妖精の尻尾のリュウさん   作:ただの馬鹿

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竜王

神話に曰く。

 

初めに無ありき。

 

無より始まりの神出づる。

 

神は己が肉体より天と地を造り給うた。

 

神は天に光を与ふ。昼と夜に分かつ。

 

神は地に水を与ふ。陸と海に分かつ。

 

神は終に意思を宿らせ果つ。

 

意思は生命なりき。

 

其は子たる神々なり。其は竜なり。其は人なり。其は獣なり。其は鳥なり。其は魚なり。

 

生命に貴賤なしと謂えども争いありき。

 

其の末に子たる神々の御世来たる。

 

神代の始まりなり。

 

子たる神々の世界に繁栄あり。

 

然れど永劫の安寧はなし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

竜族には伝承があった。

 

遥か昔、終わりなき戦乱があった。

 

専横を極めし神々と平和を貴ぶ竜族との訣別の境目。

 

やがてとある神ととある竜の間に生まれし、祖神龍の偉大なる御力により、調停が結ばれた。

 

その調停の名を大憲章(マグナ・カルタ)という。

 

それは世界の舵取りを担う霊長としての座を継承する儀。

 

竜族は神々より禅譲を受け、神代より竜代へと世界は移り変わった。

 

役目を終えた祖神龍は姿を消した。言い伝えでは太極と呼ばれし極点にて世界を見守っているという。

 

祖神龍に代わり、竜族を束ね、竜代の盟主となるものを選ぶこととなった。

 

それこそが竜王。竜と竜が争う祭儀、竜王祭の果てに最も強い竜が君臨することができる玉座。

 

竜王の名の下に、竜族は時代を謳歌し、世界の覇者として君臨していた。

 

その御世は八千年に及ぶ。

 

竜王は約千年周期で代替わりし、歴代で八人の竜王が名を連ねる。

 

《破壊》の竜王。

 

《復元》の竜王。

 

《消滅》の竜王。

 

《封印》の竜王。

 

《浄化》の竜王。

 

《創造》の竜王。

 

《契約》の竜王。

 

《与奪》の竜王。

 

そして、八大竜王と称されし先代たちの権能()を引き継いだ白龍がいた。

 

白龍は九代目竜王となり、竜族の御世を継承した。

 

誇り高き竜族の繁栄は、これからも脈々と受け継がれていくことだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

竜代は長きに亘って平和を謳歌した。

 

平和とは外敵がいないことだ。

 

外敵がいない種族はやがて互いに相争うことになる。

 

それは賢い竜族だとしても辿る運命は同じである。

 

永遠の平和など幻想にすぎない。

 

九代目竜王の御世で竜代は途絶した。

 

 

 

全ての始まりは人間との関わりを結ぶようになったからだ。

 

竜代において、人間とは脆弱な生き物に過ぎず、生態系の頂点に君臨する竜族にとっては所詮は数ある食料の内の一つという認識でしかなかった。

 

だが、時代を下るにつれ、神々との戦乱で発揮された凶暴性は鳴りを潜め、世界と生命に対する博愛に目覚めるドラゴンが現れてくる。

 

それはドラゴンの次に知能を持つ人間に向けられることとなった。

 

それまでドラゴンの支配下で、独自の文明を築き上げていた人間に接近し、手を取り合うドラゴンたちのことを共存派と呼ぶことになる。

 

人間に価値を見出し、共に繁栄を分かち合おうとした共存派に対し、あくまで人間は餌であるという立場を強硬に堅持し、その共栄を破壊しようとした反対派も多数存在していた。

 

共存派と反対派。竜族の見解は二分され、対立の溝は深まっていく。

 

竜族の頂点、九代目竜王は幾度と調停を執り成そうとしたが失敗し、やがて地獄の釜の蓋が開く。

 

平和は終わり、戦争が始まった。

 

ドラゴンとドラゴンの戦争。惨憺たる争いは人間を慈しむ優しさから始まった。

 

物量をもって圧倒していく反対派に、人間の協力を得て抗う共存派。そして共存派が戦線に投入した滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)

 

自然を破壊し、生命を蹂躙し、数多のドラゴンが命を落としていった。

 

 

 

九代目竜王は傍観した。

 

 

 

竜王とは竜族の頂点だ。

 

竜王の立場は、竜族の総意と捉えられる。先代の竜王たちのように外敵に対する御旗となって竜族を纏め上げることとは異なり、竜族の内紛において片一方に同調し旗幟を鮮明にすることは出来なかった。

 

やがて訪れる終戦を只管に待ち望んだ。その暁には竜王の座を辞し、復興に努め、この大戦を止められなかったことの責任を果たそうと考えていた。

 

甘くて、浅はかで、罪深い考えであった。そのことを思い知った時には何もかもが遅すぎた。

 

戦争が生み出してしまった宿痾。傍観により招いてしまった宿業。

 

アクノロギア。

 

ドラゴンが齎した数多の災害の中から誕生した復讐者が、ドラゴンに関わる全てを滅尽し、殺戮の限りを尽くした。ドラゴンが創り出した憎悪が、竜族という種と歴史と未来を黒く塗り潰した。

 

当時の九代目竜王は各地を渡って戦争による被害を食い止めようとしていた。人間が生み出した魔導兵器を《封印》したり、変わってしまった地形を《復元》したり、パワーバランスを《与奪》で調整したり、世界中を奔走していた。

 

そして、気付いた時には、既に大戦は末期となっており、共存派反対派関係なく、ほぼ全てのドラゴンが躯となって果てていた。

 

同胞の屍山血河の上で、ようやく自分の愚かさを悟った。

 

自分の過ちが、竜族を終わらせてしまったということを。

 

 

 

 

 

 

僅かな生き残りを別の大陸に逃し、アクノロギアの魔の手から遠ざけた後、既にアクノロギアによって魂を抜き取られた同志とともに計画を練った。

 

それこそが、滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)の時渡りの計画である。

 

戦災により身寄りのない孤児をドラゴンの下で滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)として育て上げる。その子供たちを器として、余命幾ばくも無い自分たちを魂竜の術にて宿し、子供たちが待ち受ける竜化という末路を防ぎながら、エクリプスを通して未来に渡る。最も魔力の満ちた時代であれば、アクノロギアに対抗する術を見つけられるかもしれないという希望で進められた計画だった。

 

イグニール、グランディーネ、メタリカ―ナ、バイスロギア、スキアドラムがそれぞれの滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)の体内で眠っていたのは、自らの延命のため、アクノロギアを倒すため、そして滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)が待ち受ける竜化を防ぐためだった。

 

計画には協力者がいた。

 

一人は黒魔導士ゼレフ。エクリプスを造り上げた張本人。

 

そしてハートフィリア家。代々星霊魔導士を輩出してきた大家であり、エクリプスを開閉する資格を持った一族によって、時渡りは実現した。

 

 

 

九代目竜王も、ケジメを付けるために計画に関わった。

 

ゼレフに渡りを付け、ハートフィリアの祖先、アンナに頭を下げて協力を願った。

 

そして、竜代の幕を閉じる大憲章(マグナ・カルタ)を結び、時代は人の世へと遷った。

 

最後に竜王を僭称するアクノロギアの下へと向かった。

 

勝てれば御の字だったが、死闘の末に敗北を悟ったため、異空間を《創造》してそこに《封印》することとなった。

 

未来永劫、《封印》し続けることなどできない。自らに課した《契約》によって権能の弱体化と引き換えに、アクノロギアの《封印》のみを極限にまで強化したとしても、いつかは破られる。それでも、イグニールたちがやってくる未来まで《封印》できれば良かった。イグニールたちとともに、《封印》から抜け出たばかりのアクノロギアを即座に叩く。その未来が来るまで、《封印》をただ一人見守り続けた。

 

その勝ち筋は、約100年前に潰えた。

 

予想よりも遥かに上回る早さで、アクノロギアの《封印》は崩壊した。

 

再びアクノロギアと対決した。だが弱体化した状態で抗えるような相手ではなかった。

 

アクノロギアは歯牙にもかけずに一蹴すると何処かへと飛び去ってしまった。

 

約束の時を守れなかった敗残者はただ慟哭した。

 

 

 

 

 

 

竜王祭とは、ドラゴンたちの頂点を決める正々堂々とした祭儀だった。

 

だが、竜代最後の竜王祭は、竜族が滅亡し、竜あらざる竜王が君臨した黙示録となった。

 

誇り高き八大竜王から引き継いだ竜族の歴史を汚し、竜代を途絶させた九代目竜王は正しく汚点だと言える。

 

 

 

彼女にはただ一つ嫌いなものがある。

 

それは自分自身である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誰も言葉を発せなかった。

 

懺悔めいた告白に誰しもが胸を痛めていた。

 

その悲痛な微笑みをさせたくないと思っても、なんと声をかけたら良いのだろうか。

 

仲間(家族)を見守り続けていた裏でずっと抱え続けていた400年間の罪。

 

人間である以上、リュウの苦しみを真に理解することなどできやしない。

 

文字通り、生も時間も歴史も時代も世界も、何もかもが違いすぎたのだ。

 

 

 

 

 

リュウがドラゴンたちに向き直り、頭を下げた。

 

「…………汝等も済まなかった。約束も果たせなかった愚王のせいで、アクノロギアを打倒するという悲願を奪ってしまった…………」

 

「謝らないでください! ずっと戦い続けてきた貴方様を責める者などおりません!」

 

「左様! そのような奴がいれば我が真っ先に叩き潰してくれよう!」

 

「むしろ我々こそ、貴殿に全ての責任を押し付けてしまったのです!」

 

「竜王様が罪だと仰せならば、それこそが我々の罪でございましょうぞ」

 

ドラゴンたちは口々にリュウの罪を否定した。

 

アクノロギアを生み出してしまった罪。

 

それは竜族全体が背負うべきものであり、リュウだけに帰結するものではないと訴えた。

 

8000年間の増長が生み出した傲慢と怠慢、支配者としての不遜極まりない視座。

 

竜族の負の遺産は竜族の身から出た錆だ。ここにいるドラゴンたちは人間を慈しみ、平和を貴ぶ者たちであり、戦災を引き起こすような輩ではなかったが、アクノロギアを生み出したことへの負い目を持っていた。

 

その責任感の強さが、たった一人に罪を押し付けることを是としない。

 

それでも、リュウの表情は変わらない。

 

「…………イグニールにも悪いことをしてしまった。後一年程あれば加勢できていたのに、単独でアクノロギアの相手をさせてしまった」

 

「あれはイグニールが一対一(サシ)で戦うと言ったからです。気に病むことはありません」

 

「……………………」

 

遠目に見えるイグニールと、ナツの姿を眺めて、リュウは胸を強く握りしめた。

 

ようやく再会した親子が死別してしまう。

 

二人とも良く知った仲だ。

 

400年前、ナツとイグニールが一緒に生活している時、リュウはよく二人の下を訪れていた。人間とドラゴンという種族の違いも関係なく、実の親子以上の絆の強さを感じる姿をずっと見続けていた。

 

時渡り後の突然の別離の後は、イグニールをずっと探し続けていたナツの姿を知っている。ナツの体内で眠りながらも、リュウが意識に干渉した時には、いつもナツの成長を我が事のように喜んでいたイグニールの姿を知っている。

 

ナツもイグニールも、共に再会を願っていた。なのに、もう永遠に会えなくなる。竜王である自分に先んじて、アクノロギアに挑み、その命を散らしてしまった。

 

なんと不甲斐ない事であろうか。

 

「…………竜王様。諫言をお許し頂けませんか」

 

「……よかろう」

 

「はっ……僭越ながら、貴方様がイグニールに負い目を感じていらっしゃるのは筋違いというものです。この計画は我々全員で進めたものではありますが、それぞれが自らの誇りをかけているものでもあります。単独で立ち向かったのもイグニールの判断です。力及ばずといえども、助力があれば、なんて思うのはその誇りに水を差すようなものです」

 

「……………………」

 

「竜王様……どうか、炎竜王の尊厳にキズをつけるようなことをなさらないでください」

 

リュウは沈黙し、ナツの体内に眠っていたイグニールとの念話を思い出した。

 

アクノロギアの接近を察知し、ENDの書の所在を把握したイグニールは、リュウの制止も振り切って、姿を現すことを決断した。勝ち目の薄い戦いに単独で身を投じた。

 

また、魂竜の術で延命したドラゴンは、一度滅竜魔導士ドラゴンスレイヤーの体外に出てしまうと二度と体内に戻ることはできない。それはつまり、確実な死を意味する。

 

それでもイグニールは決死の覚悟で舞台に上がった。それは、どこまでも息子に対する愛情の発露だった。

 

「…………そうだねぇ…………イグニールほど勇敢で、そして人間を愛したドラゴンはいなかったからねぇ…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リュウがふっと表情を綻ばせると同時に、ドラゴンたちの身体が輝き始めた。

 

「…………時間が来たみたいね。お別れの時よ」

 

「そんなっ!」

 

ようやく再会できた親がいなくなってしまうことに、衝撃の事実から立ち直ったウェンディが声を上げる。

 

伝えたい想いがあった。教えたい経験があった。叶えたい願いがあった。

 

それでも、ドラゴンたちの最期は変えることはできない。

 

400年前、竜代は途絶えたのだから。

 

「この先に数々の困難があるだろうけど、あなたたちならきっと大丈夫」

 

「やだ、やだよグランディーネ。行かないで」

 

ウェンディが涙ぐみながら駄々をこねる。年相応の子供らしい駄々にグランディーネが仕方がないように苦笑したが、消えゆく身ではその頭を撫でて慰めることはできない。

 

代わりにウェンディの頭にポンッと手を置いたのは同じ滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)のガジルだった。

 

「見送ってやろうぜ。胸をはってな」

 

ガジルもまた、自らの親を見送る立場だ。だが、その表情はむしろ堂々としていた。その胸中に占める想いはウェンディのものとも変わらないものだが、未来を託されたという事を強く受け止め、安心させるために晴れやかな表情を浮かべていた。

 

同じく、スティングとローグもそれぞれの親に凛々しい笑顔を向けた。

 

ドラゴンたちは自らの子の立派な姿を目に焼き付けてから、両翼を広げて、空へと旅立っていく。

 

 

 

 

 

「竜王様。我々は先に逝きます」

 

「…………うむ。後の事は任せよ。我もいずれ後を追う」

 

「はっ」

 

 

 

 

 

 

リュウをただ一人地上に残したまま、同胞たちは全員、光の中へと昇天していく。

 

現代まで残っていた竜の命脈は白と黒の一対を残すのみ。

 

しかし、その想いは人間たちへと宿された。

 

「争い、憎しみ合っていた記憶は遠い過去のもの。今、我々はこうして手を取り合う事ができた」

 

「我々ドラゴンの時代は一つの終焉を迎えた」

 

「これからの未来をつくるのは人間の力」

 

「400年前、人間と竜との間で交わされた盟約、大憲章(マグナ・カルタ)にのっとり」

 

最後の言葉(祝福)が響き渡った。

 

「我々ドラゴンは人間を見守り続けよう。永遠に」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………お疲れ様。グランディーネ。メタリカ―ナ。バイスロギア。スキアドラム…………イグニール」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

沈黙。

 

葬送の刻を経て、改めて注目はリュウに戻る。

 

リュウの正体を知った一同は声をかけることを躊躇っていた。

 

その静寂を破ったのは他でもないリュウだった。

 

口火を切った訳ではない。リュウが起こした行動がみんなをざわつかせた。

 

「リュウさんっ!? 何をっ!?」

 

リュウは両膝を屈して地面に跪くと、両の掌を地に置き、額を大地に付かせた。

 

土で汚れることも厭わずに小さく平伏する姿に、誰しもが絶句した。

 

「…………ずっと隠してきた、ううん、私はずっと騙してきたんだよ。みんなと一緒にいる資格なんてないのに、メイビスの言葉にずっと甘えてきた。そのツケがみんなを脅かしてしまった。本当なら私が残してしまった禍根とは無縁でいられたはずだったのに、私が無能だったせいで7年前も、そして今も迷惑をかけてしまった」

 

顔を上げることもなく、振り絞るように震え声を漏らすリュウ。

 

「私を恨んでほしい。私を憎んでほしい。私を軽蔑してほしい。私はもう、このギルドからいなくなっても構わない。だから、これだけは言わせてほしい」

 

自己嫌悪に満ちた自罰的な吐露に、目を背けたくなるような痛々しさが宿っていた。

 

「本当に…………本当に、ごめんなさい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「赦そう」

 

リュウの懺悔を聞き届け、そして声をかけることができたのは、この中で最も付き合いの長かった老爺だった。

 

幼き頃に出会い、人生を大半を共に過ごしてきた大切な仲間(家族)だ。

 

今更、同じ人間ではなく、どんなに重い罪過を抱えていようとも、その一点だけは揺るがない。

 

最後に合流したマカロフが歩み寄り、リュウの前で手を差し伸べた。

 

「顔をあげてくれんか、リュウさん。リュウさんは儂らにとって、ずっと見守り続けてくれた大切な仲間(家族)じゃ。そんなお主をどうして見放すことができようか」

 

「……………………」

 

「……ずっと苦しんでおったのじゃな、ずっと絶望しておったのじゃな…………仲間(家族)の苦悩を見過ごしてきたなぞ…………儂はギルドマスター失格じゃ…………」

 

「…………それは、私が黙っていたからで」

 

「違う。儂等がリュウさんに甘えてきたからじゃ」

 

マカロフは自責する。

 

リュウの方から打ち明けてくれることを待つばかりで、ずっとその絶望を抱え続けさせてしまったことに自らの不明を恥じた。隠し事を暴くという行為が図々しいものであると思っていたのは確かだが、そこに今までの関係性が壊れてしまうという臆病さがなかったとは否定できないと、今になって自覚した。

 

不老という特異性。それはドラゴンという長命な種族故のものだったが、人間にとっては本来劇物にも等しい存在だ。人間の生活に溶け込み、日常の風景と化したことで、妖精の尻尾(フェアリーテイル)にとっては取り沙汰にされるものではなくなっていたが、その異常性を見て見ぬふりをしていたと指摘されても反論できないだろう。

 

それは、定命の身であることを強く実感しているマカロフだからこそ一層理解していた。

 

「儂の方こそ謝らねばならん。仲間(家族)と偉そうに語っておきながら、最も一緒にいたのに孤独を強いてしまった儂を、どうか赦しはくれんか?」

 

「……そんな、私は、仲間(家族)を傷つけた」

 

「それを言ったら、俺の方が罪深いだろうよ」

 

マカロフに次いで、声をかけたのはラクサスだった。

 

《浄化》により戦線復帰ができたラクサスは、他のメンバーと同様に、仲間(家族)を守るために命を賭けて戦っていた。だが、かつてはむしろ増長し、仲間(家族)を傷つけ、その命を脅かそうとした過去を抱えている。

 

破門後の一人旅の最中、仲間(家族)というものを改めて考え直すことができたラクサスだからこそ、リュウの悔恨に手を差し伸べることができた。

 

「かつての俺は屑だった。仲間(家族)たちに支えられてきた恩に対し、独りよがりで疎ましく思っていた俺は仇で返した。仲間(家族)を人質にし、ギルドの結束を滅茶苦茶にして…………アンタを傷つけた」

 

「……ラクサス坊」

 

「リュウ姉…………それでもアンタは、俺の事を仲間(家族)を呼んでくれた」

 

ラクサスは覚えている。孤独に自らを見つめ直す旅路の中、その言葉がどれほど支えになってくれたのかという事を。

 

「話を聞く限りアンタに罪なんてねぇ、とは思ったが、納得はしないんだろうな。だが、一緒にいる資格がないなんて戯言は否定させてもらう。それはかつてアンタが言って、そして証明し続けてきたもの……妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魂を否定することになるからだ」

 

「……………………」

 

「それとも、俺の事を仲間(家族)と呼んでくれたのも嘘だったのか?」

 

「そんなことっ」

 

ラクサスの言葉をリュウは否定しようとした。

 

そうしなければ、今もリュウが持つ、仲間(家族)を大切に想う心に嘘をつくことになるからだ。

 

そんな事は、リュウにはできなかった。

 

「なら、かつて俺を赦してくれたように、俺はアンタを赦す。だから顔を上げてくれ」

 

「わ、私も! リュウさんを赦します!」

 

ウェンディが叫んだ。

 

「リュウさんは私を助けてくれました! 私を鍛えてくれました! 色んなことを教えてくれました! 夜眠れないときに子守唄を歌ってくれました! 手を握ってくれました! 私はリュウさんに感謝しています! 罪とか資格とか知りません! リュウさんは私たちの仲間(家族)なんです!」

 

ウェンディが感情のまま叫んだことで、他の仲間(家族)たちも口々に声を出し始める。

 

「私はリュウさんに救われたわ。エルフマンとリサーナと一緒に、家族まとめて救い上げてくれた。その恩返しがまだできていないの。だから、これからも一緒にいてください、リュウさん」

 

ミラジェーン。

 

「私もだ。私は、仲間(家族)が欠けた未来なぞいらない。そんな未来に価値なんてないんだ。だから、いなくなるなんて言わないでください」

 

エルザ。

 

「俺は、リュウのおかげで強くなれた。過去の因縁にケリつけられたのも、リュウのおかげだ。だから、次は俺の、俺たちの番だ。リュウの罪だと言うんなら、それを俺たちにも支えさせてくれ」

 

グレイ。

 

「ずっと悩んでいた私に寄り添ってくれていたのを覚えてるのに、そんなリュウさんの苦しみに寄り添えないなんてありえないって。それに、まだ約束のお酒、もらってないし。まさか忘れてなんかないでしょ? ずっと待ってたんだから」

 

カナ。

 

「マスターやって、ギルドを支えるってのがどういうことが分かったんだ。リュウさんがずっと、ギルドを大切に想ってきたのかなんて、この年になってようやく心に沁みたからな…………リュウさんを責めるような奴がいたら、マスター権限で焼き入れてやる、ってもうマスターじゃねぇけどな」

 

マカオ。

 

「……俺は付き合いが長い訳じゃねぇが、あんたがギルドのために生きていたことなんて、外様だった俺でも分かるぐらい明らかだ。それに鉄屑だった俺を始めに認めてくれたのも、マスターと、あんただった。あんたのおかげで俺は…………あんたを仲間(家族)だと認めねぇ奴なんていねぇよ」

 

ガジル。

 

「あたしも、一番最初に歓迎してくれたのはリュウさんですし、それからもずっと支えてくれました。それに、お父さんのことも……………………だから、これからもずっと、一緒にいてください、リュウさん」

 

ルーシィ。

 

 

 

他のみんなも、リュウにそれぞれ感謝を伝えて、その手を差し伸べた。

 

それはリュウがずっとギルドを想い続けてきたことの証左だった。

 

その手を振り払うことなぞ、リュウには到底できなかった。

 

ゆっくりと顔を上げて、地面から身を起こしたリュウは、その差し伸べられた手を掴んだ。

 

透明な一筋の雫を零しながら。

 

「…………私は、なんて果報者なことか…………ありがとう、みんな…………大好きだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一頭のリュウは贖罪のためだけに生きてきた。

 

だが、違った。

 

その歩みは仲間(家族)とともにあり、その輪に自らも含まれていたということを心の底から感じることができた。

 

これからの旅路は、罪ではなく、絆のために歩むことになるだろう。

 

見据えるのは、二つの黒。

 

黒魔導士と黒竜。

 

世界を蝕む漆黒の闇に抗うのは、純白の光を願うリュウと、その仲間(家族)だ。

 

 

 

決戦の刻は近い。




連投は以上です。
申し訳ありませんが、次回は未定です。
拙作を一読いただき、ありがとうございます。
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