Vtuber学パロダンガンロンパ風序盤ギャグガチンコミステリー小説 作:茶鹿秀太
テレビ画面が一つ、玉座の上に置いてある。
玉座から降りる階段の先には、証言台。
証言台が計14個、円形に並び立っている。
ここに立つ生徒たち。
そしてテレビに映るのは、学園長。
「それではあらためて、学級裁判のカンタンなせつめーをしておきましょう。ようしきびってやつだね。たいけんばんだけとりあえず目を通していまいちルールを理解していないおにいちゃんおねえちゃんもいるかもしれないからね。学級裁判では、「だれがはんにんか?」を話し合って、そのけっかは、おにいちゃんおねえちゃんの投票によってケッテーします。正しいクロをシテキできれば、クロだけがおしおき。もしまちがった人物をクロとした場合は、……クロいがいの全員がおしおきされ、いきのこったクロだけがこのアップグレネード学園の夏休みをおわらせる権利があたえられます!」
ひとなつ学園長の言葉が、証言台に立つ人間たちに、断頭台に立たせられていると錯覚させた。
「本当に、この中に犯人がいるのかな……」
「はい、そのとーりでございます!」
僕のつぶやきに学園長が反応する。
手に力がこもる。絶対にこの謎を解く。
そして……。そして、そして。どうすれば、いいんだろう……。
一瞬自分の考えがぐちゃぐちゃになってしまい、動きが止まってしまう。
だが議論は始まっている。ついてこれないと、僕自身が納得できなくなる。
ウンフェルスがまず取っ掛かりを掴もうと話を始める。
「まずは凶器についてですね。【キャンプファイヤーの火による焼死】でいいのでしょうか?」
「【それは誤診だね】。胸部に刺し傷があった。これが死因の可能性が高いよ」
すかさず亜酔昏ヨイが話の腰を折る。
「――例えば、別の死因が原因で、その後胸を刺された可能性もありますね」
「む……」
亜酔昏が深呼吸して、ウンフェルスに見解を伝える。
「いや、死因は失血死だよ。間違いなく心臓にダメージがあった。それ以外の死因の場合、例えば火傷が原因ならのたうち回って身体にダメージがあるだろうし、特に特徴的なのは肌全体が青白くなっていたこと、後は……そうだね、これは憶測程度で考えてほしいんだけど、人体は大量出血をしてしまうと多臓器不全に陥ってしまうこともあって、冷汗が出てくることがある。死体が濡れていたのは、失血を伴う冷汗の可能性がまだ否定しきれない。ただ問題点がある。失血が原因となると、……例えば冥城くんの(体重×0,08)リットルの血液。概ね1リットルと考えて。その血液がどこに行ったか。今日処理したとしたら、相当手慣れてるか、血の処理が簡単な場所で殺害を行った可能性があるわね。でもそこに誘導して本当に殺せるのかは、別の話かもしれないけれど」
話の途中で、ふと我に返った彼女が、自嘲気味に笑った。
「……まぁ、私が言って信じてもらえるかも、別かもしれないけれど」
「信じよう」
僕は間髪入れずにそう言った。
「秋冬ちゃん……」
「……感情的に受け入れられない人もいるかもだけど、でも今回の事件、あまりにも証拠がないことも忘れないで。
亜酔昏さんの検死を基に、推理を進めていかない?」
僕の言葉に怪訝そうな顔をする人もいたけれど……。
「ま、そうだな。それはそれ、これはこれ! アンタを信じるぜ! 亜酔昏ちゃん!」
岩手が。
「そうだね。亜酔昏ちゃんを信じよう」
速水が。
「みんなでこの窮地を乗り切ろう!」
風街が。
「うぇっふげっほげっふごほっごほっっひー、ひー、うっげっほげほげほごふっ!?」
小春が……。小春さん?
「小春さん、もしやまだ風邪が治ってないでござるか!?」
「ごべんだじゃいぃ……がぜびいでるがら無理っていっだのぃ……、ロボットがぁ……」
涙と鼻水と咳でびちょびちょの彼女だが、どうやらロボットに無理やり連れてこられたらしい。
病人安静。病人安静っ。
「というかその状態でよくキャンプファイヤーの時は間に合うから行くって言ったね……」
風街がツッコムも。
「だっで、だっでいぎだぃっっ!! 私もいっしょにぃ!! キャンプファイヤーにつれでっでぇ!!! ぼじぐでぇ!! だっで咳出て熱でりゃただの風邪だっでYah●o!知恵袋に書いててぇ!!!!!!!!!」
「色んなところに喧嘩売ってない!?」
より突っ込ませる結果になってしまった。入間が呆れた顔で話す。
「今度から学級裁判時は病人お休みの権利とか使いましょうね……。小春さんかわいいね」
「ん?」
「やっべかわいそうだね」
「言い逃れはできないよ」
「違うんです! ちがうんですー! ただちょっとふっ(鼻笑い) いやその病気なのにめっちゃ頑張らされてかわいい、かわいそうだなぁって」
「言い逃れはできないぞっ!?」
ダメだ、女性陣はもうダメだ。
きっと亜酔昏さんも今後ギャグ堕ちするんだ。そうに違いない。
「そんなことよりっ。事件の話をしないと」
速水の声で正気に戻った僕らは、次の謎について考える。風街が切り出した。
「亜酔昏さんの検死を基に、凶器について考えようか。心臓で一突きってことは【ナイフ】とかかな」
「【模擬刀】の先制攻撃でござるかっ!?」
「調達が簡単そうなのは……【包丁】とかですかね」
「入間さん、【それに賛成だよ】。寄宿舎の厨房から、包丁が一本無くなってたんだ。キャンプファイヤーの準備で、誰も見ていない隙間の時間があったんだと思う。そこを狙われたんだ」
「へへ、やたっ」
入間が照れてピースサインを作る。僕も推理を続ける。
「おそらく厨房から包丁を持ち出して、冥城を刺して、死体を段ボールに入れて、キャンプファイヤーの木の中に紛れさせたんだよ」
「【その推理じゃおらは納得いがねぇってっ!】」
「!?」
岩手が鋭い目つきで僕に指摘する。
「いやいやおがしいって。便利屋どして見逃せねぁー点があるぞ。納得でぎねぁーがら」
「な、なんだよ。何が間違ってるっていうの?」
「まず最初さ言いでのは、みんなが見でねぁー隙狙うっつっても、【寄宿舎には病人もいだ】し、【包丁持ぢ歩いだら】すぐばれるにも関わらずだぞ? その後さ死体運んでキャンプファイヤーの中さ紛れさせる? 不可能だべ」
「凶器と死因、死体の発見場所だけ見るとそれ以外ないと思う……っ。岩手くんは何が言いたいんだ?」
「単純がづシンプルによ、キャンプファイヤーの設置場所、【グラウンドで殺した】んでねぁーが? その後死体段ボールさ包んで殺害! その後木で囲ったんだ! 完全犯罪成立だべ!」
「【それは違うよっ!】グラウンドで殺害した場合も一緒だよ。まずグラウンドで殺してしまうと、血の問題と目撃者の問題が出てくるんだ。ルミノール反応が出なかったから、グラウンドで殺害されたときの血はどこに行ったんだろうっていう話になるし、グラウンドで殺してしまったら、それこそ今日は準備でみんなが動いてたんだから、みんなに見つかるよ」
「ぐわあああああああ確がにぃぃいいいいい! もうなんも言えん対戦どうもーgg!」
岩手は爆発した……・様に倒れた。しかし今の話を聞いていた風街が一つの指摘をする。
「でも、確かに気になる点がある。例えば……彼はいつ、どこで殺されたんだろう」
確かに……。彼がいつどこで殺されたのかは全く分からない。特にいつ殺されたのかは分からないのだ。
「あーでも今日おら話したぜ。午前中な」
「……私も。お昼の時に」
岩手と亜酔昏が手をあげる。確かに……そんなことを言っていた気がする。
「あー。午前中は扉越しで話したぞ俺」
岩手が頭を掻きながら僕に教えてくれた情報だ。
「普通にまだ調子悪そうな声してたから、無理すんなよって声かけたら。大丈夫大丈夫って言ってて。なーにが大丈夫だよってなってたんだよな」
「……私もドアをノックしたよ」
亜酔昏が気まずそうに話に混ざる。
「私は……まぁ、無視されてしまったよ。寝ていたのかもしれないけれど、ノックしても反応がなかったから、まぁ、無理もないかなって。……お昼前だったかな」
「もしかしたら、そのタイミングでもう殺されてた、とか」
無くは……無いかもだが。別に部屋の前で血の匂いがしたとかは無かったよ」
「じゃあ午前までは生きてたんだよ。ということは午後から……?」
「【その物語は否定するよ】。秋冬ちゃん、ちょっといいかい?」
「!? か、風街さん?」
「もう一点気になるのは、あのキャンプファイヤ―の木をいつ、だれが組んだかだよ。僕が気付いた時にはもうあったんだけど、だれが作ったか心当たりはあるかい? ウンフェルスさん」
「いや、実は私が起きた時にはもうあったんです。元々の係りは私ですが、誰かが先に作ってしまったので、逆に善意だろうなと思って流してしまいました。特に誰が作ったなどは聞いていないですね」
「実際問題なんだけれど、死体は段ボールに入ってて、木を井桁型に組んでたんだ。なら、選択肢は二つ。殺してから木を組んだか、木を組んでから段ボールと死体を入れたか」
風街が提示する選択肢を聞くに、かなり話もややこしくなってきているような気がする。
……だが、おそらく木を組んだ後に死体を入れるのは合理的ではない気がする。
それが出来てしまうと、まるで魔法や手品の領域だ。
なにせ……一度くみ上げたものを、隙間もないところにどうやって段ボールを? あるとしたら上空から?
いやいや、上空に死体入りの段ボールを運搬するなんて、それこそ難しい。
ドローンを利用した?
あの物資を運ぶくらい大きな奴があればできるかもしれないけれど、音も大きいし結構目立つと思う……。
「うぅ……ごほ、ごほ。なんもわかんないけどさ……で、結局だれがやっだの……」
小春が鼻水を垂らしながら僕らに尋ねる。……その問いに誰も答えなかった。
「え、なんでぇ……ごほ」
ウンフェルスがかなり深刻な表情で小春に伝える。
「今回の事件の問題点として、誰が、いつ、どうやって、……何故やったのかが、全くわかりません。死因が分かってて、あまりにも情報が、無さすぎます。何せ意味がない。心臓を刺しておいて、何故死体をわざわざキャンプファイヤーの火の中に、……みんなの心をへし折るようなやり方で死体を晒上げたのか……。許せません」
……今、僕は新たな謎が提示された気がする。
「……そうか、なんで死体をわざわざ燃やしたんだろう。正直……メリットがないような気がする。冥城は風邪を引いてて、ずっと部屋にいたんだ。わざわざ死体を晒さなくても、運がよければ一日くらい隠しきれたんじゃないか……?」
「そうですね……。つまり燃やせるメリットがあった、或いは、燃やさなければいけなかったのかもしれません。状況証拠かもしれませんが、燃やした人間が……間違いなく、犯人でしょう。一番の謎はここだと思います。燃やした人間を指摘できれば、この事件は自然と解決できると思います」
ウンフェルスの発言に納得する。
包丁で刺した場所とか時間を考えるよりも、どうやって燃やしたのか。
そこを考えた方が事件解決に近いのかもしれない。
「あ、拙者疑問がもう一つあるでござるよ秋冬殿」
「クロカメさん?」
「死体でござるよ。あまり言いたくはないでござるが、外がとても暑い状況で、食品でさえ腐る可能性があるでござる。死体も同じナマモノであるのならば、午後に殺してしまって、組んだ木の中に仕込む……。放置していれば間違いなく腐っていたのでは? 付け焼刃なる知識ではござるが、心臓から流れる血のせいで、すぐにでも臭くなるのではなかろうか。亜酔昏殿の意見も聴きたい」
亜酔昏がびしっと指をさして医学知識を振るう。
「死体は基本的に6時間程度で腐敗すると言われているよ。人間というのは恒温動物。要は死後も体温が残るんだ。そのせいで内臓が腐っていくんだよ。具体的なプロセスを言うとまず半日持たずに口から異臭がし始めてそこにハエが……」
「おぅおおい知識テロやめろ想像しちゃうじゃん!?すいませんSAN値チェックお願いします!」
入間が先に発狂する。
亜酔昏も、あっやっべ、っという顔をして謝罪した。
「ふむ。夏も盛り。であるならば、如何にして臭いを誤魔化したでござるか……?」
クロカメの鋭利な事件への切り口が、流れを変えたような気がする。
そうか、食品関係を手伝って、事件直前に食品の腐敗を疑ったクロカメだからこその視点だ。
もしかしたら、何か掴めるかもしれない。絶対に、絶対に糸口を逃すな。
「さて、冥城殿の死体は……どのようにして腐敗を防いだのでござろか」
亜酔昏の改めて自身の見解を語る。
「死体は腐敗していなかった。腐っていないなら【死後まもなくでそこに置かれた】というのが自然だが、違いそうだ」
入間が想像を膨らませる。
「大体、ミステリーの十八番で言うなら、【もう腐ってたけど、防腐剤で誤魔化した】とか? 後は香水をつけたりとか」
同じくミステリーの愛好家、風街が推理する。
「例えば、血の処理をセットに考えるなら……【海で殺害して、死体の温度を下げた】なんて推理もできるよね」
なにも分からない岩手が首をかしげる。
「じゃあ単純に【冷蔵庫か冷凍庫に入れた】とかでもよぐねぇが?」
一通りの推理を聞いて、個人的に二つの推理が気になった。まず一つは、風街の推理。確かに海で殺したというのは一理ある。その裏付けに、二つの足跡と、台車の跡があった。もう一つ、岩手の推測だ。冷蔵庫か冷凍庫で体温を下げれば、腐敗が抑えられる……かも。
――そういえば、食料庫に入るときに気になるものがあったな。
「え、なんだろうこれ。……入室記録?」
『8月13日 入室記録 人間、人間、人間、狐、人間。 8月12日 入室記録 人間 人間。 8月11日 入室記録 人間、人間、人間。 8月10日 入室記録 人間。8月9日 人間、人間、人間……』
「なんだこれ。人間……? え、種族判定なの?」
そういえば入室記録があった。
今日の入った人間を……。全て。
「そうだよ記録だよ! 記録があったんだ。そうか、可能性はあるんだ!」
「ど、どうしたんだい秋冬ちゃん?」
亜酔昏が動揺するも、僕の口は止まらない。
「みんなの、アリバイがヒントなんだ。ごめん、みんな! 今日食糧庫に入った人はいる?」
「お? おらの当でずっぽう採用されだ感じがね?」
岩手がにっこりと笑う。
「拙者は入ったでござるよ。食材担当故に」
「僕も手伝ったよ。クロカメくん一人じゃ重いと思ってね。杞憂だったけど」
「はっはっは。伊達に鍛えてござらぬよ!」
クロカメと風街がいの一番に名乗り上げる。
そして、それ以外の人間は誰も手をあげなかった。
「僕も事件発生後に入ったんだ。それで……この入室記録を見てほしい」
「入室記録?」
風街が首をかしげる。すかさず証拠を、全員に共有する。
「これを見てほしいんだ。今日の入室記録に人間、人間、人間、狐って書いてあるんだよ。どうしてか分からないけれど、種族で入室の情報がまとめられていたよ。それで、この最後に書いてある種族の……狐。間違いなく、みんなの中にもう一人食糧庫に入った人が一人いるはずなんだ。それも、種族が狐っていう」
「なんと面妖な!?」
クロカメが大きくリアクションをする。無理もない。種族が狐ってなんなんだろう。まるで妖怪だ。
「げほ、げほ、でも、狐さんなんて、ごほっごほっ、この中にいないはず……」
「ここでおらの名推理タイムだべ」
「!?」
岩手、急にどうしたんだ!?
「ずっとずっと疑問さ思ってらったぜ。あれ、冷蔵庫がもし犯行で使われだら矛盾しねぁーって。狐、これは比喩表現だべ。なにせ都会では言うんだべ? 女は、女狐ってね」
「言わんよ?」
「真実は一づだべ! 冷蔵庫さ入ってらったがら風邪引いだんだ! 小春そら、アンタが犯人だべ!」
「ヴぇっふごふっおえぇっ!?!?!?!?」
「意外と否定しきれないこと言うのやめてよ!? 今から大事な話しするから」
「言うだけ言ってみ?」
くっ、岩手の推理、意外と冴えてて馬鹿にできない。
でも小春が狐であることの証明ができてない。
ここをしっかりすれば、突破口があるはず。
「狐なんて、実際にいるわけないと思うんだけど。でもここに一個ヒントがあると思うんだ。
思い出してよ。みんな第一の事件が終わった後ある記憶が蘇ったはず」
「Vtuber、ですね。なるほど、そういうことか」
ウンフェルスが目を開く。間違いなく、確信に至っただろう。
「うん。僕以外の人たちはみんな、Vtuberってことはもう分かってるはず。Vtuberには、いろんな種族の人がいるんですよね?」
そう、かつてウンフェルスが教えてくれたのだ。
「Vtuberというのは、とても掻い摘んで説明すると……私たちはバーチャルという存在で、様々なプラットフォームで配信活動や、動画投稿を行っているんです。要はストリーマーというやつですね。私たちは学生をしながらそういった行動をしていたみたいなんです。種族も多様性があって、狐娘とかサキュバスとか、私の知っている限り本気でただの犬もいますね」
「僕らの中に、狐がいる」
そして、その可能性がある人物が……一人、いる。狐ということは、おそらく狐耳があるはず。
狐耳の持ち主は、鈴さん?
いや、もう一人可能性がある人間がいる。
この場にいる生存者は、僕(秋冬)、風街、クロカメ、岩手、速水、亜酔昏、入間、小春、ウンフェルス。
――そしてもう一人。
ずっと、ずっとだ。
この島に来てから、ずっと黒のパーカーのフードを、深々と被っている存在が、一人――いるっ!
「――威鳴音月、君じゃないか? 狐の正体は」
「――」
沈黙を今まで貫き続けていた男の瞳が、揺れる。今の今まで、議論ですら不干渉を貫き続けてきた彼が、今もなお黒フードを深々と被り、どこを見ているのかも分からないが、……間違いなく、僕を睨んでいるように見えた。
「――なるほど、な。まさか入室記録があると思わんやんな。やられたわ。正直そこで墓穴を掘るなんてさぁ。はぁ……ホンマにむかつくやつやなぁ、秋冬ハルっ!」
黒フードをすっと頭から取る彼。
耳には、大きな、大きな耳が頭に生えていた。
「うそ、本当に、狐耳じゃないか」
亜酔昏が動揺する。
無理もない、あの黒フードだけで隠れきれるものではないような気もするが、現にうまく仕舞っていたのだろう。
明らかに獣の耳で、獣のような殺意のこもった瞳が、僕を貫いた。
「別に全力で隠していたわけじゃないで。ただ、余計な情報を君たちに与えたくなかったし、これ見ているやつらにも見せたくなかっただけやから。――やけどさ、秘密を暴かれたら暴かれたで腹立つんよなぁ。分からん?」
苛立ちが、熱気となって声に変わる。間違いなく、僕はいま彼の標的になった。
「さて、秋冬ハル。君の推理通り僕は狐だ。それで?【だから何?】食糧庫に入った。【だから何なん?】僕のこと犯人扱いするんやから、最後まで抗ってもらうぜ」
「……威鳴音月っ」
「憶測ばかりで話し合いしてるからさ。さぁ、狐との化かしあいで馬鹿試合なんてすんなよな。【それは違うよ】」
威鳴音月が、この場の空気がを奪う。
今の今まで正体を隠しきった彼が、動いた。
やばい、このままだと彼の空気に呑まれてしまう。
くそ、大丈夫だ、絶対負けない。ずっとムカついてたんだ。
最初からずっとみんなに当たり散らすような、空気の読めない嫌な奴。一発推理で打ち抜いてやる。
「僕は確かに食糧庫に入った。でも【何か問題あるん?】」
威鳴の言葉に、探る様にクロカメが斬りかかる。
「死体を冷蔵していたのは、【威鳴殿で相違ない】でござるか?」
「【僕だよ】と言ってほしいだけやんな。【僕じゃない】けど? あぁでも【僕も関わってた】かも。【実は無関係】だったりして。関わるって漢字は部首が門構え、つまり門が前に来るわけだからきちんとした手順で食糧庫に入ったのはまぁ間違いないかな?」
まるで適当で、まるで得心の行くような、訳の分からない言葉遊び。
これが彼の化かしあいなら、思う存分語り合いをして分かりたいと突き進むしかない。小春が咳をこらえながら威鳴を問い詰める。
「きっと関わってたんだよね。殺した後に冷蔵して、死体を動かしたんだ! げほっげほっ」
「【そうさ】とか【そうなんですか?】とでもいくらでも言えるし、捜査が出来ひんから死体も事件も推理自体を遭難させてしまった君はそうやって憂さ晴らしをするんやなよくわかったわ。【ごめんごめん冗談だよ】【本心で話し合おう】【僕は嘘なんてついたことがないんだ】、僕は【死体を食糧庫からは動かしてないよ】【僕は責任をもって最後に死体を動かした張本人さ】。流石咳の激しい小春そら。口から亥が出てくる勢いで勢い任せに話す。口と同じで角が立つ物言いやんな。言葉の門はきちんと鍵を閉めるべきやね」
くそ、馬鹿にして……っ。
でも何を言っても煙に巻かれてしまう。
……ほかにヒントはないか? そう思っていたら風街も援軍に来る。
「死体を動かした可能性があるなら、君がキャンプファイヤーの木を組んだのかい?」
「【木があって(気が合って)冥城んみと一緒に作ったよ】。嘘だよ、【物陰で木になってる(気になってる)様子の入間るいと一緒に作ったよ】。嘘やで。【傷つきながら木頭突きしてる岩手大好丸と一緒に作ったよ】。これも嘘かも? 【気分かい? 組まれた木分解するくらいテンションが高いよ】。これは無理やりか。【僕一人でやるのが関の山だし、噂が絶えないから僕だって咳の止まない狐だったってだけ】かもよ? さて、全部嘘かもしれないけれど、何かわかった? ん?」
「おらは木に頭突きなんてしねぁーぞ!?」
「誰もそこ本気に思ってないですよ!?」
ウンフェルスが必死に岩手に突っ込む。だが、風街のおかげで突破口が見えた。やるしかない!
「威鳴さん……いや、威鳴音月っ! 煙に巻くのはそこまでだ! 両手を上げてテンション高くやるのもこれまでだ」
「なんやねん、まるで僕がお手上げみたいやんか?」
悪ふざけをするように、からかう表情で彼は両手を上げて手を振った。
「いいやお手上げだし、風街さんのお手柄さ。そのまま両手を上げておくんだ。その手が何よりの証拠になるんだから――」
そう、全ては風街の推理通りだった。学級裁判前に彼は言っていた。
「ふふ、実はミステリー小説は結構読んでいてね。正直犯人カッコ仮は軍手とかが管理されてる場所の軍手を持ってっていないみたいだから、素手で木を組んだかもしれないんだ。もしかしたら手とかに小さいとげやささくれが刺さってたりしてるかも。そこが、僕的にねらい目かもしれない」
風街が反射的に威鳴音月の手を見た。
「あった、あったよ秋冬さん!」
「やった、ささくれが、あったんだ! つまり、キャンプファイヤーの木を組んだのは、威鳴音月で間違いないんだ!」
「では彼が犯人ですね!」
ウンフェルスが威鳴音月を指さす。
そうだ、確かに彼が死体を運搬したのなら、死後に段ボールに入れて、その後木を組めば……。
犯行は、可能、なんだけど。待って、待て。
「……威鳴音月、どこで冥城さんを殺したんだ?」
「あぁ、【彼の部屋】だよ。彼の部屋で殺して、食糧庫につっこんでおいた」
「【それは違うよ】。彼の部屋は生活感にあふれてて、殺害があったと思えない。あそこで殺して証拠隠滅をするとなると、もっと埃一つなくなってるくらい綺麗になってると思う」
「……」
「もういいべ、こいづが犯人だ! こいづがあの優しい冥城殺した! 必死さ否定もしてねぁー! おらだづをあざ笑ってらんだ、人を不快にさせるいやなやづなんだ! はやぐごいづおしおぎさせろ!」
感情的になっていく岩手が、どんどんヒートアップしていく。
「げほっ、げほっ、でも絶対この人が犯人だよ、露骨すぎるよ!」
小春が怒りからか、呆れからか、断言して彼を指名する。
速水も、クロカメも、「そうかも……」といった表情を浮かべて目線を下げている。
ウンフェルスも、納得をした表情で頷いていた。
でもいいのか? これで終わり? みんな終わりって言ってるし、これで終わりでいっか……?
なんだ。もう終わりか、早かったな。はは、終わりかー。なんでだろう。なんで。
「大丈夫だ。今度こそ。絶対助けるよ。……なぁ、威鳴さん」
なんであの夢を今思い出してしまったんだろう。
顔を上げる。
すると、威鳴音月と目が合った。
その目は、怒りとか、失望とか、そんな種類のものだった。
(――そんなものか? なぁ)
そんな、感情が伝わる瞳。挑発的で、どうしてか、辛くて。
それなのにどうしてか、分からないけれど。本能が訴えていた。
――なんだろう、こいつにだけは負けたくないっ! まだ謎は終わっちゃいないっ。
「威鳴音月……いつだ?」
「?」
「いつ、木を組んだ?」
「【午前】【午後】【開始時】」
「【それは違うよ】。だってその時間帯はキャンプファイヤーの準備でみんな動き回ってた。目立つグラウンドでそんな作業をしてたら、絶対に目撃される。でも誰も木を組んだ姿を見てない」
「【化かしたのさ。Vtuber】だから」
「【それは違うよ】。そんなファンタジー、僕は認めない。だってまだ謎は解けてない。いつ、どこで殺されて、いつ木が積まれた。本当に……君が殺したのか、僕は疑ってるよ!」
ウンフェルスが叫ぶ。
「馬鹿な、でも彼以外にあり得ない」
入間が口に手を当てた。
「いや、あり得ますよ。例えば、今日の【午前】【午後】【開始時】以外なら……。秋冬さん。ここまで言えば分かるんじゃないですか?」
「そうか、いやしかし、だが可能だ」
亜酔昏が、一足先に真実にたどり着く。
いや、でも可能性は大いに残っている。
「死体なんだけどさ、凍らされてたんじゃないか? それなら、腐敗を大幅に遅らせられる。――死んだ日も、偽装できる!」
「な、は、はぁああああああああああ?! なんじゃそりゃあああああああああ?!」
岩手が追い付かなくなり感情が爆発する。しかし。
「喝ッッッッッ!!!!!!!!!!!!」
「うおっ、びっくりした」
クロカメが開眼し喝を入れた。
いやそんな物理的にみんなの意識を戻す方法あるんだ?
クロカメが話を戻す。
「ふむ、死体を冷凍するとなれば、確かに死体は腐敗しないでござるな。しかし、秋冬殿。その推理には穴があるのでは?」
「全部、反論します!」
「なればこそ! 【その言葉、斬らせてもらうでござる!】」
クロカメが言葉の刃を抜刀する。
一つ一つが居合のような速さと切れ味。言霊で彼の言葉を打ち抜くほかない!
「死体を凍らせた状態で、皮膚の火傷が発生したとは到底思えぬ。【解凍の時間】が必要でござる」
「【解凍の時間はあった】と思う。それこそ、午前午後で解凍可能だよ」
「【その言葉は見逃せぬっ】。その推理が正しいのであれば、段ボールに入れた時点で凍っていたということ。しかし【凍っていた証拠】はござらぬ。其れは如何に!」
「状況証拠で、無理やり解釈は可能だよ! 思い出してほしい」
思い出すべきは、亜酔昏の証言と、死体のあった現場。
「あ、待って秋冬ちゃん。今気になったことがあるんだが、見てほしい。死体もかなり燃えていて、かなり広範囲に火傷しているが、一部の場所で火傷していない箇所があるんだ。何かのヒントかもしれない」
燃え残った、焦げ跡一つない段ボールの破片が、風に乗って動く。彼女から得た情報を無駄にしないように、考えを巡らせる。
「まず死体の一部が火傷をしていない場所があった。これはクロカメさんの言う通り、凍っていたことで燃焼が上手くいかなかった、或いは凍ったからだが解けて液体がでたことで燃え辛くなった可能性があるよ。そして、その証拠じゃないけど、燃え残りに焦げ跡一つない段ボールの破片があった! 濡れていた可能性があるんだ!」
「お見事、状況証拠なれど、納得はできる!」
「よし、じゃあそれをそれに推理を……」
あれ。え。あれ?
「……どうしよ。実は、実はあの日夢で殺しちゃったのって、冥城くんなんだ…‥。も、もしかして、私、正夢を見ちゃって……っ。どうしよう秋冬ちゃんっ。私、冥城くんを、夢で、殺しちゃったかも……っ」
「……例えば夢で殺してしまったとして、どこで殺してしまったとか分かります?」
「えっと、食糧庫だよ」
「……速水、さん?」