【本編一旦完結】たすてけ勇者一行がくぁwせdrftgyふじこlp【原作更新待ち】   作:丹羽にわか

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過去編 少女ナーリンはウソが下手

 

 

 

 魔物の幼女は、我々とは異なる言語を使っているようだった。それが彼女の『種族』のものなのか、それとも儂の知らない遠い地で使われているものなのかは分からない。

 

 そして、その知能は儂らと同等、いやそれ以上だろう。

 

 子供の教育に使えるような絵本の類が無く、行商が村に来るのは随分と先になる。

 やむなく教本代わりに渡したのは、かつて偶然助けた旅の僧侶から贈られた聖典だった。

 

 文字の発音や単語など自分なりに教えながら、日常生活の中で伝わっているのかも分からないながら一方的に話しかける。すると、ひと月も経たない内に彼女──ナーリンは辿々しくも会話を行えるようになった。

 

 

「ケント、さン。たステけいたダき、あ、ありがトう、ゴザい、まス」

 

 

 儂に対して恩人だと、ありがとうとナーリンは口にするが、感情の浮かばない無表情、平坦な声音からはその内心を窺い知ることは出来ない。

 

 しかも、ナーリンは魔法を使う。

 

 門外漢故に詳しいことは分からないが、他者の感覚に干渉する事で自身の姿を偽るような代物だろう。

 

 儂ならば頭の角による動きの変化、足音や空気の揺れ、呼吸音や歩様など、まだ魔法の効果が及んでいない様々な要素から偽装を看破する事が出来るが、それは村の者には難しい。

 儂の幼馴染であり村唯一の魔法使い、魔道具店の店主オルダンは、

 

 

「全く分からないな。金髪碧眼のエルフの幼女にしか見えないし違和感も感じない。魔力探知に頼り過ぎている弊害だろう……もしも、見た目通りの歳ならとんでもない魔法の才能だ」

 

 

 と感嘆の声を漏らしていた。

 

 しかし、儂らに対して素直に手札を明かしたのは何か思惑なり打算なりがあるのか。まだ伏せ札があるのか。

 

 この子の存在は村の者に伝えてある。魔物だが確かな知性がある事。儂が責任を持って育てること。仇なすような素振りがあれば始末すること。

 

 皆は、

「それは悪い方向に考えすぎでは」

「こんな女の子にねえ」

「ふつくしい……」

「ハァハァ…可愛いおてて…フフ…下品なんですが…」

 と呑気な反応だったが──最後の変態はパン屋の息子か。要注意、と。 

 

 

 

 儂がすべきことは、見極め。

 

 

 

 この子が、ナーリンが、人食いの化け物なのか否かを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 半年もすればナーリンはすっかり村に馴染んでいた。

 

 魔法は水を出したり火をおこしたりと日々の些細なことだけに使い、その人類から外れた姿を村人たちの前で偽る事は無い。もっとも、外から人が来る際は揉め事を防ぐために姿を変えさせているが。

 

 そして、彼女は言葉を流暢に操り読み書きだけでなく、いつの間にかエルフ語の魔導書の解読や家事、計算までこなす。

 

 オルダンとは随分と懇意にしているようで、日常的に魔法談義に花を咲かせ、ある日の行商人との取引の中でお互いに気付いてなかった計算ミスを指摘してきたという。

 

 その時は商人が「うちに奉公に来ないか!?」と熱烈に勧誘してきたらしく、変人で子や弟子が居ないオルダン自身も「たまにでいいから店で働いて欲しい」と言っていた。

 

 エルフ語は勉強したのだろうが計算は教えた覚えも学べる環境も無い。どこで身に着けたのか、訊ねてみると「昔教わった」とだけ。詳しい事は語らなかった。

 

 まあ、無理に聞き出した所で意味は無いだろうし、些末な問題だ。

 

 それよりも、これまでの日々の中で分かった事がある。

 

 ナーリンに武の才は無い。

 

 剣はダメ。体術もダメ。弓と罠は及第点。偽装と潜伏はそれなり。

 

 ナーリンは臆病者だ。闘争を嫌い、痛苦を怖がり、あと一歩を踏み出せない。その一方で好奇心が強く勤勉で探究心もある。

 

 彼女は優秀な狩人や魔法使い、研究者になれる。だが、戦士は無理だろう。魔物故か身体のスペックは高く勿体無い気が……。

 

 いや、これは安心すべき事だろう。

 

 魔物にとって人類は獲物だ。だが、ナーリンは魔物でありながら知性と理性、そして恐怖心を持つように見える。

 

 更にはこの半年、人を襲うような素振りは見せなかった。

 

 儂が抑止力になっているのかと考え、出かけると嘘をつき度々姿を隠して監視したが、それでもだ。

 

 むしろ、ある時は怪我をし血を流す子供に止血などの手当を行い、ある時は農場で野菜の収穫を手伝い、またある時は村の近くに現れた魔物を激闘の末に打ち倒すこともあった。

 

 

 ……。

 

 

 まだ、時期尚早だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、時は過ぎていった。

 

 

 

 

 

 

 昏い闇の中にいる。

 

 儂は病で目が見えなくなった。瞳が白く濁り、魔法でも治す手立ては無いらしい。

 

 魔法は決して万能ではない。

 

 ナーリンは儂の濁り始めた目を治そうと一時期寝る間を惜しんで魔法の研究をしていたが、瞳が白濁しきる前後で「理論は、完成しました。けれど、それは今の私の技術では実現不可能なもの。ケントさん、貴方が生きている内には間に合いません」と震えを押し殺した声音で告げて来た事を覚えている。

 

 ……ナーリンの感情表現は豊かになった。ただ、その表情を、特に彼女の笑顔を見ることが叶わない事が惜しい。

 

 儂は、絆されていた。

 

 最早、ナーリンに刃を向けることは出来ないだろう。

 だが、同時に儂は彼女が人類に仇なす者、人喰いの化物ではないと確信している。

 

 ただ見た目が少し儂らと違うだけの、不器用で心優しい女の子だ。

 

 回想の最中ふと、誰かが家に近づいてきていることに気付く。視覚を失ったからだろうか、かつてより他の感覚が研ぎ澄まされていた。足音が、息遣いが、様々な情報が玄関の前に立つ人影が誰なのかを雄弁に語る。

 

 

「ナーリンか」

 

 

 声を掛けるとノックしようとしていた手が止まり、ゆっくりドアが開けられる。

 

 

「おはようございます、ケントさん。お手紙が届いてましたよ」

 

 

 儂は既に八〇歳を超え鍛冶屋のドワーフや年齢不詳のナーリンを除いて、人間では村一番の年寄りになった。魔法使いのオルダンも一昨年老衰で死に、ナーリンがあいつの魔道具店を継いだ。

 

 盲目になっても他の感覚で補うことで変わらず生活できている儂を見ていたからか、促すとすんなりと住居を移した。ただ、インクで記された手紙の類は指先の感触だけでは読めないので儂宛のものが彼女に送られるようにし、時折こうやって読み上げて貰っている。

 

 

「いつもすまないな、読み上げてくれるか」

「分かりました。送り主は……娘さんですね」

 

 

 娘、フレイナかららしい。今は山をいくつか超えた先の街で暮らしている筈だ。

 

 

「えっと──」 

 

 

 目が見えなくなった儂の様子を気にして、帰省して暫くこちらで過ごすらしい。旦那──義理の息子と孫たちは仕事がある為来ないとのこと。

 そうか、もう孫たちは成人したのか。時の流れは早いな。

 

 

「──娘さんの帰省となると、物置になっている部屋を片さないとですね」

「お前が物置にしているの間違いだろう」

「あはは……」

 

 

 ナーリンは誤魔化すように笑う。

 そんな彼女も背は大分伸びたようだ。ただ、エルフ同様に若い姿で成長は止まるらしい。つまり長命種、いや、そもそも魔物に寿命の概念があるのか分からないが。

 

 

「さて、と。早速ですが、部屋の片付けをするのでちょっとうるさくなりますよ」

「構わん。何かやることはあるか?」

「うーん、片付ける魔道具や素材は扱いがデリケートですから……諸々運び出した後の掃除をお願いしたいです。私は整理しなきゃなので」

「承知した」

 

 

 返事をするとナーリンはかつての居室である部屋に入っていく。

 バタン、と閉じた扉。そしてガチャガチャと物音が聴こえてくる。目が見えなくなってからは危険地帯故に中に入ったことが無いが、あの様子だと相当素材やらなにやらを貯め込んでいたことが分かる。 

 

 

「まったく──」

 

 

 仕方のない子だ。

 

 

 

 

 

「ケントさん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 パチパチと薪の爆ぜる音がする。

 

 

「お父さん、聞こえる?」

 

 

 ……その声、フレイナか。

 

 

「ナーリンちゃんがね、街まで行ってクリント達を連れてきてくれたの。冬の山越えが出来るなんて、エルフって凄いのね」

「お義父さん、お久しぶりです。クリントです」

「爺さん…」

「お爺ちゃん…」

 

 

 ソーンとミカもいるのか……この目で見えないのが惜しい──いや、これは。

 

 

「ナーリン」

「はい?」

「ソーン達に会って来たのか」

「え…っと? 勿論、ここまで案内したのも私ですし」

「ウソが下手だな。ここには儂を除いて二人しかおらん。それ位わかる」

 

 

 ナーリンとフレイナは本物。一方で、クリントとソーンとミカは音だけだ。その音自体も違和感がある。

 

 

「──そん、な」

「ほら、言ったじゃない。バレるって」

 

 

 カラカラと笑う声。ナーリンは絶句しているんだろう。

 

 

「街までナーリンちゃんが行って会ってきたのは本当よ。でも大人数での山越えはムリだから、そこでクリント達の声を魔道具に記録してきたんですって。まあ私も聴いてちょっと違う気がしたけど、ナーリンちゃんがお父さんを落ち込ませたくないって」

「え? ちが……? 全然分からないって」

「あれはウソよ」

「は────」

 

 

 娘よ……ナーリンをいじめるんじゃない。

 

 

 

 そのナーリンは別の街に住む息子夫婦の方も訪ねて声を集めてきたらしい。暫く子や孫達からのメッセージに耳を澄ます。それらを聴き終われば、儂の声も魔道具に記録させた。

 

 

 外はもう夜だろうか。肌寒くなってきた。それに、風が吹いている。

 儂の戦士として、狩人としての感覚が告げている。残された時間は幾許も無い。

 

 

「ナーリン、ありがとう」

「ケントさん……そんなの、私は、貴方を騙そうと」

「そうだな。だが、優しい嘘だ。儂は、責めん。誰にも、責めさせん」

 

 

 

 ああ、そうだ。

 

 

「フレイナ、春が来たら、帰るのか」

「ええ。そのつもり」

「なら、ナーリンを、連れていけ。ナーリン、お前はそのまま、旅に出なさい」

「え?」

「冒険が、したいんだろう」

「……全部、お見通しなんですね」

「クハッ、『赤鷲』の名は、伊達、ではない、さ……」

 

 

 ああ、時間か。

 人は死んだらどうなるのか。聖典にある天国とやらに行くのか。そこに妻は、アンネは……まあ、いい。死ねば分かる。

 

 

「俺、には、過ぎた、いい人生だった」

 

 

 そして。

 

 

「いい、最期だ。お前たちも」

 

 

 ──────どうか、そんな人生を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ケントさんは亡くなった。

 

 老衰だろう。娘さんが帰省して暫く。気温が下がって冬の足音が近づいてくるのと合わせてベッドの上で横になる時間が徐々に増え、最期は眠る様に息を引き取った。オルダンさんもそうだったし、村の他のお年寄りなんかも冬頃に亡くなることが多かった。

 

 疫病に飢饉。野盗や魔物。そして戦争。村にやってくる商人などからの話を聞く限り、俺がかつて生きた前世の日本より、そして俺が漠然と想像していた剣と魔法のファンタジーな異世界よりここは遥かに過酷な世界だ。

 

 そんな世界で、80歳を超えて生き老衰で娘に看取られて死ぬ。きっと幸せな事なんだろう。

 

 ……前世では両親を看取るより先に俺が死んで転生したから、大切な人を喪うってのは結構堪えるな。ケントさんの目の病気も治せなかったし、水を差すような真似をしてしまった。悔いは多い。

 

 

「ありがとうね、ナーリンちゃん。快適な旅だったわあ」

 

 

 ケントさんの娘さん、フレイナさんはえくぼがチャームポイントのおば「ん?」──お姉さんだ。

 冬の間にケントさんの家や魔道具店の整理を済ませ、村の皆に挨拶をしてから俺は彼女と一緒に旅立った。

 

 

「この後はエルドの所に寄ってから、国内を回るのよね。気を付けてね」

 

 

 そして、フレイナさんとその家族が住む街までやってきた。挨拶を済ませ、録音用魔道具を譲り渡した。もう一つ、ケントさんの息子─エルドさんに渡す用のもある。

 

 この『統一王朝』は先々代の国王の時代に大陸北方での領土拡大に成功し今は概ね平和だが、大陸南方は群雄割拠の戦国時代らしい。なんでも帝国を名乗る国家が興ったとかなんとか。近寄らんとこ。

 

 

 

 

「感謝します。父さんを看取ってくれて、こんな魔道具まで…」

 

 

 そして無事、息子さんにも魔道具を届けた。

 

 さて、冒険だ。

 

 痛いのは苦手。故にRPG的に言うならメインジョブ僧侶サブに魔法使いとレンジャーの後方支援職といったところ。

 

 ケントさんから貰った聖典に、古着屋で買ったなんか聖職者っぽい服を着たなんちゃってエルフ僧侶……それが俺だ。

 

 天地創造の女神様への信仰が広まってるおかげで旅が楽なんだよね。商店でおまけして貰えたり。それに、特に天罰とか祟りも無いし。行く先々で人助けとかしてるし女神様もきっと許してくれているんだろう。いるのか知らんけど。

 

 ただ、旅の中で、教会の一部勢力が『魔法は魔物の技術だ』とか言い始めてるという話を聞いた。特に平和な王都を中心に広まり始めているらしい。

 俺には使えないけど、女神さまの魔法とやらが聖典から発見されると教会は信仰を集めるだけでなく戦力も持つことになった。つまりは権力争いだろう。

 

 いやだなあ。

 

 しかし、暫く旅をしてみて俺の偽装に気付いた人も居なさそうだし、ケントさんが人外過ぎた事が分かった。前衛として旅に同行してくれる戦士を探しても問題無さそう。

 

 ただ、この国には所謂『冒険者ギルド』は無いらしい。仲間や依頼を探すのなら酒場に行くのが一番とのこと。

 

 酒かあ。前世下戸だったし美味しいとも思わなかったからなあ。それにこの身体多分未成年だし。

 

 まあ見た目エルフ僧侶にしてるから侮られたりはしないでしょ。めいびー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「きさまか、うわさにきくエルフの僧侶というのは。わたしと共に来い」

 

 

 クソデカ態度の真っ赤な髪に緑の瞳が特徴的な姫騎士(幼女)が絡んできた。

 

 うわあ。なんか厄介事に巻き込まれる気がするぞ。

 

 とりあえずやんわりふりほど……ほど……けない!

 

 

 あっ、めっちゃ力強い! 引き摺られる! 首締まる!

 

 

 

 

 

 たすてけ!!!!!!!

 

 

 

 




読了謝謝茄子!

頑張って書いてるけんな、見とけよ見とけよ〜

感想評価ここすきお気に入りクレメンス
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