んろくぅ
ワカモとラセツが出会った後。ワカモは自身の拠点で考え事をしていた。それはもう頭を抱えながら
(うぅ……どういたしましょうか……)
頭にあるのは、昨日出会った青年。最初は自身と同じように仮面を着けていたため顔は分からなかったが、何か漠然と、この者の素顔を知りたい……と考えてしまい、相手に仮面を取るように伝えた。そこからはもう……言うなれば一目惚れ、というやつだ
だが決して顔を見て判断した訳では無い。……いやまあカッコイイと思ったし男性というにも驚いたが。ワカモが目を惹かれたのは、その瞳だ。
それが何かは分からないが、自身の生き方を定めていると言わんばかりの決意の宿った瞳。それでいて、その願いが誰かを助ける事というのが分かってしまう程自身を見ていない、透き通っている程綺麗な瞳。ワカモはそこに惹かれた
だが、彼を見ていると何故かこちらが恥ずかしくなってしまい、咄嗟に逃げてしまった。ワカモが考えていたのはそこだ
(顔を見た途端逃げる等……失礼すぎます……! 変な女だと思われたでしょうか……)
自分の顔を見た途端逃げる女等、男性……いや普通に生きている人からしたら失礼極まりない。……まあそれ以前に暴れていた所を見られているのだが……彼女にとってはその行動が当たり前過ぎて引かれる要素という事に気づいていない
(ですが……もう一度……お会いしたいものですね……)
……
…………
………………
翌日、またしてもワカモは町に出ていた。しかし、今回は破壊行為等の為では無い。今日は人探しの為だ
(……そもそも、あのお方は一体どこの生徒なのでしょうか……男性の方等、居たら噂になっている筈ですが……)
キヴォトスに人間の男性が居たら、一瞬で噂が広まる筈。しかし、その様な噂は聞いた事が無い
……因みに、噂が流れていない訳では無い。しかし、噂が流れても、今まで男性に触れ合ってきていないため、キヴォトスに人間の男が居るなど信じられない者しかいない。そのため噂が流れても、直ぐに掻き消えてしまうため、結果的に広まらないのだ。それと、トリニティの生徒には、ラセツの事を広めない様に言われているので、尚のことである
(……虱潰しに探すしかありませんね……とりあえず、昨日あの方と会った場所を中心に探してみましょうか……)
そう思い至り、建物の屋根から飛び移ろうとした瞬間……
(あっ……)
足を踏み外した
(くっ! まさか私が考え事に気を取られ足を踏み外すとは……!)
しかし、と冷静に考える
(ここはマンションの屋上。そして、このマンションは各部屋への通路が外から見える。つまり……)
そして、手に持っていた銃の先端を壁に突き刺し、通路へと着地する
「ふぅ……」
と息を吐いた瞬間、目の前の部屋のドアが開く
「朝からうるせぇな…………あ?」
すると、出てきたのは、まさにワカモが探していた人物だった。……しかし、服装が不味かった。今の彼は薄手の下着に短パンという、如何にも寝起きという服装であった。……因みに、ここは貞操観念が逆転しており、キヴォトスの女性に男性に対する耐性等皆無だ。……つまり
「あっ?! いえ、そんなお姿……あっ……」
顔を赤くして気絶してしまっても仕方が無いのだ。うん、仕方ない
「……ええ……ワカモ? ……えぇ……いや、ほっとく訳にも行かんし……入れる……か……?」
困惑しながらも、彼女を部屋に担ぎ入れた
……
…………
………………
「ん……」
目を開ける。どうやら気絶していたらしい。辺りを見回せば、見知らぬ部屋だった
(確か……通路に着地した後……あの方が……〜〜〜っ!)
そこまで思い出し、また顔が赤くなるのを感じた。しかし、と
(もしや……ここはあの方の……?)
そこまで考えた所で、部屋の扉が開かれる
「お、起きた? 大丈夫? 急に倒れてびっくりしたよ」
「あっ……えっと……」
「ああ、部屋に運んじゃったけど、大丈夫だった? 何か予定とか……」
「い、いえ! 大丈夫です。ご迷惑を……」
「ははっ。気にしないでよ。放っておく訳にも行かなかったからね……あ、そういえば、仮面外れちゃったけど大丈夫だった?」
「っ?!」
彼に言われて初めて気づいた。確かに気絶するまで着けていた仮面が無い。つまり……
「その……」
「ん? ……ああ……男に見られて良い思いはしないか。ごめんね。災厄の狐のと言われている子の素顔がこんなに可愛らしいとは思わなくてさ」
「えっ?! か、かわっ?!」
目の前の男性の褒め言葉に、お世辞だと思ったが……こちらを見ている彼の目は、嘘を言っている様に見えなかった
「次からは気をつけるよ。ごめんね」
「いえ……その……あ、貴方様にならこのワカモ如何なるものでも見せられますゆえ! お気になさらず! むしろご覧になって下さい!」
「え……そ、そう?」
「はい!」
「……そっかぁ。……あ、君の事はなんて呼べば良いかな?」
「ワカモとお呼び下さい!」
「ん、分かった。ワカモ」
「あっ……」
自身から希望した事とはいえ、自分の惚れた男性からの名前呼びというのは、男性経験の無いワカモにとって……というかキヴォトスの女性にとっては夢に見た様な事なのだ。そのため、ワカモの顔はまたしても赤く染まってしまう
「ん……まだ調子が悪そうだね……俺は今から出かけちゃうけど、この家にあるものなら勝手に使っていいからゆっくりしててよ」
「あ……ありがとうございます」
「じゃあ」
と言って部屋を去ろうとする彼を……
「あ……お、お待ちを!」
「ん?」
引き止めた。どうしても聞いておきたい事があるからだ
「お名前を……お聞かせ下さい」
「名前? ……新雲ラセツだよ。よろしく、ワカモ」
「ラセツ……様」
自身の慕う者の名前を、口の中で噛み締める
「じゃ、今度こそ行くよ。ゆっくりしててね」
そう言いながら部屋から出る彼。去り際に手を振ってくれた。慌てて自分も振り返すと彼は微笑みながら扉を閉めた
(あぁ……ラセツ様……)
……
…………
………………
いやビビった。寝起きに外から壁に何かを突き刺す様な音がしてうるさかったから文句言おうとしたらワカモが居るとは思わんかった。その後気絶したし。ま、とりあえずミカ達との待ち合わせ場所に行きますかね
……まあもう着くんだが……あ、もう居る。いつも早いんだよな
「よーっす。お待たせー」
「あ、ラセツ君来たよ」
「こんにちは、ラセツさん」
「うぃーっす。悪いな、ちょっと予想外の事が起きてな」
「ふーん……大丈夫だったの?」
「ああ。大丈夫だった。……んで、今日は何すんだ?」
「今日は服を見に行きたいと考えておりまして……ラセツさんの意見も参考にしたいと……」
「ほーん……あ、じゃあ丁度いいし俺の服も選んでくれよ。最近キツくなってきてさ」
「「えっ」」
……? 何だ? 何か変なこと言ったか?
「……ねえ、ラセツ君。それはつまり私たちが選んだ服を着てくれるって事?」
「ん? ああ、まあそうだな」
「……ナギちゃん」
「……えぇ、ミカさん」
「何だ? どうかしたか?」
「ラセツ君」 「ラセツさん」
「うぇっ、なんすか」
「今日はラセツ君の服だけで良いよ。うん」
「ええ、私たちの服はまだ着れますので……とりあえずラセツさんのを選びましょう」
「え? いや遠慮しなくても……」
「「ん?」」
「あ……いえ、アリガトゴザマス」
圧が……圧が強いよ……
にしても野郎の服なんて選んで楽しいのか? ……てか俺が着れる服あんのか……?