ダイヤのA~スイッチピッチャーの軌跡~   作:とくまる

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続きです。


プロローグ2

 

高島礼 side

 

 

松本スポーツクリニック

そう書かれた建物の裏から自宅にお邪魔しました。

そして現在、ダイニングテーブルにてお父様『松本 文太(まつもと ぶんた)』に説明をしていた。

あまり表情の変わらない、頑固そうな印象を受ける顔立ちね。

 

 

「以上のように青道にはお子さんが成長できる環境が整っています。もちろん、特待生制度を利用すれば金銭面への負担も軽減する事が出来ます。

是非ともウチで預からせてはいただけませんでしょうか」

 

手渡した資料を眺めるお父様。

少し悩んでいる様子で、松本君へと視線を向けます!

 

 

「……お前はどうしたい?」

 

「え?あー、まぁ可能ならせっかくだし行ってみたいかな。金銭面も軽くなるみたいだし」

 

「そうか」

 

 

浅く息を吐いた。考えている様子だ。

 

 

「裕。今日の投球は左右でどれくらい投げた?」

 

「えーっと、右が42で左が57かな」

 

「んじゃ今から庭で右で15回、タオル使って振ってこい。フォームを崩さず1回ずつ、ゆっくり確認してだ」

 

「今から?嬉しいけど、俺の進路なのに俺は話聞かなくていいのかよ」

 

「少し込み入った話だ。いいから行ってこい」

 

「…わかったよ」

 

 

そう言うとタオルを持って外へと出て行った。

 

 

「すみませんね。これから話す内容をあいつに聞かせると調子に乗りかねない。最近は鳴りを潜めてますが、元来乗らせると面倒な性格なんでね」

 

「いえ構いません。あの、お聞きしたいことがあるのですが」

 

「今日の試合を見たって仰いましたね。なら聞きたいことは、あの子がいつから両利きなのかって話ですね?」

 

「ええ、その通りです。彼の投球は右と左で系統は違うものの、両方スイッチピッチャーとは思えない完成度でした。スイッチピッチャーは長い間両利きの上、尚且つ才能が必要です。そのため、いつから両利きだったのかで少し話が変わってきます」

 

「仰る通り。…あいつもこうじゃなけりゃここまで面倒じゃなかったんだがなぁ」

 

 

頬をかきながら大きくため息をつく。その動きで何となく察した。

 

 

「ということは彼は」

 

「ええ、裕は生まれつき両利きです」

 

 

 

生まれつきの両利き

それは人口に対して約1%しかいないと言われている。人は生まれた時から両利きであるという説もあるが、いずれにせよ成長過程でどちらかが利き手へと移行していく。

そのため利き手を矯正したりしない、自然な両利きというのは非常に珍しい。

 

 

 

「生まれつきの両利きで尚且つあれだけの投球。今まで話題にならなかったのが不思議なくらいの逸材ですね」

 

「極力そうならないようにしてきましたからね。あいつの性格上、おだてられたり自分の価値を正しく認識すると慢心してろくなことにならない」

 

「慢心、ですか」

 

「ええ。慢心と油断を覚えればその先に待っているのはただの堕落です。そのうえ、先程言ったように調子に乗りやすい性格なので。高島さん、野球において両利きであることの利点はなにか分かりますか?」

 

「右打者、左打者に関わらずに投球ができること、でしょうか?」

 

「そうですね。事前に打者が右左どちらが苦手かわかっていれば、それに対応して投げることが出来る。ただ、私はもっと別のところにあると考えています」

 

「というと…」

 

 

冷めたお茶を飲んで一息つく。

 

 

「ケガのしにくさです。野球肩と呼ばれる故障は知っていると思います」

 

「肩の使い過ぎによって起こる過剰なストレスから炎症や損傷が起きる故障のことですね」

 

「ええ。左右で投げ分け出来るなら、仮に100球投げるとしても50球ずつ左右の肩で投げることが出来ます。それだけでも負担が軽くなっていますが、一番は左右のバランスがとりやすいことです」

 

「左右のバランス?」

 

「ダルビッシュ有投手は、実践投入をしたことはありませんが左でも投げることが出来る。そして左で投げることで右の調子もよくなると語っています。肩を壊す原因はこのバランスを崩すことが要因であるとも言われる。つまり、」

 

「両投げの選手は肩への負担を抑えるだけでなく、効率よくケガをしにくい体と肩回りを作れる」

 

「実際に練習後に利き手とは逆の肩で投げる、シャドーピッチングやチューブを用いたりすることで、肩の故障はある程度軽減できます」

 

「それがお父様の考える両利きの利点であると」

 

「……」

 

 

一区切りつき庭を見るお父様。庭では松本君が動作を確かめながらタオルを振っていた。

 

 

「…妻は早くに亡くなりましてね」

 

 

ポツリとお父様がことがをこぼす。

 

 

「野球をやりたいと言い始めてからは、家と金銭の都合でのびのびさせることが出来ませんでした。その分、高校では思いっきりやらせるつもりでね。幸い大阪桐生にツテがありましたので、そこに通わせるつもりでしたが…。

今の青道の監督は片岡鉄心、さんでしたか」

 

「はい。ご存知なんですね」

 

「まぁ少しね」

 

 

懐かしさを滲ませるように裕君を見つめるお父様。

しばらくの間と共に正面に向き直る。

 

 

「私からは青道の進学に否はありません。裕が行きたいと思えばそれを尊重しようと思います。

ただ行く事になれば、絶対に生易しい環境は用意しないでください。あいつは珍しいスイッチピッチャーではありますが、才能としては秀才程度です。あいつがここまでになったのはケガのしにくいように作った体と、馬鹿みたいに投げることが好きで、馬鹿みたいに投げ込んできたからです。

裕はプロになる男です。その成長が出来る環境を与えてくれることを私は望みます」

 

「ありがとうございます!必ず松本君、裕君を立派に成長させます」

 

 

内心では小躍りしたい気分ね。

とはいえまだ完全に引き込めると決まった訳ではない。そのためには、

 

 

「親父ー。終わったけど」

 

 

15回のシャドーピッチングが終わった松本君が戻ってきた。

彼は大きな原石で未知数だけど、必ず大成すると直感が囁く。

 

 

 

「お疲れ。とりあえず俺からは特に反対も無い。お前が決めろ」

 

「ん、わかった。ありがとう」

 

「ねぇ、松本君」

 

「はい?なんでしょう」

 

「うちの練習見に来ない?」

 

 

 

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