すぐ投稿したいとか言ってこのざまですよ。
本当に申し訳ないっす。
第1話
3月某日
青心寮入寮の日
朝、裕は駅へと来ていた。
車に乗せていた荷物を降ろし、ホームへと向かう。
「忘れ物があったら連絡しろ。送ってやる」
「別にいいよ、大丈夫」
「…そうか」
電車は既に来ている。
裕は振り返らずに乗り込む
「裕」
文太に呼び止められる
「なんだよ」
「‥‥あー、投げることに関して、俺はお前に色々叩き込んできた。フォーム、真っすぐ、変化球、投球術、理論。だから、まぁ、なんだ
頑張ってこい。お前は十分力がある」
エアーの音と共にドアが閉まる。
電車が加速していく。
「…んだよ、似合わないことしやがって」
流れる窓に映る空は、気持ちいいくらいの快晴だった。
16:30
裕は青心寮に到着した。
高島部長の出迎えに挨拶し、割り当てられた自分の部屋を探す。
「松本、松本…ここか」
自分の名前の札を見つける。
横をみれば『小湊亮介』『大畑一馬』とかかっていた。
(どんな先輩だろ…。中学の頃はあんまり他の人と話したりしなかったし)
一抹の不安を抱え、扉をノックする。
「開いてるよ」の声を聞いて入室すると、鮮やかな髪色の小柄な男性がいた。
「失礼します。今日からお世話になります、松本裕です。よろしくお願いします」
「や、いらっしゃい。俺は小湊亮介、よろしくね松本」
「っす。お願いします小湊さん」
「亮介でいいよ。多分来年弟が入学するからややこしいんだ」
「わかりました。もう一人の方は…」
「多分バット振ってるんじゃないかな。いつもはもっと遅いけど、今日来ることは知ってるからそろそろ戻ってくると思うよ」
荷物そっち置いてベットはこっちね、と指示され持参したものを置いていく。
「噂より大人しいね?」
唐突に亮介さんから言われる。
入学前の学校で県外からの入学制に対して噂とは?と首を傾げる。
「何ですか噂って?」
「実力は高いけど生意気そうな世間知らずが来るってクリスから」
「…あのやろ」
ハーフ特有の彫りの深い顔を思い出し、苦々しい表情が隠せなかった。
その反応に亮介さんは、イジりがいの有りそうな後輩が来たなとにやりと笑う。
「素直だね。表情にすぐ出る。そんなんでピッチャー務まるの?」
「む…正直、わからないです。でも、クリスさんは絶対見返します」
「へぇ…。ま、頑張りなよ。それより一馬さん!いつまで玄関でビクビクしてんですか」
「え?」
目線を玄関に向けるとガタガタと驚いたような物音がした後、ゆっくり入室してきた。
180cm近い身長だが全体的にやせ型の男性だ。が、全体的に挙動不審で目が合わない。
「相っ変わらずのノミの心臓ですね。なんで新入生にビビってるんですか」
「うっ…いや、だって、スカウトで監督が直々に合格出した人で、それにあのクリス君に目をかけられてるんだろ?怖い人かもしれないって思ったらつい…」
「ホントこの人は…。仮にもレギュラーなんですから、もっと堂々としてください。
松本、この人がもう一人のルームメイト。3年の大畑一馬さん。見ての通りビビりな人だけど、基本良い人だから心配しないでいいよ」
「よ、よろしく。松本君」
「よろしくお願いします(なんか濃い先輩方と一緒になったなぁ)」
今後やってけるのか少し不安になった。と、先ほどの言葉で疑問に思ったことを聞いてみる。
「そういえば『あのクリス君に』ってやっぱりクリスさんってすごいんすか?」
「ぅえっ!?えっと、そうだね。い、今の3年生には主力になるキャッチャーが、あまりいなくて…」
(全っ然目線が合わない)
「リ、リードもバッティングも上手いから、今の所最有力候補って言ったところ、かな」
「へぇー、ん?決定ではないんですか?」
「クリスは普通にコミュニケーションの取れるやつなんだけど、基本しかめっ面の上にちょっと口下手でね。それが原因で一部の人たちと少しギクシャクしてるんだ。大分マシにはなったんだけどね」
「あー…(確かにあんまり表情変わんなかったなあの人)」
てっきり正捕手なのかと思っていたが、亮介さんの説明で納得する。
「で、でも、実力はみんな評価してるから、多分正捕手、だと思う」
「わかりました。ありがとうございます大畑さん、亮介さん」
「うん。あ、今日、何かする予定はある?」
「いえ、特には。いつもなら少し投げますけど」
「なら、き、今日は早めに休んだ方がいいと思う。明日朝早いし、監督、遅刻とか厳しい」
「あー、ですよね」
「夕食は、今日は21時までならいつでもいいけど、お風呂は学年で時間決まってて、入り口に時間書いてるから」
「わかりました」
どこかから叫び声が聞こえた気がしたけど、とりあえず明日に備えて準備を始めよう。
早朝
アラーム音で目を覚まし、部屋ごとに配られた補食を食べてグラウンドへ向かう。
いつもこの時間に走っているから問題ないが、他の人は慣れてないのか欠伸や目を擦っている人が多い。
と、一際フラフラとした人を見つけた。小柄だが髪を逆立てており、ぱっと見不良にしか見えない。そして眠気のせいか目が吊り上がっている。
(同級生、だよな?なんか危なっかしいな。声かけるか)
「なぁ、大丈夫か?」
「あ゛?」
(怖っ。こいつ元々目つき悪いタイプか?)
「…あー悪い。ビビらせるつもりは無かったんだ。ただ部屋ぁ一緒になった先輩が親睦会とかいって、深夜までゲームやっててよ~ぁふ。おかげでこの調子だ」
「大丈夫か?」
「へーきへーき。徹夜なら慣れてるし問題ねーよ。あぁ、そうだ。倉持洋一だ。1年だろ?これからよろしく」
「松本裕。よろしく倉持」
グラウンドに着くと2つのグループに分かれていた。
「新入生はこっちだ。順番は無いから来た順に並べ」
誘導に従って2人で並んで待つ。
そして時間きっかりに片岡監督が姿を現す。
「「「「「ッはようございます!!!」」」」」
(うおっ、すげえ圧)
これが強豪校か、と驚いた。
びっくりしたのは1年生全員だったようで、先輩たちの後にバラバラと続いて挨拶をした。
そしてこの監督、やはり威圧感がある。全体の空気が一気に緊張したものに変わった。軽く挨拶を返した後、恰幅の良い先輩の横へと進む。
「これで全員か」
「「「「「はい!」」」」」「はい!(遅れた…)」
「よし。順番に自己紹介を、左から」
「はい!東京都!武蔵野大学付属中学出身!…」
強豪校は自己紹介なんかやんのか、と再度驚く。そんなことをするのはクラス替えくらいだと思っていた。
(…何も考えてない。とりあえず出身とポジションと、将来とか理想像、か)
『今のままならお前をマウンドに上げることは出来ん』
『わからないままなら、俺は来年お前の球を受けない』
思い返してため息を吐く。
結局答えは出ず、曖昧なビジョンのみが残る。
でも、
「次」
自分の番
監督の鋭い眼光が刺さる
「愛知県西城中学出身、松本裕。ポジションは投手。」
『裕、お前どんな投手になりたい?』
チームとも呼べない人の集団
空回った孤独
悔しくも無い敗北
虚しい勝利
そんなものはもう十分だ
「勝てる投手になります」
ここからが第一歩
(なんだあいつ)
その後つつがなく新入生の自己紹介は進んでいったが、遅刻したスポーツグラスをかけた一人が無言で列に入ろうとして監督に怒られていた。その後、走らされてた。
この時はこんなのが今年の有望株捕手で、三年間女房役として一緒に活躍するとは欠片も思っていなかった。