ナツたちがS級クエストを達成し、その帰路についていた。
ガルナ島の島民たちが悪魔と化していた事件。それはエルザの活躍によって解決された。
事件の真相は、悪魔と化したことではなく、記憶障害だった。実はガルナ島の島民たちは元々人間ではなく悪魔だった。
エルザがナツの補助を受けながら、破邪の槍を投擲して空を覆う魔力の膜を破壊したことによって、島民たちは本来の記憶を取り戻り、S級クエストは無事遂行することができた。
これにより、意気揚々と戻ることができる、ことはなかった。S級クエストを許可もなく受注したナツ、グレイ、ルーシィ、ハッピーにはその罰が待っている。エルザから言われた罰を思い、戦々恐々としながら帰還する。
そんな、彼らを待ち受けていたのが、いくつもの鉄杭が打ち込まれて、半壊状態となっていた
絶句して怒りに燃え、急いでギルドハウスの中に駆け込む。地上のロビーは崩壊して使うことができなかったため、ギルドメンバーは緊急事態として普段は物置として使っている地下に集まっている。誰もかれもギルドハウスの惨事に怒気を募らせて騒いでいた。
だが、肝心のマスターマカロフは呑気に酒を飲みながら意に介さないような様子を見せた。ナツたちが怒り心頭に報復することを望むが、マカロフは却下しナツたちを制した。火の粉を振り払うような仕草をしながら、所詮は不意打ちしかできない輩に構うことはない、と。
言うまでもなく、マカロフも腹の底では煮えくり返る思いだ。大事なギルドハウスを破壊されて怒りを抱かないギルドマスターはいない。
だが、だからといって短絡的に報復に走ることはできない。ギルド間の抗争は評議院から禁止されているからだ。魔導士ギルドは相互扶助の組織であり、王国中の様々な課題を解決するために連携、協力することが求められている。要は味方同士なんだからいざこざを起こすな、と言われている訳だ。
ギルドハウスは勿論大切だ。しかし、今回の襲撃で怪我人はいない。
そんな思いも翌朝には裏切られる事になる。
街の住人からの騒ぎを聞きつけ、ギルドメンバーたちがマグノリアの南口公園に集結していた。そんな彼らの眼前には信じがたい光景が映り込んでいた。
南口公園の大木、そこに磔にされた
痛々しい怪我を負い、全身から血を流しながら、両手首を鉄製の拘束具で固定されて吊るされていた。レヴィの普段から露わにされている腹に刻まれた
そのあまりにも非道な光景に誰もかれもが驚愕し、悲痛な面持ちを浮かべ、憤怒に体を震わせる。
「ボロ酒場までならガマンできたんじゃがな……ガキの血を見て黙ってる親はいねえんだよ……!」
マカロフもまた、遂に堪忍袋の緒が切れた。
「戦争じゃ」
マグノリアの北西、フィオーレ王国全体から見れば北東に位置する歴史ある城下町。その中心に位置するのが
この場所から、長年に渡って因縁を抱えていた二つのギルドの、禁止されていた武力抗争の火蓋が切って落とされた。
怒りに満ちた
しかし、マカロフが単独先行し、
その戦場に落ちてきたのが、先行していた筈のマカロフだった。
敵の闇討ちを受けて魔力欠乏を引き起こし、土気色の顔をしながら衰弱するマカロフの姿を視認して、遂に戦況が逆転する。
ギルドを率いるマスターの敗北は戦場を決定づけた。
「撤退だ! 全員ギルドに戻れ!」
戦場の空気を敏感に感じ取り、これ以上の継戦は不可能だと判断したエルザが撤退の判断を下す。その判断に不服の声が上がった。
だが、実力上位者こそ未だに粘り強く戦っているが、このままでは完膚なきまでに敗北してしまう。この場を乗り切ったとしても、
エルザの一喝に、渋っていたメンバーも次々と撤退し始めた。
ここまでは、ジョゼの思惑通りに事が進んだ。
今のところ全てが順調だった。
新しく
全ては、王国一に君臨していた自分の
だが、誤算が生じた。
それは、拉致した筈のルーシィを取り返された事。ジョゼはルーシィを本部の最上階に位置する断崖絶壁の牢獄に閉じ込めていたが、ルーシィは名家の令嬢にはないと思っていた豪胆さで、命を投げ捨てるに等しい飛び降り行為に身を投じた。そして、支部襲撃からの撤退の際に幹部から盗み聞きして、下っ端を絞めてジョゼの計画を看破したナツによって、その身を受け止められて救出された。
折角、綿密に狡猾に練り上げた計画を崩されたことにジョゼは激高する。この時に備えて、
しかし、たった一匹の
怒りのあまり、ジョゼは使う気のなかった最終手段に手を出した。
ジョゼはもう、マグノリアの街に住む民間人を巻き込んででも、
だが、ジョゼの頭から抜け落ちていたことがあった。それは、絶対に踏んではいけない妖精の尻尾があるということだ。
襲撃に失敗し、
この場にマカロフはいない。魔力欠乏の重体に陥ったマカロフは、
そんなギルドの所に、ナツが幽閉されていたルーシィを救出し、連れ戻してきた。
そして語られる今回の発端。ルーシィは自らの出自と事の事態を招いたのが自分の我儘にあったことを語りだす。家出をした自分を父親が連れ戻すために
ルーシィは自分が原因となってギルドの皆が傷ついてしまったとして自分を責める。ナツは、ルーシィがそれでもと切実な思いを吐露したその言葉を拾い上げて励ました。
「お前は
ナツのその言葉にルーシィは感極まって涙を流す。その涙に弱くなってグレイやエルフマンが気まずい気持ちになってしまったが、ルーシィを囲うギルドの一角は暖かな空気に包まれていた。
一方で、ギルドの仮設受付で沈痛な面持ちでいたのは机の上に
カナが展開していた
「ダメっミストガンの居場所はわからない」
「そう……」
カナは
ミラジェーンが通信用
「マスターは重傷。ミストガンの行方はわからない。ラクサス、お願い。
ミラジェーンの懸命に希う悲痛な声に対して、通信用
「はっ、俺には関係ない話だ。勝手にやっててちょうだいよ」
「ラクサス! あんたって人は!」
ラクサスの非情な物言いにカナが怒鳴り声を上げた。それでもラクサスは嘲るような態度を変えることはなかった。
「つーか。あのばばあはどうしたよ」
「……リュウさんには既に連絡をとったわ。すぐ戻るとは言ってくれたけど、間に合うかどうか……」
「あぁ? はっはっは! こいつは傑作だ! あんなに
「ラクサス!!!」
ラクサスの非道な嘲笑にカナがこれまでにないような激高の声を上げた。同時にミラジェーンがこれ以上聞いていられなくなり、激情に駆られて通信用
「ミラ……」
悲痛な涙を流すミラジェーンの姿に、カナは自分以上の憤怒を感じ取って名前を呼びかけることしか出来なかった。
「……なんで、そんな
肩を震わせて感情を制御しようとしたミラジェーンだったが、堪えきれなくなって衝動のままに駆け出そうとした。
「こうなったら私も戦う!!」
「な、なに言ってんのよ!」
「だって、私がいたのにルーシィは攫われちゃって……!」
ミラジェーンは自分を責めていた。現在、ミラジェーンには戦う力がない。嘗て振るっていた魔法は精神的な理由で扱うことができず、魔導士を引退して受付嬢を務めている身だ。支部襲撃の際も、戦力にならないため、皆が乗り込んでいる時はギルドハウスで待機していた。
つまりはギルドの留守を預かっていたということ。そうでありながら、シャドウギアの看病のため、同じくマグノリアの街に居残っていたルーシィが誘拐されてしまったことに、ミラジェーンは責任を感じていた。
だが、そんな想いを持っていても所詮は非戦闘員。カナがミラジェーンの肩を掴んで制止した。
「ダメよ。今のアンタじゃ足手まといになる。たとえ、元S級魔導士でもね」
ミラジェーンはその場に立ち竦んだ。S級魔導士として昔は活躍していたくせに、窮地に陥っている今は何もすることができない自分を、悔しさと自己嫌悪で恨むことしかできなかった。
「外だー!」
見張りをしていた者の叫びに、ギルドの全員が外に出ると信じられない光景が眼に映った。
ギルドの裏口には、一見海と見間違う程広大な湖が存在する。普段なら水平線まで湖面が見渡せる筈だが、その湖面に波を揺らしながら巨大な建物が移動してきていた。六足歩行移動要塞、
「想定外だ……! こんな方法で攻めてくるとは……!!」
全員が非現実的な光景に絶句するなか、移動要塞が湖上で歩みを止めた。そして、建造物の中心部から直線状に伸びる長大な大砲が出現する。発射口に黒い魔力が集約されていく。
その照準は、
「ま、魔導収束砲!?」
「しかも、あの規模。ギルドが吹き飛ばされるぞ!」
「ファントムのヤツら頭おかしいんじゃねぇのか!?」
『ルーシィ・ハートフィリアを渡せ……今すぐにだ』
殺気に満ちた底冷えするようなジョゼの声。圧倒的格上からの要求、圧倒的暴力による恫喝に
『断る!!!』
エルザの気迫の籠った魂の叫びが更に続いた。
「仲間を売るくらいなら死んだ方がマシだっ!!!」
だが、仲間を思う絆の強さも、ジョゼには鬱陶しい羽虫の羽音にしか聞こえない。
『そうか、なら死ねぇ!』
ジョゼが無慈悲な言葉を吐いて、指令を受けた魔導士が魔導収束砲「ジュピター」の発射シーケンスに入る。発射口に充填された黒い魔力が発射直前の収縮を見せ始めた。
「全員伏せて私の後ろに回れぇ!!」
エルザが叫び、換装魔法で自分の体を鎧で纏わせながら、最前線へと飛び出す。その鎧の名は金剛の鎧。頭部も含めた全身を覆う金剛職の鎧は、エルザの持つ鎧の中でも最も防御力の高い最硬の鎧だった。
つまり、エルザは魔導収束砲「ジュピター」をその一身で受け止める気だ。
「エルザ、無茶だ!」
「よせ! 死んじまうぞ!!」
あまりにも無謀な行いに、ギルドの面々が制止の声をあげる。ナツもまたエルザを止めるために飛び出そうとしたが、隣にいたグレイが羽交い締めにして動きを止める。
「エルザ!!!」
「ナツ! ここはエルザを信じるしかねえんだ!!」
グレイは制止しながらも自分の情けなさに歯噛みする。それは他の者も同じだ。啖呵を切っておいて自身には守る力がなく、エルザの奮闘にか細い希望を託すしかない。
「ぅ……あ……」
ルーシィもまた、絶望の表情で見ていることしかできなかった。
そして、とうとう発射された破滅の黒。一直線に放たれた魔力の波動が湖を二つに割りながら、エルザの下へと迫り来る。
「絶圏奈落」
エルザの眼前にまで迫っていた奔流が何かに弾かれて、エルザを避けるように残滓が霧散していく。徐々に奔流が勢いを失って細くなっていき、やがて跡形もなく消滅した。
魔導収束砲「ジュピター」の威力を、抉り取られた地形が物語っている。
だが、その波動をその身で受け止めようとしたエルザの身体には傷一つ付いていなかった。
静まる群衆。そして呆然とするエルザの目の前に彼女がいた。
「ふう。ギリギリセーフかな?」
『……っリュウさん!!!』
彼女が右手を掲げてエルザの目の前に直立していた。彼女は魔導収束砲「ジュピター」の魔力を受けきって、エルザを守りきることに成功した。
『ば、馬鹿なぁぁぁああ!!? なんで貴様がそこにいる!? 貴様は北の大陸の遠方に行っていた筈だ!! 少なくとも今日間に合うことはなかった筈だ!!』
ジョゼの絶叫が拡声器に乗って響き渡る。ジョゼの計画は長期に渡って練り上げられた緻密なものだったが、その大前提には
だが、その彼女がジョゼの眼下にいる。ジョゼとマカロフが認定を受けている魔導士の最高峰、聖十大魔導の授与を固辞した女が魔導収束砲「ジュピター」を防御し、何食わぬ顔が立っていた。
「さてと…………ちょっとおいたが過ぎるみたいだねぇ。覚悟はできてるかい? 小童」
彼女の声色はいつも通りだ。だが、その言葉に込められた感情はあまりにも深い。
マカロフに次ぐ精神的支柱の登場に、
「リュウさん! リュウさんが帰ってきた!!」
「すげえ! あの魔導砲を打ち破りやがった!」
「こ、こんなに強かったのか、リュウさん」
湧き上がるのは賛辞だ。誰しもが惨状を思い浮かべたが、その想定を覆して無傷で悠然と佇む姿に驚愕し、そして胸に抱いた賞賛の念に全員が高揚していた。
「リュウさん、流石です。本当にありがとうございました」
エルザも彼女に頭を下げる。エルザは身を呈してギルドを守ろうとしたが、迫り来る魔力の圧力を感じて、彼女が間に合わなかった場合は、自分はただでは済まずに瀕死、あるいは本当に死んでしまっていた未来を幻視していた。その背筋が凍るような未来図を曲げてくれた彼女に深い感謝と安心感を抱いていた。
「なぁに。エルザ嬢が無事で何よりだよ。でもね、あまり無茶はしてほしくないねぇ。自分の命は大切にね。エルザ嬢も大切な
「はい。でも、
彼女の苦言にエルザは申し訳なさそうにしながらも、譲れない信条を語った。
彼女は溜息をついて苦笑した。
「まったく、誰に似たのやら」
勢いづく
『……もう貴様らの羽音は聞き飽きた。今度は断末魔さえ掻き消してやる。地獄を見せてやるよ』
拡声器からジョゼの声が響くと同時に、
先ほどまで浮き立っていた
その間にも
その場に悲鳴のような声が響いた。
「何だ! あの兵士たちは!」
「マスタージョゼの魔法で生み出された兵士、
「
「あの建物自体が魔導士だというのか!!?」
「あのサイズはマズい!! マグノリアの街一帯が暗黒の波動で消滅するぞ!!」
マスタージョゼによる民間人をも巻き込む凶行に、皆が震撼する。大量の
パニックになりかけた皆を落ち着かせるように、彼女の冷静な声が届く。
「みんな落ち着いて頂戴な。今から作戦を指示するよ」
彼女がそう言って巨人の描く魔法陣を指差す。
「まず
「エレメント4か!」
求めていた回答に彼女は頷く。
「エレメント4を撃破すれば、
「リュウさんはどうするんですか」
「私はここで防衛線を張るとするよ。あの小童が
彼女が軽い口調で言うが、その言葉には確固たる決意が込められている。ジョゼは最早正気ではない。
説明の間にも巨人の描く魔法陣は4分の1程が描かれ終わっている。その光景に刻々と破滅の時が迫るのを感じ、焦った者が彼女を急かすように怒鳴った。
「やばいって! そうこうしてる間にもう……! このままじゃ」
「うん。このまんまだと十分足らずで発動されるね」
「間に合うんですか!?」
悲痛な叫びに彼女は両手の掌を合わせた。
「間に合わせるんだよ。
彼女が頭上に巨大な魔道具を《創造》する。東洋宗教で用いられる法具を魔力伝導率の高い金で造成したのだ。その表面には文様が刻まれていて、大きさは巨人の片腕に匹敵するほどだった。彼女はその魔道具を魔力を使って投擲した。
射程距離が遠かったにも関わらず、威力を落とさずに巨人へと迫った魔道具が、
『な、貴様ぁ! 何をした!?』
その魔道具には魔法陣の形成を阻害する力が込められていて、表面で明滅している文様はその術式が込められていることを意味している。再度、巨人が魔法陣を描き始めるが、
「これで、恐らく三、四十分くらいは持つと思うよ。だからみんな、お願いしてもいいかな?」
彼女の頼もしく圧倒的な姿を見て、焦燥に駆られていた者が心を落ち着かせ、そして覚悟を決めた顔を見せた。
『任せろぉ!!!』
「うんうん。みんな頼りにしてるよ」
「よっしゃぁ!! 行くぜぇ!!!」
ナツが先頭を切って走り出す、のを彼女は呼び止めた。
「ちょいお待ち、ナツ坊」
「っと、なんだよ」
ナツが辛うじて立ち止まり、彼女に視線を向ける。そんなナツに彼女は苦笑気味だった。
「なに、ってナツ坊。あれ乗り物だよ。酔い止めは大丈夫かい?」
「あ゛っ」
忘れていた自分の体質に顔を蒼褪めさせるナツ。このままでは乗り込んだとしても即戦力外まっしぐらだ。
あわあわと口を押さえるナツに向けて、彼女は自身の力を行使した。
「
その暖かく包まれるような感覚にナツはどこか安心感を覚える。まだ乗り込んだ訳でもないのに錯覚していた吐き気もどこかへ消えていた。
「うん。これでこの戦いの間は乗り物酔いに悩まされることはないからね。思う存分かましてきちゃいなさいな」
「応!」
ナツは今度こそ走り出し、巨人へと向かった。
「待てよ、ナツ! リュウ! 俺がエレメント4をぶっ倒して来るぜ!」
「俺も行く! それこそが漢ぉぉぉおおおお!!」
グレイやエルフマンといった主力級の魔導士たちがナツに続いて次々と巨人の方へと乗り込みに行く。ただ、主力級筆頭のエルザは勢いのままに駆け出さず、彼女と状況把握の確認を行った。
「リュウさん。エレメント4は確かにあの巨人の中にいるでしょう。そして、その撃破が最優先であることも分かります。それでも、まだ懸念があります」
「うん。そうだね」
エルザが指摘したのは、エレメント4以上の実力者の存在。
「鉄の
エルザの言葉に彼女も頷く。
「ガジル坊の行方は私も分からないから、特に指示出しできなくてねぇ。彼については臨機応変に対応して頂戴としか言えないかな。ごめんねぇ」
「いえ、こちらこそ申し訳ないです」
「それと小童についてなんだけど、エルザ嬢。君に任せたいのよ」
「えっ、いや、しかし。私の実力では、ジョゼには……」
エルザの戦力分析は的確だ。ジョゼは人格は下劣ながらその実力自体は聖十大魔導に数えられる程の王国トップクラスだ。客観的には彼我の差を熟知しながら、それでもエルザは悔しさに歯噛みする。
最強の女などと囃し立てられながら、結局は
彼女の宥める声がエルザを落ち着かせた。
「大丈夫。エルザ嬢はきちんと強いよ。でも、確かに今のままじゃ敵わないのは確かだから、私が力を貸すからね」
そう言った彼女がエルザの方に手をかざす。
「
彼女の言葉とともに暖かい力がエルザの体内へと浸透してきた。すると、エルザは体の奥底から湧き出る力強さと魔力量に驚き、掌を広げたり拳を握ったりしてその調子を確かめた。
「これは……!? リュウさん、あなたは
エルザが疑問を呈する。エルザは彼女の戦闘を目撃したことは数えるほどしかなく、その時も多種多様な魔法を使用していて、一体何の魔法を専門とした魔導士なのかを知らなかった。
唯一心当たりがあったのが、エルザの右目に由来する治癒魔導士であったが、彼女自身が否定している。
だから、彼女の力をその身に授かり、自身の力が格段と上昇していることを実感して、彼女が
「いや。いくつかある力の内の一つってだけだよ」
自身の力の推理について話を打ち切り、彼女は巨人を指差した。
「恐らく互角には戦える筈だと思うけどね、倒すまでには至らない。でも、エルザ嬢に頼みたいのは時間稼ぎさ」
「時間稼ぎ?」
「しかるべき相手は別にいるってことさ。マスターの相手はマスターが務めるべきだって言われたよ」
「それって……!」
彼女の言葉にエルザの脳にはある人物が浮かんだ。その人はこの場にはいない、魔力欠乏で療養している筈の
最後に見た時は土気色の瀕死状態で、戦うどころか生を繋げていられるかさえも分からなかったが、彼女の言では既に意識を取り戻せているらしい。
「見舞いに行ったら結構弱っててねぇ。ちょっとばっかし回復させたら目を覚ましてくれたよ。起き抜けにまだ不自由な体を引きずって、直ぐにでも来たがってたんだけどねぇ。散らされた魔力自体は回収しきれてないから、峠を越えただけで、来ても力になれないって一度は止めたのよ」
彼女がでも、と言葉を続ける。
「ここに来る途中に
彼女が最後にこう言ってエルザを送り出した。
「任せたよ」
エルザは胸中に浮かぶ安堵とともに強く鼓舞されて、換装した剣を握りしめて巨人へと乗り込みに行った。
「ミラ嬢。小童の目的は忘れてないよね」
「はい。ルーシィの事ですよね」
「うん。ルーシィ嬢が
彼女の頼みはミラジェーンが考えていたことと大体が同じだったが、ミラジェーンも避難するように言われたのが違っていた。ミラジェーンはリーダスに避難を任せて、自分は変身魔法でルーシィの身代わりとなって相手の目を欺くつもりだった。
ミラジェーンは非戦闘員で、戦う力になれていない。だからこそ、逃げるのではなく自分も命を張って前線に残りたかった。
「リュウさん。私も残ります。私がルーシィに変身して身代わりになります」
ミラジェーンの決心に、しかし彼女は首を振った。
「意気込みは買うけど、それは小童をなめすぎよ。腐っても聖十。通用しないね」
ミラジェーンのショックは大きかった。元S級魔導士の癖して戦闘には関われず、それでもと自分のやれるべきことを考えて、ジョゼの目を欺くための囮になろうとした。だが、自身の恩人で実力者でもある彼女に無駄だと断言されてしまった。
家族を失う絶望を知ってるのに、
自分自身を呪うミラジェーン。目の前が真っ暗になるような感覚に陥ったが、彼女に肩を掴まれて正気に戻された。
「しっかりしなさんな。これはミラ嬢にしか頼めないことだよ。マグノリアの地理を熟知しているじゃないか。きちんと安全な場所へと連れていく。ルーシィ嬢を守るために、ミラ嬢の力が必要なんだよ」
「リュウさん……」
「
こんな非力で足手纏いでしかないのに、彼女は変わらずに仲間として頼ってくれる。それがなんと嬉しいことか。
前線で命を張ることだけが役目じゃない。自分にはできることがある。
「リュウさん、ご武運を」
ミラジェーンはルーシィを守るという確固たる決意を胸にルーシィの下に向かった。
ミラジェーンがその場を去った直後、
彼女もまたその身の力を振るい、
彼女が力を込めて殴りつけると、
「まったく。長きに亘る因縁もこれでおしまいにしようかね」
ここに