それは、偶然だった。
それは、正規の物語とは違い双子だった。
双子だが、運命の悪戯か。
それとも、運命を本に戻そうとするためか、
その日、三雲香澄は涙を流した。
産まれた子は、選択せざる得なかったのだ。
一人を救い、一人を殺すか、両方殺すか。
「……二人共助けられないんですか」
「貴女が死んでしまう、どうしようもないんです」
陣痛は止まらない、生まれようとしている。
だが、それを聞いていたのか。
妊娠中だった胎児の心音が1つ消えたのだ。
「何と……胎児が心停止、此方の胎児を処分します。急がないと貴女が危ない」
その言葉に怒りを感じる間もなく…
直ぐ様、麻酔をかけられ帝王切開により双子が産まれた。
心停止し、母親の命を救った子供と、命を繋がれた子供が。
「ごめんなさい……始」
それは、死んでしまった子に与えた名前。
長男を始、次男を修と名付けた。
退院し、直ぐ様始の葬儀は執り行われた。
産まれたばかりの小さな命を抱えながら、産まれられなかった命に涙を流す。
「弱いお母さんで…ごめんね、始」
そして、時は経つ。
三雲修の隣には常にもう一人の存在が立っていた。
自分よりも常に大きく、自分以外には見えない存在が。
「修、そこの問題の答えはAだぞ。□の中に入るのはそれじゃない、もう一度見直してみろ」
まるで、教師の様に。
家族のように、テストの間でも、宿題の途中でも、教えてくれる。
「修、誰と話してるの?」
「お兄ちゃん!」
「……修?」
「おかーさん、何で皆始お兄ちゃんが見えないの?」
「!」
まだ幼い修に対して、始という兄がいた事は香澄は話したことが無かった。
だから、修が知るはずがなかった。
「お兄ちゃんね!宿題とか、テストとかで色々教えてくれるんだ!でも、ずるになっちゃうって言ったら、宿題とか、授業で教えてくれるようになったよ!」
修は周りから常に不思議な子と言われ続けてきた。香澄も、それが辛いとは思わなかった。
修の個性だから。
「ねぇ、修。始は何て……」
「ん?うん、良いよ」
香澄の目の前で、修は倒れた。
驚きながら、起こそうとすれば
「……母さん」
修と同じ声で、でも、悲しげで、今にも泣きそうな顔で香澄を抱き締める修。
「……始なの」
「良かった……僕は、母さんを護れたんだ。僕はやっと、言えるんだ」
「ごめんね……ごめんね……始」
涙が止まらなかった、死んだ子供が喋ってくれている。それだけが辛く、嬉しかった。
「修を守ってくれて、ありがとう!僕を産んでくれてありがとう!」
香澄の前で、始が倒れた。
「ん……お兄ちゃん、おかーさんと話せたの?」
「うん……話せたよ」
「お兄ちゃんね、おかーさんとだっこしたそうにしてたよ。できて良かったね!」
修は虚空に向かって手を振る、香澄もわかる。
その先に始が存在すると。
ずっと、修を護っていたのだと。
「これからも、修をお願いね」
(うん、母さん)
始は届かない声を伝え、涙を浮かべながら頷いた。
それが起こったのは9年前、現在修はBORDERのB級隊員として活動している。
(ふぃーーー、練習お疲れさん。シューターとしても随分強くなれたと思うよ)
「兄さんのお陰だよ、サイドエフェクトも兄さんだから使えるんだ」
(お前が自分の力で俺の力を扱えるようになれば……俺は何時成仏しても良いんだけどね)
「…止めてくれよ、母さんになんて言えば良い」
誰もいない空間で修は隣に座りながら微笑む兄を睨む。
(それよりも、お前。何処かに所属しないのかよ)
「上りたての新米にそんな余裕無いよ」
三雲は自分のトリオンが少ないと最初の検査で知っている。だが、兄である始と入れ替わるとそのトリオン量は29へと跳ね上がった。
その時の始は
(俺のすべてをお前にやる)
という考えのもとに行ったそうだ。
それ以降、BORDERでも生粋のトリオン量を誇る人材とされている。
「でも、ここまでこれたのは兄さんのお陰だ。僕の力じゃない」
(……)
修が負けそうになると、常に始が介入していた。
中学はじめに虐められそうになった時も、始が修の身体を使って巫山戯た3人組をボロボロにした。(その時、母である香澄に怒られ、修の前に1週間程姿を見せなかった。)
ランク戦も修と入れ替わるように戦闘を行うのだ。
(スコーピオンは楽しいぞ、修もやろうよ)
「駄目だ、兄さんがスコーピオンで10000超えたから僕はアタッカーみたいに認識されてる。本職はシューターなんだぞ」
(……オールラウンダー目指そうよ)
始のサイドエフェクトは修も使えるが、性能は半分以下に下がってしまう。
能力は瞬間演算、ありとあらゆる事象を即座に計算に相手がどの様な動きを行うか、そして、自分はどんな動きをすれば最適解か、それが即座にわかるのだ。
未来予測であり、日常でもフラッシュ計算で修も練習している。
だが、フラッシュ計算はできても流石にこれから起こる事象を計算するまでにはいかないのだ。
勿論、日常的に使うわけではない。
日常的に使えば修の脳への負担が酷いからだ。
始はそれを自由に使える、始いわく
(幽霊だから)
というが、修はそれを羨ましいと思ったことは一度もない。兄は、自分と母親を救うために死んだのだから。
「それで、兄さん、夕飯は?」
(俺の計算では……うん、ハンバーグだな。母さん特製の!なぁ、食べていいか?)
「良いよ、それじゃあ帰ろう」
(やっぱり持つべきものは弟だわ!)
始は修の視界から消える、何故消えるのか、何処に消えるのか、修は分からない。
だが、確実なのは近くに居ることだ。
「母さん、ただいま」
「修、はやかったわね」
「兄さんがハンバーグだって言うから、食べたいって言ってた」
「始ね、交代したら始は手を洗ってから食べなさいね」
「わかってるよ、母さん」
修よりも低い声となり、凛々しい目付きとなる。
「…いただきます」
「いただきます」
始は香澄の作るハンバーグが一番大好きだ。
生まれてから初めて食べたのが、香澄のハンバーグだったから。
忘れられない、初めての体験だった。
「ねぇ、始。修は今寝てるの?」
「いや、母さんのハンバーグを食べたっていう記憶はあるよ。俺と母さんの話す内容は教えないけど」
「……そう、ねぇ……始は」
「何度も言うけど、俺は何時か必ず消えるよだから、母さんも覚悟はしてね。俺は……俺は正直十分に生きてる。死んでるのに、母さんは愛してくれるし、修は身体もかしてくれる。感謝しないないはずがないよ」
始はご馳走様を言い終わると、修の中から消えた。修は急に意識が戻った事を不安がるよりも、付近に始の姿がない事を驚く。
「母さん、兄さんに何言ったんだよ」
「二人だけの秘密よ」
笑顔だが、何処か悲しげな香澄に修は何も言えなかった。
そして、遂に物語は動き出す。
三雲修のクラスでは虐めがある。
巫山戯た3人組による、遊びと称する物だ。
「いて…」
教室で座り、復習をしていた修の頭に何かがぶつかった。布の様な厚み、その中に何か尖ったものが入っていた。
(……塵が)
「おいメガネ、それこっちに」
修はその声が終わる前に、その声の主を蹴り飛ばす。
「……うぜえったらありゃしねぇよなぁ……雑魚がよぉ」
クラスメイト達も一瞬にして、言葉が止まる。
修は鉛筆を筆箱から取り出すと蹴り倒した男に馬乗りとなり、嘲笑う。
「…死ね」
「ヒィ!」
ドス
と、低い音と共に鉛筆が砕けちる。
虐めていた男の髪を貫通し、床に砕ける。
「俺はなぁ……調子に乗る奴が一番嫌いなんだよ。どうしたんだ?ほら、やり返してみろよ」
「てめぇ…メガネ!」
取り巻きが殴り掛かればもう一人を縦にする。
「……調子に乗ってんなよ」
修はその虐めていた生徒の財布から小銭を抜き取る。何をするんだと周りが見ている。
「……あらら……小銭もただのゴミだな」
それはあり得ない光景だった。小銭がまるで紙くずのようにくしゃくしゃになり、馬乗りされている生徒の顔に落ちていく。
「あっ……」
「首はこの握力をてめぇの首で試してやるか?あぁ?」
恐怖する、3人だけでないクラスから声が消える。
「次、巫山戯た事を抜かして見ろよ。殺すぞ」
冷徹な声、普段の修とは思えないその姿勢は何人かは見たことがあった。
〘修がブチギレた〙
だからこそ飛び火は防ぐ、誰も彼も、関わりたくないのだ。
修は常に静かだ、静かだが、観察は忘れない。
言葉で攻めても丸め込まれ、気付けば自分が悪だと認識させられる。
それに、日本人らしく関わりあいは嫌なのだ。
「修くん、もう…やめよう!もう良いから!」
「ちっ…腰抜けが」
修の前で小便を漏らし、床を濡らす生徒。
それを見ればクラスの誰かが嘲笑を始める。
「…ほら、筆箱」
「ありがとう、修くん」
「……次は自分で取り返しな、コイツラはただの馬鹿だ。自分が、偉いと思いながら、誰かを下に見るクズだ。だが……小便タレの糞餓鬼に堕ちたがな」
「え」
「お前は俺に恐怖した、だが…向かってきた。自分を虐めた糞餓鬼を助けるためにな、偽善なんかじゃぁない。お前は、善だ」
修は席に戻ると再び復習を始める、それが終われば予習だ。
「キレた修くん、格好いい」
「背中で語るっていうの?アレ」
そして、座った修はそんな声を聞きながら隣にいる始に怒りを見せている。
「何してるんだよ、兄さん」
小声で、誰にも聞こえないように話す。
(悪いな、お灸を据えたくなった。許してほしい)
「兄さんは過激過ぎるんだよ」
(でも見ろよ、小便漏らして臭ってくる。涙も流して……惨めだよな、笑えてくる)
「兄さん、ごめん眠いんだ」
(昨日はつかれたか?判った俺がやっておく)
腰を抜かし、席に戻れない哀れな奴等。
立ち上がれもせず、口をパクパクさせている。
「お前等……漏らしてるのか?おい…中学3年、受験生になってもトイレに行けないのか」
授業が始まり、女教師が教卓に立つ。
すると、男性教諭に連れられながら一人の生徒が現れる。
「空閑遊真です。背は低いですが15歳です」
黒板に くが ゆうま と平仮名で書き、何処か見た目相応な態度の少年。
「先生そいつ指」
「先生、お漏らしした子とその取り巻きが何か言ってました。ついでに言えば先生、この際話すぜ。虐めを見過ごしてるこの学校、そして生徒の映像は持ってるし、ネットに流せる。いや…ごめんね、今流しちゃった。判ったな、クソども。お前等の未来は終わりだよ」
「三雲!お前はなんて事を」
「うるせぇ!俺はなぁ、苛ついてんだよ!てめぇ等みたいな教員にも、コイツラを跋扈させる状況もな」
「お前」
「黙りな、さっさと紹介続けて授業をやらせろ。証拠なら腐る程あるぞ」
始は修とは違い優しくない、暴力で人を傷つけた事もある。
そして、ムカついた教師を小学生のころ、喝を入れた事もある。
ソイツは始を畏れ、二度と学校に来なかった。
中学でも、その話は聞いていた。
教員殺し、生徒殺し、社会的に、精神的に殺すのだ。真面目な教師は尊敬し、馬鹿な者には喝をいれる。それが、三雲始の生き方だ。
「……お前、面白いね」
「空閑だったな、お前なら俺の弟と仲良くやれそうだ」
放課後、修は始の行動に若干の怒りと、尊敬を感じながら空閑遊真と話していた。
「なぁ、オサムはどっちだ?」
「僕だけど」
「あら、今朝のはオサムか?」
修は空閑遊真を信じてみたくなった。
「僕の中には、兄さんが居るんだ。死んだ兄さんが僕と一緒に生きてる、今朝のは兄さんだよ」
「へぇ……本当なんだな」
そんな会話をしていると、修の道を遮るように
不良達が現れる。
(修、ゴメンな)
始はそこから無理矢理修の肉体を奪った。
そして
「……血祭りってこうやるんだよね」
始の腕は既に返り血で塗れている、あたりには
鼻は潰れ、顔面に青痣をつくり、ボロボロの大人数の不良がいる。
「さーて…お前たちの骨を折るのに何分必要だ、お前等が立ち上がったと同時に、この拳を叩き込む……かかってきな!」
その時だ、けたたましいサイレンが響き渡る。
「あ、これここじゃん」
「メガネくん、わかんだ」
現れたのはバムスターと呼ばれる捕獲用トリオン兵だ。
「あら、あっち行った。空閑遊真くん、さっさと逃げよう。クズは所詮、クズだ」
「そうだな」
(なわけ無いだろう!)
「メガネくん、どうしたんだ」
「いや…なに……修は君に話したんだろう?持ち主が助けるって言って聞かないのさ………あっやべ」
始は操作できなくなり、覚悟の決まった修の姿が現れる。
「僕は彼奴等を助ける!空閑は避難しろ!」
「嘘言ってない、マジでメガネくんなのか」
「勝手に立ち入り禁止区域に入った彼奴等の勝手じゃん!なんで助けるんだよ!」
「僕がそうするべきだと決めたからだ!
トリガー、起動!」
レイガストと呼ばれる重装トリガーを構えながら、修はバムスターに斬りかかる。
始によって戦闘は常に学習してあり、戦い方も理解している。
「もう一体?!兄さん、力を」
自分だけでは駄目だと思った、しかし、始の考えは違うのだ。
「兄さん!」
修はもう一匹のバムスターに弾き飛ばされる。
だが…それを防ぐように空閑遊真が修の知らないトリガーを使用してバムスターを撃破した。
「なら、こっちだ」
修はアステロイドを使いバムスターのコアを破壊した。
「よぉ、平気か?メガネくん」
修には空閑遊真の姿が自分の恩人に被さって見える。
「…メガネくんじゃない、三雲修だ」
「俺もいるよ〜」
こうして、長い付き合いになるメンバーはであった。