異界のマンションの一階につき駐車場に向かうとそこには一つの人影があった。
「おや、もう到着していたようですね。彼がメカ丸君が代理として派遣してくれた男性です」
「メカ丸の友達かァ……。ってメカ丸、私たちのほかに友達いたんだ」
「三輪さん……。それは少し酷い発言に聴こえますよ」
「あっ、いやそういう意味じゃなくて。ほら、メカ丸って見た目がメカでしょう。だから術師じゃない普通の友達って作れるのかなっておもっちゃって……すいません」
「あぁなるほど。たしかに一般的な社会においては、いまだ難しい部分はあるように感じますね。ですが、メカ丸君は傀儡ですので、この場合は『中の人』というべきでしょうか。彼は年相応な思春期な男の子ですから、気が合えばお友達ができてもおかしくはありませんよ」
「そう、ですよね。私たちもメカ丸とは友達ですし、おかしくないです。って、綾部さんはメカ丸の中の人に合ったことあるんですかっ」
「もちろんありますよ。ですが極秘情報となりますので、私も縛りによってお話することはできません」
「あ、そうですよね」
そんな会話をしている二人に声が掛けられた。
「あ、あの」
「あぁ、すいません。待たせてしまいましたね」
「ああ、いえ……」
「ご紹介しますね。こちらはこの世界に精通しているアドバイザーの与幸吉君です」
「ぼ、ぼく、お、俺は与幸吉だ、です。よ、よろしく」
「あ、はあ。私は呪術高専京都高二年の三輪霞です。よろしくおねがいします」
と二人は挨拶と握手を交わすのだが、サッと手を差し出しスマートな動きをみせる三輪霞と比べて与幸吉は「ギギギィ」と擬音がきこえてきそうなほどにぎこちない動きをみせていて、その様子をみかねた綾部命は声を掛けた。
「あの、三輪さん。『ちょっと』お待ちいただいてよろしいですか」
三輪霞はちょこんと首を傾げたが了承の意を示した。
「はぁ、いいですけど」
「ありがとうございます。与君。少しこちらに来ていただけますか」
そしてふたりは三輪を残して、距離をとるとこそこそと話し始めた。
「与君。一体、どうしたのですか」
「どうしたもこうしたもない。俺はいままで生身の姿で人とまともにあまり話したことがないんだよ。ましてや代理の人間ってことで俺だとわからないようにしゃべり方も変えなきゃいけない。それに……」
「んん、与君。お気持ちは理解できますが、落ち着いて。もう少しまともにして頂かないと挙動が怪しすぎます」
「わ、分かってる。戻るぞ」
二人は早々に密談を切り上げると合流した。
「どうかしたんですか」
三輪の質問に綾部命はこたえた。
「少しばかり手違いが……。いえ、そうですね。ここは一つ正直に申し上げるのですが、与君はすこしばかり女性への免疫がないのです」
それに与幸吉は「ちょ、おまっ」と慌てたように声をだしたが、綾部命は続ける。
「ですので、多少たどたどしい発言があるかもしれませんけど、寛容に接して頂けると幸いです」
三輪霞は「え、はい」と何かあったのかと気をひき締めていただけに少しばかり戸惑いをみせたが、たいしたことではなかったのではっきりと告げた。
「別に大丈夫だと思います。それに、そんなに変でもないですよ。会話もちゃんとできますし全然問題ないです」と。
「あ、ありがとう。な、慣れればふ、普通に話せるようになる、とおもうから、それまで、ごめん」
「謝らないで下さい。誰だって初対面のひととはうまく話せないことはありますから気にしなくていいですよ」
それに与幸吉は安心したようにすこし笑みをみせて息を吐いた。
綾部命は、ふたりの様子から一先ず大丈夫そうだと今回の仕事についての詳細を言葉にした。
「よかった。無事、話は纏まったようですね。それでは、今回の依頼についてお話させていただきます」
そして、綾部命の語った仕事の内容は、とある遊園地の調査依頼であった。
「トロピカルランド遊園地ですか」
その三輪霞の声に綾部命は言葉を返した。
「ええ。摩訶不思議な話になるのですが、高校生の男の子がまるで成長を吸い取られたように小学生くらいになって帰ってくるという噂がありましてね。今回の依頼は、その噂の真相を解き明かすか、或いはヒントを得る調査になります」
「高校生がこどもになって帰ってくる。もしそれが本当であるなら……怖いですね」
「ええまさに。依頼者はそこを危惧なさっています。呪術や呪霊の存在しないこの世界であり得ない事象が起こる。そこで白羽の矢が立ったのが私たち、この世界にはいない呪力を持った人間である我々になります」
「なるほど。私たちの世界と繋がっているからこその依頼ということですね。与君はどう思いますか」
「お、おれか。俺は……。そうだな。呪霊、的なものではない、とおも、う」
「それはなぜですか」
「俺、は、この世界にきてから、長い。その、間に、呪霊を、みた、ことも感知したことも、ないから、だ」
「そうなると何が原因かわからなくなりますね」
と三輪霞は片腕にひじを乗せて頬に手を添えて思考をはじめたところで綾部命は声を掛けた。
「私の方から少し捕捉を。依頼者の方からはトロピカルランドの隅々まで調べて頂くようにと依頼されております」
「それはどの程度ですか」
「原因が不明。ですが万が一でも噂に実があってはいけません。依頼者は、お客様になにかあった場合を想定されているためアトラクションを含めて、全域、全てになります」
「わかりました。与君はなにか聞いておくことはありますか」
「……幸吉」とぼそりと与幸吉は呟いた。
「えっ。なんです与君」
「俺のことは与じゃなく、幸吉って、名前でよんで欲しいんだ」
「そう、なんですか。じゃあ、はじめましてですけど、幸吉君。と呼ばせていただきますね。私のことは三輪でも霞でもなんでもかまいません」
「じ、じゃあ、かすみ、さん」
「はい。なんですか幸吉君。って、なんかちょっと、名前で呼ばれるの照れますね」
「そ、そうか。やっぱり俺は三輪って呼ぶようにする、よ」
「ん、あれ。いまなんか……」
と綾部命はそこで声を掛けた。
「お互いの自己紹介も済みましたし、開園時間もそろそろです。ですので、目的地に向かいましょうか」
外伝 保険渉外担当員 ~呪われた人外魔境 米花シティ編~(メカ丸の場合)でした。
キャラ設定は独自設定になります。与幸吉君の似姿は原作準拠、ただし服装は私服になります。