狼剣乱舞 作:おはぎ美味しい
この物語に“不死斬り”は出ません。主人公は、蟲憑きでもなければ竜胤の力もありません
前話で手に入れたのは、ポジション的に“楔丸”となります
幾つもの火花が散り、そして甲高い金属音が響き渡る。
(素晴らしい……!そして、凄まじい……!!)
愛槍を振るいながら、趙雲の内心は歓喜に彩られている。
彼女と相対するのは得物を新調した、景狼。その手に握られるのは、反りのある細身の刃を携えた剣。
彼の扱う剣術は、斬る事を重視した型が多い。
今もそうだ。両手で柄を握って頭上へと掲げ、踏み込みと共に力強く振り下ろす剛剣。
受けるのを不味いと判断し下がった趙雲に対して、景狼は素早く二撃目を振り上げ更に踏み込みながら振り下ろす。
「くっ……!」
反射的に柄で防いだ一撃は、鋭い痺れを支える両腕へと叩きつけてくる。
その一方で、景狼はそれ以上押し込むような事はせず一気に後方へと飛び下がっていた。
下がりながら、右手で握る刀を弓を引くように引き絞るおまけ付きで。
葦名景狼が公孫賛の武器庫から発見した打刀。
特別背の高い訳でもない彼にとってちょうど良い長さであり、何より素晴らしいのがその強度。
切れ味は、一般的な刃物程度。腕前次第で如何様にも変わる、決して名刀とは呼べないものの、鈍らとも言えないそんな代物。
一方の強度。今もそうだが、どれだけぶつけ合っても刃が零れる事は愚か、切れ味が鈍る気配もない。
そして今は、試し振りついでの手合わせの最中だった。
突きを放ちながら突っ込んでくる景狼。
これを趙雲は己より見て、右側へと逸れつつその突き出された刀身へと槍を振るって突きを叩き落し、更に跳ね上がった石突による顔面への薙ぎを狙った。
迫る横薙ぎを刀を手放しつつ体を逸らせながら躱す景狼。同時にバク転しながら振り上げた右の爪先を刀の鍔の辺りに引っ掛けて勢いよく空へと跳ね上げた。
回転しながら飛ぶ刀。これを後退して立ち上がった景狼は見もせずにキャッチ、構えなおす。
「宛ら、曲芸ですな」
「まあな。そろそろ切り上げるとしよう、これ以上は怪我に繋がりかねん」
「むっ…………ふぅ、ですな。いやはや、景狼殿との手合わせは実に楽しい。私も、滾って仕方がない」
曖昧に笑う趙雲。しかし、その眼には好戦的な光が燻ってもいた。
刀を鞘へと納めて歩み寄った景狼は頬を掻く。
「俺も、君との手合わせは好ましいと思っているよ」
サラリ、とそんな事を言う。
実際問題、景狼は趙雲に感謝している。感謝の言葉にも決して裏は無かった。
一方でそんな言葉を唐突に向けられ、趙雲はキョトンとその目を開き、それからニンマリと笑みを浮かべると槍を背負い直して景狼の側面へと回ると肩を組む様に腕を回した。
「いやはやいやはや、であるのなら酒の酌でもしていただこうか」
「俺の国では成人…………元服しないと酒が飲めないんだがな」
「まあ、そう固い事はおっしゃらず。何より、ここは景狼殿の故郷ではないのですから」
「…………」
「さ、参りましょう!」
引っ張る様に歩き出した趙雲。元々の規範意識があるとはいえ、嬉しそうな彼女を止める気にもならずされるがままの景狼。
余談ではあるが、彼はこの後絡み酒の極致を味あわされる事になる。
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趙雲、並びに景狼が客将として公孫賛の下に身を寄せてから暫く。
「劉玄徳です!よろしくお願いします!」
「関雲長、よろしく頼む」
「鈴々は、張翼徳なのだ!」
「しょ、諸葛……孔明です」
「鳳士元、でしゅ……ぁぅぅ、噛んじゃった……!」
「暫く、私の下に身を寄せる事になった劉備たちだ。二人と轡を並べる事もあるだろうからな」
その日突然に公孫賛に呼び出された二人を待っていたのは、五人の新たな顔ぶれ。
この場の男女比率は、1:7。黒一点とは正にこの事。
若干の気まずさを覚える景狼の一方で、趙雲は一歩前へと踏み出していた。
「私は、趙子龍。伯珪殿の下で客将をさせてもらっております。そしてこちらが、」
「葦名景狼だ。葦名、でも景狼でも呼び方は好きにしてくれて構わない」
「先達とはいえ、我々もまた雇われの身。共に力を尽くしていくと致しましょう」
「……よし、顔合わせは終わったな?悪いが私は、これから執務がある。出陣の時には招集をかけるから、それまでは自由に過ごしてもらって構わない」
そう言って、公孫賛は足早に執務へと戻っていく。
彼女としては猫の手も借りたい現状、軍師である諸葛亮や鳳統あたりに執務を手伝ってもらいたい所だろう。
だが、軍の内訳など内部資料の完全開示など出来る筈もない。いや、彼女らが自分の下についてくれるのならばその限りではないが、彼女らは全員劉備についてきた。
ある程度の力を得れば自分の下を離れるだろう彼女らに、色々と差せる訳にはいかない。もっとも、離れていくと分かっている上で受け入れる辺り、公孫賛のお人好しとも言える部分がよく表れてもいた。
そんな赤毛の彼女の内心など知る由もない残った面々はというと、交流の続けている所。
「ふむ、趙子龍……常山の昇り竜とも称される槍の名手だとか」
水を向けたのは、関羽だった。
彼女と、それから張飛はどちらもこの大陸における指折りの武芸者と言える。
そして腕の立つ者というのは、自然と噂になりやすい。特に旅の武芸者ともなればあちらこちらで噂を耳にする事だろう。
だからこそ、気になるというもの。
「そしてそちらの……葦名殿?でよろしいでしょうか?」
「好きに呼んでくれて構わないぞ、関雲長」
「では、葦名殿。貴殿もまた、相当な使い手と見受けられます。ですが、その…………」
「兄ちゃんの名前は聞いた事が無いのだ!」
「こら鈴々!……んんっ、ま、まあそういう事です」
「だろうな。俺は、この国の人間じゃない。色々とあってな。趙雲に旅の途中で拾われて、公孫賛の下で客将紛いをさせてもらっている」
「紛い?」
「生憎と、人を率いる事が出来る様なカリ………失礼、能力は無くてね。やってる事は、一兵卒とそう変わりない」
肩を竦める景狼。
彼の場合は、兵を率いて突撃するよりも。さっさと敵陣に入り込んで敵将の首を刈り取る方が速い。
根本的に、武将というものに向いていないのだ。
とはいえ、
「ふっふっふ。雲長殿、こう謙遜してはおりますが、景狼殿は私に負けず劣らずの武を持ち合わせております故」
「ほう……それは何とも興味深いですね」
鋭くなった黒髪の武人の目に、景狼は趙雲へと非難めいた目を向けるが、当の視線を向けられる彼女はニマニマと愉しそうな笑みを浮かべて見返してくる。
景狼としては、結構困っている。
(関雲長……関羽じゃないか。神なんて言われる相手と…………はぁ)
内心でため息を吐きながら、それでも
三国志に詳しくなくとも、関羽を知る人は居るだろう。地元では、“関帝”と呼ばれており。その武勇と忠誠心の高さなどから神格化されている。
彼の、この世界では彼女だが、その得物として有名なのはやはり青龍偃月刀。因みに、コレは三国志ではなく三国志演義による後付けだったりする。
槍が戦場の兵器と呼ばれる様に、長柄の武器というのは総じて使いこなせれば刀剣とは比べ物にならない威力を発揮する場合がある。
これは単純な担い手の膂力のみならず、遠心力などの人力以外の力を上乗せした一撃を発揮できる側面がある為。他にも、刀剣や素手の間合いよりも外から一方的に攻撃できるというのもある。
早晩手合わせに巻き込まれるのだろう、と頭を掻く景狼が視線を彷徨わせていれば不意に一歩離れていた劉備と目が合った。
何故だか彼方はジッとこちらを見てきていたらしく、目が合うとわたわたと両手を振って慌てている。
その様子に、景狼は首を傾げた。
「あー、関雲長?」
「関羽でも構いませんよ」
「そうか?なら、関羽」
「どうしました?」
「いや、そちらの劉玄徳が俺をジッと見てきていたからな。何か用事があるのかと思っただけだ」
「ふぇ!?え、あの、その!」
「お姉ちゃん、どうしたのだ?」
六人から同時に視線を向けられ、頬を真っ赤にする劉備。
そんな彼女の様子に、趙雲は顎を撫でるとこれまた不敵な笑みを浮かべた。
「ほほう、さしずめ一目惚れという奴ですかな?いやはや何とも、罪な男というものでありますなぁ?」
「はぁ………茶化すんじゃない、趙雲。そんな筈が無いだろう。大方、こうして男が居るのが珍しい、というものじゃないか?」
「あ、その、ええっと………ご、ごめんなさい……」
「いや、責めている訳じゃない。この国では女性が強いのが当たり前というものだからな。まあ、俺も趙雲の評価が高いだけで特別強いという訳でもない。公孫賛の言うように、暫くとはいえ轡を並べるんだ。戦う場面を見る事も多いだろう。その時に武威は示すとしよう」
謙遜するような物言いだが、言葉の端々に確かな自身の実力に対する自負のようなモノが見え隠れ。
戦乱の時間は目前に迫っている。