南極狼獣 作:たくわん
『変わり続けなければならない』。
ずっとツァガーンの中には危機感があった。
エリートだった父の言葉が無意識下に根付いたのだろうか。
生来の性質が環境に合わせて発現したのだろうか。
物心ついたころからずっと、何かに変わることを求められている自分がいた。
「変わり続けなきゃならない、強くなるために」
環境に。周囲に。試練に。世界に。
全て変わるのではなく、自分という芯を保ちながら適応幅を増やすことでより強い存在になる。
その先に磨かれた自分が在り、変わることを辞めた先には歪で無価値になった
思想と言うには確かでなく、理想と言うには馴染んだそれは、スタイルと呼ぶのが相応しい。
物心ついた時には既に、ツァガーンは己のスタイルを確立していた。
「ここらで一番競争が激しい学校ってどこかな」
「この学校で一番人気の部活ってどれ?」
ある種、自らの可能性を試すことにも似た試みの中で、少年は早々に『人と競う』手段を見つける。
競争についていける自分になること。
競争に勝利できる自分になること。
競争を厭わぬ自分であること。
どれもツァガーンにとって性に合った道であった。
上を目指す者が集い競い合う場でも稀に見るほどに努力する姿を見て心配したのか感心したのか。
時折、ツァガーンを気にして声をかける者もいた。
「お前、部活やりながらよくそんだけ勉強するよな。疲れないか?」
「全然、楽しいぜ。競う相手も多い方が楽しいしな」
疲労の中、笑いながら告げた言葉に偽りはない。
残念なことに、なのか。幸運なことに、なのか。
ツァガーンは天才ではなかった。
人一倍努力すれば人一倍の結果は出せるが、人一倍努力する集団の中で飛び抜けるほどの才はなく。
人十倍の努力を成せる精神力と、努力に応えてくれる程度の才能のおかげで常に上位層にはいたものの、少年の目指した最上位の環境には必ず彼を上回る才能と努力をする者がいた。
才能はもとより、勉強と運動の両方を極めようとする彼より、どちらかのみ極めんとする誰かの方が一分野の努力量が勝るのは当然のことだ。
かかる時間、費やせる努力、身体精神的余裕。どれも勝てるわけがない。
それでもツァガーンはどれかに絞ろうと思ったことはないし、競う気を無くしたこともない。
楽しかった。
師事して、たずねて、挑んで、学んで、教えて。
競うことも、その結果自分が磨かれていくことも、全てが少年の喜びだった。
数年同じスポーツに打ち込んで、学校が変わるごとに競技を移り変わっていく。
集団競技、個人競技、それぞれに個性と違いがあった。
「つってもそろそろスポーツと勉強だけってのもワンパターンか。
なんかないかな、文化系か、卓上遊戯か、料理とかの実用系って手もあるか?
なーんかピンとこないんだよな。まだしも格ゲー……そういやなんか流行ってるゲームあるんだったか」
転機があるとしたら、<Infinite Dendrogram>での出会い。
第一陣とまでは言えないが、比較的初期に始めたツァガーンは順調に成長した。
決闘の道を志し、闘技場に指導に来ていた後の師匠の動きに惹かれ拳士の道を目指し。
目覚めた<エンブリオ>が単純な拳士用装備でなかったことに困ったものの、向いていそうな【獣拳士】に就き、レジェンダリアの【獣拳士】で最強と知られていた【象王】ナヴァヤーカに師事し。
象皮種族に獣拳士の強者がいない時期から独学で鍛えてきたナヴァヤーカの指導を受け、めきめきと実力を伸ばしていく。
「この『子供が体力を使い果たすまで遊び相手になる』修行、どんな意味があるんで?」
「お前にもいずれわかる。日常の中にも修行はあるものだ」
同時に、息抜きの量が増えた。
ひたすら努力しかしないツァガーンに対し、見かねた師が修行という方便で色々やらせたというのが実情だったが。
「見てください師匠!
【ナラシンハ】使って同時に複数の遊びを行うことで並列処理と体力消費を増強できるんです!
この修行、俺がこれを思いつくのに期待してたんですね!」
「……そうだな、そうだったことにしておけ」
師の目論見が全てうまくいったかといえば、そうでもないが。
それでも弟子への思いやりはツァガーンのやる気を引き出し、より思い入れを深める好循環に至っていた。
なんとなく、危機感が薄れる。
どことなく安心感が生まれる。
強くなりたい、己を磨きたいという欲求はそのままに。
根源の理由から危機感が削られ、達成感や充実感の割合が増えていく。
「そういや俺ら、強制進化機能とかいうやつ使ったことねーな」
「……いいんだ。それが一番なんだよ、本当は」
「そんなもんかね」
危機感から生まれたエンブリオは危機感を無くした主を否定しない。
喜ばしいとさえ思っていた。
この主従は、相手の理解度に関して言えばエンブリオの方が圧倒的に高い。
ナラシンハは本人が気づいてもいない変化をいち早く察し、それが本人にとって良い変化であることまで理解していた。
その変化が決定的なものになったのは弟子入りしてしばらく経った頃。
師との距離も随分と縮まってきたある日のこと。
「お前も随分と強くなったな。
マスターは成長が早いと聞くが、お前の強さはお前の勤勉さあってこそだ。
流派を修め戦い方を確立するごとに捨て次の流派に移る。
積み木を立てては崩すような努力をよくここまでこなしたものだ。
私の十年はお前の一年にも満たないようにさえ思えてくるよ」
「よしてくれよ師匠、勤勉なやつなんていくらでもいるぜ。
俺がやってるのも『試してみなければわからない』って師匠の言葉に納得したからさ。
それに今、楽しいぜ。いろんな自分の可能性を試してる実感がある」
「そうか」
ナヴァヤーカに弟子入りを志願した者は多いが、彼の修行を途中で辞めなかった者は少ない。
流派を捨てれば弱くなる。
己を試すためだけに全ての流派を網羅しようとする者は数少なく、ツァガーンほどの熱心さで学び続けた者に至っては皆無だ。
かつてのナヴァヤーカとて長寿を前提にして気長に学んでいる。
己にはできないことをする弟子を、ナヴァヤーカは誇りに思っていた。
「もう3つも流派を修めたら、お前も超級職を得た当時の俺に並ぶ。
その時には祝いとして
その申し出は、ツァガーンにとって晴天の霹靂だった。
初めての感覚。
超級職を譲るという申し出ではなく。
「……は!?
い、いや、超級職ってなんか貴重なもんじゃないのか!?
それを俺なんかに譲っていいのかよ!」
「おいおい、お前はとっくに一番弟子だぞ。
譲って何が悪いというんだ」
「え、いや、それは、でも……」
『
『こいつなら或いは』という期待。
『お前なら
複数人を選ぶのではなく、誰か一人を選ぶその時に、ツァガーンが選ばれたことはない。
ずっと、自分が一位にならない世界で戦ってきたのだから。
「お、俺なんかより【象王】に向いたエンブリオ持ってる奴もいるんじゃないか?
何も急いで俺に決めることないだろ」
「それも一要因ではあるが、それだけが全てってわけでもない。
お前の人格。能力。努力。実績。
その全てを見て、お前にならやれると思ったんだ。
時期はいつでもよかったが、今後超級職獲得のための争いも激化するだろう。
俺を助けると思ってもらってくれ」
悩む必要のない、得しかない選択肢に。
初めて悩んで、悩んで、悩みに悩んで。
悩みながらに、ツァガーンは受け取ることを選んだ。
「師匠は……俺にどうなってほしい?」
「そうだな、『師の名が広まるほど偉大な戦士になってほしい』とは前にも言ったか。
『いずれ神にも勝てる拳士になれ』とも言ったな。
だが、本当はあまり『こうなってほしい』とは思ってないんだ」
「え?」
託されたのが初めてで、何を求められているのかおそるおそる聞く弟子に、あっさりと師は答える。
「
改めて俺の顔色を伺う必要なんてない。
お前らしく生きていけ、ツァガーン。俺の誇れる一番弟子」
「――――――」
当たり前のことだ。
ナヴァヤーカは『これをこなせば跡を継がせる』と試験を与えたり対価を求めたのではない。
遠くないうちに満たす程度の条件以外、何一つ課さなかった。
何も求めず全てを与える。
全幅の信を置かれなければあり得ないことなのだと、ここまで言われてようやく気付く。
「それでも気になるなら、そうだな……。
お前に余裕がある時、俺達になにかあったら助けてくれ。それでいいさ」
冗談めかして言われたその言葉をツァガーンがどれだけ強く心に刻んだか。
ナヴァヤーカにはわかるまい。
条件を満たすまで少しかかって、条件を満たして超級職を手に入れて。
流派を学んでは捨てるごとに決闘ランキング上の順位が乱高下していたのも収まり。
相性での上下移動はありながらも、安定して上位に入るようになる。
"獣装武陣"モルフォとのライバル関係が本格的に形成されだしたのもこの頃。
そして、更にしばらくして。
ツァガーンは必殺スキルを獲得した。
必殺スキルの有無に理由を求めるなら、ナラシンハはそれを『逡巡と確信』であると考える。
担い手の、ではない。
エンブリオの迷いと決断であるのだと。
『この担い手の本質をどう定義するか』。
『能力をこうすることは必然なのだろうか』。
『今この時に決定することが本当に正しいのか』。
いくつかの迷いがある。
よほど未確定な者でない限り、担い手の個を基にした個々のエンブリオの判断は確定的だ。
スキルの効果を決めること自体に迷うことはそうない。
故に最も多いのが、『今作るべきか』という悩みである。
持ち主の個を参照して作るこの力は実用に足るのか。
もっといい力が、そうなる心情に至るのではないか。
ここで力を与えることで、正しき成長を阻害するのではないか。
そう考えて
ツァガーンの必殺スキルが遅れたのは、ツァガーンが変化し切るのを待ったからだ。
芯が強い、故に大きく変化しにくいツァガーンの心が成長するには長い時間が必要だった。
師との出会いがあり、きっかけを貰い、その上でじっくりと時間をかけて変質した。
象のように遅く、象のようにしっかりと、地に足つけて進んだ道の先に、技と体に釣り合う心があった。
『おめでとう、マスター』
必殺スキルの発現により、ツァガーンは己の
ナラシンハがツァガーンを変化させるスキルにならず、武器にも変化する衣服だったのは、ツァガーンにとって変化とは環境に適応する
『俺は変わりたかったんじゃなくて、
普通に生きていれば気づかなかった己の心の根源を見る。
記憶と思考の全てを覗き生まれるエンブリオだからこそわかる真実。
成長と進化は副作用に過ぎず、周囲から己の本質を守るための防具にして武器だった。
芯を保ちながら変化し続けたいのではなく。
芯を変えないためにそれ以外を変え続けるのが、ツァガーンにとっての戦いだった。
競うこと、戦うことをツァガーンが好んだことはまた別の話で。
仮に好まなかったとしても己は変化をやめなかったとツァガーンも確信できる。
つまり、それがツァガーンの本質だったのだ。
ならば、今のナラシンハがツァガーン自身を変えるスキルに至ったことにも意味がある。
(俺の一番大事なものは
真に大切なものが確立されたからこそ、ツァガーンは己の生死にすら真の意味で囚われない。
心の矛盾を踏破した今、迷いも躊躇いも塵一つなく。
記憶が。信頼が。絆が。誇りが。
己を肯定する過去が、ツァガーンを死地へと運んでいた。
変化を終えた人獣が神獣に迫る。
「真・攻勢構成一番!かますぞナラシンハ!」
『ここで決まっても恨むなよ神獣!』
それはなんの変哲もない突撃であった。
ただし、神獣の強化凍結範囲に入る直前に。
二足二腕の人獣の肉体に、
『――――――』
神狼に正常な思考があれば当惑しただろう。
それらの四肢は攻撃のためでも移動のためでも、もちろん防御のためでもなく、てんでばらばらに
かろうじて突撃動作の邪魔にはなっていないが、それでも明らかな
常識的に考えて、体当たりの際の威力強化ぐらいにしかならないだろう。
しかし神狼には思考がなかったため、そのまま迎撃に入り。
凍狼が痛みに叫ぶ。
皮膚を掠めただけにも関わらず、肉まで大きくこそげ取られていた。
この戦いで初めて、神狼が無意識に一歩退く。
人獣が距離を詰める。
「逃すかッ!」
咄嗟に敷かれた氷茨の妨害線を氷細工のように砕き前へ。
反射で振るわれる狼爪を今度は綺麗に受け流して、人獣の追撃が胴に突き刺さる。
二度。三度。拳が、肘が、蹴りが、膝が、額が。
先程よりも流麗な拳技連携が神獣を壊し、構える余肢は生まれては消えてを繰り返す。
一方的な攻勢に、ツァガーンの笑みが深みを増した。
【象王】は膨大量の自己バフスキルを持つが、それぞれに異なる構えが必要な性質上、同時に使用できる範囲はかなり限定される。
ましてシナジーのある強化ともなれば尚のこと。
そもそも自らの四肢を全て使えば構えに縛られ動けず戦えないという問題を、身につけた服に戦わせることで解決したツァガーンは間違いなく過去最強の【象王】と呼べるが、それでも自らの手足でなければ構えと認められない以上、同時使用範囲は一桁に収まっていた。
だが今のツァガーンにとってそんな縛りは存在しない。
変幻自在の衣服だった力は変形可能な肉体と化した。
今のツァガーンは理論上、【象王】の持つ全強化スキルを同時起動できる。
己の肉体をベースにガードナーと融合し、ガードナーの変形能を己が使う。
ただそれだけで、ツァガーンは神域に足を踏み入れていた。
『神獣のスキルはバフをまとめて無効化しているんじゃない。
順に一つ一つ無効化するなら、俺が攻撃し終わるまで消しきれないぐらい、大量のバフを貼ればいい』
『本命のバフを剥がす前に、適当なバフで時間を稼がせる』
相手の異能の隙をついたと表現するのも烏滸がましいド正面からのゴリ押し。
しかし果たして他に神狼の異能の対抗策があるだろうか?
ない。ないのだ。だからこそ、胸を張って言える。
『"怪獣装者"はこの神話級UBMに対し、紛うことなき天敵である』と。
(―――なんだ?)
怒涛の連撃に終わりはない。
肉を穿ち。骨を砕き。臓腑を壊して命を潰す。
完遂するまで止める気はなく。
しかし一呼吸終え、連打の数が二桁を過ぎても一向に終わる気配が見えないことに、ツァガーンは訝しんだ。
調子に乗っていたナラシンハもようやく異変に気付く。
『あれ、こいつ骨もほとんど折れてないぞ!?
よく考えたらこれだけ高火力をぶちこんで吹き飛びもしないの、異常ではないか!?』
(俺の動きが鈍ったって感触もない。
相手の内側、"体内での自分に加えられた運動エネルギーの減少"ってとこか……?
皮膚まで通っても深部に至るほど衝撃が減衰する、おまけに)
抉れた肉が、削れた皮膚が、泡を浮かべながら再生する姿が見える。
HPの減少分も徐々に回復しているのも見て、ツァガーンは頬を引き攣らせた。
(吸収したエネルギー……一部は回復にも使えるってとこか)
『おい、このままでは殺しきる前にこっちのスキルが切れるぞ!?』
「全く、飽きさせないよな神話級ってやつは……」
超広範囲エネルギー吸収。
氷結・氷雪操作。
バフ凍結。
そして深部ダメージ軽減に、回復能力まで。
神獣の名に恥じぬ多重技巧。
技体陰ることはなく、強力で膨大な手札を持つ相手を、それでも殺しきると決めてきた。
「ここまでならまだいける! ナラシンハ、
振りかぶった拳。その内側に、目に見えぬ力が押し固められる。
一つ、真実を明かそう。
《
《
それは【ナラシンハ】の必殺が強力なスキルだからかと言えば、そうではない。
生体手足を増やす融合後の特性と【象王】との相性が
単純な変質能力としては融合前より劣ってさえいる。
もし変質能力を保っていたとすれば、強化が十分に通った時点で防御も回避も許さず叩き潰せていたはずだ。
ツァガーンの肉体と融合したことで、精度や安定性と引き換えに自在さと性能が落ちている。
では、《
【ナラシンハ】の特性は変形と変質。
これはモチーフ元であるヴィシュヌ神の
苦行の末に「神とアスラにも、人と獣にも、昼と夜にも、家の中と外にも、地上と空中にも、どんな武器にも殺されない体」を得たヒラニヤカシプを、しかして"例外的"に殺した合理の怪物。
『他者の絶対性の隙を穿つため、己を変化させ殺害した』。
この逸話をモチーフにした【ナラシンハ】は己の変形変質の性質を持っていた。
特定存在への変化ではなく自由度と自在性の高い変化能力であったのは、持ち主の
必殺スキルはこの逸話への回帰とも言える性能になっている。
自在さを落とし、変質対象を一定時間固定することで使用できる、超絶の変質能力。
振るわれる一発、
ツァガーンの体内で練り上げられた気功―――
打撃を直撃させるまでエネルギー干渉を受けにくい自らの肉体内に気功を隠し、抉った皮膚を通して直接敵の内部に流し込む。
込められているのは"消えるまで
魔力魂力の生産増幅と、操作による【竜王】が扱うオーラの再現に属性付与。
本来凡人のツァガーンに扱えるはずもない神技を与えるのがエンブリオの御技。
『《煉気化神》―――《
使用者の目的達成を補助し、妨害を払う刃を与える、性質変化の極み。
『
なんでも好きなように得られるわけではない。
発動時点までに集めた情報から、使用者の目的達成に最も適しているとエンブリオにより判断されたスキルセットを付与する仕組みだ。
マスターは必殺スキルを使用して初めて何が与えられるか理解することになる。
自己変革という都合上、外界範囲展開型にもなりにくく、起点は常に己の体。
長大な
デメリットや制限は数多く、獲得スキルも絶対に効くという確約はない。
それでも
全スキルを解放し、真に必殺となった神拳が神獣に迫る。
初撃で右胸をぶち抜いた。
二撃目、頭部を狙った右拳がズラされ、代償として神狼の左腕を奪い取る。
決して避けられない三撃目―――。
果たして。
失われたのは、人獣の両腕。
「――――――は?」
人獣には全てが見えていた。
己の三撃目を神獣が防いだことも。
己の攻撃を防ぐ直前生まれた異色のオーラが、触れただけで左腕を丸ごと凍結させたことも。
咄嗟に切り離さねば本体にまで普及しかねなかったことも。
全身に纏われたオーラが欠けた左腕さえも補ったことも。
己は神獣の反撃を逸らしきれず、右腕を奪われたことも。
必死に逃げて致命傷だけはなんとか避けたことも。
故に。そのオーラがなんなのかも、この先の展開も、よくわかっている。
攻撃の威力を大幅に減衰させる有色のオーラ。
接触の瞬間、耐性装備を無視して敵を凍結させる性質付与。
そんなことができる能力は多くない。
現実を受け止めきれないツァガーンの代わりになるかのように、ナラシンハが叫ぶ。
『
「神話級の使用する《竜王気》ときたか……なんてこった」
必殺を使用してから初めて、ツァガーンの顔から余裕が消える。
『強い奴が使うほど強い』。
《竜王気》はそんな呆れるほどに分かりやすい原則を保有している。
第一に、《竜王気》は特に
ナラシンハは制限時間付とはいえ第六の一スキルによるMP増加で賄っているが。
バランス型とはいえ神話級、更に今では超広範囲のリソース吸収を行っているこの神獣の総魔力量は、ナラシンハのそれと桁が一つ二つ違う。
第二に、《竜王気》は鍛えるほどに洗練される。
運用に特化しきっていない第六のエンブリオと比べ、目の前の神獣が百年を越える研鑽で獲得したその気の質は、薄く禍々しさを漂わせながらも一目でわかるほどに洗練されている。
第三に、《竜王気》は応用力が非常に高い。
今初めて獲得したツァガーンは自らの武芸の延長線上として使っているが、神狼は違う。
これが凍狼の切り札というのなら、おそらくその熟練度はツァガーンの比ではない。
だが、よく考えれば、さほど不思議なことではない。
既に己が模倣しているのだ。エンブリオに出来てモンスターに出来ない……それは特権意識が過ぎる。
ましてや生来
第六を凌駕する規模で扱えて、何を驚く必要があるのだろう。
(
舐めてたわけじゃないが、なんてもう言えねえ。
心から舐めてた。神話級、いくらなんでも
第六と超級職とのシナジーを上回られた。当然だと思っていた。
超級職と必殺のデフォルトで押し切れなかった。流石だと思った。
超級職と必殺のオプションを完全に跳ね返されると、予想もしていなかった。
技巧、技能、技術、技と総合力において、神獣は人獣を完全に上回っている。
望まぬ現実の到来に唇を噛む。
既に必殺を使用してしまったツァガーンに残された伏せ札はほぼなく。
この状況を打開できる札はない。
ツァガーンのタイムリミットが迫る。
時限式の必殺スキルが解除されるまで…………残り2分半。
読まなくてもいい余談
・バフの無効化《剥力効》
・物理ダメージの減少《削力孔》
・回復
・耐性貫通凍結《獣王気:固朽理爪》
その他、対集団スキルなんかも持っていたりする(今回は出番がない)
総評:
無敵ではなく、【破壊王】や【傲慢魔王】の最終奥義であれば通じる。
しかし……現時点では◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️ない。
反面、現時点であれば、【妖精女王】の最大火力で押し切ることも可能である。
土地から奪い増えたリソースによって自らを強化し続けた場合、その限りではない。