「お前、トリガー使っても弱いね。格好つけて飛び出していった割には」
「…ぐっ…」
修は自分の弱さを理解している、自分の正義感の杜撰さも理解している。
しかし、始がいれば、始が協力してくれれば違うのだ。
「…他の連中は?」
「逃げたよ、全員無事」
「はぁ…生かす価値もないクズを救うか、修。お前は死ぬぞ、それ」
修と同じ声ながら、空閑にはすぐに理解できる。
「ハジメか」
「よぉ、空閑遊真だったな。俺はなぁ、命は選択されるものだと思っている。命を全部は救えない。だから選んで助ける、助ける命も選ぶ。なのに、修とくれば」
「あんな奴等も助けようとしてたな」
「…それは、僕のやり方じゃない」
雰囲気が変わった、始は修の表面から消え、そして修が再び姿を見せる。
「それよりも、空閑……そのトリガー。お前もBORDERの人間だったんだな」
(いや、絶対違うだろ。あの性能、うちにあんなのはないぞ?)
始は即座に理解する。
修は知らないが始は色々な所へと歩き回っている。
何時も修の隣りにいるわけではないのだ。
数年前からは本などは読め、修から放れ、遠くに行ける。
映画などは見るだけなので修の知らぬ間に見ていたりする。つまり、始はBORDERの開発施設なども自由に行き来しているのだ。
「いや、俺はBORDERの人間じゃないよ。こいつは俺の親父のトリガー。死んだ親父の形見だ。だからメガネくんには感謝してる」
「アレは兄さんのやったことだ、僕じゃない」
「悪い、親父さんの事は」
「いいよ、親父が何時も言ってた。俺が死んだら日本に行け。俺の知り合いがBORDERって組織に居るはずだ。親父は何時もそう言ってた、だから日本に来たんだ」
それを聞いて始は訝しむ、盗み見たBORDERのデータに空閑という男のデータはなかったのだ。
「なるほど、親父さんがBORDERの関係者だったか…」
修に情報は共有せず、流れを見る。
おかしなところはないと思うが、何処か、眼の前の少年が始には異質に見える。
始は修から離れると、付近を歩く。
幽霊ながら、浮くことはない。
動物は始の姿を見れる、だが人間にはできない。
霊能力者がいれば違うかもしれい、だが居ない人間を探すことはできない。
(これは特大のバクダンかな?)
「いやいや違う、BORDERなのは『親父の知り合い』。
親父はBORDERとは関係ない」
「……?」
修はわけが分からない顔をしているが、始は手を頭に当てて天を見た。
「お前、ネイバーだったのか」
「お?ハジメか?」
「ネイバーって!兄さんどういう」
始は修に取り憑くと話し始める。
「名前的にお前の親父さんは元々此方の人間だな、なら簡単だよ。何らかの理由でBORDERの関係者の知り合いだった親父さんはあっちの世界に行ったんだ。そこで、空閑遊真をつくった」
「だからなんでそれがネイバーに」
「…教えてやるよ、俺は幽霊だからBORDERの機密区画にも入れるしデータも見れる。んで、盗み見たデータで近界ネイバーフットを知った訳。んで、BORDER以外でトリガーを持ってるとしたらネイバーしかあり得ない、どうだい?」
「凄いなハジメ、ならさっきのも判るのか」
「予想付いた、帰るぞ。この時間だと面倒な奴等が巡回してるからな」
「ちょっ!兄さん、空閑!」
修は始に操られながら帰路につく。だが、途中から自分を操る様な感覚がなくなっているのに気づく。
「兄さんはもう話す気はないのか……空閑、教えてくれ。ネイバーって」
「良いよ、メガネくん」
そんな会話が行われていたころ、始は幽体として活動していた。簡単だ、邪魔者を消すための行動だ。
「……ったく、あのクソメガ」
始に殴り飛ばされた不良達だ。
(お前等の人生壊してやるよ)
始はリーダー格の一人に取り憑くと、監視カメラの範囲まで誘導する。そして、仲間同士でやり合わせた。
いきなり殴り始め、武器も使う、仲間たちの身体の骨すらおらんと鉄パイプを握りしめ、胴を、腕を、頭を潰す。
「つまんねー」
始にとって修と香澄、二人の生活を壊そうとするクズを二人の世界から消すのが仕事だと本気で思っている。
「なっ…なんだよ、なんだよこれ」
取り憑いていた一人から離れると倒れているガタイの良い男に取り憑く。
「良くもやりやがったな」
「おい、なんだ」
男の手の皮が剥がれても何度も顔面を殴り続ける。
監視カメラだけでない、人にも呼ばれ、警察沙汰となる。
進学の年にこんな事を起こした奴等は学校にも、社会的にも生きていられない。
殺しはしない、ただ、ただ苦しめるのだ。
「うわ、喧嘩かよ。こんなところで」
そして、一人また始によって狂わされる。
監視カメラの映像がインターネットにアップされ、即座に拡散されていく。
デジタルタトゥーは消えない、消えることはない。
不良達の喧嘩だ、名前も割れていくだろう。学校も割れていくだろう。
だが、修には関係ない、香澄にも関係ない。
修は品行方正、ときおりキレるが基本的に模範的な生徒であり、推薦すらあり得る。
翌日、学校にはその生徒たちは来なかった。
始はそいつ等に取り憑いて居たからだ。一晩中、そいつ等の生活を壊してやった。
警察を殴り飛ばし、まるで半グレの様に。未来はないだろう、そうしたのだ。
始が、敵対する馬鹿者に。そして、翌日学校にて始は修の隣から勉強を見ていた。
予習復習を欠かさない修に笑顔を向けながら、修と話す空閑を見つめる。
(まだ、仲良くはなれないか。空閑がBORDERに入ってくれたら、修の仲間に丁度いいのに)
「あら、ネイバーじゃん。こりゃぁ死人出るな」
「兄さん?!関係ない、兄さん、手を貸してくれ!」
「手をかすのね、まぁ……良いか」
「う~ん、まぁ、始が一緒なら多分?」
「トリガー起動!!」
修はトリガーを構えるとB級の隊服を纏い、モールモッドに迫る。
「っく!速く逃げろ!」
「三雲くん?!」
「BORDER隊員だったのか!」
1体のモールモッドの鎌を切り落とし、蹴りを入れ校舎外に落とす。
「取り敢えず上に逃げろ!」
「ありがとう!」
修は始のサポートでどの攻撃が来るのか理解する。
(右上、左下、突進)
「くっ」
修は掠りながらも、始のサポート通りに動いていく。
だが、どうしても避け切れない。
「兄さん」
(5…4…)
「くそ!」
頭に浮かぶ答えに、応じるように回避しながら修は始の行うカウンドダウンが終わるのを待つ。
修は知っているのだ、始が無駄なことはしないと。
(3…2…1…)
「ジ・エンドだ」
修から肉体を奪い、レイガストでコアを貫く。
沈黙したモールモッドを見ながら下段に堕ちていたモールモッドが再び帰って来る。
「兄さん、もう一度来る」
(……まったく、やれるか?)
「大丈夫!」
だが、修の体は既に限界を迎えている。
始は即座に修の意識を奪った、そしてレイガストを使い一閃する。
「うおっ、さすがメガネくんのお兄さん」
「修が限界だったからな、ったく面倒が増えやがるな」
始がモールモッドを容易く仕留めれば、空閑は直ぐにその実力を理解する。
「やっぱり強いね」
「……弱いさ、生きてないからな。弟の肉体を無理矢理奪うだけ。俺が居れば……こいつの隣に居れば」
始の心残りはそれだ、自分がいれば弟を守れる。
だが、肉体があれば弟も、家族も守れるのだ。
「行くぞ、空閑。お前は避難し遅れたていでいてくれ。俺が助けたことにする、色々と面倒だからな」
「うん、りょーかい」
レイガストを担ぎながら、B級隊員の制服で校外へとゆっくりと歩いていく。
周りには修を、始を熱い眼差しで生徒達が見ていた。
「なぁ、修って」
「……少し、静かにしてくれないか?」
「あっ!うん!」
始が少し威圧しながら近くの女子生徒に近づく。
足を抑えて蹲る姿をみた始は自分もしゃがみ、脚に触れる。
「え?」
「足を捻ったか?……保健室は無事だな、誰か連れていけるか」
「なら私が!」
「……瓦礫があると不便だな、誰でもいい。手伝え」
「あっうん」
男子生徒達を使い、瓦礫を退かしていく。
元は廊下の天井だった者もあるが、気をつければ人二人位は通れる道ができた。
「……」
「あの、ありがとう!」
「………」
始は軽く手を振り、空閑の隣に座る。
「反応するだけ?」
「……俺は面倒が嫌いだ。だから助けただけだ」
そんな話をしていれば、屋上に気配を感じた。
「これは……もう終わっている……?!
どうなってるんだ」
BORDERA級5位嵐山隊、A級という限られたエリート部隊と言える者達だ。
「修、変わるわ」
「……うん、その方が良い」
「え?メガネ君のお兄さん?」
始は逃げた、これから来る女が始にとって相性が悪いからだ。
「修君じゃないか!」
「あっ…嵐山さん、こんにちわ」
「修君がやってくれたのか!ありがとう!!」
「いえ…アハハ」
修の中で冷汗が出てくる、ここで彼女が出てきたら始が暴走するからだ。
「一閃か、こんなのBORDERでも出来る奴は」
「できますけど何か?」
始が一閃したモールモッドが粉微塵に斬り刻まれている。
それを行った相手は木虎藍、15歳にしてA級隊員の少女だ。
「……アハハ」
「!」
「そういう態度が気に食わないのよ!」
「……木虎さん、ちょっとそれ以上は」
「散々人を……それで」
「黙れって言ったよな?小娘」
「……相性最悪だな」
修、否始はレイガストを木虎の首元に突きつける。
「……はぁ、修君。ここは俺に免じて」
「嵐山さん、次…俺に変な難癖付けてきたら、小娘叩き潰しますよ。ポイントが落ちまくっても知りませんから」
「受けてたとうじゃない!三雲修!!」
「ハッ!俺に1回でも勝ったことあんのかよ!」
「二人共!」
嵐山に離され、始もレイガストをしまう。
「兎に角だ、ありがとうな!修君、副も佐補も安全だ!」
「……仕事をしただけですし、それじゃあ」
「ちょっと、何処行くのよ」
「俺はまだ授業中なんだよ、じゃあな。小娘」
「キッ!」
始はトリガーオフし、自分の担任の前に立つ。
周りから質問攻めにせれるが、簡単な返答しかしない。
「なぁ、メガネ君」
「修だ」
「修、何でお兄さんと彼奴仲悪いんだ?」
「あぁ……木虎さんか、前に木虎さんが僕に色々と言ってきた時期があったんだ。そんなトリオンでB級なんておかしいって。まだ、兄さんのトリオンと共有出来る前で……ランク戦…いや、模擬戦を申し込まれて」
「つまり、お兄さんがボコボコにしたのか」
「あぁ、最初から兄さんに任せればよかったんだけど、10本先取で5本分僕がやってストレートに取られたんだ。その後は……」
「…なんだよ、逆恨みじゃん」
「兄さんは木虎さんが嫌いみたいで、よく僕に任せるんだ。でも、今日みたいに」
「勝手に出てきちゃうのか、修も大変だな」
修は苦笑いをしながら空閑に話た。
「もう、なれたよ。それに、沢山助けてもらってる」
そういった修に嘘はなかった。