ダイヤのA~スイッチピッチャーの軌跡~   作:とくまる

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お待たせしてしまいました。
年明けから年度末にかけては色々忙しくて……申し訳ございません。

またゆっくり更新していきます。


第5話

 

 

「御幸?」

 

「お、ノリじゃんお疲れ」

 

「お疲れ。まだ自主練?グローブ持ってるけど」

 

「いんや。どこぞのピッチングバカが帰って来ないから迎えに。ったく、夕飯の時間迫ってるのに」

 

「あー、今日は2軍グラウンドの方かな。俺も一緒にいい?」

 

「え、おお。行くか」

 

 

 

 

 

 

春の大会が終わった。

新入生は入学式後から2軍に合流し、中学と比べ物にならない練習量に必死でついていっていた。

おまけに体作りのための基礎メニュー中心。終わったころには動けない人も何人かいるような毎日。

 

そんな中でも裕は疲れた体を頑張って動かし、一人黙々と投げ込み練習をしていた。

名門野球部の青道は部員数が100人を優に超える。そうなれば自主練できるスペースは上級生やレギュラーが使用しており、普段の新入生は何とかスペースを見つけ出して練習するしかなかった。

しかし今日は大会明けで自主練習は無しにしている選手が多く、存分にマウンドを使ってネットスローを行えている。

 

そんな裕にとっては良い日に左右合わせて150球近く投げ込んだそんな時だった。

 

 

「おいコラ、いつまで投げとんだお前は」

 

 

後ろから声がかかる。見ると呆れ顔の御幸と苦笑いの川上が立っていた。

 

 

「あぁ、御幸丁度良かった。ちょっと受けてくれないか?ようやくチェンジアップが少し固まってきたんだ」

 

「受けてくれないか?じゃねーよ。そろそろ上がれ投げすぎだ。ほんっと、毎日毎日バカの一つ覚えみたいに投げやがって」

 

「感覚的にはこれぐらいまだ問題ない。そういえば川上、お前サイドスローだよな?シンカー投げれるならコツ教えてくれ」

 

「ごめんまだ投げれなくて練習中。俺もアドバイス聞きたくて、松本はどうやって投げてる?」

 

「うーん、俺の投げ方聞いてもあんまり参考になんないと思うけど。俺の場合は、」

 

「なーに盛り上がってんだ。ダウン付き合うから話は後にしろよ」

 

「そう言わずに意見くれって。ほら、捕手目線の意見プリーズ」

 

「…ハァ、ったく普段からそうやって相談しろよな」

 

 

そう言って話に混ざる。

 

 

「まぁでも結局のところ回転の方向と量の問題だろ?握り変えて無理なら後はリリースの問題じゃないか?」

 

「手首を返すのは上からでも横からでも同じだね。返し方が甘いとか?」

 

「んー出来ないことはないけど、それを続けると絶対靭帯ヤル気がする」

 

「そもそも空振りに出来る球欲しいならシンカーにこだわらなくていいだろ。スライダーは?」

 

「昔試して曲がったんだけど、どうしてもリリース時に体が開きがちになるのが直らなくてあんまり」

 

「なら…」

 

「いやそれは…」

 

 

そんなこんなで5分ほど話していたそんな時だった。

 

 

「ゴルァそこの1年!そろそろ上がらんかい!」

 

 

大声の方向を見ると、東とマネージャーの伊藤がいた。

東は素振りの後なのか、バットを片手にこちらへ歩いてくる。

ちなみに大声に驚いたのか、川上がギャグ漫画みたいに飛び上がっていた。

 

 

「自主練するんは結構やけどな、時間くらい確認しながらせんかい全く。ほれ、さっさとネット片すで」

 

「たはは、すみません東さん。ほら松本さっさとダウンするぞ」

 

「おう(この人が東清国。青道の4番でプロも注目してるって噂の)」

 

 

同じ高校生とは思えないガタイと威圧感。強豪ひしめく西東京においても特筆したパワーヒッターで、観戦した春大会の成孔戦でも2本の本塁打を放っていた。

見た目によらず結構世話焼きなんだなーと思いつつ御幸とキャッチボールを行っていると、伊藤が近くに寄って何か耳打ちをする。

すると、裕へ興味深そうな視線を向け、ネットを片付けるとそのまま歩いてきた。

 

 

「お前が噂の両投げで入ってきた投手言う松本か」

 

「うっす。よろしくお願いします」

 

「ほーん…」

 

 

東は上から下までじろじろ眺めて一言。

 

 

「伊藤、ほんまにこんなヤツがええ球投げるんか?こんなヒョロいとそんなに速度出ぇへんやろ。2軍のやつらにボコスカ打たれるんちゃう?アカンアカン、期待外れやこんなん」

 

 

普通にけなした。

2学年離れ、力量は天と地ほど差がある。それでも裕は初対面で侮られたことに少しイラっとした。

というより、煽り耐性が低かった。

 

 

「入ったばっかりの1年なんだから体が出来上がってなくて当然だろ?お前も2年前こんな感じだったよ」

 

「バカ言え。俺はバッティングで防球ネット超すくらいの筋肉はついとったわ」

 

「ハハハ。悪いな、コイツ裏表ない代わりにオブラートに包むってことを全く知らなくてね」

 

「いえ。東さん」

 

「ん?」

 

「格下と思って油断してると痛い目見ますよ」

 

「…なんや、雰囲気と違うて血の気が多いやんか。そういう奴は嫌いや無いで」

 

 

そういって楽しそうに笑いながらグラウンド出口のほうへ足を進める。

その途中、「あぁ、そうや」と言って立ち止まった。

 

 

「俺の言葉に腹立ったんなら今度おあつらえ向きのイベントがあるけ、そこで実力見せてみ。その上で、もし俺を引きずり出せたら全力で勝負したる」

 

 

見返したいならせいぜい頑張れ、と言いながら、東と伊藤は去っていった。

 

 

「お前煽られると弱いな」

 

「こ、好戦的なんだね意外と」

 

「るせ、先上がるぞ」

 

 

少し恥ずかしくなった事を誤魔化す様に少し足早に。後を追って御幸と川上がついてくる。

 

(そういえば東さんがイベントって言ってたな。何の事なんだ?)

 

一先ず急がないと夕飯にありつけないため3人は急いで宿舎へ向かったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その週の土曜日。

 

「今日は2軍対新入生で紅白戦を行う」

 

 

このことか、と裕、御幸、川上の3人は思った。

 

 

「今日の狙いは現状の個人の能力が試合という環境でどの程度出せるのかを見ていき、この夏に戦力になりそうな選手を見極める。勝敗は付くが重要なのは中身だ。各々、今出せる全力を期待する。

オーダーはこちらで指示するが、試合中の作戦や動きはチームで決めること。全員必ず打席、もしくはマウンドに立ってもらう。

また、正式な試合でもないので一度下がった後でまた出てもらうこともある。終わったからと言って気を抜かないように。

説明は以上だが質問は?

……ではオーダーを発表後にアップを行いゲームを開始する」

 

 

先発オーダーは倉持が1番遊撃手、御幸は5番捕手、裕と川上はベンチスタート。

見る限りおそらく、まずは関東近辺で名前を聞いたことがある人を優先的にしているようだ。

 

(俺の出番は多分後半。見てろよ、呑気にしてる鼻っ柱へし折ってやる)

 

防球ネット越しの東を目ざとく見ながら裕はアップに入った。

 

 

 

 

 

「東さん、あの1年に何か言ったんスか?めちゃくちゃこっち見てましたよ」

 

 

視点変わって観戦中の1軍面子。彼らは一日自主練だったが、次代の選手がどんなものか気になり早々にメニューを終わらせていた。

質問したのは現右翼手レギュラーの伊佐敷。フルスイングと強肩が強みの2年生で髭と高校生に見えない顔立ちが特徴。

 

 

「なぁに、ちょっとばかし挨拶したんや。俺を驚かしてみってな」

 

「絶対それ以上言ってるでしょ。ほんと投手に厳しいッスね」

 

「いつか東さんのせいでウチのチーム投手いなくなるんじゃないですか?」

 

「はん!この程度でおらんなる投手なんざこっちから願い下げや。…シレっと毒吐きながら混じってきたな亮介。同室のお前から見てどうやあいつは」

 

「んー、よくわかんないんですよね」

 

「わからん?」

 

「はい」

 

 

小湊はランニングをしている裕を見ながら、少し困惑の感情を浮かべた。

 

 

「良いやつだとは思いますよ。受け答えはしっかりしてるし、会話も不快にならないんで。ただ、その会話の機会が異様に少ないんですよ。

朝は僕らより早く起きて走りに行ってるみたいですし、部活終わって帰ってくるのも一番遅い。その上帰ってきたら課題終わらして早々に寝るんで、会話らしい会話ってのがあんまり無いんですよね」

 

「なんやそりゃ、サイボーグかなんかかいな」

 

「というより一人で完結してるんだと思いますよ。自分も、野球も」

 

「…なるほど、一馬が嫌われてるかもとか言っとったんはそれが原因か」

 

 

もしかしたらこの試合色々荒れるかもしれんなぁ、と思う東をよそに着々と試合の準備は進んでいくのだった。




あんまりにも更新してなかったので念の為

一馬は裕と同室の3年生です
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