少女は星を追いかける   作:まんじゅう卍

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書いては消して書いては消して。いい加減飽きられてもおかしくないのでこの物語を終わらせるまではこれを描き続けます。
是非とも応援してくださると助かります!
それではどうぞ!


第1部 秋山琴音の章〜大阪編〜
第1話 あきやまことね


 暗く透き通るような綺麗な夜空には幾億の星が散りばめられ、またその隣では燦々と太陽の如く地表を照らす月。私も月明かりに照らされ、そんな空を瓦礫の上に寝転び、眺めながら胸の奥から湧き上がる感情に蓋をした。

 

「生き方は決めたんだから……これで、良かったよね」

 

 今に至るまでの戦いの数々で私の心はどうにも擦り切れてしまったらしい。蓋をしたはずの感情はその隙間を縫って簡単に漏れ出してしまう。

 

「でも、まだ生きたいのかも?」

 

 空に問いかけても答えは返ってこない。誰もいない。いや、いなくなってしまった虚構の世界で私の声だけが行き場を失って漂っている。

 カラスでもなんでもいいから食いついておくれよ。そして小さい声でもいいから鳴いてくれ。そう懇願したくなるのだ。

 生物はいない。いるのはありとあらゆる生物を超えた超常的な存在のみ。そいつらは人類を食い荒らし、絶滅へと追いやっている。

 私も実を言うとその怪物どもにそろそろ食い荒らされそうになっていると言うわけである。

 

「私の命も残りわずかなことだし、最後まで付き合ってやりますよ」

 

 気づけば私は数十体の白い化け物に囲まれている。絶望的な状況だと言うのに心は穏やかだ。最後の最後で本音を吐露できたからだろうか。私は遠い四国の地に届くように声を張り上げた。

 

「若葉ちゃん!ちゃんと覚えておいて後世に伝えてよね!秋山琴音っていうもう1人の幼馴染がいたってね!!」

 

 私は口の端から滲み出る血を親指で力強く拭うとニッ!と勝気な笑みを化け物どもに向ける。

 

「さあ!見ておけよ!そして恐怖をその身に刻んでおけ!これが私の正真正銘最後の一矢だ!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

西暦2015年 7月1日

 

「って言う夢を見たんだけどさ。怖いよね〜」

 

「それは確かに怖いですね」

 

「いや、私には琴音が何を話しているのか全くわからなかったぞ」

 

 私は秋山琴音。どこにでもいるただの小学六年生……のはず。趣味で弓道をちょろっとかじっています!今は学校の休憩時間中で幼馴染の乃木若葉と上里ひなたの2人に昨日の夜に見た夢の話をしているところです。

 

「話の続きだがそれで琴音はどうなるんだ?」

 

「無粋な質問だね。死ぬに決まってるじゃん」

 

「そ、それで済ましてしまっていいのでしょうか」

 

「夢だしね。目が覚めちゃえばオールOK!」

 

 私の性格は非常にお気楽と評される。そんなつもりはないけど皆口を揃えてそう言うものだから段々その気になっちゃうのだから人は不思議だ。ちなみに若葉ちゃんは超がつくほど真面目な性格。ひなたちゃんは常に敬語を使う面倒見の良い性格だけど意外とノリがいい!三者三様バランスが取れていると私は勝手に思っている。

 それに夢で起きたことに一つ一つ意味や起こるかもしれないなんて言う事を考えるのは面倒だ。あんな気味の悪い化け物なんてこの世にいるわけないし!

 

「案外若葉ちゃんは夢の内容とか気にするタイプなんですね。私、知りませんでした」

 

 ひなたちゃんが意外です。と頬を緩めて若葉ちゃんを揶揄う。若葉ちゃんは困った表情で首を捻った。

 

「別にそんな気はないが…。あまりそう言う夢を私自身見ないから」

 

「私も普段は見ないよ?なんか今日は特別。と言うか、若葉ちゃんは夢見るの?」

 

「見る時は見るな。例えば、そうだな。ひなたと2人で出かけたりとか」

 

「あら、嬉しくて楽しそうな夢ですね」

 

「私は!?いないの!?」

 

 ガーン!と頭を抱える私を見て2人は軽く笑った。2人とも私とは違って本当に小学生かと思うくらいに品のある笑いをする。私も見習わなくてはならないと思う今日この頃です。

 話もひと段落したところでひなたちゃんが別の話題を持ち出した。

 

「そう言えばもうそろそろ修学旅行ですね」

 

「そうだな。私は級長としてしっかり皆をまとめなければ」

 

「相変わらずの責任感の強さだね」

 

「琴音はもう少ししっかりしたほうがいいと思うが」

 

「それもそうかもね〜」

 

 私はニシシ。と歯を見せる。若葉ちゃんはまだ何か言おうとして口をもごもごと動かすがその先の言葉は出てこなかった。

 

「えへへ〜。私の勝ち」

 

 私は若葉ちゃんに満面の笑みで勝利のVを見せつける。ひなたちゃんも私の肩に手を乗せてニコッと笑った。

 

「琴音ちゃんは今のままで十分ですよ」

 

「私の負けだ。……負けとはなんだ?」

 

「気にしたら負けだよ。と言うわけで修学旅行だね!どこ行くんだっけ」

 

「島根県の出雲大社ですね。あとは……」

 

 ひなたちゃんが指を折りながら一つ一つ教えてくれる。私はそれに相槌を打ちながら聞き入った。

 

「ざっとこんなものですね」

 

「まさかとは思うが琴音、知らなかったのか?」

 

「もちろん知ってたよ?確認したかっただけ」

 

「………」

 

「そんなに呆れなくても良くないかな」

 

「知らなかったのか……」

 

「ありゃ、もしかして私鎌かけられた?」

 

 いつも思うが若葉ちゃんは私のことをどう思ってるのだろうか。ひなたちゃんほどの信頼は得ていないのはわかるとして、小さい頃からの仲なのだからもう少し私のことを褒めてくれても良いと思う。

 

「まあなんでもいいよ。当日楽しめれば良いよね」

 

「そうだな」

 

「そうですね。こう言う時は楽しんだもの勝ちですから」

 

 またこうして話に区切りがつき、会話は一転二転。休憩時間を終わらせる鐘が鳴り、また私たちは授業へと臨むのだった。

 

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2015年 7月10日

 

「と言うわけでグループ分けをしたいと思う。4人1組か3人1組でグループを作るから順にくじを引きにきてくれ」

 

 担任教師の音頭で修学旅行のグループ分けが始まった。私は席の並び的にも後ろの方なのであまりものを引くことになる。私はクラスメイトたちが一喜一憂している様子を呑気に眺めていた。あまりものには服があるとはよく言ったものだが私はあまり信じていない。

 

「次は秋山だな」

 

 先生に呼ばれて自分の番が回ってきたことに気がついた。はーい。と簡単に返事をしてから前に出てくじを引く。

 引いたくじに書かれている数字は5。私は黒板を見て5班のメンバーを確認した。

 

(わお。あまり仲のよろしい子がいらっしゃらない)

 

 記憶にある限り話したことがあるのは2回か3回。なかなかに難しいラインの子たちと当たったものだ。

 私はチラッとその子達を見てお願いね。とばかりに小さく手を振っておいた。

 

 その日の放課後、若葉ちゃんとひなたちゃんと帰路を共にしながら私は今日1日を振り返っている。

 

「一緒の班になれなかったのは残念ですね」

 

「ほんとにね。まあ、また新しい友達ができるチャンスと思えば全然気にならないよ」

 

「琴音はやっぱり凄いな」

 

「なにが?」

 

「私だと皆怖がってしまってそういう機会にはならないからな」

 

 夕陽に照らされ、哀愁漂う表情でひっそりと呟いた若葉ちゃんはなんだかとてもいじらしく感じられた。私は思わずぎゅっと若葉ちゃんにハグする。

 

「うわっ!?ど、どうした急に」

 

「皆若葉ちゃんの良いところに気づいてないだけだよ。ね!ひなたちゃん」

 

 ひなたちゃんに同意を求めるとひなたちゃんはうんうん。と力強く頷いてくれた。ここまで賛同してくれて頼もしい存在はそういまい。

 

「ふふっ。そうですね。私はいつも若葉ちゃんの可愛いところを皆に紹介して回ってます」

 

「ひなた!?お前、そんなことをしてたのか!?」

 

「若葉ちゃんは本当はとても可愛いと皆知ってくれれば距離感も近づくと思いまして」

 

「私もみんなに言って回ろうかな〜」

 

「や、やめてくれ。流石に恥ずかしい」

 

 若葉ちゃんは顔を真っ赤にしてそっぽを向いてしまった。やっぱりこの子凛々しいし可愛いとかずるいと私は思うのです。

 

「若葉ちゃんは眉間に皺を寄せすぎなんじゃない?」

 

「そんなに寄せてるつもりはないのだが」

 

 そう言って若葉ちゃんはムッと眉間に皺を寄せる。それを見た瞬間、私とひなたちゃんは同時に吹き出した。

 若葉ちゃんはそれを見て手をおでこのあたりに持っていき、シュンと肩を落とした。それを見て私とひなたちゃんはまた笑いが込み上げてきた。

 

(こんな毎日がずっと続けばいいな)

 

 きっとどんなことになっても私たちは一緒にいるだろう。いや、居たい。それが私の最大の願望だ。

 そう。きっとどんなことがあっても私はーーーーーー。

 

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2015年 7月20日

 

 今日は待ちに待った休日。私と若葉ちゃんとひなたちゃんは3人で近くのショッピングモールに来ている。とは言ってもそんなに大きなものではないのだけど。

 

「高松以外にももう少し大きいお店欲しいよね」

 

 私は燦々と照りつける太陽を手で遮りながら恨めし気に呟く。夏も本番であり、その威力は刻一刻と跳ね上がっている。正直うざい。

 

「そう言えば昨日もまた大きな地震あったね」

 

「あー、ありましたね。最近多いので不安です」

 

「震災が修学旅行に重ならないといいのだがな」

 

「え、縁起でもないこと言わないでよ」

 

 思わずその光景をイメージしてしまうと先日夢で見た世界によって一瞬現実が塗り替えられて顔が引き攣ってしまう。

 災害なんていつ起きるかわからないのだから気にしだしたらキリがないとはよく言ったものだが多少嫌な予感がするのは否めない。……実言うと私の嫌な予感は結構あたる。

 

「気にしても仕方がないことです。とりあえずうどん食べましょうよ」

 

「ひなたの言う通りだな。よし、行こう。ひなた、琴音」

 

「あいよ〜」

 

「若葉ちゃんのおすすめの場所連れて行ってくださいね」

 

「唐突にハードルが上がるな。とは言え任せておけ。乃木の名にかけてこれ以上ない場所を紹介してみせる」

 

 グッと胸の前で握り拳を作る若葉ちゃんは私には張り切っているように見えた。私は先行する若葉ちゃんをひなたちゃんと一緒に追いかける。ひなたちゃんも楽しげに今にも鼻歌でも歌い出しそうだ。私もスキップしたくなるくらいとても楽しい時間だ。

 

 まだ私は2人と共にいる。

 

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2015年 7月30日

 

「……楽しい修学旅行はどこ!」

 

 私はたまらなくなって夜空へと咆哮を放った。何が嬉しくて目的地の近くの神社に避難せねばならんのだ。

 とは言え、なんの意味もなく修学旅行を中断して神社に避難するのもおかしな話なので一応説明しておこう。

 簡潔に言うと私の嫌な予想がものの見事に当たってしまったのだ。これ以上ないくらいのクリティカルヒット。私はどうしたらいいのでしょう。しかも規模が日本どころか世界と来た。なんでも世界中で未曾有の大災害を起きているらしく、津波やら地割れなども各地で発生しているとのこと。

 私が神社の境内でぬああ〜と頭を抱えていると後ろから聞き慣れた声が聞こえた。

 

「そう言うな。確かに大きな地震が起きたわけだが、これもトラブルも旅の醍醐味とはよく言っただろう?」

 

「急にポジティブな若葉ちゃんも私は好きだよ」

 

 振り返って軽口を叩く私を見て、若葉ちゃんはどこか安心した様子を私に見せる。しかしその眉根には癖なのかやはり皺が見て取れる。私はクスリと小さく笑って少し揶揄う口調を向けた。

 

「若葉ちゃんも無理して明るく振る舞おうとしなくても大丈夫だよ」

 

「私は、別に……」

 

「顔見ればわかるよ。何年友達やってきたと思ってるのさ」

 

 私がそう言って笑いかけると若葉ちゃんの表情にも少しだけ余裕が出てきた。ひなたちゃんはどこにいるのだろう?と辺りを見渡すと他のクラスメイトと談笑中だった。私はそれを見てニヤッとする。

 

「さてはひなたちゃんが取られてショック受けてるな〜?」

 

「そんなんじゃない」

 

 間髪入れずに答えられたものだから私も茶々を入れるのをやめ、若葉ちゃんの話に耳を傾ける。

 

「ありゃ。わりかししっかりとした方?」

 

「当たり前だ。……私も強くあれと常に教えられてきたが流石に不安なものは不安だ」

 

「流石に居合では地震は止められないもんね」

 

「…………」

 

「あの、もしかしたら出来るかも!とか考えないでよ?無理だからね?」

 

「やはりそうか」

 

「何か超常的な力が手に入ればわけないんじゃない?」

 

「私とて出来る出来ないの区別はつくさ。とりあえず私は先生に再度クラスの全員がいることを伝えてくる」

 

「もしかして私が行方不明枠筆頭?」

 

「ようやく気がついたか」

 

「それは大変申し訳なかったよ」

 

 私がごめんね!と手を合わせると若葉ちゃんは小さく笑ってそのまま神社の中へと戻って行った。

 その背中を見送りながら私はどうしたものか。と神社の中を振り返るとひなたちゃんに巻き込まれて他のクラスメイトと談笑することになりそうな雰囲気の若葉ちゃんがワタワタとしている様子が目に入った。それを見ながら私は1人の時間に酔いしれるために境内の近くの岩にちょこんと腰掛け、就寝するまでの時間をそこの上で過ごしたのだった。

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 皆が寝静まろうか。そんな時間になってから私はようやく本殿の中へと戻ろうと思った。

 ふと思い返したのだが神社の鳥居は古来より外界との境界線になっているとのこと。調べ学習で得た知識が何故唐突に湧き出してきたのかは置いておくことにする。

 

「ふわあ……。なんで私、こんな時間まで起きてるんだろ」

 

 唐突に自分の行動の意味がわからなくなり、首を傾げながらゆっくりとした足取りで砂利を踏む。その一歩一歩がなぜだか今はとても貴重なものではないかと思えた。すると本殿の中から見知った2人の顔が出てくるのが見えた。

 私が手を振るとあちらも私に手を振りかえしてくれた。私はそれが嬉しくて先程よりも軽い足取りで2人の元へと駆け寄る。

 

「若葉ちゃんもひなたちゃんもまだ寝てなかったんだね」

 

「それはこちらの台詞だ。私は皆が寝てる間に問題が起きるかもしれないから念のために起きようと思ってな」

 

「先生たちが起きてくださってるので私は止めたんですけどね。でも、真面目すぎるのも若葉ちゃんの良いところですから。今日は私もお供しようかなと」

 

 本当にこの2人は夫婦かと突っ込みたくなるくらいには互いが互いの性質を理解し、それに寄り添っている。正直怖い。そしてちょっと羨ましい。

 

「琴音こそあれからあの場所から動いてないのか?」

 

「あはは。一緒のグループになった子とは仲良く慣れたんだけどちょっと気まずくて」

 

「気まずい?」

 

 若葉ちゃんが琴音にしたら意外だ。と言う反応をした。私も自分でもこれが何なのかわからないので言葉を探り探りで脳内から採掘していく。

 

「ほら、私って楽観的じゃん?こんな状況だし、だからそのグループの子達を励まそうと思ったんだけど逆に不安にさせちゃったみたいで」

 

「『皆、琴音ちゃんほど強くないの』って言われたのですよね」

 

 私の話を補強するようにひなたちゃんが付け加えてくれた。私は思わず苦虫を噛み潰したような表情を浮かべながら小さく頷いた。

 けど、その子の言おうとしていることもわからないでもなかった。確かに無責任な言葉をいくら投げかけられようとそれは何の価値もない。彼女たちは早く自分の知る街に帰りたいのだ。それに気づいたら、私は何も話せなくなってしまった。せっかく色々と共有してまた遊びに行く約束をした後のことなので尚更ショックは大きい。

 

「ちなみに若葉ちゃんは皆との距離感を縮めることに成功しましたよ♪」

 

 ひなたが暗い雰囲気をどうにかして吹き飛ばそうとさっきまでの若葉ちゃんの情報を事細かに私に話してくれる。

 それを若葉ちゃんが顔を真っ赤にしながら止めようとしていた。私もいつかこの間に割って入れる日が来るのだろうか。いや、ない。

 私はニコニコと笑いながら2人の会話に耳を傾けた。

 

「でも、さっきはひなたが居てくれなければ私はまた距離を取られてしまうところだった」

 

 なんでもまた若葉ちゃんはクラスメイトに怖がられていたらしい。それを払拭しようとひなたちゃんが手助けしたと言うことだそうだ。そして若葉ちゃんに付き纏っていた『鉄の女』というイメージは壊せたとのこと。

 若葉ちゃんはその事がよっぽど嬉しかったのだろう。さっきから表情はどこか明るいように感じられた。

 

「なにごとにも報いを。ひなた、何かして欲しいことがあればなんでも言ってくれ。私に出来ることならなんでもする」

 

 なにごとにも報いを。これは若葉ちゃんの信念といえば良いのだろうか。祖母から受け継いだこの言葉を若葉ちゃんは大切にしている。

 ひなたちゃんはこの言葉を聞いた瞬間に目を光らせた。若葉ちゃんがそれを見て早まったかもしれない……と口を動かしたのを私は見逃さなかった。

 

「そうですね……若葉ちゃんの秘蔵コレクションを増やすためにコスプレでもしてもらいましょうか……いえ、もっと有効活用出来る方法があるはず……」

 

 何やらぶつぶつと不穏そんな事を呟くひなたちゃん。私は思うのだけどひなたちゃんは若葉ちゃんの事を考えてる時が一番イキイキとしている気がする。

 

「まあ、何をしてもらうかはまた決めます。若葉ちゃんはもっと色んな人に声をかけるべきですよ。分かってくれれば皆、もっと仲良くなれます。ね、琴音ちゃん」

 

「うん!そう思う!」

 

 私も同意するために力強く頷くと若葉ちゃんの心にひなたちゃんの言葉がより深く染み込んだのだろう。優しい笑みをその凛々しい顔に讃えた。

 3人で見つめ合って、なんだかそれが面白おかしくて。私が言葉を紡ごうとした次の瞬間ーーーーー

 

 突如地面が強く揺れ出した。

 

「これは!」

 

「今までで一番大きいんじゃない!?」

 

 まともに立っていられないほどの揺れ。私と若葉ちゃんは中腰になって自分の身体を支えるので精一杯。私が手を差し伸べて支えようとしたがひなたちゃんは揺れに耐えられず小さな悲鳴をあげて尻もちをついた。

 揺れは数秒続いた後、徐々に落ち着きを取り戻した。

 

「本殿は!?」

 

 私が後ろを振り返ると本殿はまだ原型をとどめていた。さすが歴史的建造物。と能天気に感動している傍で、若葉ちゃんはひなたちゃんに手を差し伸べた。

 

「すごい揺れだったな。ひなた、立てるか?」

 

 しかし、ひなたちゃんがその手を取ることはなく真っ青な顔で一言つぶやいた。

 

「怖い、何か怖いのが、たくさん」

 

 かたかたとひなたちゃんの身体が小刻みに震える。そして何も言わずに空を見上げた。私も若葉ちゃんも釣られるようにして顔を上げる。

 私も若葉ちゃんも同時に首を傾げた。そこには何も変哲のないの夜空。しかし、目を凝らすと次第にその姿が鮮明となる。

 

「いやいやいや!何が変哲のない夜空!?」

 

 夜空の中を輝いていると思っていた幾数千星々はまるで水面を漂うようにして蠢いていた。

 

「鳥、か?」

 

 若葉ちゃんが搾り出すような声でその正体をどうにかして自分の知り得るものへと変換しようとする。しかし、若葉ちゃんにだってわかるはずだ。あんな不規則な動きをして大群でいる鳥など見たことがないのだから。

 私は蠢く物体を目で追いながら思わず叫んだ。

 

「気持ちが悪っ!?」

 

 ずっと目で追い続けているとその姿はだんだんと近づいてきて、星か鳥だと思っていた私たちの目に恐ろしいその姿を鮮明に見せつけた。

 

 空から、絶望が降ってきたーーーーー

 

 その姿は全身真っ白で、人よりも倍デカく、不気味な口のような器官を持ち合わせ、陸生生物とは断固として言えない。不完全な進化を遂げた深海魚、もしくは無脊椎動物に見えた。それは人間の想像する進化の過程とは程遠い進化を遂げた生物で、どの枠にも収まらない。今この場で呼称をつけるのならばこう付けるべきだろうーーーーー『化け物』と。

 それも一匹だけではない。二匹、三匹、四匹と次々に落下してきたと思ったら本殿の壁や屋根を食い破り一瞬にして中へと入り込んだ。

 

 私は言葉が出なかった。あまりにも現実離れした光景。そして私は最悪にもこれに似たようなものを見た事がある。

 

(ああ、そっか。これはあの時の夢の続きで…私はまだ寝てるんだ)

 

 震える瞳孔で私はその光景をただ目に焼き続ける。

 

「なんだ、あれは」

 

 異常な光景に若葉ちゃんもその場で呆然と立ち尽くす。

 ゆらりーーーーーとひなたちゃんが立ち上がる。目はどこか異様な光が宿り、口からは呪詛のような言葉が漏れる。

 若葉ちゃんがどうしたんだ。と問おうとした瞬間、本殿の中から悲鳴と共に弾かれるようにして人々が飛び出してきた。

 

「きゃあああああああああああ!」

 

「なっ!なんだこいつらは!?」

 

 私が唇をわなわなと震わせているとガッと!力強く肩を掴まれた。ハッと意識が戻ると若葉ちゃんの顔が目の前にあった。

 

「若葉、ちゃん。これはーーーーー」

 

「これは現実だ!目を覚ませ!」

 

「う、うん!だよね、これは、そうだよね」

 

 まだ朧げな意識を吹き飛ばそうと私は頭を振った後に自分の頬を力強く叩いた。その痛覚がようやく私を本当に現実へと引き戻した。

 そして私は何を思ったのかそのまま本殿へと走り出す。それを若葉が私の服の裾を掴んで引き留めた。

 

「行くなら一緒に行く」

 

「若葉ちゃん」

 

「私も行きます」

 

 ひなたちゃんの目からも先程の異様な光は消え、今は代わりに強い意志を感じさせた。口調も元に戻っている。

 私も若葉ちゃんも色々と考える余裕は今はない。私たち3人はなだれ込むようにして本殿の中に駆け込んだ。

 

 本殿の中は目も当てられない惨状が広がっていた。

 私たちが見たものは食われる人の姿と、既に食い荒らされた人の残骸と夥しい量の鮮血。

 

「あ、あああ……」

 

 若葉ちゃんの口から呻きが漏れる。私はその隣で必死に同じ班の子が逃げたかを確認した。確か4体目が突入した位置は私たちに割り振られた中で最も近い。でも、まだ可能性はーーーーー

 

「助けて!秋山さん!」

 

 声がした方を見るとまだ1人残っていた。

 

「待ってて!すぐ助けるから!」

 

 私は急いで駆け寄ろうとする。だが、瓦礫で足を潰されてしまった彼女はそこから一歩も先に動くことはできない。私が伸ばした手の先で白い化け物によって首を噛みちぎられ、その身体がビクンビクンと痙攣した後、その命は完全に絶命した。

 彼女以外にも次々に食われ、人としての尊厳など一切合切関係無いと言わんばかりの酷い死に様を化け物は私たちに見せつけた。

 

「ううあああああああああああああああっ!!」

 

 若葉ちゃんは私よりも先に化け物に向かって駆けた。友達を殺された怒りとこれ以上誰も殺させやしないと言う責任感ゆえの突き動かされた行動。だけど、この場ではあまりにも軽率すぎる。

 

(1人ではむりだ!)

 

 私は若葉ちゃんに続く形で近くの瓦礫から瞬時に2本鋭利なものを選び、片方を若葉ちゃんの足元に投げた。

 

「若葉ちゃん!拾って!」

 

「っ!助かる!」

 

 若葉ちゃんは足元に転がされた瓦礫の先端を化け物に突き立てた。

 

「もういっちょう!」

 

 間髪入れず私も若葉ちゃんと同じ要領で瓦礫を突き刺す。

 

「あ、れ?」

 

 私の不思議な感覚は若葉ちゃんも思ったのだろう。刺した感覚がない。刺したはずなのに虚空を突いているような。頭がそれを噛み砕いて理解しようとする前に私と若葉ちゃんは祭壇に叩きつけられた。

 

「ぐっ!」

 

「いっ!」

 

 痛みが全身に走る。痛みで呼吸をするのもやっとな状況。痛みに悶えながらも動かせる頭だけで化け物のを方を見る。

 反応が素早く、先に避難できた人たちは既に外にいるだろう。しかし、逃げ遅れたクラスメイトたちが何人もいるのを見てしまった。

 

(逃げ、て!)

 

 なんとかそう伝えたかったが私の口からは掠れた声しか出ない。逃げ遅れたクラスメイト達と、そして私たちの方にも化け物は寄ってきた。

 私はここまで来たらそう簡単にやられるか!と言う決意のもと、体の奥底から力を漲らせ、痛みを無理矢理打ち消して立ち上がった。

 

「ぐっ!ぃつあああああああああああああ!こうなったらヤケだよ!私を殺してみろ!這いつくばってでも私はお前を必ず殺す!」

 

 私がこれまでに上げたことのない魂の叫びが本殿の中に響き渡る。私がまた瓦礫を手に取ろうとした時、私の手には瓦礫ではない何かが握られていた。それと同時にひなたちゃんの声が届く。

 

「若葉ちゃんは右手を伸ばしてください!そこにあるはずです!琴音ちゃんは既に掴んでいます!すぐに使えるはずです!」

 

 私はひなたちゃんの言葉に導かれるようにして、若葉ちゃんの掴んだものがなにであるかを確認する前に私は既に『それ』を構えた。

 私が手にしたのは装飾も何もないただの弓。しかし、それにはただならぬ力が眠っていると確信が持てた。

 標準を合わせ、弦を引けば自ずと矢は引き絞られた。あとは一思いに弾くだけ。

 

「神様、とりあえずありがとう!!」

 

 限界まで引き絞られた弦は音を置き去りにして、光の矢を放つ。放たれた光の矢は瞬きも許さぬ一瞬で化け物の身体を貫いた。

 そしてそのすぐ近くでチリン。と静かな鈴のような音が鳴ったと同時に錆びていたはずの刀が抜刀され、本殿にいたもう一体の化け物を真っ二つに裂く。

 

 若葉ちゃんが手にした古い刀はかつて【無数の武器】の名を持つ土地神がいた。その土地神は自らの土地と子を守ろうと仲間と共に武器を持って立ち上がった。そのいくつかの神器の中に、冥府に由来する一つの刀がある。単純で、それゆえに美しい。名を【生太刀】。

 私が手にしたのは同じく冥府に由来する一つの弓。地の三種の神器が一鶴。名を【生弓矢】。

 

 錆びて今にも朽ち果てそうであった二つの神器はいつの間にか瑞々しく、生きているかのような輝きを放っていた。

 

 若葉ちゃんは刀身を鞘に納め、左足を踏み出して柄を握り、敵の姿を見据えた。幼い頃から繰り返してきた鍛錬がその身を動かす。

 私も両足を開き、弓を構え、両拳に同じ高さに上げた。本当は色々な作法があるのだけれどそれを全てすっ飛ばし、会と呼ばれる弦を引いた状態にしてすぐに矢を放てる状態にした。

 

「琴音は右をやれ。私は左をやる」

 

「任せなさいよ。一発で仕留めるからさ」

 

「なんだか頼もしく感じるな」

 

「軽口を叩く余裕があるなら若葉ちゃんも大丈夫だね」

 

「ふっ。そうだな。よし!行くぞ!」

 

 化け物達も私たちが脅威であると感じたのか他の人たちを無視して両方向から迫り来る。

 

「ふう……。真っ直ぐ突っ込んできてくれるだけならありがたいね」

 

 若葉ちゃんの声を合図に私は弓と心身を一体化させ、目の前に迫る化け物のみに集中する。そして再び限界まで弦を引き絞り、躊躇うことなくその矢を世界に解き放った。

 矢は逸れることなくまっすぐに化け物へと直進し、身体を貫通した。すると化け物は形容し難い呻き声のようなものをあげ、その姿を無へと変えた。私がその一体を倒し終わり、残心の状態で息を小さく吐くころには若葉ちゃんも化け物を倒し終わっていた。

 若葉ちゃんは汗一つかかず、飄々とした様子で私の方に駆け寄る。私はそんな若葉ちゃんを見てフニャッと笑った。

 

「いつもの手順踏んでたら死んでたよお」

 

「もう少し役割分担がしっかりとできればいいのだが」

 

「それはそうかも。でも、やれたから完璧」

 

 私がいえい!とVサインを見せるても若葉ちゃんの表情はまだ浮かない。それもそのはずだろう。外からまだ悲鳴が聞こえる以上、あの4体だけではないから。

 

「若葉ちゃん!琴音ちゃん!外にもあの化け物が溢れています!」

 

 ひなたちゃんの声で確証を得た私たちは再び武器を構えた。

 

「私が基本的に前衛で戦う。琴音は援護を」

 

「うん!期待しといてよね!」

 

 若葉ちゃんは頷くと電光石火の如く本殿を飛び出し、すぐさま外にいた一体を切り伏せた。

 

(速くない!?)

 

 ちょっと待ってくださいよ。と私は若葉ちゃんの肩を叩きたくなる気分。なるほどこれが漫画などで見る覚醒イベントか。なんて言うアホな考えを思考の端に追いやり、私は目で若葉ちゃんを追いながら矢をつがえる。

 一挙手一投足見逃さぬよう、若葉ちゃんの行動の着地点を予測し、そこに標準を合わせた。

 あの白い化け物が最も重大な脅威として若葉ちゃんを再度認識したはず。あれが仮にでも生物だとするならば私を狙うのは若葉ちゃんを仕留めた後。

 

(さあ、来い!)

 

 若葉ちゃんも私の狙いに気が付いたのか。それとも偶然か。若葉ちゃんが回避行動をとった後、私の直線上に化け物が入り込む。

 直後、私の放った矢は化け物の脳天に突き刺さり、その命を終えた。

 周囲を見渡すと化け物はおらず、化け物に怯え震える人とこんな状況だからこそと気丈に振る舞う人たちだけが残されていた。

 私もようやく緊張の糸が切れ、弓を下ろすと若葉ちゃんが小走りで私に駆け寄る。

 

「怪我はないか?今ので全部だとは思うが」

 

「私は大丈夫。若葉ちゃんの活躍のおかげでね。私、何もしてないや」

 

「いや、最後は助かった。少し体勢を崩していてな」

 

 若葉ちゃんもふう。と一息ついて瞼を伏せた時だった。私たち2人の空気が弛緩その一瞬を狙ったのか。少し遠くで何かが煌めいた。

 私は慌てて若葉ちゃんの頭を掴むと、自分の身体と共に叩きつける勢いで地面に伏せた。

 その僅か1秒もなかっただろう間に私の10メートルほど先にあった巨石が轟音と共に弾け飛んだ。私の喉奥が呼吸を忘れ、息だけを飲む。

 

「まだいたのか!今度こそーーーー」

 

 若葉ちゃんがすぐさま立ち上がり、光が飛んできた方向を睨む。しかし若葉ちゃんは口を震わせながら目に動揺が走った。私も遅れながらもその姿を視認した。

 

「は、ははは。どうなってるの……」

 

 苦笑いが止まらないとはこのことか。

 化け物はその姿を先程までの姿ではない。しかもその量は一体どころの騒ぎではなかった。一体、また一体と姿を変化させ新たなる個体となって私たちの目の前に姿を現す。あるものは弓のように。あるものは身体の一部を隆起させ、それはまるで刀の頭身のようだった。

 化け物は倒し切ったのではない。密かに融合し、進化体になり、私たちが油断した隙をついてきた。

 

(コイツら、知性でもあるの?それとも生物としての本能的なもの?)

 

 これ以上の絶望を私は知らない。いくら失敗しようと負けようと、私は私であることを忘れたことはない。だけどこの時だけは心が折れそうになった。

 

(勝てるわけがない)

 

 私はこの時生まれて初めて本当の絶望というものを味わった。

 若葉ちゃんも同様なのか、勝算と言う言葉が既にない。今にも全身が崩れそうになったその時だった。

 

「あきらめないでください!若葉ちゃん!琴音ちゃん!」

 

「ひなた?」

 

「ひなたちゃん?」

 

「お二人を、みんなは絶対に死なせません」

 

 はっきりと、確信を持ったような口調でひなたはそう言った。

 どうするの?と私がそんな野暮な事を口走る前にひなたちゃんはその場に生き残った人々に向かって叫んだ。

 

「私について来てください!みなさんを安全な場所にまで誘導します!」

 

 そして迷いのない歩調でひなたちゃんは先陣を切った。その姿は本当に同い年なのか。その凛とした様子は自然と人々をその気にさせた。若葉ちゃんは戸惑いを隠せない様子でひなたちゃんに問う。

 

「ひなた、どこへ……」

 

「若葉ちゃんは露払いをお願いします」

 

「……わかった。生き残りたい者は私たちについて来い!」

 

 親友を信じ、若葉ちゃんはひなたちゃんと共に走り出した。それに追随するように戸惑いながらも、他の人々は同行する。だが、私は従わなかった。

 

「琴音も来い!」

 

 そう叫ぶ若葉ちゃんの声が届いた。若葉ちゃんとひなたちゃんは背を向けたが故に気づいていない。もう逃げ切れるほど距離が離れていないと言うことに。

 きっとついて行けば安全地帯に出れて、命を繋げるだろう。今対峙している化け物のうち、数体はいい。おそらく近距離でしか私たちに傷はつけられない。だけどあの私たちを攻撃して来た弓のような化け物は?目算ではあるがまだ射程圏内だ。今にも殺されてもおかしくない。

 この選択が間違いでない事を祈りながら私は弓を構えた。若葉ちゃんは今一度私の方を振り向く。しかし、言葉を途中で詰まらせた。若葉ちゃんも気づいたのだと容易に想像がつく。

 

「琴音!今は奴らに構うな!こっちに来ーーーー」

 

 頷いて自分の覚悟が揺るがないようにするため、私は若葉ちゃんに背を向けたまま声を張り上げる。

 

「私なら後で合流する!いいから行って!」

 

「っ!!わかった。必ず来い。待ってるからな」

 

 私は若葉ちゃんの方を振り向かず力強く頷いた。そして長い髪を無造作に持っていたヘアゴムで結び、不敵な笑みを浮かべる。

 弓を構え、私はこの絶望に満ちた世界に抗うためにこの世界に自分の名を刻み込んだ。

 

「さあさあ!かかって来い化け物ども!殺す気で来い!ここからは秋山琴音が相手してやる!」

 

 気分は悪くない。むしろ最高に楽しい。この命が常に天秤に乗せられた感覚。寸分でも狂えば何もかもがこぼれ落ちる。

 

 この時、本当の意味で私の物語は始まった。生きるか死ぬか。この世界に残されたたった二つの選択肢。私は一体この先、そのどちらを手にするのか。それは神のみぞ知るーーーーーーーー

 

 

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