Vtuber学パロダンガンロンパ風序盤ギャグガチンコミステリー小説   作:茶鹿秀太

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非日常編 第三章「マシンナリーズ・マーセナリーズ」3

「クロカメさんが立ち去った時の目撃者は彼女だけ。そして皆さんお気付きでないようですけど、彼女は天才博士ですよ? ロボット制作に関して、彼女が手を下して殺害した可能性だってあります。そうだ、亜酔昏さんだって綺麗に胸を撃たれていたんでしょう? 全部ロボがやったんですよ! 入間るいの指示で」

 

「!」

 

小春そらの言葉には明らかに彼女を狙い撃ちにした推理、いや、すでに用意されたようなシナリオだ。

 

これに抗うのは、事実と嘘を交えながら戦う必要があるのだろうか。

 

小春は攻撃を続ける。

 

「ロボットを作れる彼女がクロカメさん亜酔昏さんを殺してしまったんじゃないでしょうか!」

 

「でもクロカメさんに関してはあんなに全身への打撃痕、用意できるはずが」

 

「ロボゾンビ子ちゃんを使えばいいじゃないですかぁあ? みなさんも見ましたよね? あんなに、あんなに沢山いたんですよぉ? 【彼女の指示で殺した】とか、全然ありますよねぇ? 彼女こそが本命の、運営の内通者なんですからぁ!!!」

 

「そんな、嘘だっ」

 

みんなが慟哭する中、僕は冷静に彼女の言霊を考えていた。カードを切れば、入間が疑われる。まだ、まだ粘ろう。

 

「彼女の指示で命令したっていうけど、どうやって? あのロボットは単純な命令しかできなそうだけど」

 

「えぇえぇ。単純に「殴り殺せ」だけ指示すればいいじゃないですか。【それ以外の使い方なんてないでしょう!?】」

 

「【それは違うよ!】クロカメさんの現場には、多くの刀疵、つまり戦闘の後が残ってた。つまり、ただ殴り殺せっていう命令だと絶対に無理だ。彼は模擬刀を持ってた。理由はわからないけれど、刀身は研がれていて物を切れるようになっていたんじゃないかな。浜辺に向かう道にかなりの刀傷があったんだよ。おそらく戦闘もあったと思う」

 

「だからぁ? だからなんですの?」

 

「司令塔が必要だったんだ。現場を見ながら、逐一指令を出す必要があったんじゃないかな」

 

「単純すぎるよ秋冬さん。それこそ【廊下から見てれば】いいじゃんか!」

 

「【それは違うよ!】 3Fの廊下から外を見ることはできない。校舎の構造上、どこかの教室に行かないと外は見られない! 入間さんはむしろあそこにいたから無実だったんだ!!!」

 

「うっ!?」

 

 

 

廊下から周囲を見渡す。周りは教室しかない。外の景色はそれぞれの教室に行かないと分からないだろう。

 

 

 

そう、3F廊下は外の景色が見えない。それこそが、彼女の無実を証明する。だからこそ、花火を銃声と勘違いすることができたのだ。

 

上手く空気をBREAKできた! なんとか軌道修正することができたかもしれない。

 

「くぅっ! でも、入間るいが運営の内通者であることはこのロボットが証明していますよね? 彼女こそが黒幕、彼女こそが私たちを陥れた、絶望なんですよ!」

 

彼女の演説が透き通るように聞こえる。くそ、そこを言われるときつい。どうすれば……。

 

「……むしろラッキーだったかもしれません。この流れ」

 

入間が、笑う。あの凶暴なちいかわと例えた僕が震えるほどの悪魔めいた、深い笑みを浮かべる。

 

「私、記憶が一部ありませんが、大部分は覚えています。そうなんですよ、ロボット提供やその他もろもろの諸事情に関して言えば、私は運営の内通者でした。そして、私秋冬さんに事前にそのことについて相談しています」

 

「は? はぁあああああああああああああああ? 入間ちゃんが、運営の内通者ぁ!? このポンコツ博士が!?」

 

「誰がポンコツじゃいっ!」

 

岩手が混乱して余計なことを言って入間の眉間に皺が寄せられた。ここでカミングアウトするなら、僕も手札を斬るべきだ。

 

「うん、実は前々から相談を受けてたんだ。ミニゲームをクリアした時に、入間さんが内通者だっていう情報を手に入れて、正直僕が手に入れても事前に聞いていたから、動揺はしなかったんだよ。でも他の人が見たら、間違いなく入間さんを疑うだろうなと思う」

 

風街が、自分と入間の共犯を疑うような目で見る。

 

「でも、運営の内通者じゃないと、今回の工事に合わせて事件は起こせないよね」

 

「実は、入間さんの話によると、もう一人運営の内通者がいるらしいんだ」

 

確か、こんな発言だった。

 

 

 

 

 

「なぜ名乗り出たか、ですか? ……これは、オフレコでお願いしますね。……もう1人、いるらしいんです。運営の、お手伝いさんが。私も覚えていたはずなのに覚えていなくて……。多分やられましたね。私は薬を飲んでなかったはずなのに、誰かにやられて記憶失っちゃってます」

 

 

 

二人目の運営の内通者。その存在を暴くタイミングは、今なのかもしれない。入間が追加で全体に情報を共有していく。

 

「記憶もこんな感じで消えてて、実はここネット繋がってて、生配信中なんですよね」

 

「うっそだべそんな濃厚こってり情報ドカ食いさせられて……っ」

 

岩手も慣れてきたのかもうギャグを挟める余裕が出てきたみたいだ。

 

「そ、そんなぁ! 二人目の内通者がいるなんて! しかも私たちのコロシアイがネットで配信されているなんて! まさに視聴者インターネットやめろってことですね! 天晴これは驚きです! そんなことあるんですねぇ! 許すまじ運営の協力者! 頑張っていきましょうね!」

 

にっこりと、なんの焦りもなく、小春そらはすっとぼける。……突然の機械みたいなエラー掃き出し、突然キャラ変した彼女……。直感でも分かる。彼女こそが……運営の二人目の内通者!

 

「いやどう見でも今のアンタが怪しすぎるって!」

 

「小春さん、どうしてっ、君も運営の内通者なのか!?」

 

岩手と風街の表情が、青ざめ、絶望一色に染まっていく。一緒に行動していた彼女が、あまりにも、あまりにも狂気に染まりすぎて。

 

「……っ!! ひどいみんな! 男の人っていつもそうですよね!私の事内通者だと思ってるんですか!! あれ?

ぼそりと、目の光を少しずつ失くしていく小春が、疑問の声を上げた。その声は、どこか冒涜的で、闇の深い……。

 

「あれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあ れ あ  れ  あ   れ   あ    れ    あ     れ     あ れ あ れあ れあ れあれあ あれあれあれあれあれあれあれ  あれあ れあ れあれあれ あれ  れ あ  れ れ あれあ れ   あれ」 

    

「っ!?」

 

「あっれれー!? おかしいぞぉー? あははははは、みなさん何を勘違いしているんですかぁ。私が運営の内通者な訳ないですよー。だってみなさん、致命的な謎を残しているじゃないですか?」

 

「えっ」

 

致命的な、謎? 

 

「3Fの廊下は見ることが出来ないんですよね? 音楽室から外の様子は見れなかったんですよね? じゃあ私無実じゃないですかーやったー!」

 

「!?」

 

「それにぃ、私風街さんにも岩手さんにも見られながらぁ、私がそんなこと出来るわけないじゃないですかぁ? じゃあ入間さんが一人の時に実は別教室から外を見ていたっていう方が、理屈が通りますよねぇ? ねー。今どんな気持ち? 今どんな気持ち?」

 

く、くそ。この島に集まった狂人枠はみんなどうしてこんな頭が回るんだ!?

 

「はっはっは。おいおいなんやねん小春そら。どうしたんだよ、狂人枠なんて始めちゃって。なんか、辛くね? 悪あがき、痛くね?そんな訳ないやんな。事件の事度外視して、よくよく発言を思い返したら、怪しさの塊やんけ」

 

「威鳴音月っ?」

 

なんだ、怪しい言動、何かあっただろうか。いや、あった。そうだ、あの時も、あの時も、あの時も!

 

 

 

 「……? 亜酔昏さん?」

 

近寄っていくと、彼女が周囲を見渡した。そして、僕の耳元で彼女が話した内容に、僕は愕然とした。

 

「え、嘘だよね」

 

「本当だよ。でも確かに辻褄が合うことは事実なんだよね。秋冬ハルの記憶が戻らないというのは、実は嘘。本当は運営の内通者で、すっとぼけてるんじゃないかって噂が、何故か妙に広がってるんだ。私も、小春ちゃんから深刻な顔で相談されたよ」

 

 

「明日から……何かが仕組まれるらしい」

 

表情を落とした風街が、疲れたような声を出す。無理もない。せっかく脱出に対しての機運が上がってきたというのに、新たに明らかに罠のような動きが出てきた。あまりにも、嫌なタイミングで。

 

「記憶を戻す薬っていうのがすごい気になるよね……。それを飲めば、真相にたどり着けるのかな」

 

小春が悩ましそうに、興味を示す薬。おそらく事実なのだ。入間から話を聞いた僕からすれば。

 

 

「……分かった。その話って――」

 

「た、大変たいへーんっ!」

 

小春そらが寄宿舎に飛び込んできた。なんだよタイミングが悪い。

 

「その、ロボが、えーと、100を超すロボゾンビ子ちゃんが大量発生してミニゲームを設置してるっぽいっ!?」

 

 

「ねぇ見て!」

 

小春そらが校舎を指さし叫んだ。全員が指の指し示す方向を見ると……何かが、光って、揺らいでいる。

 

「で、出たぁああああああああああああっ!? お化げだああああああああああああああああああああああああああっ!?」

 

 

小春そらが、おずおずと手を挙げる。

 

「この中にもまだ、運営の内通者がいるんだよね……」

 

「……」

 

「運営の内通者も、協力してるんじゃないかな……?」

 

「な、なにを」

 

「だって、こんなに規模の大きい工事をして、閉じ込められて、花火とかも、ゲームとかも、メカゾンビ子ちゃんとかも……おかしいじゃん。まるでこれもトリックの一部みたいで、……最初から計画されてたみたい」

 

 

 

 

「要所要所の話の流れを……彼女が作ってる!」

 

そうか、突然話が変わるような瞬間がいくつかあった。突然噂の話になったり、コロシアイに疲弊したタイミングで記憶を取り戻す薬の話をしてモチベーションに変換して、風街との話をしようとした瞬間に間に入って、……全部、全部彼女が会話をコントロールしていた。流れをコントロールしていたっ! 

 

彼女が叫んで教室を指さしたから、そこに人を動かそうと言うことになったし、内通者の話題を積極的に出されて入間を疑わしくしていた。

 

いや、おそらく自分以外の人間で疑わしくできる人物である、僕、威鳴、入間を最後まで追い詰める為の、罠。議論の最中も、よく聞いていれば誘導していたのだ。そうか、彼女は最初から動いていたのだ。このコロシアイ学園を、今回の事件は彼女がリードし続けた!

 

「ほなら、第二の事件も毛色が怪しいなぁ? あれも記憶に関する事件やったし、小春そらは風邪と言って部屋にこもっていた。別の事してても、まぁおかしくないわなぁ?」

 

威鳴の言霊が、全員の息を吹き返させる。そうだ、第二の事件、あれも速水さんが記憶に振り回された事件。彼女は風邪でずっと部屋にこもっていた。……まさか、なにか、したのか? でも、そのアイデアが出てきた以上……“彼女には部屋の中でも犯行に関わる何か”があった可能性もある。彼女が疑わしい人物に再び浮上する!

 

「はっはっは。まだまだ議論楽しめそうで何よりやんかぁ!! 運営の内通者ぁ! せいぜい余生を楽しんでくれやぁ!」

 

「……ぁ……ぁあああ面倒くさいっ!! 威、鳴音月ぃっ! この島の、イレギュラー風情がぁ!」

 

小春が吼える。再び、議論は苛烈さを増す。彼女という存在を逃がすな。真犯人は、その先にいる。

 

 

 

 

 

「無理やり私を犯人にしようとしても無駄だと思うなぁ。私を疑うのなら、岩手、風街両名を共犯者として扱うと言うことだよね? 3人で仲良く殺害したってこと?」

 

「するわけがないだろ! 人の命を、なんだと思っているんだ!」

 

風街が信念をもって返答する。しかし小春の耳には入らない。同様に、威鳴音月は獣の如く牙をむき出しに襲い掛かる。

 

「小春そら犯人説を提示した際、めっちゃデカい疑問点が2つ出てくるで。正味その疑問が解決すれば、後は犯人を当てるだけと見てるんやけど」

 

「私犯人説、ははは、じゃあ勝負ですねぇ。風街さんと岩手さんが私の無罪を主張できなければ3人に依る共犯殺人。――入間るい、威鳴音月、そして秋冬ハルの3名の犯行証明が出来れば私たちの勝ち。おしおき後に悠々と島を脱出させてもらいますね」

 

これは団体戦だ。議論で3vs3(あと1匹)の、スクラムを組むことでチームで相手を論破する。絶対負けてはいけない。

 

負けたら……死ぬ。

 

「私は風街さんと岩手さんが見てる中で動いてた。その中で殺人に手を入れることは不可能だった」

 

この議論を打ち砕くのは、彼しかいない。引っ掻き回してくれ。

 

「威鳴さんっ」

 

「小春そらは外を見る手段がある、もしくは二人に気付かれず犯行に関与してた可能性は十分にあると思うで」

 

風街が切り出す。

 

「彼女は一緒に閉じ込められて、ミニゲームを積極的に取り組んで脱出の為に動いていたよ。感情はともかく、理屈だけなら入間さんの方がまだ犯人で通るよ」

 

「入間さんっ」

 

「まず、私は運営からアカウントロックを食らってインターネット関連は一切使えなくなってるんだぁ。だってあんなに銃声っぽいの鳴ってて、動いた方が危ないと思うのは自然では?」

 

「んでも花火用意したっていう点ではまだ入間ちゃんの方が怪しい! 小春ちゃんはミニゲームまるっきりクリアでぎねぁーでレバガチャしてらったんだぞ! けっぱってらったんだぞ!」

 

その瞬間、僕の中で直感めいた推理が生まれる。理屈じゃなくて、なんだろう、これは伏線同士を繋げ合わせて生まれた仮説。ある種の、メタ読みに近いのかもしれない。当たるも八卦当たらぬも八卦なら、ぶつけて当てに行くっ!

 

「花火に関してだけど、みんなミニゲームは何回クリアしたの?」

 

風街が指を折る。

 

「えぇと、こっちは3回」

 

「僕んとこは2回やで」

 

「僕は1回クリアしただけだった。……間違いないんじゃないかな」

 

花火の回数を数える。

 

 

 

 

 

真っ暗で静かな夜に、息遣いだけが響いた。その瞬間、ひゅぅ~、と音がして、静寂を切り裂いた。

「えっ?」

ぱぁん、と大きな花火が鳴った。夜空が光って、空に花が開いた。……えっ、花火?

 

「あすく――」

突然、ぱぁんと花火が鳴って、ドンッ、と強く肩を押された。何がなんだか分からなくて、そのまま地面に倒れて、何をするんだよ、と声を荒げそうになった。

すとん、と間の抜けた音が聞こえて、彼女は、タブレットの下で倒れた。体を横に倒した彼女の胸に、一本の矢が刺さっていた。 そして、綺麗な花火が、もう一発撃ちあがった。

 

「ダメだ、ダメ、い、いやだ、だめ、いやだ、ぁあ、ぁあああっ」

ぱたり、と。彼女の手が、力なく、野ざらしにされたように、地に落ちた。……彼女は、生きて、死のうとして、生き延びて、その意味を見出して、意味を成す前に亡くなった。

「……あああ、あああああっ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ」

慟哭の最中、花火だけが、一発、また一発……。もう一発と打ちあがっていく。まるで彼女の死を祝福するように。弔うように。

 

 

 

「花火は間違いなく6発上がっていた。これってミニゲームクリアと連動して、花火が打ちあがってたんじゃないかな。ミニゲームと現実(花火)が連動していたんなら、岩手さんっ! 小春さんはミニゲームの時に何か不審なことをして無かったかな!」

 

「んなことして……――――あ」

 

岩手の口から零れ落ちたエピソードは……。

 

 

 

小春がすぐさま動き出し、ミニゲームの機体を動かした。

「んしょ、あ、これやば、うわ、え、何この赤い帽子の男、うわ、え、、ちょ、おわ、ひ、ひゃっ、いやああああああああああああああああああああああまんまMぃーやんっ!?!?」

どうやら、敵にぶつかってゲームオーバーになってしまったみたいだ。それまでのスティック裁き、特に〇っぽいボタンを目にも止まらない16連打後の左右ステップ、最後に→↗↑+ジャンプは神業の領域だった。何故そのコマンドを打ったのか分からないけれど。

 

 

風街が、声を震わせた。

 

「レバガチャ、じゃない……。コマンド入力……っ!? 小春さんはあの瞬間、ミニゲームをしながらコマンド入力をしていた!?」

 

「あぐぅっ!?」

 

小春が呻いた。つまり、仮定できることが一つある。殺人事件には直接干渉できない。入間が疑われた理由は、ロボを操れる可能性があるから。なら、僕の推理はこうだ。

 

「ミニゲームのクリアが、事件の鍵を握ってる可能性があるよ。花火は実はただの合図で、花火が鳴ったら何かのギミックが発動するんじゃないかな。威鳴さんのところは檻が下りてきて、粉塵がウンフェルスさんに襲い掛かった。僕のところでは亜酔昏さんがボーガンで撃たれた。他にも、クロカメさんを例えばメカゾンビ子ちゃんが襲うコマンドを扱ったりするギミックが発動したんじゃないかな」

 

小春が必死の形相で抵抗を開始する。

 

「いや、いやいや知りませんよそんなの。というか、ゲームクリアが合図とか、言ってますけどぉ! できませんから! 私できません! というか、貴方が言ったんですよね。司令塔がいなければ合図を出して攻撃指示をよしんば出したとしても、戦闘は不可能だって! そこを乗り越えなきゃ私は犯人じゃないぃ! 犯人じゃないのぉ!」

 

確かに、それを言われてしまうと痛い。すると威鳴が大きく口を開けて、隙ありと言わんばかりに、彼女の言霊に食らいついた。

 

「つまりあのミニゲームの工事も全て犯行に使われとるっちゅーことは、運営に関する人間の殺人計画で間違いなさそうやなぁ! ならやりようはあるで? 僕以外にも気付いた奴いるとは思うけどなぁ。なぁ? 秋冬ハル」

「威鳴音月……」

 

何が言いたいんだ? いや待てよ、この事件が、運営の計画した殺害シナリオだとするなら、一つだけ使える手段がある!

 

「監視カメラだ! 学校中に仕掛けられたカメラの映像の情報が、上手く使えるとするならっ!」

 

――――っ! そうだ、そうだっ! 分かった。これなら、犯行が可能だ! 小春そらが最後の悪あがきを開始する。

 

「監視カメラの映像なんて、私がどうやって確認するんですか! そんなことできない! 無駄! 不可能! It's a plan I can't carry out.  ¿Qué vas a hacer si sigues diciendo mentiras que me difaman?」

 

「なに言ってるか分からないっ! でも監視カメラの映像を確認するやり方は、見つけたぞ。これで投票を開始できるレベルで!」

 

「えっ」「はっ?」「ん?」

 

「しゃ、じゃないしょ、秋冬ハルさん? 小春さんが犯人なんですよね?」

 

入間の言葉は、あまりにも僕の言動が信じられない様子だった。

 

「いや、僕は馬鹿だった。小春さんじゃ難しい部分が多すぎる。でも、いろんなギミックが関わっていて、それを実行するとなると、一人しかもういないんだ!」

 

そう、監視カメラの映像を確認出来て、小春そらに指令を出せて、防火シャッターや音楽室施錠で、みんなを分断したり。いるのだ一人だけ。これを実行できる人間が。

 

「犯人はお前だっ」

 

僕はそいつに指を差した。

 

 

 

 

「ひとなつおもい学園長っっっ!! お前が今回の事件の真犯人だぁ!!!!!」

 

 

 

 

 

『ん? え?』

 

議論をただ聞いていて、油断していたひとなつ学園長が、ぽかんとした顔でこちらを見つめた。

 

『……え? よんだ? え? おれ? おれがはんにんだっていうのかよぉ!?』

 

「でもロボを操作、カメラを操作、罠分断とか、明らかに参加者側ではできないギミックが今回使われすぎてる! 小春そらがレバガチャコマンド入力で補助をしたり、話の誘導をして、実行していったのはひとなつ学園長であれば話はすごくスムーズだ! 運営の裏切者を追い詰めるトリックは、間違いなく運営の手が下されている。内通者ができないことを全てひとなつ学園長がやったとすれば、辻褄は合うんだよ!」

 

『は、はぁああああああああああああああ!?!? しょうこはあるのかよぉ! しょうこないじゃんかぁ!』

 

「状況証拠ならあるよ。思い出してほしいんだ」

 

僕は、裁判開始のあの発言を掘り返す。

 

 

 

 

 

 

 

「本当に、この中に犯人がいるのかな……」

「あっそうそう! そのことなんですが」

僕のつぶやきに学園長が反応する。……そのことなんですが?

「じつは、ていでんやかさいのえいきょうで、おれちゃんとじけんかくにんできてないんだよねぇ!」

 

 

「それって自分が犯行に関わっているから確認しなかっただけじゃないかな?」

 

『ぼ、ぼうろんだい! ていでんでかくにんできなかっただけだい!』

 

入間があくどい顔をした。

 

「あれれー? でもミニゲームは電気ついてましたよねぇ? ねぇ風街さんやってましたもんね? あれれぇ? もしかしたらカメラで確認、出来てたんじゃないですかぁ?」

 

風街が真剣な表情で頷く。

 

「うん、間違いないよ。……僕らは必死に生きようとしているだけなのに、それを追い詰めて安全圏で人を殺すような運営なら、やりかねない!」

 

岩手が怒りに震え、涙を流した。

 

「まだ誰が殺したんだら、理解でぎだ。んだども、アンタは、人を馬鹿にしてんのが! みんな必死さ生ぎでんだべや! それ高みの見物で、許せねぇって!」

 

『ぼくじゃないよ?!』

 

威鳴音月が、でもさ、と言葉を続ける。

 

「最初に自分で言ったこと忘れとんのちゃう?」

 

『え?』

 

 

 

「というわけで、今回のさいばんのようすを、全国生配信でおおくりしまーすっ! そして、さいばんをしているみんなと、コメント欄のみんなのいけんをまとめて、多数決でシンジツを決めちゃおうと思いますっ!」

 

 

 

 

「多数決でお前が処刑やっ! 犯人が本当は誰であれお前に投票しておけばこのゲームも終わり! ハッピーエンドってわけだ! ざまぁないなぁ運営っ!」

 

『おごごごごごごおごごごごごおごおあぱあぁあ!?!?』

 

そう、威鳴も気付いただろう。これは最終手段。もしかしたら小春そらが犯人かもしれない。もしかしたら僕が騙されているだけで入間るいが犯人なのかもしれない。

 

でも、この選択肢が生まれたなら、むしろ謎解きを放置して、ひたすら運営犯人説を押す! そうすれば、僕らの最初の目標である脱出のきっかけになるかもしれない! そう、全ては……こいつが全部悪いのだから!

「さぁ投票の時間だ! ひとなつ学園長、神妙にお縄に付け!」

 

『おれは、おれはぁ! そんなぁ! ぼくの出番は、おわりってことぉ? まって社長、おれまだうごけ―――――― ピーーーーーーー、エラーが発生しました。これより再起動を開始します。エラー、マニュアルモードに切り替えます。ナウローディング、コンプリート。

 

!? この声は、さっきの……小春そらから流れた、音声?

 

「なんや、けったいな。まだ隠し玉があるみたいやで、秋冬ハル」

 

「……うん」

 

そして、ひとなつ学園長は、目を轟轟と光らせ、抜け落ちた表情で、言葉を口から涎のように垂れ流した。

 

『そうか。でもさ、一つ抜けてることあるよね』

 

「……」

 

口調が違う。誰だ? さっきまでのひとなつと違う。

 

『いやお見事だよ。素晴らしい推理だった。作家にでもなればいいんじゃないかな。でも一つだけ看過できないことがあるよね? 俺がやった? 違うよ。もう一人運営の内通者がいただけ。そいつが全部やったんだよ。今言ったことをね』

 

「……は?」

 

は? 今、何て言った? え? もう一人の、内通者!?

 

「そんな、そんな馬鹿な!?」

 

入間が僕に呼びかける。

 

「騙されないでください! そんな人聞いた覚えもない、私の知らない内通者なんていないっ」

 

「というが3人も内通者ってアンタそれもう内通者パラダイスだべや!? いい加減にせぇ!」

 

でも僕は気付く。内通者がいたとして……監視カメラやギミックを操作することなんて、できるはずがない。嘘に決まっている。

 

『うん、嘘だと思ってるよね。じゃあ証拠を出すよ。小春そらの発言で露骨に話題をそらしていたことがあったんだけど気付いた?』

 

「うん、嘘だと思ってるよね。じゃあ証拠を出すよ。私の発言で露骨に話題をそらしていたことがあったんだけど気付いた?」

 

ひとなつと小春が、同時に同じ内容の発言をする。なんだこれは、まるで……まるで入力された文字を読み上げるだけの機械のような……?それに、話題をそらしていた……?それってもしかして、あの事だろうか?

 

 

 

すると横から冷たい目で突然小春そらが鼻で笑った。

 

「いや、流石に幽霊はないよ。え、幽霊信じるタイプなんですね岩手くんって」

 

 

「で、出たぁああああああああああああっ!? お化げだああああああああああああああああああああああああああっ!?」

 

岩手が涙を流さんばかりに悲痛な叫びをあげる。そして小春が再び。

 

「いや、幽霊はいないでしょう。岩手さん本当にホラーゲーム好きなんですね」

 

冷静に突っ込んだ。彼女は幽霊に対して辛らつなのどうして?

 

「……あれは、昨日の」

 

風街の呟きと同時に、クロカメがふふんと笑った。

 

 

 

 

 

「……まさか、ちょこちょこ話題に上がってた、幽霊の事?」

 

風街も思い出したように話を繋げる。

 

「僕も見たよ。窓に人型の光が移った気がしたから、3Fにいったんだ。そしたら秋冬さんの履歴書が廊下に落ちてた。……なるほど、運営が言いたいのは、つまりあの幽霊が、第三の内通者って言いたいわけだ」

 

『そうなんですよ。オーケー? つまり俺じゃなくて、幽霊が全部悪いんですよ』

 

……。最悪の一手だと思った。つまり運営がその人を動かしてこの事件を起こしているのに、自分はやってないと言わんばかりに自分の責を全て、幽霊と呼ばれる存在に擦り付けたわけだ。……何を考えているんだ? なんでだ? ひとなつ学園長がいなくても、そいつを内緒にしておいて裏でゲームを引っ張ればいいのでは……? 何が目的なんだ? いや、目的は本当にあるのか?

 

「な、なぁ。これやばぐね? 幽霊なんてヒント一個もねぇよな……。おらだづの中にいるんか? いや、ねぁーよな? え、どうすんだこれ?」

 

「っ」

 

そうだ、そうなのだ。幽霊なんて一つもヒントがない。どこでどう当てればいいんだ? この中にいるんだよな? それとも……いや、違う。

 

「いや、僕らの中にいない人だ。だって、僕らが全員いる時にみんなで幽霊を見たんだ。幽霊は確実に僕らの中に、いない存在だ」

 

「ミステリーの禁じ手じゃないですか!!? それアリなんですか?!」

 

入間がぶちぎれる。無理もない。そして腹が立つことに、運営がそれを是としてしまったのなら、こちらとしてはもう打つ手がない……。ルール違反を先にしてきたのがそっち側の人間だと、破綻だ。

 

「……」

 

そんな中、風街ピリカだけが。彼だけが、真剣な表情で、―――怯えるように、口を開いた。

 

「……幽霊ってさ。どうやってあそこで光ったんだと思う?」

 

突然、そんなことを言うものだから、何となく考えてみる。

 

「多分だけどさ、音楽室の天井に取り付けられていた、プロジェクターを使ったんじゃないな。音楽室の扉を開けておいて、向かいの教室に映像を映した、みたいな。そんな感じじゃないかな」

 

「どうやって、映像を流すのかな、あれ」

 

「? それは……」

 

調査した時の記憶を探る。

 

 

 

「映写機……? 天井についてるんだ。……こっちに向いてる」

本来なら黒板側に向けられるはずの映写機が廊下に映像を映すように外に向けられていた。映像はどうやって映すんだろう。……有線ケーブルも接続されている。これは、ネットも使えた? そういえば、入間が言っていたな……。学校にはインターネットを構築されているとか、オンラインだとか。

 

 

 

「有線ケーブルがついていて、インターネット環境があったから、運営がオンラインで流したんだと思う……」

 

ネットさえ使えれば映像を流せるのだから、遠隔操作ができる人間……。ここにいる誰でもなく、幽霊という第三者。存在証明不可能なインビジブルマン。例えば運営の人間でも、ハッカーでも、それこそ誰でも可能だし、誰でも構わないのだ。当てられるはずがない。はずが、ないのに……風街だけが、青ざめた表情で、指先を震わせた。

 

「……嘘だ。そんな、あり得ない。でも、……まさか」

 

「風街さん……何か、分かったんですか?」

 

「……」

 

彼は、葛藤しているようだった。なぜ? 風街にしか分からない何かがあるのだろうか?

 

「……風街さん?」

 

 

「……」

 

目を瞑り、ぎゅっとこぶしを握った。……彼は語ろうとしない。

 

……風街にしか分からない何かがあって、それを隠そうとしているのなら……。

 

おそらく、僕らが解けるか分からない領域の事柄なのか、それとも……彼にとって不都合な真実なのか。不都合な方であれば、おそらく推理が出来る。

 

……推理、していいんだよね? 

 

嫌な予感がした。

 

でも、ダメだ。前に進まなければ、前に、前に……。

 

そうじゃないと、ダメだから……。

 

どうすればいいんだろう。

 

どこから推理すればいい? 

 

事件の概要としては、ミニゲームをクリアすると何かしらのステージギミックが発動するのだから……。

 

待てよ。つまり、……、ミニゲームクリアで、殺人事件の関係者になってしまうのでは? 

 

そうだ、もしミニゲームが事件に関わっているのなら、僕と、ウンフェルスと、風街が事件に関わっているということになる。

 

そうか、風街が黙っている理由は、自身が殺人に関与していると思っているからか!? 殺人は2名までというルールがある以上……僕も風街も、クロになっている可能性がある。

 

くそ、じゃあ僕の方がクロになっている可能性が大きい。

 

明らかに運営は僕、威鳴、入間を狙い撃ちにしたトリックを構築していた。だから僕が犯人になって……、……。

 

あれ? なんだこの違和感は。いや、変だ。おかしくないか……? 僕は一回しかクリアしていない。一度のクリアで3件の殺人なんて無理なはず。

 

考えろ、ここに違和感があるんだ。絶対に逃がすな。

 

もう一度死因を考えるんだ。亜酔昏さんはボーガンで撃たれた。誰が撃ったかは不明。

 

確か、僕がゲームをクリアしたと同時に花火が鳴った。それに合わせるように、ボーガンが撃たれた。

 

……。同時? ゲームクリアに合わせて花火が鳴るなら、同時は難しいよな……。

 

タイムラグが多少はあるはず。よく思い出せ……っ!

 

 

 

 

 

突然、ぱぁんと花火が鳴って、ドンッ、と強く肩を押された。何がなんだか分からなくて、そのまま地面に倒れて、何をするんだよ、と声を荒げそうになった。

すとん、と間の抜けた音が聞こえて、彼女は、タブレットの下で倒れた。体を横に倒した彼女の胸に、一本の矢が刺さっていた。 そして、綺麗な花火が、もう一発撃ちあがった。

 

 

 

 

 

同時に花火が起きたのか、タイムラグが発生したのか分かりにくい……。ゲームクリアと同時に花火が鳴るのか、それともゲームクリアと表示されてから打ち上げの準備が始まるのか、分からない。

 

 くそ、堂々巡りになってる気がする。それが分かったからって特に意味はないんじゃないか……? もうダメだ、訳が分からない。なんでこんなことをしているんだろう。僕は、僕は……。

 

 ……なんでこんなことをしているんだろう? 

 

ん? なんで、こんなことを……? 目的、理由、……動機。

 

そういえば、この事件どうして起こったんだろう。この事件は運営が糸を引いていて、3人を殺害した。

 

……理由なんてないよね? 待て、逆か? なんで僕らは生き残っているんだ? この学級裁判は配信されていて、多くの人が見ている……として。

 

コロシアイを楽しんで見ているわけだから、……運営はコロシアイのルールを破ることはない。

 

でも、運営は外部から呼んだ幽霊を、クロとして差し出した。訳が分からない。運営は僕らをどうしたいんだ? 

 

入間を殺すにしては、いささか遠回りが過ぎるような気がする。威鳴、秋冬を殺すにしても、杜撰じゃないか……? 

 

結果として小春も幽霊も矢面に立たされて……。ややこしい、ややこしすぎる。――ややこしく、している? なんでだ? 

 

運営が犯人を分かりにくくしてメリットはあるのか……? メリット。メリットは……ない、はず。

 

視聴者だって、分かりやすく楽しめるものを求めるはず。クロを当てられない方がフラストレーションがたまってしまうのでは……。

 

……クロを、当てられないと、僕らが死ぬ……。

 

 

 

 

 

 言い換えれば……。クロを当てさせなければ、クロだけが生き残る?

 

 

 

 

 

「ああああああああああああああああっ!!? そうか、そういうことなのか!?」

 

「うわあなんだ急さ叫んで!?」

 

「なんでこんな運営が率先してミニゲームを用意して、訳わからない、ややこしい事件を用意したか分かったんだ。クロを当てさせず、クロを生き残らせようとしたんじゃないか!? 運営は、明らかに僕らを混乱させて皆殺しにしようとしてる。配信の企画が成り立つようにしつつ、上手く全滅を狙うためには、それしかなかった!」

 

であれば話は早い。幽霊の正体が誰かは分からないが、幽霊の動機は分かる。クロを生かそうとしている。そして……誰を生かそうとしているかも、分かる。

 

 

 

 

 

「……小春そらの、コマンド入力……」

 

 

 

 

 

あのコマンド入力が関わっているのだとしたら。そのコマンドが全ての殺人に関与しているとしたら。

 

二つ目のルール破りをしたことになる。

 

そして、小春そらのコマンド入力後にゲームをクリアした人間は、一人しかおらず、一人で、三人を殺したことになる。

 

それが合っているかは分からない。

 

だが、幽霊が殺したことにして、誤魔化すつもりだったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

「風街ピリカが、クロ……? 運営は、風街さんだけを生かそうとした……?」

 

 

 

 

 

「……」

 

裁判場が、静まり返る。手で顔を覆い隠し、震えた声で、風街が訴える。

 

「……音楽室に、楽器があったんだ」

 

「……?」

 

「僕の、楽器のレプリカだった。その楽器を知っている人なんて、Vとしての僕を知ってなきゃ無理だ……」

 

「……」

 

「そして……、オンラインで映像を流すとか、監視カメラの映像を全部チェックするとか、タイミングを合わせて施錠したりとか。そんな、電脳の世界で強い人間。……僕は、Vtuberで、仮想の世界を……知っている」

 

 

ふと、あの日の、浜辺での会話を思い出した。第二の事件が、終わった後。

 

 

 

 

「僕は物語を描き続けた。そしたらね、僕は……恨まれてしまった。Vtuberたる理由の一つだったのかもしれないけれど、物語の人物の一人が、意思を持って僕を拒絶したんだ。物語の中の人物たちは、その後も生き続けた。……そのせいで不幸にさせてしまった人がいたんだ」

「そんなこともあるんでござるなぁ」

「うん。そして僕は現実世界から、彼女を……。仮想の世界へ、未来を紡いでもらいたくて、送った。……友達と今は楽しく過ごしているはずだよ。でも、今の僕を見たら本気で怒ってきそうだ。ハッピーエンドにしろって」

 

 

 

 

 

「……まさか」

 

「僕の、友達に……仮想の世界で……電脳の世界で生きる人間がいる……」

 

彼は、必死に激情を抑えるように、友達の名を呼んだ。

 

「……F(ファル)?」

 

 

 

 

 

 

 

 

こぽり、と音がする。電子の海の深いところで、スクリーン越しに男が話す。

 

「これ以上、計画にほころびがでるのはこちらとしても不都合だ。よって、君には直接向こうで動いてもらう」

 

「君には、アップグレネード学園の生徒を上手く殺してもらう。君の、運営側の人間としての動きだ。出来なければ、……君にとって大切な“ヒト”が死ぬ。それはこちらとしても望ましくない」

 

――あぁ、最悪だ。最悪の物語だ。腹が立つ。ただただ納得できない。そんな物語、大嫌いだ。この絵を描いた作者に文句を言いに行く、それだけなのだ。

 

ごぽり、と音がする。不快で、どうしたって自分からは切り離せない音。思考が、0と1の数字の合間を縫って形成されていく。

 

“入間博士が裏切った。残念ながら、協力を仰ぐことができなくなった。彼女も殺さなくてはいけない。さてどうするか。こちらとしては、「アイツ」だけ生き残らせればそれでいい。上手く正体に気づかれず、それでいて、「アイツ」にだけはバレないようにしなくては。……自分の存在を知った時点で絶対にアイツは、バラす。上手くやらなければならない”

 

 

 

 

 

 

雷が鳴ったような衝撃と光。どしんと音を立てて、……裁判場の、14個目の席に、アナログなテレビが上空から勢いよく落ちてきた。演出で雷が落ちたように見えただけだろうか。

 

ぶつん、と音を立てて、テレビから音が出てきた。

 

『――――最悪よ。まさかこんな手痛い裏切りに会うなんて思ってもなかった』

 

画面上に映った、白い髪の少女。紅の瞳。魔女のような服装。鋭い眼光、憎々し気な口調。

 

……この島の14人目の来訪者。電脳に生きる、V。

 

彼女は、かつてFと呼ばれ、今はファルと呼ばれている。

 

風街ピリカによってかつて語られた物語の登場人物。意志を持ち、風街ピリカを否定した存在。

 

そんな彼女が、……運営に遣わされた、最後の敵であった。

 

「え、誰です……?」

 

入間が困惑する。風街が項垂れて、強く握りしめていた拳をより一層握り締める。血が出るほどに。

 

「僕の……友達だよ。仮想の世界で生きる、……紅の魔女」

 

『やめて。あなたと友達とかおへそでお茶が熱くなっちゃうから。あなたのせいでバッドエンドを迎えた私が、今さら仲良くできると思うの?』

 

――曰く。その少女は村で唯一紅い瞳を持ち、"魔女"と呼ばれ蔑まれていた。逃げるように禁忌の森に住み、傷ついたカラスを助けた。彼女はカラスと心を通わせ、絵本を広げる。蒼い瞳を持つ魔女は、美しい声を持ち、理想郷へ連れ出してくれるのだ。それを夢見た少女。理想郷なんてないことを知っているのに、どうしたってその本が好きだった。だって、誰もが幸せになるような展開、誰もが笑顔でいられる場所。頭では分かっているのに、どうしても、このお話が好きだったのだ。そして、彼女の願いは叶えられる。最悪の形で。そのカラスは、蒼い瞳を持ち、その声を聴いたものの魂を奪ってしまうのでした。少女は息絶え、カラスは紅い瞳で、空を飛び立っていくのでした。めでたしめでたし。

 

 

 そんなことが許されるはずがない。そんな物語認めない。彼女は意志を持ち、Vtuber風街ピリカの語る物語によって自分のような悲劇を迎えた人物が生まれていることを知る。彼の信念、どんな事実であれ語るべき物語に誠実足らんとすることが、逆に彼女にとって義憤の対象となった。

 

 

――――これ以上私のような人間を増やさせない。

 

 

物語のように、カラスの声が鳴り響き、彼女の物語を愛した一人のリスナーの体を乗っ取り、元々いた世界、天才博士風街美音が作成した異世界「現実を模したVRゲームという名の仮想世界」を脱出し現実という理想郷に至った彼女は、風街ピリカの排除を実行した。様々な事情から失敗し、仮想世界の中で、友人となった風街美音と共に未来に向かって生きていく。それが、今の彼女の物語であった。

 

 

「ファル……どうして。なんで君が」

 

「……」

 

彼女は何も語らない。おそらく、彼女にとっては非常に重要なことなのだろう。腕を組んで、じっと悩んでいる。

 

『……そうね。まだ悪足掻きは出来そう。ここまで状況を複雑に、かつ私にもあなた達にも不利になるような展開でイライラするけれど。何もしない女の子をやるのはやめてるの』

 

映像が乱れ、彼女の瞳の紅が轟轟と燃え盛る。

 

『この物語は最低よ。風街ピリカ、かつてのあなたと同じ。みんなが不幸になるような物語なんて気に入らない。物語の住人はそれで本当に幸せだったのでしょうか? と聞かれても、そういう物語だからと肯定するような姿勢が気に食わない。そして何より……っ。秋冬ハル。私はあなたが気に食わない』

 

「……えっ?!」

 

な、なんだ。どうして僕の名前が突然上がったのだ?

 

『自分でも分かっているでしょう? その推理よ。こんなコロシアイのルールを律義に守って、ひたすらに謎を解いて、人を処刑台に送るあなたが気に入らない。あなたならどうとでもできたはず。学級裁判? コロシアイ学園生活? そんなもの全部しっちゃかめっちゃかにして台無しにすればよかった。あなたが真面目にこんなことする必要はなかった。記憶のあるあなたならそうした。記憶を失った程度で甘えないで。絶望を勝手に一身に背負っても結構だけれど、バッドエンドに繋がるなら私はその物語を否定する』

 

「っ……」

 

何が分かる、とかそんな言葉が最初に過って、次に、そうか、推理しなくて良かったんだ、こんなの嫌だと滅茶苦茶にするのも手だったんだと、勝手に腑に落ちた。

 

死なないために必死だったけれど、……そうか、その手もあったんだ。

 

『だから……これは嫌がらせよ。本当に心のささくれを一時的に取り除くための嫌がらせ。推理で人を殺す貴方の物語を嫌った私の本気の嫌がらせ。こんな物語に加担させられた私の自己嫌悪。――――あなたを殺して私も死ぬ。逃がさないから』

 

ぞくり、と背筋が凍る。初めてかもしれない。裁判場で、いや、生きてきた中で、本気で殺意を向けられたのは。

 

『私は……。そうね。【私は秋冬ハルと共犯である】なんてどう?事件は私が魔法で起こした。さぁ作家みたいな推理をする探偵さん、最後くらい付き合いなさい』

 

「ファル……っ」

 

風街が叫ぶ。既に彼女は止まらない。……きっと、彼女は本気でこんなことを望んでいるわけではないのだろう。殺意と、焦燥。彼女はハッピーエンドが好きなのだろう。だからこそ、自分もこの展開が気に食わない。それでもやるしかない事情があるのだろう。……でも、そのままにしていいわけがない。僕は、絶対に生きなきゃいけない。そのために……、彼女の嘘を、否定する。

 

『さぁ始めましょう。この物語に、F inと記すように』

 

 

 

議論再開。

 

 

 

 

 

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