まだまだ続くビンゴ大会。11番目のビンゴ者は霜月エリサだった。別スタジオにいたので歩いて本スタジオにやってくる。
「当たりました〜!ビンゴ大会とかで景品当たったの初めてなので嬉しいです!」
「エリサちゃん初ビンゴマジ?まあ、ああいうのって景品の数とかにもよるしなぁ。ん?ということはFORの中でリリはビリ?」
「結果的には。リーチはできているんですけど、出てくる数字がどれも微妙に外れていて……」
『リリ下振れの日か』
『多分一番欲しかったの、さっきの15周年のやつだろうし』
『残り残念賞も入れて9個?当たり残ってるか?』
『まだゴートンとドロッセルのが残ってるはず』
『あのコスプレが当たり枠じゃないの?』
『あれ多分、コウスケの忘年会グッズ枠……?』
『あれも合計値段やばいのに?』
エリサも賞品は残り8個しかないのでじっくりと見て選ぶ。大きさとしては中くらいの、軽そうな賞品の10を選んだ。
それはゴートンのもので、当たった人がエリサだったために少し表情が強張る。
「あー、それ用意したのはオレなんだが、女性に当たったか……」
「え、まずいものですか?」
「いや、まずくはないけど。もし興味なかったらリリにでもあげてくれ」
出てきたのは『デジタルクリーチャー』という子供人気が高い、それこそ20年前から男子に人気があった電子生命体と電子世界で冒険をするシリーズの、掌サイズのおもちゃ。
1つはデジクリを相手にお世話をするペット育成型おもちゃ。昔は男子は『デジクリ』、女子は別の可愛らしいアニメ調の生き物を育成するゲームが大流行し、キッズは誰もが1つは持っていたレベルだった。そのおもちゃの、現代版リバイバル商品。
それと初代アニメで出てくる、『デジクリ』を進化させるために必要なペンダント各種。それが入ったセットだった。
「あたし『デジクリ』好きですよ!昔のアニメとか見てました!これ育てるやつですよね?遊んだことなかったので楽しみです!」
「そっか。それは良かった。これ刺さるのは男子の方だと思ったからさ」
「えー、あのリバイバルの奴、速攻売り切れた奴じゃん!しかも初代主人公のオレンジカラー!ゴートン、俺も欲しい!」
「お前は自腹で買え」
「もう売ってねえんだよ⁉︎子供から当時のキッズまで買って、速攻第2弾が決まった奴!でも初代モデルが良いんだよー!」
『昔これ持ってたわ。んで幼稚園に行ってる間に死んでた』
『あるある』
『トイレのお世話が面倒でなぁ。すぐ変な奴に進化する』
『これの対戦大会とかあったよな。レアクリばっかで、どうやってそいつ手に入れるのかわからんかった』
『あの当時はネットもそんなに普及してなかったし』
『キッズ漫画雑誌が唯一の情報源だった頃じゃねえか』
エリサが知っている商品でゴートンは胸を撫で下ろした。ついでに欲しいと駄々こねるコウスケには頭にチョップを入れる。
2周年イベントについては、3Dモデルのお手伝いがメインで劇自体はそこまで貢献できなかったと話すエリサ。出番を水瀬に合わせる都合上、水瀬が忙しくて出番が少なければFORの出番も少なくなる。
リリが音楽や演技指導、殺陣指導で力を入れていたこともあって、エリサは3Dモデルや舞台に投射するエフェクト作成に精を出した。
「3Dモデルってどこかで勉強したの?」
「趣味でゲームモデルとか作るのってどうやるんだろうって勉強してて。それが今回活かせたって感じです」
「とても助かりましたわ。ネムリア先生の姿をきちんと3Dで再現していただけて」
「元の絵が良すぎました。というより、あれはネムリア先生の三面図がしっかりとしすぎていて。細かいアクセサリーとかもちゃんと書き込みがありましたから。説明もたくさんあったので、プロの方って凄いなって思いましたよ」
エリサはプレゼントをそのまま持ち帰り。
次のビンゴは同時に2人で、ネムリアとKP7だった。
KP7も一鉄と同じ理由で、ネムリアに先に賞品選びを譲る。ネムリアが選んだのは17。KP7は折角残っていたんだからと7を選ぶ。
まずはネムリアの方からだ。結構大きな箱であり、ネムリアは郵送で送ってほしい旨を伝える。
「こちら私のセレクト賞品です」
「ドロッセルちゃん?なら安心だ〜。コウスケ君じゃなくて良かった」
「ネムリア先生にも俺って地雷だと思われてる⁉︎」
「あ、そうじゃなくて。男の子向けが多いから、折角もらっても使わないかもって思っちゃって」
出てきたのは大きな箱というより、布に包まれた物だった。外側に何かが書いてあるわけではなかったので、誰もそれが何かわからないので、ドロッセルに解説をお願いする。
「こちら、この時期とても嬉しい電気毛布です。コンセントで繋げるだけでぬくぬく。寝る時でも作業の時でも配信の時でも使える物です」
「えー、嬉しい!冷え性だから絶対使う!ありがとードロッセルちゃん」
「いえいえ。これだけじゃないんですよ」
「まだあるの?」
続けて出てきたのは、ピンク色のパジャマ。それも上下セットの上に、同じ色のナイトキャップもあった。確実に女性もので、男性陣は17を選ばなくて良かったと安心していた。
「これ最近噂のピケピケのパジャマ⁉︎すっごい、可愛い〜!」
「ネムリア先生に当たって良かったです。ぜひ着てください」
「ネムリア先生、もし着られたなら写真を共有していただけるとわたくしが助かります!」
「じゃあ着たら女子用サーバーにあげるね」
「ありがとうございます‼︎」
『えー、俺たちも見たい〜』
『絶対可愛いだろそんなの』
『オーちゃん、欲望隠せず』
『これ男子に当たってたらどうなってたんだろうな?』
『毛布だけもらって返品じゃね?』
続くはKP7の7番の賞品。残っている中では中々大きく、スタッフさんが持つ時もそれなりに重そうにしていた。
その商品がコウスケのもので、男性が選んだ物だがコウスケチョイスというのでKP7の声が詰まる。
「いやー、男に当たって良かった!特にKP7なら問題なし!」
「おい?不安を煽るような言い方をするな、先輩」
「というわけで賞品はこちら!DX勇者の剣!ボタンを押しながら振ると音声が鳴るぜ!」
「お前本当にバカヤロー⁉︎何でDXの方にした⁉︎せめて高い模造刀の方にして欲しかった!」
「ついでにDX勇者の盾もあるぜ。こっちもボタンを押すと被弾ボイスが流れる奴」
「剣よりも使い道がないって公式が迷走したって言われるような商品じゃないか!面白枠を2つも作るな!」
『こ れ は ひ ど い』
『せめて剣だけならまだしも、盾もセットとか。なりきりセットにしかならんネタグッズじゃねえか』
『子供向けだからか、微妙にクオリティ低いんだよなぁ。コミケでこれ持った勇者(仮)いたけど、ネタ扱いにしかならんかったもん』
『これには普段温厚なKP7も激昂』
『配信にも使えないし、どないしろっちゅうねん』
有名なRPG、『勇者の伝説』シリーズ恒例の勇者の剣と盾なのだが、子供向けのアイテムなので大きさが微妙に小さく、更に音声が出るものの結構音声がガビガビという、キッズも怖がりそうなおもちゃだった。
コスプレをするなら、かなり高い、しっかりと金属を使われている模造刀と盾を使った方が良いため、コスプレにも使えないアイテムだ。そして版権の問題もあるため、下手に配信にも使用できない。
KP7は事務所に置いておくのが一番の解決策ではないかと思い始めた。個人では使い道がなさすぎるおもちゃだ。
せめてテレビに繋げてゲームが遊べる商品の方なら配信ができたかもしれないが、子供が遊ぶためのおもちゃなのでそういうことにも使えない。
KP7はテンションを下げながら、イベントの振り返りについて話す。特に話題となった、介錯と手繋ぎのシーンだ。そこだけ切り取って劇の本題ではないもののバズった。
「最後のハピハピとのアレは、まあ爪痕を残したくて入れただけだ。深い意味はない」
「良いのですか?そういうのもわたくしはツンデレとして受け止めますよ?KP7様」
「何を言っても無駄か……。率直に、劇自体は新鮮で楽しかった。以上」
「あれすっげえバズったもんな、切り抜きのスクリーンショット。動画はダメだからラストの殺陣はあんまり伝わりにくかったにしろ、あそこのシーンは静止画で十分だし」
「男女のあれこれって強いなと思ったよ……」
「ゴートンさんとオーちゃんの下りも高評価でしたし、そういうのが好きな層はいるんですよ。ゴートンさんとオーちゃんの最終決戦前も人気でしたよ?」
Vtuberといえど、やはり恋愛系は強い。カップリングが好きな層もいて、絵を投稿するサイトやそれこそ同人誌が流行っているのもその層だ。エクリプスのファンアートや同人誌は中堅どころの事務所にしては結構多く、大手のVtuber事務所並に多くなっていた。
ドロッセルの人気もあるが、男女混合箱ということも大きい。男女が仲良く配信をしているというのが刺さり、グループやカップリングで描かれることが多くなっていた。
話は変わってネムリアのイベント周りについて。イメージビジュアルポスターのイラスト作成や世界観のクリップボードなどのイラストを多数作成しているのは本職として請け負った仕事だったために本気で描きまくったとのこと。それだけに集中できる時間は楽しかったとも話す。
演技の方は母親役と言っても、普段の宗方への接し方のままにしただけとのこと。当て書きだったこともあり、ボイス収録と大差なく演じられたと語った。
続いて当たったのはポラリス。大声を出しながら通話部屋に入ってきた。
「セーフ、セーフっ!ジョンとケインには勝った!」
「皆さん、勝ち負けで競っているんですか?」
「割と下の方で勝ち誇っても良いのだろうか……」
「同期でビリじゃないなら良いんだよ、ゴートン君!」
「というかグローバル組、まだ2人も残ってるのか……?運悪すぎね?」
「むしろイソラさんが早すぎたんです。運を吸われましたか?」
「可能性は大いにある。あいつ本当にどうなっているんだか」
4人いる2期前半組のグローバル組は最初のイソラがビンゴをして以降、全然ビンゴが出なかった。他のグループはもう全員ビンゴしているところもあるのに、かなり偏っている。
ポラリスが選んだのは2。若番の方ならそこまで酷い賞品にしているわけがないという持論を展開し、選択していた。
これはオーフェリアの賞品だった。
「よし、この時点で大当たり!」
「マジでオーフェリアは金かけすぎなんだって。当たった瞬間喜ばれてるじゃん」
「コウスケ様ももっと喜ばれる品を選べば良かったのでは?」
「俺はネタに走っただけなんだよ!オーフェリアとドロッセルの賞品がおかしいだけだから!」
「あら、私も?」
「十分おかしいだろ……。ラインナップ見直せよ」
袋から出てきたのは大きな本と、万年筆。オーフェリアの物にしてはかなりまともだが、詳しく聞くまでは油断できないとポラリスは通話越しに身構えた。
「こちら来年から5年間使えるスケジュール帳と、万年筆型のボールペンです。こちらも5年間使えるように替え芯も同封しておきましたので、是非活用なさってください」
「おお……。超まとも。ありがとうございます、オーフェリアさん」
「いえいえ〜」
「ボケなし、だと……⁉︎いーや、絶対超高級品とかだろ!」
「いいえ?スケジュール帳は書店で一般販売されている物ですし、ボールペンも東京の文房具屋さんで購入した物ですよ?」
『コウスケ、疑いすぎや。前科があるとはいえ』
『スケジュール帳が3000円、万年筆型のボールペンも2500円くらいだな。替え芯も込みにしたって1万は余裕で切る』
『唄上にしてはまともやん』
『ここで調整してきたか』
『普段使いできる時点で忘年会グッズよりは万倍マシ』
プレゼントがまともだとわかって、ポラリスが演じた役について。街の門番といういつものボディーガードという役柄と大差なかったために、アクションなども問題なく苦労はしなかったという。銃撃戦が楽しかったと感想。
ボス役とか柄でもなかったため、あれくらいの短い時間で良かったというのが本音だ。
続く当選者は真崎。これで1期後半組の現異交流組も全員ビンゴになった。
「真崎さん、目当ての番号はありますか?」
「ん〜。じゃあ真ん中に近い番号で、8番」
真崎は比較的小さい番号を選ぶと、それが開封されて小さい箱が出てきた。その箱に更に何かが入っているのだろうと箱を開けると、「プチ当たり!」と丸文字で書かれた紙が入っていた。
「プチ当たり?」
「こちら私とオーちゃんの合作プレゼントです。袋に入りきらなかったので、画像をお願いします」
そうして画面が切り替わり、映ったのは2段に並べられたボトルの数々。
日本語で書かれたラベルもあれば、外国語で書かれたラベルもあった。その本数、10本。
「お歳暮飲み比べセット〜!ということでノンアルコールの高級ドリンクが5本、海外も含めた高級リキュールが5本の飲み物セットになっています。どれもこれも美味しいので、飲んだら感想をください」
「お酒は普通に嬉しいです。1本ずつ見ても良いですか?」
「どうぞ」
『おお、すげえ。各地の有名果物ジュースだ。あれ1本3000円とかしたはず』
『巨峰ジュースは5500円だぞ。地元の奴だから知ってる』
『後ろのお酒の、カシスリキュール!あれ確か会員限定商品の奴!』
『どうせオーちゃんだろ。どういうコネあんねん』
『右端のリキュール知ってるわ。あれ関西で有名な酒工房の梅リキュールだ。飲みやすいし、ちょっと背伸びした気分になれるから好き』
『羨ましい。通販やってねえかな』
『リスト全部くれ!』
どれもこれもお高い飲み物だとわかって、お酒を嗜む真崎としては大喜び。明日にでも事務所に行って受け取りに行くと宣言。
そしてイベントの振り返りでは、最初は味方のフリをしつつ実はラスボスでしたという役柄について語った。
「ゴートン先輩も酷いですよね。そんな裏切りを思い付くなんて。味方の間はセリフが少なかったので動きを覚えるだけで大丈夫でしたが」
「ぽっと出のラスボスとかつまらないだろ?それに真崎をラスボスにするのは満場一致だった上に、よく似合っていた」
「これ、褒められてます……?」
殺陣自体は3Dお披露目でやっていたこともあってそこまで苦労していなかった。数自体は多かったが、カラグリオット組も同じくらいあったことと、あくまで前衛ということで敵役の人と合わせるのは楽しかったという話をした。
真崎がいなかったらこの劇の成功はなかったというお礼を言い、彼女も重要な役を任せていただいて光栄だったと話して退室。
もうそろそろ終盤ということもあり、数字を回したらすぐにビンゴになる。
次に当たったのは但馬。新人寄りのメンバーで最後のメンバーになってしまっていた。
「よ、ようやく当たりました〜。でもビリ回避!それにさっきの真崎さんの飲み物詰め合わせ羨ましい〜!」
「おめでとうございます、但馬様。後でリストをあげますので、飲みたいものを買ってくださいまし」
「会員限定の物もあったじゃないですか〜!あれは流石に買えませんよ」
残り少ない賞品を確認していく但馬。選んだのは5番。
5番は先程のようにコウスケとゴートンの合作賞品だった。
「まあ、当たり枠のはずだが。オレたちのやってほしいゲーム詰め合わせセット。最新ハードだから流石に遊べるだろう」
「皆が買いそうにないゲームにしてみたぜ。買ってる奴あるか?」
「んー、ないです!どれも持ってないので、配信で遊んでみます!」
「それは良かった」
『RPGか?リマスターとかリメイクが多いな』
『おーい?恋愛ゲームも混ざってないか?』
『ん……?【SoF】の会社の高難易度ゲーも混ぜてやがる。これコウスケだろ』
『どれがどっちか当てようぜ』
持っていないゲームしかなかったため、但馬は純粋に喜ぶ。イベントの話としては、最後の中ボスの役割というのを最初に確認された時はそんな大役を受けて良いのかと悩んだと言う。何せ3D配信がギリギリ間に合うかどうかのタイミングだった。順調にいけば問題なかったが、何かトラブルがあったら間に合わない可能性もあった。
モデル自体は9月に出来上がっていて、残りは微調整だったので十分猶予はあったが、それでも大役ということで練習期間からだいぶ緊張していたと溢す。特に殺陣は強く見せようとすることに苦労し、3Dお披露目の頃から宗方に強く見えるような指導を受けていたと話した。
最後は魔法によって吹っ飛ぶという結果だったが、その前段階までは十分強敵ムーブができていたとドロッセルたちは褒める。
もう残っている人も少ない中、次に当たったのはジョン。ビリ対決でデッドヒートしていたようで同期対決に勝ったようでかなり声が上擦っていた。
「よしよしよーし!ケインに勝ったぜ!もう何でもいい!」
「そんなビリ対決に熱くならないでも……」
「こういうのは残り物に福があるって言うだろ!というわけでラストナンバーの18!」
「18は私ですね。こちら私の当たり枠です」
「マジ⁉︎ドロッセル先輩の当たり枠なら良い物確定だろ!」
袋から出てきたのはCD。それもドロッセルが映っているようなジャケットで、そのCDが何枚も出てくる。
それはドロッセルがメジャーデビューしている全国流通CDだった。
「こちら私のサイン入りCD各種です。直筆ですよ」
「在庫処分ってこと⁉︎」
「ジョンさん失礼な!私サイン会とかしていないので、レアですよ!」
『え、普通に欲しい』
『直筆⁉︎いやいや、マジで欲しいんだが⁉︎』
そこから出てくる他のドロッセルのグッズ。それらにもサインが全部書かれており、ファンからしたら是が非でも欲しいグッズの数々だった。去年の周年グッズなどもあり、その全部を買ったとしたら結構なお値段になる。
「まあ、当たりか。ある意味世界に1つってことだし」
「そうですよ?私はサインなんて滅多に書きませんから」
「ってか逆に保管するしかないじゃん!まあ先輩のCD普通に持ってるけどさあ!」
「あら嬉しいことを言ってくれますね。あ、今度試供品のアルバムにもサインを書きましょうか?」
「マジ⁉︎それはそれで全員のサイン欲しいんだよなー!言質貰いっ!」
『同じ事務所だからそういうのもできるのか。良いなぁ』
『というか皆サインとかあるの?書く機会あった?』
『コラボ商品でたまにあるから、書ける人もいるんじゃね?』
ジョンは結果としてアルバムへのサインの約束を取り付けたこともあって喜び、イベントについて話す。ジョンの出番は不意打ちのみという、それこそ全ライバーの中で一番出番の少なかった役と言っていい。ただ本人も平日はそこまで練習の時間が取れなかったことと、演技もそうでもなかったためにあれくらいで十分だったと回想する。
それにやられ役はそれはそれで美味しいとも。
カラグリオット組全員にアルバムのサインをお願いして帰っていく。残り2人となって最後のビンゴ者がスタジオに直接やってきた。
リリだ。
「下振れましたね。リリさん」
「ぶわっはっは!」
「そこまで笑わなくても良いじゃないですか、コウスケ先輩……」
「ブホッ⁉︎いやあ、すまんすまん!」
他の人は平然としているが、コウスケだけが爆笑していたため、コメントもそんなに面白いかと困惑する。スタッフも何人かは隠れて笑っているが、その理由はリリの運のなさではなく、リリが女装をしているからだ。
上はモコモコのベージュ色のジャケットに、中は赤いニットセーター。そして下は緩めの、パンツとスカートの中間の黒いレイヤードボトムを履いて、靴もレディーススニーカーを履いていた。別のスタジオを使っていたため、他の3人と一部のスタッフはその姿を知っていたが、ギリギリに来たコウスケと一部のスタッフは知らなかったので完全に女性の姿からリリの声が聞こえてくるのは見た目と耳がバグる。
ライトブラウンのロングヘアのウィッグを被り、顔もメイクを施して綺麗めの女性の顔をしていた。
「最後なので選べずに12番の商品になります。こちらゴートンさんの最後の賞品ですね」
「まあ、リリで良かったか?リリ、『ズァーク』好きだもんな?」
「ええ、はい。案件いただくレベルでは好きですが……」
「その箱はフェイクで、デカすぎたから別撮りしているんだ」
袋の中身は何もなく、画面が移り変わる。そこにあったのは随分大きい箱で、その表面には1/144と書かれた、紺色のゴテゴテとした機体が描かれていた。中の機体をコアユニット扱いにして、銀色の追加装甲であるアームド・ユニットを追加した大型決戦ユニット。
そのプラモデルが置いてあった。
「うええええ……。『クァーゼル(ヴァイオンユニット装備型)』じゃないですか。しかもリバイバル・プレミアムバージョン。これBプレミアム限定販売でしょう?」
「お、よく知ってるな。『新駆動戦士 ズァークM』に出てくるラスボスの機体のプラモデルだ。ラインマーカーとかニッパーも買っておいたぞ」
「作れってことですね?」
「その通り」
『ヴァイオンユニットだ!かっけえ!』
『割と最近のキットだし、まあ難しくはないな。ただパーツが死ぬほどあるだけで』
『これプレミアムの方だから出来が良いんだよな。グレード違いの奴が出てるけど、そっちは作りが荒い』
『これじゃない奴は10年くらい前のキットだしそんなもん。最近のズァークのプラモはレベルがダンチ』
ラスボスが使った機体ということと、ボロボロにユニットが剥がされていきながらも主人公に食いついていったということから昔のキットもかなり売れた。ラスボスの増加装甲すら食い潰していく主人公に視聴者からは「どっちが敵だっけ?」と呼ばれるようなラストバトルだったのが有名なアニメシリーズだ。
アニメの出来もストーリーも良く、敵の機体もだいぶ見せ場があったことからプラモデルがかなり売れたシリーズだ。ズァークはプラモデルを売るための販促アニメの意味合いが強く、スポンサーの圧力からどの機体も活躍させるとなると、結果として主人公陣営が強くなったというシリーズだ。
主人公機も増加パーツなどのバージョン違いを出してかなり強気の販売方法をしたものの、アニメが良かったことから当時はどのプラモデルも家電量販店から消えた。シーン再現のために凝ったモデラーが損傷パーツを作るためにキットをかなり買ったのだ。
そんな人気シリーズだったこともあり、プラモデルメーカーのプレミアム会員限定販売のこの『クァーゼル(ヴァイオンユニット装備型)』もすぐに売り切れた。プレミアム販売のものは出来が良いために欲しがるモデラーとファンが多かった。
通常形態の『クァーゼル』も度々再販がかかるたびに売れたり、サイズが大きくなって売れたりしている。そんな人気作品のプラモデルなので、リリとしてもプレゼントとしては嬉しかった。
大袋をもらって持って帰ることにして、イベントのことについて話す。リリは音楽提供に演技指導など、かなり頑張ってもらったのでカラグリオット組からも感謝の言葉が多かった。
「リリって何であんなに楽曲提供早いわけ?試作品ができたって言って俺たちが聞いたの、わりかし早かったぜ?」
「イメージしやすい台本があったので。僕って元となる何かがあった方が作曲しやすいんですよ。作詞も一緒にとなると時間がかかりますけど、詞ができていたり、台本のこのイメージで、って言われたら音に起こしやすいというか」
「1を10にする才能が溢れているのでしょうね。そういうクリエイターの方は多いですよ。リリ様がいなかったら殺陣とか諸々どうなっていたことか……」
「その時は本職の方を呼んでいただけですよ。僕がたまたまそういう能力があったから手伝っただけで」
できる能力があったからやっただけで、任せられるならプロにお願いした方が確実だ。身内の方が連携がしやすいが、丁寧な仕事を求めるのならその道のプロにお願いした方が良い。実際音響や照明などはプロを呼んで実施しているため、リリがやったのはたまたま能力があって暇だったからに過ぎない。
劇のBGMは昔から俳優の傍らで作曲をしていたために、そっち方面のBGM作成はむしろ本領発揮するような事柄だったこと。演技指導と殺陣指導も俳優だったので一番の経験者として教えただけのこと。リリがやったのはそれだけだ。
たまたまその仕事ができる専業の身内がいただけ。これでリリが別の仕事を兼業としてやっていたり、他に経験者がいればそちらに仕事を任せただろう。実際去年は演出は外部の演出家を呼んでいる。
彼は仕事を仕事として請け負っただけだ。実際事務所から追加の仕事として報酬を貰っている。無償で手伝ったわけではない。きちんとお金が発生しているのだから、そこまでありがたがられることではないというのが本人の認識だ。
リリがプラモデルを持って帰ると水瀬も一緒に作りたいとなり、まずはこの機体を知ろうという話になり、急遽同時視聴枠になった。アニメはサブスクで配信がされていたために、その音声を配信に載せないようにして『クァーゼル』が出る数話だけ見ることとなった。
そしてビンゴ会場では最後に。ビンゴすることのなかった不運な人間が呼び出されていた。
「1個もビンゴしませんでした……。音無ケインです」
「音無様ってそんなに運がよくなかったのでしたっけ?」
「そんなことは……。下振れのリリ君より酷かったかなぁ?ワタシ」
「ではそんな残念だった音無さんにはこちらの残念賞です。こちらは全員からのプレゼントです」
画面に映ったのは数々のお菓子。駄菓子やスーパーに売っている袋菓子など、それぞれが好きなお菓子を集めていた。いつ渡せるかが不明なために生菓子はなかったが、かなりの量のお菓子が映っていた。
「え、こんなに貰って良いんですか?ウッヒョー!これで冬休みは困りませんね!明日貰いに行こーっと!」
「ええ……?そんなに喜ぶことですか?別に有名店のお菓子とかではなく、スーパーで買った物ですわよ?」
「やめろ、オーフェリア……!お前の感覚は本当にズレてるんだから、そんなトドメを刺しちゃいけない……!」
「やっぱり生チョコくらいあっても良かったのでは?音無様も明日取りに来ると仰ってますし。まだ空いているお店、近くにあったかしら?」
「検討するな!賞品はこれで決定、増やすのはなしって決めただろ!」
「ワタシこれで十分なので!オーフェリア先輩が好むチョコなんて食べたら、普通のチョコが食べられなくなります!」
「ええー?」
「不服そうにするな!」
オーフェリアからすればお値段的に物足りないと思っての発言だったのだが、ゴートンと音無に必死に止められていた。オーフェリアは内心ではゴートンはこちら側のはずなのにと思っていたが、口には出さなかった。
ゴートンだって良いところの坊ちゃんではあるが、彼は今も普通に仕事をしているので世俗には詳しい。大学まで行きつつも投資で生きてきたオーフェリアよりは一般の金銭感覚などが身に付いているため、そこまで常識はずれではなかった。
こうも金銭感覚が狂っているのは実家が太いこともそうだが、彼女自身の資産がVtuberをやらずとも問題なく一生過ごせるほどの蓄えがあるからこそだった。
ビンゴ大会はこうして終わり、騒がしいクリスマスイブは終わった。
そしていきなり30日にFORのコラボ配信が決まり、『クァーゼル(ヴァイオンユニット装備型)』の合同作成をすることになった。アニメを見た水瀬がカッコいいと感動して、作ることに情熱を燃やしてしまったためだった。