【本編一旦完結】たすてけ勇者一行がくぁwせdrftgyふじこlp【原作更新待ち】   作:丹羽にわか

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リハビリを兼ねての閑話
本編は展開違いの原稿が積み上がってますスマソ


閑話 ソリテールは実験中

 

 

 勇者ヒンメルは二度、世界を変えた。

 魔王を打ち倒した時と、彼が死んだ時だ。

 

 ──────とある歴史家の言葉。

 

 

 

 

勇者ヒンメルの

死から4年後

南側諸国

サウザール地方

 

 

 

 

 

 

 

 ソリテールは一人、旅をしていた。

 彼女の趣味である人類と魔法の研究。その一環として大陸各地に赴き、その地の風俗や文化、魔法技術などを調査、蒐集する事は、ソリテールのライフワークと言ってもいい。

 ナーリンとの出会いからおよそ千年。『其方の夢を追え』と言われた通りに。

 

『お姉様、どこに行くの? お姉様っ』

 

 あの時、まだ小さかったソリテールを置いてナーリンは姿を消した。

 人間への擬態は満足にできず、魔力量や操作技術も稚拙に過ぎる。そんな足手まといな子供の魔族が、人間の戦士を一人で殺せるようになるまで傍に置いていたという時点で相当な変わり者だ。

 魔族に同胞への愛という習性は無い。故に、その行動には何かしらの打算や損得勘定であったり、興味なりが関係しているのだろう。

 

 

「そうだ。この旅が終わったら、お姉様に会いに行きましょう」

 

 

 ふと思い立ったアイデアに、ソリテールの羽織る外套のフードから覗く口元は緩やかな弧を描く。

 最後に会ったのはおよそ半世紀前。魔王が勇者ヒンメルらによって討たれ、魔王軍が瓦解した後のこと。ナーリンが隠棲していたヴォーボの森を勇者一行が訪れ、そこで一体の魔族を封印したという情報。勇者に遅れを取るとは考えていなかったが、その後偶然出会えた時は、つい実験場の一つに少し強引に招いて話し込んでしまった。

 また彼女と会うのならば、目一杯の研究成果や手土産を持っていかなければ。そこで交わす会話から得られる結果は、とても興味深いモノの筈だ。

 

 

「……おや?」

 

 

 そんな風に思考を巡らせていると、ソリテールの魔族としての感覚が周囲の空気が変わったことを感じ取った。

 

 

「これは……争いと死の気配ね」

 

 

 人気のない自然豊かな森の景色に特段変わったところは見受けられない。けれど、注視してみれば地面に靴によって踏みしめられた跡や、枝木が折れていたりと大勢の人が通った痕跡がある。

 

 

「盗賊? いえ、足跡が深いし規則的、鎧を身に着けた歩兵のモノか。それにこっちは蹄、おそらく騎兵。装備が充実している。どこかの軍隊が通ったのかしら」

 

 

 ソリテールは周辺の地図を頭の中で開き、そこに最近の情勢なども踏まえての予測を巡らせる。

 この辺りは最近諸国との関係が悪化している小国の国境だ。近くにあるのは村が一つ。そこに軍隊が向かい、争いと死の気配が漂う。

 となれば、この先に広がる光景は。

 ソリテールは見る者がぞっとするような笑みを浮かべた。

 

 

「実験にちょうどいいモノがないか、見ていこうかしら」

 

 

 


 

 

 

『ミューエはここにいて。お姉ちゃん、村の様子を見てくるから』

 

 

 そう言って小さくなっていく姉の背中を、ミューエは隠れ家である木の洞の中からじっと見ている事しか出来なかった。

 

 赤く染まった空に黒い煙が何本もたなびいていた。炭焼小屋の近くのような臭いもした。何かがおかしい。母は、父は、友達は、近所のおじさんおばさんは、どうなったのか。

 悲鳴が聞こえた気がした。家の裏庭で動物を絞めている時よりも悍ましいそれ。ミューエはどうしようもなく怖くなって耳を塞いでうずくまる。

 

 

「お姉ちゃん……!!」

 

 

 込み上げてくる涙、嗚咽を噛み殺しながら闇の中に少女は一人。

 彼女は姉の言いつけ通りにその場を離れなかった。

 二回の夜が過ぎた朝。喉の渇きと飢えが限界に達し、ミューエは隠れ家を出た。

 いつもは姉と手を繋ぎながら鼻歌交じりに戻る道を、子ども同士でやったかくれんぼの時より遥かに慎重に進んで、太陽が中天に差し掛かる頃になって漸く村についた。

 

 

「──あ、ああ……」

 

 

 鳶色の瞳に映る光景にミューエは膝をつく。

 ガチガチと歯の根が噛み合わない。カラカラに乾いているというのに、どこからか涙が溢れてくる。初夏の穏やかな陽気のはずなのに異様に寒い。身体を抱きしめてもその震えは止まらない。

 

 焼け落ちた家々。茶黒い何かが地面を這ったような跡。点々と地面に転がるナニカ。

 

 呆然としたまま歩みを進める。

 

 家があったはずの場所には、家だったもの。

 その僅かに残った外壁には赤黒い痕と、背中を預けたまま糸が切れた人形のように動く気配のない姉。

 

 それらが意味する所は。

 

 

「あ゛、あ゛ああああーーーーーーーーー!!!!」

 

 


 

 

 

 

「勇者ヒンメルの死。やっぱり影響は大きいみたいね。魔族も、人類も」

 

 

 未だ微かに炎が燻る建物を一軒一軒検めながら、ソリテールは呟く。

 四年前、勇者ヒンメルは死んだ。寿命、老衰だ。

 魔王を打ち倒した勇者の武威に恐れをなして隠れ潜んでいた魔族達が胎動を始めている。

 人類も、同種同士で国境などという見えない線を争って殺し合いを始めた。

 

 

「特に、この南側諸国は不安定ね。この村も、ごくありふれた事例の一つに過ぎない」

 

 

 剣で切り裂かれ、槍で貫かれた村人たち。みんな死んでいる。

 

 

「女子供も皆殺しみたい。工作活動の一環かしら? どこか別の国による仕業に見せ掛ける為とか」

 

 

 興味深いが、実験に使えそうなモノは無さそうだ。ソリテールは少し気落ちしながら村の中を見回り、そこかしこに死体の転がる広場を一瞥して踵を返そうとして、気付く。

 

 

「あら、生き残りがいたのね」

 

 

 焼け落ちた民家の壁に背中から寄り掛かる若い女の死体。その足に縋り付いているブロンドの髪の小さな少女。容姿が似ている。母娘か、年齢的に姉妹だろうか。相当弱っているのか、魔力反応がごく僅かで見落としてしまうところだった。

 

 

「──っ、ぁ」

 

 

 ソリテールが近づくと、足音に気づいたのか光を失った鳶色の瞳が彼女を捉え、乾燥しひび割れた唇が微かに動く。何を言おうとしているのか、本人にも分かっていないのかも知れない。

 

 

「壊れかけだわ。身も心も」

 

 

 膝を折って身をかがめたソリテールは少女の頭を掴んで視線を合わせる。空虚な瞳だ。このまま握力を込めるなり、魔力を噴出させればあっさりとその生命は潰えるだろう。たまには若い女の肉を食べるのも悪くない。

 

 

「お、ねえ、ちゃ……」

「……へえ」

 

 

 面白い事を思いついた。今ここで殺すのは勿体ない。

 頭から手を離すと、魔法を使って少女を浮かび上がらせる。身内と思しき女にすがりついていた腕はあっさり解けた。

 しかし、その腕は今しがた離れたソレを求めるようにふらふらとあてもなく宙を彷徨っている。

 

 

「──あ」

「ふふっ、ええ、一緒にいてあげるわ」 

 

 

 ソリテールは少女を正面から抱きしめた。貴重な標本を扱うように、優しく、丁寧に。

 少女の腕も彼女の背中に回り、微かな力で抱きしめてくる。

 

 

「さあ、行きましょうか」

 

 

 そして、その村から生者は居なくなった。

 

 

 

 


 

 

 

 

 ソリテールは千年の時を生きる大魔族であり、その生涯のほぼ全てを人類に関する研究に捧げてきた変わり者である。そこらの医者や僧侶よりも人類の身体や医学についての知見は深い。

 

 そのままでは衰弱死していたであろう少女の治療を人目につかない洞窟で行い、ひとまず彼女の容態が安定してからは、隠れ家の一つに身を寄せて献身的に看病を行った。

 

 

「もう平気そうね。どう? 痛いところとかはある? ミューエ」

「ううん。ありがとう、お姉ちゃん」

 

 

 ベッドの上の少女、ミューエの身体は健康体と呼べるまでに回復していた。

 

 

「お母さん達、心配してないかな」

「ちゃんとお話してきたから平気よ。それに、手紙も出してるし、ね」

「うん……」

 

 

 感情や表情はやや希薄になってしまっているし、滅ぼされた故郷の記憶に封をして、あの村で死んだ姉とソリテールを同一視しているようだが、境遇を考えれば随分と良好だ。精神が完全に崩壊し人形のようになる可能性もあったのだから。

 

 ミューエの頭を撫でるソリテールは自身の姿、特にその角を隠すなどはしていないし、髪の色も彼女やその姉のブロンドとは似ても似つかぬ色だが、精神を病み自身に都合の良いように認識を捻じ曲げた彼女がそれを気にすることは無い。

 

 

「さ、ご飯にしましょうか。今日からはミューエにも準備を手伝って貰うわよ?」

「分かった」

 

 

 ベッドから出たミューエの手を引いて炊事場へと向かうその姿は姉と妹か、はたまた母と子か。

 

 


 

 

 

「旅?」

「ええ。貴方の身体も良くなったし、そろそろ再開しようかなって。どう?」

 

 

 一つ二つと季節が過ぎ、成長期であるミューエの身長はぐんと伸びた。朝食後、一緒に食器を片付けながらソリテールが言うと、彼女は「分かった」と素直に頷く。

 

 ミューエの家は薬師の家系であり、死んだ姉は薬師見習いだったらしい。彼女の歪んだ認識をソリテールは利用して、姉の独り立ちの為の修行の旅に無理を言ってついてきたという事になっている。

 

 ナーリン程の高度な隠蔽を行えないソリテールがいつまでも一箇所に留まるのは望ましくない。それに、冒険者や盗賊、浮浪者などが姿を消している事が怪しまれる可能性は常にある。

 

 それから数日を準備に費やし、二人は出発した。

 

 

(お姉様のところに連れていくのは流石に怒られるかしら。それに、北側諸国への道中にはこれだと耐えられないだろうし)

 

 

 特に行く当てのないソリテールは、ミューエを連れて南側諸国をゆっくりと巡った。

 戦禍に呑まれつつあるが、国境や大きな都市を避けてしまえばその景色は平和で長閑なものだ。

 

 

「ワインを水に変える魔法? へぇ……お爺さん、この魔導書はおいくら?」

「こんなもんだな」

 

 

 ふらりと訪れた城塞都市の片隅にある魔道具店にて。

 ソリテールは怪しげな店主の手の動きを見て困ったように眉を下げる。示されたのは都市の住民の数ヶ月分の生活費に匹敵する額だ。

 

 

「残念。持ち合わせが足りないわね」

「そうかい」

 

 

 まけてくれる気は無さそうだ。ソリテールはふうと息を吐くと踵を返す。

 

 

「行きましょう、ミューエ」

「うん」

 

 

 得体の知れない魔道具や素材を恐る恐る眺めていたミューエは、ソリテールにとてとてと駆け寄ると差し出された手を掴む。二人は連れだって店を出た。

 

 街の喧騒の中に二人は溶け込んでいた。

 

 ソリテールは魔族だがその角は帽子などで誤魔化せる大きさで、見た目も人間に限りなく近い。魔族や魔物に反応する高度な防御結界があるような場所を避けてしまえば、人間社会に混じって情報や物資を集めてもその存在が露見する事はまず無い。

 

 

「さて、と。次は服でも見に」

「お姉ちゃん」

「んー?」

「お腹すいた」

「あら、ごめんなさいね。つい長居しちゃったわ。戻りましょうか」

 

 

 二人が滞在している宿は食堂も併設されており、宿泊客は割安で食べることが出来た。

 荷物を置きに一度宿の部屋に戻る。

 ソリテールが購入したばかりの保存食や調味料、薬の材料などを片付けていると、ミューエがその背中にぎゅっと抱きついてきた。

 

 

「どうしたの? ミューエ」

「お姉ちゃんは……わたしを置いてかないよね」

「ええ。心配だもの。一人になんてしないわ。それにしても、ふふっ、さっきのお店が少し怖かったのかしら」

 

 

 ふわふわのブロンドの髪を撫でると、ミューエは「ん……」と頭を擦り付けてくる。

 

 

「あらあら。そうだ。ミューエ、これを」

「……スカーフ?」

 

 

 ソリテールがベッドの上に置いてあった荷物の中から紫色のスカーフを手に取ると、にっこりと笑いかけてからミューエの頭に巻く。

 

 

「目印よ。これがあれば、人混みの中でも貴方を見つけられるわ」

 

 

 魔族と人間。相容れない筈の種族による共同生活は暫く続いた。

 

 

 だが。

 

 

「困ったわね」

 

 

 夜の街中を早足で移動しながらソリテールは呟いた。

 周りは逃げ惑う老若男女の悲鳴や怒号が飛び交い、剣戟や爆発音、断末魔もあちこちから聞こえてくる。石畳の道は瓦礫や散乱した荷物、怪我人や死体で覆われ、燃え盛る建物の熱気が肌を焼く。煙が視界を遮り、人々から正気を奪っていく。

 

 隣国の部隊の奇襲によって唐突に戦争が始まった。城門は突破され、街の中に兵士が侵入し、あちこちで戦闘が起きている。奇襲の混乱により指揮系統は崩壊し、満足な抵抗は行えていないようだ。朝には陥落しているだろう。

 

 

「国境からは離れていたけれど、砦への補給路の一つがここだった。だから狙われたのでしょうね」

 

 

 魔族の身体能力を活かし、闇から闇、死角から死角へと静かに素早く移動し兵士や住民に見つからないようにしながら宿に向かって駆ける。 

 

 慣れない人混みで病気を貰ったらしいミューエを宿に置いて、不足していた薬の材料を採りに街を出ていた矢先のこの状況。戻らずに移動する事も考えたが、収集した物品は宿に置きっぱなしであり、実験の途中でもある。

 いざとなれば全てを無かったことにしてしまえばいい。それができるだけの力をソリテールは持っている。

 

 見慣れた通りに出た。後少しで宿が見えてくるはずだが、戦闘が行われた後なのか武器や死体がそこら中に転がっている。

 

 紫色のスカーフを頭に巻いた、ブロンドの少女の姿もその中にあった。

 

 

「ミューエ」

 

 

 そっと抱き上げる。逃げようとした所を背中から斬られたのだろう。まだ生暖かい血がべっとりと手についた。

 

 

「待っててって言ったのに。困った子ね」

「──おね、えちゃ……いっしょ、もう、ひと、り、は」

 

 

 ミューエは僅かに目を開くと、弱々しく言い、それきり動かなくなる。魔力反応も完全に消失した。

 今、ソリテールの腕の中にあるのはただの死体だ。

 

 

「ひっ、ひひっ」

 

 

 近くの建物から人影が出てきた。血に塗れた剣を手に、薄汚れた鎧を身にまとった兵士だ。その目は血走っていて尋常な様子ではない。戦場の狂気に呑まれていた。

 兵士はソリテールを視界に収めると、目を喜悦に輝かせながら近寄ってくる。

 

 

「……」

「──あ、え」

 

 

 その胸甲ごと豪奢な剣が兵士の身体を貫いた。二本、三本と生成された剣が兵士の息の根を完全に止める。

 息絶えた兵士が地面に崩れ落ちると同時、曲がり角などから同じ意匠の装備を身に着けた兵士たちが現れた。

 

 

「敵だ!!」

「魔法使いか!?」

「殺せ!!」

「はぁ……面倒ね」

 

 

 南側諸国のとある城塞都市が一夜にして陥落したという報せが各所に届いた。

 だが、それは戦争によるものではない。防衛側も攻撃側も、そして住民も、誰一人として生き残りが居ない。文字通りの皆殺し。人間による所業ではなかった。

  

 かの魔王軍は七崩賢に匹敵する力を持つ無名の大魔族によるものと結論付けられ、周辺一帯を大陸魔法協会や軍により捜索が行われ、数体の魔族が討伐されるも下手人と思しき魔族は含まれておらず、住民たちは見えない脅威に恐怖することになった。

 

 


 

 

 

「3669、3670、3671」

 

 

 一本一本、金糸のようなそれを丁寧に摘みながら数える。

 

 

「3672っと。合計13万と3672本ね」

 

 

 自身を姉と呼んで慕い、それに応えるようにして接してきた少女は、その愛らしかった容姿が見る影もないほどに変わり果てた。

 

 

「さてと、作業も一段落したし、お姉様に見せるレポートの編集をしようかしら」

 

 

 けれど、それに彼女が何かを思うことはない。

 

 

「お姉様を参考にして、人と接する実験はまあまあの結果。マハトがやろうとしていた親しい人間を作って殺す、というのはよく分からないわね。……まあ、いいか」

 

 

 だって、魔族なのだから。

 

 

 

 

 




読了謝謝茄子!

三者面談回でちょろっと出てきた13万3672本の子を膨らませてみた。
ソリテールは魔族なので言葉で人を欺くのは当たり前だし受け入れられるのだって簡単、お茶の子さいさい朝飯前。

ミューエ:Mühe(独) 辛苦、苦労、など

感想評価お気に入りここすきクレメンス〜

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