リアルの仕事がアレで更新遅れて申し訳ありません。
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アウトロー――。
それは無法者・ならず者・社会からはみ出した者の総称であり、社会秩序を無視することを当然とし、それを信条としている人の生き方そのものとも言える。
しかし、各学園ごとに校則が異なり、明確な重犯罪が謀殺なこと程度しか共通点がないキヴォトスにとって、それを明文化することは非常に難しく、その定義は自称あるいは周りからの見られ方にのみ左右される称号のようなものと言えるだろう。要するに見栄が肝心なのだ。
まず、悪であること。
これは大前提であり、誰が見ても立派な悪党かつ圧倒的でなくてはならないのだ。それを成すためには一度何か巨大な問題を起こすのではなく、一日一惡を心掛けるような積み重ねと下積みが大事であり、カリスマとは得てして磨くものなのだ。
そして、カッコいいこと。
アウトローとはハードボイルドなのだから当然であろう。元々は暴力的・反道徳的な内容を批判を加えずに客観的で簡潔な描写で記述する手法であるが、それを性格に当て嵌めた場合は感傷や恐怖などの感情に流されず、冷酷非情かつ精神的・肉体的に強靭、そして妥協しない硬派な人間性のことを言い、それがカッコよくない筈がないのである。
(中々、600円以下で食べれるところないわね……)
便利屋68と言う組織の社長である彼女――陸八魔アルというゲヘナ学園の生徒は、社員を養うことを考えつつ概ねそのような思想を持っていた。
尤も彼女の苗字をもじった便利屋68という組織は、彼女を入れて4人で全ての構成員であり、その日食べるものにも困る程度には貧困しており、アウトローというのも専ら自称であったりするため、彼女の人と環境を知れば多くは微笑ましい気分になるだろう。
そんな彼女の前に――。
『あらあら? アルちゃん社長ではありませんか?』
キヴォトス屈指の問題児であり、真の意味で
しかも何故か、
また、カゴにはコンビニのビニール袋が入れられ、値札の付いたショットガンの銃口が覗いていた。
「ひっ、ひひ……ひかっ、ヒカリ先輩!!!? どうしてアビドスに!?」
『それはこっちのセリフでもありますわよ』
何を隠そうヒカリは、キヴォトス全体でも取り分け狂っている部類に入るゲヘナ学園の部活動の美食研究会及び温泉開発部という組織犯罪集団ですら"バルバラ"という彼女単体の悪名には及ばない程だ。
アルが1年生の頃にゲヘナ学園の
しかし、そもそもバルバラは神聖とすら謂われる程の血筋を持つ天使であるにも関わらず、トリニティ総合学園からゲヘナ学園に転校して来た上、転校初日に2500人以上のゲヘナ学生を戦闘不能にし、転校3日目で初日に倒した生徒の多くを抱き込んで当時の万魔殿にクーデターを起こし、対処に動いた風紀委員会ごと制圧。最終的な要求として万魔殿に解散総選挙を発生させ、転校からたった1週間で投票率27.7%という歴代最高の投票率かつほぼ100%近い得票率により、万魔殿の"議長"に就任したというゲヘナの生きる伝説的アウトローである。
名誉ゲヘナ生というキヴォトスで最も不名誉かつ誉れの欠片もない称号を持つ事に誰も疑問に感じない程、生まれついてのゲヘナであり、紛れもなく自由と混沌の権化であった。
彼女がトップに居た頃のゲヘナには、彼女が居る場にだけは誰しも大人しくなり、結果的に秩序が発生するという異常事態ですらあったのだ。
まさに生き様のみで語るアウトローであり、トリニティからは"サタン"などと晒されているなどやたらカッコいい異名まであるので、憧れの対象にならない方が不自然であろう。
とは言え、それよりもアルはバルバラの異なる様子に頬を赤らめ、目を逸らしつつポツリと呟いた。
「あの……その服装はいったい?」
『ユスティナ聖徒会の伝統的な礼装でしてよ』
服装自体は未だに敬虔な信徒であると自称しているヒカリが、時折しているガスマスクを着けてシスター服を着ているというだけの話であり、妙にテカりがあり、パツパツな事以外の上衣は比較的普通である。
しかし、下半身の布面積がパンツが履けるのか疑問に覚えるレベルで鋭角な
更にそれで自転車に乗っているのだから捕まりそうなレベルであり、聴衆の面前での異物感は凄まじく、道行く人々が二度見する光景が繰り返されていた。
(さ、流石はヒカリ先輩……! 周りの目なんて一切気にしてないのね……!)
しかし、アルはその余りにも堂々と練り歩く天上天下唯我独尊と言わんばかりの態度に圧倒されていた。自転車のペダル回転のせいで縦に開脚されている圧倒的なVラインが眩し過ぎて直視できない。
やはり本物のアウトローはひと味もふた味も違うのだろう。アルではまだ足元にも及ばないと会う度に打ちのめされるばかりだ。
幼馴染みであり、便利屋68の室長の浅黄ムツキが居ればヒカリに対する痛烈なマジレスが入るところだが、手分けして店を探しているため、今この場にはアルしか居ない。
『私はこのチャリンコをお借りパクしていたことを思い出しましたので、直接お返しに来ましたわ』
「パクった上であえて返す……!?」
なんとアウトローなんだろうとアルは驚く。
まず、パクった事に一切躊躇も後悔もなく、その上当たり前のように持ち主に返しに行くという思考は、最早狂っているようにしか思えず、面の皮が厚い等というレベルではない。
『そちらは……ふむ、夜分にアルちゃん社長一人だけというと、何かをお探しですの?』
全てを見透かすように当たり障りなく当てて見せるバルバラに対してアルは観念した。
そして、ゲヘナ時代のバルバラが万魔殿と掛け持ちして入っていた"部活動"の事を思い出し、その確かな審美眼を頼り、社員のために安くて美味しいお店を探している事を話す。
『オーッホッホッホッホッホ!! それなら柴関ラーメンというお店が良いですわよ。安くて美味しくて素晴らしいお店ですわ!』
"並ラーメンが一杯1000円を超えるラーメン屋は、私的にそれだけでマイナス評価でしてよー!"等と実家が大富豪などというレベルを超えた名家にも関わらず、やたら庶民的な事を高笑いを交えて言い放つバルバラ。
才能や家柄だけならば完全に住む世界の違う貴族階級の天上の存在なのだが、頭から爪先まで俗で欲望に何処までも忠実であるため、悪徒でありながら信念は誠実かつ一貫しており、慕う者も少なくないのであろう。
それからバルバラとアルは1〜2分ほど言葉を交わすと、笑顔のまま手を重ねて頭を下げてお礼を言ったアルを最後に二人は別れる。
『………………』
そして、バルバラはアルが離れたのを確認すると、徐ろに電話をダイヤルし、相手が出るまで無言でペダルを漕ぐ。
『夜分すみません、お柴大将。バルバラですわ、はい。申し訳ないですが、これからそちらに四人組で一杯の並ラーメンを注文しそうな私の知り合いが向かいますので、もし来店したら私にツケて好きに食べさせてあげてくださいまし、ええ』
"スナイパー、マシンガン、ハンドガン、ショットガンが一人ずつですわ"等と言いつつ、バルバラは自転車で夜道を進んで行くのだった。
◇◆◇◆◇◆
『あらあらまあまあ……こっ酷くやられていますわね』
アビドス郊外の廃墟街に構えられたカタカタヘルメット団のアジトは、現在死屍累々と言った様子で団員たちが転がっていた。
アビドスの弱小学園の襲撃をこなせず、痺れを切らした依頼主から見限られ、新たに雇入れた便利屋68を名乗る集団に潰されたのだ。
そして、そんな彼女らの前に追い打ちとばかりにそもそもの元凶と言える者――バルバラ揚野ヒカリがママチャリを押して入って来る。
『何度か挨拶があった程度でへこたれてしまうとは……。可愛らしいですわ』
元SRT特殊学園総隊長という肩書きだけでキヴォトスのあらゆる不良を震え上がらせる彼女が、何故か自分たちが襲撃しようとした場所におり、羽虫でも叩くように撃退されたのが一度目。その足でここの前に拠点にしていた場所を建物ごと破壊されたのが二度目。アビドスの生徒を誘拐したところヴァルキューレの武装ヘリを持ち出して殲滅されたのが三度目。そして、今が四度目だ。
依頼主から見放されたのもあり、最早彼女らに反抗する気力などあるわけもなかった。
『貴女でしたわね。チェーンが切れそうだったので交換して、タイヤの空気も入れておきましたわよ?』
「は……? あぁ……?」
バルバラは二度目に交戦した時に持っていた自転車を押し、壁に背を預けている赤い服装をしたカタカタヘルメット団のリーダーの目の前に来てそう言う。
返されたヘルメット団のリーダーはヘルメットで表情は窺えないが、明らかに困惑している様子を見せる。
そして、ショットガンの入ったビニール袋をカゴから取り出すと屈んで目線を合わせた。
「お前のような奴が今更何の用だ……?」
『別に用というほどのことでもありませんわ。ただのライフワークの一環ですのよ』
「ライフワークだと……? ふざけるな! こっちは生きるのに必死なんだ……!」
『まあ、頑張りは認めますが、他者から略奪し続ける生活というのはすぐに破綻しますわよ? ほら、今のように』
「それをお前が言うか!」
バルバラと言えば、キヴォトスの頂点に君臨するレベルの略奪者かつ簒奪者であり、捕まらないだけでグレーどころかほぼ黒側の存在である。
また、キヴォトスの社会構造を良しとするような紛れもない権力者側の存在でもあるのだ。それが様々な要因により、停学や退学となり、仕方なくヘルメット団に成らざる得なかった者たちの前で説教を垂れているのは、彼女らにとって我慢ならないだろう。
『私を含む学生が学園モノの生活をしていることを他所に、自分たちは戦争被災者のような生活を強いられているのですから貴女方の妬みと劣等感から培われた反骨心は尤もでしょう』
無論、何度も権利者としての座を手にしているバルバラが、それを知らない筈もなく、そう話した彼女は更に言葉を続ける。
『しかし、それは結果ですわね。貴女方が何かしてしまった末に成り果てただけのことですのよ。楽な道を選べるだけ選んだ選択の先の今ですわ』
「黙れ! 私達はお前とは違う……! 強くない! 選べない! 泥を啜ってでも生きていくしかないだろう!?」
『そんなの当たり前でしょう? 貴女方と私を比べるだなんて烏滸がましいですわ』
その返しでヘルメット団員のリーダーは、目の前の存在が自分たちとは別の倫理観で動いている存在だと理解しただろう。
『羊と聖人、人と怪物、弱者と強者。天と地ほどの差があり、星に手を伸ばしたところで届くわけもありませんわ。摂理に物申したところで虚しくなるだけですのよ』
更にそう言い放ったバルバラは、ガスマスクの下側を取り外すと、ビニール袋からショットガンを取り出し、その銃口を咥え、引き金に指を掛ける。
「何を――!?」
そして、八発のショットシェルを一発ずつ間を置きつつ撃ち始めた。
その度に発砲音が響くが、バルバラは身動ぎすらせず、ただ事務的にその光景が繰り返されたようにしか思えないだろう。
「ほら、こんなにも人と違うのですから……」
全て撃ち終えた後、喉が一度鳴る。そして、徐ろに口を開くと彼女の口から幾らかボールの粒が零れ落ち、そのまま口元に笑みを浮かべて見せた。
それからまたガスマスクの口を戻し、辺りのヘルメット団員を一度見回してからリーダーに視線を戻す。
『ですが――』
文字通りの意味で怪物であることを見せ付ける異様な行動にヘルメット団のリーダーは口を閉ざし、そんな彼女に対して先にバルバラが口を開く。
『私と同じキヴォトスという世界を生きております。それ以上、何の理由も必要ありませんわ』
そして、ビニール袋に入っていた別のもの――学園のパンフレットを取り出し、それを手渡した。
「これは……?」
『ゲヘナ分校のディーテ夜間学校ですわ。私が万魔殿の議長をしていた時に建て、今年度開校した新設校で、私と現議長のマコトが連名で理事をし、
「ディーテ……」
聞いたことはあった。ただし、キヴォトス最悪の破戒天使が、ゲヘナ議長とつるんで作った学園という事実だけで近付きたくなくなるモノであり、興味すら沸かなったものだ。
『特色としては、まず書類に名前を書ければ入学できますわ。ただ、学業の時間は夜間に当てられ、昼間は就労が義務化されておりますの。仕事内容は主にゲヘナとレッドウィンターの武器及び兵器の製造、日用品や生活雑貨などの生産、建業などですわね。他にも希望制で出向等もあり、色々仕事を変えて好みのモノを見つけることもできますわ』
"両陣営の生徒はやんちゃですので、すぐにモノを壊しますから需要には事欠きませんわ"とバルバラは付け足す。
「ハッ……! ブラックマーケットやカイザーコーポレーションと何が違うんだ!」
実質、ゲヘナの私兵になれという事だとヘルメット団のリーダーは考えた。それならば学園に見放された元生徒の生活を保証する代わりに私兵として使っているブラックマーケットやカイザーコーポレーションと何が違うのだという煽りであろう。
同時にゲヘナでマトモな事業をしようとしてもゲヘナ生に襲撃されるのではないかと考えたが、バルバラが実効支配している学園を襲撃するという事は、ゲヘナでさえしないだろうという考えに至る。
『失敬な。学生証も発行されますし、何より業務体制が違いましてよ』
するとバルバラは、リーダーの横に回り、身体をぴったりとつけた上で、持たせたパンフレットを開くとやや身を乗り出して指でなぞりながら更に話す。
『校舎及び各種設備の建設はレッドウィンター工務部に依頼し、スペシャルアドバイザーとして
「………………?」
学生をドロップアウトした身であるヘルメット団のリーダーは、バルバラが矢継ぎ早に言っている事がよくわからず、大量のハテナが浮かぶ。
『後、毎日プリンが二つも付きますわ。無料券ですけど』
「なぜプリン……?」
『ミノリさんとレッドウィンターに言ってくださいまし』
バルバラはリーダーが理解していない事も織り込み済みのようで、"兎に角、後でこんな筈ではと思うようなことにならないようによく読み込んでおくことですわ"とだけ告げてリーダーの前に戻る。
『狭き門より入れ。滅びに至る門とその路は広く、これより入る者多し。命に至る門とその路は狭く、これを見出す者なし。破滅への道は簡単には選べて楽なものですが、本当に欲しかったものが先にある道というのは辛く険しいものですわよ。まあ、他人を襲えるほどの体力があるならそう難しい話でもないでしょう』
それがヘルメット団のリーダーには何らかの引用であるということだけはわかり、こちらの事を案じているという事も伝わった。
『後は何か私が促したと証明するものでも……。ああ、コレでいいですわね。それを受け付けで見せて一言入学したいと言えば何十人、何百人でも受け入れますわよ』
バルバラは自身の銃であるアパッチ・リボルバーのカーテシーを取り出すと、それをリーダーに渡し、更に"それから"と呟き、言葉を続ける。
『入学に際して借金などがあれば予め申告しなさいな。カイザーローンや得体の知れない金貸し業者を使うなら、ディーテや私個人に融資先を変えた方が幾分かマシでしてよ。お金なんて有り余っておりますわ。というか、お闇金ならぶっ潰して資源にしてやりますわ! 万魔殿の情報戦の強さとマコトの弱みを握って責める能力はキヴォトスで右に出る者はいませんわよ! ほーっほっほっほっほっほ!!』
「なんで……そこまで……」
『言ったでしょう? 同じキヴォトスで生きているからですの。生徒を助けるのに理由が必要ですか?』
そして、立ち上がると背を伸ばしで居住まいを正し、周りのヘルメット団員たちに目を向けてからリーダーを見下ろす。
『さて、選べないなどとも宣いやがりました手前、吐いた唾は呑めませんことよ? 私は確かに選択肢を与えました。まあ、これで今のままで良いというのならば、それもまた選択でしょう。次にあったらまた私直々に蹂躙してやりますので好きにしなさいな。ヨウコ様』
「――――ッ!? 私の名前……!」
『私を誰だと思っていますの? キヴォトスの生徒の名前なんて、当然全員覚えていますわ』
それだけ言い放ち、バルバラは踵を返す。
『では皆様方! 今日のところはごめんあそばせ! ほーっほっほっほっほっほ!!』
そして、耳に残り、頭に響く高笑いをしながらカタカタヘルメット団のアジトを後にし、夜のアビドスへと消えて行ったのであった。
〜 用語 〜
ディーテ夜間学校
バルバラが実効支配し、自身とマコトを理事に置き、レッドウィンターとも利権を分けているゲヘナ分校の新設学園。キヴォトスでは極めて珍しい夜間学校であり、労働を義務としている。一見するとゲヘナの下請け学園な上、入学する生徒が元ヘルメット団やブラックガードなどの後ろ暗い経歴を持つ停学者や退学者ばかりのため、経営陣の悪評もあり、世間的な評価は最底辺。
当然ながらゲヘナ自治区にあるため、ゲヘナ生に襲撃されるリスクはあるが、バルバラのヘイローを象った鉄のようなピースマークの校章を見ると、ゲヘナ生の大半は途端に大人しくなるため、割りと安全地帯である。