元俳優、タヌキVtuberに転生する   作:桜 寧音

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解放戦後!正教にバレたフォイルの運命は……⁉︎【SoF】#6

 新人とコラボをした次の日の夜。さっきまで事務所のスタジオで練習をしてきた帰りの夜。宣言通り『SoF』の続きをやっていくことにした。

 真紀さんもイージーモードを始めて、初っ端から7時間という長時間配信をしていた。今日のお昼の練習にはちゃんと来ていたから体調的には大丈夫なんだろうけど、あれだけ疲れるゲームを7時間もするなんて体力が凄すぎる。

 軽く話の内容を聞いたが、イージーモードの主人公は正教の騎士団に代々入隊する貴族の家系で、5歳の誕生日に親の金で騎士として持っていると有利になるギフトを授けられたらしい。幼年期の話はそのギフト授与だけで、あとはずっと青年期として騎士団に入隊するところからシナリオが始まったらしい。

 今ではざっくりと騎士団として任務をやっているようだ。

 こっちのハードモードも掻い摘んで話したのだが、ここで問題になったのが年代の話。イージーモードではAD782という年代が出たらしいが、そんな年代表記を見た覚えがない。多分フォイルが年代を意識していないだけとは思えるが、3年後というポップアップは出たのに何年とは表示されなかった。

 あそこで年代を示すのがわかりやすいはずなのに。どういうことだろうと思いつつ配信を始めた。

 

「前回はヴァルモニアを解放して、グランベルに戻ってきたところでしたね。聖女と似たような回復スキルのことがバレたのでこの後のことはどうなるかというところですが……。まあ、部屋を出てバルドフギルド長に会いに行きましょうか」

 

『聖女にさせられるんかな』

『正教に引き取られるのはほぼ確な気がする』

『こちとら1つの街を取り戻した英雄やぞ!』

『フォイルが全部をやったわけでもないですし』

『とはいえレイドを合計4つもやったわけで、戦功の大部分はフォイルとランダにあるんじゃねえかな』

 

 部屋から出てギルドの1階に向かうとイベントが発生。ギルドと騎士団が対立するように横並びになっていた。実際対立しているんだろう。ギルド側はバルドフが先頭に、騎士団は団長のドゥーンがいた。

 一触即発というのはこのことを言うんだろう。

 片やギルドの仲間でありヴァルモニア解放の立役者。片や聖女しかいないと思っていた回復スキル持ちの世界に1人いるかどうかのレアギフトの持ち主。

 対立は絶対のものだった。お互い怒声を出しているが、バルドフが気付いたようでこちらを向く。騎士団も気付いてすぐに右手を胸と平行にして、拳を心臓の前に置いた。あれが騎士団流の敬礼なのだろう。聖女候補に向ける敬意は本物のようだ。

 

【フォイル、起きたな。状況はわかっているか?】

 

【正教がわたしを誘拐しようとしている】

 

【誤解ですぞ、フォイル様。誘拐ではなく、あなた様を正教に迎え入れようと護衛に来たのです】

 

【それ、何が違うの?冒険者を辞めなくちゃいけないんでしょ?わたしはやりたいことがある。それはきっと聖女になったらできない】

 

【そうだそうだ!本人の意志を尊重しろ!】

 

【聖女はもういるじゃねえか!2人も要らないだろ!】

 

 フォイルの言葉を否定したドゥーンだが、彼女的にはやはり変わらない。家族を奪ったブローカーを、そのブローカーの裏にいる存在を殺そうと考えているのがフォイルだ。そんなことを神聖視されている聖女ができるはずもない。

 冒険者もフォイルの意見に賛同してくれるが、それが余計に騎士を怒らせたようだ。彼らは宗教としての教えを絶対として、なぜ彼らは従わないのだろうと内心不思議がっているのかもしれない。

 価値観の差だろう。

 

【今の聖女様もいつまで存命でいらっしゃっるか不明です。聖女の空白期間はない方が良い。それこそが世界を救う唯一の道標なのです。神が天から見守り、地上は聖女が祈りによって支える。それが世界の、あるべき姿なのですから】

 

【今の聖女様ってそんなに高齢なの?】

 

【聖女様の年齢を聞くのはフォイル様でもNGですぞ?】

 

【……うざ】

 

 ウィンクをしながらそう言うドゥーン。お茶目なギャグのつもりかもしれないが、この場面では冒険者たちを煽るだけだろう。実際フォイルはイラッときているようだ。

 まあ、世界的な話をするのであれば聖女がいない期間を作らないようにするというのは正しいことなのだろう。代替わりについて詳細は知らないが、聖女の死が近付いたら神様が新しく回復スキルの使えるギフトを授けるのか。そして幼少期から正教で教育をして、スムーズに代替わりができるようになっていればシステムとしては優秀だろう。

 聖女候補を見付けるのも5歳になったらギフトを授けるという制度によって簡単にできるようにしたのだろう。問題はフォイルのように孤児はそんな機会がないということ。産まれてすぐの鑑定ではないから見逃しもありそうなことがこの制度の欠点か。

 フォイルは正教の人と関わらずともギフトを得たためにかなり特殊だが、普通ならこの制度によって聖女候補は見付けられる。それこそ神聖なギフトを孤児が授かるなんて考えがないのかもしれない。だから見付からなかった理由を考えて騎士は今度こそ見逃さないために必死なのだろう。

 そうするとフォイルは世間的に見たらギフトを授けた神父が隠蔽したか、ギフトを授かった直後に何かしらの事件に巻き込まれて自分のギフトも理解しないまま孤児になった。この2択くらいだろう。まさか戦闘をやった結果神父が関わることなくギフトを授かって、しかもその名前は聖女と真逆の名前。

 フォイルが色々と特殊すぎる。

 

【ジョークは横に置きまして、現実的な話をしましょう。正教としましてはフォイル様を一生諦めません。ずっと彼女を正教に勧誘します。いくら高名な冒険者になろうとね。──そして、我々はギルド本部に対して神父の派遣を取りやめることができる】

 

【──脅しってことか?】

 

【事実でしょう?ギルドとは相互利益のために協力しているに過ぎません。あなた方はギフトの更新と、孤児(みなしご)を戦力とするため。我々も彼女のような存在を早期発見するためと、ヴァルモニアのように魔物による一大事で戦力を借り受けるため。この不可侵の協力関係にヒビを入れたのはあなた方だ。彼女の存在を我ら正教に伝えなかった時点で、先程の派遣の話はともかく、このグランベルのギルドを停止するくらいはできるんだぞ?】

 

「うっわあ、酷い脅し。ギルドに神父が派遣されなかったら上位のギフトに切り替えられなくなって戦力が落ちるんだから死活問題なのに」

 

 正教にしかできないことを交渉材料に持ってくるとは。神父というかドリーの裏切りは身内のことだから傍に置いても、ギルド長であるバルドフはフォイルの体質を知っていたのだから言い逃れはできないのだろう。

 幼子1人を切り捨てれば今まで通りの生活ができると言っているのだ。これでフォイルを渡さずに断れば、ドゥーンはギルド本部に同じような脅しをするだろう。世界中のギフト更新が滞ればギルド本部としてはやっていけなくなる可能性がある。

 もし同じ脅しをされれば、ギルド本部からフォイルを正教に渡すように言われるだろう。組織としてはそちらの方が正しい。

 

【フォイル様も、やりたいことは我々正教で手伝いましょう。確約はできませんが、世界に伝手のある我らならほとんどのことを為せるでしょう】

 

【……まあ、ギルド長にもこうなるって言われてたから予想はできてたけどね。わたしが残ったらギルドの皆が困るんでしょ?なら、出ていくよ】

 

【フォイル!アンタが嫌な思いをしてまで出ていくことはないんだよ!この街の誰もがアンタを家族だと思ってる!珍しいギフトを持ってるくらいで生き方を変えるなんて、そんなのおかしいじゃないか‼︎】

 

 バルドフの奥さんである女将が抱きしめながら止めてくる。その言葉にそうだそうだとフォイルと女将を渡さないように冒険者が壁となってくれるが、フォイルの決心は堅いようだった。

 一度だけ抱き返して、冒険者としての強すぎる力で強引に女将の抱擁を解いていく。

 

【良いんだよ、女将さん。わたしも皆が大事。だから迷惑をかけたくないの。バタバタとしていて、結局探し物も全然探せてなかったし。……騎士団長さん。わたしがそっちに行ったらわたしのやりたいことを手伝ってもらうから。それが条件。ギルドにも何も手を出さないで】

 

【もちろんですとも。バルドフ殿?フォイル様がこう仰っているのだ。文句はなかろう?】

 

【……いいや、あるね!まだそいつは冒険者のフォイルだ!なら、まだ儂の特権は通用する!冒険者を特例で昇級させるという特権がな!今ここに、トレ・フォイルをヴァルモニア解放戦の功労者としてAランク冒険者として認定する!Aランクへの認定はギルド本部からの承諾がいるが、誰がなんと言おうが、グランベルではフォイルはAランク冒険者だ!異論は認めん‼︎】

 

 そう言い切って、バルドフは椅子に座ってしまう。画面でもAランクへランクアップと表示される。

 バルドフに唯一できる、餞別なんだろう。

 

【……ありがとう、バルドフさん。迷惑かけちゃってごめんね。この街に寄れることがあったら顔を出すから】

【お前は、最高の冒険者だった。民を助け、魔物を倒し、依頼を失敗しなかった。Aランクは世界の認める、ギルドの希望の星だ。──またな、バカ娘】

 

【うん、またね】

 

 冒険者から離れて、フォイルは騎士団の中に入ってしまう。そのことに嗚咽を溢す冒険者や街の住民。フォイルが連れて行かれると聞いて一目見ようと誰もが騎士の中にいるフォイルを探して声をかけた。

 フォイルに救われた者、ただ買い物をしただけの関わりの者、少し話しただけの者、一緒にダンジョンで切磋琢磨した者、合同依頼をした者、冒険者として憧れていた者。そんな住人も冒険者も入り乱れて、フォイルへ別れの言葉や引き留める言葉を投げかける。

 フォイルはその言葉に返すこともなく、騎士団の用意した馬車へ入っていく。窓もあるような高級な馬車に、ドゥーンと2人きりで入れられて馬車は発車する。グランベルが遠くなっていく様子を、フォイルは窓からずっと眺めていた。

 

【フォイル様?……泣いていらっしゃるのですか?】

 

【あぁ……ああああああああああああっ‼︎】

 

 堪えていたものが溢れ出したのか、フォイルの叫び声が響く。馬車が動く姿を上空へフェードアウトしていくように場面は切り替わった。

 次の場面は荘厳な教会の中のようだった。全体的に青で彩られていて、ステンドグラスなどで装飾されており、数々の騎士と神父が中央から別れて並んでいる。中央にはレッドカーペットがあり、そこを修道女の格好をしたフォイルが歩いていく。

 フォイルの噂話を誰もがする。なぜ5歳の時点で見付からなかったのかとか、冒険者をやっていたようだとか。そんな声を無視して彼女はゆっくりとした歩調で祭壇へ向かう。

 男神の像が置かれた手前。全身真っ白の修道女に似た服装をしつつ顔をヴェールで隠した女性が手にもヴェールを持っていた。その女性の前に跪くフォイル。両膝を床に着けて、胸の前で両手を組んで祈っているような姿だ。

 

【(早く終われ早く終われ早く終われ。神なんて信じてないのに、祈るなんて真っ平ごめんだ。皆を助けてくれなかった無能が)】

 

「フォイルちゃんは相変わらずですね。外見だけは取り繕ってるのに、中身は変わらずで安心しました」

 

『一瞬別人になったのかと焦ったじゃねえか!』

『神を信じてない修道女とか最高かよ』

『この人が聖女なんだろうな。ドゥーンも側に控えてるし』

『儀式かったりい、とか思ってそう』

 

 動作と格好が修道女のそれだから何があったとは思ったものの、おそらくこの儀式の前に詰め込まれたんだろう。そして神アンチは相変わらずだ。リスナーも安心している。

 聖女らしき女性もゆっくりと近付き、儀式のためか言葉を紡ぐ。

 

【ギフト【天使(ミカエル)】を持つ者よ。神に仕える者として、洗礼名を授けましょう。産まれ変わりなさい。──エレシア】

 

【はい。わたしはこれよりエレシアと名乗り、この身を主へ捧げましょう──】

 

【(ふざけんな!勝手に人の名前を変えるとか、こいつらに常識はないの⁉︎自分の名前でも、フォイル姉さんのものでもない!そんな宗教なんかで、わたしを縛ろうとするな!)】

 

「おおー、フォイルちゃんブチギレ。自分から聖女になったのならともかく、グランベルの人たちを守るためにしょうがなくですからね。名前も変えられたら怒るのも当然か。それにしてもミカエルって、確か天使の名前ですよね?」

 

 ギフトの名前といい、ずっとキレてるフォイルといい、彼女に聖女なんて無理なんだろうなとは思う。外見や所作をどうにかしても、この内心は治せないだろう。

 まさか洗脳されるわけでもないだろうし。

 聖女によって被せられるヴェール。これによってフォイルの顔は半透明な壁に覆われて表情を隠しやすくなった。立ち上がって聖女に背を向けてカーテシーのように貴族的な礼をすると新たな聖女候補の誕生に教会は拍手の嵐。

 だが、ヴェール越しに見えるフォイルの表情は口の両端をキツく結んでいた。

 グランベルを守るため、そしてブローカーの裏にいる誰かを殺すために、我慢を続けるのだろう。

 教会でのイベントが終わると場面が切り替わり、女性の部屋らしき場所に移動していた。白を基調としながらも置いてある化粧品らしきものや大きな化粧台と鏡があるなど、おそらく女性の部屋だ。そこの椅子に聖女が座って後ろにドゥーンが控えており、2人の正面にフォイルがいる。

 

【お疲れ様でした、エレシア。今後はわたくしが回復術について指導しつつ、騎士団や正教での依頼を受けなさい。特に治療院での仕事は真っ先にこなすこと。わたくし1人でも手が足りない状況です。良い訓練にもなるでしょう。あなたの願いを叶えるために、既に調査は開始しております。結果がわかり次第、あなたへ伝えましょう】

 

【畏まりました】

 

【ふふ、素直で良い子。冒険者なんてやっていた荒っぽい子が来たのかと思ったけれど、主のおかげかしら?最低限の礼節は整っているようね。じゃあ早速、教会の1階に向かいなさい。そこで担当の神父が依頼をくれるわ】

 

 そういうわけで自由行動になるのかと思ったら、また部屋を移動した。自分の部屋らしく、聖女の部屋のように基本は白で統一された殺風景な部屋だった。調度品や私物のようなものはほとんど見えず、ただ生活するだけの部屋に見える。

 そこでフォイルは冒険者の頃から使っていた鞄から手紙とペンを出して、机の上で記入し始める。

 文字を書いていくと、すぐにその文字が消えていった。フォイルは次に冒険者時代に使っていた剣の手入れを始めると、手紙が微かに光る。彼女はすぐに手紙を確認すると、その手紙には返事だろうか文字が書かれていた。

 

【フォイル。事情はわかった。お前には以下に記す魔法を覚えてもらう。これを使えばオレの場所まで飛んでこられるという魔法だ。人目にもつかないから便利だぞ。それに事情を知っているオレならお前に新しいギフトも与えられる。金は必要だが、ギフトが欲しければすぐに言え。正教じゃお前のギフトを増やすことはできないだろうからな】

 

【ドリー、ありがとう。何かあったらすぐに行くね】

 

「ドリーから貰っていた、やりとりができるアイテム見たいですね。多分メールみたいな感じなのかな?あ、ファストトラベル解禁されてる!」

 

『ファストトラベルあるんだ』

『転移魔法とかそういう系?ギフトが欲しくなったらドリーしか頼れないのは、それはそう』

『今どこに住んでるんやろな、ドリー。教会からは追放やろ?』

『聖女候補様がギフト変えたいって言い出したらその神父卒倒するだろ』

 

 行ったことのある場所にはワープできるというファストトラベルが解禁されたのは大きい。それに正教からの依頼ということで冒険者の時もこなしていたクエストマークが表示される神父に話しかければ、冒険者の頃と同じくクエストが受けられるようだ。

 ギフトを育てるなら依頼が効率が良いだろうし、あるものはこなしていこう。サブクエストもやっぱりあるようで、NPCの頭の上に緑色のマークが出ていればサブクエストの証だ。

 何がどう変わったとか確認するためにメニュー画面を開いたら、主人公の名前がフォイルではなくエレシアに変わっていた。

 

「こ、こんなことが許されて良いのか……⁉︎洗礼名だからって、今までの名前を全部塗り潰してくるとかヤバすぎでは?」

 

『わ、わぁ……!』

『やっぱ宗教ってクソやわ』

『修道女スタイル可愛いからヨシ!』

『おい、何を見てヨシって言ったんだ。これも尊厳破壊だろ』

『あれ?武器背負ってなくね?装備してる?』

 

 メニュー画面の3Dモデルは完全に変わっていた。違う衣装を手に入れたのかと思いつつも、冒険者の頃の格好には戻れないようだ。おのれ、正教!

 あと修道女だからか、武器を変更しても見た目に変化はなかった。武器・アイテムは一通り持っていたものの新しく手に入れたものは何もない。

 現状把握も終わったのでクエストをこなしつつ、サブクエストもこなしていく。

 ここは世界の中心と言われる『正教都市アンジェリカ』という街で、正教の本部があり、世界で一番発展している街らしく生活水準が極めて良かった。整備されている水路が見えて、商売も治安もかなり良いらしい。

 それでも困り事があるのは人類の生活圏だからか、それなりの依頼があった。それをこなして街の周辺などは探索したものの、ダンジョンなどは見付けられなかった。それとギルドで依頼を受けることもできず、冒険者フォイルとは別人だと言われた気分だ。

 ただ行動範囲はあんまり広がった気はしない。新しい街に行けるようになったということはなく、アンジェリカより一定以上離れると騎士団によって回収されるということがあった。ファストトラベルで登録されている街には行けたが、特にサブクエストが発生しているということもなくお店のラインナップも変わっていなかったので行く理由は薄かった。

 NPCに話しかけても正教の修道女扱いをされる。グランベルに行っても冒険者フォイルとしては認識されなかった。たかがヴェールという布1枚、格好が変わっただけでこうも態度が変わるものだろうか。

 フォイルを知っている主要キャラが誰もいなかったので、特別な会話が発生するということもなかった。なので素直にストーリーを進めることにする。

 騎士についていって、魔物の集落を正常化させるという任務を聖女に言い渡された。カテゴリーHが確認されたようで、騎士団でも選りすぐりの精鋭を連れて討伐に行くらしい。そこで回復魔法による支援を行えという依頼だ。

 

「カテゴリーHってヴァルモニアにいたあの異形ですよね?あの強かった奴に聖女も騎士団長もなし?ギルドに応援も頼まずって、これ大丈夫ですかね?」

 

『戦力的にかなり心配になるが……』

『冒険者のトップクラスも殺されるんだぞ。舐めとんのか?』

『ギルドなし?カテゴリーHってできるなら正教だけで処理したい感じか?』

『クトゥルフ系を全部カテゴリーHにしてるのか?』

 

 よくわからないが、ストーリーは進む。魔物の集落までは自動で移動し、すぐにイベントムービーで騎士と魔物が戦い始めた。

 今回の騎士の中で統率を任されているバーリという中年に差し掛かった騎士がフォイルの脇に控えて、状況を説明してくれる。

 

【エレシア様。あの中央の一際大きなゴリラに類似した魔物。あれこそカテゴリーHです】

 

【あれが?普通の魔物に見えますが……。強さが別格の魔物をそう呼称しているのですか?】

 

【強い魔物が多いのは事実ですが、全部がそうではありません。中には弱い個体もいます】

 

【ではどういう基準で見分けるのです?もしやそういう見分けるためのギフトがあるのですか?】

 

【フォッフォッフォ。流石のご慧眼でいらっしゃる。そうです、あのような特殊な個体を見分けるギフト。もしくは占い・未来視のようなギフト。もしくは神のお告げなどもあります。エレシア様はまだ主の言の葉を賜ってはいないのですかな?】

 

【……祈りが足りないのかしら。まだ賜ったことはないわ】

 

【貴方様は聖女になるのですから、いつかは賜るでしょう。私もいつかそのような栄誉を得たいものですな。今の聖女様も賜るまで時間がかかったとのこと。慌てることはないでしょう】

 

【(神の言葉なんて聞いてたまるか。聖女は目の前にいない奴の言葉を信じてるって?気でも狂ってるんじゃないの?)】

 

「会話としては丁寧な言葉になってますが、内心は酷いですね。というかフォイルに気が狂ってるって言われたらおしまいでは?」

 

 カテゴリーHのゴリラは暴れずに動かない。騎士たちが戦っているのはその周りにいる魔物たちだ。フォイルは戦うことなく戦場を見ているだけ。負傷者が出れば回復スキルを使うが、やっていることはそれだけだ。

 騎士の中でも精鋭を連れてきたというのは嘘ではなく、騎士の方が優勢だった。

 カテゴリーHはそんな中でも特に動かない。毎度統率者のような立ち位置にいるために、魔物を率いることができるリーダータイプのことをそう呼称しているのだろうか。でもドゥーンがヴァルモニアでカテゴリーH認定をした時は周りに魔物がいなかった。

 魔物もどういう理由で群れているのか、詳しい説明はない。力で従っているのか、テレパスのようなことをしているのか。たとえ群れていなくてもその判定を出すのか。

 さっさと騎士は教えてくれれば良いのに。

 群れの大多数を倒した頃、ゴリラがドラミングをしながら吠えた。それが合図となり、ゴリラが戦線に参加する。人の5倍はある巨体から繰り出される拳は全身金属製の甲冑を着ていようと簡単に騎士を蹴散らした。被害が大きくなり始めて、騎士も編成を変えていく。

 フォイルの治癒の回数も増えてきた。負傷した騎士を片っ端から治していき、治った騎士はすぐに立ち上がってまた突っ込んでいく。騎士というよりはゾンビとかバーサーカーの類じゃないだろうか。

 フォイルは騎士が戦っている姿を見て、小さく舌打ちをしていた。

 

【(動きが遅い。あんな甲冑を着込んでいるから速く動けないんだ。とてつもない攻撃を受け止めようとするのがバカなのに。攻撃は基本的に避ける。毒とか何がくっついてるかわからないんだから、受け止めるのは魔物との戦いでは推奨されないってギルドなら真っ先に教えてくれるのに。……ああ、イラつく。周りの魔物も、カテゴリーHも。わたしが戦ったらすぐに終わらせられるのに)】

 

「めちゃくちゃ苛ついてる……。外面は完璧なのに、治療の手も止めないのに、ドスが効いてて怖いんですが……」

 

『やっぱバーサーカーでは?主人公』

『強いからこそ、だろうなぁ』

『東條ちゃん演技上手いよね。幼女も大人のお姉さんも高校生もショタも演じられるのは芸風広いぜ』

『幼女とわかりつつドス効かせるとかかなり難しいだろうに。そう考えると『SoF』で下手な演技って聞いたことないな。皆上手くね?』

『音響も頑張ったってインタビュー記事に書いてあった気がする。ただCV???が何人かいるんだよなぁ。ゲームでそれって良いんだっけ?』

 

 主人公の声を演じている東條さんの演技に驚く。最近の声優さんは皆演技が上手くて驚く。この演技だけでも凄いのに歌って踊って容姿も求められるというんだから声優という職業も大変だ。キャラソンを歌ったり、イベントで司会をやったりトーク力を鍛えておかないといけないとか、課金額が尋常じゃないとか。何かしら一芸がないと淘汰されるとは聞く。

 マルチタレントか、よっぽど演技がずば抜けてないと生き残るのも大変そうなんだよな。それかコネのある人。コネは芸能界ではどこでもあることか。それに何かしらに秀でてないと生き残れないのも変わらないな。

 イベントが進み、とうとうフォイルの治療が追いつかなくなってきた。というか、あのゴリラが強すぎる。ゴリラが暴れ出した途端に騎士団が殲滅されかかってるんだけど。

 完全に陣形が崩れたところで、ブチ、という音が聞こえた。伏せていた顔を上げたフォイルが手を光らせて剣を取り出す。

 魔法か何かで剣を収納していたのか。知らなかった。

 

【わたしが活路を拓きます!騎士団は一旦引いて態勢を整えなさい!そして周囲の魔物を討伐!カテゴリーHはわたしが討伐します!】

 

【いけません、エレシア様!いくら御身が元冒険者といえども、お1人でカテゴリーHの相手など……!】

 

【このままでは壊滅するだけです!周りの村落を守る最善手は、わたしが出陣することでしょう!】

 

 バーリの忠告を無視し、フォイルは駆ける。ゴリラの前にいた魔物を即座に斬り落とし、騎士よりも速く動いてゴリラの前を綺麗にした。修道女の服なんて動きにくいだろうに、冒険者の頃と同じように空を駆けて、地に斬り伏せて、鬼神のごとき動きで戦場のパワーバランスを書き換えた。

 その姿に恐怖を覚えたのか、魔物が後ずさる。足を止めた魔物は周りの騎士の、格好の的だ。さっきまで不利に陥っていたのに一気に騎士団側へ趨勢は傾いていった。

 そして、ゴリラの目の前に立ったフォイルはその剣先をゴリラに向ける。

 

【カテゴリーH。倒せば貴方の真実はわかるの?……貴方が集落を壊すというのなら、わたしが貴方を終わらせてあげる】

 

【ウホォーーーーー‼︎】

 

 戦闘になる。またソロで、久しぶりのボス戦だと思ったら、戦う前にステータスがおかしくなっていて思わず叫んでしまった。

 

「なんかMPが4分の1しかないんですけど⁉︎」

 

『騎士を回復させまくったからやろうなぁ……』

『これがハードモードか』

『縛りきちぃー』

『ソロの戦闘多いし、こうやって条件付けられるし、ハードモードの名前に偽りなしだな』

『普通にやっててもきついんだが?そこに更に制限かけられるってヤバすぎだろ』

『ゲーム上手くないとハードは無理そうだな』

『レベリングしまくるという最終手段はありそうだけどな』

 

 MPが少ないというアクシデントはあったものの、それでも倒せるように設計されていたのかレイドほどは厳しくなかった。今回はレイドみたいにNPCの援護もなかったし、パーティーも組んでいなかったために1人での戦闘を強制させられたが、ヴァルモニアでのボス戦よりはよっぽど楽だった。

 MPが少なかったので攻撃スキルがあまり使えずに時間こそかかったものの、難なくクリア。経験値もホクホクでレベルアップをしつつ、イベントは続く。

 ゴリラは絶叫しながら倒れる。フォイルがトドメを刺そうと首の近くへ向かったら、ゴリラの身体が粒子のように溶けていく。この溶け方、見覚えがあるぞ。ティラノサウルスを倒した時もそんな感じじゃなかったか?

 ということは、カテゴリーHって。

 俺の予想通り、ゴリラの胸の辺りから女性が現れる。今回は服を着ていた。フォイルは眉を顰めながら回復させようと近付いたが、既に息絶えていたようだ。

 騎士はカテゴリーHを倒したフォイルを褒め称えるが、フォイルの表情は真顔のままだ。近付いてきたバーリへ視線を向けて、冷たい声で問い正す。

 

【騎士バーリ。説明なさい】

 

【は。カテゴリーHとは呪われし者なのです。ギフトではなく呪いを受け、異形に身を堕とす人間。カテゴリーHarms(害悪)。それが彼らの正体なのです】

 

【彼らにギフトはなかったのですか?】

 

【ええ。神に見放された者。恩恵を受けられぬ粗悪品。人間の失敗作。それが彼女らカテゴリーHです】

 

「ん?神にギフトを与えられなかった?異形にはなっていないけど、それってフォイルちゃんも状況としては一緒なのでは……?」

 

 フォイルも神様からギフトをもらっていない。ドリーに貰ったもの以外は自力で取得している。ギフトというシステム名だし、誰も指摘しなかったからそういうもので、それでもフォイルは特殊なんだろうと思っていたけど、これ根本から覆るか?

 しかもHってHuman(人間)だと思ってたけどそうじゃなかった。思いっきり敵視されている。

 俺の考察にコメント欄も各々の考えを書き込んでいく。

 

『胸糞案件』

『異教徒のこと纏めてそう言ってるだけじゃね?』

『人間が魔物に変わるのかぁ。グロ』

『あっ』

『そうじゃん。フォイルちゃんも同じじゃん』

『ギフトと本人が認識というか、ゲームシステムやドリーが世界観からそう判断しただけで、フォイルのギフトって別物の可能性ある?』

『ぐあああああ!これ、二次創作殺しやでぇ。イージーノーマルハード全部クリアしないと全体像も掴めないやん』

『二次創作するなら一次情報は全部網羅しろ。甘えるな』

『鬼のようなこと言ってるやつおって草。流石に全媒体追わないと二次創作するなは酷すぎる』

 

 まあ、こんな考察も外れているかもしれないし。

 ストーリーの続きを聞こう。

 

【……では、ヴァルモニアにいた個体は?あれもドゥーン騎士団長はカテゴリーHと推察していましたが】

 

【エレシア様は討伐の直後に気を失ったのでしたな。ええ、彼もカテゴリーHでした。幸いすぐに肉体が崩壊したため冒険者の目に留まっておりません。冒険者は貴方様の心配をしてばかりでしたからな】

 

【ドゥーン騎士団長があの個体をそう判断できた理由は?今回のように事前に知っていたわけではないでしょう?】

 

【我々も歴史の長い組織です。ギルドとも連携をしておりますので、見覚えのない魔物はひとまずカテゴリーH認定をします。生物としておかしな生態をしていればほとんどの場合そう判断して良いでしょう。特にいくつもの生物が混ざったような魔物はほぼ確定でカテゴリーHです。キマイラを除けば2つ以上の動物が混ざったような姿をしていれば我々はその個体をカテゴリーH認定にします】

 

 気絶していたからヴァルモニアの個体はそう判断できなかったのか。ということはヴァルモニア撤退戦の時に街中で倒したティラノサウルスもカテゴリーH。そしてグランベルに辿り着く前に倒していた魔物も、おそらくほとんどがカテゴリーHだ。

 これ、世界的なシステムの問題なのか。それを直さない神様ってろくでもない存在じゃないかと思ってしまう。

 

【カテゴリーHを討伐するのは騎士団の仕事?ギルドには頼れないのですか?】

 

【倒した魔物が人だった。そう知ると混乱するでしょう。今まで倒してきた魔物もそうだったのではないかと思い詰めれば腕が鈍ります。貴重な戦力を失わないために、人類のために。冒険者は知らないのです】

 

【冒険者は?ではギルドは?】

 

【上層部には伝えてあります。不意の事故で遭遇することもあるでしょうから。そしてそんなカテゴリーHを産み出さないために5歳でのギフト測定を規則として徹底しているのです。ギフトを得られなかった存在は、得てしてカテゴリーHに変貌しやすいので】

 

【そう。カテゴリーHについて隠していることは他にない?今ので全て?】

 

【はい、全てでございます】

 

【(嘘だ。この男はまだ何かを隠している。そもそもそんな情報なら事前に伝えておいて問題がないはず。もしわたしがその事実を知って取り乱して殺される、とかになったらどうするつもりだったわけ?……それとも、それこそが聖女の望み?聖女の資格がある者は自分1人でいいと排除しようとした?……信用できて側にいる人が欲しい。聖女の手がかかっていない、わたしだけの騎士が)】

 

 嘘とかわかるんだ。

 案外フォイルは賢い気がする。教育なんてまともに受けていないのに頭の回転は良いというか。冒険者の時から最適解と思われるものに行き着くのが速いというのは数々の描写をされている。

 ギフトだけじゃなく、様々な才能に恵まれているのかもしれない。それか、生きるために必要なスキルだったのか。

 それと頼れる人が側にいて欲しいというのは年齢相応の寂しさが出ていると思う。正教なんて誰も彼も信用できず、神も信じられず、冒険者を辞めさせられた。治癒魔法が使えるからと次代の聖女として役割を押し付けられる。彼女も自分の言葉で話せる相手が欲しいのだろう。

 聖女になった時に信頼できる騎士を騎士団長に任命できるという話はメインストーリーでもサブクエストでも示唆されていた。その言葉を覚えていたからこそ、騎士が欲しいと思ったのだろう。

 

【魔力も回復してきたのでわたしは治療に戻ります。どなたか、彼女の埋葬を。たとえカテゴリーHとして暴れていたとしても、命絶えた者は等しく人間でしょう。丁寧に埋葬してください】

 

【あれほど治療をして、カテゴリーHを討伐したのにもう治療に戻れるのですか。エレシア様の内包魔力は歴代1かもしれませんな!それに、この者はエレシア様の慈悲に触れることができて幸せでしょう。おい、お前たち!彼女を埋葬せよ。丁寧にな】

 

【はい!】

 

 討伐依頼も終わってアンジェリカに帰ってきた。自身の部屋に黄色い大きな星が表示されていて、それはメインストーリーと同じマークだった。それを押すとメインストーリーが始まりそうだったので、新しく出ていた依頼とサブクエストを消化することを優先した。

 やれることがなくなったところでその星に触れてメインストーリーを始める。

 フォイルは貰った世界地図を見て、地理を確認しているようだ。

 

【コアキメイル。わたしのいた街。あそこ以外で今のところブローカーを見たことはない。ということは普通に考えればあそこに人身売買をしている組織の本拠があるはず……。今も元気にやっていますって報告をグランベルの皆にしたいって言えば騎士団はついてくるかもだけど、行けるかな?その後は転移魔法でコアキメイルに行けばいい。うん、聖女に相談してみるか】

 

 住んでいた街が気になったフォイルは聖女にグランベルに行っていいか尋ねると、騎士団の同伴が条件ながらも許可された。派遣をしていたドリーが役目を放棄していたので新しい神父が派遣されたのだが、その人の仕事ぶりの確認もついでにしてきてくれと言われたので、聖女や正教としてもグランベルは気になるらしい。

 それに聖女として慰問は今後発生するだろうからと、旅に慣れるという意味でも許可をされた。馬車で向かうことになったが、グランベルは危険地帯ということでもないので騎士の数は10人程度。

 これなら撒けるのでは。

 グランベルに到着して、騎士に囲まれながらギルド本部に着く。人払いを頼んでギルド長のバルドフと女将だけを呼んで面会となった。

 

【お久しぶりです。バルドフ様、奥様。ご壮健で何よりですわ】

 

【おーおー、すっかり聖女っぽくなったの。久しぶりじゃ、フォイル】

 

【申し訳ありません。今はエレシアと名乗っております】

 

【ああ、洗礼名か。あたしらからすればフォイルなんだけど……。エレシア様って呼んだ方がいいかい?】

 

【いいえ、わたしと貴方方の仲ではありませんか。呼び捨てで構いませんよ。騎士の皆さん、この方々は特別です。呼び捨てでも気にされぬよう】

 

【はっ、畏まりました!】

 

 騎士が了承の意味で敬礼をする。バルドフと女将はフォイルの変わりように面を食らっていたようだ。違和感があるようで腕をさすっている。今まで面倒を見てきた少女がいきなり言葉遣いも態度も変わって、名前まで変わって話しかけてくるのだ。

 しかも騎士を従えて。

 この変貌ぶりをいきなり受け入れろというのは難しいだろう。

 

【バルドフ様、奥様。久しぶりの再会ですので、ご飯を供にしたいのですがよろしいでしょうか?積もる話もありますし、長旅で疲れてしまって。今日はご飯を食べてゆっくりと休みたいのです】

 

【儂は構わんぞ。騎士の方々はどうする?】

 

【この方々は信頼できます。護衛は必要ありません。わたしが害されることはありませんよ】

 

【そういうことでしたら……。明日は査察をしますので、よろしくお願い致します】

 

 というわけで騎士とは別れる。3人だけでギルド長の部屋に入っていく。フォイルは壁に耳を当てて、近くに騎士がいないことを確認した上でヴェールを外した。

 

【……ふぅ、大丈夫そう。久しぶり、ギルド長、女将。つっかれたー】

 

【ああいう風に話せと教育されたのか?正教は本当に自分たちの教えだけが大事なようじゃ】

 

【口調と姿には驚いたけど、元気そうで良かったよ。あっちで虐められてないかい?】

 

【見てたでしょ?超過保護。むしろ自由がない。……だからこそ2人にお願いがある。コアキメイルの調査をこっそりしたいから協力して。居留守使ってほしい】

 

【それは構わんが……。コアキメイルだとここから丸1日はかかるぞ。流石にそんな長時間は誤魔化せん】

 

【転移魔法覚えたから大丈夫。この部屋もマーキングしたから、ここに帰ってこられるし】

 

【はあ?転移魔法?お前さんのギフトはそんなものまで覚えられたのか?聖女に見初められるようなギフトは別格じゃな。魔法系のギフトでも上位のものでしか習得できないはずじゃ】

 

 やっぱり希少なものなのか。フォイルが覚えられたのはギフトのおかげじゃなく、純粋に彼女の才能のおかげだろう。多分ゲームの進行度で解放される系のシステムだから、ギフトで何を選んで育てていてもそこは変わらないと思う。

 これ、他のゲームモードだと魔法の才能が足りずにファストトラベルというシステムが解放されない可能性もあるぞ。そういうところはかなり厳密に作られている気がする。

 もう少し2人と会話をした後、フォイルは着替えた。下からのアングルで徐々に上半身を映すように視点が動き、全身が映った引きの画角の際にターンを披露。

 冒険者の頃の姿に戻っていた。

 

【うん、こっちの方がしっくり来るね。潜入調査であんな目立つ格好するわけにはいかないし】

 

【そもそも何をしに行くんじゃ?コアキメイルの近くはダンジョンもなく、あの街独自の戦力があるから討伐依頼もないせいであまり情報を知らん】

 

【わたし、あそこ出身だから。ブローカーの巣窟なの。だから潰してくる。聖女なんかになったら自由に動けなくなりそうだから、今の内に家族の敵討ち】

 

【……止めても無駄なんだね。わかった。あたしは止めないよ。心残りは解消してきな】

 

【そうか。あの街か。ギルドも置いていない不審な街じゃ。十分気を付けるんじゃぞ】

 

【うん。行ってきます】

 

 そこでイベントムービーが終わる。ここから操作はできそうだが、部屋からは出られずにファストトラベルでコアキメイルに向かうしかなさそうだ。

 セーブポイントもあったのでセーブして、キリが良いからここで終わらせる。

 その前に、メニュー画面を開くと主人公の名前がエレシアではなくフォイルに変わっていた。こういう細かい変更大好き。

 

「やったー!フォイルに名前戻ってる!やっぱりこの格好ならフォイルだよね!」

 

『ええやん。洗礼名なんて糞食らえ』

『冒険者に戻ったらフォイルなんだな。この格好だとイキイキしてて好き』

『そもそもさっきまでの格好だとヴェールのせいで表情見辛かったからな。キャラの顔隠すとか、感情とかわかりづらくなるからあまり好きじゃない』

 

 フォイルという名前と姿に愛着があるから、この姿に戻って名前も変わっているのは嬉しい。プレイヤーの心理がよくわかっている会社だ。

 だからこそストーリーが怖くもあるんだけど。

 

「今日はここまでにしようかな。ゴリラ討伐みたいに戦闘をして終わりなら最後までやっちゃおうかと思いましたけど長そうなので終わります。明日は朝配信だけの予定です。またこの続きをやっていこうかなと思います。3Dお披露目の準備とかちょっと雑務が溜まっているので夜配信はお休みさせてください」

 

『おん、終わりか。お疲れさん』

『聖女見習い編も長そうだなぁ』

『明日は朝だけね。了解!』

『大事な配信の前なのにこんなに通常配信してくれて感謝しかねえ……!』

『少しは休んでも良いのよ?やっぱ1日も配信空けないで!』

『↑情緒不安定かよ』

 

 配信を終えて飲み物を飲みながらエクリプスの誰かが配信していないかと確認すると、真紀さんと陽菜ちゃんが参加する『宇宙人狼』がまだ続いていた。今日はエクリプスの女性陣でやっているようだったので、真紀さんと陽菜ちゃんの配信を2窓しつつ、真紀さんの配信ばかりにコメントを残すのも付き合ってるのがバレそうなので今日は陽菜ちゃんの方にコメントしようと思う。

 陽菜ちゃんが人狼側で頑張っていたので、「このまま霜月さん食べちゃおう」とコメントをした。真紀さんは一般人で、陽菜ちゃんとずっとべったりしている。もう1人の人狼ができるだけ狩りをして最後に真紀さんを食べちゃえば勝てそうだった。

 コメント欄は俺がコメントしたことに気付いて、同期好きすぎだろとか、さっきまで配信してたやんけと俺が弄られた。人狼をやっている間はコメント欄を見ないようにどかしているだろうから、配信が終わってから気付くんじゃないだろうか。

 マッチが変わって真紀さんが速攻人狼のチェリーさんに食べられたのを見た時は「ドンマイ」とコメントもしておいた。真紀さん側のコメント欄でも同じように弄られて、人狼が終わった後に2人にコメントをしていたことがリスナーにバラされて配信で文句を言われた。

 ここで通話を繋げるのは違うだろうと思ってそこは静観。2人の配信が終わったのを確認してFORのチャットにおやすみと打ち込んで俺も寝ることにした。

 

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