元俳優、タヌキVtuberに転生する   作:桜 寧音

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8章 2024/9~
『ウルプロ』頂上決戦、開幕!


 新衣装を発表して数日。

 今日はオフコラボのために事務所に来ていた。15時前に到着して提出物などを渡して五反田マネージャーとスケジュール確認ややるべきことなどを話し合っていた。楽曲の提供に他社所属ライバーとのコラボや案件、これからの会社としての予定など、年末が近いからか結構詳細なスケジュールが展開された。

 9月末で一般企業は上期が終わるし、正直3ヶ月なんてあっという間だ。年末までのスケジュールを抑えられてもおかしくはない。年始のこともいくつか確認されて、問題ないと答えつつ何に参加するか共有していった。

 こっちとしても収入や経費などを纏めないといけないから結構大変だったりする。大学生はまだ夏休みらしいけど、高校生以下は学校が始まっているし、社会人は上期決算のことがあるしで諸々嫌がられる月ではないだろうか。

 シルバーウィークと呼ばれる連休もあったりして、休みの日数は多いのだけど。

 

「いやホント、リリ君は提出物がしっかりしてるし、スケジュールの確保もしやすいから助かるよ」

 

「専業ですからね……。他の方は働いていたり、学校があったりでスケジュール確保しづらいだけでしょう?」

 

「それはそう。その代わりと言ってはなんだけど、作曲とかで忙しいじゃないか。他の人と同じくらい働いてるとは思うけど……」

 

「給料の安定性が違いますよ」

 

 配信者や芸能人なんて収入が安定しない職業として有名だろう。仕事の数や再生数などで収入が変わってしまうので保証や保険、制度の充実などを考えたら会社員が一番良い。とんでもなく給料が貰えるようになるには時間がかかるけど、ボーナスや年金、その他諸々が会社から確実に与えられるんだから会社員は給料や生活が安定しやすい。

 ブラック企業や業種によってはそんなことも言えないけど、ライバー業の他に働いている人は正しい選択だと思う。俺の作曲家として入ってくる印税なんてほんの少しだからな。

 

「ああ、あと今日はいませんが新人2名が今月中旬デビューします。男性2人ですよ」

 

「男性ですか。全体周知は今日ですか?」

 

「いや、明日の予定。何人かは事務所で会ってるから、知っているんだけどね。4期生になる」

 

 直前がチェリーさんと但馬さんの女性2名だったからなあ。今度は男性でバランスを取ろうとしたのか、逸材が男性しかいなかったのか。

 エクリプスのライバーデビューは割とゆっくりだ。というより、そこまで一気に会社を大きくしたら事務処理やマネージャーやスタッフの人材育成などが追い付かないためにわざとゆっくり、少人数にしているらしい。この前社長と飲んだ時にそんな話をしていて、ドロッセル先輩がバズった後はそれはもう大変だったとか。

 人を多くしすぎて今いる人が困るような事態にはしたくないらしい。立派な心掛けだと思う。

 1時間ほど五反田マネージャーと会話した後、社長が戻ってきたようでフロアにいる全員に挨拶をしている。スーツを着ているが、どこか疲れた様子だ。スーツに黄昏感が出ている。

 

「お、リリと五反田。打ち合わせ?」

 

「はい。年末年始のスケジュール確認です。社長、お疲れですか?」

 

「あー、まあライバー応募者を見てて頭が痛いって感じだな。お前にも関わる話だから話しておくか」

 

 社長が空いていた椅子に座る。ブースとか会議室とかでもなく仕切りもないただの丸机で話して良い内容なのだろうか。新人ライバーに関わる、募集要項とかの話だろうに。

 

「最近元声優とか元俳優とか多くてな……。募集要項に一応芸能活動歴があれば記入しろって欄を作ってたんだけど、そこの記載が酷くて」

 

「なんちゃってが多いとか?」

 

「事務所所属じゃなくてただ有料の劇をやったとか、同人ボイスを当てたとかならマシな方だ。嘘八百を書いてる奴までいる。履歴書とか酷いぞ?」

 

「うわぁ……」

 

 そこまでしてライバーになりたいのか。配信者の煌びやかな姿を見ていてなりたいと憧れるのは良いけど、嘘を書くのはなぁ。

 実際最近のVtuberは多方面に活躍している。地上波に出たり、渋谷や新宿の大型モニターで紹介されたり、看板が出ていたり。ライブをやってもチケットはすぐ完売レベル、芸能人とコラボしたり、ゲームでライバーじゃなく声優として参加したり、漫画やアニメになったりと黎明期に比べれば大分一般にも認知が広がってきただろう。

 そして配信者あるあるで、お金の使い方が豪快だ。ある程度経費で落ちるということもあるが、何百万する高級なブランド物を買ってみたとか、タワマンに引っ越したとかを配信するストリーマーさんも多い。

 あとはなんだろう、有名な人と直で会いたいとかあるんだろうか。ファンだから応募しました、みたいなこともたまに聞く。

 元俳優か。知り合いには会いたくないものだ。

 

「去年の春先と秋に、芸能界で不祥事が連発しただろ?春の声優業界による恐喝とか枕営業的なものの噴出。それに比べれば秋のアイドルと女優の不倫なんて小さな出来事だったんだろうが、そういうことの積み重ねで芸能界を追い出された連中がいるわけだ」

 

「やらかして居場所を失ったんですね?」

 

「で、そいつらが今Vtuber業界にやってきてると。悪質な元芸能人が多くて、Vtuber業界で組合を作って芸能界とも連携を取ってるんだよ。要するにブラックリストの共有だな。双方向に悪い人間を採用しないようにっていう規約だ。これのおかげで何人か書類の時点で弾けた」

 

「よく芸能界が協力してくれましたね……。あっちってテレビとか映画業界とかと繋がりが強くて、動画側とはあまり関わらないと思ってましたけど」

 

 俺の感覚からすれば芸能界とVtuber業界は割と別業種な認識だった。Vtuberの仕事が多岐に渡っているとはいえ、本業はあくまで配信業。ライブなどを毎月のようにやったりするような職業じゃない。そういう事務所もあるけど。

 あとは芸能人が3Dのアバターの姿を作ったりもしているのを見たけど、何で生身を既に晒しているのにVtuberになるんだと甚だ疑問にしか思えないムーブもやっている。芸能界に居たとはいえ、おそらく表層しかわかってないんだろうなとも思う。

 

「実際、金が動くからなぁ……。市場として協力する方を選んだんだろう。あとは芸能界に抗議文がめちゃくちゃ行ったらしい。元芸能人のやらかしが多すぎて、逆に元配信者がテレビでやらかしてもあったから、双方蹴落とすより協力した方が儲かると思ったんだろ。あとは配信のノウハウが欲しいと思ったらしくてそういうのも協力する代わりにこっちはラジオやテレビの仕事を貰うって形で落ち着いた」

 

「ギブアンドテイクってことですか」

 

 それなら理解できる。芸能界ってかなりの金の亡者だから、金の匂いのする業種には積極的に関わってくるだろう。

 一般認知度上がったなあと思っていると、社長がノートPCを持ってきた。そしてとある画面を見せてくる。

 

「ほい、新人募集の顔写真と簡単なプロフィール。元俳優のやばい奴がいたら弾いてくれ」

 

「スタッフじゃないんですけど……?そもそも俺だってあまり詳しくないですからね?」

 

 というわけで軽くスクロールして見ていく。結局知らない人ばかりで、唯一弾いた人は俺の劇団に所属したことがあるものの数ヶ月と保たずに辞めていった男性くらいだろう。

 俺より歳上で、アルバイトをしながらの俳優人生は食っていけないと言って就職して消えていった人だ。直近で仕事も辞めているし、これは弾いて良いだろう。

 

「いや、助かった。いるもんだなぁ」

 

「無職の方をピックアップしてたのは、俺のように長い時間ライバーとして活動させられるからですか?」

 

「それもあるけど、自己紹介の短い動画で声は良いなって思ったんだよ。滑舌が微妙なのと、心こもってねーなーとは思ったけど、一応アリ側で残してただけ。そんなん言ったらケインとか宗方とか演技に関しては終わってるだろ?」

 

「否定はできないですね……。ロールプレイを守ることは大事ですけど、演技は二の次なところがVtuberにはありますから」

 

「そういうこと。今日ってコラボだよな。そろそろ準備しなくて大丈夫か?」

 

「良い時間ですね。スタジオに向かいます」

 

 2人と話していたり仕事をしていたら17時を過ぎていた。集合30分前だし、その前に諸々準備をしておいた方がいいと思ってスタジオに行ったら既にドロッセル先輩と何人かのスタッフさんがいた。挨拶をするとドロッセル先輩が近付いてくる。

 

「リ〜リ〜君っ!ちょっとそっちで話さない?」

 

「え、はい……?」

 

 なんかやらかしたか、と思って他の人に聞こえないようにスタジオの端に行くと、予想していなかった話をされる。

 

「リリ君、言ってくださいよ。エリサさんのことが好きなら好きと。こちらからフォローしましたよ?」

 

「いえ、いいです……。というか、FPS大会の打ち上げで霜月さんに俺のこと押し付けましたよね?元からちょっかいかけてるじゃないですか」

 

「確かに。いやでも、素敵なことですよ?ライバー同士での恋愛って滅多にありませんし。皆さんどこか避けてるというか、そもそも同僚や他社の取引相手だからとそういう対象になっていないような……?」

 

「そういう感覚は、やっぱりあるんですね」

 

 ライバー同士だとしても、同じ事務所なら仲間とか同僚みたいな感じで、他社だとお相手様という感覚なんだろう。ライバーで結婚報告とか、同棲発表とかは個人勢の方を見ることはあっても、企業所属の方でそういうのを公表している人はほぼ少ない。

 稀に、既に結婚していますとデビュー時に公表している剛の者もいるけど。それに付き合っていたとしても基本公表しないんだよな。芸能人とかも基本隠しているし。

 

「ちなみにデートをするならコラボなどを断ってくれていいですからね?これはエリサさんにも言いましたけど」

 

「いや、既に決まってる予定はお互い断りませんよ。2人とも空いていたら出掛けるでしょうけど……」

 

「お金を出したらツーショット写真とかいただけます?」

 

「ドロッセル先輩もそういうご趣味が……?そういうのは唄上先輩だけだと思ってました」

 

「女性ライバー専用チャットに貼ってとオーちゃんがエリサさんに頼んだら断られてしまって……。なら彼氏の方にお願いしようかなと」

 

「俺は女性用チャットに入れないので、たとえ撮ったとしても貼れないですね」

 

「あら、盲点」

 

 何でそんなに他人のデートが気になるんだ。陽菜ちゃんに共有くらいはしても良いけど、それ以外の人にするのはなんか嫌だ。何で餌を提供しないといけないんだか。

 というか、同僚のデート写真なんて見て楽しいのか?正直全くわからない。

 

「これからも配信で弄りますので、バレないように気を付けてくださいね?」

 

「そもそも弄らないでください……」

 

 そんな秘密の話も終わり、配信の準備をする。もう1人のコラボ相手であるコウスケ先輩も集合時間の5分前には来た。ドロッセル先輩とのコラボでは絶対に遅刻しないようにと躾けられたらしい。それ以外のコラボや撮影だとまだ遅れることがあるようで、私にだけしっかりしても意味がないのにとドロッセル先輩が嘆いていた。

 配信前にコウスケ先輩によってちょっとした小細工を仕組まれて、勝ち点が同数になった時用のサプライズか何かなんだろうと思うことにした。用意だけはするけど、実際に使うことがないように祈るだけだ。

 

「はい、皆様こんばんはー。ドロッセル・アン・パルスです。本日はエクリプス『ウルプロ』最強決定戦ということで別企画、Vtuber事務所対抗『ウルプロ』甲子園大会で作成した栄光ナインのチームでエクリプス最強を決めていきたいと思います。では対戦相手のコウスケさん、自己紹介を」

 

「オッスー!エクリプス最強と言えば俺!コウスケ・フォン・ヤクモだ!今日はね、2人をボコボコにして最強の称号をこの手に掴むぜ!」

 

「皆さん、こんばんは。3期前半組の絹田狸々です。僕だけチーム作成の趣旨がちょっと違いますが、2人だけの対戦じゃ企画として弱いということだったので参加しました。よろしくお願いします」

 

「というわけで、この3名で戦っていきますー」

 

『V事甲お疲れ様』

『後企画ってやつだな』

『結局コウスケとリリの配信追ってねえからチーム全然知らねえや……』

『コウスケもエクリプスのメンバーを作って、リリはオリンピック企画の追加選手を作るいつものレギュレーションでやってたぞ』

 

 Vtuber事務所ごとにチームを作って戦うという『ウルプロ』を使った大型企画があった。どこの事務所も凄い強いチームを作った大怪獣バトルになったのだが、その中でドロッセル先輩は準優勝という結果を残した。そのドロッセル先輩に挑むという割と無謀な企画。

 ドロッセル先輩だけの配信を見ていたら『ウルプロ』についてよくわからないだろうから、俺とコウスケ先輩が別枠で説明しながらの栄光ナインをプレイしてお手本かつ、普通にプレイしていたらこれくらいのチームが作れますよという指標になるかなと思って作成した形だ。

 コウスケ先輩はドロッセル先輩と全く同じレギュレーション。つまるところ初年度の新入生ガチャを3回まで引き直せて、機材抽選券という練習の効率が上がる物を5個使ってよくて、選手の調子を良くできるお褒めの喝というアイテムが2つある状態で始めた。

 俺はいつものオリンピック選出選手育成配信のままやったので、特別なアイテムも無しで育成した。荒川アンダーソンさんだけ強くしてもなんか違うなと思ったので、俺はまっさらなレギュレーションでやらせてもらった。

 俺的には育成に失敗も特になかったので何とかやり合えるなというくらいには育てた。

 

「私のエクリプス学院は大会で散々見せたので、まずはコウスケさんのチームから見せましょう。エクリプス学園ですね」

 

「こっちもライバーを当て嵌めて作成したぜ。ウチは天才野手のドロッセルを中心に野手が強いチームにしたんだが……霜月ちゃん強過ぎね?ドロッセルでどっこいにならんとか、転生で勝ち上がるって凄いよな。というか世界大会のおかげか?」

 

「世界大会の能力値上昇って本当に凄いからね。というか私を天才にしたのですか?私があまり活躍させられないような選手を中心にしてって言いましたよね?」

 

「いやだって、エクリプスで天才ってお前しかいないだろ……」

 

「ネムリア先生とかハピハピさんとかいるでしょう?」

 

『世界大会が能力上昇イベントで覚醒の次に良い神イベントだから……。そもそも3年縛りの2年目で世界大会に送り出せることがおかしい』

『ドロッセルの場合は2人送り出したからな』

『リリもサブポジ縛りなければいけそうだったけど……』

『転生選手だからって甲子園の打撃結果で世界大会に行ったエリーが普通じゃないから』

『コウスケの天才解釈、同期てぇてぇか?』

『即答で他の人挙げるドロッセルもなかなか……』

 

 コウスケ先輩のチームを見ていくが、野手の打撃力を中心に育てていて全員の打撃力が高い。その代わり守備能力がそこまで高くないので、とにかく打って勝つようなチーム作りにしている。これで最後の夏の甲子園にはしっかり出ているので能力の平均値はかなり高い。

 基本は2期生以降を中心にしていて、1期生のほとんどを控えにしている。余った選手は全部コウスケ先輩にしているのが怖かった。コウスケ3とか付属のメガネ以外差がないし。

 打撃のチームだからこそ、投手陣が打たれたら結構まずい気がする。栄光ナイン中の通算成績にも出ているけど、守備が微妙なので投手陣の防御率が結構高い。失点沢山したんだろうな。

 3年縛りで全ての能力を上げることなんてできないから、コウスケ先輩は打撃と走力を中心に上げて終わったらしい。俺もそれくらいが限度で、ドロッセル先輩のように全体的にバランス良く育成する方が難しい。ずっと甲子園に行っていればあれだけバランスの強いチームも作れるだろうけど。

 

「続いてリリ君のチームですね。茨城高校とはシンプルな……」

 

「普段はデフォルトネームしか使わないので。僕のチームは僕が個人的にやっているオリンピック選出選手を栄光ナインで作成しようっていう企画の続きで今回追加された荒川アンダーソンさんを作成しただけのチームなので。チームとしてはそこそこですかね」

 

「嘘言うな、リリ!お前最後の甲子園しっかり優勝してたの知ってるんだからな!」

 

「最後だけですよ。神宮には1回も出られませんでしたし、春の選抜も1回しか出れてないので」

 

 投手育成なら割と甲子園に何度も出場できて優勝もできたりするけど、野手転生だとどうやっても投手の能力が低くて勝ちにくい。最後に甲子園優勝できたのは運が良かった。

 2人が選手にライバーを当て嵌めているので、俺はアンダーソンさん以外にストーリーキャラの容姿をつけている。選手のポジションに合わせてキャラを選んでいるので、アンダーソンさんだけが普通のデザインをしているために浮いているが、モブの容姿のままなのもどうだろうと思って変えている。

 

「うおっ、このメジャーリーガー強過ぎだろ!パワー以外Sじゃん!」

 

「特殊能力もたくさん……。やっぱりリリ君は育成が上手いですね」

 

「アンダーソンさんを中心に育てていただけなので。他の選手はあくまで勝つための育成をしているだけですよ。栄光ナインで勝つための育成と、対戦で勝つための育成はまた別なので。今日はどうなるか……」

 

『つっよ』

『でもオールSには行かないかぁ』

『グラウンドレベルがね、3年縛りだと低すぎるんだよ。練習効率が悪過ぎて練習で能力値全然上がらないもん。全部の全国大会に行きつつ、世界大会にも出ればアンダーソンならオールSにもできる。もしくはグラウンドレベルを最初から高くしまくれば作れるけど、3年縛りじゃほぼ無理』

『天才でもなくここまで能力値上げるのはあっぱれとしか言えないんだよな。A以上だと甲子園でもないと本当に能力が上がらない』

『なお卒業後にはしっかりとオールSになった模様』

『世界大会による上昇値があるからな』

 

 俺たちのチームを見終わって、最初は俺とコウスケ先輩との勝負になる。チーム力を見たら絶対にドロッセル先輩のチームが最強だからだ。

 俺とコウスケ先輩のチームはそこまでチーム力に差はないように見える。グラフだけのチェックなので実際にはやってみないとわからない。

 というわけで始まったけど。

 

「ちょっとちょっと⁉︎多田君強すぎなんだが⁉︎誰だよ多田君⁉︎」

 

「ウチのエースです。甲子園優勝投手ですよ。このまま完投してくれないかなぁ」

 

「コウスケさんのチーム、打撃のチームなのに抑え込まれてますね」

 

『打撃は水物って言うし』

『めっちゃ3人に名前呼ばれるの気持ちいい』

『リリのチームの苗字の人、大歓喜だろこれ』

『あえて名前弄らないのがリスナーのご褒美になるとか、そんなことある?』

『活躍しなくても推しに名前呼ばれるとか最高じゃん』

『リリの配信では結構ある。お前もリリの推しにならないか?』

 

 試合は6-2で俺の勝ち。続けてコウスケ先輩とドロッセル先輩の試合になったのだが、これが酷い結果になった。

 打撃のチームなのにまさかの唄上先輩が8回まで零封。スタミナに余裕があることもあってこのまま完封になるかと思ったら、野手もだいぶ入れ替えていたのに投手も交代してなんとコウスケ先輩が登板していた。

 

「何でだよ!せめてケインにしてくれ、後生だから⁉︎」

 

「自分に自分のチームが抑え込まれるって最高の皮肉では?」

 

「この鬼畜!ドS!ドロッセル!」

 

「もしかしてそのドロッセルというのは悪口ですか?お説教入ります?」

 

「ぐあーーーー⁉︎頭グリグリは辞めて⁉︎」

 

『良い意趣返し』

『学ばないコウスケ……』

『オフだからってマジで頭グリグリされてるんかいw』

 

 仲良いなあ。こういう戯れはずっとやってきたことなんだろう。いつものことすぎて男女の接触なのに燃えないというのが関係性というか信頼がなせる技だろう。完全に母親と息子だと思われている。2人ってそんなに年齢差ないんだけど。

 試合はコウスケ先輩がパーフェクトリリーフによって三者凡退にして終わった。能力値に結構差があるとはいえここまで一方的な試合になるとは。V事甲でも圧勝した試合もあったからこうなるのも予想できた。全体的に能力が高いから生半可なチームじゃ勝てないし。

 次は俺とドロッセル先輩の試合。どうにか唄上先輩を降ろしてもリリーフとして強すぎるネムリア先輩が出てきて、最終回はケイン先輩によって抑えられて負けた。ドロッセル先輩が育成した選手を全員一度は打席に立たせることができたし、投手陣も1イニングは投げたから十分だろう。

 これで一応ドロッセル先輩が最強だったという証明と、企画の本選では使うことのできなかった選手を使用できたので今日の趣旨としては問題ないのだが、ここで負け続けては漢が廃るとかコウスケ先輩が言い始めて禁じ手を使う。もう一戦やろうと言い出して、ドロッセル先輩はエクリプス学院を選んだが、コウスケ先輩は侍JAPANを選択。

 

「あれ?公式チーム……じゃない?」

 

「リリが作った侍JAPANチームだぜ!チーム評価はオールカンスト!まさしく最強チームだぜ!」

 

「人の袴で尊大に振る舞って、プライドとかないのですか⁉︎」

 

「いつも負けてばっかだからな!今回ばかりは勝たせてもらうぜ!」

 

「リリ君もどうしてチームを貸し与えたのですか⁉︎全員がプロでとても活躍している方々しかいなくて、世界で優勝したチームでしょう⁉︎いくらエクリプスの皆さんだって……!」

 

「おやおやぁ〜?天下のドロッセル様が俺の挑戦を断る〜?俺が怖いのかな〜?」

 

「リリ君のチームが怖いだけです……!良いでしょう、世界に挑んであげます!」

 

『コウスケかっこわる〜……』

『リリのチームが強いだけじゃん』

『そのチーム、本当に実装されてる侍JAPANに勝った化け物チームだぞ?いくらエクリプス学院といえども……』

『世界の頂点に挑むとか熱い展開やん!コウスケナイスぅ!』

 

 コメント欄も見るけど、そこまでは荒れてないっぽい。これもコウスケ先輩のキャラクター性だろう。

 悪者の笑い方をしながら楽しそうにオーダーを弄るコウスケ先輩。フラットにするために調子は全員普通にしているので能力順に起用できる。

 コウスケ先輩に頼まれていたドッキリとはこのチームの貸し出しのことだ。今回プレイしているアカウントがコウスケ先輩のものだったのでドロッセル先輩も予想できていなかった。

 そして試合が始まるのだが。

 

「うえっ⁉︎」

 

「さすがエリサさん!完璧、最強!ウチの4番は伊達じゃありません!2ランホームランで勝ち越し!」

 

「天才宮下が打たれるとか、どうなってるんだ!」

 

「能力が全部じゃないので……」

 

『球速カンスト宮下でも打たれるんだ』

『エリーナイバッチ!』

『調子も普通だし、ゲームはゲームだからな』

『現実でだって打たれる時は打たれてる』

『チェンジアップも140km/h後半というゲームの仕様通りになってて現実のように50km/h差がある魔球になってないのも原因じゃね?』

『それ言ったら変化球全部実装されてないし……。現実がバグすぎるだろ』

 

 唄上先輩が粘り強く投げて6回を1失点で切り抜ける。エクリプス学院も霜月さんのホームラン以外にも打線を繋いでもう1点を奪った7回。

 なんかリリがホームランを打っていた。

 

「リリぃ!お前、何やってんだよ!」

 

「リリ君ナイスナイス!ここでの追加点本当に大きい!2点追加!」

 

「まあ、パワーEでも特殊能力あればパワーの数値にプラスされるので……。多分実数値ではC相当なのでカーソルが合えばホームランはおかしくはないですね」

 

『8番なのによう打った』

『侍JAPAN(強化)使ってて負けるんか?』

『ほぼ観戦のオート試合なんて運ゲーだし……。能力値に差があってもなんか打てない時は打てないし、打たれる時は打たれる』

『投手陣で言えばエクリプス学院も十分強いし、ゴートンの『キャッチャー◎』もあるから抑えられるのもわかる。でもJAPAN側は天才宮下な上にキャッチャーが『キャッチャー◎』の上位互換の『司令塔』持った羽村なんだよな……』

『結論、運ゲー』

 

 選手リリのホームランが決定打で、最後はネムリア先輩が抑えてゲームセット。

 インチキチームを使ったのに負けたカッコ悪い先輩の姿がそこにあった。

 

「最強無敵!エクリプスが世界の覇者ということで!」

 

「なんでリリのチームを使っても勝てねえんだよおおおおおお!」

 

「唄上先輩の能力値、特殊能力も見たら打てない理由にも納得なくらい強いですから……。いや、本当にこんなチームを作ったドロッセル先輩。長期の企画お疲れ様でした」

 

「ありがとう、リリ君。というわけで調子に乗ってたコウスケさんも返り討ちにしたということでね、今日のコラボは終わりたいと思います。『ウルプロ』については全く無知だったから企画の前から本当に色々と助けてくれてありがとうございました。ポラリスさんも、性格によって上がりやすい能力とか纏めてくれて大助かりでした。この場で感謝を。というわけでV事甲の配信は一旦おしまいになるかな?一応後日談として3年生の引退までやって、プロ入りした選手の視聴者プレゼントまでやる予定ですが、それは気長にお待ちください。閉めますね、全勝利したドロッセルと!」

 

「全敗したコウスケと……」

 

「1-1のリリでした。それではまたー」

 

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