妖精の尻尾のリュウさん   作:ただの馬鹿

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再会を求めて

イグニールは俺の父ちゃんだ。

 

父ちゃんっつっても、育ての親だけどな。

 

実の両親は知らねぇ。イグニールに拾われる前の記憶なんてねぇ。聞いたこともあるけど、イグニールも知らねぇみたいだった。ある時、イグニールが住んでいた森に捨てられていた俺を拾っただけで、誰かに託されたという訳でもねぇらしい。

 

ま、どうでもいいことだ。大切なのは俺の家族はイグニールだけだということだ。

 

そして、イグニールはドラゴンだ。

 

ドラゴンっつーのは、あー、蜥蜴に翼のくっつけてでっかくしたやつだ。これ言ったときは父ちゃんにめちゃくちゃ怒られたけどな。

 

ドラゴンにはいろんな奴がいるらしい。鉄の体をしたやつ。天空を自由自在に舞うやつ。白くて光を出すやつ。影を纏うやつ。

 

ドラゴンは人間よりも圧倒的に賢くて強い。人間の俺よりもドラゴンのイグニールの方がでかいから、そうなんだろうな、と納得した思い出がある。

 

ただ、そういう強さを比べるような質問はイグニールとの生活の中でタブーだった。一度、最も強いドラゴンは誰か、と聞いたときだ。

 

「……最も強いドラゴンは竜王と呼ばれる」

 

それだけ言って父ちゃんは一度唸った後、黙っちまった。

 

そん時の事はよく覚えている。唸り声には怨みと怒りが煮詰まっていて、纏う雰囲気は全てを焼き尽くすような火焔を錯覚した。

 

父ちゃんは人間である俺を育ててくれた。言葉や文化を教えてくれたのも父ちゃんで、俺の使う魔法も父ちゃんから教わったものだ。もちろん怒られたこともたくさんあったし、拳骨をくらったこともあっけど、そこには確かな愛情があって、だからこそ父ちゃんのことを慕ってた。

 

けど、そん時のイグニールは殺意すら感じられて、俺は恐怖からその日は一日黙っちまった。

 

すぐにお互い謝って、仲直りできたけどな。

 

ただ、絶対に言ってはいけないようなことがあるんだってことはガキだった俺でも分かったし、その日以降そういう話をすることはなかった。

 

父ちゃんもそういう態度をとったのはそん時だけで、俺と父ちゃんの仲はずっと良かったし、こういう風に父ちゃんとずっと一緒にいられるんだと思っていた。

 

ある日突然、父ちゃんは俺を置いていなくなった。

 

それからずっと、俺は父ちゃんを探し続けている。

 

 

 

 

 

鉄の森(アイゼンヴアルト)のやつらの一件が片付き、約束していたエルザとの決闘。

 

エルザはめちゃくちゃ強えぇ。

 

今まで何回か勝負してきたが、全戦全敗中だ。だが俺も修行を重ねてきて強くなっている。今度こそエルザに勝つつもりで満を持して挑むところだった。

 

そんなときに評議院の連中が水を差してきやがった。

 

鉄の森(アイゼンヴアルト)との闘いの中で駅や橋、ギルドマスター定例会の会場を壊しちまったことでエルザが逮捕されて、評議院へと連行された。

 

俺とエルザとの決闘を邪魔したことも許せねえし、連行していくときの偉そうな態度もムカつく。

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)は今までも似たような被害は出している。それまで特に何も言ってこなかったくせに、今回に限ってなんで逮捕に乗り出してきたんだ。納得いかねぇ。

 

魔導士同士は命をかけて戦っているんだ。何も知らねぇ外野が筋の通らねぇことすんじゃねぇよ。

 

と、意気込んで評議院に乗り込んでエルザを助けに来たが、結局エルザ共々牢屋に入れられた俺に今回の逮捕の真意が伝えられた。

 

「ぎ、儀式……」

 

「そうだ。形だけの逮捕だ。魔法界の秩序を保つために評議院としても取締まる姿勢を見せておかねばならないのだ」

 

「なんだよそりゃあ。意味わかんねぇ」

 

「つまりは有罪にはされるが罰は受けない。今日中にも帰れたんだ」

 

愕然としている俺をエルザがキッと睨みつける。

 

「お前が暴れなければなぁ!!!」

 

「ええー!?」

 

「……まったく」

 

事の真相を知って落ち込む俺。俺が余計なことをしなければ、このように牢屋で夜を過ごすこともなかったらしい。知らなかったとはいえ悪いことしちまった。

 

エルザは一度ため息を吐いて、こう続けた。

 

「だが、嬉しかったぞ」

 

エルザの軽く笑みながらの言葉に、バツが悪くなって俺はこう答えた。

 

「……当然だろ。家族じゃねぇか」

 

家族。そう、家族だ。家族を見捨てることなんてできる訳がねぇ。

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)の仲間たちは家族も同然。互いに支え合い、助け合う絆の強さがある。

 

イグニールがいなくなって、一人で旅をしていた時は知らなかった関係を知ることができたのは、妖精の尻尾(フェアリーテイル)に連れてきてくれたからだ。

 

牢屋で一晩過ごすとなると時間を潰すのも一苦労で、俺は妖精の尻尾(フェアリーテイル)に来た経緯を思い出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イグニールぅ? 炎のドラゴンだあ? 嘘つくならもっとまともな噓ついたらどうだぁ?」

 

こいつも信じねぇ。

 

「ドラゴンって伝説上の生き物でしょ。知らないの? それを探すなんて、無駄なことしてるんだね。めっちゃウケる」

 

こいつも笑いやがる。

 

「大丈夫? 君は強いんだから、ドラゴンなんて探してないで、ちゃんとしてれば有名な魔導士になれるだろうし、評議院入りとか目指した方がいいんじゃない?」

 

こいつも心配するフリばかりで、話を聞いてくれねぇ。

 

出会ってきた誰もかれもが俺の話に耳をかさねぇやつらばかりだった。

 

父ちゃんがいなくなってから、俺は育った森を離れて父ちゃんを探す旅に出た。父ちゃんが俺を見捨てる訳がねえ。何か事情があって、どこかしらに飛び出していっただけのはずだ。

 

そう思って、出会う人に父ちゃんのことを尋ねまわる旅だ。

 

俺には父ちゃんから教わった滅竜魔法がある。それがあれば身を守ることもできたし、金を稼ぐこともできた。

 

それでも、その旅は辛いものだった。辛いのは病気や怪我のことじゃねえ。生まれてこのかた風邪なんか引いたことねぇし、怪我も唾つけときゃ治る。しんどかったのは心だ。それまで孤独ってのがここまで苦しいものだったなんて知らなかった。

 

みんながみんな、俺の思い出を嘲笑いやがる。

 

俺はドラゴンに育てられたんだ。ドラゴンは存在するんだ。

 

俺の主張を真剣に聞き入れるやつなんて誰一人としていなかった。時には父ちゃんを侮辱したやつもいて、殴り合いになったこともある。

 

誰にも心開けない毎日。父ちゃんを探して転々とする一人旅。

 

その旅は、妖精の尻尾(フェアリーテイル)に着いて終わったんだ。

 

 

 

 

 

 

その日も俺の話は信じられずに笑いの種にされていた。

 

そこに、ガキだった俺より、少しばかり背の高い女が横から口を出してきた。

 

「若人の夢をいい年した大人が笑ってるんじゃないよ、まったく」

 

「ああん? ……げ、妖精の尻尾(フェアリーテイル)

 

「はいはい。妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士、リュウさんだよ。私も話に混ぜてくれるかい?」

 

「い、いや。悪いな、嬢ちゃん。妖精の尻尾(フェアリーテイル)に良い思い出がなくってな。俺は抜けさせてもらうぜ」

 

そう言って嘲笑ってた男が素早くグラスを飲み干すと足早に去っていった。

 

「あらら。嫌われたもんだねぇ」

 

カラカラと笑いながら去り際を眺めてた女が俺の方に向き直った。

 

「で、突然横からごめんねぇ。ちょっと見てられなかったから声かけちゃった」

 

「……誰だオマエ」

 

「おっと、これは失礼。私は君と同じ魔導士だよ。リュウさんって呼んでねぇ」

 

突然口出してきた女を睨みながら聞いたが、どこ吹く風とばかりに軽く答える女。

 

「それで、途中からしか話は聞いてなかったんだけどねぇ。君、父親を捜しているんだって? どういう人物だい?」

 

「イグニールは人間じゃねぇよ。ドラゴンだ」

 

「……そうかい。ドラゴンの父親を捜しているのかい。早く見つけられると良いね」

 

あまりにも平然と言うから、逆にこっちが困惑しちまった。今までの奴らは話を聞くと最初はポカンとして、その後笑うか嘘を疑うかするだけだったから、それは初めての反応だった。

 

「……疑わねぇのか?」

 

「その真剣な表情を見れば分かるよ。嘘言ってるかどうかなんてのはね」

 

女はニッと笑った。俺もその表情を見て分かった。こいつも嘘なんてついてねぇ。本当に俺の話を信じているんだと。

 

それまで誰も信じてくれず、イグニールの痕跡も見つけられないだけの徒労に満ちた旅だったから、初めて会う女のちょっとした言葉に思わず泣きそうになっちまった。

 

ぐっと涙をこらえる俺に、女は言った。

 

「良ければ私たちのところに来ないかい? 実はね、君のことは噂になっててねぇ。とんでもなく強い魔導士が見たこともない火の魔法を使ってるって。君の父親捜しも一度腰を据えた方が良いと思うし、情報も集まるところだよ。是非君のことをスカウトさせてほしい」

 

「スカウト? オマエのところ?」

 

「魔導士ギルドだよ。名は、妖精の尻尾(フェアリーテイル)

 

こうして、宛てもなく終わりも分からない旅は、一人の女によって終わりへと導かれた。

 

連れてこられた妖精の尻尾(フェアリーテイル)は気の良いやつらばっかりだった。

 

誰も俺の話を嘲笑うことはねぇ。流石に半信半疑のやつらも多いが、イグニールを探しに行く冒険自体を笑うようなやつは一人もいなかった。

 

一緒に飯を食って、馬鹿やったら笑って、時には喧嘩して、そして仲直りしたら肩組んでまた笑い合う。

 

それは孤独な旅では得られなかった、家族の暖かさだった。

 

そんな暖かさを気に入って、俺は妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士になったんだった。

 

 

 

 

 

 

初めてギルドの門の前に来て、その大きな建物に驚いていた俺に女は言った。

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)。私たちのギルドの名前だよ。それには由来があってねぇ……妖精に尻尾はあるのか無いのか、そもそも本当にいるのかさえ誰にも分からない。だからこそ永遠の謎、故に永遠の冒険、ってね」

 

女は、リュウは俺を真っすぐ見ながら、俺の頭を撫でた。

 

「妖精を探すような向こう見ずばかりの集まりさ。ドラゴンの一人や二人、探すような者もいたっていいじゃないか。君も気に入ってくれると思うよ。ようこそ、妖精の尻尾(フェアリーテイル)へ」

 

俺はその言葉を忘れることはないんだろうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱりシャバの空気はうめえ! 最高にうめえ! 自由って素晴らしいなあ!!」

 

一夜明けて、牢屋から出された俺とエルザはギルドに戻ってきた。牢屋とは違って、明るいし飯も旨い。解放感から炎の入ったジョッキを片手にギルド中を走りまわる。

 

「結局形式だけの逮捕だったなんて。心配して損しちゃった」

 

「お疲れ様、エルザ嬢。大変だったねぇ」

 

「リュウさん。はい、一晩中牢屋に入れられるのは流石に堪えました」

 

「でも、馬鹿な事を仕出かしているけど、エルザ嬢もちょっとは嬉しかったんじゃない? ほれほれ、そこんとこ教えてくれないかい?」

 

「……やめてください。リュウさん、鬱陶しいです」

 

「あらま、酷いねぇ」

 

周りの奴らが何か会話しているが、走りまわって喜びに浸る俺には何言ってるか聞こえなかった。

 

そこに飛んでくるエルフマンの大声。

 

「ところで、エルザとの漢の勝負はどうなったんだよ! ナツ!」

 

おっと、そうだった。色々あって忘れちまったが、エルザとの勝負の途中だったんだった。

 

「エルザー! この前の続きだー!」

 

「よせ……疲れているんだ」

 

乗り気じゃなさそうなエルザだが、こっちは不完全燃焼で、今更我慢なんてできそうにねぇ。

 

右手に炎を纏って、エルザへと突進する。今度こそ俺が勝つ!

 

「行くぞーーー!!!」

 

「やれやれ……」

 

エルザは渋りながらもゆっくりと席から立ち上がり……。

 

目にも止まらぬ速さで振りぬかれた刀身が俺の顔面を直撃し、俺は吹き飛ばされて床に叩きつけられた。

 

「仕方ない。始めようか」

 

「しゅーりょーーー!」

 

ハッピーの声が聞こえてくるなか、俺の意識は落ちていった。

 

やっぱ、エルザつえぇ……。

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