Vtuber学パロダンガンロンパ風序盤ギャグガチンコミステリー小説   作:茶鹿秀太

21 / 24
非日常編 第三章「マシンナリーズ・マーセナリーズ」1

「アンタ、大丈夫か?」

 

岩手が冷たい水を持ってくる。僕はそれをゆっくり飲んで……。亜酔昏ヨイが死んだことを、ようやく受け止めることが出来た。

 

彼らが学校を脱出した後、まず僕らと合流してからあの爆破現場に行こうとしていたのだ……。

 

そこで見たのが、ただ泣きじゃくる僕と、亜酔昏の死体。岩手が気を利かせて水を持ってきてくれて、今に至る。

 

「……無理に行かせられないね。クロカメくんも迷子か……。小春さん、秋冬さんの様子を見てあげてほしい。僕と岩手くんは一緒に火災現場に」

 

「いや、……いや。大丈夫。一緒に行くよ」

 

「……」

 

僕は無理やり重い腰を上げて、風街と目を合わせる。

 

「大丈夫?」

 

「……正直しんどいよ。でも、もう、立たなきゃ」

 

そうだ、立て、無理やりでも立つんだ。どうして亜酔昏が死んだか考えなきゃいけない。誰が殺したかを暴かなければいけない。そうしなきゃ、誰も彼女の無念を晴らせられない。

 

――鈴や風並。速水に冥城たちの死も、無駄にしてはいけない。引きずっていこう。この絶望に屈しちゃだめだ。絶対に、……絶対に。

 

 

 

 

捜査開始。

 

 

 

 

 

燃え盛る校舎の一部、スプリンクラーが稼働し、消火されていく音が聞こえる。火災警報器の音が、無情にも島に響き渡る。黒煙が巻き上がる中、威鳴音月だけが、その煙の外から出てきた。

 

「ち、なんやねんもう。しんど……ん?」

 

その様子を、僕たちがタイミングよく見ていた。多分この火災は、彼のせいだろう。

 

「うわ」

 

「うわじゃないが?」

 

威鳴音月は黒いすすが顔についており、黒フードの一部に焼けた跡がある。うわ、と言い出したあたり、この姿を見られたのは都合が悪かったのだろう。

 

「あー。事情は説明するから今は休ませて? もうホンマ、しんど」

 

そのままフラフラとしながら、煙から急いで離れていく。

 

「……それで、この騒ぎは一体?」

 

寄宿舎の前まで来た。ようやく通電した寄宿舎は、どこか明るかった。風街が話を切り出すと、荒れた呼吸をしながら、嫌に笑った。

 

「見たら分かるやろ。爆破した。ホンマ……死ぬかと思ったわ」

 

「アンタが爆発させだんか?」

 

焦る岩手を煽るように、弱弱しく、肩を落とした。

 

「はは。まさか」

 

「でもウンフェルスさんと話をするって言ってましたよね。ウンフェルスさんはどこですか……?」

 

小春がびしっと指をさす。威鳴音月は、嫌なことを突かれたといわんばかりに、地面に腰を下ろした。

 

「死んだ。多分。こんな爆発で生き残れる方が間違ってるわな。死体発見アナウンスが流れないのは、死体を目撃できてないからやな」

 

「そんなっ……」

 

小春が息をのんで両手で口を隠した。……ウンフェルスが、死んだ……?

 

「くそ、犠牲者が二人も……」

 

嘆く風街。……二人も、死んだのか。一気に、二人も……っ。くそぉ……。

 

気持ちがまた沈みかかった時、またあの声が、島中に響き渡った。

 

『えー、ぜんこくのおにいちゃんおねえちゃん、こんばんはー。ひとなつ学園長どぇーっす。あのね、よるおそくに小学生をはたらかせていいのは芸能界とあらしのよるの田んぼ作業だけなんだからね。さすがにうそだよ。というわけで、しょうじきもうおれねむいから、さいばんは明日やりまーす。しゃーっす』

 

ぶつん、と音声が切れた。……おそらく、消火後の捜査を目的としたものだろう。まだ、時間に余裕がありそうだ。今の内に、今だけは、気持ちの整理を……。

 

「なぁ、あんまり言いだぐねぁーんだげどよぉ」

 

岩手が、神妙な表情で、寄宿舎の光を一身に浴びるように立って、僕の目を見た。

 

「亜酔昏ちゃんは……アンタがやったんじゃねーが?」

 

「……えっ」

 

「だってよ、もう難しいべ。アンタは気付いでねぁーのがもしれねぁーんだども、……アリバイ、アンタにはねぁーじゃ。威鳴音月も……ねぁーじゃ」

 

「……あ」

 

そうか。そうだ。僕は……ずっと亜酔昏と行動していた。威鳴音月も……ウンフェルスとずっと行動していた? えーと、じゃあ……みんなは、そっか。一緒に行動してたもんな。……僕が、容疑者?

 

「ふ、ふざけるなよ……っ。目の前で、目の前で殺されたんだぞ……どうしてっ」

 

「言い分は分がってら。んだども、でもよぉ。それ以外どう考えろって言うんだよっ……。誰も言わねぁーがらおらが言うよ。秋冬ちゃん……。クロでねぁーならば、いつもみでに推理してぐれよ……。おらだって疑いだぐねーって……っ! なぁっ!!」

 

周りを見渡すと、みんな、僕から目をそらす。嘘だろ、本当に、みんな僕が殺したと思ってるのかよ……っ。どうして、どうしてっ! みんな、今までの関係はなんだったんだよ……っ。僕は、何もしてないっ。何もしてないのにどうしてっ。

 

「……ごめん。私も一個言いたいことがあるんだけど……」

小春そらが、おずおずと手を挙げる。

 

 

「この中にもまだ、運営の内通者がいるんだよね……」

 

「……」

 

「運営の内通者も、協力してるんじゃないかな……?」

 

「な、なにを」

 

「だって、こんなに規模の大きい工事をして、閉じ込められて、花火とかも、ゲームとかも、メカゾンビ子ちゃんとかも……おかしいじゃん。まるでこれもトリックの一部みたいで、……最初から計画されてたみたい」

 

た、しかに。あまりにも出来すぎていて……、それも計画通りだった……としたら……。風街が項垂れる。

 

「小春さんは……、こう言いたいんだね。運営の内通者が、計画して、秋冬さんと威鳴くんが実行したって」

 

「そんなっ」

 

思わず、声を上げた。違う、罠だ、僕じゃない、どうして、いろんな言葉が思い浮かんで……。入間と目が合った。彼女もまた、青ざめた顔で、震えていた。……彼女が、やったんだろうか。いや、違う。違うよ。彼女はやってない。ちゃんと僕は相談を受けた。僕と同じ状況なんだ。彼女もまた、嵌められたんじゃないだろうか。

 

「……このタイミングで、聞くのも卑怯かもしれないけれど」

 

風街が、一つのファイルを取り出した。そこには……みんなの、履歴書? なんでこんなものが。

 

「ミニゲーム報酬で手に入れたんだ。それで、秋冬さんの履歴書だけが無かった」

 

「……えっ!?」

 

どういうことだ? なんで僕の履歴書だけが……。

 

「……理由は分からないけれど、実は……工事の前日に、廊下に履歴書が落ちてたんだ。僕は、……それで、聞こうと思ったんだ。記憶がないのかって」

 

「……あっ」

 

 

 

突然、彼は頭を下げた。なんなんだろう一体。

「ごめん、僕の中でまだ整理がついていないことを無理やり聞こうとしちゃった。あーそうじゃないそうじゃない。ごめん本当に。……僕は、その。君に大事なことを聞きたいんだ。君は覚えてないかもしれないけれど、その、大事な話なんだ」

「……? そんなに?」

「うん。とても」

 

 

 

そんなことを言っていた気がする。

 

「……実は、……」

 

風街ピリカが威を決して、僕に立ちはだかる。

 

「秋冬ハル。その正体は、Vtuberじゃない。……バーチャルでもないし、僕らと違って、……。一般的な、ただのYoutuberだ」

 

「―――――は?」

 

え、え? は? 僕は……一般配信者? Vじゃない?

 

小春そらが手で口を覆う。

 

「え、じゃあ……運営の内通者って」

 

「!?」

 

「……アンタが……」

 

完全な、狙い撃ちだった。僕は……僕は、Vじゃないのか? みんながVだったから、Vなんだと思って……。僕は……記憶を失っているだけで……内通者……?

 

 

 

「生きたくて、足掻いて、頑張って、誰かを守りたくて謎を解いているはずなのに……。謎を解くたびに、残酷な結末になっていくのが、すごくしんどい。どうしてなんだろう。僕は……誰も言ってくれないだけで、僕は推理で人を殺してしまっているんじゃないだろうかっ……? 全部運営が悪いはずなのに……っ、僕が、僕が余計なことをしているから、ただ人を傷つけて……ただみんなの気持ちを、暴いて、晒上げてるだけなんじゃないかって……。ごめん、変なこと言って」

 

 

 

自分の過去の発言が、ブーメランのように帰ってきた。もし、もしかしたら、僕は……本当に。

 

「――違い、ますよ……っ!」

 

……この声は、入間? 顔を上げたら、プルプルと震えながら、勇気を振り絞って声を出す彼女がいた。

 

「この人は……そんなことしませんよ。例え記憶が無くなってても、絶対やらないです。絶対、絶対……。だって、アホですから」

 

「え」

 

急にディスるじゃん。え。ディスるじゃん。……。はは。はははははは。そっか。……そっか。全員が、僕を疑ってるわけじゃなくて、全員が敵じゃなかった。

 

……それだけで、僕は……。

 

大丈夫だ。まだ、まだやれる。まだ戦える。確かに僕はVじゃないかもしれないし、記憶もないし、疑わしい人物かもしれない。……負けない。絶対に負けない。僕は、推理をして人を処刑台に送った責任がある。僕のせいでみんなのことを暴いてしまった罪がある。責任がある。責務がある。生きて、やらなきゃいけないことがある。

 

――天才がアホって言ってるんだ。じゃあ、アホらしくアホみたいに自分の事を貫こう。それ以外できないんだ。やるんだ。やってやるっ!

 

「僕が……やってないことを証明すればいいんだよね」

 

僕が、全部暴いてやる。絶対。……絶対っ。

 

 

 

 

 

捜査続行。

Day18 Augest

朝  生徒玄関前 

 

 

いつもの日常が来たのかと思った。

 

目が覚めて、いつものように朝に起きることに必死になって、顔洗って、歯でも磨いて、……髪だの服だのいろんなことをして、部屋を出て、息を吸って、ご飯を食べて。外に出ると、一部黒くなってびちょびちょな校舎があった。

 

静かだ。メカゾンビ子一つ見当たらない。校舎の中に入って、出火場所を見に行こうとする……すると、狐耳の黒パーカー野郎がいた。

 

「ん、なんやいたんか」

 

「おかげさまで。みんなに疑われながらここまで来たよ」

 

「ははっ、そりゃご苦労さん。……ブレーカーの場所は1F階段下にある倉庫から地下に下りればあるよ。一緒に行く?」

 

「……えー」

 

こいつと行動するのは本気で嫌なのだが、まぁ、乗りかかった船だ。泥船でも乗ってみるのも一興だ。

 

 

 

 

 

Day18 Augest

朝  地下 ブレーカー室

 

 

爆破したらしい地下施設。1Fの階段付近はすべてこんがりとした黒い煤で覆われて焼け焦げている見た目をしている。

 

1Fの階段は2か所あり、その内の1か所が燃えたという状況だ。倉庫の扉は既に吹き飛んでおり、中に入ると未だに何かが燃え盛っているような匂いと、スプリンクラーから放出された液体が部屋中を濡らしていた。

 

地下へ向かう階段を下りていくと、……牢屋? 一瞬牢屋かと思ってしまう。

 

なにせ、爆発したから消し飛んだ形跡はあるものの、柵……いや檻があった。それも、部屋の中全体を覆う様に。

 

「僕らがミニゲームやってる時に、急に落ちてきてたんよね。……んで僕だけウンフェルスさんに押されて、無事生き延びたってわけ」

 

「……ウンフェルスさん」

 

そうか、あの人も……どんな思いか分からなかったけれど。こいつを助けて……っ。

 

「今は無いけれど、この地下階段からブレーカー室の間に防火シャッターみたいなものが上から降ってきた。だからこの部屋で檻に閉じ込められつつ、密室状態で、僕とウンフェルスさんは分断された。 んでそのまんまウンフェルスさんはミニゲームを続行して……報酬を二つ手に入れた」

 

「報酬?」

 

「一つは教えといたるわ。それはマーダーミステリーシナリオ」

 

「?!」

 

マーダーミステリ―シナリオ……それってもしかして、入間が言っていた、あの?

 

 

 

「ひゅ~。いい心構えですね。じゃあ説明しますよ。まず私は、この絶海の孤島でVtuberを集めてマーダーミステリー(事前に用意された殺人事件を解き明かす遊び)を行いたいという企画を聞いて、記憶喪失薬や各種のロボットを作成して、皆さんの様子や機械のメンテナンスを行う予定でここに来ました」

「秋冬さんにお願いしたいのは、とりあえず1つです。おそらくなんですけど、この島にはデスゲームを起こす前の企画の名残、例えばマーダーミステリーをやろうとしていた証拠とか、そういったものがまだ多く残されてるはずなんです」

 

 

 

「いっちゃんやばいのは、このシナリオ……。普通のシナリオ以外にも、僕らにめっちゃ関係のあるシナリオが収録されてるって点やな」

 

「どういうこと?」

 

「第一と第二の事件が収録されてる。そして、今回の事件に非常に近いシナリオも」

 

「!?」

 

「つまり、昨日の小春そらの言い分は信ぴょう性を増すってことやんな」

 

 

 

「だって、こんなに規模の大きい工事をして、閉じ込められて、花火とかも、ゲームとかも、メカゾンビ子ちゃんとかも……おかしいじゃん。まるでこれもトリックの一部みたいで、……最初から計画されてたみたい」

た、しかに。あまりにも出来すぎていて……、それも計画通りだった……としたら……。風街が項垂れる。

「小春さんは……、こう言いたいんだね。運営の内通者が、計画して、秋冬さんと威鳴くんが実行したって」

 

 

 

 

なんということだ。あまりにも、あまりにも出来すぎている。これでは、もはや偶然が狙い撃ちを仕掛けているような錯覚さえ覚える。

 

「……そして、あれが死体ってわけやんな」

 

「!?」

 

 

威鳴が指を差す方向を見ると、……なんだろうあれ。ぬいぐるみ……? 

 

五体がバラバラになったぬいぐるみが置いてある。まさか、……まさか、死体がないから、ぬいぐるみを……?

 

きーんこーんかーんこーん、間の抜けた音が地下に篭って聞こえる。

 

『死体が発見されましたー。ほら、なんかもう見るのもおれしんどかったからぬいぐるみ置いといたよ。一定時間の後―――』

 

「これで、2人目の死体になったわけだ。……クロは必ず2人目まで殺せるルールということを考えると、犯人は1人か2人となるけれど、……どうなることかねぇ」

 

威鳴の声がひとなつ学園長の声を切り裂く。……ウンフェルスの捜査をしようものの、全て燃え盛った後だから……証拠もへったくれもない。ここでの調査は……これで終わりだ。

 

 

 

Day18 Augest

朝  音楽室

 

「……」

 

廊下から周囲を見渡す。周りは教室しかない。外の景色はそれぞれの教室に行かないと分からないだろう。他の教室から何かできるのだろうか……。いや、難しいだろうか。他の教室にいたところで何も出来なそうだ。

 

中に入ると、最初に気になったのは……。

 

「映写機……? 天井についてるんだ。……こっちに向いてる」

 

本来なら黒板側に向けられるはずの映写機が廊下に映像を映すように外に向けられていた。映像はどうやって映すんだろう。……有線ケーブルも接続されている。これは、ネットも使えた? そういえば、入間が言っていたな……。

 

学校にはインターネットを構築されているとか、オンラインだとか。加えて気になったのは……カーテン? 

 

黒いカーテンがかかっており、外の様子がうかがえない。それに……よく見たらこれ、防音素材の壁だ。

 

当たり前か。音楽室だし。それと、この弦楽器なんだろう。知らない楽器……。なんだろう、民族楽器みたいだ。むしろなんでこんなものがここに……。

 

「……そして、話によると内扉には鍵がかけられて、脱出できなかった。風街さん、岩手さん、クロカメさんの三人は意図的じゃないにしてもお互いに監視状態だった。三人は犯行に及んでいないことが確定してる。どうしたって事件は起こせない。だからこそ、僕や威鳴さんが怪しく映る。……そういえば、迷子のクロカメさんは何処に行ったんだろうか。あの人の事だから、何かヒントを掴んでそうだけど……」

 

 

 

 

Day18 Augest

朝  生徒玄関前

 

「……これ以上の証拠はない、のか……」

 

くそ……、今までの事件と違う。明らかな証拠らしい証拠が存在しない。……本当に何も見えない。本当に、どんな事件なんだろう。でも、思うところがある。小春さんが言ったように、この事件は運営の内通者が裏で糸を引いているのではないか。

 

だとしたら……。疑問も生まれる。なんでこのデスゲームは続いているんだろう。

 

最初こそマーダーミステリーにしようとしていたはずなのに、どうしてデスゲームに仕立てて続行した……? 

 

そして、なんで大規模な工事をして、それに合わせて殺人事件が起きた? 

 

選択肢は二つ。工事に合わせて事件が起きたか、工事が事件を招いたか……。気になることは、……ほかにも。

 

「…………、……ん?」

 

なんだろう。地面がもぞもぞと動いているような……。え、あれは……。

 

「クロカメさんの本体の黒光の亀だ! どうしてこんなところに!」

 

そうなのだ、実はクロカメさんは肩にいつも小さい亀を乗せていた。この子がどうして……、傷つきながらこちらに向かってきているんだ!? 疲れ切って息の荒い小さなカメを拾い上げて……どこから来たのか周囲を見渡す。

 

そして今気付いたことがある。発電機に向かう寄宿舎裏、そこから奥の森が、……木が妙な傷がついている。まるで刀傷のようだ。その奥にあるのは、学校裏と同様の、浜辺への道に続いている。

 

「……」

 

なんとなく気になって、浜辺の方に向かう。すると、奥の道を進んでいくたびに、刀傷が少し増えていっている気がする。なんだこれは。……嫌な予感がする。僕は駆け足で浜辺に向かった。

 

 

 

 

 

Day18 Augest

朝  浜辺

 

かつてみんなで火を囲んで語り合った場所。事件で使われた場所。もっと前に、みんなで泳いだり、楽しく遊んだ場所。いろんなことがあった砂の上で、一人、佇んでいる男がいた。

……、あれは……クロカメさん?

 

「クロカメさん?」 

 

声をかけても、潮騒しか聞こえない。一歩、また一歩砂を踏みしめる。

 

「……クロカメ、さん」

 

目の前に、彼の背中がある。肩を、ぽんと叩くと、ゆっくりと、砂浜に正面から倒れていく。ずさ、と音を立てて、彼は……。瞳に光を映すことなく、動くこともなかった。

 

「っ、クロカメさん、クロカメさんっ!!!」

 

手首をつかむ。ダメだ、死後硬直が始まってて手首が曲がらない。体も、冷たくなっている。顔中、いや全身青い痣が出来ている。これは……例えば全身を殴られているような? そんな痣ができている。

 

「……クロカメさんっ」

 

「―――きゃあああああああああああああっ」

 

後ろを振り返ると、小春と岩手、風街が来ていた。……まずいタイミングで、見られたかもしれない。すると、学校から放送で、ノイズ交じりの声が聞こえる。

 

『死体が発見されましたー! というわけでね、そろそろ死体が発見されるたびにちょうさじかんとっちゃうと、みんなおこっちゃうからね。そろそろ学級裁判を、はじめようと思いまーっす! 今から15ふん後に、やっていきましょー!』

 

「15分後!?」

 

うそだろ、これじゃまともに捜査なんてできないっ! なにか、何かないか……っ。ん?

 

「っ」

 

急げ、くそ、死後硬直で体が動かない。硬すぎる。でも、これは……、固く閉じた手の中に、何かが……っ。

 

「取ったっ!」

 

これは……壊れた機械のパーツ? 何かを斬った跡みたいだ。

 

その後、風街と岩手にクロカメから距離を取らされて、僕はそのまま裁判に向かわなければいけなくなった。

 

 

 

 

 

Day18 Augest

昼 中庭

 

生徒はそれぞれの足で中庭に向かう。

 

全員が中庭につくと、地面が揺れて、一部箇所が横に開き、階段が現れる。

 

階段を降りると、あまりに広々とした、荷物運搬にでもつかうのかもと思えるようなエレベーターがあった。

 

一人、また一人エレベーターに入っていく。全員が乗ると、自動でエレベーターの扉が閉まり、ずしりと揺れて、下に動き始める。

 

誰も笑わないし、ただただ静かな空気が流れる。

 

ぐおんぐおんと音を鳴らして下に沈んでいくエレベーターは、まるで地獄への案内をしているようだった。

 

――この中に犯人がいる。亜酔昏を、ウンフェルスを、クロカメを殺した、犯人が。

 

まだ知り合って18日の僕らの中に、犯人が。全員が怪しく見える。誰もが等しく容疑者なのだ。

 

だが、犯人を僕らで当てないと、……あのルールが正しければ。ひとなつ学園長の言葉が真実であれば、僕らが殺される。……記憶もないし、一般配信者でみんなと違う僕だけど、これだけは分かる。

 

悪意を持って、僕らを殺しに来た人間がいる。生きている僕らを、馬鹿にするように、殺した彼らを侮辱するように。

 

命を、尊厳を、僕たちが生きる理由を理不尽に奪う犯人が、許せない。事情があろうと関係ない……コロシアイを否定するために、この事件を全て暴かなければいけない。

 

そのためにも……。僕は、この事件を解かなくてはいけない。七人の屍を背負って、僕らは絶対に、この謎に屈することはしない。してはいけないんだ。

 

 

 

 

――学級裁判、開廷

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。