Vtuber学パロダンガンロンパ風序盤ギャグガチンコミステリー小説   作:茶鹿秀太

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非日常編 第二章 「ウイルスメモリー」4

「……」

 

速水が、焦る。

 

「ちょ、ちょっと待ってよ。え、待って。ちが、違うよ。だって、ほら。あ、そうだ、そう、ウンフェルスさんは、午前中忙しかっただろうし、だから」

 

風街は目線を下げて、悔やみきれないようにうつむいた。

 

「……ウンフェルスさん。アリバイは、ありますか?」

 

「アリバイってなに? え、だって、ほら、あ、あれ……」

 

速水が黙る。おそらく彼女も、ウンフェルスの午前中の動きを知らないのだろう。授業のある日は、アリバイがあっただろう。でも……みんながキャンプファイヤーの準備をしていたのだ。授業なんてするはずもない。名指しで犯人と指名されたウンフェルスは、ふぅ、と息を一つはいた。

 

「少しだけ、悪あがきしてみますか」

 

「わるあがきってなに……、ねぇ、ウンフェルスさんっ……」

 

速水の声は届かない。既に目は、ぎらぎらと光りだしている。ウンフェルスが本気で、最後の大きい謎を、提示しようとしていた。

 

……これがおそらく、ウンフェルスの、最後の授業になると分かって。

 

「さて皆さん。これでも私は歴史学者志望。歴史とは勝者の記録。敗者の記憶は考慮されない。ならばこそ、私がこの議論を無効にできれば、威鳴音月さんが犯人だと信じてくれると思います」

 

「はは。要は僕をやけに犯人にしようとしている理由は、擦り付けだったわけだ」

 

威鳴があくどく笑い、ウンフェルスは教鞭を振るう。

 

「それでは、【テーマは共犯】【素人質問で恐縮ですが】【これより授業を開始します】」

 

 

 

世界が、また一転する。彼の作り出した歴史を打ち破らなければまた振出しに戻ってしまう。DVDの映像の持ち主は間違いなく彼。言い逃れを絶対にさせない。

 

「まず私が冥城さんの死を偽装して死体を運搬したといいますが、【私以外でもできますよね?】それこそ、【威鳴音月さんが行ったのでは?】」

 

「冥城さんの部屋で音声を流したのは、間違いなくウンフェルスさんでしょうね。なにせ音声を持っているのは、ウンフェルスさんだけなんですから」

 

風街が援護をする。しかしウンフェルスは何も効いていないかのように振る舞う。

 

「死体運搬についてはどうでしょう。それこそ【威鳴音月さんが単独で行った方が理屈が合います】もし足跡だけが根拠であるのならば、証拠として薄いのでは?」

 

「犯行の分割です」

 

おそらく、おおよそこれが真実。

 

「ウンフェルスさんは死体を海に流して、証拠隠滅を図ったんです。ただ、食糧庫から死体を運ぶ際、威鳴音月がそれを見ていた。その後死体を回収して……燃やした!」

 

威鳴が手を鳴らす。

 

「Congratulations! ホンマよくその情報だけでたどり着けるわ。きっしょ!」

 

「くっ」

 

ウンフェルスはいら立ちを隠せない。無理もなかった。犯行そのものを目撃されており、なおかつ犯行計画をただ一人の狂人に崩されてしまったのだから。

 

「では何か? 私と【この狐】が、共犯関係だと? メリットがないですよね?」

 

「【それは違うよ】。共犯関係ではなくて、それぞれ別に犯行を行ったと考えるべきです。これが、事件の全容だ!」

 

 

 

まず、ウンフェルスさんは冥城を殺害後、死体を冷凍保存する。その後、キャンプファイヤー実行日の当日の深夜に死体を動かすことを決める。決めた理由は……当日に食糧庫の出入りが激しくなることを考えたからかもしれないね。台車を使って、死体を運ぼうと実行する時に、同じく食糧庫にいた威鳴音月に犯行を目撃されていた。その後、ウンフェルスが小舟に死体を乗せて……。海に流した。小舟には穴が開いていたから、時間経過で死体が舟と一緒に沈むことを期待していたんだと思う。

 

 

しかし、威鳴音月がそれを許さなかった。死体を回収して、キャンプファイヤーの木で囲んで、死体を燃やそうとした。死体が冷凍から解けただけでは段ボールは濡れきれなかったかもしれないが、海水も死体に触れたことで、段ボールの燃え残りや、死体の燃え残りが増えたのだ。これが、この事件の一連の流れだ。

 

 

 

「これがウンフェルスさん。この事件で起きたことの全てです。違いますか?」

 

「……」

 

「いやぁすごいわぁ秋冬ハル。まるで探偵みたいじゃないか。面白い推理だね。作家にでもなったら?」

 

「いやどっちでござるか?」

 

クロカメのツッコミも耳に入らないほど、場が静まり返る。……。

 

「はぁ。ダメですね。まさか、威鳴音月さんに見られていると思わなかったですし、挙句僕の知らない犯行まで出てきてしまって動揺しすぎました。反省点です。これで……終わりですか」

 

ウンフェルスは、手を握り締めて、ふっと力を抜いた。……まるで全てを諦めてしまったように。

 

「認めます。私が犯人です」

 

「なんで、……どうしてっ」

 

小春がウンフェルスに理由を聞こうとする。無理もない。ウンフェルスが……あんなに楽しそうに授業をやっていたウンフェルスが犯人だなんて……想像したくない。

 

「黙秘します。彼とのいざこざは、彼の名誉に反する。私は何も言わずに退場します。申し訳ありませんが、そうですね。殺したくなったから殺した。とか。突発的に行ってしまった、とか。……ここに関しては、推理しないでください。お願いします」

 

深々と、頭を下げるウンフェルスに、僕らは……何も言えなくなってしまった。……そんなことを言われてしまうと、僕らも、何も言えなくなってしまった。

 

「小春さん。風邪を引いてしまってる中、私のせいで立たせてしまい申し訳ありません。風街さん、いつも授業を真剣にノートを取ってくれて嬉しかったです。岩手さん。君も興味のあることに大きくリアクションを取ってくれて、楽しく授業が出来ました。クロカメさん。とてもまじめで、それでいて優しい君に救われました。速水さん、……冥城君と一緒で皆勤賞でしたね。がんばりました。亜酔昏さん。理系科目を教えてあげられなかったことが私の後悔です。リベンジする機会があれば、是非。入間さん。天才とは挫折の数で強くなるものです。文系科目もこれを機にチャレンジしてみてください。秋冬さん――」

 

「……」

 

「ごめんなさい」

 

そう言って、彼は黙りこくった。……終わった。これで、終わったのだ。投票が始まる。あの恐ろしい、おしおき相手を指名する、投票が――。その時だった。

 

 

 

 

 

『なんで騙されるかねぇ、これだからよぉ~。記憶を失ったら別人たぁ本当の話だな。なぁ? 秋冬ハル』

 

頭の中で、声がした。

 

『こんな結論で納得できるなら、まぁ良いんじゃねぇか? ただ、僕からすりゃ何も解決してないんだわ。いつ冥城は殺された? 死体が冷凍されて運んだのがウンフェルスだからウンフェルスが犯人なのか? おいおい馬鹿だなぁ、馬鹿だなぁ秋冬ハル! 虐逆だろぉ? 今日殺されてないなら、全員が等しく――――』

 

『さっさとその腑抜けたツラぁしゃきっとしやがれ』

 

 

 

 

 

 

ガンッッッッッ!!!!!!

 

激しい音。耳鳴りがやまない。……僕だ。僕が今立ってる証言台に、思いっきり頭を打った音だ。馬鹿だった。僕は馬鹿だったのか。

 

そうだろ、当たり前だろ。ウンフェルスさんが……あんなに生徒思いの人間が、人殺しをするはずがないだろっ! もし殺したのなら、事情があるに決まってるだろ。それに、それにぃ!

 

「まだ、終わってない。死体が冷凍されてたなら、ウンフェルスさんが殺害をしてない可能性がある。まだ回収されてない、謎が残ってる」

 

「しゅ、秋冬ちゃん?」

 

亜酔昏の息が止まる。無理もない。僕の額から、たらりと、赤い何かが流れているのが今見えた。ウンフェルスが、ゆっくりとまた戦う表情になっていく。

 

「私が犯人です。これ以上疑いあう必要はありません」

 

「まだ暴けてない謎があります。死ぬならその後でどうぞ」

 

「馬鹿な……何を考えているんですか? 私がやった。私は認めてる。殺害したのは間違いなくっ。暴けてない謎? 動機の話ですか? なら暴かないでください。これは二人の、彼の名誉の為にも、彼の気持ちを考えて――」

 

「お前が冥城の気持ちを代弁するなっ!」

 

ぴたりと、全員が動くのをやめた。

 

「冥城は何も語れない。何もできない。お前が殺してんなら、お前がアイツを語るなっ! いや、違う、そうさ、アンタは殺してない! あんなに生徒思いで、真摯に授業してたやつが教え子を殺すはずがないだろっっっ!!!! 墓を暴くことをを否定するなら、僕は悪で良い。彼の無念も、何があったのかも全部暴いて全部背負う。もしアンタが、誰かを庇ってるとしたら……それも全部白日の下にさらして、きちんと罪を償わせてやるっ! そうじゃないと、誰も報われないだろっっっっっ!!! 」

 

自分でも何を言ってるのか分からない。でも、なんだろう。別に正義感に目覚めたわけではない。ただ、ただ許せないのだ。胸張って生きてただけのやつが殺されることが。何も言えない彼の気持ちなんて分かったような口を利かれることが。

 

「最後の学級裁判だ…‥。僕は絶対、絶対っ」

 

せめて、胸を張って、冥城の墓の前で事件の報告をしたいから。

 

 

 

 

「冷凍されていた冥城の死体は、いつ殺されたか分からない。会話が誤魔化せた以上、いつ殺されたかの特定をしないといけない。ウンフェルスさんが殺したのか、他の誰かが殺したのか、そこで見極めなきゃ僕らが死ぬ」

 

僕の問題提起に、誰も反応しない。無理もない、こんな無理やりな議論、いきなりやろうとするはずが……。

 

「分かった、やろう。――冥城くんの死の無念は、最後まで責任をもって解き明かそう」

 

風街が、僕の追い風になる。

 

「そうだね、死体を食糧庫に運ぶ、というのはあんまり考えられないと思うんだ。だから僕は食糧庫で殺した後、冷凍保存したんじゃないかって思うよ」

 

クロカメが覚悟を決めた表情で、追撃していく。

 

「であるならば、入室記録。これがヒントになると見た」

 

 

『8月13日 入室記録 人間、人間、人間、狐、人間。 8月12日 入室記録 人間 人間。 8月11日 入室記録 人間、人間、人間。 8月10日 入室記録 人間。8月9日 人間、人間、人間……』

 

 

 

 

 

「一個ずつ当てはめてみよう! 8月13日は、風街、クロカメ、秋冬、威鳴、ウンフェルス。これでいいよね」

 

僕の声に反応して、小春が指さしていく。

 

「8月12日は……2人だね。8月11日が3人。8月10日が1人、8月9日が3人……」

 

クロカメが言葉の刃を振りかざす。

 

「8月9日であるならば、拙者と秋冬殿がスイカを探していたでござるな! 8月11日と12日は事前に風街殿と食糧の点検を行ったでござる! あとあれですな! 冥城殿は最初の食糧担当だった故に、8月8日の提案から何度か入ってるはずでござる!」

 

速水が手を挙げた。

 

「確か……冥城くんって部屋にこもり始めたのって11日だよ。その周辺で……っ!」

 

「速水さんっっっっ」

ウンフェルスが、悲鳴のように声を上げた。間違いなく、この時期には、冥城は、もう……っ。

 

「つまり、こういうことですよね」

 

入間がその指でどんどん間を埋めていく。

 

 

 

8月13日 入室記録 クロカメ、風街、秋冬、威鳴、ウンフェルス。

8月12日 入室記録 クロカメ、風街。

8月11日 入室記録 クロカメ、風街、人間。

8月10日 入室記録 人間(冥城?)

8月9日   入室記録 クロカメ、秋冬、人間(冥城?)

 

 

岩手が推理を滑らせていく。

 

「じゃあ……待ってぐれ。小春さん、アンタってマジでたまだま風邪ひいだだげなのが? 冷凍室に8月8日がら食糧庫ごもってで隙見で殺したのが?!」

 

「違いますぅー、美術室にこもりすぎて風邪ひいたんですぅー! へーっくちっ」

 

「そこで寝てたんか……」

 

小春そらのズボラさが発覚してしまったことは置いておいて。入間が、あ、という声を出した。何かを思い出したようだ。

 

「8月10日は、確かあれっすよね。花火ぃ……実験してたら、冥城さん驚いて来ましたよね。理科室。うわ嫌なこと思い出した」

 

そうだ、今思い出したけれど、僕もその現場を見ていた。

 

 

 

「酸化剤と可燃剤と炎色剤をオラァっ! セラミックオラァっ! ここでっ……こいつを……オラァっ!!!!! っていう感じで作r」

どがーん。理科室は爆ぜた。

「ひ、ひぃ……」

「っひぃーあっぶね。私が天才じゃなければ死んでましたね。しゃれじゃなく」

詳細は省くが、僕は入間に守られたらしい。いや君爆発の犯人だからね? マッチポンプだからね? そう思ったが、何も言うことが出来なかった。冥城とウンフェルスが真っ先に飛んできたので本気で謝った。

 

 

「じゃあ、間違いなく、部屋にこもったとされてる時には、もう死んでた可能性があるんだ。10日の夜中から、11日の朝くらいまでの範囲で殺されたんじゃないか?」

 

亜酔昏が追い詰めていくと、ウンフェルスが肩を落とした。

 

「8月11日の入室は私です。8月10日に招いて、時間日付の変わり目で私が入室。殺害。これで満足ですか?」

 

「くっ」

 

そう言われてしまえばそこまでだ。確かに矛盾はしない。食糧庫から出るときはカードを読み込まないから、前日から食糧庫にスタンバイするという荒業も、履歴に反映されていない。これは……。そうなのか? 本当に、やっぱり、ウンフェルスが……。

 

「……これは、まぁ。私だから気付けることだと思うんですけど」

 

入間が、おもむろに言葉を紡ぎ始めた。

 

「一応、あるにはあるんですよね。カードリーダーを通さなくても、人間が侵入できる可能性」

 

「……え」

 

「まぁ一応天才ですからねえ。こういう機械とかについても理解はありますよ。まぁシステム的には欠陥というか、まぁ、そういう仕様にしたんでしょうけど。思い出してくれませんか? この食糧庫って、食料が減ったら補充されるんですけど。補充する人って誰か知ってます?」

 

「えっと、それは……」

 

それは。あまりにも唐突で。あまりにも、簡単なことだ。

 

 

 

ドローンが下した荷物はコンテナだった。うようよとその周りに人型のロボットが集まってコンテナを開けた。

「ウワーモウニモツトドイタヨーマジカロウシスルッテコレ」

「ショーガナイヨネ。ロボットニジンケンナイシネ」

そう言いながら、コンテナに入っていた物をそれぞれ役割を分担して仕分けし、各々運んでいく。どこか人間味のあるロボットだが、何故か塗装がゾンビのような顔色をしていた。いや、実際コンセプトとしてはゾンビなのだろう。ゾンビ風の女性型ロボットの群れ。僕たちはなんとなくそれをロボゾンビ子ちゃんと呼んでいた。

「アラヨットナァ」

正直聞き取りずらい音声で声を出して、自分より大きな荷物を集団で肩に担いだ。まるで神輿を運ぶみたいだ。

「あの、すいません。これどこに運ぶんです?」

僕が効くと、ちょっとけだるそうにロボゾンビ子ちゃんは答えてくれた。

「エ、アコレ?ショクドウヨショクドウ。ソノオクニショクリョウホカンコガアッテ、、ゼンブレイゾウシタリレイトウシ’、リイロイロヨ?」

「……なるほど」

ぎりぎり聞き取れたのは食堂とか、食料保管庫で冷蔵することくらいだ。

 

 

 

「ロボゾンビ子ちゃんだ!!! ロボゾンビ子ちゃんの群れが、自分より大きい荷物を神輿みたいに運んでた……。そうか、ロボゾンビ子ちゃんは、入室記録にもしかして、載らないのか……?」

 

「載らないでしょうねー。コロシアイが目的な会場で、わざわざ通りの多いロボットの履歴を残してたら履歴が役に立ちませんから。つまり、しゃ、じゃない。しゅ、えーと。秋冬さん。ここまで来たら分かりますよね」

 

「なんで肝心なところで名前を間違えるんだ!? でも、そういうことか。コンテナの中の荷物、そこに隠れて、荷物として入室できるんだ!!」

 

「やめろっ、やめろぉおおおおっ!!」

 

ウンフェルスが取り乱す。――あぁ、そこまでして、守りたい物が彼にはきっとあったのだろう。そして、分かってしまった。僕にも、彼が守りたかったものが。

 

「――ウンフェルスさん、貴方も共犯者だったんだ。理由は、そうか。守りたかったんですね。教え子を」

 

「違う、違うんだ。私がやった、やったんだ!!! 頼むからそうしてくれ!!!」

 

「結局犯人は分からないんだ。誰が荷物の中に入って冥城さんを殺したかなんて。でも、――あぁ。最悪だ。……最悪だ。きっと、……」

 

計画的だったけど、殺した後、自分の行いに気付いてしまったんだろうな。彼女はきっと、助けを求めてたのかもしれない。夢は……今、覚めるのだ。

 

 

 

 

「速水さん。……ごめん」

 

 

 

「――。え?」

 

 

 

 

「う、うぅぅうううううぅううううううううっ。ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっっ」

 

ウンフェルスが泣き崩れる。速水は、なにも分かってない表情で、ぽかんとしていた。……これが、事件の全容だ。

 

 

 

 

 

8月10日 

冥城は速水に呼び出され、食糧庫に足を運んだ。速水はロボゾンビ子ちゃんが運ぶ荷物に紛れて、事前に準備していた食堂の包丁を握り締め、冥城を殺害。その後……ウンフェルスに相談しに行ったのだ。日付が変わったあたりで、ウンフェルスはその現場を見たのだ。……。そして、速水は、それを夢だと思い込むことにした。

 

8月11日

彼女は僕に人を殺した夢を見たと言った。冥城を殺害した記憶を、持ちたくなかったんだろう。それから、ウンフェルスが冥城の部屋に行き、偽装した音声を流すようになった。

 

8月13日

死体を海に運び、小舟で流す。それを威鳴音月が横入りして、燃やした。

 

 

 

 

「――これが、事件の全容ですね、ウンフェルスさん」

 

「っ、なぜ、なぜぇ……っ。なぜ暴いたんですか、どうして……どう、して、ぇええっっっ!!!!」

 

膝から崩れ落ちていく、ウンフェルス。地面を何度も叩き、涙をこぼした。

 

「え、どういうこと?」

 

なにも分かっていない速水は、首をかしげた。……ごめんなさい、速水さん。死なせるかと、言ったのに。……僕が、推理で……貴方を殺すことになってしまった。ごめんなさい。ごめんなさい。

 

 

 

 

 

ぴんぽーん、と音が鳴った。8月10日の真夜中。そろそろ時刻は日付が変わりそうだ。部屋にある時計をちらりと見て、恐る恐る扉を開けた。そこにいたのは、上半身を真っ赤に血で染めた、速水らいむであった。

 

「は、速水さんっ!? どうしたんですか! 怪我を……」

 

私は急いで怪我の治療を考えて、気付いてしまったのです。どこにも、傷らしい傷がないことを。

 

「……ウンフェルス、先生。ごめんなさい……。私、人を殺しました」

 

「……え」

 

そう言って、彼女は涙をぼろぼろとこぼしながら、僕に説明しました。食糧庫に冥城を呼び出して、食堂の包丁で刺したと。

 

「それがこの包丁です」

 

「……っ」

 

真っ赤な、刃が……部屋の照明に当たった。ぬるっとしたものが、てらてらと輝きを増していく。

 

「先生、知ってましたか? 私たちVtuberなんですよ」

 

「――え」

 

それは、いつかみんなで話した内容。秋冬さん以外全員、Vtuberとしての記憶があった。だからなんだということもなかった。だから、誰も深堀りしなかった。

 

「私、ぃ、思い出しちゃったんです……、真実を、思い出して……」

 

「な。なにを、言ってるんですか? 速水さん?」

 

「は、はは、しんだら、全部、きえちゃうんですよ、あは、はは……じゃあ、ころすしか、いきのこるしか……あぁ、ぁあああああ、ぁあぁぁあっぁあああああああごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい、冥城くん、あぁあああああ冥城くんごめんなさい、私が、私が弱くて、あ、ぁああああああああああああああああああああしなないで冥城くんごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい、いやぁ、いやぁ…………」

 

――、その後、彼女に部屋のシャワーを浴びさせて、着替えを置いておいて、私は食糧庫に行きました。食糧庫の奥に、一部が赤く染まって、毛布のような布でくるまれたナニカがありました。あぁ、これだ、と一目で気付いてしまいました。

 

……あぁ、そうか。私は、死体を見ていなかった。なにせ、毛布をめくっていなかったから。死体を死体として見なかったから……威鳴音月さんに犯行を見られても、死体発見アナウンスが鳴らなかったのか。あぁ。それを言えば、まだ巻き返せたでしょうか……。

 

死体を、奥の方に隠して、周りの血を、処理して、私は部屋に戻りました。食糧庫の寒さと、どこか引いてしまった血の気が、体を震わせました。なぜ隠してしまったと思います? その時、罪を糾弾することも、私はできました。でも、できなかった。できなかったんです。

 

「速水さん、どうしてこんな犯行を、っ、思いついてしまったんですか」

 

部屋に入れた直後に、聞いたんです。そしたら彼女、何て言ったと思います?

 

「――授業が、浮かんできて。あの、前に話してくれた、トロイの木馬が、ヒントになって」

 

――――私の授業が、原因でした。私の、歴史の知識が、あぁ、人を殺してしまったんですよ。笑ってください。人の人生を豊かにする知識が、血塗られた刃になる瞬間を、目撃してしまったんです。

 

(――私が、私が彼女に教えなければ、こんなことにはならなかったんじゃないか? 自分が学び教えた成果が、殺人という結果を生んでしまった……っ!?)

 

「お、おえっ、おぇええっ、っげほっ、おえっ」

 

その日は、どうしても……眠れませんでした。いつの間にか、朝になっていて。彼女が目を覚ましました。

 

「……速水さん」

 

「……っ、えっ!? ウンフェルスさんっ!? あれ、なんで私、えっ!? ここどこ!? あ、あれぇ!? 寝ぼけてウンフェルスさんの部屋は入っちゃいました私? う、うわ、うわあああごめんなさいっ! うわぁやっちゃったぁ」

 

「――えっ」

 

彼女はストレスが原因か、記憶を失ってしまいました。なんとなく事件の事をほのめかしても、何も分からない様子でした。

 

――どうしたらいいか、余計に分からなくなりました。どうしたら、いいんでしょうか。あぁ、どうすれば。考えて、考えて考えて。考えて考えて考えて。考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて――――。

 

「……全部私の責任です。私が彼女の罪を被る。例え全員が死ぬ結果になろうとも、死んだあの子の為にも、彼女を最後まで守る……。それが彼女の殺人計画を生んでしまった私の責任で、殺人計画を立ててしまった私の勤めだ。私が殺した。私が教えて、殺してしまった。はは、ははは……」

 

そんな、独りよがりな結論になってしまいました。

 

 

 

 

 

「――それが、私の真相です」

 

ウンフェルスの自白に、誰もが押し黙った。なんで、なんでそうなったんだ。分からない。分からないよ。

 

「――速水さんは、こう言っていました。私が死んでしまうと……チャンネルが消える、と」

 

「ちゃん、ねる?」

 

「チャンネルというのは、Vtuberが配信をしたり、動画を投稿する場所だと思ってください。一瞬、殺害後の記憶を取り戻していた彼女は……そのチャンネルが消えることを恐れていたんです。とてもVtuber活動を頑張っていたみたいで、……リスナーとの絆が、全て消えてしまうと、動揺していました」

 

「な、なにを」

 

「さぁ? 私にも。さっぱりでした。チャンネルのことを思い出せないからでしょう。でも、きっと、彼女にとっては、とても……大切なことだったんじゃないですか」

 

分からない、分からなかった。僕には、そのチャンネルというものが大切という価値観が分からなかった。……あぁ、でも、納得してしまった。――彼女にとって、きっと今までの努力も、培った絆も、思い出も、全てが消えてしまうような、恐怖があったのかもしれない。……理不尽に、奪われようとしていたのだから、抗おうとしたのかもしれない。

 

「あ、の」

 

――速水が、声を上げた。

 

「え、っと。つまり、あの夢って、本当の事……? え、うそだよね。わたし、ひところさないよ? ねぇ、なんで? し、知らない。知らないの。本当に、分かんなくてっ、いやっ、ねぇ、わたし、え、いや、うそだ」

 

「――速水、さん」

 

「いや、いやっ、嘘だ、嘘だよ、おぼ、覚えて、ない。覚えてないの、ねぇ、覚えてない!! 覚えてない!! 分かんない!! ごめんなさい本当に分かんないんだよ!! なんで、どうして!? いや、いやぁ!! たすけて、だ、誰か助けて!! 誰かぁ!!!」

 

彼女が証言台から飛び出す。

 

「速水さんっ」

 

僕が飛び出す前に、彼女は、気付けば……ロボゾンビ子ちゃんが、集団で囲んでいた。ひとなつ学園長が、あざ笑った。

 

「やれやれ、投票タイムわすれてない? でももういっか? これ以上はだそくだよねぇ~! というわけでながなんがとみなさまおまたせいたしましたとさ。それでは! 楽しくやっていきましょう! コメント欄のみなさんも、せーの! おしおきたいむ~!」

 

「――たすけて、冥城くん……」

 

涙をこぼしながら、最後に、彼の名前を呟いて、速水はどこかへ連れていかれてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハヤミズ ライムが クロに きまりました

おしおきを かいしします

 

 

記憶が無くても、100人分ビートに乗っても、ダイジョーブ! 音楽は人を救う! DJおもぴぃ、Bring the shit! 針を落とせ! マイク一本で世界は一つになる! 今宵行われるワンライフステージ! MCライム、かぁませ~!

 

 

 

 

~ローリング すとーん ~

擦り切れレコード ライブ アウェイ

マイク一本を持たされた彼女。ステージは円形。そして、足が完全に固定されている。逃げることは許されない。さぁ、音楽の時間だ! 曲が流れ始めると、それに合わせてステージが回転し始める。最初こそまだラップができる速度! 大丈夫、君ならまだやれる! あぁっとでもこのステージの客はそれを求めてねぇみたいだ! 缶コーラ! ビール! ウーパールーパー! 瓶! 道頓堀に沈んでたカーネルサンダース人形! ついでに新宿歌舞伎町でホストを刺して血まみれの包丁! 大ブーイングを迎えられながら物がドンドン投げられていく! 音楽を奏でれば奏でるほどそれが悪化していき、ステージの回転数も最高潮! 回る回る回る回る。足だけ固定してるから膝もバッキバキ! 腰から砕ける! 内臓も今にも飛び出しそうだ! おっと、回転を意識しすぎて音を鳴らし忘れてた! DJおもい、ステージに巨大な針を、落としたああああ! すとーん!! 針が速水の脇腹を突き刺していくぅ! でも回転は止まらない。命で奏でる擦り切れたレコードの音、不評みたい。なんだよこれ! 音楽なんてバカみたいじゃん!クソだよもうやんねー! さーってと、中古ショップにでも売っちゃうか。おうりくーださい。ハード、おらぁ!! 査定価格500円食玩コーナーに、どおおおおおんっ!!

 さて、食玩コーナーに投げられて、速水らいむはつらく悲しい目にあっていた。悲しいね。でもかわいいね。オモチャのストーリーみたいにおもちゃ箱に入れられて、バイバイだね。

「……あっ」

オモチャは何かを思い出したみたい。でももう遅いんだぁ。思い出は箱に仕舞ってバイバイ。おもちゃ箱は押入れの隅に入れられて、忘れられて、どれだけ叫んでも取り出してもらえないのでした。めでたしめでたし。

 

 

 

 

 

『え~~~くすたしぃ! なつやすみがはじまったとたんにオールしてゲームをしちゃうようなかいかんがぁ、かけめぐるぅ!』

 

「……すいません速水さん、すいません……」

 

悔恨の極みといったように、彼女の死を目の当たりにして、ウンフェルスの心が、折れてしまったように見えた。

 

「終わり? じゃあもう帰るけど」

 

そう言って、黒フードをまた深々と被って威鳴音月はすたすたと帰ろうと歩き始める。

 

「――待てよ」

 

僕は、彼の左肩を握り締めた。

 

「なんで、あんなことをしたんだ。お前は何がしたくてっ」

 

「――この世界を、ぶち壊すためだよ。■■■■――」

 

「えっ」

 

なにか、小さな声で言われた気がする。手を払われ、彼はそのまま歩き始めた。こうして、また二人減り、謎だけが……僕らの胸の中に積もっていく。――まだ、夏休みは終わらない。

 

 

死亡者

第一話

爆発による死者  茶鹿秀太

犠牲者 風並将吾

クロ   鈴

 

第二話

犠牲者 冥城んみ

クロ 速水らいむ

 

生存者

秋冬ハル

黒光の亀

亜酔昏ヨイ

小春そら 

岩手大好丸

入間るい

威鳴音月

ウンフェルス

風街ピリカ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




非日常編 第二章 「ウイルスメモリー」 完
次回。(非)日常編 第三章「マシンナリーズ・マーセナリーズ」
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