少女は星を追いかける   作:まんじゅう卍

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毎度のようにこのような拙いストーリー性の繋がりもないものを読んでください感謝感激です。

図々しいですが、お気に入り登録や感想を書いてくれると筆にも興が乗るので良ければお願いします。

それではどうぞ!


第8話 暴かれた仮初

「琴音」

 

 外に出るために階段に足をかけた所で私は希望に名前を呼ばれて立ち止まる。私を見る希望の目はどこか暗い。

 

「ん?」

 

 かつて無い規模の戦闘に身を置こうとしていた私も自然と口数が少なくなっていた。希望は私に何か言おうと言葉を選んでいるからか、いつまでも伝えたい言葉が出てこない。

 それでも私は希望が何を言いたいのかわかった。それに私は希望にそんな目をしてほしくなかった。私は階段を降りると希望にこれ以上ないくらい近づき、希望の腰に手を回した。

 

「大丈夫。私は自分が傷つくのも承知でここに立ってるんだから」

 

「でも、私は何も……」

 

「希望はここにいて、私の帰りさえ待っててくれればいいよ。それでも心苦しいのなら祈っててよ。私はそれだけで頑張れるからさ」

 

 私はそれだけ伝えると希望から離れた。やはり遠くから見た方が希望の表情はよく見える。当たり前か。

 私は先程奏ちゃんに見せたのと同じ勝気な笑みを希望に見せてから背中を向け、外に向かって一気に階段を駆け上った。

 

(外まで3、2、1、0!!)

 

 矢をすぐに放てるように弓を構え、私は暗闇の荒廃した世界に飛び出した。その瞬間、三つの方向から閃光のようなものが私目掛けて放たれる。この光は1年前、島根から逃げる時に見た進化体の攻撃だ。

 

「見たことあるよ!それは!」

 

 私はそれを横に飛ぶことによって回避すると、それを狙って私を食いちぎろうと突進してきたいつもの化け物を矢で撃ち抜く。

 

(この戦法、私が前やったやつか…。真似してる時点で知性があるのは最悪にも確定したとして、厄介だな)

 

 しかも規模が違う。奴らは私1人に対して波状攻撃が可能だ。同じ事を3体から仕掛けられたら私は対処できる可能性は高くて20%。

 弓の利点として、遠くの敵を同時に数体射抜くことはできる。だが、近距離となると矢を放った後の大きな隙でやられる。

 

「本当にこれまで私、どうやって生き抜いてきたのかね」

 

 私はひとまず出入り口から奴らを引き離す。そして、冷静に周りを確認して体制を整えた。

 現在、進化体に加え、私たちを包囲している化け物は50体近くと見た。これまで相手した中で最も数が多い。敵の正確な位置もわからないので私としてはこれ以上に戦い辛い事もなかった。

 

(今まで希望が教えてくれたから、私はまともに戦えていたんだ)

 

 希望の存在の大きさを痛感した所で、私の中の闘争心に火がつく。

 

(希望がいなくても出来るって所見せないと、『勇者』として情けないよね!!)

 

 私は4方向から来る化け物を壁を蹴って回避する。私の身体は宙を浮き、無防備となった。そこに迫撃を加えてくる化け物が3体。

 以前の私なら絶対絶命だ。しかし、それが狙い。これなら私の近くに化け物は集まる。

 私は【生弓矢】と交代で早速腰に括り付けた【倶利伽羅剣】を引き抜いた。【倶利伽羅剣】の真の姿を見せたその瞬間、化け物どもの動きが鈍ったのを感じ、私はほくそ笑む。

 私は脳内で、毎日のように若葉ちゃんの家の庭で見ていた居合の動きを頭の中で思い描く。これが不思議なもので、私は寸分狂わずに若葉ちゃんの動きを模倣することに成功した。

 次の瞬間、化け物は跡形もなくその姿をこの世界から消滅させる。

 それでも私に喰らい付いてくる化け物一体の腹部を足で蹴飛ばし、宙に浮いていた化け物を地面に叩き落とした。

 私も地面に着地すると紅蓮の炎を纏う【倶利伽羅剣】を地面に突き刺し、私を囲む化け物どもに威勢のいい声を上げ、自らを鼓舞した。

 

「これで終いか!この中に私を倒せる奴は1人もいないのか!」

 

 人の言葉などわかるわけが無いのに、化け物達がぴくりと反応したのを私は見逃さなかった。

 奴らに感情などない。そう思っていたが、もしかしたら怒り程度のものはあるのかもしれない。それを踏まえて考えるとあの化け物の姿にそこまでの恐怖心を抱かなくなった。

 私の挑発に乗り、次々と襲い来る化け物を【倶利伽羅剣】で迎撃する。ある化け物は真っ二つに切り裂かれ、ある化け物は振った時に同時に翻る炎によって身体中を焼き尽くされた。

 

(戦える!)

 

 【倶利伽羅剣】の強力な攻撃は化け物を決して寄せ付けはしない。気がつけば化け物の数は半分以下に減少していた。

 

(あとはあの進化体だけ!)

 

 私は自分の周りに化け物が居なくなったのを確認すると廃墟の影に飛び込み、【倶利伽羅剣】を納刀した。そして背中に手を回して【生弓矢】を構え直すと一呼吸置き、影から飛び出した。廃墟に隠れる時点で既に進化体の位置は把握している。

 滑らかな動作で鶴を引くと、幾度となく見てきた光の矢が現れる。私はこの光にとてつもない安心感を覚えた。標準には既に進化体が入っている。

 

「まずは!お前から!!」

 

 私は矢を放つと同時に全力で地面を蹴り上げる。勇者の装備により強化された私の身体は弾丸のように突き進んだ。私は【生弓矢】を左手に持ったまま、右手で【倶利伽羅剣】を抜刀した。

 目の前で私の放った矢と、進化体の放った矢が衝突し、大きな衝撃を周囲に撒き散らしたあと、静かに散り散りとなった。

 

「やあああああああぁあああああ!!!」

 あの進化体は一度矢を放つと次の矢を放つまでに時間がかかる。私はその隙を突く形で力一杯に踏み込むと、抜刀と共に進化体の身体を真っ二つに切り裂いた。

 進化体は私がこれまで遭遇した化け物とは異なる、重々しい呻き声と共にその姿を消滅させる。

 

(まだあと二体……。でも、私はまだ余裕だよ!!)

 

 私はその後も同じパターンの攻撃を繰り返し、最初の一撃を放った進化体三体を完全に屠る。

 これにはたまらなかったのか、化け物は徐々に後退していった。

 私はそれを肩で息をしながら、見届けた。遂に居なくなったのを確認するとその場に崩れ落ちるようにして膝を地面につく。

 

「きっつ……。けど、とりあえずは勝った……」

 

 この日は、私の勝利で戦闘を終えたのだった。

 

 私が重たい身体を引きずりながら避難所に向かう階段にたどり着くと、本当に最後まで私の帰りを待っていた希望が物凄い勢いで階段を登り、私の身体にしがみついた。

 

「良かった…。よかったぁ……」

 

 嗚咽混じりの希望の声は少し震えていた。いつも明るい希望がこんな風になるとはかなりの心配をしていたらだろう。

 まだこの戦いは始まったばかりだと言うのに最初からこれでは後々どうなるのだろうか。そんな心配を私は今は置いておいて、希望の頭を軽く撫でた。

 

「ただいま。希望。まずは初戦、勝ったよ」

 

 それから私は希望が自ら離れるまでの間、じっと希望を受け入れ続けた。

 

 

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2016年 8月

 

 あの日を境に私は明る日も、明る日も戦いに身を投じるようになった。そうしなければ私たちの活動範囲が減少するから、仕方がないことではある。しかし、私が戦闘に集中すればするほど、私たちが運んでいた物資の供給は滞っていった。

 気づけば身体のあちらこちらにも切り傷や擦り傷などの目立つ傷が増えてきていた。痕になって一生付きまとうと想像すると年頃の女の子的には厳しいものがある。

 今も戦闘を終え、地下の施設に一時撤退をして休憩を取っている所だ。私の身体を押し潰そうと襲いかかる疲労に抗っていると、不安そうな面持ちで希望が私の隣に座り込んだ。

 

「琴音、大丈夫?」

 

「うん。休憩したらすぐに出るよ」

 

「何しに?」

 

「食料の調達だよ。じゃないとみんな餓死しちゃうでしょ?」

 

 硬い床に無造作にほっぽり出していた身体に力を入れ、立ち上がる。外に向かって歩き出そうとする私の足を希望は止めた。

 

「どうしたの?希望」

 

「今は休んでよ。このままだと琴音、壊れちゃうよ」

 

「大丈夫だよ。この程度で壊れてるなら既に私は死んでるし」

 

 ケラケラと希望に笑いかけて、自分の元気が健在であることを示すが希望は珍しく引き下がらなかった。

 

「本当にお願い。一度自分の状況顧みて」

 

「だから、私は大丈夫だって」

 

「そんなわけない!だって、琴音……今にも倒れそう」

 

 希望の震える声は私を無意識に自分を顧みさせた。それでも、自分が倒れそうと言う感覚はない。むしろ今の私は幾らでも戦えるほどに身体の調子は良かった。

 

「そう見えるだけで実際はそんなことないよ。とりあえず行ってくる」

 

「なら、せめて私も一緒に」

 

「外はもうかなり危険だから、希望は出てこない方が良いよ。希望はここで他の人のメンタルケアに努めてて。そうだ!またフルート引いてあげなよ!皆喜ぶよ!」

 

「それに琴音、もうこの辺りには……」

 

「わかってるから。行ってくる」

 

 希望の言葉の続きはきっと「化け物がたくさんいる」だろう。それならば私が倒せばいいことだ。これ以上時間を取る必要ない。そう判断した私は一方的に会話を打ち切り、引き下がらない希望をその場に置いて外へと向かう。

 この時の私は不思議と何かに追い立てられるように焦燥感に駆られ、冷静な判断を下すことを怠った。それ故に私は知らなかった。なぜ希望がそこまで必死になって私を止めたのか。私はすぐ知ることになる。

 

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〈長野、諏訪〉

 

2016年 8月同日

 

 青空が広がる空の下、歌野は自分の額に浮かんだ玉のような汗を爽快な気分と共に拭う。

 長野は避暑地として広く知られてはいるが、実際は普通に暑い。

 歌野が大人達と共に耕している畑近くの木陰では歌野の親友である藤森水都が、歌野が鍬を振るっているのを見守っていた。

 歌野達がこの諏訪の結界内の狭い空間で生活を強いられてから1年近くの時が流れていた。決して穏やかとまでは言えない日々ではあるものの、生活自体を送ることは出来ている。それはひとえに、歌野が持ち合わせていた天性のカリスマ性。それと歌野が率先して行い始めた農作業による自前の食料確保だった。

 今も歌野は大人達に囲まれて農作業に従事し、共に作業する人たちの顔も晴れ晴れとしていた。 

 農作業には力がいる。ただの中学生が畑を耕すと言うのは水都からすれば力の度合い的にかなり厳しいものだと感じていた。なんせこの現状、機械は使えず扱えるのは鍬程度なのだから。

 それでも歌野はこの1年間、暇さえあれば土をいじり、畑に向き合ってきていた。その姿は水都がこれまで見てきた人の中で1番格好いいとさえ思えた。

 そんな水都の視線の先で、歌野は再び汗を拭う。 

 

「皆さん、そろそろ休憩にしましょう!」

 

 その声を合図に、周りの大人達も手を止め、汗を拭った。皆それぞれに雑談を交わしながら木陰に入っていく。

 

「今年は野菜上手く行くといいね」

 

「はい!去年は夏野菜、一部失敗しちゃいましたけど、今年は今の所パーフェクト!いい野菜採れますよ」

 

 その頼もしい歌野の発言に、雑談を交わしていた青年は笑いながら互いの健闘を称え合うと、木陰に入っていった。

 歌野も休憩のため、水都がいる木陰に入ると手でパタパタと自分の顔を仰いだ。

 

「お疲れ様、うたのん」

 

「ありがと、みーちゃん」

 

 そう言って水都に笑いかける歌野は連日の化け物との戦闘における疲労を一切見せていない。

 

「今年は去年に比べて土の調子も良いし、良いものが作れそうだわ」

 

「わかるものなの?そういうのって」

 

「ふっふっふっ!そうよ!と言うやけでみーちゃんも一緒にやらない?」

 

 何がと言うわけでなのか。水都からすれば脈絡のない提案に思わず頬が綻ぶ。歌野の手助けになりたいのは山々だが、水都はどうしても農作業は出来なさそうなのだ。

 

「私、虫苦手だから良いや」

 

「慣れればいけると思うんだけどなあ」

 

「うーん。虫はちょっと慣れそうにないかも……」

 

 そう言うと、歌野は案外簡単に引き下がり対面の他の人々に目を向ける。水都も歌野に釣られて木陰で休む人々に目を向けた。

 

「皆、去年に比べて明るくなったかしら」

 

「うたのんがこの1年間、諦めなかった結果だよ」

 

「私は当然のことをしたまでよ。まあ、褒められても悪い気はしないわね」

 

 1年前のあの日、勇者として覚醒した歌野は自分の危険を顧みず、結界の外に人々を救出しに向かい、多くの人の命を救った。

 その後も、こんな狭い世界で生き残れるはずがないと諦めていた人々に声をかけ続けた。

 勇者の力を得たとしても所詮ただの小学生。最初は誰も歌野のことを信用しなかった。それでも歌野はめげずに絶望する人々を鼓舞した。

 

「結界の中で生活を保つためには自活が必要です!畑を耕しましょう!魚を獲りましょう!生き抜くために!」

 

 最初、歌野に同調する人々は少なかった。1人で畑を耕し続けた。

 更に、人々の不安を煽るように毎日のように化け物との戦いも継続した。その中でどれだけ苦しい思いをしようと、歌野は笑顔であり続けた。誰にも認められなくとも。

 その姿勢は多くの人々を勇気づけ、この世界で生きる意味を見つけさせた。やがて笑顔も次第に彼らに取り戻された。

 笑顔が取り戻されると同時に歌野に同調し、農作業を手伝うものが1人、また1人と増えていったのだ。

 何もせずうじうじ頭を下げ続けるよりも、身体を動かしていた方が気持ちも晴れる。現実逃避ではない。人々は前を向いて歩き始めたのだ。

 

「人間は弱くない!どれだけ辛いことがあっても立ち上がれる!」

 

 歌野が日々届け続けた言葉はいつの間にかスローガンのようになっていき、浸透した。何か辛いことがあっても、これを思い出せば大抵なんとかなる。そんな不思議な力がこの言葉にはあった。

 

 そんな諏訪にも7月の終わりに、1つだけ神託で吉報がもたらされた。この情報は四国の大社と若葉との通信で手に入れた情報でもあり、信ぴょう性はかなり高かった。

 

『化け物……私たちはこれからバーテックスと呼称することにするが、そのバーテックス達が諏訪から西に集中的に向かっている。何がそこで起きているかは私たちにも把握できていない』

 

 との事であった。確かに歌野も水都もここ最近、バーテックスの侵入が比較的落ち着いていると言うのは感じていた事だった。

 それを良しと捉えるのかどうかはさておき、諏訪の人々はわずかに得た平穏な時間を享受している。

 

「うたのんはこの先、どのくらい持つと思う?」

 

「その西の地域が?」

 

「そう。今はいいよ…。でも次は」

 

「おっと!そこまでよ、みーちゃん!その思考は開けてはならないパンドラの箱よ。もっとポジティブにいきましょ!」

 

「うたのんには敵わないなあ」

 

「ふふっ。と言うわけで、私は再び作業をリスタートさせるわ!」

 

「頭痛が痛いみたいなこと言わないでよ。それより、熱中症とか気をつけてね」

 

「大丈夫よ!任せときなさい!」

 

 歌野は水都に笑いかけると「そろそろ再開しましょう!」と木陰で休む人たちに声をかけると畑の方へ再びその足を踏み入れたのだった。

 次の週、収穫された野菜は諏訪の未来を明るく示すが如く、最高の出来栄えとなった。

 

 

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2016年 8月同日

 

 私は希望の注意も聞かず、外に飛び出して近くの補給ポイントになっていたスーパーマーケットに足を運んでいた。

 しかし、私はそこで最悪の光景を見ることとなった。

 

「どこにもない……。まずい、このままだと」

 

 私はこの1年間で最も苦境に立たされていると言っても過言ではなかった。しかも、他のどの地点を回っても、食糧がないのだ。

 希望はすでに気がついていたのだ。予定よりも早く食糧が底を尽きたという事に。しかも私の単独行動が増えたが故に、希望はその事実を私に告げるタイミングを常に逸していた。

 コミュニケーション不足。それが今回の事態を引き起こした。

 

(食糧が無くなることは予期していた事態ではあった。その対策も立ててた。なのに、どうして)

 

 その事実に気がついた後、後から追いかけてくる希望の言葉。それが今ようやく私に追いつき、持ち合わせていた焦燥感の最悪のスパイスとなって私の鼻腔をくすぐった。

 

「ダメだ。これだと結局1年前の状態に後戻りする……。なんとか次の策を考えないと……」

 

 焦りに次ぐ焦り。それがいつもの私なら絶対にしないような行動へと走らせる。私は思考を回すために、その場で立ち止まってしまったのだ。

 どうする?どうする?そんな考えだけが頭の中を巡る。私は思考にリソースを使いすぎたのと、無意識の疲労により、乱れた集中力では襲いくる脅威に気が付かない。

 気がついた時にはすでに遅かった。

 一体の化け物が、建物の窓を突き破って中に侵入してきたのだ。

 

「っ!しまっ!!」

 

 次の瞬間、私の左目に強い衝撃が走り、同時に視界が真っ赤に染まる。そして脳を沸騰させるような激痛が全身を駆け巡った。

 

「あああぁあああああぁぁああああああああ!!」

 

 ガラス片が私の左目の眼球を貫いた事により左眼を潰され、気の遠くなるような激痛に私の悲痛な叫び声がこだました。

 それでも私は反射で【倶利伽羅剣】を抜くと、そこにいるはずであろう化け物めがけて振り下ろした。経験で得た勘というのは案外役に立つもので、見事に化け物に命中する。感触として切り裂いた感覚を得てから、私はその場で痛みに悶えた。

 ガラス片を歯を食いしばって抜くと、追い討ちのように更なる激痛が走り、右眼には左側から流れる多量の血が鮮明に映し出されていた。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……。しく、じった」

 

 ぐちゃぐちゃになった左目は完全に光を失っている。私に襲いくる現実は日に日に非情なものへと移り変わっていった。

 

(肝心な、時に…私はどうして、こうも……)

 

 それが自分の弱さであると気づくのが早ければどれだけ良かった事だろうか。

 私は身体を引きずるようにして地下の避難所へと撤退を開始した。その後も何体もの化け物に襲われ、息も絶え絶えになりながら帰還を果たした。

 

「こと、ね?まさか…酷い怪我!奏!早くお医者さん呼んできて!!」

 

 私の傷を見た希望は顔を真っ青にして、隣にいた奏ちゃんに叫ぶと、奏ちゃんも慌てた様子で奥に医者を呼びにいった。

 

「琴音!私のことわかる!?」

 

「うん。一応、ね」

 

「良かった……。すぐに診てもらうから、じっとしてて!」

 

「ごめん、希望。わた、し。ちゃんと話、聞いておけば良かった……」

 

「謝罪は後で聞くから!!」

 

 最後に私はまだもう一度、ごめん。と小さく呟いてから希望の姿を捉え、ここに来て初めて私は涙を流したのだった。

 

 勇者負傷の一方は瞬く間に地下避難所に広まった。その重症具合は多くの人にこの地下の行末を想像させるには十分すぎた。

 そして同時に伝えられた食糧のほとんどが尽き、この先どのくらい持つのかわからないという事実。

 これまで私がここを何とか統制できていたのは、眼に見える成果が皆の手に行き届いていたからに他ならず、それがなくなってしまった以上、私に対する信頼は他に落ちたと言っても当然だった。

 私が得たと勘違いしていた信頼というのは単なる利害関係の一致にすぎず、ただの表面上なものでしかなかった。

 1年間積み重ねたものは仮初で、どれもこれももしかしたら何一つと意味を持たないことであったかもしれない。

 どこで間違えたのかを、私は考えた。考えてもキリがない思考はまとまらず、露が地面に落ちるようにバラバラとなる。

 先日までの私に対する人々の態度は嘘であったかのように豹変した。私を1人最初に信じてくれたリーダーグループの中の白衣の女性は手のひらを返し、私は怖かったから従っただけど言い始めたのだ。

 

 その日の夜。また別の誰かが言い出した。

 

「秋山琴音は勇者ではない」と。

 

 そして次の日には誰かが言い出した。

 

「あの少女は私たちを騙していた」と。

 

 そして次の日には誰かが言い出した。

 

「私は前から怪しいと思っていたんだ」と。

 

 そして次の日には誰かが言い出した。

 

「彼女は私たちを無理矢理力で押さえ込んでいて、私たちはそれに反抗したら殺されるのではないかと思っていた」と。

 

 そして次の日には誰かが言い出した。

 

「1年前、あの男たちを殺したのはあの女なのではないか」と。

 

 そして次の日には誰かが言い出した。

 

「あの女はどの化け物よりも危険だ」と。

 

 そして次の日には誰かが言い出した。

 

「あの魔女は殺してしまえ」と。

 

 

 

 




大阪編は12話で完結の予定なので楽しみにしていてください!それではまた次回に!
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