今日は初めて後輩とコラボをするということでお昼から準備を始めていた。今日使うゲームを改めてログインして変化がないことを確認したり、必要になりそうなアイテムをクラフトしておいたり。
気付かないうちに俺の拠点が使われていたようで、お詫びの品が置いてある。中身は確認したけどこれは配信中に見た方がいいだろうと思って特に触れなかった。
まごまごとした下準備を終わらせて、たまたまログインしていたイソラ・イグーストス先輩がチャットで挨拶をして来た。裏の作業で会話するのもどうだろうと思って、挨拶しないのはそれ以上に失礼かと思い直して挨拶する。
「お疲れ様です。今配信中ですか?」
「いやあ?裏で資材集めしてる」
「こっちも似たようなものです」
イソラ先輩は2期前半組。ポラリス先輩や音無先輩、ジョン・スミス先輩と同期だ。クトゥルフの端末にボディーガード、名探偵にスパイって凄い構成だなと思う。
そのイソラ先輩はとある名状しがたき巨大像を集めるために地下に潜っているようだった。
「リリ、黒曜石余ってない?あと綿毛」
「黒曜石なら2スタックありますよ。綿毛はあまり在庫ないですけど、使わないのでどーぞ」
「助かるぅー。ちょっと取りに行くわ。どこにいる?」
「僕の拠点来られます?座標はここです」
「OK。お返しに何か欲しいものある?」
「鉄鉱石がちょっと欲しいです」
「めちゃくちゃ余ってるから持っていくわ」
通話を繋げずにゲーム内チャットで会話するというのも珍しい。
そういえばこのチャットってゲームサーバーに履歴として残るんだったか。相談するなら通話した方が良いかも。
イソラ先輩に通話で話しませんかと送って、アプリで話す。
「どうかした?」
「いやあ、後輩との初コラボで緊張していて。どうすれば良いかなと」
「リリでも緊張するんだ?あー、っていうかあの暴走列車たちだもんね。今日コラボだっけ?」
「そうなんです。手綱を握れるかどうか不安で……」
片方はエッチなことが大好きな人で、もう片方は先輩たちをカップルに見立てているという、中々に癖が強い後輩だ。あと多分俺より歳上な気がするし。
絶対FOR関連でいじってくるよなあ、と思っている。
「私も別に先輩らしいことしなかったし、何かしなくちゃなんて考えなくて良いと思うよ?相談されたら受ける、くらいの受け身で良いのさ。Vtuberなんてユニットとか同期とかあっても最終的には個人の個性次第なんだから。彼女たちがああいうキャラ付でやっていくって決めた以上、度が過ぎた発言以外は基本スルーで良いと思うよ?」
「そんなものですか?」
「そうそう。先輩だからこうしなくちゃ、なんてないよ。だからコラボをするくらいで良いの。興味がある配信には呼ぶとか、そんな軽い気持ちで良いんだよ」
うーん。強力なキャラにビビってしまっていただけで、普通に接すればいいのか。
先輩方には相談に乗ってもらったけど、何から何までお世話になったわけでもないか。そうなると確かにもう少し気楽に構えていてもいいのかもしれない。
「イソラ先輩、ありがとうございます。フラットで彼女たちに接したいと思います」
「いいってことよ。今度何かあったらコラボしよーね」
「はい。よろしくお願いします」
物々交換も終わって、ついでに2人で素材集めをしたことでお互いに必要なものを揃えることができた。
イソラ先輩は建築自体は配信でやるとのことだったのでそのままログアウト。俺はクラフトを少ししてからログアウトして夜ご飯を食べてしまって夜配信に備えることにした。
そして20時。以前から告知していた3期後半組とのコラボ配信が始まる。
やるゲームは『Your Bilder』。エイプリルフールにもやったサンドボックスゲームだ。
彼女たちもまだエクリプスのサーバーには入っていないということで、外装データだけ取り込んで今日の配信を迎える。
今回のコラボの進行は俺になる。俺以外女性だから逆に俺が1人の立場になった方が良いだろうと司会を買ってでた。霜月さんはあまり進行とか得意じゃなく、うまく回せないだろうからと『ユービル』の解説をお願いした。
正直俺はあまり『ユービル』に詳しくない。エクリプスに入る前からやっていたわけでもなく、クラフトのレシピとか全然知らない。水瀬さんも似たようなもので、だからゲームの説明は霜月さん任せだ。
「皆さんこんばんは。エクリプス3期生コラボへようこそ。絹田リリです。今日は3期後半組とのコラボということで『Your Bilder』をやっていきたいと思います。じゃあまず右の方から自己紹介をどうぞ」
「こんばんは〜。霜月エリサです。今日は新人2人と一緒ということでどんな弄れるところがあるかなって探っていきたいと思います。よろしく〜」
「先輩方に弄られるなら本望です!」
「はいそこ、フライングしない。続いてお願い、水瀬さん」
「こんばんちゃ!水瀬夏希です!初の後輩ができて嬉しみが止まらないよ!先輩風ビュンビュン吹かせていくぞ〜!」
『我慢が効かないのはダメだろ』
『これは駄犬』
『鬼とのハーフですが?』
『リリ、制御よろしく』
『これはダメそうですね……』
いきなり段取りを崩さないでほしい。最初のコラボくらいは自己紹介の順番を守ってくれないだろうか。
この自由さも配信者には必要なのかもしれないが、それは是非、もう少し打ち解けてからやってもらいたい。
「ここからは後輩です。チェリーさん、お願いします」
「は〜い。皆様、お元気ですか〜?桜の精として皆様を見守っている、チェリー・心です〜。今日も皆様の元気な姿が見られて嬉し〜。先輩方との初コラボで緊張してますが、いつも通りの自分で頑張っていきたいと思います〜」
『元気(意味深)』
『見守ってる(意味深)』
『チェリーの言葉に(意味深)を付けるの、定着したな……』
『そういう妖精だって思われてるんだろう』
『いつも通りの自分……?あのBANされないか争ってる雑談配信と一緒?』
『今日は流石に、そんな脳内ドピンクになる要素はないよな……?』
『チェリーを舐めるなよ』
ちょっとはリサーチしてきたけど、そうか、いつも通りか。
つまり自分の趣味の話である肌色の多そうな過激な内容のことを垂れ流しにするつもりだと。現役女子高生がいるからできたら自重してほしい。
早速胃が痛くなってきた。
人狼コラボの時に狂人プレイをするって男性の先輩方に伝えた時って皆さんこんな感じだったんだろうか。
過去の自分が殴りつけてくる。辛い。
「では最後。但馬さん」
「はいっ!さっきはフライングしちゃってごめんなさい!鬼と人間のハーフ、自認的には鬼寄りの但馬火乃香とはわっちのこと!今日は憧れのFORのお三方とコラボということで気が逸っておる!オフコラボじゃないのが心残りなので次はオフコラボで!」
「機会があったらいいんじゃないかな?でもリリちゃんとエリーの優先権は私のものだから!」
「ああああっ!それはもちろんです、夏希ちゅぁん!その末っ子気質最っ高!もっと見せて!パパママは取らないからあ!」
「ステイ。但馬さんまだ配信始めて3分経ってないから」
『ヤベーよ……(真顔)』
『カプ厨ここに極まれり、だな』
『しれっとオフコラボ取り付けようとするな』
『え?俺もカプ厨だけど行き着く先がこれ?』
『なっちゃんの独占欲、イイゾ〜。てえてえ』
『俺今日この子たち初見なんだけど、大丈夫?偏見しか生まれてなくない?』
『大丈夫。2人ともいつもの雑談と変わらん』
こ、これ本当に問題ない?イソラ先輩に励ましてもらったのにもう心が折れそうなんだけど。
俺たちがデビューした当初もこんな風に尖ってたか?霜月さんの件があったからあまり覚えてないな……。
俺も霜月さんも意図的に狂人プレイはしていたものの、お互い真人間が狂人を演じていただけだ。素がこうだったわけじゃない。
霜月さんも水瀬さんもドン引きしてないだろうか。いきなり暗礁に乗り上げないでほしいんだけど。
「以上、5人でですね。『ユービル』のエクリプスサーバーを観光したいと思います。最初はチェリーさんと但馬さんの装備を整えるところから始めて、ある程度の準備ができたらサーバーを巡りたいと思います」
「本当に何も持っていないのでありがたいです〜。食料だけ恵んでもらいました」
「お、推しからのアイテムなんて使えませんよ!」
「但馬さん、お願いだから使って?餓死される方が面倒だから、リリくんからのご飯でもしっかり食べて」
「はい、エリサママ!すぐに食べます!」
霜月さんが結構厳しめに注意した瞬間、一気に食料を食べ始めた。そんな何個も食べないといけないくらい空腹ゲージが溜まっていたのなら食べればいいのに。
実物を貰ったのならともかく、ゲーム内のアイテムくらいはパパッと使ってほしいくらいだ。次に渡す物なんてわざわざ用意したんだから使ってくれない方が困る。
それと先輩に気軽にママなんて使うんじゃない。俺のコメント欄もパパって書き込みを増やすな。あくまで配信上の演出でそんな疑似家族を演じてるだけだから。
但馬さん、大丈夫か?鬼としてのロールプレイング、かなり剥がれかかってるように聞こえるんだけど。
「はい。但馬さんの空腹も満たされたということで、今日のスケジュールを発表しますね。まずは2人がこの世界で生きていけるように生活基盤を整えたいと思います。食料などは惠むので、ピッケルとか武器防具を作れるような素材を集めてもらいます。その後、このサーバーで観光名所を巡ります」
「ここで〜?先輩たちからのプレゼントだよ!というわけでエリー、あれ渡して!」
「はい。この2つどうぞ」
チェスト、と呼ばれる箱を2つ、霜月さんが置く。その中には初心者には必要になる物を詰め込んでおいた。それの収集のためにちょっとログインしていたわけで。
中に入れておいたのは最低限の石の斧と鉄製のピッケル。それとベッドと釣り道具にバケツなどの初期必須アイテムの数々。
これをFOR3人でせっせと集めていたわけだ。
「おお〜。ありがたいです〜。でもリリ先輩、銃と弾丸は?」
「僕の工場をアテにしないで。最初から銃あったら楽になりすぎだし、初心者セットは用意したから我慢して」
「い、いつか工場にも行っていいですか?何やら凄い工場とは聞いていて……!」
「リリくん、工場の修理って終わってるの?」
「補充とかもしておいたので、もう使えますよ。どこかの先輩方が在庫を食い尽くしていましたけど、今は正規稼働中ですよ」
男の先輩方が俺の工場から弾丸をパクっていって、それを根こそぎ使って色々な拠点を襲撃したようだけどそれをハピハピ先輩にボコされたらしい。
それで材料がなかったので補充をしておいた。あの離島、かなり鉱物資源が豊富だ。
「じゃあ最初は防具を集めに行こっか!地下に潜るよ!」
「この辺はあたしと夏希の拠点が近くて、メインの本島とも橋が繋がってるから移動はしやすいよ。リリくんの離島とも繋がってるゲートを、リリくんが作ってくれたし」
「本島分の素材がなくなっちゃいましたけどね。チェリーさんと但馬さんもこの島がスタート地点で集合をかけやすくて助かりました。本島はもう素材が結構なくなってるので運営さん側に新しい島を作って貰ったのがこの島で、スタート地点は運営さんに設定してもらいました。僕のように設定せずにランダムスタートにすると離島でサバイバルになるので……」
『離島だったの、リリの設定ミスかいな』
『サーバー担当者だと色々弄れるっぽいんよな。素材の復活とか諸々』
『アイテムポップは弄れないから、ダイヤ掘りまくってたのはリリの運なんだよな』
FORの3人で結構改造しているこの大陸だが、まだまだ未開拓の部分はある。そこを3期後半組の2人には分譲する形だ。そのために色々と作業するための道具を渡したわけだし。
最初のうちは『ユービル』について全然知識なかったから適当に始めたんだよな。それでエイプリルフールのお題に添えたんだから結果オーライだ。
準備ができてまずは安全な霜月さんと水瀬さんの主な採掘場へ向かう。そこで上質な鉱石を掘るのが最初の作業だ。
ただ作業するだけでは暇なので、雑談を始める。
「あーっと、チェリーさん。一応事前に伝えておいたけど、FORには女子高生がいるからちょっとピンク色の話題は避けてもらいたいかなって」
「わかりました〜。でもでも、リリさんとエリサさんだけの時はいいですかぁ?」
「僕は異性だからできるだけ辞めておいた方が良いかな……」
「あたしもあまり得意じゃないから、遠慮してほしいかな……。ゲームとか本とかでもそういう種類に手を出さないし、そういうシーンがもしあったら飛ばしちゃうし」
「ええっ⁉︎エリサさん、それはもったいないです!女性なら人体の神秘を探求すべきです!そもそも少女漫画や純文学にもきちんとある、認められた行為ですし、学校の授業でも取り扱いますし、そもそも我々が産まれた経緯を考えると学んでおくべきかと!私は自然産まれなのでそういう行為の結果ではありませんが!」
「正当化しようとしないで……!最近オーフェリア先輩に借りた少女漫画でそういうシーンがあったから飛ばしたんだから!」
『俺らは何を聞かされてるんだ?』
『少年がバトルできゃっきゃしている間に女子は恋愛ドロドロの少女マンガ読んでるからな。精神年齢が違う云々』
『エリーってマジでウブやなぁ』
『オーちゃん、手加減してあげて……』
『リリ黙っちゃったじゃん』
き、気まずい。この中で男1人なのがかなりキツイ。
女の人だけならいくらやっても良いけど、俺もいるのを忘れないでほしい。だってこれ、男子だけが集まって下ネタ込みの猥談をしているのと何が違うんだ?
異性に聞かれたくないとか、そういう恥じらいはチェリーさんにはないのだろうか。霜月さんは恥ずかしがってるし。
「チェリーさん、エリーを虐めないで。純真培養されたエリーを弄っていいのは私だけだから」
「夏希、それはそれで違うよ⁉︎」
「そうだよ、心。リリ先輩も気まずそうだし……。推しが曇るよりも笑ってる姿の方が見たいよ」
「火乃香ちゃんがそう言うなら仕方がないですね〜。でもその情報だと唄上先輩とは良いお話ができそうな……?」
「ええ〜?オーフェリア先輩、かなりのお嬢様だよ?エリーと似たり寄ったりじゃないかなあ?」
「とりあえず、FORの場では謹んでもらって。良いかどうかは配信の前に聞いておいた方がいいよ」
「そうしますね〜」
配信がBANされることも怖いから、ダメにしておいた方がいい。
まあ、水瀬さんもいつぞやのボイス読み上げの際に俺のボイスに「エッチじゃん」とかってコメントをしていたら他人のことを言えないんだけど。
で、片方に話題を振ったのだからもう1人にも話題を出さなければ。実はダイヤボックスを見付けたのだけど、それは言わずにちょっと隠して新人2人が見付やすいように周りのブロックだけ土に換えておいて、他の場所を探索するフリをして彼女の特徴に触れる。
「但馬さんはカプ厨って言ってたけど、僕たちの関係性は仲がいいくらいでカップリングにはならないと思うんだけど……?」
「いえいえ、家族とか兄妹感とかも好きなので!リリ先輩が長男で、エリサ先輩が長女で、夏希ちゃんが末っ子感がたまらなくて!夏希ちゃんが娘でお2人が夫婦のシチュエーションボイス出しませんか⁉︎わっち台本書きます!」
「だーめ!リリちゃんのボイス台本は私が書くんだから!あとエリーの台本も私が書くから但馬さんにはその権利はあげません!」
「そんな殺生な!」
『むしろFORの一番の過激派って実はみなちぇじゃ?』
『リリも割と……。むしろエリーが一番フラットまである』
『おもしれーユニット』
『但馬案も普通に出たら買うけどな』
『リリボイスまだー?』
そんなに他人のボイス台本を書きたいものなのだろうか。俺は文才がないから書いてくれるならありがたいけど。
雑談をしつつ、鉱石集めは順調。ダイヤも相当数出て、ダイヤピッケルは作れそうだった。
「これでドロッセル先輩が言ってた初期装備集まりそう」
「あ、リリくんまだその嘘を信じてたんだ……。別にダイヤピッケルは必須じゃないよ。あれば良いけど、ダイヤはそう簡単に集まらないから」
「え?そうなの?」
「オリハルコンで十分だから。ダイヤ装備は最終目標だよ?」
「何、だと……⁉︎」
エイプリルフールにドロッセル先輩に嘘をつかれていただなんて。2ヶ月経ってからの衝撃の真実なんだけど。