ハイキューの世界に転生したからといって誰もがバレーボールをやるわけではない 作:伊島蒼
気がついたら生まれ変わっていた、なんてのは昨今じゃ誰からも驚かれないような何処にでもありふれた話だが、それはあくまでも紙の上での話。
いざ自分が当事者として赤ん坊に生まれ変わってみると、恥ずかしながら酷くテンプレートな反応をしてしまった。ここは何処なんだ、一体どうなっているんだ、と。
まあ、まともに喋れる状態ではないので実際はただ泣き叫んでいただけだが。当然、それ以上にも無様を晒してはいるのだが、それは私の心の中にだけ留めておこう。
とはいえこの後に特別な展開があるわけでもなく。
魔法も無ければ、自分のステータスを可視化することもできない。現代にダンジョンが出現してなければ、織田信長もアーサー王も美少女になっていない、前となんら変わらない普通で退屈な世界だ。安心するべきか、それとも残念に思うべきか。
いや、安心するべきだ。私は基本的に無欲であることを信条として生きているが、それ故に怠惰に塗れてしまっていることを自覚している。物騒な世界なんぞに転生した日には私の存在などあっさりと消し飛ばされてしまうだろう。
二度目の人生といえども私は私のままではあるが、しかし前世をなぞる様な日常を過ごせたわけではなかった。
今でこそこんな擦り切れたような性格をしているが、何も子供の頃からそうであったわけではない。普通で平凡な、子供らしい子供だった。
しかも今世では何かと目立ちやすい容姿を持ち合わせてしまっていた。一言で表すならば、ただ単純に私は『小さい』のだ。
同年代の子供たちと比べるまでもなく、常に整列では最前に立たされてきた。ある程度成長すれば変わるかとも思ったがそんな事も無く、私の成長は133センチで止まってしまった。見た目は完全に小学生だ。
身体的な問題に心を傷めるような質ではないが、しかし前世と比べてここまで露骨に差異があるのであればさしもの私とて少しは気にしたりする。何よりも低身長というのは不便でならないのだ。
さて、そんな特徴と特殊な境遇を持ち合わせている私ではあるが、それらを活かして物語の主人公たちの様に天才子役になって芸能界に足を踏み入れてみたり、光源氏よろしく美少女を引っ掛けてみたりと、精力的に活動しようなどということはなかった。
私が目指すのは波風が立たない日常。しかし仮にも大人の精神を持つ私がその辺の子供たちと同じように振る舞えるわけでもなく。
大人びているといえば聞こえはいいが、要は賢しらぶった変な子供だ。そこらの子供よりも子供らしい姿をした私がそんな態度を取っているのだから可愛げがないどころの話ではない。大人たちから見ても、同じ子供たちから見てもさぞ気味が悪かったことだろう。
それが行き過ぎてイジメなどに発展しなくて本当に良かった。ありがたいことに、子供たちが選んだのは排除ではなくそもそも関わらないことだった。
そうなれば当然関係など出来るはずもなく、結果として日常生活の多くを占める学校では残念ながら完全に孤立してしまっていた。元より独りでいることに苦を感じないタイプであったこともあり、私も好き好んで交友関係を広げようとはしなかった。
しかし孤立はしても出る杭になってはいけない。精神的に大人であっても叩かれることは怖いし、面倒ごともまたごめんなのだ。
で、十五歳。そんな風に波風立てないように慎重に生活をしていれば、気がつけば高校生になっていた。
宮城県立烏野高校。家から近いといういい加減な理由で進学を決めた高校の名前だ。たったこれだけでもお分かりだとは思うが、私は一つ大きな事を見落としていた。
いや、忘れていた、或いは油断していたと言うべきか。
一年三組の教室。長くて退屈な入学式を半分眠った状態でやり過ごし、各教室に集まって最初のHRを始めるまでの隙間時間。
周囲では中学からの友人と仲良くする者や、新たな友人を作りに行く者たちで大層賑やかだったが、私とその隣に座る人物だけはやけに静かだった。押し黙っているのは私だけで、隣の彼はこちらに意識を向けてすらいないが。
「……はじめ、まして」
隣の席に座るのは、人より少々小柄であることを自覚している私と比べて二回りじゃ収まらないくらい大きい身体。顔は整っているがどうも堅物そうな印象を与える仏頂面。どうにも見覚えがあった。
ジロリ、と。衝撃のあまりついジッと見てしまったせいか、睨み返される。その威圧感に負けて若干吃りの入った挨拶をしてしまった。
「……おう」
「…………」
「…………」
端的にいえば、私は「ハイキュー」の世界に転生していた。元々転生なんていう不可解な現象に巻き込まれているのだ、そういうこともあるだろう。
「あー……たしかバレーの大会で見たことある人だなー。たしか北川第一の人だっけ?」
「……ああ」
「あ、そーなんだ。じゃあやっぱりここでもバレー部に入るの?」
……ただし、一つ想定外があったとするならば。
「いや、入らない」
「……は?」
「俺はもう……バレーは辞めたんだ」
彼が、影山飛雄がポッキリと折れてしまっていたことだろう。