少女は星を追いかける   作:まんじゅう卍

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第4話 開演

 私が戦装束を纏い、若葉ちゃんに合流する頃には既に友奈ちゃんや千景さんは合流していた。

 スマートフォンの画面には若葉ちゃん達の位置と、バーテックスの位置が記載されており、すぐに合流することができた。

 友奈ちゃんが私を見るなりびっくりした様子を見せるので、私は何事かと若葉ちゃんを見た。

 

「もう私たちが着替えていることに驚いているんだ」

 

「そうなんだ。良かったぁ。似合ってないとか言われるのかと思った」

 

 私の戦装束は少しだけ様子が変わっており、以前は灰色っぽく、渋い感じの青色が混ざっていた。しかし今は何色にでも変わることのできる白色に変化していた。どういうわけか、杏ちゃんと似たり寄ったりの色合いである。

 戦装束はそれぞれ勇者ごとに違い、モチーフとされている花がある。私の花は『サルビア』と呼ばれる花で、様々な色を持っているらしい。

 私はこれに関しては勝手に考察をしている。私のその時の心持ちで勇者の戦装束の色合いが変わるのではないか、と。

 「どうよ」とくるりと一回りしてみると、友奈ちゃんは良い反応を見せてくれたが、若葉ちゃんは私に厳しい視線を向けた。

 

「戦うのに見た目に気を遣っている暇などないというのに、相変わらず呑気だな」

 

「こんな時だから呑気に行かないと。ユウちゃんは私を助けに来てくれたから、一応戦闘経験はあるだろうけど、千景さんは初陣なわけだしね。堅苦しくても戦いずらいって」

 

「それはその通りだが……」

 

 何かまだ私に何かを言おうとしたところで、遮るように、千景さんはぼそりと呟いた。

 

「これが樹海化ね…」

 

「樹海化のことは聞いていたけど、こんな風になるなんてすごいよね!さすが神樹様!」

 

 樹海とは神樹様が作り出した結界的なもので、世界全体を巨大な蔓でを覆う。その光景はまるで異世界で、現実味は一つも感じられない。

 しかし結界といっても、無制限に現実の世界が全て守られるわけではない。バーテックスの攻撃で樹海に傷がつけば、その分のフィードバックが現実世界に向かう。

 加えて樹海化は神樹様のエネルギーを多く浪費するので、早めにバーテックスを撃退する必要がある。今の四国は神樹様からもたらされるエネルギーによって生活が保たれている。神樹様のエネルギーがなくなってしまえば一貫の終わり。人類は四国内で生活ができなくなるのだ。

 

「おぉーい!みんなー!」

 

 大きな声と共にタマちゃんが走ってくる。杏ちゃんはタマちゃんに手を引かれるようにして後ろを追ってきた。

 

「悪い、遅くなった!」

 

 タマちゃんの武器は鋭い刃がついた円盤。旋刃盤を、杏ちゃんは連射式のようなクロスボウを手に持っている。

 

「全員揃ったな。…これが土居、伊予島、郡さんの初陣だ。我々の手でバーテックスを打ち倒す」

 

 仲間の勇者たちに若葉ちゃんは告げる。人類が舐めさせられた辛酸を、奴らに思い知らせてやろう。と。

 

「私、友奈、琴音は既にバーテックスとの戦闘を経験しているが、油断せずに行こう」

 

「もちろん」

 

「任せといて!」

 

 私と友奈ちゃんの頼もしい返事に若葉ちゃんは頷く。

 

「それはいいけど…当然、乃木さん。あなたが戦闘で戦うのよね…。リーダーなのだから」

 

 千景さんが若葉ちゃんに試すような視線を向ける。

 場の空気が濁るように険悪さを帯びたのを、私は肌で感じ取った。

 

「誰が先頭とかじゃなくて、みんなで戦う。それがチームってものですよ」

 

 呆れたような口調で反論したのはタマちゃんだった。

 

「チームワーク……」

 

 咀嚼するように千景さんは呟いた後、杏ちゃんに目を向けた。私もそれにつられて杏ちゃんを見ると、身体を小刻みに震わせ、顔色も悪い。

 一眼見て、怯えているとわかった。

 

「伊予島さんは……戦えるのかしら?」

 

「………」

 

 杏ちゃんは俯いたままで、何も答えられなかった。むしろ皆の視線が集まってしまい、さらに萎縮するばかりだ。

 見てられなくなって、私は間に入る。

 

「まあまあ。千景さん。誰でも怖いですよ。あんな化け物と戦うの」

 

「あなたには……何も聞いてないの…だけど」

 

「あ。はい」

 

 ものすごく怖い目を向けられ、私はすごすごと引き下がった。千景さんは、以降も杏ちゃんへの口撃をやめない。

 

「土居さん達が遅れたのも…伊予島さんが萎縮して動けなくなったからでは……?そんなあなた達がチームワークを…語るものではないわ。ましてや……」

 

「そ、それ以上は千景さんストップ!」

 

「郡さん。言い過ぎです」

 

 私と若葉ちゃんに続きを遮られ、千景さんは面白くなさそうに目を逸らす。

 

「伊予島。怖いのはわかるが私たちが戦わなければ人類が滅ぶんだ。覚悟を決めろ」

 

「ご、ごめんなさい…」

 

 杏ちゃんが目に涙を浮かべたところで、杏ちゃんを守るように前にタマちゃんが立ち塞がる。

 そんな3人を見ながら千景さんが皮肉げに目を細めた。

 

「兵士の士気高揚も指揮官のつとめ……。乃木さん…あなたがリーダーとしての資質がないから……このような事になってるのでは?」

 

「……!」

 

 その言葉を受け、若葉ちゃんは顔を歪めた。

 

(い、痛いところつくなぁ……。若葉ちゃん、多分1番気にしてるところだってひなたちゃん言ってた所じゃん…)

 

 先程以上に淀みが増し、戦闘どころか味方で内輪揉めして自滅するのではないかとさえ思わされた。その空気を吹き飛ばすように友奈ちゃんが声を上げた。

 

「みんな、仲良しなのはいいけど、話し合いは後にしようよ!」

 

 友奈の言葉は争っていた3人の頭の働きを鈍らせた。3人とも、次の言葉が出てこないと言った様子だ。

 私はその様子を見て思わず声を上げて笑った。

 

「あははははは!仲良しっ!良いね!喧嘩するほど仲がいいとは昔からよく言うものよ」

 

 友奈ちゃんに集まっていた視線が、次は私の方へと集中する。私は目尻に浮かんだ涙を拭い、皆の方を見た。

 

「「「仲良し?今のが?」」」

 

 3人が同時にツッコミを入れる。そして3人とも同時に「ないない」と手を横に振る。

 私は友奈ちゃんの方を向くと、友奈ちゃんも私の方を見ていた。

 

「ユウちゃん。私たちの感性は変みたいだよ」

 

「残念だね。琴ちゃん…」

 

 2人ともしてショックを受けるのも束の間。私は皆の方を今一度見る。

 

「仲良しだ。そうじゃないは置いといて。今こうなってる全部の要因はあいつらでしょ?若葉ちゃん」

 

 私が親指を後ろに向けると、指の先ではバーテックス達がこちらの様子を伺っている。

 もうそこまで来ていたのかと若葉ちゃんに動揺が走るが、私の一言ですべきことが定まったみたいだ。

 タマちゃんと千景さんも気まずそうに顔を見合わせる。

 

「ま、そうだな」

 

「秋山さんの…言う通りね」

 

 杏ちゃんは怯えているけれど、そこは私か若葉ちゃんでカバーすればいい。物事大抵どうにかなるものだ。今回は仲間がいる。私は、それだけであの孤独な戦い以上に力を発揮できるというもの。

 

「よしっ!じゃあタマ達もそろそろ気合いいれっかっ!」

 

 私と若葉ちゃん以外の4人も携帯を取り出し、アプリを起動させる。

 すると、それぞれが異なる服装を纏った。

 

 友奈ちゃんの装束は、山桜を思わせる桃色

 千景さんの装束は、彼岸花を思わせる紅色

 タマちゃんの装束は、姫百合を思わせる橙色

 

 しかし、杏ちゃんのだけは変化が起こらなかった。勇者の振るう力は、精神面に左右されるため、覚悟と意志を固めなければ、勇者となることはできない。

 

「…………」

 

 変身できなかった杏ちゃんを千景さんは無言で見つめた。

 

「…ごめん、なさい……」

 

 杏ちゃんはまた謝ることしかできなかった。そんな杏ちゃんを励ますようにタマちゃんが肩を叩いた。

 

「気にすんな!タマ達が全部倒してくるから!」

 

「うん……」

 

 悲しげに俯く杏ちゃんに、今一度タマちゃんは笑いかける。

 準備運動をしている友奈ちゃんの隣に、私は並んだ。

 

「2回目となると緊張はしない?」

 

「うん!それにね、私も四国にたどり着くまでに沢山戦ったから!」

 

「そっか。今更だけど、助けに来てくれて嬉しかったよ」

 

「お礼は全部終わってから聞くよ。琴ちゃん、今は目の前の敵に集中しよ!」

 

 確かにそうだ、と私は頷いて【生弓矢】を構える。

 友奈ちゃんがスマホで敵の数を数えているところを、私は横から覗き込んだ。

 

(距離は3キロ…数は50体くらいか。なんとかなる数だけど……。戦えない杏ちゃんを置いておくわけには行かないし…)

 

 若葉ちゃんもスマホの画面で敵の位置と数を把握し終わったのか、スマホをしまうと手に持つ刀。【生太刀】を抜刀した。

 私は友奈ちゃんと「がんばろ」と拳と拳をぶつけ合わせた後、若葉ちゃんに声をかけた。

 

「若葉ちゃん。私は弓で今回援護するから杏ちゃんのそばにいるよ。だから、思う存分暴れてきて」

 

「あぁ。言われなくてもそうするつもりだ。それと、郡さん。先程は生意気を言ってしまってすみませんでした。口ではなく、行動で示すべきですね」

 

 若葉ちゃんは千景さんにそう言うと、一気に跳躍した。一回の跳躍で、1キロを消滅させると、敵集団に肉薄した。

 

「うおおおおおおおおおぉ!」

 

 既に鞘から引き抜かれていた刀が、閃光の如き速さで先頭にいた敵を一刀両断する。斬られた死体が消える前に、更に奥の一体。更に一体と次々に切り伏せていく。

 若葉ちゃんの刀捌きは3年前、バーテックスが初めて襲来した時とは比べ物にならないほどに洗練されていた。

 群がってくるバーテックス達を一切近づけさせることなく、若葉ちゃんは進み続け、四国全土に響けと言わんばかりに声を上げた。

 

「勇者よ!私に続け!!」

 

 単騎で突撃し、次々にバーテックスを屠る若葉ちゃんの後ろ姿を見て、タマちゃんの口から思わず言葉が漏れる。

 

「若葉のやつ、すっごい……」

 

 その姿に感化されたのか、タマちゃんは自分の頬を強く叩いて気合いを入れると、杏ちゃんに振り向いた。

 

「杏はここにいろ!タマが全部倒してくるから!」

 

 そう言ってタマちゃんはバーテックスの群れの中へとその身を投じた。遅れるなと言わんばかりに友奈ちゃんも、バーテックスの方へと跳躍した。

 残されたのは杏ちゃん。私。そして郡さんの3人。気まずい空気が流れる。

 

「あなたは……なぜ残ったの?」

 

 自分に対する問いだと気づいて、私は千景さんの方を見る。

 

「杏ちゃんが心配だったから残っただけです」

 

 しかし、私の言ったことが信じられないのか、値踏みをするような目を向けられる。

 この人も恐怖で普段の自分を忘れてしまっているのではないかとさえ、私には思えた。口には出さないけど。

 

「本当は……戦いたくないだけ…とかではないの?」

 

「私、どちらかと言われれば戦闘狂ですよ。多分、とあるゲームでクラス分けされるならバーサーカーになります」

 

「余裕そうなの…気に食わない…わね」

 

「これが私の取り柄なもので。っと、ちょっと千景さん離れてください」

 

 私はすぐさま弓を引き、矢をつがえる。その先には友奈ちゃん。友奈ちゃんの背後にはバーテックスが迫っている。

 私は友奈ちゃんの動きに合わせて狙いを定めると、バーテックスに向けて矢を放った。

 その矢は見事に命中する。自分でも、この半年間続けてきた鍛錬の成果が出てるのがわかるくらいに、離れた動く目標へと正確に矢を放つことができ成長を実感した。

 次に私は再び矢をつがえ、遥か遠くの若葉ちゃんの方へと援護射撃を行った。その矢は綺麗な弾道を描きながら、見事バーテックスへと命中する。若葉ちゃんが目だけで感謝を伝えてくれたのを受け取り、私は千景さんに向き直った。

 千景さんは面白くなさそうに私を見る。

 

「もう……いいわ…」

 

 それだけ言うと、私から視線を外し、前線で戦う友奈ちゃんへと目を向けた。

 友奈ちゃんもこの3年間で、自らの武器を有効活用できるように、打撃系の格闘技を徹底的に教え込まれた。

 その成果が身を結んでいるからか、滑らかな動作から放たれる力強い一撃の拳が、バーテックスの巨体を撃ち抜く。

 

「あの、琴音さん」

 

「どったの?杏ちゃん」

 

「前、琴音さんは言いましたよね。力が強いだけが強さじゃないって……。私、その言葉に感動して、それ以来何か出来ることがあるかもしれないって頑張ってきました。でも、心が弱ければ何も意味はない…ですよね」

 

 尻すぼみに小さくなっていく杏ちゃんに、私はどう声をかけるべきかを迷った。

 安っぽい言葉を、こう言う時にかけたいとは私は思わない人種らしい。

 

「確かに心が弱ければ、身体が考えに追いつかないからね。わかるよ。私も実際、そうなったことあるから」

 

 大阪で左眼の視力を失い、周りから食糧難に陥ることに対する責任を問い詰める声と罵声。

 心折れた私は、こうしなくてはいけない。と思いながらも、現実から目を背き続けた。希望がいなければ全て捨てていただろう。

 

(そうだ。これを伝えればいいんだ)

 

 私にとって、あの時全力で戦ったのは希望を失いたくなかったからだ。希望のためなら、私はなんだって出来る気がした。だから今一度頑張って、ここまで辿り着いたのだ。

 

「杏ちゃん。守りたい人はいない?」

 

「えっ?」

 

「さっきから私と話してる間も、ずっとタマちゃんの方見てるでしょ」

 

「す、すみません……」

 

「違う違う!怒ってるわけじゃないから。タマちゃんの事、気になって仕方ないんでしょ?」

 

「………っ!」

 

 杏ちゃんの目が、ようやく私の目をとらえた。私はニカッ!と笑って杏ちゃんの背中を押す。

 

「私、いけます。タマッチ先輩と一緒なら!」

 

 次の瞬間、杏ちゃんのアプリが勝手に起動し、私の勇者の戦装束以上に純白な、白いストックを思わせる装束を杏ちゃんは纏う。

 

「変身…できた……」

 

 杏ちゃんは自分の身に起きた変化をしばらく呆然と見ていたが、タマちゃんに再び視線を戻すと、「タマッチ先輩!危ない!」と声を上げる。

 私も慌てて視線を戻すと、タマちゃんの退路を塞ぐようにして、一体のバーテックスが口を開け、今にも噛みちぎろうとしていた。

 私が弓を構えるよりも前に、杏ちゃんは跳躍すると、クロスボウを構え、空中で金色の矢を幾つも放った。

 その矢は退路を塞いでいたバーテックスに全て刺さり、致命傷を受けたバーテックスは音も立てずに消えていく。

 

「良かった。杏ちゃん、大手柄だ!」

 

 私も胸を撫で下ろし、今一度気を引き締めると【生弓矢】を担いだ。そして、腰に括り付けてあった【倶利伽羅剣】を鞘ごと引き抜く。

 私は千景さんの方を向き直った。

 

「千景さんは私の言葉より、ユウちゃんの方がいいでしょう。と言うわけでユウちゃんバトンタッチ!」

 

 私がそう言うと同時に、友奈ちゃんが千景さんの隣に着地する。

 友奈ちゃんが私に頷いたのを確認してから、私は入れ替わるように前線へと飛び出した。

 

(久しぶりの実戦だけど……。果たして頭は回るかな〜)

 

 バーテックスに肉薄するために必要な跳躍は現在2回。その間に全ての状況を頭に入れる。

 一回目の跳躍で味方の位置を。二回目でバーテックスの位置。

 

(よしっ!完璧!今、私がすることは一つだけだね!)

 

 友奈ちゃんが離れたことにより、若葉ちゃんに向かって行ったバーテックスを引き継ぎ、距離を離すこと。これしかあるまい。

 私は着地をする寸前に刀の柄を握る。イメージするのは若葉ちゃんの居合いだ。この一年。自分の中で思い描く、弓矢のイメージとそれだけを繰り返してきた。

 

「はあっ!!」

 

 今しかない!と言うタイミングで、私は刀を引き抜いた。【倶利伽羅剣】の刀身が赤い稲妻を纏って、バーテックスを一閃する。

 それを合図に、バーテックス達は私にも標的としての認識を持つ。私は5体のバーテックスを引き離すことに成功した。

 私は引くと見せかけ、追い討ちをするために一気に距離を詰めたバーテックスをカウンターで斬り落とす。

 一瞬にして5体のバーテックスが消滅した。

 

(進化体が出ない限りは優勢に進めれそうだね)

 

 若葉ちゃんを取り囲むバーテックスを一体一体確実に屠りながら、私は友奈ちゃんと千景さんの方へ目をやる。

 変身ができていた千景さんが、戦いに向かえなかったのは杏ちゃん同様の恐怖心だろう。その恐怖心を和らげるには、友奈ちゃんしかいない。そう踏んだのは正解だった。

 

(私が未熟なせいで、千景さんが私に心を開いてくれないだけなんだけどね〜)

 

 まだ千景さんは私にそこまでの気はないらしい。希望とは最近よく親しげに話しているところを見ると言うのに。

 千景さんは武器である大鎌を振りかぶる。人の背丈以上の大鎌を、細い腕で振りかぶれるだけで、神の力を持っている何よりの証拠となる。

 振りかぶった大鎌を、迫っていたバーテックスに振り下ろすと綺麗に両断した。

 おお〜。と思わず拍手したくなったが、危険なのでやめておいた。その後も、千景さんは友奈ちゃんと共に一体ずつ撃破していく。

 

「っと、人のことばっかり気にしてる場合でもないよね」

 

 私は気がつけば再び5体のバーテックスに囲まれている。しかし、その5体は私のものとは別の攻撃によって、すぐにその姿を消した。

 背中越しに感じた温もりは誰のものかすぐにわかった。

 

「弓で援護するのではなかったのか?」

 

「杏ちゃんも返信できたからね。それに、若葉ちゃんを1人にするのも幼馴染として失格だよ」

 

 私を含め、タマちゃん、杏ちゃん、友奈ちゃん、千景さんが戦えているのは先頭で多くのバーテックスを引きつけてくれている若葉ちゃんの存在があったからだ。

 

「残り25体近く。私に合わせられるか?」

 

「もっちろん。私の若葉ちゃんが動く先を見極める能力はひなたちゃんにも劣らないからね」

 

 私の返事に、若葉ちゃんはクスリと笑う。

 

「そうか。なら、ついてこい!」

 

「OK!」

 

 私と若葉は同時に駆け出す。1年前では考えられなかったが、積み重ねた鍛錬の成果が身を結び、若葉ちゃんの動きについていけた。

 私はそれに気づいた瞬間、頭で考えるのをやめ、反射で若葉ちゃんの動きを読み取り、それに則した動きをする。

 

 戦闘が順調に進み、数が5分の1にまで減少した時、バーテックス達に変化が訪れた。

 何体かが一箇所に集まり、『進化』を始めたのだ。

 この進化の様子を初めて見たタマちゃんや杏ちゃん、千景さんはその様子を見て首を傾げた。

 進化体がいる。と言うのは授業で伝えられている。進化したバーテックスは通常個体と比べて格段に強い。しかし、進化したバーテックスは棒状で、元の個体に比べて牙もなく、全くと強そうに見えない。

 若葉ちゃんと共に戦っていた私は、何が起きたのかをすぐに把握する。

 

「若葉ちゃん、私が行く」

 

 私は若葉ちゃんの許可も得ずに、真っ直ぐ進化体めがけて跳躍した。

 その先では杏ちゃんがクロスボウから矢を放っているが、進化体の身体から出てきた板状のものに妨害されている。

 おまけにその板は反射板で、杏ちゃんの矢は簡単に弾かれた。弾かれた矢は、杏ちゃんめがけて襲いかかった。

 

「あぶねえっ!」

 

 それを旋刃盤を楯状に変化させたタマちゃんが防ぐ。

 

「ありがとう、タマッチ先輩」

 

 タマちゃんに感謝をする杏ちゃん。私は一連の流れから、構えようとしていた【生弓矢】をやめ、【倶利伽羅剣】でそのまま進化体めがけて突っ込んだ。

 

「はああああぁああ!!」

 

 私が【倶利伽羅剣】を振り下ろすと、鈍い音と共に攻撃が弾かれた。

 

「あはははっ!一回では効かないんだ!それなら、何度でも攻撃すればいいよね!」

 

 1人で大阪で戦っていた時とは全く異なる高揚感。

 私は自分の内側に意識を集中させる。この感覚は以前にも味わった。力の流れはすでに把握している。

 神樹様は地上のあらゆるものを概念的に蓄積している。その記録にアクセスして、自らの身体に顕現させる。自分の意志で精霊を降ろすのは初めてだが、なんとかなるだろう。

 私が選び出したのは毘沙門天の化身として、戦国の世を生き抜いた越後の龍。『上杉謙信』

 上杉謙信は愛刀家としても知られ、彼が愛した刀は26本。その全ての刀が、私の周囲を覆うように展開された。

 気がつけば勇者の戦装束も姿を変えていた。白く純白であったはずの装束は漆黒となり、首元を純白なスカーフが覆う。謙信は行人包というものを被っていたが、それのアレンジだ。

 

「さあ!覚悟しろ!」

 

 私は26本あるうちの、一本の太刀を握る。それと同時に地面を蹴った。先程以上の速度で私は樹海を駆け回る。その速度を維持したまま、私は自分の周りに還元している26本の刀を何度も持ち替え、進化体に斬撃を加えた。

 一度斬撃を与えるたびに一つ消えていく。だが、一本一本の威力は凄まじく、一度で百体のバーテックスを倒せると言えても過言ではない。

 

「これで!ラストっ!!」

 

 最後の一本となりはしたが、私は進化体を粉々に砕け散らかせた。

 『精霊』を降ろす『切り札』は身体に大きな負担がかかるため、あまり大社からは使うなと言われていたが、今のところは特に何も感じない。

 ぐるぐると腕を回して状態を確認している間に、切り札は解け、先程と同じ装束に戻った。

 そんな私に飛びつくようにしてタマちゃんが駆け寄った。

 

「琴音、すごいなっ!タマはお前を見直したぞっ」

 

「そう?もっと褒めてくれてもいいよ」

 

「おうっ!根を上げるまでタマが頭を撫でてやる」

 

 タマちゃんはそう言うと、背伸びして私の頭に手を伸ばす。私の頭を撫でるタマちゃんの手つきは、完全に犬を撫でるそれだった。

 私はペットにでも思われてるのでしょうか。

 タマちゃんにされるがままに、頭を撫でられていると杏ちゃんも合流した。

 

「すごい活躍だったじゃん。やれば出来るものでしょ」

 

「はい。琴音さんのおかげで私、みんなと一緒に戦えました」

 

「お礼に杏も琴音の頭を撫でるといいぞっ。こいつの髪の毛、すごい触り心地だ」

 

「タマちゃんにも今度使ってるシャンプー教えてあげるよ〜」

 

 私たちは完全に全ての敵を倒し終わったと思っており、呑気に会話していたのだが、少し離れた位置から何かを噛みちぎる音がした。

 私たち3人は一斉にそちらを向く。

 

(まさか!誰かやられた!?)

 

 慌てて振り向いたのだが、目に映った光景は無意識に顔を引き攣らせた。

 

「まずい。とても食えたものではないな」

 

 そう言いながら、若葉ちゃんはバーテックスの一部を飲み込んだ。先程の噛みちぎる音は、若葉ちゃんが噛みちぎった音だったらしい。

 

「タマ、若葉のこと怒らせるのやめることにする」

 

「わ、私も」

 

 タマちゃんと杏ちゃんは若葉ちゃんの狂気じみた行動に、恐れをなしていた。

 逆に私はバーテックスの味が気になって仕方がなかった。同時に不味いという事実を知らされ、若干のショックを受けた。

 

「……バーテックス、不味いんだ……」

 

「「そっち??」」

 

「いつか食べてみたいなあ。なんて思ってのに……」

 

 私のそんなぼやきは、2人からの視線を変態を見る目へと変貌させていったのだった。

 

 




今回も見てくださってありがとうございます!
良ければ感想や評価の方していってください。物語を書く上でのモチベになります!

それではまた次回に!
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