元俳優、タヌキVtuberに転生する   作:桜 寧音

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エクリプス2周年イベント『カラグリオット前日譚〜こうして原初の勇者は喚び出された〜』#2

 それからゴートン先輩による状況の説明が入る。

 魔王が突如として現れたこと。その魔王を倒すには異世界の勇者の力が必要だということ。残念ながらその勇者に、唄上先輩が選ばれてしまったこと。

 実際魔王と既に戦っており、その戦争で人間は魔王たちに全く敵わず王が死んでしまい、今はコウスケ先輩の役の王子が国を動かしていること。神へ解決策はないかと縋ったところ、異世界の勇者を送り込むということで現れたのが唄上先輩だったこと。

 その説明が終わった直後、ゴートン先輩が頭を下げる。

 

【君を巻き込んでしまったことは謝罪してもしきれない。そして君が戦う必要もない。私がその力を貰い受ける】

 

【え……?そんなことができるんですか?】

 

【私は呪術師だ。可能性はある】

 

【神のお告げは彼女と共に魔王を討ち滅ぼすこと。宣告に逆らうのですか?リゾマータ】

 

【神に仕えるあなたならそう言うしかないだろう、聖女よ。必要なものは何だ?存在か?力か?力だろう?こんなひ弱そうな少女が魔王と戦えると思っている方がどうかしている。神が彼女に力を与えたと考えるのが自然だ。ならその力を貰い受けても構わないだろう】

 

【それ以上の主の侮辱は許されません。呪術師風情が】

 

【え、え?】

 

 聖女であるドロッセル先輩と呪術師と呼ばれたゴートン先輩のやりとりが不穏になっていく。そしてドロッセル先輩に付き従っている真崎先輩が剣を抜いてゴートン先輩に向けていた。

 同じ国の人なのに剣呑な雰囲気になったことで、事態が飲み込めない唄上先輩は困惑するしかない。

 一触即発の空気になったところで、コウスケ先輩が柏手を1つ鳴らす。

 

【はい、そこまで。リゾマータ、お前の実力は疑っていないが、神が与えた力を人間がどうこうできるとも思えん。ひとまずその方向は無しだ。お前には旅のサポートを任せる】

 

【……御意】

 

【聖女殿。まずは彼女の旅支度の準備だ。そのついでに我が世界カラグリオットのことを話してくれると助かる。その後に戦闘訓練をさせて、魔王を滅ぼす】

 

【畏まりました、王子様。では勇者様。お買い物に行きましょう?そちらの世界でもお買い物は楽しみだったりしますか?】

 

【あ、あの。私は元の世界に帰れるんですか?それが確認できないと、私は協力できません】

 

 それはとても強い意志を持った言葉。

 彼女には日常がある。そこに帰れるかどうかは大事だ。

 ゴートン先輩だけが目線を伏せて、ドロッセル先輩がその質問に答える。

 

【申し訳ありません。その質問には答えられない状況ですわ。世界間の移動は主を持ってしてもかなりの力技だったご様子。今の世界は魔王によって混沌に落とされております。魔王がいなくなり、主が御力を取り戻せばあるいは、といったところでしょうか】

 

【基本は帰れないと思っていただきたい。そもそも魔王を倒せるかどうかも不明なのだからな。もし魔王を倒せて帰れなくなっても、我が国が責任を取って其方を保護しよう。いっそ俺の妻になるか?】

 

【いきなりプロポーズ⁉︎】

 

【王子、御控えください。困惑している女性に付け入るとは何事ですか。そもそも、目の前に婚約者がいらっしゃるでしょう?】

 

【……ふふ、王子?あなたは我が教会との取り決めを破ると言うのですか?】

 

【対外的にわかりやすい例だと思っただけだ。その力を向けるな。剣も向けるな。冗談だよ、冗談】

 

 コウスケ先輩はドロッセル先輩に手を、真崎先輩に剣を向けられたことで両手を挙げる。諌めたゴートンも呆れている。

 冗談だとわかった唄上先輩は安心したように大きく息を吐いていた。

 

【では改めて、お買い物に行きましょう。その服では戦いにくそうですから】

 

 ドロッセル先輩がそう言って内装が変わる。王城から街並みの市場のように切り替わった。

 上手側にはドロッセル先輩と唄上先輩、それに真崎先輩が。

 反対側には宗馬先輩と亜麻井先輩が売り込みのために客引きをしていた。

 彼らは新衣装があるわけでもないので、普通に通常衣装であるアロハシャツを着た大学生と、カーディガンを来た女子大生だ。明らかに洋服だったために、唄上先輩が驚く。

 

【え、え⁉︎あれ、洋服ですよね?あれってカラグリオットのものなんですか?】

 

【いえ、あれらは漂流物です。様々な世界から送られてくる、流れ着く正体不明な物資。それらがこのカラグリオットの文明を進めさせました。生き物はあなたが初めてですわ】

 

【へー。地球から流れ着いたのかな?それとも似たような文明を持つ世界から?不思議……】

 

【そこのお嬢ちゃん、あんたが着てるのは漂流物だろう?ウチにもたくさんあるんだ、ぜひ見ていってくれ!】

 

【漂流物を取り扱っているお店は優良店ですよ。見てみましょうか】

 

 宗馬先輩に呼ばれて、お店の前に向かう。そこで宗馬先輩と亜麻井先輩が明らかに地球産のものを出して、それらでああでもないこうでもないと間違った使い方講座をして売り込みを始めた。

 ピコピコハンマーやサッカーボール、あとは釘バットなど、3Dデータがあるものはポンポンと出てくる。貴重なギャグシーンだ。

 その正しい使い方を地球人の唄上が教えていく。

 

【あんた詳しいな!いやー、漂流物って色んなものがありすぎて使い道がわかんないんスよね〜。そっちの方は聖女様だろう?何がお求めなんスかね?】

 

【彼女に防具ともなる動きやすい服を。そういったものの取り扱いはありますか?】

 

【それならちょうど良いのがあるっスね。あの服出してくれ】

 

【はーい。こっちで着替えようねー】

 

【きゃあ!押さないでください!】

 

 亜麻井先輩に下手の袖に押し込まれる唄上先輩。そして出てきた時にはいつもの格好をした唄上先輩が出てきていた。

 

【魔法耐性に各種属性防御付き、しかも剣とかもほとんど刺さらないどこからかの漂流物!ウチの目玉商品だよ、聖女様?この子にすっごく似合ってませんか?】

 

【そうですね。防具として及第点でしょう。こちらをいただきます。支払いは一括で】

 

【【お買い上げありがとうございまーす!】】

 

 買い物フェーズは終了。そこからは修行パートは事前に撮影していた映像を流しつつ、一鉄さんのナレーションで流した。

 唄上先輩の攻撃方法は魔法使いらしい力で、杖をかざすことで様々な魔法を使っていた。その相手をしたのはたくさん分身した俺。

 大小様々な狸が様々な魔法で吹っ飛ばされる光景には観客からも笑いが起きていた。

 その映像が流れている間に舞台転換も終わり、魔王討伐の旅に出発。メンバーは最初に玉座の間にいた5人。

 草原のような背景を進んでいると、敵が現れる。

 最初の相手は、FORだ。

 

【あ、待てい!ここから先は魔王軍の領地と知っての行動か?そんな命知らずはここで成敗してくれる!】

 

【あれ?あの狸、見覚えがある……。喋った?】

 

【アレは魔王軍が斥候として使う、ラクーンドッグというモンスターだ!数は多いが、訓練でも倒したようにぶっちゃけただの雑魚モンスターだぜ!王子たる俺と勇者の君に取ったら朝飯前さ!】

 

【誰が雑魚モンスターだ!僕は魔王軍の幹部、リリ!お前ら人間の情報を集めたり、物資を盗んだり、それこそ戦ったり、大変なんだぞ!】

 

【それってやはり雑用なのでは……?】

 

【聖女だからって言っていいことと悪いこともわからないのか⁉︎そもそも怠惰な神がいなければこんなことになってないのにさぁ!】

 

 地団駄を踏むものの、小さい狸が憤慨しているだけなので脅威に思われていない。

 そもそもがチュートリアルボスだし。

 俺だけでは説明が足りないので陽菜ちゃんと真紀さんにもセリフがある。

 

【ねえリリちゃん、私がやっていい?薬の実験台が欲しかったんだよねー。聖女とかすっごい良い素材になりそー】

 

【ダメだよ、ナツ。魔王様に戦うなって言われてるでしょ?ここはリリくんに任せてあたしたちは撤退。リリくんからの預かり物も受け取ったんだから、もう用事ないよ】

 

【逃すと思ったか!お前らを逃したら大変なことになりそうだって勘が告げてるぜ!総員、突撃!】

 

 主に殺陣をするのは俺だけ。真紀さんと陽菜ちゃんはあたふたと逃げるだけだ。3Dでグラフィックとして用意されているゴムボールやフラスコなどを投げることはしても、ゴートン先輩が華麗に避ける。そっちは動きがコミカルでギャグだ。

 俺の方はコウスケ先輩と真崎先輩と接近戦を演じつつ、遠距離勢が魔法の準備をしている。俺が飛び蹴りをするものの避けられ、2人が剣を使って斬ってくるのをローリングしながら避ける。俺の3Dの身体は小さいからこそ、ダイナミックな動きをしなければ舞台映えしない。

 戦闘用のBGMに沿って敵側では俺だけが真剣に戦っていた。俺の後ろで真紀さんと陽菜ちゃんは膝に手を置いて息を切らしている頃だろう。

 そのコミカルな動きに会場から笑いが、俺たちの真剣な殺陣には歓声が湧きながら台本通りに殺陣を完遂していく。

 30秒ほど戦った後、前衛の2人が後退して唄上先輩の掛け声が響いた。

 

【喰らっちゃえ、メテオ!】

 

【【【わああああああああ⁉︎】】】

 

 プロジェクターに映し出された大きな隕石によって爆発音が聞こえ、FOR全員が倒れ伏す。

 最初のボスなんてこんなものだ。

 

【上出来です、唄上さん。私の補助魔法は必要ありませんでしたね】

 

【……勝った?】

 

【幹部の名前は伊達じゃなかったな。接近戦もそこそこできたし、舐めてたら危なかったかも。ナイス、勇者!】

 

【人語を話せるモンスターは魔王軍の中でも重要な役割を持つ存在だと聞きます。それを討ち倒せたのは大きな一歩ですよ】

 

【及第点。いくら王子たちが守ってくれるとはいえ、周りの警戒が疎かだ。実際投げられた物の中には危ない毒薬もあった。詠唱をしながらも周囲をきちんと見るように】

 

【は、はい……】

 

 真崎先輩以外の人が会話をするが、立ち位置がはっきりわかる会話だろう。

 ドロッセル先輩は褒めて、コウスケ先輩は楽観的。ゴートン先輩は嗜める役。

 これで真崎先輩があまり仲良く見えないのは1期前半組の劇だから、というだけではなくちゃんと理由があるんだから恐れ入る。

 ここで舞台転換が入り、俺たちも捌ける。このまま出番は終わりなので楽屋に戻ってしまう。唄上先輩達は次の街に移動する。魔王城に近い街へ移動していた。その街の入り口で揉めている声が。

 街の入り口を守るポラリス先輩とケイン先輩。その2人に懇願するように話しかけるネムリア先輩と宗方先輩。ただし宗方先輩は何も話していない。

 

【お願いします、警備の皆さん!あの悪魔を倒してください!あの悪魔のせいでウチのソウちゃんが……!】

 

【奥さん、気持ちはわかりますが……。我々も警備を抜けてまで討伐にはいけないのです】

 

【更なる被害者を出さないためにも、ワタシたちはここから離れられません。それに間もなく聖女様を含めた勇者パーティーが到着する予定です。聖女様や勇者様なら討伐しなくてももしかしたら……】

 

【緊急事態みたいですね。向かいます】

 

 ドロッセル先輩が真っ先に向かう。この辺りで無料配信は終了になる。時間通りならこの辺りで配信を始めてから30分ほど経っているので、開場から合わせてちょうど1時間。この先は有料チケットで確認してね、という次第だ。

 楽屋には配信画面もあったのでそちらを見ると、やはり「配信は終了しました。この先は有料配信でお楽しみいただけます」となっていた。有料配信画面ではちゃんと舞台が映っている。

 ドロッセル先輩たちが宗方先輩に近付き、どんな呪いにかかったのか確認するが、彼女は首を横に振る。聖女の力でも、勇者の力でも治せない呪いだと話す。

 

【呪いを施した術者を倒さないと解呪できない類のものです。この呪いをつけてきた悪魔とは?】

 

【小柄な女悪魔です!ソウちゃんを誑かしたと思ったら、急に話せなくなったんです!】

 

【魔王軍の幹部だろうな。彼からは相当強い覇気を感じる。邪魔をされたくなかったんだろう】

 

【お願いします!息子を治すためにわたしたちも同行させてください!このまま息子が喋れないままなんて、耐えられません!】

 

【普通なら安全な街に居てもらって、俺たちで討伐だけするのが良いんだろうが……。リゾマータ、どう考える?】

 

【その場にいなければ解呪されない可能性もあります。同行させるべきでしょう】

 

【忠臣がこう言うのでな。同行を許可しよう。ただし、積極的に探すことはしない。あくまで魔王討伐が優先だ。いいな?】

 

【はい!ありがとうございます、王子様!】

 

 ネムリア先輩が頭を下げて、釣られて宗方先輩も頭を下げる。

 大所帯になりそうなところで、いきなりの爆発音。BGMも不安を煽るものに変わる。

 唄上先輩たちがいるところとは反対側の上手から、ユークリム先輩を先頭に、ハピハピ先輩、KP7先輩がやってくる。ハピハピ先輩とKP7先輩が銃を使うアクションで爆発を起こしていた。

 逃げ惑う民衆の声が流れるが、この辺りはこの場面にいないライバーで収録した。俺たちの声も入っている。そんな声が流れつつ、ユークリム先輩が苛立った声で叫ぶ。

 

【あーもう!ナツとエリーはどこで油を売ってるのよ⁉︎人間の化粧品も、あの子たちが作った美容品も何も届かないじゃない!物資補給も滞ってるし、こうなったら直接奪うわよ!】

 

【【了解!】】

 

【あ、あの女悪魔です!ソウちゃんの声を奪った悪魔‼︎】

 

【あちらからやってくるとは。応戦するぞ!】

 

 ネムリア先輩と宗方先輩は一度捌けて、唄上先輩たちの勇者パーティーとユークリム先輩とハピハピ先輩のグループと、ポラリス先輩とケイン先輩の防衛隊セットとKP7先輩が戦いのグループとして別れる。

 目移りしないように、この後はグループごとの戦闘になる。

 その前に、ユークリム先輩と唄上先輩が言葉で対峙する。

 

【あなた、どうして子供の声を奪ったり、こうやって街を攻撃するのですか⁉︎しかも理由が自分が使う美容品のためだなんて……!恥ずかしくないんですか⁉︎】

 

【恥なんて感じるわけないでしょ。あたしたちは魔王軍よ?邪魔なものは蹴散らす。必要なものは奪う。それが当たり前なの。……アンタが噂の勇者?なんというか、弱そうね?】

 

【まあ、唄上は見た目だけならそこら辺の女の子だからなぁ】

 

【あたしの眼力舐めないで。潜在能力は凄まじいけど、その力を扱えてないじゃない。手に負えなくなる前に消すわ。やっちゃいなさい、あたしの可愛い操り人形ちゃん!】

 

【イエス、マスター】

 

 ユークリム先輩が一歩下がって、逆にハピハピ先輩が前に来る。本来の設定であればハピハピ先輩がマスターでユークリム先輩が悪魔として契約している側だが、この舞台では逆の設定でハピハピ先輩をユークリム先輩が支配している形だ。

 ハピハピ先輩がガンアクションをすることで爆発のエフェクトと音と共に暗転。その間に勇者パーティーとハピハピ先輩たちは捌けて、ポラリス先輩とケイン先輩、KP7先輩のバトルが中心になる。

 ポラリス先輩とKP7先輩はいつも通りに銃を手に持つ。ケイン先輩はVlogなどで見せた弓を構えた。彼は昔弓道部に所属していたということで実写で弓道の腕を披露したことがある。もやしっこと言われていたのに、それなりの弓の動きを見せたことで話題になっていた。

 こう見ると遠距離武器ばっかりだな、ウチのライバー。

 俺以外の「ぽけけり」が戦っているという、まあまあ関係性があるマッチアップだ。こういうのはファンもいるだろうからとゴートン先輩がちゃんと考えて組み合わせを考えていた。

 

【街を爆撃するなんて、魔王軍らしい卑劣さだな?】

 

【……】

 

【無口な野郎だな?戦意はあるのに、不気味だぜ】

 

【あの悪魔が無理矢理支配しているのでは?悪魔ってそういうのが得意だったはずです】

 

【あー、なるほど?こいつも被害者だってやつか?でもこいつを止めないとたくさんの犠牲が出る。止めるぞ!】

 

【はい!】

 

 2対1なのだが、設定としてはユークリム先輩が支配した存在は強化されるという設定があるためにポラリス先輩とケイン先輩の攻撃は避けられ続ける。

 最初にケイン先輩が接近されて蹴りで吹っ飛ばされる。右手の銃でポラリス先輩を牽制しつつ、左手の銃でケイン先輩へ3連射。短い呻き声の後に、ケイン先輩は倒れて動かなくなる。

 

【あと1人……】

 

【くそ!見た目は人間のくせに、身体能力は別物だな!】

 

【くたばれ】

 

 2対1で勝てなかった相手に1人で勝てるわけもなく、しばらく銃撃戦を続けたが、ポラリス先輩も銃撃でやられてしまう。

 2人を倒したKP7先輩はユークリム先輩の方へ向かおうとするが、ふらついて頭を抱える。あちら側でユークリム先輩がやられたために、彼女による支配が解除された形だ。

 

【あの悪魔がやられたのか……?私はこれまでなんということを……!こうしてはいられない!】

 

 KP7先輩はそう叫んで上手へダッシュして捌ける。ここで暗転が入って今度は唄上先輩たち側の戦闘になる。ハピハピ先輩が両手のマシンガンを使って牽制をしつつ、後ろからユークリム先輩が魔法を使って爆撃をする。ハピハピ先輩が銃を使いつつのインファイトを仕掛けてくるために、前衛後衛がしっかりと分かれていて戦いづらそうだった。

 前衛組がハピハピ先輩と、後衛組がユークリム先輩と戦うが、どちらも実力が高くて人数差があっても勝てなかった。

 唄上先輩が長い詠唱の果てに放った魔法だが、ユークリム先輩の前に現れたバリアによって防がれてしまう。

 

【魔法が、効かない⁉︎】

 

【あーはっはっは!異世界の勇者だとか言うから警戒してたけど、所詮はこの世界の人間が使う魔法じゃないか!そんなの魔族のボクに効くと思ってたの?ボクを傷付けたかったら、魔族の魔法でも習得すべきだったね!】

 

【魔族の魔法……。聖女、勇者。オレに手がある。時間を稼いでくれ】

 

【アレを使うつもりですか。……わかりました。唄上さん、巨大な魔法で目眩しをしましょう】

 

【え、はい!】

 

 準備のためにゴートン先輩の姿が見えなくなる。そこからも唄上先輩とドロッセル先輩による連続魔法の嵐がユークリム先輩を襲うが、それらは全てユークリム先輩の前のバリアによって防がれていた。バリアの中でユークリム先輩はニマニマと笑っている。

 

【無駄無駄ァ!人間は学ばないねぇ!魔族を魔物と一緒にして、自分たちの魔法なら効くと思ってる!所詮ボクたち魔王軍の敵じゃなかったわけだ!】

 

【なら、魔族の力ならお前たちを貫けるわけだ】

 

【え……?】

 

 ザク、と剣が貫くSEが鳴る。ユークリム先輩の後ろに回ったゴートン先輩が、剣でユークリム先輩を貫いた。

 人間の技術の武器や魔法では一切傷付かない身体。それを持ったユークリム先輩は慢心していたわけだが、それでもあっさりと攻撃が通ってしまったことに驚いていた。

 

【な、なんで……?ボクの身体、は……】

 

【魔族の研究は人間の世界でも進んでいる。そして魔物と魔族の構成が80%ほど似通っていることも判明している。つまり魔物の素材で作った武器ならお前たち魔族には通用するはずだ。これはラクーンドッグを媒体にして、幹部のリリとかいう奴を素材にした剣だ。素材だけはたくさんいたから、作成には手間取らなかった】

 

【貴様ァ……!呪術師か!】

 

【その通り。こういう利用は得意でね。消えろ、悪魔】

 

【きゃああああああ⁉︎】

 

 断末魔と共に、ユークリム先輩が倒れてその姿も見えなくなる。3Dの身体の投影を辞めた結果だ。

 支配者のユークリム先輩がいなくなったからか、戦っていたハピハピ先輩も動きを止めて先程のKP7先輩のように頭を抱える。

 ハピハピ先輩もKP7先輩も、ユークリム先輩に洗脳されて戦わされていた被害者という立場だ。

 ちなみにこの設定はハピハピ先輩たちから、悪になるのならこういう理由が良いとリクエストした結果だ。あらすじはゴートン先輩が考えているが、細かい敵対理由などはライバーに確認して全員の意見を取り入れている。

 これを台本にするの、大変だっただろうに。

 

【わ、私はなんてことを……!】

 

【その後悔を抱く前に、さようなら。ガンスレイブ】

 

 鳴り響く銃声。

 KP7先輩が撃った弾丸によってハピハピ先輩はコテン、と倒れる。そして続け様にKP7先輩が自分のこめかみに銃口を向け、唄上先輩に最期の言葉を残す。

 

【異世界の勇者殿。あなたが魔王を倒してくれることを切に願う。迷惑をかけた】

 

 その言葉と共に銃声が鳴り響いて、KP7先輩も倒れ込む。そしてハピハピ先輩とKP7先輩が手を握っているように重なるように亡くなっている姿が大きなスクリーンに現れて、女性客からの黄色い悲鳴が配信に載る。

 裏設定で2人は恋人だったのに、ユークリム先輩に支配された設定らしい。この人たちも、作り込む時は徹底的に作り込むよなぁ。

 

【支配されていたのなら、この人たちは悪くなかったはずなのに……】

 

【おそらく支配されていた時の記憶があったのでしょう。善良な人ほど、誰かを殺した時の懺悔を受け入れられるはずもありません。この方たちをきちんと供養する。それしか私たちにはできませんよ】

 

【そう、ですよね】

 

 唄上先輩とドロッセル先輩がKP7先輩たちを埋葬しようとする。勇者パーティーは誰も被害者がいなかったことと、戦闘が終わって気が緩む瞬間だ。

 だからこそ、その人物がダッシュで迫ってくることを警戒できた人は少なかった。

 

【勇者、後ろだ!】

 

【え?】

 

 ゴートン先輩がそう言いながら唄上先輩の後ろへ回り込み。

 走り込んできたジョン先輩の剣に貫かれていた。

 

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