最高難易度のパシフィック襲撃という、ドラッグによるパワープレイがあった翌日。【GTA】3日目は救急隊を始める前にやりたいことがあったので出勤する前にとある場所に顔を出す。
ブラックマーケット。つまりは、銃などを非合法に買うための場所だ。一応シロ市民でも市役所で武器ライセンスを貰えれば銃とか斧とか装備できるようだが、救急隊だとその武器ライセンスが貰えない。
銃を使うとなれば、非合法に買うしかなくなる。
場所は倒れたギャングの人を回復させるために来て色々聞いたので、知っている。白衣もわざわざ脱いでブラックマーケットに来ていた。
しっかりと名前も変更しているため、パッと見では俺だとわからないだろう。
「人影なし、ヨシ!」
『ヨシ、じゃないが?』
『ヨシ!』
『多分ヨシ!』
『救急隊なのに武器買いに行こうとすんな』
『何してるん?』
特に説明もしないままブラックマーケットに向かったためにコメント欄も困惑している。まあ、純粋な好奇心と、今後もこのゲームをやるのかわからないから、やれることは何でも手を出したいというだけだったりする。
「銃とか買えないの、救急隊になるって決まってから知ったんですよ。物騒な街に来たのに武器を使えないなんて滑稽じゃありませんか?犯罪に使うわけじゃなくて、訓練場があるらしいのでそこでちょっと使ってみようかなと」
『あー、そういうことね。理解した』
『ヨシ!』
『コメント遅延してるやつおる?』
『ロールの決定、事前抽選だったんだっけか』
『暴れてえよな!わかるわかる!』
『初心者のための訓練場があるのは良いよな。あそこをクリアできれば犯罪もやりやすいだろうし』
そんなわけで銃と銃弾を買う。なんか癖でスナイパーライフルも買ってしまった。それらを車のトランクに隠して訓練場へ。訓練場では弾を無制限で使うことができて、チュートリアルには最適だった。
定点射撃と移動射撃を試せて、ショットガンや単発拳銃、スナイパーライフルの操作や距離、威力の違いなどを知ることができて満足。この中の弾丸を持ち帰ることはできず、訓練場の外に出た瞬間にロストするらしい。弾丸はしっかりとチェストに返しておいた。
一旦セーフハウスに銃などを預けて白衣に着替える。所持しているだけで背中に背負ってしまうために、基本はセーフハウスのチェストに入れておく。
救急隊として出勤して、犯罪者の治療や一般人の事故に対応していく中で、ジョン先輩から通話があった。
「リリー、お疲れ!ホスト今からやらない?」
「ナナホシさんに許可いただいているのなら良いですけど……」
「それはOKだから、7788に来てくれ。あと途中でホスト用の服を買ってきてほしい。名前とかも変えて、一応リリとはバレないようにする必要があるからな。ワインレッドのスーツとかでよろしくぅ!」
「ワインレッド……。わかりました」
ジョン先輩の後に、ナナホシさんにホストの副業で抜けることを伝えて、一旦救急隊のジョブから抜ける。救急隊のトランシーバーには直接ホストとは言わず、人質になっているので2時間くらい抜けますと伝えておいた。
こんなの人質と変わらないだろ。真紀さんと付き合っていることがバレないように、あえてこういうことは積極的にやっておいた方が良いという脅しを受けたんだから。
服屋で指定のワインレッドのスーツと、後は顔を隠すためにサングラスも買ってそれを装着。これにかかったお金は後でジョン先輩が経費として清算してくれるらしい。お給料から天引きになるだろう。
ホストっていうより、ヤクザみたいだ。それかまんまギャング。
「まあ、こんなものでしょう。名前も変えてっと」
『ワインレッドのスーツだと、某ズァークのヤクザ団長を思い出すな』
『確かに奴も色黒だったか。サングラスはつけてなかったけど』
『おいwww名前をコウスケにするなwww』
『本人いますよ?』
『リリ、まさかの騙り』
名前をカタカナのコウスケにする。身バレ防止だ。事務所繋がりで全く無関係というわけではないだろう。
それに何かあっても、ホストクラブにいたコウスケって人のせいになる。断じてリリがやらかしたということにはならない。
風評被害にならないように気を付けるけど。
ジョン先輩にホストクラブの建物の中に入る方法を教わり、裏口から入る。ジョン先輩が店長の名前になっていたが、アバターは変わっていなかったのですぐにわかった。
「ジョン店長、お疲れ様です。今日から働くコウスケです」
「おお、コウスケ!よく来てくれたぜ!今日はよろしくな。宣伝用に写真撮らせてくれ」
すぐに順応してくれたジョン先輩に何枚か写真を撮られる。事前にホストでどういうことをやるか、やってはダメなことは何か、商品のメニュー表と値段は何かというのは共有してもらっている。
なんかドンペリが500万とか、ドンペリタワーが5000万とか書いてあるけど大丈夫だろうか。こんなもの支払える人、まだ3日目でいないのではないかと思う。大金を持っている人だってまさかこんなゲーム内のホストで溶かすわけもないだろうし。
ホストは合計5人。黒服がジョン先輩も含めて4人というかなりの少人数に思えるが大丈夫だろうか。しかもそのホストの中に有名な声優さんがいたのはびっくりした。参加者の中には名前があったけど、昨日まで何かやっていただろうか。
「菱木レオさん、初めまして。Vtuber事務所エクリプス所属の絹田リリです。名前は先輩のものを使用していますので、こちらで呼んでください」
「ああ、初めまして。Vtuberさんも良い声してるよなぁ。声優とか俳優を目指さなかったの?」
「昔アマチュアの劇団には入っていましたが、そこで才能がないことを知って諦めました。演技はとても難しいですよ。ですので、本物のプロに会えたことが嬉しいです」
「プロって言ってもなあ。俺なんて売れ出したのここ最近だし。たまたま面白い作品のレギュラー役になって跳ねただけで、俺なんて遅咲きも遅咲き。凄い子は若い時にブレイクするものさ」
「役者業は結構30代からブレイクする男性の方が多いとは聞きます。下積み期間が長いと」
「確かに性差はあるね。女の子はデビューするのは早いんだけど、逆に長続きしないんだよ。分母が違いすぎるんだよな。逆に男性はブレイクしたらほとんど安泰だから、若くて人気になっている子は、まあ長続きするだろうね」
声優さんがホストをやるのは凄く卑怯に思えてしまう。女性ファンがたくさんいる、声のプロがその声を使って接待をしてくれるなんて、夢のような空間だろう。
女性向けの乙女ゲームや有名な漫画のアニメ化などでイケメン役に声を当てている方だ。オタクな女性参加者からは指名が殺到するんじゃないだろうか。
「ん?今コメントで知ったけど、リリ君って【濃煙満ちゆく迷宮都市】のOPの作曲家なの?Vtuberじゃなくて?」
「あ、Vtuberが本業で、作曲は依頼されたらするくらいです。『スパイラル・グローリー』を歌っている水瀬さんがウチの事務所なので、彼女に依頼された形ですね」
「『スパイラル・グローリー』、良い曲だよね。アガるカッコいい曲だよ。俺もあの作品参加してるから発表前にあのOP聴きながら収録したからさ。水瀬さんもめちゃくちゃ歌が上手くない?」
「そうなんですよ。あの曲は結構彼女のリクエストが入っていますね」
菱木さんも【濃煙満ちゆく迷宮都市】に参加されているからか、『スパイラル・グローリー』について知っていたようだ。有名声優さんに認知されてるのか、そうかぁ。
というか、収録中に聴いてたの?声優さんってそんなに早くOPを聞けるんだ。収録現場で聴かれるって、それがアニメ現場の当たり前なんだろうか。アフレコスタジオのことについてはよく知らない。
ホストクラブの中でどんな曲ってなって、まだアニメも始まっていないのでアニメPVくらいでしか聴けない。だからか皆さん操作を止めてアニメのPVを見に行ったようだ。なんかアニメの宣伝になってる。
ジョン先輩も事務所の後輩が褒められているのが嬉しかったのか、声が上擦りながら陽菜ちゃんのことを褒めている。
そんな自己紹介もあって、開店。世界的に有名なSNSのようなアプリであるXXXが実装されているため、そこで開店告知をジョン先輩がする。そこにコウスケなるワインレッドのスーツを着た茶色い肌のホストも紹介されていた。
指名か、フリーで誰かに着くということが決まるまでお店の控え室で待機していた。待っている間もホストの人たちで雑談をしていたが、真っ先に菱木さんが指名をされて出ていき、その次に俺が指名された。
「コウスケ、席に着いてくれ。半分指名」
「半分?どういうことです?」
「『ウィザーズ&モンスターズ』に詳しい人を着けてくれって指名。任せた」
「そんな理由で?」
『初指名だ!』
『これを初指名って言っていいのか?』
『リリのお手並み拝見だな』
ジョン先輩に案内されて、女性2名がいる席に案内された。いきなり複数かぁ。
名前は、お客側も変えているのか一応サブモニターで用意しておいたExcelで参加者リストから名前検索をしてみるが、ヒットしない。誰だろうか。
いきなり席に座ることはなく、挨拶をする。
「お嬢様方、初めまして。コウスケと申します。『ウィザーズ&モンスターズ』に詳しい人ということで来ました。歴で言えば10年以上、デッキビルダーというよりはコレクターですが、席に着いても良いでしょうか?」
「当店で一番詳しいキャストです。よろしいでしょうか?」
「ええ、大丈夫です。お願いしますね」
「ありがとうございます。失礼します」
声を聞いた限り知り合いではない。許可が降りたので女性たちの間に座る。
ホストが複数じゃなく、お客が複数なんてあるんだろうか。ホストの絶対数が少ないと言えば、それはそう。これ本当に大変かもしれない。
そこからジョン先輩によるお店のシステムの話になる。最初はドリンクが無料で付いてきて、そこからは一定時間が経つごとに延長するかどうか聞きに黒服が来る。別のキャストが良ければチェンジも可能。
ファーストドリンクを注文して、ここからは俺が頑張るしかない。
「改めまして、コウスケと言います。お2人のお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
「アリサって呼んでください。コウスケさん、当たりが柔らかくて良かったです」
「私はコハルで。早速ですがコウスケさん、コレクターということは紙の方が詳しいですか?実は相談したいのはアプリの『バトルクロス』の方の構築でして……」
「『バトルクロス』も触っているので大丈夫ですよ。どのようなデッキを作りたいのですか?」
なんかホストクラブに来たというより、ガチのデッキビルド相談だったらしい。何でホストクラブに来たんだと思うものの、変にホスト営業をしなくて済みそうだ。
据え置き機の方にも『バトルクロス』はインストールしているので、そちらを起動して今の環境とかカードのレアリティ、それに禁止制限などを確認するために立ち上げた。紙の環境は把握しているけど、アプリの方はちょくちょく制限が改定されるので把握していない。毎月新弾のパックが出るのに合わせて変更がされている。
それに収録カードも違う。紙の方が基本は早く実装されるのだが、たまに海外テーマなどをアプリの方で先行配信したりしている。相談内容が俺のわかる内容だと良いんだけど。
主にコハルさんの相談のようだ。
「ブルーホーン・ドラゴンの新規が来たのでデッキを組んでいたんですけど、どうしてもミラー対決で勝てなくて……。ドラゴン対策だとこちらもダメになってしまうじゃないですか。出張として失楽園テーマも混ぜてみたのですが、そこまで機能していないような気がして……」
「ああ、失楽園は光・闇属性メタにはなりますからね。ドラゴンサーチもできるので悪くない噛み合わせだとは思いますよ?」
「ただ皆考えることは一緒で……。差別化がしたいんですよね」
ふむ。ドラゴンサポートは多いし、ブルーホーン・ドラゴン自体は通常モンスターなので通常モンスターサポートも結構強い。それに融合テーマなので失楽園テーマも混ぜるには悪くないとは思うんだけどな。
ネタデッキ系の構築の方が好みというか、人とあまりデッキを同じにしたくない俺からすれば、変なカードを混ぜたくなる。となると、そういう歪みを愛せるかどうかだ。
よし、これだろう。
「そうですね。『
「
「そうですね。ブルーホーン・ドラゴンのサポートモンスターは魔法使いが多いですから。ジャック・アライブの方はマジックカードの万能無効も付いていますし、
「ヴェリウスは?」
「こっちは光属性メタです。自分でも相手でも良いので光属性をリリースして特殊召喚できます。それに2つ目の効果でレベルを上げてレベル8にすることもできるので、ブルーホーン・ドラゴンの新規のチューニング召喚のお供にできますよ」
「へー、良さそう!」
『
それにどうしても自分のフィールドのモンスターをセメタリーに送りたい時には重宝する。とはいえ、サーチもできないこのカードを入れるスペースがあるかとか、その辺りはよく考えた方が良い。
「他にも面白そうなカードありません?ただ環境デッキ握っているのは配信者として面白くなくて」
「面白さを求めるなら『邪神ニーベンヘルグ』を入れますね。ロマン砲としては光属性のデッキでたまに入ってますよ」
「ニーベンヘルグはリスナーに使われた!ブルーホーン・ドラゴン関連のカードを全部裏側除外するけど、攻撃力が除外したカードの攻撃力の合計の半分は酷いよね!」
「マジック・トラップを1ターンの間使えなくもなりますし。ただモンスター効果は使えてしまうので、相手モンスター次第ではありますね。自分もマジック・トラップを使えなくなりますけど、火力のあるブルーホーン・ドラゴンデッキなら3ターン目の捲りカードとしては面白いかと」
1万種類を超えているカードゲームだからこそ、変なカードもたくさんある。どうして産み出されたんだという可哀想なカードもある。なんだ、星4なのに通常召喚できないモンスターって。その一文しかないから特殊召喚も他のカードに頼らないといけないんだぞ。
そんなカードゲームの相談を受けていたら食べ物とアルコールを注文してくれた。シャンパンコールとかは頼まれなかったので助かった。ドンペリも2本入れるという中々のお金持ちだったので、今更ながらこの街での職業を聞いてみた。
「あの、ドンペリを入れてくれてありがとうございます。お金は大丈夫でしたか……?ご職業は何をされているんです?」
「2人ともメカニックです。自分の営業で車を買ってもらえると、その分お給料に反映されるんですよ。皆さん車かバイクを買ってくれますし、修理とかも承っていたので多分私たちメカニックが今この街で一番お金を持っていると思います」
「へー。車の分もお金が入るんですね。知りませんでした」
「この後は修理代くらいでしか稼げなそうですけどね」
そう話されて時間いっぱいまで結局カードゲームの話しかしなかった。ずっとネタカードの話をされて、こういう昔のカードとかありますよと教え続けた。昔のカードってたまにとんでもなく強いことが書かれていたりするから侮れない。
それに最近のカードに必須のターン1制限とかもないし。召喚メタとかも平然とあるから、使われると困るカードはいくつかあったりする。
チューニング召喚メタも教えたらそれを入れることにしたようだ。お互いチューニング召喚ができなくなるとかいうメタカード、何で禁止にされていないんだ。
結局アリサさんとコハルさんが誰だったかわからないままお見送りまでして、控え室に戻る。ジョン先輩には良い売り上げだったと褒められたが、あれはホストではないだろう。本当のホストは女性客にずっとキャーキャー言われている菱木さんのような人のことを言う。
そもそも俺はタヌキVtuberなんだからネタ枠だろうけど。
控え室でコメントを読んでいると、あの2人はスターティンクルの新人さんだったようで、血の気が失せた。男性とのコラボを会社的に嫌っているというか禁止にしているのに、こういう男女混合の大型企画に出るのか。FPSの大会には出ていたけど、あれは他のチームとボイスチャットを繋げたりしなかったからセーフ判定だったのに、直接会話したのはまずいんじゃないだろうか。
しかもホストに来るって。話している内容は問題なかったはずだし、色恋営業を一切しなかったから燃えないはずだと信じたい。
コメント欄を見るけど、俺の配信コメントは荒れていないようだ。一安心だ。向こうのコメント欄も大丈夫だろうか。これで好きだの愛してるだのを言ったり、連絡先を交換でもしていたらやばかったかもしれなかったが、それらを一切していない。
注文もこっちが頼んだわけではなく、純粋に彼女たちが自分から注文してくれたもの。ドンペリだって俺が飲むわけじゃなく2人が水分を摂るついでに俺への相談料として買ったもの。セーフであってくれ。
ジョン先輩曰く、スターティンクルと関わっても即座に燃えるわけではなく、そもそも彼女たちが自分からホストに来たのだから、俺が燃えることになったら向こうが沈静化させてくれるはずとのこと。会社や本人から注意喚起はしてくれるようだ。
FPS大会でもそんな話をしていたし、Vtuber業界ではトップの事務所だ。そこの対応は信じて大丈夫だろう。
あの箱の凄いところは俺より後にデビューしていたのに、もう登録者数が2人とも50万人を超えていた。まだデビューして半年くらいしか経っていないのにこんなに登録者数を伸ばしているなんて、事務所の規模が違いすぎる。
後から知ったが、さっきのデッキ診断はリスナーと対戦したり、それこそアプリのイベントで勝ち進むためのものだったようで、ホストに行ったこととか男性に相談したことで燃えたりはしなかったようだ。そもそも俺を狙い撃ちにしてホストに来たようで、俺の3D配信とか、それこそエクリプスの箱内大会を見て相談しようとしたらしい。
現実で連絡先を交換したわけでもないので、リスナーからもOK判定を受けたようだ。なんだ、リスナーが怖いって話を聞いていたけど、そこまで過激派はいないんじゃないかと安心できた。
病院に直接来なかったのはそもそも治療のために外に行っていたら俺がいるかもわからなかったからだそうだ。ホストなら指名してしまえば直接話せるということで、確実に相談するためにホストに来たようだ。
「コウスケ。今度こそ指名。……頑張れよ」
「え?嫌な予感しかしないんですが?」
「その予感当たってる」
ジョン先輩に不穏なことを言われて向かった先には4人の女性が席に着いていた。しかも名前とアバターを見た瞬間、ヒッと声が出てしまった。
真紀さんにドロッセル先輩、イソラ先輩に但馬さんがいたからだ。操作をミスって控え室に逃げられないだろうか。コメント欄は彼女たちの名前を見て大盛り上がりをしつつ、俺にドンマイだのなんだの言ってくる。
他人事だと思って。他人事か。
彼女たちの前に立って、ホストのコウスケになりきる。
「お嬢様方、ご指名のコウスケになります。ご随意に」
「あら、コウスケさん。随分と肌が黒くなりましたね?まさかホストになっているとは。さあさあ、私たちに接客してくださる?」
「は、はい。ドロッセルお嬢様……」
「同期の方にお嬢様と呼ばれるのはむず痒いです。いつも通り呼び捨てで構いませんよ?」
「いえ、ここはホストクラブですので。是非にお嬢様と呼ばせてください!」
「そうですか?仕方がありませんね。TPOは大事ですから」
『ドロッセルノリノリすぎんだろw』
『エクリプスの女性はそりゃあ指名してくるよな』
『ハピハピ以外女性全員集合でワロタ』
『リリ的には全然笑えないだろ。同僚がホストクラブに来て指名してくるなんて』
『助けてジョンえもん!』
『店長の差配だから無理だろ』
どうしてこうなった!
何故か空いている真ん中に座る。右にも左にも女性が2人ずつ。両脇は真紀さんとドロッセル先輩だ。ゲーム内でホストをするくらい許してくれないだろうか。というか、真紀さんには許可をもらってるんだよ!
絶対先輩たちは愉しんでる。但馬さんはカプ厨を拗らせてるだけ。
絶対ここ、切り抜かれる。
ジョン先輩はファーストドリンクの注文を聞いて、それらのアイテムを渡してすぐに去っていった。裏切り者!
「コウスケセンパーイ。我、あれ聞きたい。麗しの姫何ちゃらかんちゃら。それか自作の刀買って?」
「シャンパンコールはシャンパンを注文された場合にのみ、可能です。営業はごめんなさい、この場では何とも言えないです」
「ブーブー。敬語なの先輩っぽくなーい。そう思わない?エリサっち」
「確かに先輩っぽくないかも。ねえ、コウスケ先輩。あたしのこともお嬢様って呼んでくれませんか?」
「……霜月お嬢様」
「下の名前で」
「エリサお嬢様、今宵も麗しゅうございます」
「ドンペリ入れちゃおっかな!」
「エリサさん単純〜」
「同期てぇてぇきたー!わっちもドンペリ追加で!」
こうなったらヤケだ!とことんやってやる!どうせこの人たち、ドラッグを売り捌いてかなりお金を持っているんだろうし、搾り取ってやる!
イソラ先輩だけは『ドラッカー』所属じゃないのでそこまでお金を持っていないだろうけど、ドロッセル先輩たちは別だ。ここで散財させてやる。
あとコメント欄は当分見ない。酷いことになっているだろう。
「ドンペリを入れてくださり、ありがとうございます。エリサお嬢様の瞳に、乾杯」
「きゃー!」
「わっちの分は良いから、もっとエリサ先輩に囁いて!」
「その羽、かなり艶やかですね。いつも手入れをされているのでしょう?私に会いに来るために手入れをされたかと思うと、胸が張り裂けそうです」
「きゃーーーーー!」
「ジョン店長ー!お腹空いたのでご飯くださーい!」
「いや、注文はホストを通してくださいよ。ドロッセルさん」
「とか言って近くで待機していたくせに」
「こんなの配信に乗せなきゃ勿体無いぜ!」
ジョン先輩は店長としての仕事に戻ってください。こうなったらホストの定型文で乗り切ってやる。
注文されるたびに真紀さんをひたすら褒める。同期のイチャつきを見て楽しいか。楽しいだろうな、本当のカップルだからな。普段は見せないようなことを、ホストクラブというのを言い訳にして堂々と褒めているんだから。
普段着ている服とか、使っているバッグやネイルのお手入れなどのことを褒めて、褒めて、自分はメイクの時にこういうことを気にかけているとか、そんなよくわからない話を4人相手にし続けて。
延長もされて場内指名もされて、地獄は続き。
これって雑談配信と何が違うんだ?それかロールプレイ配信。
俺をとにかくコウスケ先輩に見立てて、真紀さんを褒めるように誘導してくる。いやホント、ホストになったのが悪かったんです。ごめんなさいとしか言えない。
結局俺がホストをやる最後の時間までずっと延長されて、もう褒め言葉のレパートリーも尽きた。そして4人の会計が1億2000万と聞いてビビったが、ドンペリとかご飯とか延長をしまくればそうもなるだろう。ドンペリタワーも頼んで、シャンパンコールならぬドンペリコールもさせられたし。
「面白かったので全部私が払いますね。コウスケさん、これに懲りたらもうオイタはしちゃダメですよ?」
「忠言痛み入ります、ドロッセルお嬢様」
「え、一括支払い?1億以上を⁉︎ギャングって儲かるんだなぁ……。ありがとうございました!コウスケ、皆さんをお見送りしてあげて!」
「はい、店長」
お店の外までお見送り。かつ、ホストは続けるのか真紀さんに聞かれたが、もう続けないと宣言した。今日だけの限定ホストだ。
というか、俺にはホストが向かないと痛感した。
最後にイソラ先輩に営業をかけられて全員帰っていった。俺は速攻控え室に戻り、ジョン先輩に笑われながらも速攻退職を申し出た。
「良いよ良いよ!面白かったぜ!リリ、ありがとうな!でもあそこまでやっても菱木さんには売り上げで勝ってないのが最高にエンタメしてるよ」
「声優さんに勝てるわけないじゃないですか。というか回転率が違いすぎますよ。明日以降はやりませんからね!」
「おう!救急隊頑張ってなー」
2時間、時間いっぱいホストとして働き、その後は救急隊として仕事に従事した。その日の最後の方で犯罪を犯して警察に捕まったコウスケ先輩の蘇生に来たら、ホストの名前をコウスケにしていたことがバレていた。
「あー、リリ!お前、俺の名前使いやがって!俺の名前で儲けるのは楽しかったか⁉︎」
「何のことでしょう?確かにホストのコウスケ先輩がいらっしゃったようですけど。あれってコウスケ先輩がイメチェンをしてやっていたのでは?」
「本名でホストやる奴がいるか!源氏名とか使うだろ!」
「声優の菱木さんはそのままの名前でやられていましたよ?」
「マジ?心臓強すぎだろ」
コウスケ先輩を蘇生した直後に監獄に送られたので会話はそこまで。悪いとは思ってるけど、ネタにはなっただろう。
3日目はそうして終わって、お昼まで寝た後に真紀さんとデートに出掛ける。昨日のホストのことを揶揄われつつ、切り抜きがいくつか上がったようで、それを見た陽菜ちゃんから知らないところで面白いことをするなとチャットが来た。
「そういえば真紀さんの方では燃えませんでした?結構色恋営業っぽくしちゃったじゃないですか」
「んー?割と皆楽しんでたよ。いつもの祐悟くんっぽくないから面白さが勝ったみたいだし。祐悟くんの方は?その前の接客、スターティンクルの人だったんでしょ?」
「そっちは色気もないカードの話ばかりだったので。あれで燃やされたらたまりませんよ……」
「それはそう」
夕方まで真紀さんの家でイチャつきながら、夜には配信のために家に戻って4日目の配信の準備を始めた。
4日目はサーバーダウンなどの障害が頻繁に起こり、それがバグを引き起こしたのか警察の麻酔銃が必殺の威力になったことで鎮圧ができないという事態になり、大型メンテナンスが入った。
メンテナンス中も画面を切り替えていつでも復帰できるように雑談配信をしていたものの、本日中の復帰の目安が立たないということでその日は中止。
俺も早めに寝ることにした。