少女は星を追いかける   作:まんじゅう卍

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第7話 新しい力

 2016年 7月

 

 琴音ちゃんがこの地下に来てから1年が経った。彼女が来てから本当にここは安定した。きっと彼女が居なければ私たちは自滅という道を辿っていただろう。

 多くの人は彼女が身体を張って毎日のように外へ出ては物資を運び、必要なものがあればまた外に出て、時には喧嘩の仲裁まで行った。どの人も彼女に感謝している。だけどそれは裏返せば、彼女に頼りすぎている事に他ならない。

 そろそろ気づかなければ。彼女の身体と心が壊れる前に。

 

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 世界が絶望に染まった日から1年が経とうとしていた。私としては良くもまあ怪我もせずに生き残っているなという感じだ。と言うかなんでこの状況下で1年間持ち堪えたか誰か教えて欲しい。

 ただ私はあの出来事以来、より一層争いごとが起きないように最大限の注意を払いながら、地下避難場所での生活を送った。

 私は彼らに戻ってきて欲しいとは思わない。それでも、死んだ人は2度と戻って来ないという事を痛烈に私の心の内側に刻み込んだ。彼らの狙いがそれなのだとしたら、私は最後の最後でしてやられてわけである。

 私の中の変化と言えば、急に身長が伸びた。何と160センチ。平均よりも少し高いくらい。それと僅かだが胸が大きくなった。でも、悲しいかな。こちらはもう成長の見込みはない……。

 私は自分の胸を見下ろし、軽く触ってみるが本などでよく表現されるような擬音は出るわけもなく感触もない。

 

「琴音〜。これ見てよこれ〜」

 

 私が絶望に明け暮れていると、馴染み深い声が耳に飛び込んできた。その声はやけに楽しそうである。

 希望は私と同様に身長がかなり伸びた。推定159。測定してもらった時に勝った!と勝ち鬨を上げたのは記憶に新しい。だが、しかし。それ以外の全部で私は負けているのだ。

 私はじっと希望の身体を見つめて見た。希望が可愛らしく首を傾げたところで私の中の火山が噴火を起こす。

 

「希望はどうして一層磨きがかかってるのに私は!」

 

「ど、どうしたの琴音。落ち着きなよ」

 

 突然の私の心からの叫びに希望は狼狽えまくっている。そりゃそうだろう。友達が脈絡もなく叫び出したら怖いに決まってる。

 だが、その程度で私の噴火は収まるわけもない。今の私はベスビオス山だと思って欲しい。

 

「落ち着いてられるか!?私、このままだと年齢イコール彼氏いない歴まっしぐらだよ!」

 

「きょ、今日はやけに尖ってらっしゃるね。何かあった?」

 

「何もない」

 

「急に落ち着かないでよ。風邪ひいちゃうじゃん」

 

「それで、希望は私に何を見せに来たの?」

 

 完全に私のペースなせいで会話はガタガタである。希望は呆れてはいるが、その表情は柔らかい。私は最近、ずっと希望に甘えてばかりだ。

 

「本当に急に戻るね。怖いよ。それで、見せたかったのはこれ」

 

 そう言うと希望はカバンの中からとんでもないものを取り出した。それはいささか普通のものではない。

 私はこの普通ではない代物の解説をできるほどの言葉を持ち合わせていない。なので結論だけ言おう。希望が持ってきたのは明らかに気配がおかしい刀である。

 今は鞘に納刀されてはいるものの、鞘単体でも見る人によっては気絶するほどの圧力を放っていた。これを普通に持ってる希望はやはりおかしい。

 

「天誅?」

 

「なんで私が琴音を斬らないとダメなのさ」

 

「私悪いことしたかなって」

 

「してないでしょ」

 

 冷静に私にツッコミながら、希望は私の手に刀を握らせた。ズシリとしたその重みは1年間共に駆け抜けた【生弓矢】よりもかなり重たい。

 片手で持てる限界値を聞かれれば私はもれなくこの刀を指名するだろう。

 

「おっも!こんなのどこで手に入れてきたの!それとなんでこれ持てた!?」

 

「だって私、別にそこまで重たいの持つの苦手じゃないし」

 

「そうでしたね!もう希望が勇者やってよ!その力が希望にはあるよお!」

 

 てっきり忘れていたが、希望のパワーは並ではない。その身体のどこからそれほどまでのエネルギーが出てくるのか教えて欲しいと思いながら一年たってしまった。

 いつぞやの回想が頭の中で再生される中、目の前の希望はいつものようにケラケラと笑っている。

 

「私が勇者は無理だね。多分、勇者であるならその刀抜けると思うし」

 

「持ててるだけで素質はあると思うんだけどなあ」

 

「まあまあ。私は『巫女』ですから。それでね、その刀なんだけどさ。数日前に小さな神社入ったの覚えてる?」

 

「うん。覚えてるよ。希望が良いものがあるって言って私を無理矢理連れ出したところでしょ?あの勇者専用服が置いてあった」

 

 

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 大阪1周年アニバーサリーとなる1週間前。仮眠を取っていた私は希望に

無理矢理起こされ、外に引っ張り出された。

 なんでもその理由が「これから更に激しくなる戦闘に間違いなく必要不可欠なものが見つかった」からだ。そう言われれば私とて断る理由もなく、自然落下してくる瞼を擦りながら、希望の案内に従った。

 

 辿り着いたのは小さな小さな神社だった。意識すれば神社だとわかるが、意識しなければここに神社があることに気づくまい。

 

「この中にあるからついてきてね」

 

「了解」

 

 先導する希望についていき、鳥居をくぐるとすぐに本殿に辿り着いた。辿り着くなり、希望はズカズカと本殿の中に入っていく。

 私も一応会釈だけしてから中に足を踏み入れた。小さな本殿だと言うのに、天井には不思議な絵が多く描かれており、思ってる以上に由緒正しい神社だと言うのを間接的に伝えてくれる。

 私が天井の絵に目が吸い寄せられている傍ら、希望は祭壇に祀られている箱を開けてその中身を取り出していた。

 

「あったあった!これこれ!」

 

 希望の歓喜の声に私の意識は引き戻され、足早に希望の隣に立って、見つかったものを覗き込んだ。

 

「なにこれ。戦闘服?」

 

「うん!今まで琴音、ずっと私服で戦ってきてたでしょ?実言うと半年前から探してて、ようやく見つかったの!」

 

 なんだかとても興奮気味に希望が話すものだから、私もこの服が一体どれほどまでの強力なものなのかと期待が止まらなかった。

 希望にちょっと着て見てよ。と言われ押し付けられた勇者の専用の服。勇者服とでもしておこう。その勇者服は特に装飾が施されたわけでもなく、色は淡い水色を基調としていた。それでも何かとてつもない力が秘められているのではないかと、私もノリノリでその服に袖を通す。

 ただ、着てみた最初の感想はこれで何か変わるのか。と言うものだった。

 

「…………これ、何か変わるの?」

 

「動きやすいとかはない?」

 

「どうだろ。なんと言うか、少しだけ身体が軽いような?」

 

 私は試しに何の気もなく、神社の壁を小突いてみた。すると次の瞬間、破砕音と共に木製の壁が吹き飛んだ。 

 そのあまりの出来事に2人とも目が点になる。

 

「変わりすぎだねぇ」

 

 希望がその期待以上の能力に呑気に感動して拍手する。私は私で建物を破壊したことの衝撃が大きすぎて頭の理解が追いつかなかった。

 

「私は遂に人を辞めちゃったのかな?」

 

 と言うか、服を替えるだけでここまで変わるか?普通に考えて。神様が作り上げたものだからそれくらいの力はあると言うことだろうか。

 そうなると何でもありになってくる気がして、私は思考に蓋をした。

 私が少し外に出てこの装備の試しをしている間、希望はなにやら他にも祭壇の奥の方を漁っていた。

 私はそれを特には気にせず、この新しく手に入った力の使い道を間違えないようより一層気を引き締めたのだった。

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「あの日、奥で何かやってるなあ。と思ったら掘り出し物してたのね」

 

「そうそう。1週間近く見せなかったのは神様からそうした方が良いと伝えられたからとだけ言っておくね」

 

 私が過去を思い出し、遠い目を虚空に向けている間に希望は私の手からその刀を軽々しく取り上げる。

 

「まあ、過程の話はいいの。ここからはかなり真面目な話」

 

 希望の真面目な話。と言うワードに背筋がビシッと伸びる。希望がこう言った話をする時はかなり重大なことが多い。

 私の経験上、大体あの化け物関連である。気が引き締まるのも当然だ。

 

「簡潔に言うと、そろそろ奴らも本気」

 

「マジですかい」

 

「琴音が1年前、私に話してくれた仮説があるじゃん?」

 

「あぁ。化け物達は私たち人間が自滅することを知ってるし、狙ってるのではないかってやつ?」

 

「そう。けれど、恐らくあの化け物達の誤算として琴音の存在があった。琴音が来てくれたおかげで私たちは紆余曲折あったけれど一致団結してこの困難に挑んでる。それと、私たちのような弱い勢力ってのは簡単に潰せる。要するに私たち以上の強力な勢力がどこかにまだ生き残っていて、そちらにリソースを割かなければならなかった」

 

「………その勢力が負けたってこと?」

 

「私が感じ取った中ではまだ負けてはない。……ただ、必ず守らないといけない防衛ラインは突破されたと見ても良いかもしれない」

 

 希望の沈鬱な表情にはこちらもその事の重大さをひしひしと伝えてきた。どこの地域かはわからないが、恐らく私たちと同じくらいの歳の子が必死に戦ってくれていたから今の私たちがある。そう考えると、歯痒い。 

 私はいつか自分たちもそうなるのか?と言う想像をしてしまった。その想像が具体的になっていくほど、足の裏が地についている気がしなくなり、私は力の限り足の指で地面を掴んだ。

 そんな私の不安を感じ取ったのか、希望が私の不安を和らげようと明るい声で話の続きを始めた。

 

「それでだよ、琴音。私たちはどうしても新しい力が必要なの。この刀は琴音の戦闘の幅を広げてくれるはず。名前は【倶利伽羅剣】。恐らく、その【生弓矢】よりも強大な武器だと思うよ」

 

 【倶利伽羅剣】は私でも名前は聞いたことがあるほど有名なものだった。詳しくはないけれど、確か不動明王と呼ばれる仏教での信仰における最上位の存在が所有していたとされる武器であったはずだ。

 しかもこれ、大阪にあるわけがない代物である。本来なら、愛知県の熱田神宮に保管されてるはず……。

 

 私のぼやきに近い解説に、希望は不思議そうに首を傾げていた。

 

「何で琴音がそこまで詳しいかはともかくね、熱田神宮にある【倶利伽羅剣】は申し訳ないけどレプリカ。こっちが本物なんだよ」

 

「うーん。後付け設定っぽくない?」

 

「後付けでもなんでもいいよ。で、質問なんだけど琴音は剣術できる?」

 

「前言わなかったっけ。私はできないね」

 

 希望は笑顔で私の話をガン無視して再び【倶利伽羅剣】を私に押し付けた。また唐突に体に加えられる重量に私は膝が折れそうになる。

 

「多分さ、私の直感なんだけど琴音はすぐにこれ扱えるようになると思うんだ」

 

「無責任な直感だなあ」

 

「酷い話、私も無責任にならざるを得ないほど逼迫してきてるの」

 

「………そんなに酷い?」

 

「うん。これから外に出られるかわからないくらいには。あの化け物の迎撃を全てこの地下内で行わないといけなくなるかもしれない」

 

 しかし、これほど深刻な話の割に希望はまだ明るい。それは一重に挽回の機会をまだ逸してないからだろう。私がそれに気がついたと希望もわかったのか、希望は小さく頷いた。

 

「それは現状打破するに最も重要なツールだよ。否が応でも琴音は使わないといけないってこと」

 

「悪魔!?」

 

「なんとでも呼んでほしいね。それに、これは遠くの地域で戦っているかわからない勇者を助ける事にもなるんだから」

 

「………私たちの方が脅威になるって教えるって事!?」

 

 私たち自体余裕がないと言うのになんてことを言うんでしょうこの子。

 今だけは私は希望があの化け物よりも恐ろしく感じられる。ただ、言わんとすることはわかるから否定もできない。しかも結構な賭けだ。遠方のその勇者と共倒れするか、再起を同時に図るか。

 希望は成功する確率は10%も無いと公言した。それでもやらないよりはマシと言うスタンスを取り続けている。いや、こうするしか無いと言う確固たる意思があった。しかも前提には私が傷つくことが含まれている。その事実を切り離せない、希望の悲痛な表情は私には耐え難いものだった。

 

(確かに使ってれば慣れるだろうし……。身体中の痛みなんて耐えられるしね。希望の悲しそうな方が私には辛いや)

 

「私、頑張るわ。やる気になれば人間なんでもできるでしょ」

 

 決意表明にしてはあまりにも軽い。それでも、希望には十分伝わったみたいだった。その決意表明に呼応するかのように【倶利伽羅剣】はカチャリと小さく空気を震わせる。【生弓矢】も対抗するかのように、淡い光を放ったのだった。

 

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〈丸亀〉

 

 あの日から一年が経とうとしてる。若葉達が身を寄せていた丸亀城は完全に改装を終え、外見はそのままに内装を学校へと変えていた。

 今年の春から若葉も中学生となり、立場上制服を着用している。

 改めて人数と『勇者』と『巫女』の確認となるが、その学校に通うのは若葉を含め6人。『勇者』は5人。『巫女』は1人。

 若葉はこの『勇者』たちの暫定リーダーでもあった。

 地の神から力を授けられ、化け物と戦う為に覚醒したのが『勇者』であり、地の神からの声を聞く者が『巫女』である。聞こえると言っても、言語として伝えられるわけではなく、象徴と暗示によって示される。しかもそれには個人差があり、ひなたは『巫女』の中でも最も鮮明にその声を聞くことができる人物でもあった。

 『勇者』と『巫女』に選ばれた者は皆、少女であった。穢れを忌み嫌う神に触れる事ができるのは無垢な少女だけだから。

 

 琴音と希望が【倶利伽羅剣】を手に入れ、反攻へ着々と準備を進めていたその日の夕方、若葉は放送室と定められた場所に赴き、無線機のスイッチを入れて通信を繋いだ。

 しばらくの雑音の後、落ち着いた少女の声が通信機から発せられた。この通信は2回目で、若葉はまだ緊張していた。

 

『………諏訪より、白鳥です。乃木さん、聞こえてますか?』

 

「あぁ。聞こえている。よろしくお願いする。白鳥さん」

 

 長野県の諏訪湖東南の一部地域には、四国と同じく結界が張られており、人が住める環境が整っていた。白鳥歌野はただ1人でその諏訪を護る勇者である。

 

「白鳥さん。そちらの状況はどうだ?とは言え、まだ初めての通信から2週間しか経ってはいないが」

 

『……そうですね。良くはありません。一部結界は突破されてしまいましたし。ただ、当初想定していたよりは敵の数が少ないように感じてます』

 

「そうか。だが、生活自体はできているのだな?」

 

『はい。それもまだ軌道に乗り始めたところなので……。そうだ!先日、初めての野菜が採れたんですよ!私が初めて育てた野菜です!いや〜、感動するものです』

 

 通信機越しであっても、その嬉しそうな声は鮮明に聞こえ、若葉の耳に色濃く残った。

 若葉もそれから少し雑談を交わした後、再び話題は戻る。

 

「それで、先程敵が少ないと言っていたが理由はわかるのか?」

 

『みーちゃん。えっと、諏訪の『巫女』なんですけど、みーちゃんが言うには諏訪以外に化け物がリソースを割かないといけなくなっているから見たいです』

 

 予想外の報告に若葉の心臓が強く跳ねた。思わず食い気味に若葉は歌野に話の続きを促した。

 

「諏訪以外にも生き残ってる地域があるということか?」

 

『そうなりますね。しかも、かなり善戦してるみたいです』

 

 それを聞いた瞬間、もしかしたら琴音の居場所がわかるかもしれないチャンスが巡ってきたのだ。と若葉の中で猛烈に熱が上昇する。

 それをぶつけるように若葉は通信機に声を吹き込んだ。

 

「場所だ!場所はわかるか白鳥さん!」

 

『落ち着いて乃木さん。みーちゃんもそこまでは把握できないみたいです』

 

 若葉は胸の内に湧き上がった熱量が急速に冷え、冷静な自分が戻ってくるのを肌で感じた。

 だが、希望が持てたと言う点では若葉には大きな一歩だった。正直なところ、若葉はこの1年間と言う短くも長い期間で琴音の生存を諦めていたのだから。

 若葉はチラリと時計を見ると制限の時間まで残り僅かとなっていた。しかし、若葉はこれだけは今日聞いておこうと決めていたことがあったのだ。

 それがーーーーーーー。

 

「時間も少なくなってきたが、一つだけ白鳥さんに聞きたいことがある」

 

『なんでしょう?』

 

「この世で最も優れた麺類はなんだと思う。せーので同時に答えよう」

 

 両者の間に見えない緊張が走った気がした。若葉の喉が一度大きく動く。

 

「よし。行くぞ。せーのっ」

 

「うどん!」

 

『そば一択よ!』

 

 数秒の沈黙。まるでこの沈黙は導火線につけられた火が、着々と火薬に向かって進んでいくような光景を彷彿とさせた。

 火が火薬に触れた瞬間、何が起こるか。当然の如く爆発である。

 その後の話は割愛するが、ひなた曰くここまでうどん、そば論争に加熱できる人はそうそう居ないだろうと言われた。

 この2人の関係はもう少し続くことになる。

 

 

 若葉が放送室から出ると、偶然にも勇者の1人。高嶋友奈が廊下の奥から歩いてくるのが若葉の目に止まった。

 友奈も若葉に気がついたのか、大きく手を振って駆け寄ってくる。若葉の目には友奈の周りには花畑が広がっていた。一緒にいたら安らいで元気がもらえるのでは無いかと思わされる。

 

「さっきぶり!若葉ちゃん!」

 

「あぁ。友奈はこんな夕方まで何をしていたんだ?」

 

「教室に忘れものしちゃって〜」

 

「そうか。忘れ物はあったか?」

 

「うん!バッチリ!」

 

 友奈は指でOKマークを作る。友奈と琴音にはどこか似ている雰囲気があった。若葉は友奈と話している時は少しだけ過去に戻った気がしていた。

 2人とも並んで寮に戻る足取りは軽い。友奈は今にも鼻歌が聞こえてきそうなほど上機嫌で、お腹が空いているのだろう。夜ご飯に思いを馳せていた。

 

「今日の夜ご飯は何かな〜♪最近みんなでご飯食べるようになったから楽しさ倍増だよ!」

 

「そう思ってくれているのなら、私も提案して良かった」

 

 つい先日ごろのことだ。若葉はチームワークを深めると言う意味も込めて、共に昼食、夕食を食べることを提案したのだ。

 とは言え、勇者も色とりどり多彩な生活を持つものの集まり。最初は反対意見こそ多かれど、今ではまとまって食事をする事も日課になりつつあった。

 

「リーダーとして今の所、出来てるいるのがこれしか無いのはなかなか威厳に欠けるな」

 

「あまり背負いすぎなくても大丈夫だよ。若葉ちゃん」

 

「そう言うものでも無いと思うが……。郡さんもあまり、私を信用していないみたいだしな」

 

 郡さん。もとい勇者の1人である郡千景は若葉達より一つ年上の先輩だ。若葉は千景とは少し前に一言二言言葉を交わして以来、会話という会話をしていなかった。

 千景は1人でいることが多く、若葉もそれを理解した上で歩み寄ろうとしたのだが、どうにもうまくいかない。案外、悩みの種だったりする。

 しかし、そんな若葉とは裏腹に千景と唯一仲が良いのが隣にいる友奈だった。友奈はその持ち前の明るさと頼り甲斐によって、若葉を含め皆からの人望も厚い。若葉は内心、友奈がリーダーを務めるべきだと考えていた。

 そんな若葉の気持ちに気づいているのかいないのか。友奈は若葉の目を真っ直ぐに見据えた。

 

「私、なんとなくだけど若葉ちゃんがリーダーの方が上手くいくと思うんだ!その時が来たらきっと皆、若葉ちゃんの凄さに気づいて自然とついて行きたくなるはず!」

 

「ふむ。そう言うものか。なら、私もその時までしっかりと鍛錬を積んでおかないとな。ありがとう友奈。少しだけ気持ちが楽になった」

 

 若葉が素直にお礼を伝えると、友奈は嬉しそうに大きく頷いた。それから2人とも一度、寮の部屋に戻ると私服に着替えてから、皆が待っているであろう食堂へと足を運んだのだった。

 

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2016年 7月下旬 〈大阪梅田〉

 

 私は【倶利伽羅剣】を両手でもて遊びながら、とある考えに耽っていた。私の隣では奏ちゃんが日記を綴っている。

 先程まで、私は奏ちゃんにこの1年間の日記を確認させてもらっていた所だった。それを見返していて思ったのだが、実を言うとーーーーーーー。

 

「本当なら私、中学生なんだよなあ」

 

 こんな天災がなければ今頃、普通の中学生で勉強も部活も、恋愛も享受しているはずだったのに。

 奏ちゃんにも思うところはあるのだろう。それを示すかのように彼女のペンの動きが止まっていた。それから何か思いついたかのように私の目をキラキラとした真っ直ぐに見る。

 

「何かこんな場所にいても、思い出を作ることはできるんじゃ無いかな」

 

「例えば?」

 

「入学式みたいな!もう、7月だけど……」

 

「夏休みに入学式。車校かな」

 

「揶揄うなら提案して損した〜」

 

「ごめんごめん。それと入学式もいいけど、私たち卒業式もやってないから、段々と自分が本当は何歳で何年生なのか忘れてきちゃったよね」

 

「それはあるかも。もういっそのこと全部やっちゃう?」

 

「面白そう!それなら、今度外に行った時に卒業証書を書けるくらいの紙、入手してこないとね」

 

 私と奏ちゃんが呑気にこんな事を話している時だった。通路の奥から慌しい足音がするな。などと思っていたら、血相を変えた希望が私の胸の内に飛び込んできていた。

 

「大変!琴音!」

 

「私の身体の方が大変なことになりそうなんだけど」

 

 まだ奏ちゃんと話していた時の呑気さが抜け切らず、希望の慌てている様子に思考が追いつかない。

 そんな私も次の希望の言葉で完全に気持ちが切り替わった。

 

「そんなこと言ってる場合じゃないよ!私たち、囲まれてる……」

 

 伝えられた事実は予期されていたものではあるが、今一度聞くと全身が今にも震え上がりそうになる。 

 それでも私は希望と奏ちゃんにニカッ!と力強い笑みを浮かべて見せた。

 

「奏ちゃんはこの事、みんなに伝えて。決してパニックにならないようにとも付け加えてね。それと、なるべく入り口には近づかない事。今はそれだけ!」

 

 私は壁に立てかけてあった【生弓矢】を引っ掴み、【倶利伽羅剣】を紐を使って腰に括り付けた。

 

「私は絶対勝つよ!だから信じて待っててね!行くよ!希望!」

 

「うん!」

 

 私と希望は頷きあうと、外に出るための出口に地を強く踏み締めながら向かった。

 後に【第二次大阪夏の陣】として語り継がれる絶体絶命の戦いの火蓋は今、落とされた。

 

 

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