Vtuber学パロダンガンロンパ風序盤ギャグガチンコミステリー小説   作:茶鹿秀太

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(非)日常編 第三章「マシンナリーズ・マーセナリーズ」3

Day16 Augest

夜 威鳴音月 部屋

 

 

「結局……あの男が正しかった」

 

あるメモ帳を広げ、嗤った。そこに書かれている内容は、……間違いなく真実だった。であれば、……確実に、殺さなければいけない。やっと完璧に取り戻したのだ。

 

この胸を焦がす衝動の正体を。この脳を駆け巡るいら立ちを。疑惑の種は完全に発芽した。

 

「ーーあぁ、この夏を越さないと、……春に、隣にいた君に会えない」

 

かちゃり、と右手に持った鋼鉄の兵器を握り締める。

 

彼の手には、……HARUと銘の打ってある拳銃があった。

 

 

 

 

 

 

Day16 Augest

深夜 風街ピリカ 校舎外

 

 

「~~♪、~~」

 

月夜の下、何の気なしに僕は暢気に歌っていた。新しい曲を、思いついたのだ。これは、僕にとっての……本心。

 

僕は、今まで例え物語の人物が、歌を通して語った誰かが不幸な結末を迎えていたとしても……正しく、誠意をもって作品にしてきた。

 

それを間違っていると、全ての物語を赤ペンで但し書きするような魔女と出会って、……もう一度、自分の作品というものを考え直すきっかけになった。僕は語り手。だからこそ、今こうして目の当たりにしている死を、……忘れてほしくないから、歌にしているのかもしれない。

 

さて、何故僕が深夜に外を回っているか、というと。僕は……秋冬ハルさんを疑っている。彼女だけが記憶を持っていないことに、不安を覚えていると言ってもいい。ただ、どこか僕の本心が、あの人は大丈夫だと訴えている。……僕もまだ、全てを思い出せてはいない。何故ここにいるのか、さっぱり分からないのだから。

 

でも、秋冬ハルさんは……あの裁判の時の推理力が、どうしても納得いかない部分があった。当てすぎだ。まるで、全ての事件を見通していくかのように、推理をしていく。それも、ただの推理じゃない。理論を積み重ねた上での議論じゃない。直感とひらめきの推理。本人が即興でする思考を披露していて、かつ当たってる。それが、不思議で仕方がない。

 

まるで作家の領分だと思った。推理ではなく、事件の証拠一つ一つを繋げて物語にして、伏線を全て回収するような推理だ。これは……あまりにも、探偵的ではなく、作家的だと感じた。吟遊詩人である僕のような。

 

「……だからこそ、不思議だったんだ。どうして記憶を失っているのに、思考が冴えわたっているのか」

 

この謎が、どうしても心に残っていて、自然と、彼女を疑ってしまっていた。でも、……でも、信じたい。信じたいのだ。彼女の事を。

 

「ふぅ……。えっ、あれは……」

 

学校の3F、どこかの教室がふわりと光が流れた。まるで光で作られた人間が、窓際を横切るかのように。それは。形容するなら幽霊と言えるべきものだった。

 

「――そういえば、岩手くんも幽霊を見たと言っていた気がする。行ってみよう」

 

学校の中に入ると、あまりにも静かで、冷たくて。一歩進むと、突然世界が滅んでしまうような錯覚すらあった。電気をつけて、階段を上っていく。

 

ふと、どうしてか。……ここで死んでしまったらどうしようか、なんて考えてしまった。それは、嫌だな。だって、僕の命は、僕だけの物じゃないから……。

 

「……」

 

かちり、と3Fの電気をつけた。誰もいない。……窓の外も静かな夜が、広がるばかりだ。

 

「……ふぅ。……ん?」

 

廊下に、一枚の紙が落ちてある。それは……履歴書、のようだった。まるで、僕は、誘われるように、その紙を拾って読んだ。

 

 名前は、秋冬ハル。履歴書の経歴を見るに、…………。

 

「えっ」

 

――夜が、深まっていく。

 

 

 

 

 

 

Day17 Augest

朝 秋冬ハル 食堂

 

「今日からミニゲーム採用かぁ。はてさてどうなることやら……。ん?」

 

食事を取ろうとして、ふらっと食堂に寄ったが、……風街が食堂で突っ伏していた。まるで徹夜明けの姿みたいだ。

 

「おはよう風街さん。大丈――」

 

「っ!?」

 

びくりと大げさに飛び上がるような彼が、どこか怯えた表情で僕の事を見た。

 

「……風街、さん?」

 

「……秋冬、さん」

 

何かを言おうと、口をまごまごと動かして、何度か口を開こうとして、やっと、声が出た。

 

「あの、秋冬さん。……その。どこまで記憶ってある?」

 

「? いや、ごめん。本当に無いんだ。全くわかんないんだ。自分の名前しか思い出せない」

 

「……そう、か」

 

「?」

 

「……、ぁ、……その、…………」

 

「なに? どうかした?」

 

「……秋冬、さんって」

 

「うん」

 

「―――――――、いや、ごめんっ」

 

「え?」

 

突然、彼は頭を下げた。なんなんだろう一体。

 

「ごめん、僕の中でまだ整理がついていないことを無理やり聞こうとしちゃった。あーそうじゃないそうじゃない。ごめん本当に。……僕は、その。君に大事なことを聞きたいんだ。君は覚えてないかもしれないけれど、その、大事な話なんだ」

 

「……? そんなに?」

 

「うん。とても」

 

……風街がそんな風に言うのだ。きっと、本当に大事なことに違いない。でも、……でも。聞いても大丈夫なんだろうか。脳みそ焼き切れやしないだろうか。それが怖い。けれど……彼が、あまりにも真っ直ぐに僕の瞳を見るものだから……。きっと、信じてもいいだろうと、漠然と思っていた。

 

「……分かった。その話って――」

 

「た、大変たいへーんっ!」

 

小春そらが寄宿舎に飛び込んできた。なんだよタイミングが悪い

「その、ロボが、えーと、100を超すロボゾンビ子ちゃんが大量発生してミニゲームを設置してるっぽいっ!?」

 

「どういうこと?!」

 

 

 

僕と風街が外に出ると、そこには……。

 

「アノーコレドコニセッチスルンダッケ」

「タシカオンガクシツダッケ。ショウジキワカンナインダヨネ」

「キュウニイワレテモサーホントウンチウンチ。マージデキュウニイウノヤメテホシイワ」

 

ガチャガチャと音を立てながら、工具を片手に寄宿舎から学校までをウロウロと大量のロボゾンビ子ちゃんが徘徊していた。

 

「な、なんじゃこりゃーっ!」

 

「ウワアノヒトキュウニサケンデルヨ」

「ツカレテンジャナイノ」

 

「やかましいっ」

 

なんか悪口言われてるのは分かったぞ! し、しかしこんな大規模に工事というか、取り付け作業を行っているとは思わなかった。というかどこに設置しているんだ? 全く分からないぞ。

 

「あの、これってどこに設置してるとかって」

 

「イワナイヨッ!」

 

「あ、はい」

 

言わなそうだ。手をバッテンにして表現してくれた。

 

 

小春そらがニッコリしながら手を叩いた。

 

「でもこれで、秋冬さんの記憶が戻るかもしれないですからね! よかったぁ」

 

……そっか、ポジティブに考えたら、僕もミニゲーム頑張れば記憶が戻るじゃないか。なんか、前向きな気持ちになれた。

 

「よーし、今の内にどこに設置されてるか確認しなきゃなぁ。音楽室に一個付けたってあのロボが言ってた気がするから行ってみるよ」

 

「あっ」

 

風街の声は、ロボの雑踏に呑まれて消えてった。彼の声を、あのか細くとも発してくれた声を、今聞き逃したことを。

 

――僕は一生後悔する。

 

 

 

 

Day17 Augest

夕方 学校内

 

 

 

 

「全然工事終わんないね」

 

「まさか電線工事までやってるとは」

 

僕とたまたま近くにいたクロカメと一緒に工事の様子を眺めているが、音楽室以外の何処にミニゲームを設置してるのかは分からなかった。

 

「それよりクロカメさん。なんで模擬刀持ってるんです?」

 

「ん? あぁ、これでござるか?」

 

それは、いつぞやで見た模擬刀だった。腰に刀をかけて、いつでも抜刀できるようだった。

 

「ふふふ、これでも拙者は武士道を心がけておりまして。武士の魂を腐らせるよりはと腰に掛けたでござるよ」

 

「はぁ、すごいなぁ」

 

クロカメが刀を振るってしまえば、刃は潰れているはずではあるが、なんでも斬れてしまいそうな錯覚さえ覚える。でも、あんな血まみれだった模擬刀を持ってくるなんて。なんか怖いな。

 

「ふむ。秋冬殿。もしや拙者が誰かを斬ろうとしているなどと考えてはござらんか?」

 

「え、いや、そんなことは」

 

図星だった。

 

「はっはっは。流石に拙者、武士道に悖ることはしないでござるよ」

 

「で、ですよねー」

 

「はは。……そうでござるよ」

 

夕暮れに照らされたクロカメの顔は、影が差すように見えなくなった。

 

「……クロカメさん?」

 

「秋冬殿。秋冬殿はVtuberでござるか?」

 

「えっ、いや、分かんないけど……」

 

「拙者、リスナーと多くの絆を繋いだでござるよ。沢山、他のVtuberとコラボもして、仲がいいと呼べる人たちも増えたでござる。楽しくて、しんどくて、嬉しくて、悲しくて、喜んで、怒って、いろんな、本当にいろんな体験が出来たでござるよ。あの時一歩踏み出して良かったと、間違いなく思うほどに」

 

クロカメの表情だけが見えなかった。だけど、彼の言葉は、とても柔らかく、優しいものだった。

 

「死にたくないでござるなぁ」

 

その、おそらく浮かべた笑顔が、とても……僕を不安にさせた。

 

まるで、まるでこの人はこの後――。真っ暗になっていく校舎。僕は何も言えず、いたたまれず、廊下の電気をつけた。薄暗く、チカチカと何度か光、彼の顔をまっすぐみようと思って目を向けて。

 

「クロカメさん、あのっ」

 

 

 

 

 

ぶつんッ

 

 

……あれ? 急に電気が落ちた? なんだこれ? え?

 

ブレーカーが……落ちたみたいな。

 

 

 

 

 

Day17 Augest

夜 寄宿舎前

 

 

 

「非常用の明かりこれだけでーす!」

 

入間が懐中電灯を6つ持ってきて、寄宿舎前で真っ暗な世界を頼りなく照らしていた。もっと大きな光源があれば良かったけれど、贅沢は言ってられなかった。

 

「……完全に、真っ暗だ」

 

学校の中の非常灯と、寄宿舎の中の非常灯だけが、うすぼんやりと光っている様子が窓越しから見て分かった。

 

「……これ、どうしよ」

 

亜酔昏が困っていると、岩手がその状況を笑い飛ばすように言った。

 

「これは間違いなぐブレーカー落ぢだろ。ブレーカー戻さんと」

 

確かに、ブレーカーが落ちたんだろうけど……運営がこの状況に一切触れていないことが気になった。……いや、待て。違うのか?

 

「もしかしてさ、これ。ひとなつ学園長も、内通者も想定外な出来事なんじゃないか? シンプルに、本当にシンプルに停電でアタフタしてるだけじゃ……」

 

いや、本当にそんな気がする。そうだよ。冷静に考えれば、停電なんて起きたら監視カメラ全部台無しだ。予備バッテリーなどで対応できるサイズのカメラが……何台あるか。

 

「あー。だからロボットとかも動かないでござるか。見るでござるよ。校舎近くにいたロボゾンビ子ちゃん殿の空気が抜けてるでござる」

 

「モーマジムリナンデスケドォ」

 

「ほんとだ。ぷしゅーってしてる」

 

……そうか。これ、もしかしてガバなのか? ラッキー? いや、でもシンプルに食糧も腐るし、ご飯食べれないし、お風呂入れない……。それは、嫌だな。ただただ嫌だ。

「ブレーカーの場所分かる人いる?」

 

「なんとなくですが」

 

ウンフェルスが手を上げる。ではウンフェルスに任せればいいか。そう思っていると、風街が控えめな様子で手を上げる。

 

「一人で行かせたら危ないだろうから、誰かと行動してほしいです。後、発電機そのものに問題が発生してるかもしれないから、点検してほしい」

 

発電機は…‥確か、寄宿舎の裏手側に合った気がする。僕でも行けるな……。

 

「じゃあ、僕発電機行くよ」

 

「そっか。じゃあペアを組んでね」

 

「夏休みで一番言われたくないセリフだ……」

 

すると亜酔昏がそっと手を挙げた。

 

「理系知識なら、ある程度あるし手伝えるかなーって」

 

そして……暗がりから声がした。

 

「じゃあ僕も行こうかな」

 

懐中電灯の明かりを体に向けられ、若干体がこわばった様子の黒パーカーの威鳴音月が、ウンフェルスの横に立った。

 

「丁度良かったぁ。ウンフェルスさんに聞きたいことがあってね」

 

「……おやおや。怖いお誘いだ」

 

風街が威鳴を一瞬睨んで、ウンフェルスに声をかけた

「ウンフェルスさん、もしあれなら」

 

「いや、大丈夫でしょう。殺す気ならもっと上手く彼はやると思いますし。……班分けは、これが理想なのでは?」

 

「そんなことは」

 

ここで、みんな気付いてしまった。手を挙げたのは全員、怪しい人物だということに。第一、第二の事件で犯行に手を染めた人間たちと、素性の知れない人間一人。ちょうどよく、動かせてしまうと。……実は僕も何となく思っていた。まぁ、正直僕の班が亜酔昏さんで良かった。気持ちとして楽に話せるから。威鳴音月と比べて。風街が頭を抱えて、

 

「分かりました。それじゃあもう何人か……」

 

その時だった。

 

「ねぇ見て!」

 

小春そらが校舎を指さし叫んだ。全員が指の指し示す方向を見ると……何かが、光って、揺らいでいる。

 

「で、出たぁああああああああああああっ!? お化げだああああああああああああああああああああああああああっ!?」

 

岩手が涙を流さんばかりに悲痛な叫びをあげる。そして小春が再び。

 

「いや、幽霊はいないでしょう。岩手さん本当にホラーゲーム好きなんですね」

 

冷静に突っ込んだ。彼女は幽霊に対して辛らつなのどうして?

 

「……あれは、昨日の」

 

風街の呟きと同時に、クロカメがふふんと笑った。

 

「妙でござるな。ブレーカーが落とされているのにも関わらず、あのように光っているのは只事ではござらん。……3F、となると……気になるのは、音楽室に設置されていたミニゲーム。その正体があそこにあるのでは?」

 

嫌な想像をした、とばかりに入間がとげのある感情で呟いた。

 

「時期とも重なりますねー。ブレーカーと連動させて、ミニゲームをクリアしないとブレーカーを上げさせません、みたいなゲームを用意している可能性は、そりゃあありますね」

 

「……」

 

つまり、なんだ。ブレーカーや発電機をチェックした上で、ミニゲームをクリアしないといけないということか? それは……クソゲーだ。

 

「班をこれ以上割ってもいいことはないでござるからな。残った全員で突撃するのが吉と思うでござるよー」

 

「良いですね、そうしましょう! 私こう見えてミニゲームっぽいゲーム得意なんですよ!」

 

小春が元気よく手を挙げた。まぁ、確かにみんなで動いていれば、犯行なんて起きないに決まっているのだから、問題あるまい。

 

「じゃあそれぞれ班で2つ懐中電灯持ってって、準備出来次第行こうか」

 

風街の仕切りに合わせて、僕らは動き始めた。

 

……でも、それぞれ何をするのかが分からないな。バラバラに行動しているからこそ、何が起きるか分からない。一体、どうなるんだろう……。

 

 

 

 

 

 

Day17 Augest

夜  3F Aルート

視点:風街ピリカ

 

 

 

「ここが、3Fだけど……」

 

僕らはみんなで3Fについた。先頭は岩手くんで、次に僕、そして小春さん、入間さん、そしてクロカメくんだ。懐中電灯を持っているのは、僕と岩手くん。正面を照らしながら、注意深く闇の濃くなった廊下を慎重に歩く。

 

「うーんこれなんもねぁーべ。じゃあ本当にあれ幽霊だと思うんだけど」

 

「だから幽霊なんているわけないじゃないですか。なんなら種族が鬼の方がファンタジーですよ」

 

「横暴がすぎないっ!?」

 

小春さんのちくちく言葉が岩手くんの心を切り裂いていく。あれ、彼女ってそんな毒舌だったっけ、なんて思ったり。

 

「……着いたよ。ここが音楽室前だ」

 

そう、速水さんがよく遊びに来ていて、僕もたまにここで、心を休めていた場所。どうして音楽室に来てしまうのか疑問だったけど、やっとわかった。僕が……音楽をこよなく愛していたからだ。記憶を取り戻して、ようやく気付いたことだけれど。

 

「それじゃあ開けるね」

 

僕が扉を開けて、最初に見えたのは……真っ暗な部屋の真ん中に、ゲームセンターに置いてありそうな機体が、青白い画面で鎮座していたことだった。……これが、ミニゲーム?

「おいおい、なんだってんだこれ」

 

「不思議だねぇ」

 

岩手くんと小春さんが中に入って、入間さんが頭を掻く。

 

「え、でもこれって――」

 

その言葉の続きは、聞けなかった。バタン、と勢いよく音楽室の扉が閉まり、ガチャリ、と音を立てた。……え?

 

「一体何がっ」

 

僕は出入り口を懐中電灯で照らした。内扉側に……機械が取り付けられており、ドアノブがあった場所に大きな機械の鍵らしきものが取り付けられていた。

 

『(砂嵐の音) あー、テステス。聞こえる? やーやーみなのしゅう。ひとなつ学園長だよー』

 

ゲーム機体の画面がノイズ音を出し、ポリゴンの塊のような姿で登場した。……時代感が、すごいっ。

 

『というわけでこの機体で遊べるゲームをクリアするとおんがくしつからだっそうできるよー。んでクリアほうしゅうはー。でれれれれれれれ、でーんっ! ないしょーっ! がんばってたくさんクリアしてね!』

 

そこまで言って、学園長は姿を消す。……なんだったんだろう、一体。でも、不思議だ。妙なんだ。

 

 僕はひとなつおもいというVtuberを知っている。僕の知っているその人は、このような残酷なゲームの司会をするような人間ではない気がする。まるで……まるで魂を乗っ取られたような動きや発言が、どうしても気になってしまうようになった。多分だけど……声も姿も、その人そのものなのだけれど……。あの人は、一体……。

 

「お、おい! 入間ちゃんとクロカメが向こうに! おーい、無事かーっ!?」

 

「**********、*********っ! ********」

 

扉越しで、誰かが何かを言っている気がする。ダメだ、音楽室は防音で、何も聞こえない。……嫌なイメージばかり沸いてしまう。もし、もし二人に何かあったら、僕は……。

 

「これは、早くゲームをクリアして脱出した方がいいんじゃないかな……。私やってみるよっ!」

 

小春がすぐさま動き出し、ミニゲームの機体を動かした。

 

「んしょ、あ、これやば、うわ、え、何この赤い帽子の男、うわ、え、、ちょ、おわ、ひ、ひゃっ、いやああああああああああああああああああああああまんまMぃーやんっ!?!?」

どうやら、敵にぶつかってゲームオーバーになってしまったみたいだ。それまでのスティック裁き、特に〇っぽいボタンを目にも止まらない16連打後の左右ステップ、最後に→↗↑+ジャンプは神業の領域だった。何故そのコマンドを打ったのか分からないけれど。

 

「しゃーねー、俺に任せとけって」

 

デドゥン。デレッテテレッテデレッテレー。

 

「ぐわあああああああああああイッツミィイイイイイイ泣ああああああああああああきそぉおおおおおおおおうっ」

 

う、嘘だ。岩手くん、開始3秒で隠しブロックに引っかかって穴に落ちるなんて……っ!

 

「風街さんっ! お願い頑張って!」

 

小春さんに促されるように、僕もゲームをプレイすることになる。……やるしか、無いのか!

 

「くっ、とりゃあっ」

 

「いけるいけるいける!」

 

「行けぇええ! 差せぇええええ! 末脚で攻めろぉ! 目指せ8枠15番っ!」

 

小春さんと岩手くんの声援を受けながら、慎重に、慎重にプレイする……。そして、なんとか……っ!

 

「やった! クリアした!」

 

僕の声に反応するように、ゲームの中の赤い帽子を被った男が両手を上げて喜ぶ。

 

『ゲームクリア! おめでとう!』

 

ゲームの中で、大きな花火が打ち上げられる。

 

『クリア報酬:履歴書 みんなの個人情報が載ってるよ! 失くしちゃダメだゾ♡』

 

ごとん、と小さな音が足元から聞こえる。どうやらゲームの機体の下側についてある小窓を開けると、ファイルが入手できるようになっていた。ファイルを手に取って見て見ると……間違いない、みんなの情報が載っていた。

 

「いや、今こんなのはどうでもいい。扉は開いた?」

 

「ダメですーっ! 空いてないです!」

 

小春が無理やり扉を開けようとするも、やはりびくとも動かない。……いや、本当にゲームクリアで鍵が開くのか? 妙に急かされるように、僕はまたゲームの画面を開いた。先ほどと違うゲーム……だろうか?

 

「私に任せてください! この手のゲームには一家言あります!」

 

そう言って彼女は僕と席を変わってプレイを開始した。

 

「これを、こうして、あれ、こうで、なにこのピンクの丸い悪魔っ! いやっ、ちが、うそ、ぽよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ」

 

こうして彼女はダメージを受けすぎて、星になってしまった。それでも彼女の敵を眼前にしてサイドステップの連打と必殺技コマンドが偶然出るガチャプレイは素晴らしかった。いや、なんだろう、いろんなゲームをパクりすぎてないか? 大丈夫かな?

 

「僕がやるね」

 

こうして、二つ目のゲームをクリアした。ゲーム画面では、大きく花火が打ちあがっている。どうやらこの辺りは共通の演出みたいだ。

 

『クリア報酬:前回までのイベント情報をプレゼント! 乙女心とエンタメはいつだってビーストなのよさ♡』

 

「なんかちょくちょくウザいべやこの文面」

 

岩手が萎えた表情で小窓から出てきたファイルを回収した。

 

「でもなかなか脱出できない……。あ、でも次で最後みたいだ」

 

「名誉挽回をっ! 私ほんと、本当にゲーム得意でっ、絶対出来るんでっ」

 

あまりにも必死にお願いする小春さんを見て、先にプレイすることにした。いや、でも本当にゲーム好きなんだろうな、小春さん。

 

「いやあああああああ君がくれた残機も億千万であれえええええええええええええっっっ!!!」

 

「アンタ、ゲーム本当に得意なんか? 得意ゲームは?」

 

「うぅ、リング●ィットアド……」

 

「身体コントローラー!?」

 

こうして、最後のゲームも僕がクリアした。

 

『クリア報酬:情報。この扉は、特定の楽器で、特定の音色を響かせることで開きます。ご褒美に、ブレーカーも戻しましょう』

 

「……っ、ブレーカー? いや、その前に……楽器はどこにっ!」

 

下から楽器は出てこなかった。じゃあ、音楽室の中に楽器があるはずだ。一体どこに――。

 

 

 

 

 

それを見た途端、耳鳴りが鳴った。

 

 

 

 

「……どう、して」

 

僕は思わず前に進む。音楽室に設置されているグランドピアノに隠れるように、真っ暗の世界の中へ、懐中電灯を当てると弦楽器が現れた。

 

「……レラ?」

 

そう、これは……Vtuberとして僕が扱う、楽器だ。いや、おそらく形だけを真似たレプリカなのだ、なのだ、が、なんで、なんでこれがここに? レラとは、魔法の楽器。本物の音色には勝てないけれど僕の頭の中で考えた音をを演奏してくれる、大切な、……大切な、相棒だった。どうしてレラの事を忘れていたんだろう。そうだ、僕の楽器だ。

 

「……」

 

手に取ると、レラの下に楽譜が置いてある。懐中電灯で照らしながら、その曲を弾く。……そうだ、僕は……。こうやっていつも、世界を歩いて、音楽を……。

 

その音色が音楽室に響くと、がちゃり、と音を立てて扉はゆっくりと開いた。

 

「っ、入間さん! クロカメくん!」

 

レラのレプリカをゆっくり床に置いて、音楽室を出る。ちょうどよく、音楽室と、3Fの廊下の電気がついた。そこで……。入間さんが。

 

「入間、さん?」

 

彼女は……怯えた表情で……。

 

床にへたり込んでいた。涙目になり、声を震わせて。

 

「ぁ、かぜ、まちさん……」

 

「……入間、さん?」

 

「ぁ、ぁあ、だ、め、あぁ、だめ。やばい、です……やばいんですっ! みんなが、銃声がっ、秋冬さんとクロカメさんがっ!?」

 

「い、入間さん、どうし――」

 

声をかけようとした、その瞬間。

 

巨大な爆発音が、僕らの体を貫いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

Day17 Augest

夜  学校外 Bルート

視点:秋冬ハル

 

 

 

 

「……なにこれ?」

 

「さぁ」

 

僕の言葉に反応して、亜酔昏が肩をすくめる。無理もない。発電機の操作盤のところに、謎のタブレットがついており、ゲームを遊べるみたいだ。これが……ミニゲームなのか? 

 

「なんで……リズムゲームがここに?」

 

「無視していいんじゃない? まず発電機故障してるかチェックしましょう」

 

こうして僕らはまず発電機周辺を歩いたり触ったりして回った。

 

『(砂嵐の音) あー、テステス。聞こえる? やーやーみなのしゅう。ひとな』

 

「ん? なんか聞こえない?」

 

「あー。多分タブレットじゃない? ゲームのオープニングムービーみたいな感じで」

 

「あーなるほど。そういうことか。僕多分そういうのスキップしたい派かもしれない。シナリオ重視じゃないなら」

 

「そう……ところで、某月の型をした聖杯って良くない? いいよね」

 

「あーいいと思う」

 

そんな風に駄弁りながら……なんとなく、月を見上げた。ま今日は雲一つなくて、とてもきれいな星が見えた。こうやって星を眺めても事態は変わらないのだけれど、今抱えている悩みがちょっとだけちっぽけに感じた。

 

やっぱり、僕は今信用されていないのだろうか。記憶がないから。……でも記憶を一気に思い出してしまうと、僕の脳が破壊されてしまう。どうすればいいんだろう。何も覚えていないことが罪ならば、僕は何時か裁かれてしまうのだろうか。僕は……。僕は。

 

「最初は死にたくなかっただけだったんだけどな」

 

「秋冬ちゃん? どうしたの?」

 

「……いや、なんでもない」

 

結局、素人の僕が発電機を見ても何も分からないし、素直にタブレットを触ってみる。……なんだろう、この……リズムゲームとアクションゲームを組み合わせた感じのゲーム。これ本当に面白いのかな。不安だな……。

 

「なんか、散々派手な工事しておいてクソゲーだったらどうしようみたいな想像しか湧かない……」

 

「案外余裕ね……」

 

亜酔昏が隣でぼーっと僕がプレイしているゲームを見ている。

 

「私、貴方もきつい状況なのかな、って思ってたけど、大丈夫そうなら何よりだわ。心の痛みは、人間誰でも鈍感で、繊細だから」

 

「……そう、かな。僕は……ただ、目の前のことに、必死なだけだよ」

 

「……羨ましい」

 

「えー?」

 

ゲームも上手く出来るようになってきた。なんだろう。無料で遊べる分にはストレスが無くていいなって感想。広告が入っていないからテンポよく遊べる。

 

「羨ましいなぁって。記憶がないのに、……貴方は真っ直ぐじゃない。私ね、記憶が戻ってきて、やっと思い出せたんだ」

 

「……」

 

「私さー。就活失敗して、闇医者になったんだよね。私設でラボ作ってさ。未来で……みんなが救われるような。もうみんなが悲しまなくて済むような……そんな未来を目指してたのに。台無しになっちゃった」

 

「そんなことないよ」

 

「……えっ」

 

「――僕はさ、記憶がないから分からないけれど……。きっと亜酔昏さんに救われた人、いると思うんだ。それが医学なのか、それとも配信なのか分からないけれど。亜酔昏さんだから救えた心や人がいたはずだよ。きっと、だって、亜酔昏さん良い人じゃん」

 

「……」

 

何も聞こえなくなった。真っ暗で静かな夜に、息遣いだけが響いた。その瞬間、ひゅぅ~、と音がして、静寂を切り裂いた。

 

「えっ?」

 

ぱぁん、と大きな花火が鳴った。夜空が光って、空に花が開いた。……えっ、花火?

 

「なにが、あっ」

 

ほんの瞬間、たった今目をそらしてしまったものの、ゲームをクリアしてしまった。クリアした実感がない中、タブレットが新たな画面を表示させた。

 

『クリア報酬:運営の内通者の情報  遂に発覚! あの天才博士が、犯人だった!』

 

しまった、という感情と、外れか、という感情が同時に襲い掛かった。僕は既にこの情報を知っていて、亜酔昏に……上手く説明しなければいけない。そう思って振り返る。

 

「あすく――」

 

 

突然、ぱぁんと花火が鳴って、ドンッ、と強く肩を押された。

 

 

 

 

何がなんだか分からなくて、そのまま地面に倒れて、何をするんだよ、と声を荒げそうになった。

 

 

 

 

 

すとん、と間の抜けた音が聞こえて、彼女は、タブレットの下で倒れた。体を横に倒した彼女の胸に、一本の矢が刺さっていた。 

 

 

そして、綺麗な花火が、もう一発撃ちあがった。

 

……は?

 

「あ、すく、れ……さ……」

 

「がはっ、げほっ、っ、ぁ、っはぁ、いった……‥」

 

「…………………………っ!? わぁ、あ、ぁあああ? あああああっ!? ああああ!? 亜酔昏さんっ、亜酔昏さんっっっっ!?」

 

「が、はぁ………こぇ、は……だめ……だぁ…………」

 

彼女は痛みにもがきながらも、もう、その経験から終わりを予見していた。

 

「ま、まって、亜酔昏さん、今、今止血するから、矢を、矢を抜いて」

 

「だぇ、やぁなぃで……もぅ、……。がはっ、ぁああああっ」

 

彼女は必死に、僕の体を押し返す。頭が回らないから、どうしてそんなことをするのか分からない。でも、彼女の眼は……本気で、真剣だった。

 

「はぁ、はぁっ、っ、はぁ、はは、はは……やっと、たすけれたね……」

 

「っ、亜酔昏さんっ……」

 

「ず、と……おんがえし、したくて……」

 

「っ何もやってない、僕亜酔昏さんに何もできてないよっ」

 

「……ぇも、はなしかけて、くれたじゃん……」

 

「!?」

 

そん、そんな。そんなことで、そんなことしかやってない。僕は彼女を救ってない。何もできてない。何もできていないのにっ。

 

彼女は、それでも、苦痛の中で笑った。

 

「…………ぁぁ、しらぁかった……」

 

彼女のメガネが、反射させていた光が、やけにきれいで。あの、月に向かって、手を伸ばした。

 

「……ほしは、こんなにも、きれいに……」

 

 

 

 

「あす、くれさん」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

肘が、落ちた。目から、透明な何かが垂れて、光が失われていく。

 

「あすくれさん……亜酔昏さん。亜酔昏さんっ」

 

「……」

 

「ダメだ、……ダメだ、ダメだっ。死んじゃダメだよっ。だって、だって言ってたじゃんかっ」

 

「……」

 

「脱出して罪償って、もっと、もっと多くの人救うって、そうだ、保健室、保健室に行けばまだ、ねぇ亜酔昏さん」

 

「……」

 

「ダメだ、ダメ、い、いやだ、だめ、いやだ、ぁあ、ぁあああっ」

 

ぱたり、と。彼女の手が、力なく、野ざらしにされたように、地に落ちた。……彼女は、生きて、死のうとして、生き延びて、その意味を見出して、意味を成す前に亡くなった。

 

「……あああ、あああああっ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ」

 

慟哭の最中、花火だけが、一発、また一発……。もう一発と打ちあがっていく。まるで彼女の死を祝福するように。弔うように。……無慈悲に命は、僕の目の前で散っていった。何も分からない、何も、分からないまま。

 

そして……。巨大な爆発音が、僕の体を貫いた。

 

同時に、島に流れるノイズと、ひとなつ学園長の声。

 

『えー、テステス。あやっとつながったねこれ。たいふうのときは学校を休んでいいか分からないけどでんわがつながらなくてこまっちゃうあの感じ、思い出しちゃうね。さーみなさん。ていでんだったし、いま放送つながったしね。おくれちゃったけど、まぁやさしいきもちでゆるしてね』

 

大きな声で、学園長の声が、亜酔昏の死を、認めるように。

 

『死体が発見されましたーっ!』

 

――また、僕は何もできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

非日常編 第三章「マシンナリーズ・マーセナリーズ」

 

 

 

 

 

 

 

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