本編は三話しかないのに外伝とは如何に。
舞台は呪われたかの名探偵が跳梁跋扈してしまうあの街。
調査に赴くのは三輪霞。
設定を思いついた以上は書くしかない。投稿しよう!の精神でこの物語は構成されています。
ここは、京都府立呪術高校専門学校の一室である。対峙しているのは、京都呪術高専高二年の究極メカ丸と保険渉外担当である綾部命であった。
「それではこの案でよろしいですね、メカ丸君」
「ああ。当日の俺は急用があると伝えくれ」
「私としましては、そこまで回りくどいことをしなくてもとは思いますけどね」
「……いまは、これでいい」
今回は表向き、二人は保険の話をする呈をとっていた。しかしてその内容はまったく別であり密談の口実あった。そして、こうして行われている密談の回数は、実に二十を超えており、その重要度は推して測れるものであった。
綾部命は究極メカ丸との密談を終えるとその脚で京都高にある武道の間に向かった。武道の間の扉は開け拡げてあって近づくにつれてほのかに薫るい草の匂いが鼻色に濃くなっていく。
「ハアッ セイッ ヤアッ」
武道の間からは女性の気合の入った高い声とその動きに併せて「ザッ」や「ギュッ」といった畳が擦れる音が聴こえてくる。
「ふぅ……。やっぱりこの時期は足が冷えなくていいなァ」
そう女性は一連の動きを終えるとそう口に出した。
「毎日、精が出ますね」
唐突に真後ろから掛かった声に女性は驚きの声を挙げた。
「ひゃぁッ!? って、綾部さんじゃないですか」
「おっとこれは失礼しました。驚かせてしまったようです」
と綾部命は丁寧な謝罪を口した。それに対して、女性は、予定をなにか忘れていたかなと思い出しながら質問をした。
「あれ? 今日って私、なにか忘れてましたっけ」
「あぁいえいえ。保険の話ではありません。今日は三輪さんにアルバイトの斡旋をしようかと伺わせていただきました」
「アルバイトの斡旋。保険さんの綾部さんが、私にですか」
「斡旋と申しましても、顔の広い私にどなたかを紹介してほしいと依頼された形ですね。どうです、一日仕事で高収入はお約束できますけど、聞きますか」
「え、一日仕事で高いお給金が……、いやいやいや、めちゃくちゃ怪しくないっすか。まさかエッチなバイトじゃ」
「アハハ。確かにこれだけ聞くと大分怪しい話に聴こえますね。当然ですが、そっち系のお仕事ではありませんよ。ですが、まったく危険がないとも申せません」
「っていうことは、危険手当的なものがあるからお給金が良いってことですか」
「そうなります」
「う~ん。私、そんなに強くないんですよ。死んじゃったりするようなのだったらちょっと……」
「なるほど。ですが、その辺はメカ丸君も同行する予定なので問題ないかと思いますよ」
「えっ。このバイト、メカ丸も受けてるんですか」
「ええ。言っていませんでしたね。この話なのですが、先ほどメカ丸君ともしまして了承を得ております。ただ条件として、危険があった場合にその情報を持ち帰ることのできる人員。つまりは、最低限の自衛ができる者の同行を希望されましたので、まずは一番近くにいた三輪さんに声を掛けさせてさせていただいた次第です」
「ふ~ん。メカ丸も来るのか。だったらそんなに危なくない、かも」
「どうされますか」
「えっ……とぉ。あ、そうだ、バイトの日はいつになりますか」
「あぁ、伝え忘れていました。今度の日曜日になります」
「今度の日曜日、ならちょうどなにもない、し。う~ん……」
「お悩みのご様子なので、一つ背中を押す情報を。日給はーー万円です」
「受けます。この三輪霞にお任せください」
「承りました。それでは、今度の日曜日、場所は○○県の○○です。とある市営マンション前に朝九時にお集まりください」
「県外かぁ。交通手当はでますか」
「もちろん、お支払いします。当日は現地に私も同行いたしますので、もろもろの心配事はないかと存じ上げます」
「了解いたしました。当日はよろしくお願いします」
そして、週は流れて日曜日のとある市営マンション駐車場。時刻は八時三十分すぎ。
「あ、綾部さ~ん」
三輪霞は見慣れたスーツ姿の眼鏡に声を掛けた。
「三輪さん。お早い到着ですね」
「ええ。お仕事に遅刻するわけにはいかないですから。っていうか綾部さんも早くないですか」
「ええまあ、私は依頼をお願いした側ですから、なるべく先に着いていた方が安心で……、っとすいません携帯に着信です」
「あ、どうぞ」
そうして三輪霞が「メカ丸はまだかなぁ~」と手を後ろに組んで周囲を見渡していると通話を終えた綾部が声を掛けた。
「三輪さん。申し訳ありません。メカ丸君なのですが急用ができたらしく来れないと今連絡がありました」
「ええ!? メカ丸の馬鹿。それって私一人で危険かもしれないお仕事をしなくちゃいけないってことですよね」
「あ、いえ。メカ丸君のお友達で、この依頼を何度も熟している方の予定がちょうど空いていたらしく、その方を手配してくれたようです。その方は、すでに現地入りしているみたいなので、私たちも向かいましょうか」
「あ、なら大丈夫、……かなァ。ああもう、メカ丸め。これは今度会ったら、ちょっと言ってやらないとな」
「ご心配でしたら、先方に仕事のキャンセルの連絡を取りますよ」
との綾部命の言葉に「あ、っとォ」と三輪霞は声を漏らしてから目を瞑って素早く考えを纏めると言った。
「行きます。せっかくここまで来たのでいかないとなんか損した気分になります」
「わかりました。それでは参りましょうか」
そうして綾部命は市営マンションの正面入り口から内部に入りエレベータに乗り込みパネルの⑧を押した。そして目的の階層につくとエレベータを降りて、マンションの右側から一号、二号と書かれた部屋番号を横目にしつつ七号、八号室と通り過ぎたところで立ち止まった。
そこは、ちょうど八号室と九号室の境目よりやや九号寄りの壁面であった。
「ここです」
三輪霞は綾部命が示した視線のさきをみて疑問符を浮かべた。
「あの、綾部さん。ここって言われましても、ここは壁ですよ」
「はい。壁ですね」
そうはっきりと告げる綾部命に三輪霞は困惑したように再度訊ねた。
「え、えっ。ただの壁、ですよね。ここ」
「そう。紛うことなき、ただの壁です。一見しただけではね。よく視てください。何か違和感を覚えませんか」
三輪霞は、その言葉の意味を理解すると指し示された壁面を凝視した。すると、浮かび上がるモノがあった。
「……は? えっ? 扉、なの……?? なぜか回すタイプの取っ手があります」
「それです。このマンションに私は営業の一環で回っていたところでこれに気付きまして。興味本位で回して中に入りました」
「ええっ!? 危ないじゃないですか。呪霊とかが作り出した空間だったら取り返しがつかないかもしれないんですよ」
「ですが、そのような気配は感じられないでしょう」
「……たしかに。え、でも私に視えるってことは呪術的な何かじゃないんですか」
「それがよくわからないんですよね。中に入ってもらうとわかると思うのですが、まったくもって謎の空間、いや。街かな。がひろがっていますから」
「この先に街があるんですか。部屋じゃなくて」
「そうです。部屋じゃなくて街がひろがっています。具体的には部屋のような空間を抜けた先になりますけどね。鍵は掛かっていませんし、一先ずなかは安全ですので入りましょうか」
「ほ、ほんとに入るんですか。出られなくなったりしません」
「私も何度も出入りしていますので、そのあたりの心配はないかと。あと、かりに何かあったとしても私たちがここに来ていることをメカ丸君も承知していますので、救けに来ていただけるはずです」
「……わかりました」
綾部命が取っ手に手を掛けて回すと壁面にスッと筋が入り玄関扉のような区切りが現れ外側にむけて開かれた。
「ぇえ、本当に開くんだァ。ナニコレ」
「不思議でしょう。中は何もありません。それでこの先にある同様の取っ手を回すとーーー」
そして綾部命が謎の空間のさきにある取っ手を回すと、世界か切り拓かれたように、別の街が姿を現した。
「……これってさっきのマンションの反対側っていうことはないですよね」
「三輪さんもマンションに到着するまでに見てきたとは思いますけど、裏手には山があって、拡がっているとしたらのどかな町、村という風景でしたよね。ここはどう見ても都会。東京や大阪といった都市圏です」
「え、ええ。意味わかんない」
「でしょうね。私にもわかりません。さらに驚くことに、ここには普通な人々が暮らしているのです」
「……普通な人々? その普通なってなんですか」
「その答えは、ここで、呪力を外に出していただければ理解に近づくかと。是非やってみてください」
「それはできr……ない。えっ、できないです。綾部さん」
「でしょう。どうもこの街、世界、に呪力というものは存在していないようなのです」
「呪力の存在しない世界!? そんな、あり得ないんじゃ」
「まあ、こうして存在している以上はなんとも言えませんよね。そのためか、この世界に呪術師というものがいたとしてもそれは、まやかし、迷信の類になるので、くれぐれも口外しないようにお願いします。して頂いてもかまいませんけど、ちょっと頭がアレな人かなって思われるだけですから、おおきな問題はないんですけどね」
「えっ。問題はなくても、それは普通に嫌ですけど……」
「アハハ。ええ、そうでしょうね。では、まず依頼の説明の前にメカ丸君のお友達と合流するとしましょうか。彼はこのマンションを出たすぐそこのファミレスにいるそうなので、ここの駐車場に来るように連絡しておきます」
三輪霞はさきを歩く綾部命に追従する形で降り立った異界の街にあるマンションの一階へと歩を進めた。