元俳優、タヌキVtuberに転生する   作:桜 寧音

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FPS練習配信1日目

 『ウルプロ』配信で色々あった後、何やら変な注目を浴びてしまいどうしたものかと思っていたものの自分から首を突っ込むことでもないだろうとも思い、SNSでの返信以外で話題に出すことはしなかった。

 夜配信。いつもの時間よりも遅い時間でスタートがそもそも22時だった。俺はいつも夜配信と言いつつ夕方くらいに始めているのでコラボならではの時間ではある。

 今日やるのは『オーバーステッド』という今度リリース予定のFPSゲームだ。そのβテストをさせてもらえることの案件でエクリプスでチームを組んで他の配信者やプロチームと戦うことになっている。だから今日の配信には「プロモーションが含まれます」と出ている。

 勝敗よりもあくまでゲームの紹介がメインだ。それに配信者ならネット環境が整っているのでテストに相応しいだろう。一般ゲーム環境よりは断然いいので回線落ちなどはしないだろうということで選ばれたんだとか。

 案件自体はハピハピ先輩のツテだ。他のFPSで世界上位ランカーだし。

 配信を始めたことで今回の主役であるハピハピ先輩から話し始める。

 

「はーい、んじゃあ始めるぜ!みんなハッピーかい?2期後半組のハピハピ・ガンスレイブだよ!今日からね、案件で貰ったFPS『オーバーステッド』のβテストをやっていきたいと思います!さ来週の日曜に他の配信者さんのチームと対戦テストを行うので、そのための練習配信をしていきます。じゃあ、デビューが早い順で自己紹介お願いします」

 

「おう、2期前半組、頼れるみんなのボディーガード、ポラリス・コットンガードだ!ボディーガードとして銃の取り扱いは任せな!今回はタンクも兼ねたアタッカーを務めるのでよろしくぅ!というわけで次」

 

「はいはい。どこにでも忍び込む国際エージェント、その正体は⁉︎2期前半組、ジョン・スミスヨロシクぅ!格ゲーじゃないのが残念だけど、エルボーはあるのを確認したのでとにかく1人でもエルボーで倒すのが目標!さあぶっ飛ばすぜえ!」

 

「ちゃんと銃を使ってください!エルボーはあくまで銃弾がなくなった時用の救済措置でしかないので!」

 

 ハピハピ先輩に続いて2期前半組の先輩方が自己紹介をした際にジョン先輩が趣旨を履き違えた宣言をしていたためにハピハピ先輩が突っ込む。

 格ゲーばっかやってるとはいえ、『ズァーク』の格ゲーもやってたんだから狙撃もできるだろうに。何でとにかく近接格闘にこだわるんだ。確か設定で侵入時に最後一番頼りになるのは近接格闘だから格ゲーで感覚を極める、とかって理由で格ゲーをかなりやってるんだったかな?

 2期前半組はコラボをする時に「よろしくぅ!」という合わせ掛け声をしているらしい。男宇宙人狼の時はそんなことなかった気がするけど。

 

「じゃあ続いて、同期よろしくー」

 

「ジャジャジャジャーン!全てをひっくり返すは我が手品!世界を轟かせる悪魔と人間のハーフである奇術師とは我のこと!ユークリム・ロゼリーヌ・ワカナだ!奇術を悪魔の魔術と言う奴はメッ!だぞ!よろしく〜」

 

「戦闘用ヒューマノイド、職業掃除屋。型式番号KP7。エクリプス2期後期組だ。あらゆる分野の武器に精通している……が、銃の分野についてはハピハピには及ばないだろう。だが暗殺術なら負けない、絶対に」

 

「敵愾心含みながらの頼れる自己紹介サンキュー!じゃあ最後、唯一の後輩!」

 

「はい、皆さん初めまして。先日後輩ができたばかりの、この中では一番の後輩。3期前半組絹田狸々です。FPSはライバーになってから始めたのであまり貢献できないかもしれませんが、スナイパーとして頑張りたいと思います」

 

「このメンバーで相手チームをボコしていきたいと思います!プロチームが何だ、エンタメ力ならこっちも負けてないってところを見せつけてやる!」

 

 自己紹介が終わってこのゲームの概要をハピハピ先輩が伝えていく。公式から用意されているパワポがあってそれを見せていた。

 6vs6のチーム戦で、プレイヤー側の選べる役職は基本2つ。アタッカーかサポートのどちらか。2つと言いつつタンク能力を持っているキャラがアタッカーにもサポーターにもいるため、大別すると2つというだけでカスタムとかしたらかなりの幅があるらしい。

 ただ個別カスタムは今回解禁されておらず、最初からいるキャラクターの能力を弄るのは禁止。キャラごとに性能があるのでそれを活かして欲しいとのこと。

 選んだキャラはポラリス先輩がタンクもできるアタッカー。ジョン先輩が移動速度特化型のアタッカー。ハピハピ先輩は運営の指定で一番スタンダードなアタッカー。ユークリム先輩が回復と妨害ができるサポート。KP7先輩が超高火力紙装甲のマシンガンが得意なアタッカー。俺がスナイパータイプのアタッカーだ。

 これは他のゲームで自分に合っているキャラをピックアップしている。いろいろなキャラを紹介する宣伝でもあるのでVtuberチームを見れば全キャラの性能がわかるようになっている。

 ちなみにこれ、忖度の一環で、プロチーム2つは好きなキャラを選んで良いことになっているようだ。自慢の腕で好き勝手暴れて欲しいようで、それこそが宣伝になると考えているらしい。ハピハピ先輩はキャラを指定されたのでそこにご立腹のようだ。

 まあ、使いたいキャラを使わせてほしいというのは良くわかる。ハピハピ先輩だってスタンダードなキャラよりも個性があるキャラの方が好きそうだし。

 

 ちなみにこの差別がムカついてVtuberチームの3つは連合を組んで情報共有をしている。まだβテストなのでキャラ詳細をどのチームも掴んでいないので、このキャラはこんなことができる、こんなことに注意しないといけないということを専用のチャットで話し合っている。

 エクリプス以外のVtuber事務所はレインボードロップスとスターティンクルだ。この2つは業界を牽引していると言っても過言ではない大手事務所で、スターティンクルは女性しかいない事務所の上に登録者数が100万人を超えている人ばかりというアイドル売りをメインにしているために関わるのはかなり畏れ多い相手だったりする。

 あとの参加チームはプロチームが2つと顔出しの配信者チームが1つの計6チーム。これでリーグ戦を行なって上位チームが決勝戦をやる流れ。既にリーグ分けも発表されており、プロチームはそれぞれのリーグに別れている。この辺りも運営の影の手を感じる部分だ。

 俺たちのリーグのもう1チームはレインボードロップスだ。ちなみに仔鹿ショームさんもそのチームにいる。

 バトル形式はポイントマッチ、ゼムキルオール、エリアマッチの3つ。

 ポイントマッチは5分の戦闘でそのバトルの貢献度を測るというもの。キルのポイントが高いのはもちろん、サポートでも点数が入るのでいかにゲームの指定した点数を稼ぎつつ相手を倒せるかが大事になってくる。どれだけのポイントが貰えるかは日々研究をして何をしたら良いかをVtuber連合チャットに流している。

 次のゼムキルオールは、単純にバトルロワイヤルだ。相手チームを全滅させるだけのシンプルなもの。他のルールだと倒されてから10秒後に復活できるが、このルールだと1回倒されたらそれまで。試合時間が一番短いのは確実にこのルールだ。

 最後のエリアマッチは指定されたエリアを占領する陣取り合戦。エリアを4人以上の人間で30秒以上確保していたら獲得できるというもので、これを2エリア獲得するのが目的。フィールドの中の3エリアの中からランダムで場所が選ばれてそこを目指すというもので、両チームのスタート地点は固定なのでエリアの選ばれ方によっては有利が出やすい勝負。

 

 とまあここまで説明されて俺のコメント欄でも察している人がほとんどだが、ゲーム自体のルールから今大会のルールからしてかなり不平等なゲームだというのがわかるだろう。

 そもそもからしてFPSゲームのほとんどは海外製で、それの日本語版をプレイしている場合が多い。今回もそんなゲームの1つで、日本の企業ももちろん間に入っているもののサーバー管理と日本語訳のパッチを当てている程度だ。

 FPSが閉じた界隈になりやすいのはチャットやボイスチャットが荒れやすいということはもちろん、こういう運営側の対応が嫌で根付かないということもある。

 あと日本人で考えるとインクで陣地を塗り合うとあるイカゲームが大ヒットしてしまったためにそちらに銃を使う系の人が流れていることも大きいか。

 運営側がハピハピ先輩を指定してきて、その上でチーム制のゲームであるために俺たちを巻き込まざるを得なかったという。スターティンクルがチームで出て、レインボードロップスとハピハピ先輩だけが合同チームで出るわけにもいかないためにこうなった。

 ハピハピ先輩は俺たちに謝ってきたけど、やるとなったら大会で爪痕を残すだけだ。素人なら素人なりに、Vtuberとしてやれることをやるだけだ。

 

「と、まあこんな感じ。CPUマッチはできるからそれで練習あるのみだね。まだβ版だから大会じゃないとオンラインマッチはできないらしくて。チームメイトとは繋げられるけど、他のチームとの対戦練習みたいなのは無理なんだって」

 

『いくらβ版とはいえ杜撰すぎない?』

『海外のゲームだからなあ。まだ調整中なんだろ』

『プロへの贔屓が明け透けだぜ……。いいの?これ』

『ウチのライバーたちは製品チェックのためのデバッカーじゃないんですけど?』

 

 うーん、予想してたけどコメント欄が荒れてる。

 β版というのが言い訳にならないくらい酷い状態だからなあ。実際ゲームの運営側としてもプロプレイヤーがメインで、あとはFPSのランクが高くて集客力のあるVtuberを使ってあげよう(・・・・)っていう感覚なんだろうし。

 実際はそうであっても表面は隠すのができる企業のはずだ。今回の大会の後に製品版ができたとして、俺は触れるだろうか。ハピハピ先輩も結構怪しいのに。

 ゲームの準備ができて全員カスタム無しなことを確認して試合を始める。試合時間が短いキルゼムオールをやる。

 ウチのチームはポラリス先輩とジョン先輩が最前線を務めて、ハピハピ先輩とKP7先輩がミドルレンジを詰めてその後ろにサポーターのユークリム先輩が、更にその後ろから俺がスナイパーとしてやっていく。

 のだが。

 

「え、あ⁉︎エイムむずくね⁉︎ラグってる⁉︎」

 

「ちょっとー⁉︎CPUの攻撃の圧やばいんだが⁉︎これ本当に同じ武器設定にしてんの?」

 

「回避能力が、優秀すぎるっ⁉︎どんなキャラコンがあればそんなに避けられるわけ!」

 

「くっ、こっちとあっちでダメージソースが違くないか!目に見えるダメージが違いすぎる!」

 

「回復追い付かないよ〜⁉︎手もスキルも足りないんだけど〜‼︎」

 

「当たったはずなのに倒れない⁉︎サポートって体力低いはずでは⁉︎」

 

 そんな阿鼻叫喚でグダグダになる。CPUのレベルは普通にしているのに完全敗北。訓練場で練習を全員していたはずなのに全くうまくいかなかった。ステージが違うからとはいえそんなに挙動が違うのかと首を傾げた。

 ハピハピ先輩の画面で今の試合のリプレイを見る。その結果に唖然とした。

 

「……え?サポーターのバフを最初にしてる?持続時間が保たなくて意味ないんじゃ?」

 

「接敵して、こっちもバフかけて……。何でダメージソースで負けてるんだ?というか、ノックバックないって何?」

 

「あ、ちょっと⁉︎回復連チャンで使ってる!チーターやチーター!」

 

「これ、CPUってこっちと同じ土俵に立ってないですね……」

 

「練習にならんな、これは」

 

 スキルのリチャージタイムがゼロにされていたり、バフの持続時間が延びていたりして結局バフが二重になっていたりとプレイヤー側との設定が違いすぎてどうにもならなかった。

 チーム戦を練習したいのに、CPUがチート設定にされていてこっちが負ける。こっちが攻撃をいくら当てても回復が無限では倒せるわけがない。

 しかも相手の攻撃は全部クリティカル判定のヘッドショット。バフも込みでダメージが3倍になっているんだから火力でも負けている。

 

『ゲームバランス崩壊してますが?』

『これ、プロモーション含んでるんだろ?マズくね?』

『大会はCPUがいないから大丈夫なはず……』

『ソロで遊べなくね?大丈夫なの?』

『基本こういうゲームのソロって訓練場だけで、マッチの時は全員プレイヤーになるようになってるからこのβ版での練習相手がいないって状況でもない限り同じようなことは起こらない、はず』

『基本使わない機能だからって手を抜いたな?練習できねーとか終わってんだろ』

 

「CPU設定弄れないかな……」

 

 ルームを作ったハピハピ先輩が敵の設定を弄れないかと確認していくが、スキル周りなどは弄れないことがわかる。そもそもこのオンラインマッチ機能が追加されたのは今日からで事前に確認できなかった。確認できていたらこんなにまどろっこしいことになっていない。

 回復無限なんてどうしようもないので相手からサポーターを外す。相手の妨害などを想定して練習ができないのは本当に意味がない。

 

「……これ、誰か向こうのチームに入れない?」

 

「ダメ、弾かれる。全員プレイヤーかCPUじゃないとエラー出るっぽい。プレイヤーとプレイヤーのマッチングも待ってくれって運営から言われてるからまだ機能が実装されてないな」

 

「じゃあ他のチームと練習試合、とかもダメだな。八方塞がりじゃねえか……」

 

「サポーター全部なしで練習したって、アタッカーが使えるバフも結局スキルリチャージゼロか維持時間が無限とかでしょ?環境が違いすぎない……?」

 

「でもプレイヤーが6人いないとそもそもマップで練習ができないんですよね……。各ルールでの仕様は今じゃないと確認できないので」

 

「運営には連絡入れてもらうようにエクリプスには上げておくよ。あと他のルールだったら大丈夫なのかもしれないし、エリアマッチをしてみようか」

 

 エリアマッチのルールでやってみるが、結局スキル周りのCPUの設定は変わらず、一生高火力を積まれて嬲り殺された。ポイントマッチでも変わらず、KP7先輩がプロモーションが含まれるとか関係なく台パンをしていた。

 これで叩かれることはないだろう。それくらい理不尽だ。

 CPUが絶対に勝つゲームってなんだって話だ。

 

「ケピナ、落ち着いて。もう案件貰ってるの。それに海外の世界大会ならチーターを許すような杜撰な大会もあったよ。メンタルリセットしなさいな。この程度で怒ってたら対戦ゲームなんてできないぞ」

 

「お前は悔しくないのか⁉︎お前の腕と知名度を利用するだけ利用して、こんな未完成品を出して……!会社を通した案件でこのザマだぞ⁉︎……フー、悪い。大声を出した」

 

「悪いって思ってるならお願いがあるんだけど、サポーターやってくれない?相手の火力が高すぎて練習にならないからバッファーお願い。CPUも弱くして練習しよう。この理不尽に慣れたら大会は楽になるかもね」

 

 弱い設定でもスキル周りは変わらず、ただ攻撃頻度が落ちるというだけの調整でHPなどは変わらないのでさっきよりはマシくらいの変化しかなかった。

 それでも配信者としての性か勝てるまでひたすら練習をしてポイントなどの仕様などを確認していたら朝の7時になっていた。9時間も配信をしていたので今は終了。また22時にはやる予定だが、ハピハピ先輩は問題点をリストアップしてゲーム会社に送るようだ。

 

「えー、こんな感じなので今日は朝配信は休みます……。当分は夜の練習配信だけかもです」

 

『リリ、休め。これはしゃーない』

『メンタルにも来るのに長時間配信したらそりゃ疲れるでしょ』

『ここから朝配信してたらやべえだろ』

『おやすみ〜』

 

 配信を切って、アラームをセットして寝る。

 予想はしてたけど、今回のゲーム案件、波乱すぎる。

 

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