Vtuber学パロダンガンロンパ風序盤ギャグガチンコミステリー小説   作:茶鹿秀太

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非日常編 第一章 「イキキレル」4

亜酔昏ヨイはその日、屋上にいた。

 

屋上の柵を超え、一人立っていた。

 

下を見ると、近くに水飲み場があって、階段を降りるとグラウンドに行ける道もある。

 

わずかな、グラウンドと校舎の隙間にある道が、やけにきれいに見えた。

 

 

「……なんだか、もう、嫌だ」

 

諦観に近かった。

いつからだっただろう。医者になりたいと思ったのは。

 

生命について、考えたことがある。

 

助けられない命があると知った日がある。

 

――未来が明るいものだと信じていた時がある。

 

でもどうなんだろう。

 

学べば学ぶほど、見える景色が増えるほど、もしかして未来って暗いんじゃないかな、と思うようになってきた。

 

もし、もし未来が……私の手によって変わるのならば、それでも良かったかもしれない。

 

明るい未来を、自分で作れたかもしれない。でも、でも。

 

私は失敗するような気がした。

 

まっとうな医者になれる気がしなくて、就活とかも全部ダメになるような気がして。

 

ただ偏差値をあげる為だけの学習が、空虚に感じてしまって。

 

救いたいという気持ちもあるし、必死さもあったし、たくさん頑張った。

 

でも、記憶が失われて、訳の分からない夏休みを過ごせと言われ。最初こそ楽しめたけれど、ふと気づいてしまった。

 

あ、しまった。私の努力、消えちゃってる、と。

 

記憶を失ったせいで、今まで分かってたような気がしたものが全く分からなくなっている。

 

今まで自然と口に出せたことが、もやがかかったように出てこない。

 

私は、私の大切な努力を、信念を、全て奪われてしまっていた。だから、急に。

 

――――殺しあえと言われて、全てがどうでもよくなってしまった。

 

「――、もう、いいか」

 

風が強く吹いた気がした。その風に導かれるように、一歩、踏み出そうとして――。

 

「亜酔昏さんっ!!!!」

 

風並将吾が、屋上に立っていた。

 

「一体、何をしてるんだ! やめろ! やめるんだ!」

 

「!? や、やめてくれ!」

 

彼女の手を掴んで、必死に柵から引き寄せようとする風並。

 

反射的に恐怖を覚えてしまって、それに抵抗する亜酔昏。

 

それは、命を助けようとする行為だったのだ。

 

彼女が本来その立場だったはずだったのだ。医者の卵として。だから。

 

「あっ」

 

風並の声が、ふわりと空中に浮いた。

 

偶然だったかもしれない。

 

足を滑らせたとか、柵が上手くてこの原理のように働いたとか、理由はいくらでも考えられる。

 

大事なことは、亜酔昏は、無事で。風並が、落ちたことだった。

 

「……ぁ、ぇ、ふ、風、並……」

 

屋上から見たきれいな道は、物言わぬ死体が、真っ赤な血の花を咲かせていた。

 

「い、いぁ、ちが、わ、え、わた、ちがくて、ごめ、ごめんなさ、あ、いや、うそ、あ、あぁああっ、~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ」

 

叫ばなかったのは、自己防衛に近かった。

 

涙も、胸から湧き出る苦しさも、全部奥歯がかみしめた。

 

その時、彼女に浮かんだ思考は、ただただ無情にも。

 

(――生きなきゃ)

 

それだけだった。反射に近い思考だった。

 

医者になりたいから。

 

イノチを救いたいから。

 

――殺してしまったから、自分が死んでしまったら、彼の命が無駄になってしまうと思ってしまったから。

 

それはきっと御伽噺のような思考回路。

 

なりたいものになるための青春の日々が、それを失わせないようにと、生きて、救わなければいけないと。

 

自身を責めるように、罪の十字架を背負って生きなければならないという覚悟を持つように。

 

生きなければいけない。生きて……。

 

生きて帰らなければ、家族にも会えないし、友達にも会えなくなるし、今までの勉強だって無駄になってしまうし。

 

犯罪をしてしまうのはいけないことだから生きて償わなければいけないし。

 

あぁそうそう。そういえば新作のゲームがあって。

 

それもやりたいし。裁判になって、前科持ちでも医者ってなれるのかな。

 

あぁ。難しい。面倒くさいなぁ。ははは。

 

「ぅぅぅうぅう~~~~~~~~~っ、ぐぅうぅぅうううぅうぅうぅぅう~~~~~~~~~~~~~~~~っ」

 

歯を食いしばって必死に声を出さないように、一歩ずつ進んでいく。

 

涙一つ流せない。絶望がただただ喉元から胸にかけて暴れ狂ってる。

 

そして……気付いたら、目の前には死体があった。

 

風並は、仰向けになって、もう死んでしまっているみたいだった。

 

あぁ、本当に死んじゃった。

 

「ごめ、ごめんなさい……ごめ、んな、さい……ぅぅぅぅぅう……ごめんなさいぃ…………ごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ、ごめんなさいぃぃぃぃぃ」

 

――ごめんなさい。この期に及んで、生きたいと思ってしまってごめんなさい。お医者さんになれずに、命を奪ってしまってごめんなさい。死のうとしてしまってごめんなさい。人生に絶望してしまってごめんなさい。

 

――そんな願いは、神様にも届かないと知っていて。

 

 

 

 

 

「そんな……」

 

僕は彼女の話を聞いて、なんとも空しい感情だけが心を占めた。彼女は、殺意なんてなかったのだ。

 

「――私が、生きなきゃ、無駄に、なってしまうと思って……死因を、偽装した。分かっていた。分かっていたんだっ。そんなことをしても、自分勝手な都合をみんなに押し付けているだけだとっ! 医者になりたいがために、人の命を奪ってしまった独善的な思想が、こんな、こんなことをしてしまってっ!!! 私が、私がぁ……っ。私が、殺したんだ……」

 

「……」

 

誰もが、殺しただなんて、思えなかった。

 

だって、彼女を救うために、風並将吾という男は動いたのだから。

 

不慮の事故、だったのだろう。

 

あぁ、なんて。ひどい話だ。こんなことを知るために、僕たちは事件を解き明かしたのだろうか。

 

心の闇や、不運を暴いて、僕たちも、生き残るために、死者の墓を論理で暴くように。

 

「殺してほしい」

 

亜酔昏は、きっと今まで流せなかった涙を、今、ようやく流せたんだと思った。

 

「――私が、悪かった。ごめんなさい。恨んでくれ。みんな。私はもう、こんな、生き汚い自分のまま生きたくない。私を……」

 

「――終わったね」

 

風街の言葉を聞いて、全員が動き出す。あぁ、こんな虚しい結末。ひどい話だった。

 

でも彼女は、きっと、もっと苦しかった。それだけなのだ。

 

「さぁ、投票を――」

 

その時だった。

 

 

 

『バカだなぁ。まだ分からないのか? 記憶失った程度で思考を止めるなって』

 

(――えっ)

 

頭の中で、声が聞こえた。

 

『騙されるな。この結末こそが風並将吾の脚本(シナリオ)だ。考えろ。思い出せ。まだ事件は終わって――』

 

 

 

 

「――ちょっと待ってくれっ!」

 

僕は、叫んだ。なんだ、冷や汗が止まらない。なんだ今の頭の声は。今何を思った。事件は終わったんだ。何をしているんだ僕はっ!?

 

「えっと、秋冬さん?」「なんだ?」

「どうしたの?」「もう終わったのでは」

 

分からない。なんだ。僕だって分からない。

 

ただ、やばい。

 

何かが頭の中で警鐘を鳴らし続けている。

 

なんだよっ!? 

 

もう疑問なんて一個もないっ。

 

速く終わらせて投票を――。

 

 

「――なんで、スマホのメモ帳を出してたんだ」

 

 

あ、あぁ、あああああああああああああああああああああああああああああっ。

 

「風並は、なんでスマホのメモ帳を出してた? なぁ、まさか――」

 

僕は、閃いた。閃いてしまった。

 

「落ちた後も、アイツは生きてたんじゃないかっ!?」

 

「は、はぁああああああああ?????」

 

岩手が絶叫する中、思考だけが加速していく。

 

「そうだ、そうだ死体の状況っ。関係あれ、関係あってくれ……亜酔昏さんっ」

 

「っ!?」

 

「教えてくれ亜酔昏さんっ。死体の状況で、なんで、なんでっ」

 

 

どうやら、頭から血が流れてるみたいだ。鼻の周りに青い痣ができてるのも見えた。指先と唇が……少し青くなってるような気がする。

 

 

「――なんで、鼻の周りに青い痣があったんですか!!? 頭からの墜落じゃ付かない傷、殴ったり、とか、全くしてないなら、亜酔昏さんっ、何か、何か心当たりはっ」

 

亜酔昏が、困惑と、疑問と、悲しみを携えながら、息を漏らすように、こう答えた。

 

「――――ぇ、知らない……」

 

「!?」

 

頭の中が暴れ狂う。

 

糸口を掴んだ推理の怪物が暴れだす。

 

なんだこれは。僕は、なんで。なんでこんなに嫌な想像が膨らむんだ!?

 

「ごめんみんな、最後に、最後に一個だけ謎を、疑問を解消させてほしいっ。頼む、もしかしたら……っ」

 

――最後の議論が始まる。

 

 

 

 

 

僕こと秋冬ハルから最後のテーマを話す。

 

「なんでスマホのメモ帳が起動したまま、ポケットに入ってたんだろう」

 

入間が思い付きで指摘する。

 

「死ぬ前に、起動したんじゃないんですか? 【屋上に行くときとか】」

 

亜酔昏が憔悴しながら、二の句を次ぐ。

 

「私は……【スマホには触ってない】」

 

威鳴音月が呆れたように呟く。

 

「【特に意味がないんじゃないか?】」

 

ウンフェルスが興味深そうに話を掘り下げる。

 

「【ダイイングメッセージ】を残そうとして、失敗したのでは?」

 

「ウンフェルスさん。【それに賛成です】。ダイイングメッセージの可能性があったんじゃないかな」

 

「【ちょっと待ってぐれ】。ダイイングメッセージってなんだ?」

 

風街ピリカがにこりと微笑む。おそらくだが、彼はミステリーとか好きなタイプなんだろう。

 

「死ぬ前に残す一言。誰に殺されたかを伝えるための、最後のメッセ―ジのことをダイイングメッセージっていうんですよ」

 

そう、そうなのだ。メモ帳が起動していたのだ。それが、それがもしダイイングメッセージの可能性があるのならば。

 

「もしかしてさ、風並さん。屋上から落ちた後も、生きてたんじゃ……」

 

「そんなバカなっ、バカな、うそ、嘘だぁっ!!!?」

 

亜酔昏が吠える、しかし、なんだ。嫌な予感が止まらない。

 

推理に近い妄想が、そう、妄想が何故か勝手に真実を掴もうとしてしまう。

 

「――そうだ。そうだった。まだ疑問はあるんだ」

 

すっかり忘れていた記憶の片隅の情報。

 

 

「……ここは、さっきの」

ホース遊びをした、水飲み場。地面はもう水たまりができるほどびちょびちょだ。しかし、ぬかるみの中にあった判別のつかない靴跡に、……反応があった。おそらくこの感じだと……3人分だろうか? 足の大きさ的に。でもこの靴の人が犯人なのか? いやでも、ここで遊んでいた人たちがいたわけで……?

 

 

「三人分の足跡……。一人目が、岩手さん。二人目が、……推定で、おそらく偽装工作をした亜酔昏さん。もう一人、もう一人いるんだ。あ、あぁあああああああああああああああああああっ!? そうだ、そうだよ!!!」

 

僕はさっき言ったのだ。自分で言ってて気づかなかったのだ。

 

 

「【その推理は否定できるよ!】 死体発見アナウンスは2人が死体を発見した時に放送される。僕が見た景色は、クロカメさんが死体を発見した後に叫んで、アナウンスが流れた。つまり、クロカメさんがただの目撃者の可能性を示唆している。死体発見アナウンスが、彼の無罪を証明してるんだ!」

 

 

「死体を発見したのは、クロカメ、犯人が亜酔昏、だとしたら、もう一人、もう一人いるんだっ!? なんで、なんでもう一人いる!? 誰か、誰か心当たりはっ」

 

「お、落ち着くでござる秋冬殿っ! 一体どういうことでござるか!?」

 

「ちょっと考える時間をください!」

 

「あ、はい」

 

「なんでそごで折れるんだよおい! あとござるを付けろ剣道部だろ!」

 

「ござるに対する偏見是正運動止む無しかっ!」

 

ダメだ、なにも分からない。なんで三人いる? 

 

そして、犯人がもう出てきているのに、なんで出てこない?

 

 なんで、なんで。その瞬間、ふと、目をあげたタイミングで、亜酔昏と目が合った。

 

「――亜酔昏さん、もし、もし死体があって、指先と唇が少し青白くなっていたら、どう思いますか?」

 

速水が僕に怒鳴る。

 

「ちょっと、何聞いてるの。あの子犯人でしょ。聞いてもはぐらかされちゃったらどうするのさ」

 

「ごめん速水さん。でも大事なことなんだ。これは、医者の卵の亜酔昏さんが詳しいはずなんだ。頼む亜酔昏さん、教えてほしいっ、なんで、なんで青白くなるっ!?」

 

「そんなの【出血多量】とかで……」

 

「いや」

 

速水の言葉を遮るように、亜酔昏が、立ち上がる。

 

「いや、いや。そうじゃない、指先も青白いなら……。あ。ふふ、すまない、もう、私の言葉なんて、信じられないかもしれない。別に、これを言ったからって、自分の罪を償わないわけじゃない。医者になりたかった人間の最後の問答だと思って、聞き流してくれ。例えば、……唇と指先が青白いなら、他にも、【酸欠】がある」

 

「さん、けつ」

 

――その時、僕は今まで潜伏していた、クロと目が合った。

 

その人は、あぁ、なんで。最後まで僕を騙してくれなかったんだろう。

 

おそらく、騙しきるつもりで、ずっとこの議論に臨んでいたに違いないのに。

 

……最後の最後で、どうして、そんな顔をするんだろう。

 

諦めきって、疲れ切って、――振りかざす論理の鎌に対し、「いいですよ、どうぞ」、と言ってくれるように。

 

「――これが、本当の事件の全容だ」

 

 

 

 

 

亜酔昏に落とされた風並は、生きていた。

 

そして、ダイイングメッセージを残そうとスマホを起動して、真犯人Ⅹと遭遇した。

 

そして……鼻周りを抑えて、呼吸困難による窒息死を迎えた。その後、真犯人Ⅹは逃亡、亜酔昏と入れ違い、亜酔昏が偽装工作を行った。

 

Ⅹは、もしかしたら。血の付いた靴を気にしたんだろうか。

 

あぁ、きっとそうなんだろう。――Ⅹだけが、あの場で靴を洗っていたのだから。

 

でも、現場に残された靴跡だけが、その踏みしめた血を残していた。

 

「ダイイングメッセージを残さなかった理由が、あったんだ。きっと、……きっと。っ、その人に、っく、生き残って、ほしくて……、いや、そうだったんだ……っひっく」

 

なんでだろう。

 

なんで、僕は泣いているんだろう。

 

「いなくなったから、気付けたんだ……。ずっと、仲良くしてたから……演劇の話で、ずっと一緒に練習していたから……っ。風並さんは、残酷だけど、亜酔昏さんが生き残る可能性よりも……大切な人に、生き残ってほしいと願ったんだ……。この中に、風並さんがダイイングメッセージを残すことなく、納得して殺されることを選んでもらえて、っ、とても、最後まで疑われないような、演技が上手い人……」

 

どうして、彼女なのだろう。どうして、そんなシナリオになってしまったんだよ。なぁ、風並さん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「鈴さん。なんで……」

 

「あはぁ。まぁ、逆に良かったんですよ秋冬様。だって、このまま一人生き残るの、亜酔昏様を見てたらしんどくなってしまって」

 

そこにいたのは、演技をやめた狐耳の少女。もう演じるのをやめて、風並を心から悼む、一人の演劇仲間だった。

 

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