『SoF』は話題作ということでSNSでも連日話題に上がっている。あまり詳しくは見ていないが、考察や面白かったシーンのスクショなどが大量に上がっていた。
俺の配信のコメントや視聴回数も他のゲーム配信と比べてかなり多い。エクリプスだけではなくVtuberや配信者が実況をしていてどこも人気のようだ。エクリプスではネタバレ厳禁ということで個人チャット以外では話題に出さないようにしている。
15000円もするゲームなんだからネタバレもなく楽しみたい。そういうことだろう。
真紀さんも今日からプレイするようだ。女性の配信者も結構やっているようで、スターティンクルの方の配信はアーカイブでも40万再生を軽く越えたとか。あの人たちはチャンネル登録者数が100万人を越えている人ばかりなのでその数字もおかしくないだろう。
真紀さんはアクションRPGということもあって、というかゲーム制作会社が高難易度ゲームばかり作るところなので無難にイージーモードでやるようだ。ストーリーもそこから読むことがゲーム会社から推奨されているのでその通りにやるべきだと思う。
俺の準備ができたので、朝配信を始める。今日も『SoF』だ。もうパート5なのに幼少期をプレイしている。1つのアーカイブで4時間越えが当たり前なのに、いつになったら青年期に入れるんだ。
配信を始めて、雑談もそこそこにゲームを始める。軽く前の配信までの振り返りをして、早速ヴァルモニア解放戦のためにベッドで休んだ。
イベントムービーでは様々な格好の冒険者がそこに集まっていた。ギルドの前は冒険者の群れで埋まっており、そこでギルド長のバルドフと冒険者の代表としてヴェーラーが激励と号令を飛ばす。ヴェーラーはヴァルモニアから逃げてくる時にフォイルの実力を認めていた冒険者だ。
全員がヴァルモニアに移動しようとして市民から頑張れとかヴァルモニアを取り返してくれという言葉を受けて進軍開始。
と思ったのにイベントは続いていて、ヴェーラーがわざわざフォイルに話しかけてきた。
【やあ、フォイル。君ならこの短期間でBランクになると思ってたよ】
【ヴェーラーさん。3年越しの悲願、叶えましょうね】
【もちろんだとも。調査をするたびに魔物の数が増えて、我が故郷が魔物に飲み込まれる姿を、忸怩たる思いで見守るしかなかった。だが、見てごらん。皆があの惨状に心を痛め、こうして実力をつけて馳せ参じてくれた。ヴァルモニアを取り戻すために、そして自分たちの故郷がああならないように。今気持ちを一つにして立ち向かおうとしている。これは神話に語られる大決戦になるだろう】
【うん。住処を奪われて穏やかに居られるわけないよね。魔物は殺し尽くさないと】
【ふふ。君のその残虐性を怖がる者もいるが、今日ほど有難いと思ったことはない】
【……わたし、怖がられているの?】
「普通に失言では?」
この大軍のリーダーに任命されるくらいなのだから、ヴェーラーは実力でも人格面でも評価されているのだろう。だというのにフォイルの心情は読めなかったようだ。
9歳くらいで冒険者の上から二番目の実力者になったとなればそう思う冒険者も多いだろうとはわかるけど。上級冒険者はグランベルで先程のムービーで全員。総勢300名しかいない精鋭中の精鋭だ。そんな冒険者の憧れに10歳になる前に到達する天才など尊敬されるか畏怖されるだけだろう。
【フォイル。バルドフギルド長から聞いているが、君の実績を私は嘘偽りなく聞いている。君はこのグランベル隊の影のエースだ。つい最近、駆け出しの頃に負けた魔物に勝ったのだろう?】
【負けた?それ、どんな魔物?】
【最近ギルドに運び込まれた大百足だ。あれは私でも苦戦する。それを倒してしまったのだから、君の実力はAランクに匹敵するだろう!若いのに素晴らしいことだ!】
【……ありがとう?】
ヴェーラーはバルドフの巧妙な嘘に騙されているらしい。フォイルもこの人何言ってるんだろうと首を傾げながらもお礼を告げていた。
その子、5歳であの大百足倒してるんですよ。最近は複数体まとめて倒した猛者なんですよ。
ギフトを複数持っているということは純粋に他の人よりも数倍有利だということ。幼いながらも戦えてしまうのはその特異性とレアギフトのおかげだろう。
本棚などを調べるとギフトのことをヒントとして教えてくれるのだが、【
普遍的なギフト2つにレアギフトを2つ。しかもその内の1つは世界的に見ても希少な回復スキルが使えるもの。これで強くないわけがない。
「案外Aランク冒険者って強くないんですかね?それともフォイルちゃんのせいで感覚狂ってる?」
『Aランクが世界で何人ってどこかで言われてたっけ?』
『リリのプレイ中には出てないはず』
『多分感覚狂ってると思うんだよな。ボス強かったのに勝ってるし』
『Aランク冒険者がパーティーに入ってくれれば実力もわかりそうなもんだが』
『パーティーを正式に組んだことなし。あるのはイベントでおそらくそこまでランクの強くない冒険者のモブだけ』
『いや、まあ。リジェネなんてあるから下手に人と組めない設定はわかるけど、幼女よ?バルドフのおっさん、もうちょっと配慮したれよ』
話はそれだけだったようで、イベントでヴァルモニアの目前まで進んだようだ。そこで前線基地をこの3年間で作っていたようでそこで寝泊まりをすることに。
ここもギルドと正教が作ったようで、ここに派遣というか出稼ぎに来ていた冒険者も多かったらしい。物資集めに逸れ魔物狩りなどやることはたくさんあったようだ。
朝までここで休んで次の日の朝から攻め込むという、いわゆる決戦前夜。そんな中食事を摂っていたフォイルの耳に周りの冒険者の話が聞こえてくる。
一緒に戦う正教の騎士団が到着したようだ。西洋の騎士甲冑のようなもので全身を包み、剣や槍を持つ人が多い。そんな騎士が集団で規律よく行動をしていた。
軍隊として見るならまともと判断すべきか、規律ばかり気にする木偶の坊か。フォイルも心の中で弱そうとか呟いている。やっぱりこの子、口が悪いな。
彼女は特に気にせず食事を続けている。その様子が気になったのか、兜で顔を隠さずにマントをつけた騎士でも階級の高そうな壮年の男性が近くの冒険者へ尋ねる。
【おい、子供が混じっているぞ。誰かの子供か?】
【ああ、あの子。あれでもグランベルで有数の冒険者でね。ちゃんとBランク冒険者。参加条件は満たしている】
【そうだ。彼女こそ我らの勝利の女神になりうるかもしれん】
騎士と冒険者の会話にヴェーラーも混ざる。
勝利の女神なんて言葉、この世界にあるのか。一神教っぽいのに。
【Aランク冒険者ヴェーラーか。貴様の実力に免じて女神なる存在しない神を妄想したことを不問としてやる。我らが神はただ一柱。彼の方は男神だ】
【これは失言、失礼しました。だが彼女の実力は紛れもなく本物だ。彼女は滅多にいないソロ冒険者だからな】
【何?普通冒険者は徒党を組むものだろう?パーティーを組むことをギルドは推奨するはずだ】
【ギルド長曰く、ついていける仲間がいないとのことだ。実際彼女の昇級速度は歴代1。そもそも当時5歳か6歳で目の前の魔窟からしっかり逃げ帰った実力者だ。撤退の際の戦いは私も見ている。彼女は天に愛された才女だ】
【……ふむ。一考するに値する進言だった。彼女の名は?】
【フォイルだよ。ドゥーン騎士団長閣下】
やっぱり騎士団長だったか。それに女神なんて存在いないっぽいな。
騎士団、というか正教に目を付けられるというのは良くないんじゃないだろうか。名前まで教えなくてもいいのに。ヴェーラーは純粋にフォイルを評価しているっぽいけど、それが裏目に出たりしないかな。
我らが主人公はそんな会話がされているとも知らず、ご飯が終わったらさっさとテントに向かって寝ていた。彼女は大物になりそうだ。
さすがギルド公認のソロ冒険者。いや、バルドフギルド長が回復スキルのことを隠したいから結果的にそうなっちゃっただけだと思うけど。強い上に他人にバレたらまずいギフトを持っているとか、ソロになるしかないだろう。
「唯一神と、回復スキルを手にすることができるのは女性だけで聖女と呼ばれる。作為的と思うのは僕だけですかね?」
『聖女とか巫女とかって実質神様の嫁さんだし』
『神が女性に忖度してるってこと?』
『好みの女性に回復スキル与えて聖女に奉り上げて結婚させないように独占してるとか?』
『コメント欄のせいで神がロクデナシに思えてきたぞ……』
『神話勉強してこい。どの神話でも神なんて大体ロクデナシだ』
夜が明けてイベントはまだ続く。
時刻を合わせて、各方面からギルド・騎士団連合でヴァルモニアへ同時進軍。各方面から徐々に魔物を削っていき、包囲網を作って全ての魔物を殺し切るのが今回の成功条件。
フォイルが配属されたのは一番槍ではなく、第二波。そのため最初は状況を見つつ、指示を受けて突撃する。各前線基地はCランク冒険者によって守られ、補給や防衛、雑用などは全部彼らに任せるようだ。戦力的にも人数的にもCランク程度の実力は必要ということだろう。
彼らこそが生命線になりうる。たった1日で取り戻せるとはギルドも考えていないようで、長期戦になると考えていた。もしもの時は撤退する可能性もあるということが説明される。
人類史に残る決戦だと鼓舞をする騎士団長のドゥーン。その割には重要な人物がいないように見える。
「そういえば聖女様ってこの戦場に来ていないんですかね?彼女がいれば回復スキルのおかげで戦闘も楽になりそうですけど。別の基地にいるのかな?」
『回復って行為がシビアすぎるんよ、この世界』
『いれば楽だけど、世界にたった1人の聖女様だぞ?失ったら替えが効かないから連れてこなくね?』
『正教のスタンス次第だなぁ。本当に世界のことを憂いているなら騎士団めちゃくちゃつけて連れてくればいい』
『騎士団長が来てるから、魔物を倒す気はあるっぽいんだよな』
そんなふとした疑問を浮かべていると、イベントがいきなりアニメになった。ヴェールが突撃の指示を出し、冒険者がヴァルモニアへ一気に殺到する。魔法が飛び、先制攻撃に成功させると羽を持った魔物たちが街の中から一斉に飛び出す。
魔法や弓矢などの遠距離攻撃ができる者は率先して飛ぶ魔物を攻撃し、近接武器を持った者は地上にいる魔物をとにかく斬り伏せていく。それがアニメでこれでもかと描写された。曲芸を見せる者、ギフトなのか火を吹きながら魔物に攻撃する者。ド派手な攻撃スキルで冒険者の道を切り拓く者。
前に見た状況よりも崩落したかつての商業都市を舞台に、人類と魔物の生存戦争が幕を開けた。
フォイルにとっては初めての戦争。前のヴァルモニアからの撤退戦は巻き込まれたために戦争という感覚もなかっただろう。
だが今は人と人が協力し合い、魔物を殺そうとしている。その殺気に当てられたのか、フォイルは口角を上げてこう呟く。
【やっぱり人間は助け合えるんだ。人間を穢すような奴をわたしは殺し切る。もう
満面の笑みでドアップなアニメのフォイルでアニメが終わった直後に暗転してポップアップが表示される。そこには称号『顔も知らない誰かのために』とギフト【
ここで称号とギフトをゲットか。しかもメニュー画面に移動してくれたのでギフトを確認できる。
「えーっと、フィールドが街や村の場合防御力15%アップ、回復スキル効果上昇5%、料理スキル(趣味)の経験値上昇……?え?料理スキルなんてあるんですか?やり込み要素多っ」
『能力としてはどうなんだ?防御バフの割合は高く見えるけど』
『フォイルの場合はパッシブだからないよりはマシ』
『というか回復上昇はありがたいだろ』
『趣味とかもあるのか』
『釣りとか陶芸とか鍛治スキルがノーマルモードで確認されてるな』
『ヘスティアーが英雄?女神だろ?』
『マイナーなところ持ってきたな』
せっかくだからと【
コメントなどで他のモードのネタバレをちょっとされたが、気になったというか俺が無知だから聞いてみる。
「ヘスティアーって女神の名前なんですか?神話とかあんまり詳しくなくて」
『ギリシャ神話の女神。大神ゼウスの姉』
『孤児とか竈の女神だよ。でもマイナー』
『ロバ飼ってたんだっけ?痴漢というかナンパ撃退したやつ』
『あのゼウスの姉の割に描写少ないんだよな、ヘスティア』
『伸ばし棒は入れるかどうか割と別れる。まあ、海外の読み方と日本語訳じゃ表記揺れなんてよくあることだし』
『一応オリュンポス12神じゃなかった?』
『譲ったとか、別の神とか諸説あり』
『3大処女神だぞ』
おおー、コメントがめちゃくちゃ教えてくれる。そうか、ギリシャ神話の神様なのか。
孤児要素はわかるが、英雄のような戦場での活躍があったわけではなさそう。有名なのかマイナーなのか評価が分かれている。でもゼウスは聞いたことがあるからその姉なら割と神話でも中心にいる人物じゃないのかと思ってしまうが、特にギリシャ神話は家系図がメチャクチャなせいで姉でも出番は少ないらしい。
能力が女神の本質に沿っているのかはよくわからない。
「ギフトとはいえ、女神の名前はまずいのでは?というかこのゲームの中でもギリシャ神話なんてものが存在しているんですかね?もし過去にあったとしたらまずそう。それともこの世界では純粋にそういう名前の英雄がいたってだけなのかな?」
『どうだろうね?』
『ただゲーム制作サイドが名前を借りただけか、設定があるかだよな』
『回復スキルの効果上昇だから、これが聖女が得るはずのギフトとか?』
『あー、回復スキルは【
まあ、考察は後だ。多分このメニュー画面を閉じたらすぐにイベント戦闘が始まるんだろう。
装備なども一応チェックして、メニューを閉じると予想通り戦闘が。いつもはバトルになるとフィールドの範囲が決まっているのに、今回はそんなことがなかった。
魔物がわんさかと出てくる。こっちにはパーティーメンバーもいないのに5体くらい一気に出てきた。魔物は1体1体はそこまで強くないが、倒すたびに増えていく。倒していると他の冒険者らしき存在から声を掛けられる。戦闘画面の左下に現れてキャラの立ち絵とセリフが表示される。ボイス付きだ。
【進め、とにかく進め!後ろは気にするな!とにかくヴァルモニアの中から魔物を一掃する!】
【逃げる魔物は放っておけ!ヴァルモニアに辿り着け!Aランク冒険者を援護しろ!】
【街の中には強力な魔物が確認されている!そいつらを確実に倒すために、雑魚は俺たちが倒すぞ!】
【進めぇーーー!俺たちの故郷から、魔物どもを追い払うんだよ!】
「とにかく魔物を倒しながら街が見える方に進めばイベントが進みそうですね。行きましょう」
数こそ鬱陶しいものの、強くないから無双ゲームでもやっている感覚だ。ここで強い魔物ばかりだったら本当にハードモードだと思う。
とか思っていたら、たまに大きな魔物が混ざってきて、それは普通に苦戦した。HPが高いので倒すまでに時間がかかる。とはいえ【
徐々に近付くヴァルモニア。ボイスによる応援や、やられたようなボイスなども聞こえつつフォイルは無事にヴァルモニアの前に辿り着く。それと同時に人型で背中に黄色い翼を生やした有翼種とでも言うべき魔物がいた。顔も鳥のもので、下半身は毛で覆われているが上半身は人間の裸だった。
バードマンとかだろうか。空を飛んでこちらの攻撃がほとんど届かないのが面倒だ。
「いやでも魔法を覚えていて良かった。フォイルちゃん、遠距離攻撃の適性がないので魔法以外の遠距離攻撃手段がないんですよね。あっ、詠唱中に攻撃するな!」
『割と厄介だな、こいつ』
『多分今の降下攻撃に合わせてこっちも攻撃しないといけないんだろうけど』
『遅延だ遅延ー!』
『空飛べるって有利だよなぁ』
落下攻撃をした後はしばらく地上付近にいたので、剣でも攻撃できた。魔法を覚えていなくても攻略できるようにしておいたのは制作側の温情だろうか。ここまでイベントを進めておいて詰みを用意していたらバッシングものだろう。
難しいけど、理不尽ではない。その辺りの難易度調整は上手い会社だ。
バードマンを倒したらリザルト画面になる。戦闘時間35分って。イベント戦闘だからこれだけ時間がかかっても仕方がないか。これでRTAとかやる人出てきそうだな。そういう個人的な目標を設定しつつ挑めることが多そうなゲームだ。
おお、レベルが一気に上がって33レベルに。【
リザルト画面を終わらせるとイベントムービーに。今度は流石にアニメではなかった。またもやとんでもない身体能力を見せつけてフォイルが迫り来る魔物をバッタバッタと倒していく。空中で宙返りをしながら飛んでいる魔物の背中に剣を突き刺すとかどうなってるの。
その快進撃に続けとフォイルと同じルートでヴァルモニアに雪崩れ込む冒険者たち。建物はほぼ瓦礫となっており、その面影はない惨状だった。そこで既に突入していた冒険者たちが魔物と戦っている。魔物も人間も死体として転がっていたり、息絶え絶えな状態でうずくまっている人間もいる。
冒険者はしっかりと魔物へトドメを刺しながら1匹ずつ殺していく。もう限界だろうと、道連れにしようと最期まで戦い抜く戦士もいる。騎士団は騎士団で固まって連携で確実に撃破しているようだ。
まだ息がある人間に回復薬をぶっかけたり、戦場から逃がそうと担いで走っていく人もいる。
血と死体と瓦礫が積み上げる、まさしく地獄の様相だった。
人間側が優勢、ということもなさそうだ。魔物に指揮官のような存在がいるのかもわからないが、一気に4方向から攻めたというのに困惑もせずに人間を撃退している。
魔物の生態もよくわからないし、もしかしたら前のティラノサウルスのように元人間というパターンもあるだろう。そういう元人間が指揮を執っているのか、それとも生粋の魔物が指示を出しているのか、そもそも指揮なんてしていないのか。
そんな感じで考えていると、また魔物が襲ってきた。薄青色のブレキオサウルスのような魔物だが些か小さい。大百足よりは全然小さい。
【おい、娘っ子!一緒にあの魔物を倒すぞ!】
【うん、よろしく】
がっしりとした体格ながら低身長のおじさんのような冒険者と共闘になる。ランダがパーティーに加わったという表示が出てイベント戦闘へ。
ランダは背丈ほど大きな両刃斧を持っていた。近接キャラのようだ。顎髭もしっかりとしていていわゆるドワーフっぽい。
この世界にドワーフとかエルフみたいなそういうファンタジーの人間ではない種族とかいるんだろうか。そういう話は出たことがないから彼はただ単に背が低いだけの冒険者だろう。
ブラキオサウルスは尻尾と首が長いために、それを用いた攻撃が多い。身体を全体で回しての回転攻撃が強攻撃だった。案外ランダはタンクとして優秀なのかヘイトを稼いでくれるので魔法による遠距離攻撃をしていれば良かったというのは楽だ。
とはいえ、ダメージが多いので回復薬を使って回復してあげる。戦闘不能は即死と同義っぽいので流石にキャラが死なないようには立ち回る。ドリーに言われた通り回復スキルは使わないように気を付けて戦っていく。
このランダ、凄く強くないか?火力もありつつ盾になってくれるのはありがたい。3分くらいで倒せた。
【はっはっは!見た目に似合わず強えじゃねえか!よっし、ここからは一緒に戦うぞ!お前さん、名前は?】
【フォイル。おじさんは?】
【まだ20代なんだなぁ、これが!ランダお兄さんと呼べ!】
【ん、ランダお兄さん。じゃあ行こうか】
イベントが終わって、『決戦都市ヴァルモニア』とフィールド名が表示されて街の全体像が映される。崩壊し切った街に、魔物と人が入り乱れて戦っている様子を俯瞰しながらムーヴィーが終わって自由に動かせるようになる。
フォイルの真後ろにランダが居て、動くとランダが付いてくる。RPGらしい移動がこのゲームで初めて見た。
「おー、正式にパーティーを組みましたね。ランダさんは……45レベル⁉︎これ、お助けキャラでは?多分今後はパーティー組めないんだろうなぁ」
『主人公より10も強いのか。やるやん』
『Aランク冒険者じゃん。そりゃ強えわ』
『ギフトも【
『ヘスティアーと同じで名称だけじゃね?』
『経験値とか入るのかな?』
一時的な加入じゃなく、ちゃんとしたパーティーだ。装備の変更とかもできそうだけど、現状持っているもので渡せるのは装飾品だけだった。何も渡さないというのも不利になりそうなので気絶耐性が上がるアミュレットを装備させておいた。
メニューを閉じてフィールドを確認する。魔物はシンボルエネミーになっているようで、避けようと思えば避けられそうだ。それにミニマップはまた1から埋めないといけないようだ。実質新フィールドなのでまた埋めるのが良いだろう。
強力な仲間も増えたので早速街を探索してみる。
シンボルエネミーであっても特段強い魔物がいるわけでもなく、ランダがいることなく苦戦する戦闘はなかった。経験値も美味しいのでシンボルエンカウントを全部殲滅しても良いんじゃないだろうか。
西へ時計回りに巡っていって、最後に中央に行けば良いだろう。そう思って目に付く魔物を倒しつつアイテムがないかと探すが、アイテムは全くない。魔物を倒せばドロップアイテムは手に入るものの、回復薬などの役に立つ通常アイテムや武器などはフィールドに落ちていなかった。
魔物の巣窟だから、宝箱とかがあるって思ったらダメか。
まずは西に辿り着くと、イベントが発生。冒険者が10人以上で戦っているものの倒せていない屈強な悪魔のような魔物が西を守護していた。下半身は馬のような毛むくじゃらの四足歩行。上半身は人間のように屈強でありつつ漆黒の羽が生えていた。
その悪魔のような魔物が周りの冒険者や騎士を吹っ飛ばしつつ、1つ大きな咆吼を上げる。自分の強さを誇示しているような、絶対の自信の現れのようだった。
【フォイル、皆を助けるぞ!】
【うん!】
ランダの言葉に頷きながら戦いに参加するフォイル。武器を抜いて構えるとTIPSが表示された。
この戦いはレイド戦のようで、パーティー以外にも操作や回復ができないNPCが複数参加するようで、膨大なHPを持つボスを倒しましょうというものだった。確認を押すとレイド戦が開始。相手のHPバーが表示されて、数多くのNPCが一斉に悪魔に向かっていく。
30人くらいは動いているだろうか。かなりの大人数のキャラが動いて攻撃やバフをかけてくれる。こちらにも適用されるような魔法を使ってくれたので支援もしっかり受けてフォイルも攻撃に参加した。
タンク役の騎士が攻撃を受けてくれる間にフォイルで攻撃をする。MPは3割をキープするくらいにして使い続けて攻撃を重ねていくと、ダメージを稼ぎすぎたのか攻撃がフォイルに集中する。この辺りのルーチンがわからないな。何せ今までずっとソロプレイだったんだから。
味方の気にするHPは自身とランダだけだったので大ダメージを受けた時だけはすぐ回復薬を使って戦った結果、どうにか勝利。他のボス戦とも似ているものの、明確にHPの残量が一定にまで減ったら行動パターンが変わることと、味方がボンボンやられていく様を見るのがなんともな気分だ。
とはいえ、勝利したことで大量の経験値とG-EXP、それにG-EXPを増やすことができるアイテムと回復薬を10個、更にはユニークアイテムらしき槍を手に入れた。『デストライデント』という槍で、装備可能。攻撃力プラス102、麻痺付与率20%、ガード時ダメージカット率15%上昇とめちゃくちゃ強いことが書いてあった。
攻撃力だけを見ても、ティラノサウルスを倒して手に入れた今の装備より強い。
「つっよ!ギフト用の経験値を増やせるアイテムと、回復薬もこれだけ貰えるならウマウマですね。今が西だから北と東にもいますかね?今手に入れた槍を装備しつつ他のレイドもやっていきますね!」
『イベントアイテム強いなぁ。苦労すれば攻略が楽になるってのはゲームセンス的には真っ当』
『主人公が来た方角が南だから、そこ以外にはレイドがあるかもって話か』
『やり得なイベントはありがたい。レベルがどっちも上がったし、レベリングも込みで考えたら旨みしかない』
『フォイルちゃん、背中に装備してるけどデカすぎない?背丈と一緒じゃん』
槍がどんな感じかを確かめるという意味もあって北を目指しつつマッピングをしてミニマップを埋めてシンボルモンスターと戦ってみる。
レイドの前にも倒していた魔物だったので余裕だろうと思っていたら槍装備の時はなんだか動きがもっさりとしていた。攻撃も大振りで遅く、これではまともに攻撃を当てられない。
「無理だ⁉︎装備変えます!」
『チビすぎて使えないとか?腕力の問題?』
『強さ的な意味だと多分冒険者の中でも随一だとは思うが、多分長槍的な物を使うには手の長さとかが諸々足りんのやろ』
『幼少期だけかな?大人になったらバリバリ使えるとか?』
『もしそうならめちゃくちゃ作り込んでない?』
『ぶっちゃけ別キャラだからな。作り込んだというか、元からその想定なんだろう』
装備は戦闘中でもメニュー画面から変更できるので速攻で変えた。剣に変えてからは速度も戻ったので普通に撃破。リザルト画面で称号の『槍初心者』と槍での専用攻撃スキルをいくつか覚えたがこの遅さでは使えないだろう。
槍に呪いなどがあるわけでもなく、仕様らしいので大人しく剣を使っておく。
予想通り、北と東でもレイドがあったのでそれをこなす。そうしたことでフォイルのレベルは38、ギフトの【
街の内縁部をぐるっと回ってミニマップもだいぶ埋まった。あとは中央周りだけだ。ここまで他のイベントや宝箱のようなアイテムもなかった。魔物に長年占拠されていたんだから、人間が使えそうなアイテムが落ちているようなご都合主義は排除したんだろう。
なら何でレイドで回復薬が貰えるのかという話になってしまうが、そこは仕様としか言えないだろう。
ランダもレベルが上がって47に。ちゃんとレベルが上がったことに驚いた。こっちが有利になるならいいか。今後もどこかでパーティーを組む日があるんだろうか。
探索も終わって中央部に辿り着く。そこにはセーブポイントがあった。これ幸いと即座にセーブ。これがあるということは次は激戦だということだ。
最終チェックをしつつ、ボス戦へ向かう。イベントが始まり、既に辿り着いていた冒険者と騎士が6本の足を持ち、上半身は獅子のような体毛をしつつフォルムは筋骨隆々の人間の手の生えたごちゃ混ぜ具合に忌避感を覚える。更に腕の下や様々な場所から細い触手が伸びており、それらが身体の周りを動き回ってこちらの動きを阻害しているようだ。
顔は半分潰れたタコのような顔。冒涜的というか、グロテスクというか。異形という言葉でしか表現できない。こういうのがダメなプレイヤーもいるだろうな。
攻撃を加えている冒険者にはヴェーラーもいた。彼が指示を出して冒険者が動いているようだ。だが苦戦をしているようで状況は遅々として進んでおらず、フォイルとランダも攻撃に加わる。
ランダは豪快な攻撃で注目を集め、その横を速力を活かしたフォイルが一直線に魔物の本体へ近付く。それを察知した魔物が触手でフォイルを捉えようとするが、フォイルが微妙に避けたり方角を変えるステップなどを踏んだことで全ての攻撃を躱す。
フォイルが突きの形で剣を突き刺そうとしたが、魔物も後方にジャンプすることで避けつつ腕を振るうことでフォイルを迎撃した。フォイルも途中から防御をして攻撃をいなす。
【面倒……】
【フォイル!それにランダか⁉︎援護助かる!まずは触手を減らさないと攻撃が多すぎてこちらが仕掛けられん!】
【こいつが親玉ってわけかい?大将。ならこいつを倒せば戦況はこっちに引き寄せられるわけだな】
3人が認識合わせをしつつ、他にも中央に辿り着いた人間がいた。
ガシャガシャと甲冑の重さを示すような足音。騎士団の大部隊が到着し、その先頭には騎士団長のドゥーンがいた。彼は魔物の姿を目に収めると、驚愕の表情を隠すことなく叫ぶ。
【まさか、カテゴリーHか⁉︎こんな化け物が存在しているとは……!】
【カテゴリー?知っているのか、団長閣下殿!】
【我々騎士団での呼称だ。ああいう異形は総じてカテゴリーHを言い渡される。騎士団でも苦戦する凶悪な種のことを指す場合がほとんどだ。ここからは死線となる!騎士は冒険者の盾となれ!我らの勇気と決意を胸に民を、聖女を、神を守る一番槍こそ我らの務め!さあ、
【【【
【……
ドゥーンの号令と、とある言葉に引っ掛かったのか首を傾げるフォイル。
指示を受けたのか、騎士の動きが整理されていく。今まで攻撃に参加しようとしていた者が冒険者の代わりに攻撃を受け止める。魔法を使って防御を固めて、冒険者の攻撃を支援し始めた。
攻撃に転じた方が活躍できる騎士もいるだろうに、全員が命令に忠実に従う。これこそが統一感のある組織だとバラバラな集団のギルドに見せつけているかのようだった。事実ギルドは個の、それか精々パーティー範囲の実力が重視されていて、連携などを気にするような者たちではない。
今回のように大軍となって動くことなどほぼないだろう。ここまで大規模な戦争と呼ばれるような行為は随分と久しいと街の住民が話していたので、その規模は今までとは桁違い。
それでもヴァルモニアを救うという確固たる意志があるからか、冒険者たちは諍いを起こさずに魔物を倒していく。その動機などが誉められたものではないとしても、結果を出すことこそが冒険者。様々な場所からやってきた冒険者の上位層だからこそ、3年で随分溜まった魔物を殲滅まで追い込んでいるのだ。
ヴェーラーもドゥーンの言葉をありがたがって利用し始めたので2つの組織が協力して触手の化け物と対峙する。たとえ急場凌ぎのものであっても協力の姿勢が見られることは良いことだ。触手への対処が進み始めて、これなら攻撃が届くという状況になった。
フォイルとランダも攻撃に加わろうとしたら、ある人物が2人に近寄ってきた。本来であれば冒険者の2人に関わるはずのない人物。
騎士団長ドゥーンがやってきた。
【騎士の頂点ともあろう男が、何用だ?騎士の近くで戦うべきでは?】
【カテゴリーHはそれほど危険ということだ。それにそんな幼い少女が戦って何かあったらと考えると、我が神に申し訳がたたん。たとえ実力があろうと、その子はまだ子供だ。それこそ冒険者にも騎士にも、彼女くらいの娘を持つ者がいるだろう。そんな親の前で子供が無惨な死を迎えてみせろ。士気はガクッと下がり、勝てるものも勝てなくなる。ならば守護という面では世界最強たる私が直接守るべきだろう】
【ふん、筋は通っているか。こんな即席パーティーなんぞ金輪際ないだろうな】
【だろうよ。時に少女、名前は?】
【フォイル。あなたは?】
【正教所属騎士団筆頭団長、ドゥーン=エジラーンだ。聖女様の護衛を務めている】
握手を求められたので、フォイルは彼と握手をする。こんな戦場の真ん中でやる必要があるのかと思うが、違う組織の相手だからこそ信頼が必要だと思ったのだろう。
フォイルは聖女になりたくないからか、騎士団を警戒して鋭い目線を向けている。
【聖女は何をしているの?その人がいれば、あの化け物も簡単に倒せたんじゃないの?】
【聖女様は忙しいのだ。君にはわからないだろうがね。さあ、カテゴリーHを倒すぞ】
【……マキアって、救いだって聞いた。なのに救いなんてない。祈りなんて、嫌いだ。……ランダ兄さん、いくよ】
【おうよ!ヴァルモニアを取り戻すぞ!】
あ、本当にドゥーンがパーティーに入った。メニュー画面は見られないか。
レイド戦ならどちらかというとパーティーに入られると回復を気にしないといけないからデメリットな気がする。そんなHP管理を吹っ飛ばせるほどの強力なスキルでもあれば良いけど。
「まあ、話している場合ではないですよね。宗教とかフォイルちゃんは救われなかった側だから嫌いなんでしょうね。さあ、頑張るぞー」
『これもレイド戦か』
『総力戦だー!』
『騎士団長強いわけ?』
『世界最強の一角だぞ。弱いわけないだろ』
NPCがたくさんいるが、触手がやっぱり邪魔だ。その触手にもHP設定があるようで、これを倒せば防御の回数を減らせるだろう。
まずはとにかく触手を倒していく。ドゥーンの防御バフはかなり効果が高いのか、触手の攻撃をほぼ無視できる。冒険者が道を切り拓いてくれるおかげでMPを温存したまま触手を殲滅する。塵も積もれば山となる、ではないが、触手の攻撃だって受けすぎたら一気にHPが削れる。それがなくなったのは戦いやすい。
さっきまでは触手に全てを任せていたが、今度は本体が全てをやらなければならない。動いていなかった魔物が動き出す。攻撃パターンをまずは覚えないと。
回復薬とMPは温存なくどんどん使っていく。おそらく章ボスというか、区切りの1体のはずだ。なら回復薬とかは買い足せばいいと考えてどんどん攻撃していった。
防御やバフデバフはNPCに任せる。パーティー構成もタンク的な役割の2人がいるおかげかダメージはなんとか抑えられている。ドゥーンは騎士として、そしてランダもタンク兼任の前衛型。全員で突撃するのも良し、後方の安全な場所から魔法を撃つのもあり。
と思っていたら魔物も魔法陣を構築し始めた。魔法を使う気だ。パーティー全員で攻撃をするものの魔法陣の構築は止められなかった。
『
レベル差の問題か、残り2人の能力構成が防御型だからか、HPが一番減っていたのはフォイルだった。あとで残り2人にも使うし、フォイルにはリジェネもあるのでなんとかなりそうだが、2人には回復手段が回復薬しかない。
そう思っていたが、メニュー画面を開いた時に見えたドゥーンのステータス、および装備品の効果を見てドゥーンには回復薬を使わなくて良いかと思い始めた。
「レベル55……。それにHP30%以下になったら『聖女の加護』というパッシブスキルでリジェネ追加ですか。さすが世界で唯一回復スキルを使える聖女様。一番信用できる相手のことは守りたいという意志の現れですかね?一撃でやられなければこれを発動してからの回復にしたいところですね」
『聖女に加護をもらっている?リア充かよ』
『リジェネはこの世界観だとめちゃくちゃ良いだろうな』
『いくら防御バフをつけていても、奥義で吹っ飛ばされる可能性があるんだよ』
『パーティー組むと全体のHP管理がめんどくさいよな。全体回復アイテムとかもないし』
『個人だったら主人公だけのHPを気にしていれば良かったもんな。回復が希少なこの世界でこれはきついよ』
回復薬は1人1個使えたので、ランダにも1個回復薬を使ってからメニューを閉じる。メニューからアイテムを使うための再利用時間があるために連続でアイテムを使うことはできない。ドゥーンが瀕死になったり、HPが30%を切って『聖女の加護』が機能したらすぐに回復薬を使おう。
魔法はできるだけ発動するのを止めて、タイミングを見計らって攻撃をしていく。しっかりとドゥーンのスキルが発動したのを確認して回復薬を使って、重力魔法を防いだところでイベントが入る。
「え、戦闘中にイベント?嫌な予感しかしないんだけど……」
戦闘前と同じく、騎士が様々な攻撃を守って冒険者が攻撃をする。大仰な攻撃をドゥーンが防ぎ、フォイルが魔法で顔面に雷撃を喰らわせて怯ませたところにランダが胸に大きな切り傷を与えた。
それに続いて、ヴェーラーも大剣を持って首を刎ねようとしていた。大きくジャンプをして魔物よりも高く飛びトドメを刺そうとしている。
【これで、ヴァルモニアは──!】
その後の言葉が続かない。一瞬画面が暗転した直後、ヴェーラーは胴体を触手に貫かれていた。どこから生えているのかを見ると地上から新たな触手が生えていた。喀血した後、ドン!ドン!という音と共に触手が増えていってヴェーラーの身体を嬲っていく。
彼は身体の全てを巻き取られ、引きちぎられ、潰されて。血の花を咲かせながらヴェーラーだった者がヴァルモニアの地面へ滲み落ちていく。
冒険者のリーダーとして大軍を任されていて、信頼もされていただろう。実力もあった彼が無惨にも殺されたことで、特に冒険者から血の気が消えていく。
その冒険者の気持ちなど無視して触手はどんどん増えていく。それは地獄の釜が外れたかのように大小様々な触手が現れてそれが世界を塗り替えていく。触手は際限がないように増えていき、周りの人間を襲い出す。今までの触手だって苦労して排除したのに、Aランク冒険者のヴェーラーをあっさりと殺してしまったのだ。
その事実に恐怖を煽られ、発狂する冒険者や騎士。戦場から逃げ出そうとし、それを逃さないとばかりに彼らの目の前の地面から触手が新しく生えて彼らを縛り上げたりそのまま殺したりする。
触手は魔物の前だけではなく、街中から際限なく現れる。他の魔物を倒していた者もその触手に絡め取られ、苦戦したり負傷者を出したり、それこそ死者を出し始めた。
これこそが外縁部から最も離れた位置に陣取った理由。この魔物がいれば全てをひっくり返せるがために他の魔物がどうなってもいいと放置したんだろう。
最初からこんな風に街全てで触手を出しておけば人間なんて倒せるのにそれをやらなかった理由は何か。こうして人間を殲滅するためか、この技に何か欠点があるのか。何にせよこれはピンチということだ。
【狼狽えるな!1人が死んだ程度で戦意をなくすとはそれでも冒険者か⁉︎この化け物がこの街から解き離れてみろ!そうすれば世界の終わりだ!カテゴリーHとはそういう存在だ!歯を食いしばれ、冒険者!魔物を倒す専門家が逃げ出せば、人間は簡単に滅亡する!】
【ドゥーン……⁉︎だが、ヴェーラーさんがやられたんだぞ‼︎あの人が、簡単に……!】
【なら誰かが代わりにあの魔物を殺しきれ!それこそがあの男に報いる唯一の方法だろう!】
【わたしも今は騎士団長の言葉の通りだと思う。これ以上あいつを放っておいたら、どれだけの子供が死ぬと思ってるの?ランダ兄さんなら戦ってくれるでしょ?】
【もちろん。戦意が無くなった奴は逃げろ!1人でも逃げて生き残れ!だが、ここから全員生きて帰れる保証なんてねえ、そんなことわかってこの戦いに挑んだんだろうが!冒険者としての誇りを見せつけろ!オレたちは何のために武器を手に取った⁉︎こんな魔物を倒す英雄に憧れて、握りしめたんじゃねえのか⁉︎今こそオレたちが作る英雄譚、ここで散った
ドゥーン、フォイル、ランダが檄を飛ばしたことで武器を握る冒険者たち。生気を取り戻し、あの化け物を打ち倒そうと目に灯りが戻る。
戦闘に戻る前に、ドゥーンにアドバイスを受ける。
【今の君なら奥義ができるだろう。奥義は心身ともに人類の頂点に辿り着けると世界に認められた者のみが放てる戦闘の極意。集中しろ。そして己の心を撃ち放て。それこそが奥義となる】
『アーツバーストを放っている最中に○ボタンを長押ししましょう。MPを50消費して奥義を放てます』というTIPSが出る。アーツバーストは溜めが長いからちゃんと当てるのは厳しいかもしれないが、奥義ともなればカットイン付きの必殺技のようなもの。
それが決まれば攻略も楽になれるかもしれない。
戦闘が再開されて、最初以上に触手がフィールドを埋め尽くしていた。その奥に魔物がいるのでまずは触手を退かさないと攻撃も届かないので、早速アーツバーストをやろうとする。ありがたいことにMPが全回復していたのでMPは十分にあった。
触手からの攻撃はドゥーンが全部守ってくれたので、バーストアーツを放てた。その発動中にボタンを長押ししていたらピキーン!というSEと共にフォイルの立ち絵のカットインが入る。
【炎は熱く、暖かく!全ての子供たちに届け、わたしの想いよ!『ウェスタの
剣から巨大な炎を生み出して、そのまま剣で一閃。敵を攻撃して舞った炎が味方に落ちると、それはむしろ祝福する炎のように味方へ攻撃と防御のバフが入った。
しかも周りにいた触手のほとんどを倒せていた。奥義って強いなぁ。
追加でTIPSが出る。ギフトごとに奥義が変化するだって?これ絶対奥義集とかが動画で投稿される奴だ。
「これ、奥義はできるだけ狙っていった方が良いですね。しかもめちゃくちゃ種別があるっぽいのが色々と試してみたくなるというか」
『ギフトごとに違って、全部モーションとボイス収録してんの?すっげえ手間だな』
『そもそも幼少期と青年期で別じゃね?』
『面倒な触手がいなくなった!これなら勝つる!』
触手が復活したりしていたものの、HPをどんどん削っていく。HPが3割を切った辺りで重力魔法と同時に炎の柱を地面から生み出す魔法も使ってきた。攻撃範囲がとんでも広くなって苦戦し始めたところでまたイベントムービーが入る。
触手の対処が間に合わず、今度はランダが何本もの触手に群がられて、1本は彼の身体を貫通してその勢いのまま壁に叩き付けられた。血を大量に流して倒れたものの、他の触手をフォイルが斬り飛ばしたおかげで即死とはならなかった。
【ランダ兄さん!】
その致命傷は薬を使っても塞がらない。それを見たフォイルが自分の力を使おうと手を向けるが、そこでドリーの言葉を思い出したようだ。
【フォイル。解放戦だろうがその回復スキルは隠せ。正教の連中に見付かったら面倒なことになる】
【お前が次世代の聖女になる。今も聖女がいるためにすぐに代わることはないだろうが、いつかは名前だけの装置に縛り付けられるぞ】
【……ごめん、ドリー。ここで使わなかったら、わたしが後悔する】
フォイルは手から緑色の光を出す。それは思った以上に大きな光となり、目撃者は多かった。特に騎士が感動したかのように身体を震わせ、ドゥーンなんて戦闘中だというのに涙を流している始末。
光が収まったところでランダの腹部は完全に塞がっており、身体を動かせる状況にランダは目をパチクリしながら立ち上がった。
【ランダ兄さん、大丈夫?】
【フォイル……。お前さん……】
【話は後。アイツを倒すのが先】
最前線で戦っていたドゥーンに並ぶように復帰すると、ドゥーンの表情がとても柔らかいものになっていた。それどころか騎士がフォイルの周りに集まり、彼女を守るかのように陣取っていた。
【ごめん、ドゥーンさん。ちょっと遅れた】
【良いのです、フォイル
【それは後。アイツを倒さないと】
【御意!聖なる力の
「うわぁ。回復スキルを使った途端に態度が一変した……。ドリーさんの言葉通りというか。宗教って怖いなぁ」
そうぼやきつつ、戦闘が再開。騎士が優先的にフォイルを守るようになったのでバーストアーツも奥義も使いたい放題。HPを回復するスキルはないのに、MPを回復するスキルはあったようでどんどんMPが供給される。
そんな姫プレイならぬ聖女プレイを強要されてカテゴリーHを攻撃し続ける。触手がいくら出ようとゴリゴリにHPを削る方が早かった。
魔物のHPは3割くらいあったはずなのに、各種バフがてんこ盛りになった状態で奥義を何度も放ったために、いわゆるDPSというのが高かったんだろう。割とすぐに全部を削り切れた。
リザルト画面で今回もらえたのは経験値とG-EXPだけ。レイドとはいえボス戦だからか重要アイテムや回復薬は手に入らなかった。
戦闘時間は36分か。めちゃくちゃ長かった。大きく息を吐いた後に肩を何回か回す。肩が凝った。
戦闘後にアニメ絵のスチルが表示される。瓦礫の街に傷だらけながらも剣を持つフォイル。既に夜中だというのに魔物を掃討した英雄へ賛美の表情を向ける冒険者や騎士たち。
幼い少女が戦場に勝利をもたらす。それはある種の宗教画のような美しさがあった。
【あんな小さな子が、あの化け物を倒してくれた……!】
【俺たちは伝説を目にしている……!おい、あの子の名前は⁉︎】
【新しい聖女様!神は人間の苦難を嘆き、この時代に2人もの聖女を送り出してくださったのだ!】
【聖女だと?つまり回復スキル持ちか!】
スチルのまま、そんなボイスが流れる。この人数の前で知られてしまったことで噂の広がりは一気に加速するだろう。何せ街を取り戻した英雄だ。英雄を讃えるのと同時に聖女だということは知られ渡るだろう。
だが彼女はすぐに倒れてしまう。心配するランダとドゥーンの声で暗転。セーブするか聞かれるのでセーブしてイベントの続きを見る。
彼女はどこかに運ばれたようで、ベッドの上にいる。そこにドリーが入ってきた。その物音でフォイルは目を覚ましたようだ。ドリーはいつもの神父服ではなく、私服のようで簡素な格好をしていた。
【ドリー?……ごめん、約束を守れなかった】
【ふん、今頃世界中で新しい聖女のことが語られているだろうよ。ただし名前は広がっていない。お前は冒険者のフォイルだ。聖女になれば、というより聖女が冒険者だったという事実が正教は気に食わないらしい。別の名前を名乗ることになるだろうな。……お前は、これから聖女として教育を受けるだろう。バカな娘だ】
【それでも、あの魔物を放置したら世界中がわたしのような存在を生むことになる。……あんな地獄、知らなくていい】
【そういう心だから俺は……。まあ、いい。最後の挨拶をしに来ただけだからな。これを持っておけ】
アイテムをもらう。封筒セットのようで『秘密のレターセット』らしい。最後っていうのは、あれか。聖女のことを報告しなかったから正教から最後通告が来たとか。
【俺はしばらく身を隠さないといけない。そこで俺のスキルを使ってお前さんのギフトの名前を偽る。今の聖女のものと同じ名前だから当分は大丈夫だろう。全く逆の名前だとお前が危ないからな】
【そんなこと、できるの?】
【ああ。スキルの一部だ。……じゃあな、名もギフトも偽る少女よ。何かあれば俺を思い浮かべながらそのレターセットに伝えたい内容を書け。そうすれば俺に自動でその手紙の内容が届く】
【うん、じゃあね。……ごめんね】
【謝るな。達者でな】
そう言ってドリーは出ていく。フォイルを動かせるようになったが、ここがキリの良いところだろう。
今度は5時間もやってるし。もうお昼も近いし、疲れたのもあってここまでにしよう。
「ここで今日は終わりにしたいと思います。前回あそこで止めたのは正解でしたね。まさか解放戦が5時間も掛かるなんて……」
『お疲れ!』
『セーブ確認、よし!』
『もうお昼だもんな。今日コラボ配信もあるし、無理しなくて良いだろ』
『えー?続き気になるー』
「次回配信は明日の夜ですかね。3D配信の準備もあるのでちょっと配信頻度は落ちると思います。それでは皆さん、今日も良い1日をお過ごしください。お疲れ様でした」
配信を終わらせる。聖女と同じ力を持ってることがバレたけど、この後どうなるのか続きは確かに気になる。
とはいえカロリーが毎度高い配信なので、終われるところで終わらせないと体力が保たない。仮眠を取って遅いお昼を食べよう。