元俳優、タヌキVtuberに転生する   作:桜 寧音

118 / 127
前代未聞⁉︎2人同時3Dお披露目!

 とある土曜日の夜。但馬火乃香の名前でVtuberをやっている女性はモニターの前で先輩たちのお披露目配信を見るつもりで机の上におつまみやお酒を用意してスタンバっていた。今日は水瀬と霜月の同時3Dお披露目。そのためエクリプスの面々はお披露目の時間に配信を被せないようにしていた。

 お披露目以外の配信をしていたら折角の晴れの舞台に視聴者が分散してしまうことと、純粋に誰もが見たいために配信枠を取っていなかった。おおよその時間は聞いているのでその後から配信を始めるつもりだ。土曜日だったために朝やお昼に配信をしていた人もいる。

 火乃香はこの後する予定だ。だがその前に彼女たちのお披露目を優先する。SNSのアカウントを別モニターに用意しておいて、何かあればすぐにコメントをするつもりだ。配信のコメント欄に残しても良いが、SNSの方が配信している2人を邪魔しないかなという配慮だ。それに後から探しやすいのはSNSだろう。お互いに通知ONにしていればすぐに見返せる。

 本来3Dお披露目となったら各々のチャンネルで実施するのだが、今回は2人同時ということでエクリプスの公式チャンネルで配信をする。そのことを結構宣伝してきたからか、始まる5分前だというのにもう1.4万人も集まっていた。

 

 3Dお披露目はVtuberとして一番注目される配信と言っても過言ではなく、チャンネル登録をしていなくても見にくる人もいるほど。しかも今回は2人ということもあって双方のファンが来ていることもあって始まる前から待機している人が多いのだろう。

 これで配信が始まればベルマークによる通知も行き、一気に視聴者も増える。どこまで行くのか正直見当もつかなかった。

 1分前になって、火乃香は缶のプルタブを引いてカシュ!と小気味良い音を鳴らせる。新発売のラズベリー味のカクテルだ。とはいえ安物なのでそこまで期待はしていない。

 この世には様々なお酒がある。安いものから高いものまで多種多様。一生をかけても飲めないお酒だってあるだろう。だからこそ目についた手の届くお酒は飲むようにしていた。グイッと一口飲んで、火乃香は顔を顰める。

 

「うえ、本当にラズベリーっぽい味を再現しただけでアルコールとの調和を考えてないじゃん……。ウチのお酒に切り替えよっと」

 

 判定は不可。すぐ近くにある小さな冷凍庫から氷を取り出して、用意していた日本酒でロック割りを作る。働いているお店のお酒はボーナスなどでも貰えるために常備していて、こうして配信席でもすぐに飲めるように小型の冷蔵庫を脇に置いて炭酸水と氷は取り出せるようにしていた。

 こういう生配信では2分ほど待機画面があってから始まるというお約束があるために火乃香は口直しをしてから配信を待つ。

 蓋絵から切り替わって、ライブステージが見えた瞬間にバンドによる演奏が始まる。

 即座に現れた銀狐の水瀬と、フクロウの霜月。2人とも尻尾を生やして、水瀬は頭から狐耳を生やし、霜月は背中から茶色い羽を生やしていた。立ち絵に忠実で色合いなども変なテカリがなく、マイクを持ちながら走ってもマイクが浮くようなこともなく、長い髪をたなびかせながら中央に立つ。

 3Dとして動きが滑らかなまま、そのクオリティの高さを見せつけながら最近流行りの、週刊少年漫画をアニメ映画化した際の主題歌を歌い始めた。

 

「おお……!可愛い!やっぱ水瀬ちゃんも霜月ちゃんも可愛いぃ!って、オーフェリア先輩と亜麻井先輩⁉︎何黒子に混ざってるんですか!」

 

『2人ともギャンかわなんだが⁉︎』

『生バンドでの演奏だー!久しぶりの黒子さんだー!』

『初手で『Killing time's』かよ!かっけええ!』

『オーちゃん?円香っち?何しれっと混ざってるんです?』

『ギター2にベース1にヴァイオリンの唄上にドラムの亜麻井かな?』

 

 楽器ができる先輩たちが混ざっているものの、中心はやはり今日初3Dになった水瀬と霜月。2人でダンスを合わせてポーズも合わせて歌っている。ダンスも歌もできるのが最近の女性Vtuberにも求められているが、その中でも2人の完成度は高いように見えた。

 ダンスが苦手な但馬からすれば先輩たちは凄いなという感想になる。

 最初の曲が終わった後、霜月が挨拶をする。それに合わせて亜麻井がドラムを叩きながら祝福していた。

 

【というわけで最初から歌で始まりましたが、3Dお披露目です!とうとうあたしたちも3Dだー!】

 

【わーい!やったやった!エリー可愛いよ!ほら、クルッとしてクルッと!お約束でしょ?】

 

【それじゃあ……わー!】

 

【お羽がキュート!尻尾もフリフリで可愛いね!見なよ、これがウチのママだよ?皆刮目すべし!】

 

 霜月がゆっくりと一回転しながら、動く尻尾と羽を見せつける。設定画で背面や足などがどうなっているかは知っているものの、3Dではっきり見えるのはまた別格だ。衣装も細かく見える上に、ブーツなども綺麗に動いている。

 動きが綺麗なこともさることながら、水瀬のママ発言にはもう誰も突っ込んでいない。初見の人間が少し疑問符を浮かべているが、大量のコメントに押し流されていた。

 続いて水瀬もクルッと一回転する。彼女はお尻をフリフリするサービス付きで火乃香は鼻血が出そうだった。天然JKのやることは恐ろしいなと思いつつ、コメント欄も同じような人ばっかりだったために自分が変ではないと安堵する。

 同僚のお尻フリフリに興奮する人は間違いなく変人だ。

 そのままの流れでバンドメンバーを紹介する2人。唄上と亜麻井は頼んだら出演してくれたとのことで紹介もそこそこに次の流れになる。

 今日は徹頭徹尾歌ライブ。ダンスで動きはしっかり見てほしいということで、どんどん歌をやっていくということだ。

 画面が少し暗転して、現れたのはジョンと真崎。今度は4人で歌うようで、今度の歌は男性4人ボーカルの5年ほど前に流行った曲だった。紅白歌合戦でも歌われるようなその年の流行ったトップ層の歌であり、J-POPらしいノリノリのテンポで、全員がパート分けをして歌う。

 この選曲はジョンのもので、水瀬以外全員知っていたので水瀬だけ覚えた経緯があると火乃香は後から知った。彼女自身も知っている歌だったのでお酒が進みながら楽しむ。

 間奏中にジョンが水瀬と霜月とハイタッチするなど、コメントが盛り上がるようなこともしつつ歌が終わる。

 

【はい、というわけで『眩しい朝日』でしたー!ジョン先輩と真崎先輩、ゲスト出演ありがとー!】

 

【水瀬ちゃん、霜月ちゃん、3Dおめでとー!うははー、ちっせー!】

 

【ジョン先輩と真崎先輩が大きいの!私とエリーは標準だから!】

 

【標準……?平均身長より少し小さめのような……?】

 

【エリー!2人が身長マウント取ってくる!】

 

【ヨシヨ〜シ。身長はいざとなればブーツやヒールでどうにかできるから……】

 

「堂々と抱きしめちゃう母娘てぇてぇ!やっぱ直属の先輩たちは最高だわ‼︎」

 

 ジョンと真崎に身振りで身長が小さいことを揶揄われて霜月に抱きつき泣きつく水瀬の様子に火乃香はグビグビとお酒が進んだ。グラスの中身がなくなってしまったので6人の会話を肴にお酒を追加していく。

 

【身長はね……。リリ君を除いてウチのネムリアさんが一番低いかしら?ねえ、円香さん】

 

【ネムリアさんがダントツ。ユークリムさんとどっちが高いっけ?ああでも、確か霜月さんよりは少し大きかったから、多分低身長2位3位だと思うよ?】

 

【そ、そんなぁ!】

 

【チェリーさんも但馬さんもスタイル良いですもんね……】

 

【やーい、低身長ー】

 

【ジョン先輩、プリティなの!キュートなの!しまいには怒るよ⁉︎】

 

【もちろん可愛いとも、お姫様方。食べちゃいたいくらい】

 

【【うわぁ】】

 

【お披露目の後輩2人ともをドン引きさせるなんて、ジョン様は素晴らしいですわね】

 

【オーフェリア先輩もっと褒めて!】

 

【全く褒めていませんが?】

 

 そんな身長弄りの漫才が続く。自分も3Dの身体を手に入れればあの混ざりに参加できるとなると、是が非でも3Dになりたいと思う但馬。

 実際彼女の3Dの話も進んではいるのだが、今月来月は無理そうだ。今調整を重ねているが12月になりそうだった。

 3Dの身体を手に入れたら絶対にFORの全員を呼んで弄くり回してやろうと決意していた。

 ジョンと真崎はこの曲だけで終わり。彼女たちが去っていき、今度はユークリムとハピハピがやってきてボーカロイドの曲を披露した。ボーカロイド全盛期の有名な曲であり、かなりの高音が求められる曲なのだが、それをしっかりと歌い、途中で尻尾のあるユークリム、水瀬、霜月全員が尻尾を見せる振り付けを披露。

 そこでコメントはもちろん、スパチャが飛びまくる事態に。但馬も興奮しすぎて配信では載せられないような汚い音声を飛ばしていた。

 

「おおおおおおおおおおおんんん⁉︎尻尾ぉ、しっぽおおおおおお!」

 

 淑女が見せてはいけない醜態を撒き散らしつつ、体温が上がりすぎて10月なのに冷房を入れ始める但馬。防音仕様の部屋なため熱が篭りやすいというのもあるが、純粋に彼女が興奮しすぎて体温が上がり、冷房をかけないとまた鼻血を出しそうだった。

 歌が終わった後、唯一尻尾がないハピハピが3人を詰める。

 

【あの途中のダンスずるいんだけど?1人だけハブにされて悲しかったなー】

 

【ああっ、ごめんねハピ先輩!でも可愛かったでしょ⁉︎】

 

【そりゃあ、可愛かったけど……】

 

【ハピちゃん、嫉妬とツンデレ?可愛いな〜】

 

【あそこのパート、元曲の決めポーズだったはずでしょ!ユークリムも黙ってこっそりあんなポーズをやってて1人だけ浮いてたのが嫌だったの!】

 

【可愛さは勝つんだよ。今度FPS一緒にやってあげるからさ〜】

 

【なら仕方がない……って、ウチにFPSを与えとけば良いと思ってない⁉︎】

 

【え?うん。ハピちゃんってFPSかご飯かズァーク与えとけば良いと思ってた。今度プラモデル買いに行く?】

 

【行く!とうとうユークリムもロボの良さが……!】

 

【あ、でも作るのは無理だからあの出来上がってるフィギュアみたいな奴でいい?】

 

【興味持ってくれるなら何でもOK!】

 

 何故か後輩のお披露目で先輩たちの同期愛を見せつけられる視聴者たち。

 割とオールジャンルOKな但馬は百合同期カップルもありだとデュフデュフ言いながら涎を垂らしていた。

 たとえ家族に見られても通報ものの顔だ。一人暮らしで良かったと存分に自分の趣味に耽っていた。

 ユークリムと改めて身長比べをして、やはり3人の中ではユークリムが一番大きいことを再確認して水瀬が項垂れていた。霜月は自分の背の小ささを理解しているためにそこまでショックではないらしい。

 但馬は但馬で、彼氏のリリとの身長差を考えたら身長の違いなんて気にしないんだろうなとも思っていた。

 ハピハピとユークリムが退場して、ここからは水瀬がソロで歌うらしい。しかもオリジナル曲ということで、期待値が一気に上がる。

 霜月も一度舞台袖に避けて、暗転する。画面にタイトルの「チェックメイトはおあずけっ」とピンクの文字でデカデカと出た後に、作詞:水瀬夏希、作曲・編曲:絹田狸々と出てコメントは爆速で流れ始めた。

 

「夏希ちゃん作詞⁉︎そんでもってリリ先輩また⁉︎」

 

『なっちゃんが書いたの⁉︎』

『あの野郎!またやりやがった!』

『先週自分の曲発表したばっかだろ!』

 

 暗転が開けたら大きなピアノが見える。そこに座っているのは小さなタヌキ。ここで映るタヌキなんて1人しかいない。リリだ。

 明るいポップな音楽に、先程のバンドメンバーにリリが加わってかなり盛大な音楽が奏られて、センターには水瀬がいた。

 リリが現れた瞬間に、その同期愛に火乃香は頭がオーバーフローしかけた。

 

【ここで決着は早すぎるでしょ。だからね。

チェックメイトはおあずけっ!】

 

 アイドルソングのようなスタート。水瀬は踊りながらマイクを持って確かな歌唱力を持って歌い始める。ステージも全体的にピンク色のライトを使って彩り始めた。

 

【朝から君は顔を赤らめる。電車で目が合っただけなのにね。

まだまだ先は長いぞ!毎日同じ時間に、ご苦労です。

いつもの坂道を、10歩後ろにいる君。

話しかけてくれば良いのに。視線がバレバレだよ。

みんなとおはよーの挨拶交わして、今日も可愛くみんなのアイドル!

昨日のことを話して、今日の話をして、笑顔も忘れずに!

みんなに向けた笑顔にやられて、君の心は保つのかな?

個人宛はもっと仲良くなってからね。

コメントではあんなに熱心なのに。学校ではそっけないね。

レスポンスが早いのは、画面越しだけかな。】

 

 学校で知る誰かに向けたかのような歌。学校にいる自分と、配信している自分を表しているような歌詞と耳に残りやすいポップな曲調にコメント欄は大盛り上がり。

 但馬も片手にお酒を持ちながら盛り上がる。防音がしっかりとしていて良かった。

 サビではテンポが変わる。特にギターとドラムによる疾走感がとんでもなかった。

 

【まだまだまだまだ本気じゃないよ!

メイクもバッチリ、ライトももっと!

ここは私の舞台だから、もっとね。

ライトアップでウィンクっ!

ここで決着は早すぎるでしょ。だからね。

チェックメイトはおあずけっ!】

 

 ウィンク、のところで本当にウィンクをしてくれて但馬は発狂。完全無敵のアイドルソングに脳を焼かれてしまったリスナーが多く、コメントも可愛いばかりで埋め尽くされた。

 

【夜でも君は顔を赤らめる。画面で目が合っただけなのにね。

まだまだ夜は長いぞ!毎日同じ言葉に、ご苦労です。

いつもの配信に、割と最初にいる君。

話しかけてくれているけど。好意がバレバレだよ。

みんなとおはよーの挨拶交わして、今日も可愛くみんなのアイドル!

今日のことを話して、明日の話をして、笑顔も忘れずに!

みんなに向けたお歌にやられて、君の身体は保つのかな?

ラブソングはもっと仲良くなってからね。

コメントではあんなに熱心なのに。現実ではそっけないね。

レスポンスが遅いのは、真正面だけかな。】

 

 身体全身を使って、楽しそうに踊りながらエネルギッシュに歌う水瀬。その姿が本物のアイドルのように眩しくて、なんでサイリウムを常備していなかったのかと但馬は悔いることになる。

 

【まだまだまだまだ歌っていたいよ!

ライトもバッチリ、バンドももっと!

ここはみんなの舞台だから、激しくね。

テンポアップでウィンクっ!

ここで終わりは早すぎるでしょ、だからね。

チェックメイトはおあずけっ!】

 

 サビが終わって、すぐにCメロに。

 疾走感が衰えることなく、むしろバンドのボルテージもどんどん上がっていった。

 

【アンコールは嬉しいよ。

好きな歌を聴きたいよね。

私のことはわかっているのに、君のことがわからないよ。

だからもっと、教えてよ!】

 

 三度(みたび)のサビ。ここまで来れば順応できる。

 コメントも画面の前でのレスポンスも、ライブ会場のごとく息を合わせて誰もが叫んでいた。

 

【まだまだまだまだ本気じゃないよ!

メイクもバッチリ、ライトももっと!

ここは私の舞台だから、もっとね!

ライトアップでウィンクっ!

まだまだまだまだ歌っていたいよ!

表情バッチリ、あなたももっと!

ここはあなたの舞台だから、きちんとね!

大きな声で、教えてっ!

ここで終わりは私が嫌だよ、だからね。

チェックメイトはおあずけっ!】

 

 歌い終わった後、少しの余韻と共に照明が絞られていく。

 コメントでは『なっちゃんのクラスメイトになりたいだけの人生だった』『歌うっま』などの感想が散見される。

 そして準備が整ったのか少し暗いまま、絞られた照明でうっすらと明るくなった程度の明るさで今度は緑色で歌のタイトルが出る。それと同時にピアノと、アコスティックギター、それにヴァイオリンだけの音色が聞こえ始める。

 タイトルは「月夜のない僕たちは」。作詞が霜月エリサ、作曲・編曲がまたしてもリリになっていたためにあのタヌキは、みたいなコメントが爆増。

 しっとりとしたメロディで霜月がスポットライトに照らされて歌い始める。

 

【僕たちはいつだって、いつまでだって。

行く当てのない道を、進む。

 

カバンに詰め込んだパンはあと少し。

雪化粧は僕たちにはちょっと寒いから、手を繋ごうよ。

コンパスなんて首から下げて、冒険家気取り。

根拠のない夢を語って、僕たちは笑い合う。

小石を蹴り上げて、遠くへ飛んだ者勝ち。

テッペンとか目指してみたくって。

ナイショの話なんて、もうしないよ。

僕たちはむしろ、話のタネを探し続けているんだから。

今日も夜空は遠いね。】

 

 しっとりとした曲調ながら、それを歌い上げる霜月の歌唱力も確かなもの。ベースとドラムも少しずつ混じり、曲に厚みが出始める。

 

【フルムーン。月のワルツを踊ろうよ。

ここに音楽もないけれど、僕が唄うよ。

僕たちはいつだって、いつまでだって。

わかりっこないもので、遊ぶ。】

 

 1番が終わったようで、そこからベースとギターの音が大きくなる。ダブルギターからギター1、アコスティックギター1の編成に変わったものの、それを補うようにリードギターがしっかりと自分のことを主張していた。

 

【カバンに残されたパンはあと少し。

春化粧は僕たちにはちょっと眠いから、寝転がろうよ。

木の棒なんて上へ掲げて、騎士様気取り。

理由のない夢を騙って、僕たちは遊び合う。

頭を振り上げて、遠くへ叫ぶ者勝ち。

トモダチとか探してみたくって。

明日の話なんて、まだしないよ。

僕たちは今も、話のタネを探し続けているんだから。

今日は夜空が近いね。

 

フルムーン。月のドレスで踊ろうよ。

ここに舞台もないけれど、僕が真似るよ。

僕たちはいつだって、いつまでだって。

子供のままで。】

 

【歩き疲れて、転んで、眠って。

笑って、手を伸ばして、触れ合って、優しくキスをして。

ああ、お月様。僕たちを連れて行って。

きっとそこには──。】

 

【フルムーン。月のワルツを踊ろうよ。

ここに音楽はあるけれど、僕が唄うよ。

フルムーン。月のドレスで踊ろうよ。

ここに舞台はないけれど、僕が踊るよ。

 

歩き疲れて、転んで、眠って。

笑って、手を伸ばして、抱き合って、優しくキスをして。

ああ、お月様!僕たちを連れて行って。

僕の横には──。

羽根を預けた君がいるんだ。】

 

 最後は優雅に、ヴァイオリンの独奏で締められる。唄上の演奏で終わった後には照明が明るくなり、水瀬も舞台袖から出てきた。

 

【エリー!めちゃくちゃ良かった!練習で全然聴けてなかったからほぼ初見なんだけど、なんかもう凄く良かった!】

 

【語彙が凄いことになってるよ、夏希……。はい、というわけで2曲続けてオリジナルの曲をお送りしました。皆さんもう見えていると思いますけど、最後のゲストのリリくんです】

 

【パパー!ピアノありがとー!】

 

【だからパパは……。自分のお披露目でしょ】

 

 軽くピアノを弾いて、その後降りて2人に近付くリリ。真ん中に立たされて、その隣で水瀬が手を使って自分の半分くらいしかないリリを弄る。

 

【あはは、リリちゃん小っちゃーい!さすがエクリプス一番の低身長!】

 

【人型の皆に勝てるとでも?】

 

【というわけで、晴れてFOR全員、3Dです!これからパパママと一緒に色んな企画で爪痕残すぞー!】

 

【無茶振りはやめてくださーい】

 

【アドリブ強くないので、皆さんお手柔らかに……!夏希も無茶なこと言わないで!】

 

【あれやりたい、気配斬り!宗方先輩全員で囲んで倒そうよ!】

 

【絶対無理だよ。戦った僕だからこそわかる。あの人全員叩っ切ると思うよ?】

 

 そんな和気藹々とした会話がされる。だがこれでFORが全員揃ったので、3Dなどの企画に呼びやすくなるだろう。

 やっぱり身体を使った物事は数字が残りやすい。企業勢としてはようやく1人前になった証でもあるのだから。

 3人揃ってのわちゃわちゃが繰り広げられるものの、スタジオの時間もあるためにそこそこに終了。最後にもう1曲歌って終わりということになったが、最後は流石に新曲ではないと霜月が言う。

 だがリリがピアノに座り直して、そのタイトルが発表された瞬間に全部が吹っ飛んだ。

 

【それでは聞いてください。『polar night/Luna』】

 

 それはFORを象徴するオリジナルソング。水瀬と霜月が歌い、リリがピアノを弾く。今回用のアレンジもされており、お披露目用のアレンジバージョンだった。

 最後までFORの同期愛たっぷりの配信に、火乃香は色々とやられてしまった。SNSでコメントを打ち、どうにか落ち着こうとするがどうにもならず。

 お披露目配信が終わったので火乃香は自分の配信の準備をしなければならなかったが手が進まない。時間も既に告知していたのでどうにか配信開始のボタンを押したが、それはあまりよろしくなかった。

 

「カーヒュー、ヒュー!ハー、はーっ!」

 

『え。どしたん?』

『音声バグ?』

『なんか呼吸音しか聞こえんが?』

『いや、やばい!っていうか配信してる場合じゃないだろ⁉︎明らか過呼吸の呼吸音だぞ‼︎』

『過呼吸⁉︎何で⁉︎』

『配信止めろー!』

『チェリー!それかマネージャー!誰でも良いから助けてー!』

 

 その日、火乃香はものの数分で配信中止。過呼吸が落ち着いた後、改めてSNSで謝罪をして、その内容が先輩たちのお披露目配信があまりにも尊くて過呼吸になったまま配信をやらなくちゃという使命感で開始ボタンを押してしまったと伝えると、アホかと散々に突っ込まれた。

 命に別状がなく、とんでもない理由で過呼吸になった上に配信をやろうとしたおバカへ戒めのように拡散されて、トレンド下位の方に『カプ厨過呼吸』がトレンド入り。『FOR』や『3Dお披露目』などがエクリプスとしてはトレンドに入っていたが、そんなことでトレンドに入りたくなかったと火乃香は悔しがる。

 

「ちゃっかり韻踏んでるし!こんなのが初のトレンド入りとか、黒歴史なんですけど⁉︎」

 

 このことはエクリプス全員に呆れられ、純粋に心配したのは水瀬くらい。

 ちなみにこのことでチャンネル登録者数は若干増えた。プチバズりを経験することになる。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。