元俳優、タヌキVtuberに転生する   作:桜 寧音

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無法都市で始める新生活【配信者祭GTA7】#1

 これから10日ほど、1つのゲームに集中することとなる。サーバーが開く時間の関係上、夜から配信が始まって深夜までやることになる。久々の深夜配信な上に、長時間配信だ。生活リズムが完全に崩れるから、この10日間が終わったら心身ともにボロボロになってそう。

 真紀さんとかよくこんな生活ができるよなって思ってしまう。朝まで配信とか、基本的にはやりたくない。今回は無理をするために冷蔵庫にエナジードリンク各種を用意しておいた。気休め程度だろうけど、一応ね。

 全体周知用のチャットに、サーバーでログインできるようになったと運営さんから連絡があった。最初の1時間くらいはゲームにログインする人が少ないことと、みんなが操作に不慣れだったりやりたいことが決まっていなかったり、初期不具合があるかもしれないから一斉にログインしないで欲しいというお願いがあった。

 200人を超す人数が参加する、超大規模サーバーな上に、オープンワールド的なゲームだ。サーバーにかかる負担は相当なもののようだ。なので初日はログインする順番が割り振られていて、俺は19時からだった。

 ゲームのアップデートやダウンロードがないことを確認して、ログイン前の状態で配信を始める。

 

「皆さん、こんばんはー。絹田狸々です。今日から【GTA】という何でもありな配信者交流会に参加していきたいと思います。僕たちVtuber以外にも顔出しの配信者さん……ストリーマーさんとか、あとは声優さんとかも一部参加されるようです。そういう方々と交流しながら好きに生きようってゲームですね」

 

『リリちゃん、こんばんはー!』

『【GTA】なんて久々に見たな』

『去年のやつもコウスケとか参加してたよな』

『こういう外部コラボもいいよね』

 

 とあるどこかの国の港町、ゲッペルトンに降り立ったプレイヤーがギャングになったり警察になったり飲食店を開いたりと、自由に過ごすゲームだ。それこそニートでただただ街を散策しても良いし、ギャングで銃を乱射しならがら盗みをしても良いという、カスタムもかなりできることで大人数コラボとなると真っ先に名前の上がるゲームだ。

 今回は配信者などがごちゃ混ぜのサーバーだが、レインボードロップスは彼らの事務所単独でサーバーを作って運営していたらしい。100人を超えるVtuberがいるだけあって、規模が違いすぎる。

 簡単にゲームの説明をして、19時を数分過ぎたので入って大丈夫だろうと判断してログインしてみる。ログイン地点は市内で割とランダムらしいが、俺は事前にアバターを作成してリスポーン地点を更新している。

 宿から出て、茶色い肌をしたチェックの赤柄のシャツに青いジーパンを履いた低身長の不審者がそこにいた。身長も微妙にいじれたのでできるだけ背を小さくしてみたが、150cmくらいが限度だった。

 

「どうです?僕のこの街の姿。結構頑張ったんですけど」

 

『まあ……見えなくはない?』

『どうしたって顔付きは外国人のものになるからなぁ。タヌキ顔は作成できなかったか』

『普通キャラクリで動物を再現はできないから』

『微妙』

 

 コメント欄的にキャラクリは微妙とのこと。限界があるってことだ。

 参加者には主要な施設の情報がマップの番地で教えてもらっている。警察署と病院、それに監獄と銀行、それに車などの移動手段を買えるディーラーだ。オープンワールドのように広大なマップを移動するので乗り物は必須で、罪を犯した人を収容したりするので警察署と監獄の場所。そして死んでしまったら治してもらうために病院も知っておく必要がある。

 銀行は主にギャングの人たちしか必要ない。お金を降ろすATMは別にあり、簡単な話が銀行強盗をするための場所だ。ここでギャングたちが強盗を起こして、警察が捕まえる場所なのだが、この情報を一から探すとなるとそれだけでかなり時間をロストする。

 だから運営さんから事前に教わっている。シロ市民としてはあまり関係ない場所だが、人質にされて連れて行かれる場所でもある。お世話になること、あるんだろうか。

 動き出してすぐ、マップを出して目的地にピンを刺す。するとそこへのルートがマップに表示された。ナビ機能、本当に便利だ。

 

「では早速ゲームを始めていきましょうか。病院に行って救急隊に入ろうと思います。シロ市民として自由にまったりと過ごそうかと」

 

『救急隊?医者ぁ?』

『飲食店やろーぜ!』

『ギャングで好き勝手楽しむのがいっちゃん楽しんだろうがよ!』

『給料は良いし、楽しむなら良いんじゃない?ドンパチにも巻き込まれないし』

 

 今回は大規模サーバーということで、募集段階で希望する職業を決めなくてはならなかった。第2希望まで書いて提出したのだが、第1希望の救急隊が通った形だ。途中で職業を変える自由はあるものの、ある程度最初から職業の人数を確認しておかないと、一定の職業がとことん人手不足になってしまうために、最初の内だけでも体裁を整えたかったのだろう。

 皆さん配信者だからか、ギャング希望が非常に多かったらしい。そのせいでそれ以外を第1希望に書いた人はほぼそれが採用。第2希望で警察を書いた人もほぼほぼ警察に配属されるようになった。ギャングが多いということは、それを取り締まる側の人数が同数程度必要になるわけだ。

 飲食店とか、ディーラーで働くメカニックなどもそこそこの人数が必要になる。飲食店は最悪コンビニがあるので何とかなるが、それだと味気ない。画像を取り込んで写真を使ったり、イラストを使ったりできるので、それらを使うことで飲食物が消費アイテムながらも彩りを与えるのだとか。

 救急隊も、簡単に死んでしまう世界なのでそれなりの数が必要になるようだ。そのため希望がすんなりと通ったらしい。

 大きな病院に着いて、名前の前に院長と書かれているナナホシ・トウカさんだ。男女混合箱のパステルインクの女性で、登録者数60万人を超えている大先輩だ。

 なお、彼氏募集をしまくっていて、それがある種のネタになっている可哀想な人ではある。同じパステルインクが既婚者の多い事務所だからこそ目立ってしまうというか……。

 

「こんばんは!エクリプス所属の絹田リリです!救急隊になりに来ました、お願いします!」

 

「ようこそリリ君!いやー、イケボだね。私と付き合わない?」

 

「初手それですか?炎上するので、ごめんなさい」

 

「私に当たられても炎上しないよぉ!というか速攻振るのは酷くない⁉︎」

 

「そもそも初対面の人に告白しないでくださいよ……」

 

 当たり屋って車で事故を装って被害請求を要求するような人だったはずなのに、何故か恋愛の意味で使ってる。誰彼構わず、異性に対して告白もどきを繰り返す人。そういう芸風の人だとわかっているからこそすぐに対応できたけど、いきなりだったら慌てたかもしれない。

 というか、彼女いるので。それは言えないけど、まあ初対面で告白してくる人なんてナンパみたいなものだし、不誠実だから付き合うことはないだろうけど。

 コメント欄でもナナホシさんは有名だったようで、これが当たり屋かあということで伝統芸能を見たかのように感慨深くなっているコメントがちらほら。それにナナホシさんのリスナーも来たのか、俺とリスナーに謝っているようなコメントも。

 こうやって不特定多数に告白しているから付き合えないのでは?

 

「まあ、救急隊は絶対に人が足りなくなるから、ありがたいよ。じゃあそこの機械で登録して、それが終わったらチュートリアルをやろっか」

 

 患者の手当てのチュートリアルはものすごく丁寧だった。やり方と必要な道具一式をいただいて、かつ服屋で白衣を買ってきて着てほしいということだったので、まずはディーラーに連れて行ってもらった。

 そこでリスナーと相談しながら、小さい二人乗りの車を購入。オレンジの軽自動車みたいなコンパクトカーだ。それで服屋に移動して改めて服を整えた後、病院に戻ろうとして一般市民が倒れたという通知が出た。

 救急隊に配属されているからか、こういうポップアップが画面右上に表示される。場所的にも今いる場所から近かった。

 トランシーバーで決められた回線で通話をする。職業ごととか、ギャングの仲間たちとかで統一した番号を設定するとゲーム内通話ができるのは便利だ。そのトランシーバーを使うボタンを押して報告をする。

 いつもゲームはコントローラーでやるから、キーボードでやるのはちょっと大変だ。

 

「リリが7166に向かいます。今近くにいるので」

 

「了解!お願いね〜」

 

 ピンを刺し直して移動。そのまま車で現場に向かうと、銀行の近くだった。その近くに車を停めて、呼びかける。

 

「救急隊でーす!倒れられた方、どこですかー?」

 

「お、キヌ⁉︎コウスケ先輩が倒れちまった!」

 

「ポラリス先輩?相手はコウスケ先輩かー。結局身内ですね」

 

『ポラリスとコウスケ?複窓するか?』

『エクリプスも参加者多いよな』

『最初の患者が身内って、珍しい』

 

 ポラリス先輩の声がした方に行くと、路地裏にある大きな箱の近くにポラリス先輩っぽい人が立っていて、コウスケ先輩っぽい人が倒れていた。

 近寄ってキュアキットを用いる。

 

「こんな始まって間もないのに、何で死んでるんですか……。テロにでも遭いました?」

 

「んにゃ?この人、水分補給しなくて死んだ」

 

「脱水?ダッサ」

 

「後輩2人とも辛辣なんだけど⁉︎まだゲージとか見方わかんねえんだよ!」

 

 このゲーム、水分と空腹を怠ると簡単に死ぬ。ゲームの左下にゲージがあって、そのゲージが危険値になるとどれも真っ赤になるし本当に危なかったらポップアップが出るんだけど、それを無視すると普通に死ぬ。

 ストレスを溜めすぎても体力が減っていき、出血などを放置していても死ぬ。救急隊なら簡単に蘇生できるからか、この無法地帯の街は本当に命が軽い。

 だからゲージが減り始めたら飲み物を飲んだり、食べ物を食べたり、タバコなどのストレス軽減アイテムを使ったり、救急隊に助けてもらわなくちゃいけない。ライフラインを握られているので救急隊や飲食店を蔑ろにするプレイヤーは少ない。

 アイテム系の作成や、救急隊の治療などの専門性があることはその内容に則った職業になっていないと操作することもできない。飲食店をやるならそのお店の従業員として登録されなければ飲み物や食べ物は生産できない。

 コンビニなどのNPCが経営する場所もあるものの、そちらは基本高めに値段が設定されている。その上、コンビニもギャングの襲撃場所の1つなので運が悪いと殺されたりする。

 飲食店はぼったくりでもない限りは結構安めに値段が設定されている。そうじゃないとコンビニで良いってなるからだ。だから飲食店をやる方はコンビニの値段を確認して値段設定をしてくださいと運営さんから言われていた。

 最初に配布されている分以外は購入しなくちゃいけない。この世界、たとえニートであったとしても一定時間でお金が振り込まれるので、コウスケ先輩みたいにおっちょこちょいな人以外は早々餓死や脱水で死んだりしない。

 アイテムを使って蘇生をしていると、見事に死因が脱水と出ていた。

 これは切り抜かれるだろうな。

 

「はい、治療終わりました。水分の余裕はあるんですよね?ないなら近くのコンビニまで連れて行っても良いですけど」

 

「アイテムはまだある。そういやこれって院外治療だから高いか……?」

 

「院外なので40万ですね。院内にするか聞くの忘れてました。すみません」

 

「いや、良いよ。この辺りでやりたいことあったから。請求切ってくれ」

 

「はーい」

 

 請求の仕方も教わっていたので、請求書を作る。値段はこっちで入力しなくちゃいけなくて、まあ裁量が効く部分だ。

 身内だし、まだゲームが始まって2時間くらいだしなあ。

 

「秘密ですけど、初回割りってことで20万で良いですよ。院内かどうか聞くの忘れてましたし」

 

「キヌ優しいな!オレたち金欠だし、助かる!」

 

「そうなんだよ。金なくて稼がないといけないからさあ。リリ、人質な?」

 

 そう言って銃を突きつけてくる2人。

 はいはい、始まった始まった。

 強盗とかをする際に、人質がいると逃走の際に警察相手に有利な条件を要求できるルールがある。身内はダメなので、基本はNPCかシロ市民を誘拐してきてやるらしい。

 救急隊はわかりやすいシロ市民なので人質になりやすいらしい。そこも教えてもらっていたので、降参のポーズはすぐにできた。

 

「2人ギャングかぁ。車をパーキングに入れてきて良いです?」

 

「良いぜ。帰り困っても弁償できないからな」

 

 そういうわけでここまで来た車を駐車場に格納してくる。入れておかないとギャングの人たちに盗まれるからだ。

 ここで逃げ出すと思わなかったのだろうか。それとも蘇生したばかりは動きが緩慢になることもあって、その回復待ちで俺をフリーにしていたのかもしれない。

 帰ってきて、ポラリス先輩が大きな箱を操作し始める。これ、銀行に繋がっている電子制御盤のようで、ここを操作すると警察が犯行に気付くのが遅れるようだ。ポラリス先輩は【GTA】の経験者らしく、とても詳しかった。

 

「ポラリス先輩っててっきり警察になるものかと。ほら、元ボディーガードですし」

 

「前警察頑張ったから、今回は悪になってみようと思ってなー。ちなみにウチのギャング率高いぞ?」

 

「そうなんですか?イソラ先輩はクラフトマスターになるってことと、霜月さんがギャングだってことだけ知ってますけど」

 

「ハピハピさんと、ドロッセルと、但馬さんもギャング。ジョンさんは外れたから飲食店って言う名のホストクラブやるって」

 

「ホストクラブ?Berとかじゃなくて?」

 

「ロールプレイだからか、ホストもキャバクラもあるって。客もキャストも多い、毎回一大コンテンツだぞ」

 

「それ、燃えません?」

 

「相手による。そもそもそういうのがNGな人とかもいるから」

 

 それは聞いてなかったなぁ。身内がやるホストクラブとか、呼び出されないと良いけど。

 電光制御盤を操作し終わったようで、銀行の中に入る。そこで雑談しながらポラリス先輩がコウスケ先輩にレクチャーする、強盗のチュートリアルらしい。

 色々なロックを解除して金庫を開けるようだ。NPCの従業員とかいないんだ。監視カメラも壊していく徹底っぷりに、そこまでしないといけないのかと思いつつ、強盗については何も知らなかったので邪魔をしないように話していただけだ。

 進捗率的に7割くらい進んだところでパトカーのサイレンが聞こえてきた。細工していてもいつかはバレるので、というか銃を使ったら発砲通知というのが警察に届くらしい。

 

「それって監視カメラ壊す意味あるんですか?」

 

「逃げ切れれば監視カメラも壊した方が良いんだよ。ログを追えなくなるから、犯罪をしたって証拠がなくなる」

 

「なるほど?つまり4人くらいで一気にマンパワーで銀行とか襲撃されたら警察からしたらかなりキツイんですかね?」

 

「めっちゃキツイと思うぞ」

 

 結局最後は人数か。

 警察の人が来たので、俺がポラリス先輩に銃を突きつけられながら相対する。人質がいることを主張しないと一気に武力で制圧されて終わるらしい。大声で人乳がいることをポラリス先輩が叫び、俺も人質ですと伝えると警察の格好をした人たちが3人入ってきた。

 名前がアバターの上に表示されるものの、どの方も初めましての方だった。なので挨拶をする。

 

「皆さん初めまして。Vtuber事務所エクリプス所属の絹田狸々です。先輩たちに人質にされてます」

 

「ポラさんとハピハピちゃんの後輩かー。ストリーマーのMAROです。【オーバーステッド】大会でスナイパーやってたでしょ?俺もFPS結構やってるから一緒にやってみない?」

 

「えー、ずるい!自分も自分も!リリさんって呼んで良いですか?同じくVtuverで電影騎士団のフラット・フラッドです!自分もFPSやってるので何かのゲームでご一緒したいですね!」

 

「FPSは本当にあの大会のためにやってただけなので、他のゲームだと下手だと思いますよ……?」

 

「キヌはやらせれば割とできんじゃねえの?多分1週間詰め込めばいけるぜ?」

 

 ポラリス先輩にそんな太鼓判を押されるけど。外部コラボを本格的にやるなら練習くらいするけどさ。

 もう1人の方とも自己紹介をして、警察側も初日はチュートリアルということでこういう事態にはどう対処をするのかということをMAROさんが教えていた。こっちもコウスケ先輩へのチュートリアルのようなものだ。

 人質がいる場合はカーチェイスをするらしい。お互い車で逃げ合い、犯人側が逃げ切れば勝ち、警察は車でぶつかってでも止めてくるようだ。それに最初からアタックが解禁されているとすぐ決着が着くので、何分かはアタック禁止にするらしい。

 このチェイスが始まった時点で人質は解放。逃走劇に巻き込まれて死にたくないので解放してもらうことにした。救急隊も人手が足りていないというか、初日のために車のシートベルトの付け忘れで吹っ飛んで死んだりする人が多いようで、救急隊の絶対数が足りていないような状況だった。

 

「リリです。人質から解放されたので業務に戻ります。7388の方は誰も向かってないですかね?」

 

「リリ君おかえりー!まだ誰も向かってないからお願いするね!」

 

 パーキングから車を取り出して、7388に向かう。行った先ではクラッシュしたバイクと、投げ出された人が2人いた。2人乗りしていてスピードを出しすぎてハイウェイから落下したらしい。

 バイクはシートベルトがついてないからな。それに初日はお金がなくて車も買えないのかもしれない。多分この人たちもギャングだし、銃とか優先して買って金欠になっているんだろう。

 ギャングの人たちはNPCが乗っている車を、銃を突きつけて奪うこともできる。ただそれを人に見付かると通報されるので、場所は選ばないといけない。そういう、まず盗む場所に向かっていたところで操作をミスったとかじゃないだろうか。

 院内の方が安いと伝えると、金欠なので病院に連れていくことになった。初日はそこまでお金がないのか。雑談をしつつ病院に戻って、奥の個室で2人を蘇生。病院だと半額なので、あの現場で蘇生できたら倍額もらえたんだよなと思いつつ、そこはルール通りに請求書を切った。

 トランシーバーで救急隊になった人は挨拶をしてくれるけど、音声しかないから誰が誰だかって感じだ。だから治療が終わった後に院内にいた人には挨拶をしつつ、またいくつも死亡通知がとぢたのでそこに向かう。

 初日はそんな感じでずっと方々を駆け巡るだけで終わってしまった。初日は挨拶とチュートリアルで終わっても仕方がないだろう。治療ついでに見かけた飲食店に入って食べ物などを購入してノーデスで終わりそうだと思った頃。

 俺に直接電話が来た。このゲーム内だと連絡先を交換すれば個人に電話をかけることができるが、職業ごとに相手を選んで通話をかけるアプリもある。タクシーなどで配車を頼むことや、警察に通報するなどで必要なために実装されている。

 俺の連絡先も救急隊のところに載っているから、それでかけたんだろう。

 

「もしもし?救急隊のリリです」

 

「あ、リリさん?ドロッセルです。救急隊とのことで、エリサさんが倒れてしまったので治療に来ていただけませんでしょうか?」

 

「ドロッセル先輩?場所はどこですか?通知が来ていないようですが……」

 

「バグか、今日は大量に通知が飛んだので流れてしまったのかも。6235まで来ていただけますか?」

 

「6235ですね。今から向かいます」

 

 通知を救急隊全員が見逃していたか、それとも本当にバグか。

 街中から少し遠いなと思いつつ、治療を頼まれたのなら行かないといけない。コメント欄もエクリプスの人々ということで流れるのが速くなる。

 あと40分でサーバーが閉じるというのに、このタイミングで倒れたのはまずいだろうなあ。せめてリスポーン地点で落ちないと手持ちのアイテムとかをロストするので、サーバーが閉じる前に突飛な行動はしないようにと言われている。

 向かった先は丘の上の、廃墟ばかりのエリア。こんなところで何をしているんだ?

 呼びかけて、声がした方に向かう。ドロッセル先輩が呼んでくれて向かうが、真紀さんは普通に起きていた。

 

「あれ?騙しました?」

 

「治療が必要なのは本当なんだよ、リリくん。ドラッグを使ってからストレス値がずっと上昇してて……。しかもスマホも取り出せないの。救急隊の人に見せたら中毒症状って出ちゃうから、他の人に見せるわけにはいかなくて……」

 

「中毒症状?ドラッグって、麻薬?」

 

「そうなんですよ。私たちはこの街で薬物ギャングをすることになって。運良く薬のレシピが揃ったので試作と効能チェックをしたら複数使用した時点でストレス値の上昇が止まらなくなるっていうデメリットがわかったわけですね」

 

「黙っていて欲しくて僕にお願いした感じですかね?」

 

「そういうこと!リリさんにはぜひ『ドラッカー』の秘密闇医者になって欲しくて」

 

「こういうことのために救急隊になったわけじゃないんだけどなぁ」

 

 とりあえず真紀さんを治療する。薬物症状の時の治し方も教わっておいて良かった。ギャングの人たちがオーバードースで薬物症状になることもあるだろうから、それはただの治療では治らないので別途治療が必要だ。

 蘇生に特別治療で、1人から100万搾り取れるとのことで、薬物治療ができたらラッキーとさえ言われていた。

 この薬物だが、いわゆるドーピングアイテムで、戦闘において優秀な効果がたくさん付けられるというギャング御用達のアイテムらしい。作るの大変って話だったような。

 大型犯罪、豪華客船襲撃とか、飛行機襲撃とかとなると警察が総員でかかってくるので、成功させるには必要なアイテムらしい。それの効能検証をしていて、治療が必要になったと。

 

「中毒症状って院外での治療だと60万になりますけど、まあ初日ですし、コウスケ先輩の例もあるしなぁ。エクリプス割でただのストレス値の治療ということで、10万で請求書切っておきますね」

 

「ありがと、リリくん」

 

「今後もご贔屓に。このチームってエクリプスしかいないんですか?」

 

「ううん、他のVtuberの女の子もいるよ。今のところ女の子しかいないけど」

 

「『ドラッカー』は女の子だけのギャング集団なので!あと銀行強盗とかはあんまりしないので安心して良いですよ?」

 

「安心要素、どこにもないですよ?ドロッセル先輩」

 

 他の人も薬を試したからか栄養状態が良くないようで、点滴を使う。人数も多かったので小遣い稼ぎにはなっただろう。

 救急隊って儲かるなぁ。なんか所持金が1000万を超えている。お給料は売り上げの一部でしかないはずなんだけど、それでも治療した人が多いからか、7時間も治療をしていたらこうもなるか。ガソリン代とか飲食の購入費とか考えたら結構お金を使ってるはずなんだけどな。

 あと、人質になってくれたお礼としてポラリス先輩から100万が振り込まれていたが、それは返金しておいた。チュートリアルでお金はもらえないだろう。あと、一応シロ市民だし。

 こうやってギャングに秘密で協力している時点でその言い訳も消し飛んだけど。

 この『ドラッカー』の拠点がリスポーン地点にできるようだったので、俺も今日はここで終わらせる。ギャングの拠点ってリスポーン地点にできるのか。俺も適当な安い物件買っておこうかな。

 

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