そのSNSのニュースは世界のトレンドを全て掻っ攫った。
前々からその話は出ていたとはいえ、野球を知る者なら誰もが歓喜し、それ以外でも少しでもニュースなどを確認していれば即座に呟いて情報を拡散する。
ネットはもちろんテレビのニュースでもトップで扱われる慶事。俺も見た瞬間驚きつつすぐに引用して祝福コメントを打った。まあ、欠片も関係ない人物ではあるがゲームでお世話になったんだからこのお祭りに乗りかかっても良いだろう。
『福圓梨沙子:先程元気な男の子が産まれました!母子ともに問題なくベッドにいます。智紀君も駆けつけてくれましたー!パパ、今日のノーヒットノーランありがとう!お祝いが重なって嬉しいな‼︎』
メジャーリーガーの宮下智紀さんの子供が産まれたことで野球界と声優界からはもちろんその他の芸能人から一般人、それに俺のような関わりのない流行りに乗りたい輩まで多種多様に祝った。俺なんてめちゃくちゃ多い返信に埋もれて多分俺のファンくらいにしか祝ったことを察知されないだろう。
朝から『宮下智紀』『福圓梨沙子』『ノーヒットノーラン』『宮下2世』など関連する言葉でトレンドが完全に埋まった。俺も朝配信をしている時にノーヒットノーラン継続中とはコメントで知っていたけど、立て続けに凄いニュースが飛び出るものだ。
ノーヒットノーランだって日本人投手としては久しぶりということでテレビでは速報が出たみたいだし。午前中だけで2度世界を揺るがしたのは流石すぎる。
24歳で1児のパパかあ。……え?俺と4歳しか変わらないの?霜月さんと同い年?
冷静に考えるととんでもないな。有名な人と年齢を比べるのはなんか、かなり虚しくなる。
このビッグニュースにとことん乗っかろうと思って、夜の配信でやるのは『ウルプロ』にした。以前作っていたオリンピック選考選手たちと、『ウルプロ』本来の選手データのチームを使って対戦をしようというものだ。
俺が操作するわけではなく、観戦モードでCPUが勝手に試合をするのを眺めるだけだけど。
「皆さん、秘境の里へようこそ。絹田狸々です。今日は随分と『お客さん』が多いですね。皆さんも野球が好きなんですねえ。今日僕は操作をするわけでもないのでゆったりまったりとお楽しみください」
『オリンピック前だけどこの企画やっちゃうのか』
『今日という日を逃せないよなあ⁉︎』
『めでたいことが多かったからね』
『今日は野球の日だよな!もう宮下の日って名付けようぜ!』
『初見です。タヌキ可愛いね』
『トレンドには乗っていけ〜』
朝の配信が終わった後に子供の件を知ったので夜配信で何をやるのかを明言していなかった。FPS組で時間が合う時はFPSをやる予定だったが、今日は全員の予定が合わずFPSはなし。
となるとコラボはFPS以外で当分予定がなかったので今日は個人配信。で、せっかくだからとオリンピック前にやる予定だったけど、今日はとんでもないイベントがあったのでそれに乗っかかるだけ。同じような考えで野球ゲームをやっている配信者は多いんじゃないだろうか。
お昼頃にちらっと動画サイトを巡回していたらやっぱり宮下さんを育てる配信をいくつかやっていた。あれだけ話題になっていたら便乗しようと考えるのが配信者だ。
俺もそれは変わらないというだけ。
「今日は本当に観戦するだけなのでお酒も用意しちゃってます。皆さんも飲み物や摘めるものを用意しながらご覧ください。選手紹介をして、現役選手との能力を比較して、試合を見て終わりです」
『リリが配信でお酒飲むのは初めてじゃね?』
『コンビニダッシュしてくるか』
『お菓子持ってくるわー』
『操作しないからそんなもんだよな』
『自分で作った選手VS現役選手?』
『ああ、栄光で作ったのか』
別に『宮下智紀』をタイトルとかに入れたわけでもないのに初見の人が多いらしい。『オリンピック』は企画的に入れたけど、だからってこれだけ初見っぽいコメントが多いのはやっぱり今日のトレンドのせいだろうか。
おお、まだ配信を始めたばかりなのに低評価がいくつも付いてる。流行りに乗るのを嫌う層か、それとも見かけたらとにかく低評価を押していく人たちだろうか。配信をしていたら一定数低評価はもらうけど、今日はそのペースが早い。
視聴数が単純に多いにしても、他の配信ではこうではなかったのに。暇な人もいるんだなあ。
些細なことが気に入らない人はある程度許容済みだ。今でもSNSやメッセージ、配信のコメント欄などで攻撃的な人はいる。嫌なら見なければいいのに、という自衛ができない人は沢山いる。SNSとかでは気に入らないことを大々的に攻撃する人もいるから、まあ人間ってそういうものなんだと割り切ってしまうのが一番楽だ。
それに俺が攻撃されている分には無視すればいいだけだし。
俺が最初のお金を貰える舞台でのアンケートなんて、俺を名指しにして下手だと酷評する人が沢山いた。それを見て悔しくて号泣して戻したのは良い思い出だ。
それを高校1年生の段階で経験しているんだ。今更この程度の低評価でへこたれはしない。
俺ではなく、俺以外の誰かのファンを自称して『近寄るな』とか言ってきたら話は別だ。その時は事務所の法務部に報告して徹底的に排除する。そんな人間、ファンでもなんでもないだろう。相手が嫌がってるとかならともかく、自分がそう感じたとかなら赤の他人が口出すな、って感じだ。
『リリ、何飲むの?』
「梅酒のパックのやつ用意してますよ。氷とソーダで割ろうかなと。おつまみでメンマにネギと七味を乗せたやつを用意しました。後でSNSに乗せておきますね」
『梅酒ソーダね。良いじゃん』
『私も同じのにしよーっと』
『観戦まで待って!選手紹介で時間潰してて!隣のスーパー行ってくりゅ!』
『メンマいいなー。そんなもん常備してないよ』
俺と同じものを食べよう、飲もうとするファンは推しと同じことをすることに意義を見出すような人だろうか。結構私生活とか聞かれて、それと同じもの用意しましたって報告してくれるファンも多い。結構熱量が凄いというか。
ライブで団扇やサイリウムを振るのと同じ感覚なんだろうか。Vtuberは中々特殊な立ち位置だからわからない。
SNSに梅酒ソーダとおつまみを載せた後、選手紹介を始める。ちなみにどの選手でも使いやすくするために選手の調子は全部普通で固定。調子が良い・悪いで基礎ステータスが大きく増減するので、調子が悪くて使用できませんでしたとならないように普通にしてある。
あと、怪我で退場も嫌なので怪我もなし。それ以外はオリンピックルールに準拠して、球場も東京ドームにした。オリンピックのファイナルリーグはこの東京ドームでやる。俺も8月になったらそこで観戦だ。
「はい、じゃあまず僕のチームから。下に実際の『ウルプロ』での現役選手データも用意していますので見比べてください」
『おお、リリが初めて作った萩風が1番か。贔屓選手だもんな』
『やっぱり強え〜。下手に赤の特殊能力が付かなければ、大体の選手は強くできるんだよな』
『栄光ナインの仕様上、特殊能力は据え置きで選手能力だけ弱体化って対応だからな。こうもなる』
『母校にOBプロ選手がいれば悪い特殊能力も消せるし。あとは世界大会の導入が大きい』
『転生選手なら引退した直後のやつに基本送り出せるし、そこで能力大幅UPと良い特殊能力がほぼGETできるからな。運が良ければもっと良い能力も手に入る』
『選手によっては2年目の段階で送り出せるけど……。こいつどうなの?』
『リリはほとんどの選手を2年目で世界大会に送り出してるぞ。安定して育成が上手い』
本当に育成を失敗しなければ現役選手より強く作れる。1度も甲子園に行けなかったとか、特殊能力を付けるイベントに全部失敗するとか、試合結果による成長確認の際に悪い特殊能力が付かない限りはステータスもほぼほぼ迫ることはできるし、弱くなることはない。
今回の育成配信において大きな失敗もしていないので、確認したら選手評価をする星数が劣る選手は2人だけだった。全員超えられなかったのが悔しい。
「はい。羽村さんです」
『はい最強』
『ミートSパワーS走力A肩S守備S捕球A、特殊能力は本人よりも7個多く付いてる……。バケモノかな?』
『でもやっぱ3年縛りだとオールSは行けないかあ。最初の2年くらいが練習効率ウンチだから全然能力が伸びない。試合に結構勝ってもこれだもんな』
『高校・日本プロ・メジャーでバカスカに活躍してる天才だからな。こんなもんじゃろ』
『高校通算打率0.487、20本塁打72打点って何?栄光で試合回したからってここまで驚異的な数字残せる?』
『本人の高校通算はそれどころじゃねーぞ』
『↑本当の高校野球は試合数がダンチだからゲームと一緒にすんな。それと同じにしたら1年間のプレイに30時間くらいかかるぞ』
『春大会、春の関東大会、秋ブロック予選、本選、秋の地区大会がなかったりめちゃくちゃ圧縮されてるからな。それに名門なら土日は基本練習試合がデフォだし、ダブルヘッダー、トリプルヘッダーもある。そこに地方の市内大会とか含めたら試合数ヤバイからな。栄光では正直打ちすぎの記録だぞ』
オールSも目指せそうだったんだけど、走力と捕球は惜しかった。その代わり特殊能力をいっぱい付けたから許してほしい。
まあ、この羽村さんよりもヤバイのが次の人なんだけど。
「そしてこちら。今日話題になった宮下さんですね」
『天才キチャー!』
『オレンジ色の転生なんて初めて見たわ……』
『星、余裕で999のカンスト』
『ストレート175km/h、コントロールスタミナS、総変化量22、金特殊能力3つ?本人ですら『ノビ』の最上位金特殊能力は自重されたのに……』
『宮下に金渡すと全部終わっちゃうから。なお、国際大会で自力で付けた模様』
『3年縛りでこんなのができるなんて、天才って最高やな!』
この配信はバグってた。1年目の夏こそ甲子園に行けただけだけど、それ以降は全部の試合に勝利。そのせいでステータスはもちろん特殊能力もガンガン付いて、一緒に育てていた三間さんと灘さんも想定以上に強くなった。
二刀流ということで野手能力も見せると、その凄さに知らなかった人が驚きのコメントを寄せる。
「はい。野手能力ですね。一応投手の野手能力経験値は半分になるみたいなんですけど、よく育ってくれました」
『ミートBパワーS走力B肩A守備B捕球B。チートだね』
『なんか特殊能力モリモリになってなぁ〜い?『スラッガー』『送球○』『レーザービーム』『調子極端』以外全部付けたってこと?』
『そういうこちょ』
『打率0.467、18本塁打65打点はバグ。さっき見た三間より高いじゃねーか』
『だって『ヒットメーカー』と『プルヒッター』『流し打ち』とかいう欲しい青特全部持ってんだもん。どの方向にもヒットもホームランも打てるんだからそりゃそうなる』
『流石に涼介の方が成績が良いのは現実再現か』
『野手能力も特殊能力も羽村の方が良いからね』
『羽村涼介「二足の草鞋に負けていたらメジャーでやっていけない」』
『↑打撃三冠王獲ってべらぼうに突き放した奴の台詞か!』
『現実だと羽村の方が圧倒的に良い成績を残している模様』
『あの、この人投手なんですよ……。野手としても1週間に4回しか出場しないし』
『6日中1試合投手でほぼ完投して4試合野手としてフルイニング出てるのは体力お化けってレベルじゃないのよ。DHを混ぜたり、休養日があるからとか抜かしてる本人がおかしい』
野手能力もほとんどの選手に匹敵してしまった。打撃成績では羽村さん以外に勝る結果を残して天才って凄いなと改めて思った。ステータスの上がり幅が2倍で試合経験値は更に伸びる。そのおかげでガンガン能力が上がるのが楽しかった。
この育成は再現性がなさすぎる。他にも転生選手が2人もいたおかげで試合運びが無難に行き負けることがなかったのは本当に育成としてはありがたかった。
その他の選手も紹介していき、全選手の紹介が終わったところでやっと試合へ。選手紹介だけで1時間近く使ったのはそれだけ皆の反応が良かったからだ。育成中のエピソードを振り返っていたらかなり時間がかかってしまった。
「はい、相手チームのオーダーも決めたので試合を始めていきます。試合開始と一緒に乾杯でもしましょうか。じゃあ押しますよ、試合開始〜!乾杯〜!」
『乾杯〜!』
『試合開始〜!』
『両先発宮下とかいう現実では見られないカード』
『投手能力考えてもそれはそうなる』
『ルールで2回にはどちらも降りるから、そこまで無双はせんじゃろ』
『全選手使うために投手は早めに継投しないといけないからね』
選手交代の時以外は一切操作しないで見ているだけだからお箸でメンマをつまみながらお酒を飲む。うん、そこまで原料を入れなかったからアルコールも強くなく飲みやすい。
淡々と試合を見ていこうかと思ったんだけど、初回から波乱だった。
俺の作った選手の方が後攻だった。それで宮下さんが投げているわけだが、3番に入っている三間さんが『カキーン‼︎』という演出と共に打球が飛んでいった。
打つ方の演出が出ても実は外野フライみたいな結果もあるものの、今の演出はもうボールが彼方に吹っ飛んでいく確定ホームランというもの。センターへ大きく伸びていった打球はバックスクリーンに直撃して、飛距離は154mと出るような超特大ホームランだった。
「うわあ。154mなんて次の日に新聞に載りますよ」
『高校同期からホームランは流石にてえてえ』
『同校の4番とエース対決いいぞお』
『特能「重い球」なんてなかったんや!』
『実際そこそこ打たれてるんだよな、プロ時代』
『三間「智紀の球はオレが2番目に見てる。対戦回数が一番多いのはオレや。チェンジアップ以外なら打てるで。チェンジアップはストレートの後に来たら打てん。160km/hの後に110km/hの魔球なんか打てるわけないやろ」』
『超正論』
『『ウルプロ』だとチェンジアップがどうしても130km/hくらいになるから宮下の奴でもこっちがプレイするなら打てちゃうんだよなあ』
まさかまさかの最強だと思ってた宮下さんが初回からホームランを打たれる事態に。ソロホームランだからまだ傷は浅い。次の4番の羽村さんを抑えてチェンジに。
ゲーム的には特殊能力が凄く仕事をしても、相手の能力が良かったら打たれる時は打たれる。ステータスが良かったって相手のステータスが良ければ、ゲームだし打たれることもある。
たまに何でこの能力も低い選手が打つんだと思う時もあ流ので、強い選手だとしても無双できないのがこの『ウルプロ』というゲームだ。
攻守が変わって今度は俺の作ったチームが攻撃に。1番の萩風さんが打った瞬間に俺は感情を抑えられなかった。
「ふうううううう!萩風さんが打ったぁ!サイコー!」
『ただのシングルヒット定期』
『本人巡回済みだからなあ。このタヌキ。何でプロ野球選手に認知されてるんだ?』
『オフシーズンだったからじゃない?』
『萩風好きすぎだろ』
『多分本人的には宮下が天才よりも萩風が天才の方が喜んでた』
『その萩風出すためにめちゃくちゃリセマラしてたんだよな。本当にリリの運はバグってる』
推しが打つのは良いなあ。お酒が進んじゃう。
グビッと飲んだらなくなってしまった。継ぎ足さないと。
ちょ〜っと梅酒を多めにして、ソーダも入れてえ。うーん、しゅわしゅわ音がしてるぞぉ。
『お酒のASMRかな?めっちゃ聞こえる』
『機嫌いいな、リリ』
『この推しも自分の課したルールで6回にはいなくなる模様』
『真剣勝負じゃなくて、あくまでリリの企画だからね』
『鼻唄歌ってるやんけ』
『もしかしてリリ酔ってる?』
『やっぱり音痴じゃないっぽいんだよな。高音が出ないだけで』
『萩風の応援歌じゃんwwwマジで好きなんだなwww』
盗塁は、まあできないか。宮下さんのクイックも悪くないし、羽村さんの強肩は球界屈指。この人から2塁を陥れた人は数少ない。ゲーム的に走力が高くて『盗塁○』の特殊能力を持っていても、キャッチャーの能力次第で走らない選択をする。
羽村さんの能力もそうだけど、宮下さんの球速がかなり速いことも考慮材料になっているので走れないんだろう。そんなことを解説しているとこちらの三間さんと羽村さんがヒットを打って満塁で宮下さんに回ってきた。
「おおー、当人対決」
『野手宮下VS投手宮下はゲームじゃないと実現しないからな』
『打者宮下の良いところは投手宮下と対戦しないことって散々言われてるから』
『それ言ったら高校の頃の帝王とプロの頃の東武ライオンズは投手宮下と対戦しなくてズルい、あいつらは打率を盛ってるって誹謗中傷したバカがたくさんいたぞ』
『うわあ、終わってる』
『福圓梨沙子:きゃー!智紀くん同士の対決だー!どっちも頑張れー!』
『え?』
『は?』
『は?www』
『なんかどっかのトレンド妻が巡回してるんだけど⁉︎』
『リリ、お前またなんかやったんか⁉︎』
うん?何だかコメントが流れるのが速いなあ。
みんなも萩風さんが打ってくれて喜んでくれてるのかな?まずい、お酒が回り始めてしっかりとコメントが見えないぞ。
あんまりお酒強くないんだよなあ。調子に乗って飲みすぎたか?でもまだ2杯目に口を付けたばかりなんだけどなあ。
ゲーム画面を一旦止めてコメントを見る。なんか流れが不穏だからだ。酔っていて変な発言でもしただろうか。
降臨って何のことだ?また萩風さんでも来たんだろうか。ちょっとコメント欄を遡って見てみると、そこには公式マークを付けた『福圓梨沙子』のアカウント名が。
え?な、何で?どうして声優さんとかプロ野球選手はこうもフットワークが軽いんだ?
「え、は、うん⁉︎酔い吹っ飛んだ!ちょっと待って、時差何時間⁉︎まだ入院しているはずじゃ⁉︎というか、向こうって今何時⁉︎」
『気付いたwww』
『多分13時間のはずだから朝6時過ぎ?まあ、起きていてもおかしくはない』
『そりゃあ酔いも覚める』
『スマホくらいはあるだろうから見れるはず。でもよくここに辿り着いたよなあ』
『今動画サイトトップ見たけど、『宮下智紀』のライブ配信順だとリリのがトップに来てるから。5000人も集まれば勢いトップになるだろ』
『産後は変な時間に目を覚ましがち。by経験者』
とりあえずスパナをつけて、それ以外にコメントをしていないかコメントを探す。
その他にコメントはないよなと、慎重になりながら他のコメントが爆増する中、もっとヤバい爆弾があった。また公式マークである青色のチェックマークを付けた『宮下智紀』の名前が。
そのせいで更にコメントがヤバいことに。この夫婦は、気安く知りもしないVtuberの配信にコメントをしないでほしい……!いくら奥さんも配信していてコメントをしやすい関係とはいえ、こっちの心臓が保たない!
あなた方の影響力を、ちょっと考えてくれないかなあ!周りにアイドルのトッププロがいて、母親も芸能会社の社長の元アイドルで、父親がプロ野球選手だったんだからその辺りの事情を考えてくれないと……!
「えー、宮下智紀さん、福圓梨沙子さん、初めまして。昨日は大変だったでしょうから、僕の配信が少しでも休憩の一環になっていたら幸いです……」
『ガチガチのリリオモロw先輩相手でもそんなことなってなかったのに』
『いや、そりゃあねえ?むしろ想定外の超有名人がいきなり来て困惑しない奴いんの?』
『宮下智紀:俺の天才を引いたのを見てたから初めましてじゃないよ?』
『福圓梨沙子:息子も笑いながら見てますよ?』
「ぴゃ」
何で認知されてるんだ……!怖すぎるんだけど!数ある配信から俺のところに来るなんて予想できるか!息子さんなんて産まれたばかりだから何もわかってないだろうに、笑ってるのはたまたまだろう。音とかって多分そんな早く認識できないだろうし。
2人に構ってばかりだと一向に配信が進まないので、試合を再開する。本人に見られながら本人対決を見るって何の罰ゲームだ?
変な声を出してしまったことをコメントに笑われながらも、もうヤケ酒の気分で梅酒に口を付ける。もうどうにでもなれ〜と思っていると打者の方の、作った方の宮下さんがフェンス直撃の2塁打を打って2点を取った。逆転だ。
『福圓梨沙子:智紀くんが打ったけど打たれたのも智紀くんだから複雑……』
『宮下智紀:さすが天才の俺。凡才の俺じゃ打たれるのか』
『うわあ。本人の皮肉?』
『あなたが凡才だったらプロ野球選手のほとんどが凡才以下になります……』
『昨日メジャーでノーヒットノーランやった奴が凡才なわけないよなあ⁉︎』
『ゲームの仕様の話だから……』
「は、はは……」
そんなブラックジョークも飛びつつ、3回になってどちらのチームからも宮下さんをマウンドから降ろしてDHにしても変わらずコメントをし続けて、5回が終わってベンチに下げてもそのまま視聴を続けてくれたことに本当に戦々恐々しながら配信を続けた。
その途中、先輩方も俺の配信に顔を見せ始めて、あなた方は何をしているんだと言いたかった。
『音無ケイン:リリ君が酷く動揺してて草。今の君ならワタシでも簡単に手玉に取れそうですね』
「あなたも同じ経験をしたらこうもなりますよ、音無先輩!野球のトッププロが僕の配信に来るなんて予想できませんよ!」
『ジョン・スミス:プギャーwwwなんかバズってると思ったらとんでもないことになってて草も生えないwww』
「大量に草を生やしててその言い草は何ですか、ジョン先輩!今度のFPS大会の練習配信覚えておいてくださいよ!」
『霜月エリサ:またリリくん、やっちゃったの……?その、良かったね?』
「良かったけど、俺は何もやってないんだよお!なんか勝手に有名人が来ちゃったの‼︎」
『同期を前にして「俺」出ちゃったかあ』
『勝手には、それはそう』
『追加で酒を入れるなwシュワシュワ聞こえてんぞw』
梅酒を多めにしてサイダーもドカドカ入れる。選手交代以外ではもうゲーム画面を見つつコメント欄と話してシーソーゲームの試合を眺める。
打って打ち返しての大接戦。能力値だけを見れば全然俺が作ったチームの方が強いのに現役プロたちの底力が凄い。
あまりお酒を飲まないのに追加でガンガン飲んでしまった。そうじゃないとやってられないと思ったからだ。
途中からは全然コメントを見られず、何を話したかも覚えておらず、気付いたら試合が終わっていた。7-9で俺が作ったチームが勝ったらしい。
配信、終わらせないと。
「じゃあ〜、今日の配信は終わりにしますぅ〜。色々な人が見に来てくれて、困っちゃいました〜。今度はぁ、お酒に頼らず切り抜けなきゃなあ。バイバ〜イ」
『福圓梨沙子:ぐでんぐでんのタヌキさん可愛い』
『宮下智紀:楽しい配信をありがとう。練習行ってきます』
『配信ちゃんと切れるか?』
『こんな酔ってるリリちゃんは初めて。新鮮』
『舞い上がっちゃうタイプだったか……』
『もういい……!休め、リリ!』
『そりゃあ酒でも飲まんとやってらんないでしょ。トレンド入っちゃってるし』
よく覚えてないまま配信を切ってそのまま配信机で寝ていたために、次の日の朝は身体がバキバキな上に朝配信に間に合わなかった。マネージャーさんからも大丈夫ですか?という心配のメッセージが来ていて、今起きましたと返信をする。
そのままSNSで今日の朝配信はお休みすることを伝えて、昨日失言がなかったかを調べたが特には失言をしていなかったようだ。そこはマネージャーさんからも教えられていたが、本当に迂闊な発言はなかったらしい。強いて言えば一人称が一部「俺」になっていたことくらいか。
あとは霜月さんと水瀬さんに深酒したことを心配されたくらい。ダメージは、少ないと思う。
エゴサをすると昨日の配信の切り抜きで宮下さん夫妻が登場したことと、酔っ払いまくったことが切り抜かれていたくらいか。
それと、SNSにとんでもないのがあった。
『萩風:リリ君を最初に見付けたのは俺なのに。宮下夫妻は自重して』
『福圓梨沙子:みんなのタヌキさんでは?』
『宮下智紀:あの時間はナイターゲームだったか。お疲れさん。アーカイブ見ると良いよ』
『萩風:俺も生で見たかったなー。リリ君、今度は俺の天才選手育ててよ』
萩風さんの呟きへの返信欄が凄いことになってる。俺の配信用のハッシュタグを付けてるせいで誰このタヌキって言われているじゃないか。
これ、無視するのはまずいよなぁ。
『絹田狸々:皆さんフットワーク軽すぎです……。萩風さんの企画は前向きに検討させていただきます……』
『萩風:よっしゃあ!』
返信はやっ⁉︎プロ野球選手ってこの時間暇なのか?今日も試合があるはずで……。ああ、ちょうど移動してるのか。広島だからビジターとなると大移動だもんな、セ・リーグの他球団の所在地的に。
配信でお酒を飲まないことも宣言しつつ、朝に休んでしまったので家のことを色々としつつ先輩方の配信を見つつFPSのゲームの練習をする。既にゲームはダウンロードしてあり、対戦マッチングこそできないものの練習場はオフライン状態でできるのでそこでスナイパーの練習を始めた。
他のゲームとは操作方法が違うものの、ボタン設定を他のFPSと同じにしてこのゲーム特有の動きを覚えようとした。
余談だが、萩風さんの天才選手を出す配信では目当ての選手を引くまでに9時間かかった。東京は選手が多すぎて目当ての選手をまず引けないのに、そこから更に確率の低い天才選手を引き当てるのは至難の業ということ。
その配信は次の日がプロ野球選手の休養日に合わせて、しかも夜から配信したのだがそこまで長時間配信になってしまったために引いた段階で終了。申し訳なさでいっぱいだった。