Vtuber学パロダンガンロンパ風序盤ギャグガチンコミステリー小説 作:茶鹿秀太
Day9~Day10
それからというもの、とてつもなく長い長い準備期間が始まった。
「むむ、食糧庫は学生証をかざさなければ入れないのでござるか」
「ちゃんとセキュリティがしっかりしてるんだね」
倉庫のような大きな扉。
高さもあるし、横幅も大きい。
壁に備え付けられているカードリーダーに学生証をかざすと、扉が開き、食品が冷蔵されている。
奥に行けば、冷凍庫もあるだろう。
スイカはあるのだろうか。
スイカが見つかる前に凍死するのではなかろうか。
それが問題だ。
「うぅ、これ風邪ひきそうだ」
「はっはっは。秋冬殿は風邪など引かなそうでござるが」
「え」
他にも美術室では小春そらが目をぎらつかせて何かを描いていた。
「あの、これは」
「キャンプファイヤーだよ。学校にほら、垂れ幕とかでさ、絵とかさ、必要だよね、うん必要だと思う、ほら、盛り上げないとさ、へへ、ね、やらないとね」
「ひ、ひぃ……」
いつも以上に力の入ったことをしようとしていた。
なんだろう、目が極まっていた。理由は全く分からない。
またある時は理科室。
入間るいの恐ろしさを僕は分かっていなかった。
「酸化剤と可燃剤と炎色剤をオラァっ! セラミックオラァっ! ここでっ……こいつを……オラァっ!!!!! っていう感じで作r」
どがーん。理科室は爆ぜた。
「ひ、ひぃ……」
「っひぃーあっぶね。私が天才じゃなければ死んでましたね。しゃれじゃなく」
詳細は省くが、僕は入間に守られたらしい。
いや君爆発の犯人だからね? マッチポンプだからね?
そう思ったが、何も言うことが出来なかった。
冥城とウンフェルスが真っ先に飛んできたので本気で謝った。
風街も楽器の練習に熱を入れすぎて本気の律動を奏で始めたし、岩手も何でも屋の本領発揮と言わんばかりに枝や木材を手に入れてきた。
……なんだろうか。まるでみんなの才能が急激に伸びているような。これもVtuberってやつと何か関連があるのだろうか。
ちなみにこの間にも朝のウンフェルス授業は行われており、僕は世界史の一部の場所だけ強くなっていった。
教科書を読むと眠ってしまうが、人の話を聞く才能だけは僕にあるのかもしれない!
Day11 Augest
朝 食堂
よし、今日は誰を手伝おうかな。
そんなことを考えていたら、食堂前をウロウロと心配そうに歩いている速水さんがいた。
「あれ、速水さんどうしたの?」
僕が問いかけると、顔を真っ青にして、冷や汗をかいた彼女は、僕にとんでもないことを打ち明けた。
「あの、秋冬ちゃん……。わた、私……。人を殺す夢を見ちゃったの」
「……えっ」
「す、すごく嫌な予感がしてっ。もし、もしこれが現実だったらッて、なんか、想像しちゃってっ」
「お、落ち着いて速水さん。落ち着いて。ただの夢だよ。大丈夫」
「で、でも。なんか、正夢になりそうっていうか、そんな嫌な感じがすごくて……」
「――分かった。速水さんはそこにいて。僕がみんなの様子を見てくるよ」
というわけで、かなりショッキングな話題から入ってしまった朝だけれど、実際その嫌な予感というのもバカにはならない。
人を殺してしまう夢占いは、大きいストレスが原因らしい。
だけど夢というのは寝ている間の脳の整理の時間でもある。
ということは、何か人が死ぬサインを察知して、そういった夢に転換しているのかもしれない。
とりあえず、みんなが無事か確かめなきゃ。
Day11 Augest
朝 保健室
「え、風邪っ?」
「そうなんだよね。まさかこの絶海の孤島で、しかも2人も風邪をひくとは驚きだ。蚊が原因の感染症ではないことを祈るしかない」
亜酔昏が悩ましいと全身で表現していく。
でも病気か……こっちもこっちで怖いな。コロシアイより怖いかもしれない。
「えっと、風邪をひいたのは‥‥‥」
「小春そらと冥城んみだね。発熱がひどいから、二人とも寄宿舎の自室で休んでいるよ。風邪薬と熱を的確に冷やすシート、あと体温計だけ置いてきた」
「そっか……。あの、看病とかって」
「はは。出来ると思う?」
そりゃ医者の卵なんだから似たようなことくらい、と思ってそこでやめた。
そうか、今でこそ僕は彼女がもう嘘をつかないだろうと思っているだけで、実際人が死んだきっかけになってしまった彼女に対して警戒心を抱くのは……。
普通のことかもしれない。或いは、彼女の考えすぎか……。
「まぁ二人とも部屋越しに私と会話したから、間違いなく生きてるよ。安心してほしい」
「そっか。分かった。ありがとうございます。ちなみに風邪をひかないコツって……」
「手洗いうがいの徹底」
小学生の教訓みたいだ。でもそれ以外ないのかもしれない。
Day11 Augest
朝 音楽室
「えっ、小春さんと冥城くん、風邪ひいたんだ」
風街が音楽室で曲の練習をしているのを発見した。
たまたま近くにいたクロカメも話を聞いている。
「ふむ。では困ったでござるな。なにせ食事全般の準備は冥城殿が行っていたでござるからな……。まぁ無理は禁物。拙者がある程度やっておくでござるよ」
「わぁ、クロカメくんありがとう。そうだね、僕も音楽だけじゃなくて、そっちにも参加しようかな。僕たちででキッチンを支配しよう。僕たちが網奉行だ」
風街、なんか変な方向で思い切りがいいな。
クロカメも、なんだろう。ちょっと大人っぽくなったよなぁ。
やっぱり記憶を取り戻している影響があるのかな。
そう考えたら、あぁ、なんだろう。
辛いな。
やっぱり僕って、きっと記憶を取り戻したら……丸っきり変わってしまうかもしれないんだから。
Day11 Augest
朝 理科室
「まぁアンタは風邪ひかなそうでなによりだよな」
「え、天才のこと馬鹿と一緒だと思ってません?」
岩手と入間がまったり駄弁っているところに、声をかける。
岩手の軽口が博士のアイデンティティをじわじわ攻撃していく姿は、ちょっぴり面白かった。
「にしてもよぉ、どうしたもんかね。他にできることも中々考え物だぞ」
「うーん、余った火薬とかでキャンプファイヤーを火柱とかにします?」
「風邪ひいてほしいなこの博士……」
「シンプルちくちく言葉やめてもらえませんか……っ」
うん、この二人は多分風邪に負けなそうだ。
Day11 Augest
朝 食堂
よし、速水さんに何も問題なかったことを伝えようか。
そう思って食堂に来たら、何やら速水さん、誰かと話しているみたいだ。
あれは……ウンフェルスさん?
「おはようございます。ウンフェルスさん」
声をかけると、少しだけ肩が跳ねた。
「あぁ、秋冬さん。おはようございます。私より早く起きている貴方の姿を見るのは初めてかもしれません」
「あれ? 今まで寝てたんですか」
「えぇ。中々重労働でしたよ、木を切るのは」
「あの」
速水がウンフェルスに何かを言おうとするが、何か口の中でもごもごして、彼女は口を閉ざしてしまった。
「?」
僕はその様子を見ているが、ウンフェルスはただ微笑むばかりだ。
「大丈夫ですよ。人が死ぬ夢は、見てしまうこともありますから」
「あぁ、速水さんウンフェルスさんにも相談したんですね。一応みんなに声かけましたけど、特に問題ないみたいですよ。強いて言うなら小春さんと冥城さんが風邪ひいたくらいで」
「えっ。……小春さんと、冥城さん風邪ひいたんですか?」
速水が驚く。
ウンフェルスも首をかしげていた。
「先ほど、冥城さんと会ったとき調子が悪そうだったのはそういうことでしたか。小春さんもそうだったとは。可哀そうに」
「僕もあとでお見舞いに行こうかなって思ってます。お昼食べた後とか」
「いいですね。私も扉前に差し入れを置いておきましょうかね」
「……」
速水は少しだけ悩んで、ぼそりと、「そう、なら、私も、お見舞い、しないと」と独り言をつぶやいた。
彼女にとっても、夢の事よりも現実の友達の心配が勝ったことは、良いことなのだと思った。
そして、次の次の日。いよいよキャンプファイヤ―の決行日だ。
Day13 Augest
夜 グラウンド
「うおー……」
真っ暗で何も見えないが、いよいよグラウンドの真ん中に松明の火が寄せられる。
木を井桁型(いげたがた)という積み上げ方で大きくたくさん薪や、その他燃えやすいものを置いて、大規模なキャンプファイヤーが出来るようになっている。
ウンフェルスがそこに火をつけると、轟轟とゆっくり、そして激しく燃え上がり、グラウンドを照らしていった。
「祭りだー!」
僕の記憶にはお祭りはないけれど、きっとお祭りってこんな雰囲気だったはずだよね、という感覚で叫ぶ。
火を見ていると気持ちも盛り上がってくる。
「さぁさぁ準備した料理を振る舞うでござるよぉ」
クロカメが握りハチマキを身に着けて鉄板の焼きそばをおこし金(銀のへら)でかき混ぜていく。
「うん、やっぱり陽気な曲が似合うよね」
アコースティックギターを使って場の雰囲気に合わせて曲を奏でる風街。
「計算は合ってるんです! 試してないけど問題ないんです! 多分、めいびー、わんだほい!」
「なんで風邪ひかないんだべこの天才幼女」
「は、はぁ……? なんですか? 喧嘩ですかいいですよ買いますよお前サンドバッグなあと私の喧嘩高いからトイチの2割増しだから今日そっちは手を出すなよこっちは女性だぞ脛と目と喉狙いますからふせぐなよこのやろー!」
「無呼吸で悪口のラッシュを叩き込むスキルなんなの!?」
入間と岩手がワチャワチャと花火に命を懸け……本当に命がけの花火を上手いことやろうとしている。
「そういえば、風邪ひき組は?」
「一応こちらに来ると……のことでしたが。小春さんは手紙でやりとりをして、冥城くんも扉越しで二つ返事はしていましたね」
ウンフェルスが苦笑いして二人の対応の仕方を話していた。そう、実はあんまりあの二人とは風邪の間関わることが少なかった。
おそらく治療のために大半眠っていたのだろう。
後は……喉がかなりしんどそうだった、とか? いろいろ想像できるが、二人も大変そうだった。
「そういえば秋冬さん。亜酔昏さんは……」
「私がいるとあまり楽しめないだろうから、保健室にいるよ、お土産よろしく、とだけ言われました。……しんどいですね」
「彼女は……。強いですね。自らの罪と、向き合っている」
「でも、……ちゃんと償おうとして、しんどい思いをしてるから、報われてほしいな、とも思ってます。僕個人は、ですけれど」
「優しいんですね」
「……やさ、しい?」
「えぇ。彼女の事を思いやってのこと、でしょう?」
「? いや、そんなつもりは……」
「良いんですよ、恥ずかしがらなくても」
ウンフェルスはにやにやと話をそのまま打ち切って、食事をとりに行った。
「くそぅ、本当にそういう意図じゃなくて……っ」
「あれ、どうしたの秋冬さん」
一旦演奏を止めた風街が話しかける。
「いや、かくかくしかじか」
「なるほど。……優しさじゃないの?」
「いや、その。何て言うんだろう。言い方が難しい。そのさ、……なんか。すごくしんどいと思うんだよ亜酔昏さんって。死のうとして、死なせちゃって、そのせいで他にも犠牲が出て。しかももっと早く現場に行けば助けられたかもしれないって、なんか、もう、しんどいじゃん! んであの人もあの人で、ちゃんと罪を償おうとしてさ、周りのこと考えてさ。いや分かる、分かるんだよみんなの気持ちも。でもぶっちゃけ……悪いのはこんなクソみたいなゲームの運営じゃんかっ。罪償うならまずあいつらが償うべきだと思うんだよ。もうこれ以上、理不尽な思いを彼女にしてほしくないんだよ」
「……。優しいんだね」
「いやその、優しいんじゃないんだよ、なんだろうこの、この感情っ」
「……、僕は思うんだけど。人って、きっといつでも道を踏み外してしまうことってあると思うんだ。交通事故でもそうだし、軽い気持ちで行った何かが人を不幸にすることだってある。もしかしたらふとしたきっかけで誰かを押して、打ちどころが悪くて亡くなってしまうこともあると思う。僕は……それがとても苦しいことに感じる。みんなが幸せになってほしいって本気で思ってる」
「……」
「僕、ずっと疑問なんだ。どうしてVtuber、要は配信や動画を生み出していく道を選んだのかって。きっと、きっとそうだと思うんだけど。僕はみんなに幸せになってほしいと思うんだ。僕が見てきたもの、僕が感じたことを表現して、誰かに伝えて、きっと、その物語を通して、みんなの背中を押したいんだと思う。物語の中の人も、みんなで幸せになれるような、そんな……そんな世界を作りたい。……なんてね」
「風街さん……」
「でも幸せになるためには、きっと乗り越えるものも多いんだ。亜酔昏さんに優しくしたくないなら、きっと秋冬さんは、頑張ってほしいって思ってるんじゃないかな。同情じゃなくて、優しさじゃなくて、がんばれ、乗り越えてくれ、戦え、って。応援みたいな」
「――」
なんとなく、腑に落ちた気がする。
そうだ。やさしさ、ではなくて、応援。
この胸の中の感情に、一番近い気がする。
「そうだ。なんか、頑張ってほしいんだきっと」
「……その気持ちはきっと伝わるよ」
「だといいけど」
上を向くと、なんとなく意識して初めて気づいたけれど、綺麗な夜空だった。
星が一個一個綺麗に見えて、一つ一つが燃え上がる宝石のように美しかった。
夏の夜のちょっぴり肌寒い空気が、あの星空の温度のように感じた。
「ん? あれ? おーいクロカメー。なんか臭くねー? 夏だからナマモン腐らせたんだべ?」
「ん? いやそのようなはずは。いやでも確かに妙に臭いでござるよ」
岩手の声に反応して、クロカメが食品を確認していく。
「花火打ち上げますねぇ! これしか勝たないんですよ! これしか、これしか!」
火をつけてぴゅーっと逃げる入間。速水が指をさした。
「あれ? なんか火の中、変じゃない?」
「発射!」
入間の花火が、空に打ちあがった。
綺麗な夜空に、煙が立ち込めて、炎の花が空に浮かぶ。
そして。キャンプファイヤーの火が、やけに明るく見えてしまったから。
「……ぁ」
誰かの声が漏れる。
全員がキャンプファイヤーの火を見つめている。
キャンプファイヤーの火の中、例えば枝とか、段ボールとか、色々燃えやすそうなものを真ん中に置いていたのだろう。
その中の一つの段ボール。立てかけられていたので、あーきっと燃えやすいものとか入れてるんだろうなぁ着火剤とか。
そんな風に思ってた。
燃え盛る段ボールが、ずさっと音を立てて、一部が宙に舞った。
それが、僕の鼻先まで風に乗って届いた頃。
段ボールから、指が、出てきた。
「――っ火を消してっ! 早く!」
僕の声に反応した人は、きっといたと思う。
でも、燃え盛る大きな炎に、どう立ち向かえばいいか、誰も分からないでいた。
……あぁ、人はこんなにも、無力なのか。
そんなことを思って、火を見つめてしまう。
メラメラと、ぱちぱちと音を立てて、木々が落ちる。
隅から隅まで、炭になっていき、また段ボールが剥がれる。
そこから、どうだろう。例えば焼き肉で皮付きの鶏肉を注文した時、皮までこんがり焼いた方が好きだったりするんだけれど、皮が、火に照らされて、焙られて、色を変えて、気泡が出てきて、ぱちぱち、ぱちぱちと焼かれていく姿を、まざまざと見せつけられて、もう、頭がどうにかなってしまいそうだった。
そして、キャンプファイヤーの火から逃げようとして、いや、きっともう意識はないのだろう、ただただ自重のまま崩れ落ちて、火を囲んでいた木々を崩したのは、明らかに、人の形をした、燃えカスだった。
顔が、顔が見えた。死んだ魚みたいな、瞳孔の開いた瞳。明らかに、もう、死んでいた。
きーんこーんかーんこーん。
あっけにとられるほど、聞きなれた音。
そして、学園長の声がこの絶海の孤島に鳴り響く。
『死体が発見されました~』
やめろ、やめろやめろやめろやめろ。
もういいじゃないか。
こんなことをしないために、レクをしたんだぞ。
嫌だ、こんなことあっちゃいけない。
なんで、どうして、どうしてお前がこんなことになってるんだよ。
「――冥城さぁぁああああああああんっ」
キャンプファイヤーの火から出てきたのは、間違いなく、風邪で休んでいた冥城んみ、その人であった。