原作で「高野連にバレたら…」って描写があるので本来はブルペンで投げるのもダメだと思いますが、そこは広い心で流して頂けると…
偶々取材とか外部の目とか全く入れてなかったと思ってください。
また、前話を少し修正してます。
内容が大きく変わるわけではありませんので、見なくても大丈夫です。
強面の人は青道野球部の監督だった。
「片岡鉄心だ。早速だがお前の力量を見せてもらう」
「松本裕です。…あー、先ほどはすみませんでした」
「構わん。後ろから急に話しかけたこちらにも責はある」
「ふっ…くくく」
後ろで笑ってる親父は後で殴る、裕は心に誓った。
「普段の投球を見せてくれればいい。ブルペンを1箇所空けてあるからそこで行う。偶にこちらから指示を出すが、それ以外は捕手と話しながら行ってくれ。質問はあるか?」
「いえ、特には」
「よし。滝川」
「はい」
片岡監督の後ろにいた青年が前に出る。
外国の血が混じった彫りの深い甘いマスク、上背もあり何より体つきが中学生とは違いしっかりしている。
「1年生の捕手で、恐らく来年お前の球を受けることになる」
「滝川・クリス・優だ。よろしく」
「松本裕です。よろしくお願いします滝川さん」
「クリスでいい」
互いに握手をする。
「滝川、更衣室まで案内した後ブルペンまで連れてきてくれ」
「わかりました。松本、着いてきてくれ」
「はい」
裕とクリスは更衣室へと足を動かす。
「高島さんから珍しい投球をすると聞いているが、どういった投げ方をするんだ?」
移動しながらクリスは質問をした。
どうやら裕の詳細は伝わっていないようだ。
「まぁ珍しいっちゃ珍しいと思いますよ。両投げのピッチャーって俺以外見たことないですし」
「両投げ?投手なのにか?」
「そうです。まぁ両利きだったら誰でも出来るって親父は言ってたんで、そこまで珍しくは無いと思いますが」
「…まぁ理屈としてはそうだろうな」
(いや、ただ両投げができる事と実際に選手としてプレーするのは大きな違いがあるんだが。その上で
スカウトとはいえ中学生の球を受けるだけだと思っていたクリスは、奇妙な期待と興味が湧いてきたのだった。
更衣室へと向かう二人を見ながら片岡は口を開いた。
「あれが先生のお子さんですか。中学生にしてはしっかりした体です」
「俺が育てたからな。中々苦労したもんだ」
「投球も先生が?」
「暇なときはな。ほっといたら一日中投げてるから気が抜けねぇよ」
片岡と文太の旧知の仲のような距離感に高島は驚いた。
「監督と松本さんがお知り合いなのは知ってましたが、どういった知り合いなんですか?」
気になって訪ねてしまう。
「なに、こいつが悪童だった頃に世話してやったのよ」
「その言い方はよしてください。
ウチがお世話になっている病院があるだろう?俺が現役の頃にそこに勤めていてな、色々世話になったんだ。」
「なるほど…」
珍しい縁もあるんだなと高島は思った。
「ところで先生、松本はどんな投手なんですか?」
「ん?あーそうだな。具体的な投球はこれから見るから概要だけ話すと、」
——左右で別人が投げていると感じる投手だ
パンッ!
乾いた音を響かせ硬球を投げあい、肩を作っていく。
見慣れない形状の両利きグローブを嵌めた裕は、右から投げるようで投球を続ける。
ブルペンの周りには片岡監督、文太、高島副部長の3人が揃っていた。
(オーバースローだが少しスリークォーター気味?球も中学生にしては速そうだが)
「クリスさん準備出来ました。いつでもいけます」
「わかった。監督、始めます」
片岡監督が頷き、クリスは座る。
マスクはつけない。
大きく構えられたミットはホームベースの上、ど真ん中。
「投球を見るとはいえ、試合で投げている想定だ。バッテリーの意識をもって臨め」
「松本、思い切り来い」
片岡監督とクリスの言葉に軽く首肯し、モーションに入る。
セットポジションのままゆっくり左足を下げ、そこから前に重心を移動させながら右足を軸に左足を前に振って勢いをつける
左足を大きく踏み出し、オーバースローより若干下がった位置から振り下ろす
スパン!
構えていたミットにそのまま収まった。
(良い球速。120km/h後半といったところか?中学生にしては十分すぎるな)
「ナイスボール」
返球。
肘から出る綺麗なフォームにより、ストライク返球で裕のグローブに届く。
それからコースを変えつつストレートを投げ込む。四隅、低め、高めと重ねていった。
ボールを受けながらクリスは気づく。
(ミットが構えた所からあまり動かない)
内外、高低とバラけて要求してもしっかりミットまで投げ込んでくる。
(コントロールが良いタイプの投手か。確かにこのレベルで制球出来るなら実力は十分。だが、)
パン!
(球質が軽い。速さがあってコントロールが良くても、配球を読むタイプの打者には打たれやすいか)
「次、変化球。球種はアップの時に聞いたが、どれから行く?」
「じゃあ、カーブからで」
「よし、来い」
同じ動作から、ほぼ変わらない腕の振りで放たれる。
フワっと浮き上がりクリスの方向へ進んでいくが
(遅い!)
先ほどの速球から20km/h以上は違う、100km/h程度と感じる速度。
スリークォーター気味の投球フォームによって放たれたボールは打者の手前の位置でブレーキがかかり、少し利き手と逆方向に変化しつつ低めに収まった。
「随分遅いな(カーブというよりスローカーブだなこれは。恐らく前回転を多めにかけることで前方向への力が少なくなった瞬間に落ちる軌道になる。それがブレーキがかかるように錯覚する)」
「最初はもっと速いカーブだったんですけど、緩急欲しくて色々工夫したっす。右投げの時はコレとストレートを主軸でやってました。でもちゃんと当てられると飛ばされるんで、他の変化球も混ぜて散らす感じです」
「なるほど。次、ツーシーム」
「わかりました」
再びの投球動作から放たれたボールはストレートの軌道を描きながら、ホームベース前で利き手方向に小さく落ちた。
「カットボール」
同じように放たれたボールは利き手と逆方向に少し曲がる。
(どちらも変化量は多くない。緩急で揺さぶり、芯を外してゴロにするのか。ん?)
「………」
返球しようとしたクリスだが、指先を見つめて立っている裕。
「松本、何かあったか?」
「あ、いやちょっと気になる事が。すみません、最後の球種投げてみていいですか?」
「ああ、シンカーだな」
来い、というように大きくミットを構える。
同じ投球動作から放たれたボールは、本来の軌道は利き手方向に変化しながら大きく落ちる。
裕の右投げのウイニングボール。
しかし、ボールはほぼ変化はせず構えたミットの位置でそのまま収まった。
(やっぱり、思った以上に変化しない。何でだ…?)
「…何かあったか?」
首を傾げ続ける裕にクリスは再度声をかける。
「…あー、えっと‥‥‥‥」
「や、大丈夫です。自分でなんとかします」
「…そうか。左投げ、やるぞ」
厳しい顔をして先に進めるクリス。
不穏な空気を残したまま左投げを試し、入部試験と銘打たれた裕のお披露目は終わったのだった。
左投げは入部試験後までスキップです。
次でプロローグ終わりの予定です。