元俳優、タヌキVtuberに転生する   作:桜 寧音

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イージーモード最終回!僕の心はズタボロです【SoF】イージーモード#5

 『大激闘スマッシュバスターズ』の大会を終えた翌日。

 朝配信は真紀さんと一緒にいたためにお休みをいただいた。リスナーたちからすれば『スマバス』の大会に2日連続で出場したために休んだとしか思わないだろう。

 Vtuberさんの中にはどんな理由があろうと必ず朝配信をしていて、それこそ365日配信を続けたために大半の先輩よりもアーカイブ数が多くなっている人もいるらしい。毎日継続できるって凄いよなぁ。俺も理由がなければできるだけ配信はしているけど、理由があったら配信できないし。

 というか、毎日配信は事務所側に止められている。その人は短い時間だから事務所も止めていないのか、どうなんだろう。エクリプスは個人配信以外の企画などの撮影や案件なども含めた時間で上限時間が設定されている。

 こちらとしてもその上限時間は超えないように調整している。勤怠表や経費のための資料を毎月作って提出しているし、こういうところは社会人っぽいらしい。真紀さんからの受け売りだけど。俳優なんて会社員とは呼べないからな。

 この提出物系で遅れる人がVtuberには多いらしい。これはエクリプスだけではなくVtuber全体のようだ。割とルーズな人が多いらしくて遅刻やら提出期限で苦労するマネージャーが多いらしい。だから前もっての締め切りをかなり早めに伝えたりして対策を取っているものの、他の人と話したら締切が違うなど発覚して結局遅いままなのだとか。

 

 そういうのってイタチごっこだよなぁ。

 今日は『SoF』のイージーモードをやっていく。現段階でドライグ団長ことアルビオンを倒してしまったために、ハードモードから逆算してすぐ終わりになるだろう。

 前回はイージーモードの主人公、ケビンの父親が殺されたところで終わった。アルビオンを倒した後にすぐイベントが進み、主流派の組織壊滅もそこまで苦労せず、そして教会の地下室でフォイルが匿っているカテゴリーHにされかけた子供たちも見付けてフォイルへ激昂。

 ケビン目線ではフォイルがヴェールを被っていることや、声色が冷たかったこともあって信用できなかったようだ。ハードモードをやっていると、フォイルは言葉通りに治療中の子供たちと言っていた。

 これは直属の上司が、それこそ聖女であるフォイルの右腕であるアルビオンがドラゴンになり、見付けた子供たちも魔物のような身体が一部浮き上がっていたり、実際にそう変質していれば疑いたくもなるだろう。

 イージーモードはことごとく正教側が悪いように見えるよう演出している。ハードモードという知識がなければ普通の人にとっては正教が悪い組織のように見えるし、真紀さんも陽菜ちゃんもそれを疑っていなかった。

 

 これも主流派がハードモード以外で主流派を名乗っていないことが大きい。別の組織名を使っているために、正教の下部組織だとケビンは推察し、それを裏切り者であるパーティーメンバーのセルベスタの言葉によってそれは肯定された。

 うーん、見事に暗躍していますね。初見ではただの物知りお姉さんに見えるだろうけど、裏側知ってるとなぁ。言葉巧みに騎士団が崩壊するように誘導しているようにしか見えない。

 そのまま流れるように父親が殺されたので途中で止められなかった。しかも殺されるシーンはなし。残酷な死体の状態だけムービーで見て、葬式もせずにお別れ。そこを慰めるのもセルベスタという地獄。

 父親殺したの、その女の人なんですよ。

 切り傷から騎士の犯行かもしれないとか言ってたけどさあ。それは正解だよ。騎士に潜伏しているセルベスタが殺したんだから。

 ドラゴンを倒し、反抗組織も壊滅させた英雄から一転、身内の不幸と猜疑心により一気に消沈モードというか、復讐者となっている。

 

 それはフォイルの特権だぞ。実際にギフトで【復讐者】が増えていないか確認にいったが、増えてなかった。あれはやはりフォイル専用のギフトっぽい。

 アルビオンを倒すのは本当に悲しかった。イージーモード目線では本当に突如としてアルビオンがドラゴンの姿になり、暴れ出したのだ。レベルもギフトもしっかり上げていたために、そしてハードで戦うよりも全然弱かったので勝ててしまった。

 本当のアルビオンはもっと強いんだ!と叫んでいる場面が見事に切り抜かれていたけどしょうがないだろう。それくらいイージーモードは易しかった。

 ケビンとアルビオンの交流のイベントはそれなりにあって、サブイベントも専用のものがあるほど。アルビオンはケビンを父親込みでそれなりに評価していたようで、いつかは近衛隊になってほしいとまで言っていたほど。

 そんな尊敬する上司を倒すことになったためか、ドラゴン戦ではケビンからアルビオンに語りかけるボイスがかなりあった。それが熱演であり、アルビオンからの返答は全て唸り声だったからこそ、物悲しさを感じた。

 

 ケビンもそうだが、パーティーメンバー全員、そこまで悪い子ではないんだよな。ただ使命とかに盲目で、一直線な性格をしているだけで。人間性は良いからこそ、騙されたらどこまでも間違ってしまうのかとも思った。

 戦闘に関しては、そもそもとしてケビンが得られる最初のギフトが破格。ハードでもそんなに強いギフトは数えるほどで、そのギフトさえ育てておけばイージーモードの柔らかくなった敵はなんてことなかった。

 敵のレベルもHPも高くなく、その上味方は全員騎士のため、ギフトが優秀。サブクエストをしっかりとやっていれば戦闘で困ることはなかった。

 ハードで戦闘の概要はわかっているから、難しいところから易しい方をやればそうもなるだろう。

 真紀さんがイージーモードを30時間で終わらせていたのもあって、ハードモードが終わってからコツコツやっていたのと、レベリングは裏でやったこともあって今回5回目の配信ながらもう終わりそうだ。

 父親のことを吹っ切りつつ、メインシナリオを進めると街中にゴーレムが突如として現れたという話が出て、現場に急行することになった。ゴーレムなぁ。

 現場に向かうと、見覚えのある巨大なゴーレムが。そしてそのゴーレムに踏み潰されるセルベスタ。

 

「ウワー、セルベスタガー!このゴーレムめ、許さないぞー!」

 

『リリ、棒読みやんけ』

『もっと悲しめよ!パーティーキャラの永久離脱だぞ!』

『だって、ねえ?』

『セルベスタだし()』

『CVマミコだぞ⁉︎すっげえおっとりお姉さんがいなくなったのに!』

『声優さんが良いからこそ、落差が……』

『リリも育ててなかったし、離脱はダメージ少ない』

『イージーモードを普通にやってる分には斥候系の能力が多くてステータスも万能型だし、頼れるお姉さんだったんだけどなぁ』

 

 そういうわけで謎のゴーレムことドムニスとの戦闘。操作していた側だから操作パターンもある程度わかる。とはいえ無尽蔵のHPということと、心情的に倒したくなかったということもあって普通に負けた。

 負けイベだったようでイベントは進む。全滅エンドになっても良いかなくらいの気持ちでイージーはやっているので、負けても気にしない。

 全員が地に伏せたものの、ゴーレムはパーティーメンバーを誰も殺さずに撤退。そして間髪置かずして、騎士団長に昇進したドムニスがやってきて事情聴取を始めた。

 何も怪しくない。本来の仕事は聖女の周辺警護だからね。雑事は騎士に任せておけばいい。その騎士でも対応が難しくてようやく、近衛隊が動く。だから遅れてやってくるのは疑う要素がない。

 セルベスタが無惨に目の前で殺されたことで、パーティーメンバーの士気は最低まで下がった。何でセルベスタが殺されなくちゃいけないんだという悲痛な嘆きがあったものの、自業自得です。

 そして彼女の遺書が彼女の家の管理をしていた老人から渡される。その内容は正教の裏側の話。カテゴリーHを産み出す実験をしており、殺された理由もこの事実を知ったからだろうと書いていた。彼女の家の者と協力する者も多いため、もしもの時は騎士として務めを全うしてくれという文章で締め括られていた。

 

「このクーデターへの示唆、彼女の立場を知っているとものの見事にケビンたちを扇動しているんですよね。それに彼女の家の者って全員主流派でしょう?今の正教を潰そうとしますよねえ」

 

『うーん、悪女』

『セルベスタ的には彼女こそ正義だから』

『神の醜態を知ってるからこそ、何ともなって感じ』

『あいつらってマジで神の声聞いたことないんでしょ?歴代聖女の言葉だけ信じて3000年妄執を続けてるって……』

『宗教2世とか歴史ってそういうもんだし』

 

 ストーリー的にクーデターをやらないという選択肢はないようで、このままクーデターの準備が進む。協力している主流派によって齎される情報によって正教がクロだと確信してしまうケビンたち。

 トドメはギルドも協力を申し出たことだろう。別の組織も正教に対して異議を申し出るということは主要な組織が2つも反抗するほどの何かがあったということ。カテゴリーHという存在はそれだけ人間的には忌避感が出るものだ。

 とはいえ、それを用意しているのはあくまで主流派で、正教はちょっと前に行動した通りに潰すのがメインなんだよな。それも民衆を納得させるためとか、トカゲの尻尾切りとか、それこそ別の組織に罪をなすりつけたとか散々だ。

 

「正教が世界的に幅を利かせている組織だからそれくらいやってもおかしくないと思われていますけど、それってフォイルたちがこの20年頑張って勢力を取り戻しただけなんですよね。大元は主流派に流れてしまったわけですし」

 

『本当にハード目線に立つと、他のシナリオは正教不遇だよなぁ』

『というか、あんだけ腐敗してた組織を5年くらいで膿を出し切って、ちゃんとした組織に変革仕切ってるのは聖女云々を抜いても指導者として完璧すぎるんよ』

『この聖女がいなくなって、また主流派が世界を握ったとして。また地獄への振り戻しですが?』

『事情知ってる連中が全員死に物狂いで反対してくるのが目に見えるようだぜ……』

 

 サブクエストも発生していなかったので、このままクーデターに。やっぱりこのまま行くと、ラスボスはフォイルか。

 正教を一度取り壊して、正しくギフトを受け取れるような環境の再構築。そして今の聖女であるデメテルを廃して神の恩寵を取り戻すことがこのクーデターの目的らしい。

 神の器を用意する最悪の時代への逆行だ。これ、イージーモードが最初なら正義感を持って頑張れたかもしれないけど、こっちとしては戦いにくい思いしかない。

 空も何かの災厄の予兆かのように、一気に薄暗くなる。それを見て正教が何かをしたと見てクーデターが始まった。

 それ引き起こしてるの、君たちが信奉する神の仕業なんですよ。

 正教本部へ、裏口からはギルドの冒険者たちが。正面はケビンたちが指揮する騎士が、残った騎士や神父たちと戦う。

 

 クーデターが始まって、聖女デメテルを探すというのがメイン目標になる。屋上庭園にいることはわかっているものの、目的地は表示されない。突入した後に自由行動になったので、せっかくならとまずは地下室に向かった。

 カテゴリーHになりかけている子供たちはおらず、あったのは観察日記だけ。それも経過観察と治療の成功の例、そして残念ながら亡くなった子の名前などが記されているだけ。どんな実験をしていたかは何も記載がなく、聖女デメテルが熱心に通っていたくらいの情報しかなかった。

 新たな情報が得られなかったことにケビンたちは残念がったものの、実際にやっていたのは身体の治療と、ギフト変更不可の呪いを解除するための処置。そしてその呪いが解除できればギフトを変更して退院させていたので彼らが求める情報はないだろう。

 次に南棟から入れないかなと思ったが、そちらはギルドに任せているからと入れなかった。大人しく北棟から入り、一応中庭も確認するもののアイテムやイベントもなく、北棟を登ることにする。

 ダンジョン扱いになっているが、ギミックなどはなく、どこかの鍵を探すということも特になかった。シンボルエンカウントで神父と騎士が徘徊しているため、俺は戦いたくないからアイテムでエネミーに気付かれにくくなるものを使用。

 戦わずにどんどん階層を上がっていくと、途中の階でイベントが。聖女の私室がある階層に着き、その部屋の前を騎士が固めていることからあそこにいるのではないかというイベントが挟まった。

 中ボス戦だ。強制戦闘だから戦わなくちゃいけない。

 

「フォイルの味方なんだよなぁ。やだなぁ」

 

【ケビン⁉︎姿が見えないと思ったら、貴様がクーデター派なのか……!ヴォーランド卿は子息の育て方を間違えたな!】

 

【父をバカにするな!今の正教の真実を知れば、父も自分と一緒に剣を手に取ったはずだ!】

 

【聖女様に仇なすだと?そんなことがあるか!ヴォーランド卿は騎士の鑑のような御仁だ!……かの方は今頃、天で激昂されているだろうな】

 

【残留派って故人さえもバカにするのね!だから簡単に子供たちも犠牲にできるのかしら!】

 

【ヴェティ、貴様も騎士の端くれであったのなら何故父親のことを信じない?彼はカテゴリーHと戦って死んだ。そんな悪を廃している我々に、なぜ歯向かう?】

 

【本部の地下室のことを知らないと思う⁉︎あなたたちがカテゴリーHを産み出していて、そんなことを知らないただの騎士だったお父様は犠牲になって!それであなたたちを恨まないと思ってるの⁉︎】

 

 ヒロインのヴェティがそう言葉を投げる。彼女の父親は任務の際に魔物に殺されたが、最近になってその魔物がカテゴリーHだったとわかったとのこと。復讐のために1匹の魔物に執着して、見事にストーリー中に倒したわけだが、だからこそ間違っているわけで。

 彼女も悲劇のヒロインではあるし、復讐劇としてはちゃんとしているからこそ、その終着点が間違っているのが物悲しい。

 魔物を倒した後のケビンとの距離の詰め方とか、恥じらう姿とか、本当に真っ当なヒロインキャラではある。復讐心を持ってしまったからこそ、自分と同じ存在を出さないためにカテゴリーHを意図的に産み出している正教が許せず、クーデターに積極的になっている。

 20年前であればその主張も正しかったわけなんだけど。世間的には20年前のクーデターって聖女が魔物によって突然死したせいでクーデター扱いされてないんだよな。

 サブイベントとかでも聖女の代替わりが20年前にあった、くらいしか情報がなかった。

 話が通じないと思ったのか、戦闘になる。

 

 戦闘自体は苦労せずに倒せた。イージーモードだとボス戦でも大体10分くらいで片が着く。今回のような中ボス戦なら5分くらいで終わる。イージーモードの後にハードモードをやったら発狂するんじゃないだろうか。

 騎士を倒して、フォイルの部屋に入る。クーデターが始まってからハードモードでは戻ってこれなかったので、随分と久しぶりに来た。とはいえ、変わったところは特になく、ちょっと豪華な女性の部屋というだけだ。

 彼女は日記なども残していなかったために、物色しても何も出てこなかった。主な私物はグランベルにあるんだろうし、ここに何かを残すということはしなかったのだろう。アイテムや重要な情報とかもなく無駄足に終わる。

 ここまで来れば、あとは最上階だけ。ドムニスとの戦闘だ。

 大扉の前で他の騎士とも合流。ここでおそらくこの先にいるのはドムニスとサフィラだろうという話がされる。2人ともある程度面識があることと、実力で言えばドライグ元団長にも匹敵するから油断するなという話がされる。

 全回復するセーブポイントがあったのでそれで回復しつつセーブ。大扉の先へ進むと想定外があった。

 ドムニスだけだと思ったのに、サフィラもいたのだ。

 

「サフィラ⁉︎何でこっちに⁉︎ってことは向こうを守ってるのってランダとドリー⁉︎」

 

『ランダに守ってもらう選択肢を選んだらそうなるってこと?』

『騎士との決着は騎士がやるってことね』

『イージーだとここ、割と難関なんだよな。ドムニスのパワーとサフィラのスピードによる速攻と魔法で味方がほとんどやられるし』

『エリーも結構苦戦してたよ』

 

 こっちの人数は30人ほど。向こうは2人なので人数的には有利だとわかっていても、その実力を知っている俺からすれば人数比なんて意味がないとわかっている。

 ゴーレムになれるドムニスと、Sランク冒険者がいてもどうにでもできたサフィラ。その2人が相手ならモブ騎士ではどうにもできないだろう。

 

【来たか、逆賊ども。天を信じ、地を信じぬ者たちよ。ささやかな幸せでは我慢できなかった強欲を身に窶し者どもよ。見果てぬ楽園を信じるくらいなら、オレは今の愚かな世界を糺す方がマシだ】

 

【ドムニス……!カテゴリーHを討伐することを隠れ蓑にした、本当の元凶!あんな化け物を産む正教は間違っている!】

 

【なんだ、存外世界を知っているではないか。人の心も、正義感というものも備わっている。なのにクーデターとは、足りないのは年月か?ドライグ団長が目を掛けていた者も数人いるが……。あの人の見る目が良かったのは、伴侶だけか】

 

 ここはセリフが変わっていない気がする。サフィラがいることでセリフの追加や変更はあるんだろうけど、敵対するのは変わらない。

 ドムニスだけではなく、サフィラも口を開く。

 

【ドムニス、年齢で判断しないで。あの子たちと私、そこまで年齢変わらないけど?】

 

【そういえば君はまだ25だったか。では何が違う?彼らは家族が居る者ばかり。家庭での教育ではなかろう】

 

【決まっているわ。──聖女様に救われたかどうか。それだけよ】

 

【まるで狂信者のような口振りじゃねえかヨ、サフィラさんヨォ。その聖女様が間違ってるって思わないわけ?】

 

 騎士にしてはチャラい弓使いのカルロスがサフィラの絶対的な真理に疑義を呈すると、サフィラの目が細まった。

 実際小さい時に助けられて、やっていることも正当でこうして冤罪をかけられているのだから冗談ではないと思っているのだろう。

 

【それが今の立ち位置でしょう?私たちは聖女様を信じている。あなたたちは疑った。だからこうして立場を隔てただけのこと。若いだけで、ただ任務をしてきただけで。あなたたちが守るものを何か理解できなかっただけ】

 

【子供たちを犠牲にして、魔物に変えさせて。そんなことを推進する聖女を盲信しろと?あなたたちの教義というのは随分とズレている。私たちは民を守るための騎士だ。紳士としても、今の正教のやり方には賛成できませんね】

 

【随分と変わった紳士もいたものね。所詮エセ騎士はその程度の浅い考えなのよ。私たち近衛隊は甘かったみたい。実力不足を嘆くわ。ゴミクズをさっさと殲滅すれば、こんな反抗の芽なんて出てこなかった。教育が足りなかった。それこそ洗脳してでも聖女様が絶対だと思うような肉壁にでもした方が良かったかしら?】

 

【それが地かな?近衛隊のサフィラ殿……。お里が知れるよ?】

 

【こんなクーデターを起こすような貴族よりも、孤児だった自分を褒めたいわ。イエーラ・ハントバンズ。貴族と愛人の妾腹が貴族ぶって紳士として振る舞っても、父親への反発心だけであなたは何にもなれないわ。予言してあげる。あなたも含めて、この後あなたたちは絶望する】

 

 紳士であろうとするレイピア使いの騎士、イエーラへサフィラは通告する。

 洗脳とか、主流派のようなことは絶対彼女たちはしなかっただろう。でもそうした方が結果的に良かったのかもしれないと後悔している。そうすればせめてギルドだけの反発になり、そこに全勢力を注ぎ込めばこのクーデターもマシだったかもしれない。

 そんな後悔だ。

 イエーラは自分の出自を気にし過ぎて、サフィラの怒りを溜めているだけだとわからないだろう。

 

【絶望なんてしないわ!正教がいくら大きな組織であっても、これからのために地道に頑張って、皆で手を合わせていけばどんな苦難にだって立ち向かえる!あなたたちがどんな思惑でカテゴリーHなんて産み出そうとしているのか知らないけど、あれはいけないことよ!だって子供も大人も、皆悲しむもの!】

 

【能天気ね。その苦難、障害が今の正教。だからクーデター。……ドムニス。こんなこと言いたくないけど、ドライグ団長は甘かったみたい。この後は騎士に徹底的な教育を施しましょう。私もデメテル様に進言します。この20年、性急過ぎたと。恒久的な平和のためには地道で徹底的な整備が必要だったと】

 

【十分やってきたつもりだがな。この膿を潰し切ればなんとかなるだろう。ドライグ団長は騎士としては最強であったが、教育者ではなかった。まあ、それを求めるのは酷なことだろう。あの方は騎士団長であって、教育は管轄外だっただろうからな。あの人も色々と歪ではあった。可哀想なことにな】

 

 騎士としてはかなり能天気なヴェティ以外の女性キャラ、ナーベルが逆境からでも人類は頑張れる的な話をしているが、サフィラはそうはならないとバッサリ。

 そもそもドライグだって25歳だろう。それで主流派による襲撃に備えながら騎士学校のカリキュラムも定めただけよくやっていただろう。

 そんなドライグの話になったからか、話が切り替わる。

 

【ドライグ元団長だって急にドラゴンに変わったわ!あの人もカテゴリーHだったんじゃないの⁉︎】

 

【ふむ。ヴェティ、だったな。──あの方がカテゴリーHだと?そうやって死者も冒涜するのか。そもそもカテゴリーHは化け物などではない。本当の化け物は、こういう奴のことを言う‼︎】

 

【なっ⁉︎】

 

 ドムニスはゴーレムの姿に戻る。そのゴーレムに見覚えがあったイージーモードのパーティーが剣を握る力を強めたり身体を震え上がらせた。

 ようやく戦闘が始まるらしい。

 

【お前、が、あの時のゴーレム……⁉︎じゃあセルベスタを殺したのも……!】

 

【哀れだな、ケビン・ヴォーランド。父のように志も持たずに惰性で騎士になった者よ。剣を振るってお前の世界は変わったか?変わらないさ。このまま世界は無に帰す。お前の世界は零れ落ちていくだけだ】

 

【これ以上そうならないように!お前たちを倒すんだよ!】

 

【デメテル様のためにも、ここは通さない!】

 

 ここはやはりレイド戦に。普段はパーティーメンバーも4人までしか戦闘には用いることができないのに、今回は5人全員とモブ騎士が大量に追加されている。

 ドムニスよりもまずは、素早いサフィラを倒さないと埒が開かないよな。

 本当は倒したくないものの、イージーモードクリアのために心を鬼にして元パーティーメンバーを倒す。サフィラを倒してしまえば、あとは攻撃範囲自体は広いものの大振りが多いドムニスだけ。

 14分かかったものの、クリア。シークレットミッションはクリアしてないけど、この戦闘もあったんだろうか。条件がわからないな。

 イベントムービーではケビンたちの連携に終始押されていた。

 先にサフィラが複数人に囲まれ、ナーベルの魔法によって足を焼かれた。そこにカルロスの弓が集中して脇腹や太腿に矢が刺さる。そこから魔法で身体を動かそうとしたが、イエーラのレイピアによって喉を貫かれた。

 そして連続するように胸を一刺し。最後の言葉もないままサフィラは倒れ伏してしまう。

 一方、ドムニスもヴェティの魔法で足を止められて、騎士たちの特攻で表層が傷付けられていく。モブ騎士たちを血の海に変えていくものの、最後はコアに当たる心臓部分をケビンの剣に貫かれた。そこから身体全体に罅が入り、足から崩れていく。

 

【ここ、まで、か……。申し訳、ありません……。フォ──】

 

 フォイルの名前を言い終わることもできず、ドムニスは倒れ伏す。さまざまなパーツに砕かれたが、彼は他のカテゴリーHのように人の姿に戻ることなくそのまま動かない。

 犠牲になりすぎた人たちのことを悼むものの、ここで終わりではないと先へ進むことにする。イベントムービーが終わって、屋上庭園へ続く扉の近くにまたセーブポイントがあったので、ここで整えてラスボス戦に備えてくれということだろう。

 セーブをしつつ、倒してしまった2人のことを思う。

 

「サフィラぁ、ドムニス……。この後フォイルも倒さないといけないの……?」

 

『覚悟しろ、リリ』

『一回誤解されるともうダメね』

『状況証拠が整えられちまったからな。伊達で3000年世界を支配してないってこった』

『のくせに、周辺諸国統一にはかなり時間がかかってるけどな』

『戦争するよりも神の器を求めてただけだろ。んで人材がいなかったから他国を潰す必要があった』

 

 覚悟を決めて、扉を開ける。

 屋上の上空には黒い球体に包まれたフォイルが。ギルド側は来ないらしい。そのままフォイルが降りてきて、黒いオーラを纏ったまま、ヴェール越しながらも顔が見えて、目を閉じたまま無言で襲いかかってくる。

 これがラスボス戦の始まりかぁ。

 

「うーん、一切会話がない。異質なラスボス戦ですね。それで動きはとにかくフォイルのもの。剣を使ってくる聖女とか、初見だったら困惑するのでは?」

 

『明らかにおかしいラスボス戦』

『聖女が破れかぶれになって禁術にでも手を出したのかって考察する初見勢の多いこと』

『エリサはめっちゃ驚いてたな。聖女が強すぎて、そもそも戦えることにびっくりしてた』

『戦えるなんて前情報、何にもないし。本当に悪い人なのかこの状況じゃわからないし』

 

 フォイルの奥義さえも無言のまま、敵の時専用のボイスなどもなく無言でアルビオンの龍王の迅撃(ドラゴニック・ブロア)を奥義として使用してきた。

 これ、ハードモードを続けていても最初の内はフォイルが聖女だって気付かなそうだな。アルビオンを見て察するくらいだろうか。

 ラスボス戦だけあって22分かかった。HPがかなり高いし、回復をこまめにしないとすぐやられる。倒した後にムービーが始まるものの、やはり冒険者たちはやってこない。

 先程まではフォイルから出ていた黒い光に引っ張られて曇天となっていたのに、今では鮮やかな緋色だ。これで神が死んだということだろう。

 戦闘をしているようなムービーが流れているが、途中からフォイルの身体を覆っている黒いオーラが薄れていく。それと同期するごとに動きが遅くなっていき、黒いオーラがなくなった時と同時にフォイルが完全に立ち止まった。

 その隙を逃さず、ケビンが剣を胸に突き刺した。こうなるのかぁ。

 フォイルが喀血するのと同時に風が吹いた。それでヴェールが飛ばされる。滅多なことでは外れないヴェールが、何かの悪戯のように簡単に飛ばされてしまった。

 そのフォイルの素顔を見ても、真実を知った冒険者でもないからそんな顔だったのか、くらいの反応しかしないパーティーメンバー。そもそも冒険者たちも真実を知らないのかもしれない。

 サフィラの失言と、素顔を見ない限りノーマルモードのパーティーメンバーもサフィラの正体には辿り着かないだろう。

 

【それが民衆を騙していた悪魔の顔か!悪魔と契約して世界を滅ぼそうとでもしたか⁉︎残念だったな、その企みは俺たちがこうして潰した!】

 

【……そう。こんな、ものが……わたし、の……末路……。まあ、いいわ……。もう、ギフトは増え、ない……!ざまあみろ……!】

 

【何?デメテル!お前、ギフトに何をした⁉︎】

 

【ふふ……。最期、くらい……。聖女の真似事、でもして……終わらせてやるわ……。神の恩恵を、無くし者、たちよ……。その道のりに、幸あれ、ってね……】

 

 ここは変わらず、フォイルが自分で剣から離れて後ろに倒れてしまう。それでも満足したかのような笑みを浮かべて死んでいた。

 何でフォイルが死ぬ様子を何度も見ないといけないんだ。これ、ノーマルは見なくて済むよね。多分選択肢があるはず。

 死闘だったからか、南棟の様子を確認することもなく元凶たる聖女を倒したことを伝えようと北塔へ戻っていくケビンたち。フォイルの身体はそのままにするらしい。

 ギフトのことでフォイルの言葉を不審がるものの、まずは勝利宣言が必要だと考えたのだろう。屋上庭園から撤退する。

 それと入れ替わるように、ドリーがやってきた。やっぱりいたんだ。セリフが表示されるものの、キャラ名が???になっている。

 

【間に合わなかったか……。だがこの感じ……。そうか、使命を果たしたようだな。なればこそ、このままにするのは忍びない。……ドムニスとサフィラもあちらにいるか?一緒に連れ出そう】

 

 ドリーはそれだけ呟いてカットアウト。

 ケビンたちは教会の北棟の外に移動しており、自由行動ができた。広場で勝利宣言しようが目標になっている。中庭などでは捕まっている騎士や神父がいる。

 その人たちに話しかけられそうだったので話を聞いてみると、フォイルが死んだことを悲しんだり、世界の終わりを嘆いていたり。フォイル側の情報を知っていることと、あとはギフトがもう与えられないことに気付いているようだ。

 ある程度話して、街の中央にある広場に向かう。その途中でも住民と話せたので会話をすると勝利に喜んでいる人もいれば、聖女を殺した罰当たりなことに嘆くおばさんもいたり、20年前の聖女の交代劇に言及する人もいた。

 聖女候補をフォイルが用意してなかったこともあって、次代の聖女がいないことも住民の嘆きが多い理由だろう。世の中が変わる瞬間が怖いと思うのは当たり前のことだろう。

 広場に着くとケビンが勝利宣言をして騎士団を正常化させること、正教の徹底的な調査の約束。そしてギルドとの連携を深めるということをお立ち台の上で発表。それに沸く民衆の晴れやかなアニメーションで、まるでハッピーエンドっぽく終わった。

 そのままエンドロールへ。でもこれ、めでたしで終わらない話だよな。

 

「これ、ギフトは新しく与えられなくなるから持っている人と持っていない人で格差が出そうですよね。それに魔物は駆逐できていないし、正教の中心に入り込むのは主流派。主流派もこれ以上カテゴリーHは増やせないでしょうけど、人間性は終わっていますし」

 

『主流派、神の器を用意できなくて発狂するんじゃね?』

『そもそも神が死んだっぽいのを自覚するんじゃね?ギフトを与えられなくなるんだし』

『そうしたらケビンたちが恨まれるのか?それともフォイル?』

『フォイルが呪ったとか封印したとか思われて、数十年は大丈夫そう』

『何にせよ腐った人間が国の中枢に戻ってくるから、先行きは不安だろ』

 

 イージーモードが終わりなので、次はハードモードを進めていくことを話しつつ、この後は今月とある企画に大々的に参加することもあって当分【SoF】はできそうにない。

 それを伝えて配信を終わる。

 ノーマルモードは趣味系が充実しているから、寄り道要素が多いっぽいんだよな。一鉄さんが寄り道をしまくってかなり長時間プレイをしていた。今ではイージーモードをやり始めているけど。

 真紀さんもノーマルモードをやり始めた。こちらでは声優の間宮君が出ていないために陽菜ちゃんが見学に来ることもなく、それを良いことに真紀さんは毎回10時間くらいノーマルモードをやっている。

 あと、アルビオンの公式発表があったために今では陽菜ちゃんは俺のアーカイブを見てハードモードを学習しているらしい。

 陽菜ちゃんも忙しいだろうに。自分で今から一から始めるよりはアーカイブで見るだけで良いから楽なのかもな。戦闘とかサブイベントとかは飛ばせば良いだろうし。

 

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稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる(作者:酉柄レイム)(オリジナル現代/コメディ)

稼ぎの少ないオカルト事務所所長、佐藤たけしは思いついた。▼「VTuberになれば稼げるんじゃないか!?」▼浅知恵を絞りつくし、導き出した結論に従って面接を受ければ、あれよあれよという間にデビュー。そして、デビュー配信の際、身内二人に配信バレ。▼これは、稼ぎの少ないオカルト事務所所長がVTuberとなり、みんなのおもちゃにされる物語である。▼※書籍第一巻、第二…


総合評価:8923/評価:8.5/連載:226話/更新日時:2026年05月04日(月) 12:01 小説情報

アラサーがVTuberになった話。(作者:とくめい )(オリジナル現代/日常)

ブラック企業辞めたシスコンアラサー(♂)が底辺VTuberとして炎上しながらも奮闘する話。▼ファミ通文庫様(B6判)より書籍版出てます▼書籍版第8巻&コミカライズ版4巻発売中▼※炎上ネタが苦手な方はスルー推奨です。▼※この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。▼※サブタイトル横★マーク付きは頂いたイラスト等が掲載してある回になります…


総合評価:113479/評価:9.3/連載:314話/更新日時:2026年05月15日(金) 19:01 小説情報

妹の配信に入り込んだらVTuber扱いされた件(作者:江波界司)(オリジナル現代/日常)

妹がVTuberであることを知らずに、配信に紛れ込んでしまう主人公(成人男性)▼そこから悪ノリがすぎる事務所と妹に振り回される日々がはじまる。▼完全に思いつき。▼主はVTuberにそんな詳しくないけど書いちゃった。▼『小説家になろう』『pixiv』の方にも一部掲載中▼追記▼この度、一二三書房Web小説大賞にて『銀賞』を受賞しました。▼応援、ご愛読、まことにあ…


総合評価:46351/評価:8.65/連載:94話/更新日時:2026年05月14日(木) 00:58 小説情報

初期実装☆2盾キャラ(人権)の話(作者:POTROT)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

サービス開始から3年くらい経ってインフレもそこそこ進んだけど、未だに強くて殆どのパーティに採用されてるような低レアキャラが、とんでもない味方達に囲まれて苦労する話。


総合評価:24770/評価:8.76/連載:21話/更新日時:2025年07月12日(土) 19:46 小説情報


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