけではなく、攻撃用兵器エクリプス・キャノンとして数多の群勢を蹴散らすための砲台にもなる、という。それは相手がドラゴンだとしても。
王国が大魔闘演武開催当初から進めていたエクリプス計画は、前者の使い道で過去へ赴き、現在の闇の根源であるゼレフを打倒して歴史を改竄しようとするもの。そしてフィオーレ王国王女のヒスイ姫が変更したことで新しく行われようとしているエクリプス2計画は、後者の使い道で、迫りくるドラゴンの一万匹の群勢を一掃しようとするものだ。
ヒスイ姫が計画を変更したのは、未来から来た者から齎されたこの情報によってだった。
その者こそ、ジェラールが出会い、ナツ達の前に現れたルーシィ、ではなかった。
その男の名は、ローグ・チェーニ。
一万匹のドラゴンに対抗するために、過去に渡ってきた未来のルーシィとローグ。目的は同じだとして、目の前に現れた未来のローグに油断していた一瞬の隙をついて、未来のローグは今のルーシィを殺そうとし、それを庇った未来のルーシィが殺されてしまった。
なぜ、目的が同じなのに未来のローグはルーシィを殺そうとしたのか。それは、そもそもローグの言葉は嘘だったからだ。
同じく未来から来た二人だったが、同じ未来から来た訳ではなかった。
始めの時間軸。未来人が来ないで、改変が行われなかった世界では、従来通りのエクリプス計画が実施された。400年前と接続したエクリプスは本来の目的を果たすことができずに、過去から一万匹のドラゴンを現代へと呼び寄せてしまった。元来エクリプスとは、ゼレフの闇魔法と星霊魔法が融合した装置であり、時間・空間座標を指定することができるが、月蝕を迎えた時のみ魔力が狂い制御が失われる。そのため、ドラゴンのいる時代・場所と繋がったことで、人類はドラゴンによって滅ぼされた。
その滅びの運命を変えるために過去に飛んできたのが、ルーシィだ。ルーシィの活躍によりエクリプス計画は阻止された。扉が開かれなかったことで世界は分岐し、人類は滅びの未来を変えることができた、かに思われた。分岐した世界でも人類はドラゴンに支配されることになる。それは一万頭という群勢ではなく、たった一人の竜王、アクノロギアによる支配だ。その支配を打ち破るために過去に飛んだのがローグだ。アクノロギアに対抗するために生み出した秘術、操竜魔法で一万頭のドラゴンを配下に加えて、アクノロギアを打倒し、今度は自分が支配者となるために。
そうして二人の未来人が揃ったのが、今あるこの世界だ。未来のルーシィの認識は突然ドラゴンによって仲間たちが皆殺しにされたため、藁にも縋る思いでエクリプスで過去に飛んだ。だが、未来のローグにとってルーシィは一万匹のドラゴンを手に入れるために最も邪魔になる存在だったから殺そうとしたという訳だ。
エクリプス2計画も、未来のローグの出任せだ。エクリプスにはエクリプス・キャノンなんていう機能は搭載されていないし、エクリプスを開きさえしなければドラゴンが襲来することもなかった。ヒスイ姫は騙され、ありもしない幻想に踊らされ、仮初の使命感に突き動かされて、王宮から広場へと持ち出してエクリプスを開いてしまった。
エクリプスの扉を潜り、過去から未来に。かつての支配者による現在への蹂躙が始まろうとしていた。
エクリプスはルーシィとユキノ、二人の星霊魔導士によって閉じられた。一万頭のドラゴンが流入するような最悪の事態は免れた。しかし、閉ざす前に来襲した7頭のドラゴンが、クロッカスの都に解き放たれてしまった。
エクリプスが閉ざされた広場に、未来のローグが現れる。
七頭もいれば人類を支配するには十分。一万頭の制御は不可能でむしろ僥倖だとして残忍な笑みを浮かべ、未来のローグは宣言した。
「よく聞け愚民ども。今より人の時代は終わりを告げる。これより始まるのはドラゴンの時代」
太母の竜マザーグレア、獄炎の竜アトラスフレイム、翡翠色の竜ジルコニス、岩窟の竜ストーンヘッジ、海陸の竜リヴァイア、鋭鋏の竜シザーランナー、黒翼膜の竜ダースネグロ。
操竜魔法によって七頭のドラゴンは付き従うように未来のローグの背後で滞空する。ドラゴンを意のままに操る傲岸不遜な姿は、人間でありながら正しく竜の支配者だと言っていい。
未来のローグはマザーグレアの背中に乗り、上空へと飛びあがる。そして、残りのドラゴンを嗾けて、蹂躙を開始させた。この現代に、ジルコニスの魂が語った竜王祭が再現されることとなった。
大魔闘演武直後であり、疲労が溜まっている出場者と、惜しくも出場はできなかった魔導士たちが、ドラゴンたちを迎え撃つ。フィオーレ王国国王トウマ・E・フィオーレが娘のヒスイ姫からドラゴンの来襲を知らされたことで招集・要請した魔導士たちだ。
全ての魔導士たちが総攻撃を仕掛ける。しかし、ドラゴンの堅牢な鱗は、魔導士たちの攻撃を物ともせず、剛腕を振るう風圧が魔導士たちを吹き飛ばす。
圧倒的な力量差。それは存在の規格が根幹から乖離していることをまざまざと見せつけるものだった。聖十大魔導のマカロフやジュラという頂点の魔導士でさえ、ドラゴンにとっては脆弱な人間の一人に過ぎない。
心が屈しかけるなか、ナツの叫びが人類を奮い立たせる。
マザーグレアに乗って上空で人類の足掻きを見下していた未来のローグの下に、ナツが乗り込みにいった。ドラゴンの背で相争う二人の
足場となっているマザーグレアの背中に、滅竜の炎を纏わせた拳を叩き込み、マザーグレアを怯ませる。その轟音に注意を寄せた人類に対して、ナツが希望を訴えてかけた。
「聞こえるかぁ!!! 滅竜魔法ならドラゴンを倒せる!!!
「貴様!!!」
竜の支配者の激昂を掻き消す、
「行くぞぉ!!!! ドラゴン狩りだっ!!!!!」
希望の灯が
クロッカス中に散らばる7頭のドラゴンにそれぞれ相対する7人の
しかし、相手の手数はそれだけではない。未来のローグが操るマザーグレアは、腹部から無数の卵を投下し、そこから小型ドラゴンを生み出す能力を持っていた。そうして生み出された小型ドラゴンは、一頭一頭が並みの魔導士以上の力を有しており、物量の面でも人類側が凌駕されてしまった。
このままでは、取り返しのつかない被害が発生してしまう。
だがその前に、欠けていた最後の妖精が、竜王祭に遅参した。
天空のドラゴンスレイヤー、ウェンディはミラジェーンとともにエクリプスのある広場の上空で、翡翠色の竜ジルコニスと戦闘していた。ジルコニスは、たかが人間だと侮り、ルーシィを魔法で裸に剥いて見せしめに掌で弄んでいたが、一度ウェンディの滅竜魔法を食らったことで態勢を整えた。
裸のルーシィを上空へ投げ捨てて、生意気な小娘を叩き潰そうとする。
「天竜の咆哮!!!」
「小癪な!!」
「デモンブラスト!!!」
「効かぬわ!」
油断からの一撃を食らったことへの反省、というよりも単に人間ごときに手傷を負わせられることが我慢ならず、ジルコニスは全力をもってウェンディを叩き潰そうとした。
ウェンディの咆哮を腕力で打ち破り、ミラジェーンの攻撃は防御もせずに鱗が無効化する。そうして、生まれた隙を突いて、ジルコニスが大口を広げてウェンディを食らおうとした。
「あっ……」
「ウェンディっ!!!」
ウェンディを抱えたシャルルが回避行動を取ろうとするも間に合わない。このままではウェンディとシャルルはジルコニスに食われて命を落とす。
その瞬間だった。
「ちょいっとごめんよ」
いつの間にかジルコニスの頭上にいた一つの影が、その拳を叩きつけて強制的に顎を閉じさせた。
「ぐぬうううぅぅぅっ!!!?」
捕食を確信していたジルコニスが突然の衝撃に反応できず、地上へと落下していった。
唖然とする広場の面々。その群衆の前に、ジルコニスの頭からその影が飛び降りた。
月明かりに照らされて判明した正体に、知っている者たちが強い安心感を覚える。
「遅れてごめんねぇ、みんな」
「リュウさん!!!」
「はぁっ、遅いじゃないの! まったく!!」
「リュウさん、お元気そうで何よりです」
「うんうん。できれば再会を祝してゆっくり話でもしたいところだけどねぇ。今はそれどころじゃないか」
ウェンディたちは彼女の下に駆け寄った。そして7年前と一切変わらない姿にウェンディとシャルルは少し驚いた。ミラジェーンもまた、ギルド加入当初から一緒にいたから分かっていたことだが、やはり成長していない姿に心が揺れ動かされる。
そのことも含めて色々話したいこと聞きたいことがたくさんあるが、彼女の言う通り、今最優先なのは目の前のドラゴンだ。彼女がジルコニスから視線を外さないのを見て、ウェンディたちも視線をジルコニスに戻した。
地面に叩きつけられたジルコニスがゆっくりと体を起こす。その表情はどこか困惑気味だ。
「ぐ、ぬう。なんじゃ今のは……貴様ぁ! 貴様は一体何をしたっ!?」
ジルコニスにとって、不可解な一撃だ。殴打だけで天空を飛翔するドラゴンを地面に叩き落とすなど不条理の極みだった。
「さてね。今は我儘小僧にお仕置きの時間だよ。ジルコニス」
彼女はジルコニスの激怒を受け流すと同時にその場から駆け出す。目にも止まらぬ速さでジルコニスの懐へと潜り込んだ。
「ぬう!?」
ジルコニスは彼女の疾走に目を剥きながらも迎撃するために巨腕を振るう。彼女はその攻撃を紙一重で避けながら、ジルコニスの顔面前に到着すると、右手の掌をジルコニスに向けた。
「天公失墜」
虹色に輝く幾何学模様の陣が展開すると同時に破砕する。陣の痕跡が空中へと溶け込むなか、ジルコニスの巨体が揺らぎ、地面へと崩れ落ちた。その両目は白目を剥いていて、意識を失ったことが分かる。
次に彼女は両手の指を交互に組んで握りしめる。
「
刻印が刻まれた巨大な純金の鎖がジルコニスの巨体を縛り上げ、意識を取り戻したとしても身動きが取れなくした。竜の力を《封印》する効果を付与し《創造》した金鎖は、対竜特攻の拘束力を有している。これによって、広場にいる者は万が一にも、ジルコニスの被害にあうことはなくなった。
「ふう。既に
あれほど絶望的に感じていたドラゴンを一瞬の内に完封した彼女に、誰もが言葉を失った。彼女は実力を誇示していなかったのもあって実力者というより、面倒見の良さから保護者という印象をずっと持っていた。
しかし今、彼女は汗一つかかずにドラゴンを封じ込めた。その絶対的な強さはまるで……。
「ミラ嬢、ウェンディ嬢、シャルル嬢。ここは任せていいかい?」
「あ、え、は、はいっ!」
「…………あなたはどうするのよ?」
「どうやら他にもわんぱくな子たちがいるみたいだからねぇ。そっちのお仕置きに行くとするよ」
彼女のいつも子供を見守る母親のような言葉選びをする。それをドラゴンにも向けていて、その穏やかな微笑みに安心よりも不安を感じたのはウェンディたちにとって初めてのことだった。
「……お気をつけて、リュウさん」
「うん。ミラ嬢もね」
その複雑な感情を吞み込んで、ミラジェーンは彼女の無事を願って見送ることにした。
彼女はミラジェーンの真摯な目線を受けて、次の戦場に向かおうとした。
「あ、待って!」
そんな彼女を呼び止めようとしたのが、この事件を引き起こした原因の一人でもあるヒスイ姫だ。ヒスイ姫は自責と後悔に苛まれつつ、使命感からこの場を離れようとしなかったが、突如現れて絶望をひっくり返した彼女を目撃し、何を伝えたいか分からないまま衝動的に声をかけた。
だが、彼女は申し訳なさそうな表情を受かべて、ヒスイ姫の呼び止めに応じなかった。
「今は急いでいるからさ。また後でね」
彼女はそう言って、エクリプスのある広場を離れた。
「
全身が業火で燃え盛り、体躯の輪郭さえ不明瞭なドラゴンはあらゆる魔法を焼き尽くして消滅させる。マカロフの巨人化した拳も跳ね返し、ラクサスの滅竜の咆哮さえも無効化する。
小型ドラゴンの発生とともに
だが、ラクサスと雷神衆が抗うなか、アトラスフレイムに飛びついた男がいた。
炎の
ルーシィから出現した7頭のドラゴンの中に、アトラスフレイムがいたことを知らされたことで、その炎を食らってパワーアップしようと考えたのだ。そして、ラクサスたちが戦っているところに乱入し、アトラスフレイムの炎を食らい始めた。
これが思わぬ好機を生む。アトラスフレイムは、自分の背中に乗って自分の炎を食らう小さな
ナツはアトラスフレイムを連れて、再び竜の支配者へと挑みに行く。
ナツがアトラスフレイムを引き入れ、ラクサスたちがナツの頼みでウェンディの助太刀に向かいに行くその時、彼女によるジルコニスの完封が行われた。ラクサスの援軍は骨折りとなる訳だが、まあ喜ばしいことだろう。
そして同時刻、危機的状況に陥っていたのが、エルザだった。
「はぁ……はぁ……くそ…………ここまでか…………」
エルザは他の魔導士とともに小型ドラゴンの掃討に赴いていたが、夕方に大魔闘演武の最終戦を経た後の疲労が抜けきらないままだった。カグラとの正々堂々たる一騎打ちと、卑劣なミネルバとの決戦を終え、
その結果、集団となって迎撃していたのにも関わらず、他の者と逸れてしまい、小型ドラゴンの集団の中孤立してしまっていた。仲間からの忠告を無下にして、弱音も吐かずに虚勢を張った末の醜態だった。
このままではエルザの命運は尽きてしまうところだった。
小型ドラゴンがエルザへと飛び掛かったその時、辺り一帯を二重の闇が包み込む。
「
「闇刹那!」
そして闇が晴れ、視界が開けたエルザの目の前には二人の男が守るように立っていた。
「「エルザ! ……ん?」」
そして両者はエルザの方へ振り替えるが、別の男の存在に気づくとそれぞれ目を合わせる。そして、お互いの存在を認めると、驚愕に目を見開いた。
「シモンっ……」
「ジェラール」
楽園の塔から続く深い縁。かつては楽園の塔にて、支配者と被支配者だった関係の二人、ジェラールとシモンだ。
ゼレフに魅入られたジェラール。真相は
しかし、ジェラールはかつての仲間の自由と心と時間を奪い、魔法界を混乱に貶めたことに強い罪悪感を覚えており、独立ギルド
一方でシモンは平静だった。シモンにとっては既に過去の出来事で、自分の人生を始めたこの7年間は存分に自由を謳歌できた。更には最愛の妹との再会、そして守るべき宝物ができたことで、既にジェラールを恨むような気持ちは欠片もない。もちろん、何も思わない訳でもないが、ジェラールの苦しそうな表情をみて、仕方ないなと溜息を吐く程度には過去の痛みを乗り越え終えていた。
「…………ジェラール」
そしてそこに現れたのは、ジェラールが支配していた二人目。7年の間に
ミリアーナもジェラールを恨む心はあるが、それ以上に今の自由な生活を満喫することの方が重要だ。クロッカスの猫カフェやエクシードで猫吸いを堪能していたミリアーナは精神的にも充実しており、ジェラールと再会した今は、むしろ苦し気な表情で苦悩するジェラールの姿を案じる程の優しさを見せられている。
「お兄ちゃんっ! ……っ……貴殿は、ジェラールか」
更に
楽園の塔の出来事を知り、シモンをずっと拘束していたジェラールに思うものがないでもないが、所詮自分は無関係な立場であり、口を挟む権利もない。ジェラールと邂逅しても事の経緯を見守ろうと一歩引くことにした。
「ジェラール! 無事!?」
最期に飛び込んできたのが、ジェラールの仲間であるウルティアだ。楽園の塔の黒幕でもある。
エルザの人生に暗い影を落とした楽園の塔の事件。その関係者たちが一堂に会した。
それを見て、エルザは思った。勘弁してくれ、と。
「すまない。すまなかった、みんな。俺が悪かった。俺は……」
気まずい沈黙の中、ジェラールは口火を切って楽園の塔での横暴を謝罪する。ジェラールは今の今まで、かつての仲間たちに謝っていない。
楽園の塔後は記憶喪失となり、
しかし、そこに元
いまこの場で自害しろ、と言われてもジェラールは受け入れるつもりだった。
「違うわ! ……楽園の塔の出来事は私が元凶よ。私がジェラールを操り、あなたたちの人生を奪った。あなたたちが本当に恨むべきなのは私。この戦いが終わった後なら、煮るなり焼くなり好きにしてあげる」
「よせ、ウルティア!」
そのジェラールの謝罪に口を挟んだのがウルティアだった。確かにウルティアがジェラールを洗脳したことが楽園の塔の発端だった。とはいえ、シモンたちにとっては初対面の女でしかなく、今更自白してきても、誰、という感想しか抱けなかった。どこか覚悟を決めた表情で立ちはだかっても、あまり感情は揺さぶられなかった。
シモンたちはもう、過去を乗り越えているのだから。
「顔を上げろ、ジェラール」
シモンが平身低頭するジェラールに声をかける。語調は強いが、その裏にはシモンの不器用な慈悲深さが隠されている。
「ジェラール。俺はお前を赦すとは言えない。そう言ってやれるほど俺たちの人生は軽々しくない。お前を赦すことは、他の仲間たちの手前、そして何よりずっと俺を探し続けてくれたカグラの想いを無為にすることになるからだ」
「っ」
「お兄ちゃん…………」
「だが」
シモンはジェラールに近づいて力強い視線を送る。その視線を感じて、ジェラールは俯いていた顔を上げた。その視線には、ジェラールが恐れていた否定の色は見えなかった。
「お前まで自分のことを恨むのはよせ。
ジェラールは頭が真っ白になった。
「…………もとより私は部外者だ。貴殿らにどのような罪があろうとも、我が怨刀を抜くには値しない。お兄、兄上がそう定めたのなら、私からは何も言わん」
「……………………っち。シモンやカグラちゃんがそういう言うんなら、私も恨み言をぶつけられないじゃん……ジェラール! 私はまだ恨んでるんだからねっ!! そこんところ忘れないように!!」
カグラとミリアーナも、シモンの気高い言葉に影響され、ジェラールを糾弾することはしなかった。
「……ぐっ、ぅぅ、す、すまない…………っ、すまなかったみんなっ……ありがとう…………」
ジェラールはボロボロと涙を垂れ流しながら、手で顔を覆った。
罪深い自分には一生日陰で藻掻き続ける道しかなく、明るい光に照らされることはないと思っていた。記憶が戻ったその時から良心の呵責に苛まれ、自分自身を恨み続ける一生を歩むばかりだと思っていた。
齎された救済に、ジェラールの心に温かさが満ち溢れ、堪えきれずに噎び泣いた。
「ジェラール……」
エルザはジェラールの涙にもらい泣きしてしまった。
エルザは夏合宿の最後、星霊界から帰還した後に、ジェラールと再会している。記憶が回復したことと
「……良かったな……」
「そろそろ、いいかしら」
かつての因縁が一つ清算され、どこか弛緩した空気を引き締めるように固い口調で声をかけたのがウルティアだ。
ウルティアも自らの命を賭けて、名乗り出たのだが、自分抜きで解決したことにどこか釈然としない思いを抱いていた。空回りしてしまった事をなかったことにするかのように話を進めた。
「ここは依然、戦場よ。生き残ることを最優先にすべきはず。仲直りしてる暇なんてないからボケっとしないで頂戴」
「仲直りではないな。そこは履き違えてもらっちゃ困る」
「そーだそーだ! 誰がジェラールなんかと仲良くするもんか!」
「そもそも貴殿が蒔いた種であろう。それを棚に上げて責めるなど恥の上塗りも甚だしい」
「というかお前もわざわざ自白してきただろうに」
ウルティアは藪蛇をつついた。
「分かってるわよ!!! 私こそが諸悪の根源なのに蚊帳の外みたいになってることなんか気にしてないから!! 集中しなさいっていう至極真っ当な指摘をしただけよ!!」
気にしてたのか、と全員が思った。
ウルティアはぜえぜえと息を整えた後、冷静に状況を説明する。
「……エクリプスを通って現れたドラゴンは7頭。都が崩壊するのには十分な頭数よ。まずはそのドラゴンの対処に向かわないと」
「待て、ドラゴンはナツ達
「ええ。小型ドラゴンも脅威だわ。でも何故か動きを止めているし、一般的な魔導士でも対応可能よ。もちろん油断はできないけど」
「なに?」
エルザが首を傾げる。先程まで命が危険だったのは小型ドラゴンの群れのなか孤立してしまったからだ。満身創痍だったとはいえ、エルザを追い詰める程の危険性は実感している。
そんな小型ドラゴンに対応することが非
「動きを止めているとはどういうことだ?」
「私にも分からないわよ。さっきまで暴れ回っていたのに、私がここに来る直前にはピクリとも動かなくなったの。止めを刺そうとしても微動だにしないし」
ウルティアがジェラールの元に駆け付けたのも、この異常事態を伝えようと思ったからだ。
ウルティアはドラゴンを現代に呼び寄せた元凶、未来のローグの存在を知り、解決策を思いついた。それが、現代のローグを殺すことで、未来にローグがいるという事実を抹消しようとする禁断の手。未来にローグがいなければ、現代に訪れる未来のローグも存在せず、未来のローグが訪れないということは、エクリプスが開かれてドラゴンが流入してきたという事実もなかったことになる。そんなパラドックス的解決策だ。
だが、それは未来のルーシィの死に悲観していたナツに諭された外道の一手。未来のローグによって未来のルーシィは殺害されたが、ナツはその怒りの矛先を現代のローグに向けることを良しとしなかった。だから、ウルティアが提示したその方法を拒絶し、ウルティアも一度は取り下げた。
だが、崩壊する街と魔導士たちの劣勢を見て、ウルティアはその考えをどうしても捨てられなかった。そしてそんな自分を嫌悪した。極めて短絡的に罪のない現代のローグの命を奪おうと考え、それが正しい方法とさえも思ってしまった。
ナツに諭されてウルティアは自覚した。自分は昔と変わらず穢れたままであることを。自分は人を殺すことを何とも思わない魔女であることを。自分には生きる資格なんてないことを。
自分自身に絶望した末に、最後の手段が頭を過ぎる。それが、ウルティアが使う時のアークの極致、自身の時を代償に世界の時を巻き戻す、時間逆行魔法ラストエイジス。ウルティアはみんなを守るために自分の命を犠牲にしようと思っていた。
その考えが覆されたのが、先刻。クロッカス中に響いていた戦闘音が静かになっていたことに気づいたからだ。7、いや5頭のドラゴンは依然、
ウルティアがその原因を探ったところ、小型ドラゴンたちが静止し、暴れなくなったからだと分かった。何故かは分からないが、街中の戦闘が収まったことでウルティアはラストエイジスの使用を思いとどまり、ジェラールとの合流を優先させた。
ウルティアからの説明で混乱した面々だったが、このままこの場に居続ける必要もないので移動することにした。ジェラールとウルティアは本来、表に出るような立場ではないため、ここで別れることになった。
不気味に沈黙する小型ドラゴンを横目に、エルザたちは他の仲間たちとの合流を目指す。
「あんなにも華やかだった都が見る影もないな」
花咲く都と謳われたクロッカスの象徴である華やかな花壇は、崩壊した建物の瓦礫に潰されている。散乱した花弁が土に汚れ、小型ドラゴンによって踏み荒らされていた。
いまは沈静化しているとはいえ、街全体が戦場となっていることが分かる。ミリアーナがその惨状から心配になったことをシモンに問いかけた。
「ねーねーシモン。家族は大丈夫なの?」
「……心配じゃないと言ったら嘘になるが、あいつもやわじゃないさ。王国の避難誘導もあるし、無事だと信じているよ」
「そうか……それなら良かった。我儘を言って兄上を呼んだから不安に思ってた。こんなことになると分かっていれば呼ばなかったものを」
「いいさ、カグラ。妹の晴れ舞台を楽しみにしない兄がどこにいる。成長した姿が見れて嬉しかった」
「……お兄ちゃん……」
「…………? 家族とは何だ? カグラ以外に身内がいるのか?」
エルザが疑問を口にする。シモンの家族は妹のカグラしか知らない。ローズマリー村が襲撃を受けた時は子供たちが誘拐のターゲットにされ、大人たちは皆殺しにされた。みなしごだったエルザとは違い、シモンとカグラには両親がいたけれども襲撃の際に命を落としたと思っていたのだが、まさか生きていたのか、とエルザは予想した。
だが、シモンの口から飛び出たのは驚愕の事実だった。
「妻と一人娘がいる。一緒に大魔闘演武の観戦に来ていたんだ」
エルザは幻聴だと思った。
「な、はあ?」
呆けた声を出してシモンの横顔をまじまじと見つめてしまった。この感覚には覚えがある。天狼島から帰還した時に、アルザックとビスカが結婚して一人娘アスカをもうけたことを知らされた時と同じだ。7年という月日を感じた瞬間だったが、まさかシモンが所帯を持つとは欠片も想像していなかった。シモンはもうエルザより年を重ねているが、エルザの中のシモンは奴隷時代の子供の印象がまだ強かったからだ。
「そ、それはめでたいことだ。不束者だがよろしく幸せになっ」
「混ざってる混ざってる」
「自分を当てはめてでもいるのか?」
「ふっ。こんな俺を支えてくれる強い女性だ。落ち着いた後にでも、エルザに合わせてやりたいな」
穏やかに微笑むシモンの顔には、エルザが見たことのない父性が感じられた。
楽園の塔の後に宣言していたようにシモンは自分の人生を歩んでいた。将来を誓い合った伴侶も得て、子宝にも恵まれている。それはエルザの心配など到底及ばない、確固たる人生の軌跡だった。
エルザは一抹の寂しさを覚えた。
「ねーねーエルちゃん聞いて聞いて。シモンの奥さん、緋色の長髪で、気の強い人なんだよ」
「おいっ」
「そ、それは」
「俺は引きずってない! なんて澄まし顔しときながらシモンったら未練たらたらなんだから」
「ミリアーナの戯言だと思っていたが、現にエルザを見てしまったからには、な……」
「カグラ! ミリアーナ! 何度も言ってるだろ。俺はあいつにエルザを投影なんてしてない!」
「は、ははは」
仲間たちと合流するまでの道中、ミリアーナやカグラがシモンの家族について色々語り、シモンが過剰に反応している中、エルザは気まずい思いをしていた。
「ウルティア……?」
「…………何よ?」
「いや……………………俺は俺を赦したい。ウルティアはどうだ?」
「そんなこと…………」
「……赦すといっても贖罪をやめることじゃない。
「!」
「一人じゃ抱えきれない罪をお互い背負い合い、一緒に罰を受け続けること。それこそが俺たちの掟だろ。だから勝手に消えてくれるなよ?」
「ふっ。くっさいセリフね。まったく……」
「マザーグレア! どうなっている!? 小型竜たちの動きが止まったぞ!?」
未来のローグが地上の事態に怒声を上げる。マザーグレアが生み出した小型ドラゴンたちが魔導士たちを蹂躙していたことに仄暗い喜びに恍惚としていた筈が、いつの間にか小型ドラゴンたちの活動が停止し、心地よい魔導士たちの悲鳴が困惑、そして歓声に変わっていたことに怒りを抱いた。
アトラスフレイムとともに再び乗り込んできたナツとの戦闘の合間、マザーグレアを叱責するものの、マザーグレアもまた困惑していた。
「私にも分からぬ…………私の子らは一度下した命令を最期まで遂行する殺戮兵。あのような状態に陥ったことなど……一度しかないはず……」
マザーグレアの脳裏にかつての記憶が蘇る。竜王祭にて、竜王の玉座を手にするために下剋上を仕掛けた時のことだ。幾万の子を嗾け、一瞬で制御を奪われた屈辱の記憶。
確かに相手はドラゴンの頂点だった。しかし、人類の御世となった現代においてそれは存在しないはずだ。だからといって、矮小な人間ごときが小型ドラゴンたちを支配することなどできない筈だ。未来のローグの操竜魔法があれば可能かもしれないが、そのような者が現代の魔導士にいる訳がない。
マザーグレアは一瞬、有り得ない仮定を思い浮かべるがすぐ切り捨てた。
「そんなはずがない……あやつが仮にも人間どもの味方をするなど…………」
「? あやつとは誰だ!? マザーグレア、なにを知っている!?」
未来のローグが思い当たる節があるならば、とその予測を引き出そうとしたが、ナツが飛び込んできて中断せざるを得なかった。
「何を余所見してやがる!!!」
アトラスフレイムの獄炎を取り込んだナツの攻撃は、7年の研鑽を重ねてきたとしても油断できるものではなかった。迎撃に気を取られ、疑問も吹き飛ぶ。
上空にて現在と未来が交差した決戦が加速するなか、地上の情勢は既に決定づけられていた。
「お疲れ様、ガジル坊、レヴィ嬢。獲物を横取りしてごめんねぇ」
「リュウさん!!」
「てっめぇっ!?」
黒翼膜の竜ダースネグロと争っていた
素直に安堵するレヴィと対照的に、勝つビジョンが思い浮かばないまでも負けん気の強いガジルは横入りされたことに不満げだった。
「ぐぬぅ、動けん……」
ダースネグロは突如現れた彼女を忌々しく睨みつけることしかできなかった。
「ちょっとは反省しなさいな、ダースネグロ」
「初めましてかな、コブラ坊。私のことはリュウさんって呼んでねぇ」
「……っち。気に入らねぇな」
岩窟の竜ストーンヘッジと死闘していた元
かつては闇ギルドの一角を担い、毒の
「ありえん。儂の身体が崩されるなど……人間の力では不可能なはず……」
ストーンヘッジはどんな矛でも貫けない筈の鉄壁の肉体を穿たれ拘束されたことに現実を疑った。
「頑強な身体を誇りに思うこそすれど、驕ってはいけないと教えた筈だよ、ストーンヘッジ」
「噂には聞いてるよ、スティング坊にローグ坊。新進気鋭の若き
「あんたは…………」
「……話には聞いている。妖精の守り人。だが遠征中だった筈だが……!?」
海陸の竜リヴァイアと鋭鋏の竜シザーランナーの二頭にタッグで対抗していた
そこに登場した彼女の姿に目を丸くする。かつて見下していた
「ばかな……この力は…………!」
「有り得ぬ……なぜ、あなた様がここに……っ!?」
リヴァイアとシザーランナーは身に受けた権能に覚えがあり、見知らぬ少女の姿にかつての幻影を見た。
「私に何を見出してるか分からないけどさ、私はもうただのリュウさんだよ。リヴァイア、シザーランナー」
再演された竜王祭も、終演を迎える。
現在を手に入れようとした未来の竜の支配者は、未来を掴もうとした現在の
ナツの一撃は太母の竜マザーグレアごと未来のローグを墜落させ、ちょうど地上のエクリプスへと激突した。マザーグレアの金剛の巨体が墜落する質量は、頑強なマギナニウム合金でできたエクリプスを破壊するに足る威力となる。開かれた時間の扉は粉々になって、歪まされた時間の流れが正常なものへと戻された。
現在のエクリプスが破壊されたということは、未来でエクリプスは存在しないことになる。未来でエクリプスが存在しないとなると、未来のローグは現在へと回帰する手段を失う。未来のローグが現在にタイムリープしたという事実がなくなり、合わせてドラゴンが現在に流入したという事実も消える。
つまり、本来の歴史に戻るということだ。
7頭のドラゴンを始めとして、街中の小型ドラゴンも光とともに存在が消えていく。元いた時代へと帰っていったのだ。獄炎の竜アトラスフレイムもまた、意識が薄れていくなか、盟友の子を記憶に焼き付けて現在から消失した。
それは未来のローグもだ。
アクノロギアという絶望に支配された未来に戻ることになるのか、それは分からない。だが、絶望に屈し、狂気に駆り立てられた執念も折られた。脱け殻のようになった未来のローグが帰る先がどんな未来だろうと、どうでも良くなっていた。ただ、相棒のエクシード、フロッシュのことを想いながらこの世界から退場していった。
そして、未来のルーシィも。
崩壊した未来から希望を探しに来た時の迷い子は、現在にて命を落とした。落としたはずが、目を覚ましたそこは黄金の草原だった。そしてそこに待っていたナツと