元俳優、タヌキVtuberに転生する   作:桜 寧音

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『オーバーステッド』公式大会(リリ視点)1

 今日はFPSゲーム『オーバーステッド』の公式β大会だ。大会は15時から始まるのでその前に集まってだらりと雑談をしている。3つのルールで2チームと戦い、リーグ戦を勝ち上がれば決勝戦だ。3戦必ずやるので引き分けはなく、絶対に勝敗が付く形になっている。

 リーグ戦も決勝戦もルールは同じ。順番は『ポイントマッチ』『エリアマッチ』『ゼムキルオール』で固定。時間がかかる2つのルールを先にやって、最後に速攻で終わる試合形式であり、特に1つのミスで逆転されやすい『ゼムキルオール』は見応えも瞬間風速も良い数字が出るだろう。

 ちなみに、2連勝したとしても今回の大会はあくまで宣伝なので3試合目までやる。下手したら3連敗もあり得る怖いルールだ。虐殺をエンターテイメントにしてしまうのがこのFPSというゲームのジャンルなので、そこまで残虐な思考に落ちたくはないなと思う。いくら視聴数を稼げるからといって、そんなスタイルを見せてしまったら俺のチャンネルからは人が離れていくだろう。

 それに今日ばかりは数字だの何だのと言わずに、勝利だけを追求したい。時間を一番費やしたのは間違いなくエクリプスだ。元々のFPSの腕だとか、運だので負けたくない。

 それだけこのゲームを真剣にやり込んできたし、ゲームの未完成っぷりや、ハピハピ先輩に対する縛りなどを考えたら到底受け入れられないことばかりだった。だからこそこの未完成の状態のゲームで勝つという今しかできないことを見逃したくなかった。

 今回の大会はやはり宣伝としてしっかりとお金を掛けているのか、司会にトークの上手いアナウンサーを、実況と解説にプロのFPSプレイヤーを2人呼んで本放送で配信をしている。ゲーム運営会社が集めたであろう情報を元に優勝予想などを言っているらしいが、そちらは全然見ずに6人でボイスチャットを繋いで各々の配信でゲーム画面を見せている状況だ。

 

「公平を期すために14時からパッチを配布で、練習しないように画面を見せておくようにって、ちょっとくらい練習したって良いじゃない」

 

「インストールに時間がかかる人間もいるだろうからな。1試合目が空いているから暇で仕方がない。他の試合を見に行くのも禁止とは本当に雑談配信になってしまうぞ」

 

「ケピナって雑談配信もちょくちょくやってるから時間を潰すくらい余裕だろう?」

 

「普段であればお便りとか読むんですよ、ポラリスさん。練習もできずにただゲーム画面を映しているだけなんてつまらないだろう」

 

「だからって待機画面でそんなキモい動きしないでくれる?ウチの『ハニー』たちが怖がってるんだけど?」

 

 ハピハピ先輩が練習ができないことにブー垂れ、KP7先輩が組み合わせの問題で暇をしていることに苛立ち、ポラリス先輩が宥めつつ、ジョン先輩が複窓で配信を見ているだろうリスナーのコメントを見て苦言を呈する。

 KP7先輩、どうやらキャラを少しだけ動かせるのが気に喰わないのかコントローラーをガチャガチャやっているようだ。サポートキャラの女の子が手足の全く揃わないブレイクダンスを踊って顔も動きまくっている映像は、確かに気持ち悪い。せっかく可愛いキャラなのに。

 俺たちは試合を見られないが、他の配信枠を見に行っているリスナーが鳩行為と呼ばれるあまりマナー的によろしくない行為だが試合の推移を教えてくれる。

 レインボードロップスとプロチームの『錆銀の旗』の試合だが、今『エリアマッチ』まで終わって互角のようだ。プロチームと引き分けているのは凄い。

 

「え?ウチらの知らないフィールドがあったの?なにそれ……」

 

「ハピッチのところにも情報届いた?スターティンクルの『エリアマッチ』のフィールド、新マップだって」

 

「うわ……。オレたちが必死こいて作ったマッピング、意味ないじゃん」

 

「いやいや、意味なくはないですよ。練習した3マップなら各種のデータが頭に入っていますから。3戦中2試合で既存のマップを引くように祈りましょう、ポラリス先輩」

 

「だな。んじゃあ願掛けも込めてキヌを拝んどくか。南無阿弥陀仏」

 

「南無阿弥陀仏は意味が違うんじゃありませんか?」

 

『リリは阿弥陀仏だった……?』

『仏の一種みたいなもんだろ、コイツ』

『昨日のエリーの引きヤバかったからな……。神頼みでも何でもいいからしとけ』

 

 ハピハピ先輩とユークリム先輩のところに情報jのリークが来たようだ。新マップということで弱気になっていたポラリス先輩を励ます。仕様が変わっていなければ、一番アドバンテージがあるのは確実にウチだ。

 練習量という意味では結構レインボードロップスも上位だけど、ウチには及ばない。それにスターティンクルにも情報を渡したとはいえ、ただ情報を目で見るのと実際にキャラを現場で動かすのは得られる情報量の差がはっきりしている。

 もしかしたら配信に載せず裏で練習をしていたのかもしれないけど、そこまでの策士なのだとしたら何も言うことはない。頑張ってVtuber代表として勝って欲しいだけだ。

 

「新フィールドだとどこで待ち伏せしようとか、そういうのを手探りで探さないとダメかあ。戦術が一気に崩れるね。似たような配置がないかと、あとは腕でカバーするしかないと。β版とはいえやってくれるねえ」

 

「腕を見せるのはお前の仕事だろ。私たちは足手纏いにならないように最低限の動きでサポートする」

 

「えー、それはチームじゃないでしょ、ケピナ。ウチの腕だけじゃ無理無理。ポラリス先輩のタンクも兼ねた先導と、ジョン先輩の一見無軌道な特攻に見えるデコイ役も、ケピナとユークリムの各種サポートも、リリ君の狙撃も、全部揃わないとプロチームには勝てないから。たとえ最強と言われるようなプレイヤーでも、数の暴力には勝てないよ。目は2つしかないんだから、視覚外から撃たれたら終わりなのは超人的なプレイヤーでも一緒。頼りにしてるゼ?相棒」

 

「私はまだお前の相棒を名乗れるほど腕を磨けていない。お前がそう呼んでもいいと思えるくらい私の腕が上がってからならそう呼ぶのを許可する。この大会中は禁止だ」

 

「ふふ、りょ〜かい。これでも感謝してるんだよ?最初はサポートをやらせるつもりなかったのにこの2週間でしっかりと仕上げてくれたんだから。サポートは特に判断力が試される。それを同期2人がしっかりやってくれるからウチらは前線で戦えるんだから。2人とも、ありがと」

 

「私はエイムが全然ダメだからね〜。むしろこっちしかできないよ」

 

「そういうのは最後に取っておけ。優勝チームへのインタビューで言うことがなくなるぞ」

 

『こういう大会って練習がものを言うはずなのに、その前提を崩されてもなあ』

『β版は都合の良い言い訳じゃないぞ。ならもっとブラッシュアップさせて製品版の先行配信版で大会開けば良かったのに』

『ハピハピ、チームリーダーなのもあって皆のことちゃんと見てるよね』

『おん?ケピハピてぇてぇか?』

『そこ、矢印出るような関係だったの……?マズイ、執筆意欲が……』

『ケピナが結構色恋に無反応なクール系キャラだったから、そういうのは匂わせも何もなかったけど……』

『練習配信の時の台パンといい、今のガチャガチャで苛立ってるのといい、KP7はハピハピへの感情デカイだろ。多分尊敬的な意味だろうけど。雑談であそこまでFPSで高ランカーになれるのは凄いって褒めてたし』

 

 あらあら。普段は俺が霜月さんとのことで弄られる立場だけど、今回は俺が弄ってもいいのだろうか。

 表でこうやって見せている部分もあるけど、それ以外でもKP7先輩とユークリム先輩は今回のFPS大会に向けて結構努力をしている。

 他のFPSゲームでエイムや動作の練習を俺と一緒にやったり。今回のサポートとしての力を発揮するために俺にアドバイスを頼んできたり。

 俺はスナイパーという役割上、全員の中で一番後ろにいるために戦場を俯瞰して見ていることが多い。配信のアーカイブを見てどの時どうしたら良いかの検証を3人で頭を突き合わせて考えて、次の日の練習に活かそうとサポートのタイミングを調整したり。

 裏で2人が実力のあるハピハピ先輩に汚泥を啜らせないようにとやっていたことを知っている。表に出すことはしないからこそ俺だけが知っている秘密の事柄のようで見ていて楽しい。これが他人の関係性でご飯を頂くということか。俺と霜月さんを弄る先輩方の気持ちがわかってしまって複雑だ。

 それにしても、ハピハピ先輩側からの信頼度も相当高いな。同期だからだろうか。表に出ていない交流もたくさんあるんだろう。俺たちFORがどれだけご飯に行っているかなんて水瀬さんが零さないと知られることはないし。

 俺のコメント欄で創作をするような人が新しいカップリングに萌えている。カップリングなのかはわからないけど、迷惑がかからないならファンアートでも何でもやったら良いと思う。

 

『お、リリチャンネル登録者数10万人行ってね?』

『マジじゃん!リリおめでとう!』

『このタイミングで笑』

『もうすぐ行きそうとは思ってたけど、今かー。大会で勝ったらとかじゃないのは変なタイミング』

『これでFOR全員10万人やな!おめ!』

 

「ええ、今……?うわ、ホントだ」

 

「ん?リリ、どったの?」

 

「チャンネル登録者数が10万人行ったみたいです。皆様、ありがとうございます。記念配信はまたどこかで別枠でやりましょうか……」

 

「リリ君おめでとう!酒開けるか!」

 

「大会前なんで止めてください、ジョン先輩。今日は飲酒は厳禁で」

 

「しょうがないなー。まあ、何にせよめでたいのは本当だから。このめでたいのを大会にも持っていこう」

 

「キヌ、おめ!今度一緒に飯行こうぜ!」

 

「後輩が順調そうで良かった。おめでとう、リリ」

 

「おめでとー、リリ君。また『ウィザーズ&モンスターズ』教えてね」

 

「リリ君、おめでとう。じゃあ今日は2つのことで祝杯をあげるよ!もうそろそろ試合が始まるだろうし、気合い入れてこー!」

 

「「「おお!」」」

 

 コメント欄で指摘されてチャンネルページを見に行ったらこの配信中に200人ほど登録者数が増えていたようで10万人を突破していた。試合が始まったり、勝ったりしたのなら増えるのはわかるけど、こんな待ち時間の雑談で突破するなんて。

 結構ギリギリになったら登録者数が突破するまで耐久配信をしたりする配信者が多いが、昨日はそんなことする余裕はなかったし、今日の朝にそれをする元気もなかった。霜月さんとのコラボ配信で若干増えていたのもあって、色々とタイミングが合わなかったので耐久とかはしなかった。

 おめでとうを皆さんから貰って、ハピハピ先輩から号令がかかったので声を出して気合いを入れる。睡眠もしっかりと摂って、試合中に飲むための飲み物なども準備してあるので万全だ。

 でもそうかあ。これで動画サイトの運営会社から10万人記念の銀盾を貰えるのか。配信を初めて半年ちょっと、かなりのハイペースだと思う。ありがたいことだ。

 

『今回の大会メンバーを全員チャンネル登録した俺みたいなのがそれなりにいたんだろうな』

『昨日の霜月さんとのコラボ配信でまたガチャ信者を増やしたし……』

『記念配信楽しみにしてます!』

『メンバーシップ開設とかしない?緑色の文字でイキリたい』

『メンシいいね!検討してけろ!』

 

 記念配信はやろうとしていたこともあるので、おいおい。今の内にスタジオを確保しておこう。スタジオのスケジュール表を確認して、申請を出しておく。割と近い時間で空いていたのでここで良いだろう。

 事務所の調整板みたいな場所へ申請を出していると、こちらのリーグの第1試合が終わったという報告がコメント欄に来る。どうやらレインボードロップスは負けてしまったらしい。

 この後俺たちはレインボードロップスと戦う。プロチームはどちらのリーグでも第1と第3試合なために休憩のインターバルが貰えるが、俺たちVtuberと顔出し配信者チームは全員連戦だ。この組み合わせもまあ、忖度の一種だろう。この程度でとやかく言うつもりはないが、やるならもっと上手くバレないようにやってほしい。

 現に、プロチームがどちらも有利ではないかという声が出ている。実際にキャラピックなどで有利なのでその通りとしか思わないが口には出さない。

 

「試合は10分後ってアナウンスが来たね。5分前になったら全員コメント欄を見えなくするからよろしく。鳩行為したって無駄だから見るならウチらの配信か公式放送くらいにしておいた方が良いよ。トイレとかも今の内に行っておいてね」

 

「水分取って来る〜」

 

「エナドリ入れようっと」

 

「先にルーム入っておくよ。ルーム番号はチャットに貼ってあるから入ってね」

 

「キャラピック問題なし、ボイスルーム間違いなし。ヨシッ!」

 

「ヘルメットを被った猫いませんでした?」

 

「実際問題ないからヨシ!」

 

「ジョンと同じ部屋だから、ヨシ!」

 

「ハピハピがいるから、ヨシ!」

 

「先輩方全員いるから、ヨシ!」

 

「「「「ヨシ‼︎」」」」

 

「男子さあ……」

 

「まあ、これがエクリプスだよね〜」

 

 なぜか現場ネコというミームによる確認をジョン先輩が始めて、ポラリス先輩とKP7先輩も乗っかったので俺も乗っかるとハピハピ先輩に呆れられた。ユークリム先輩には諦観されたが、これもジョン先輩なりの緊張しないようにという気遣いだと思う。

 ジョン先輩はいつも男子扱いされるけど、性格から何から全部男っぽいから仕方がない。男性限定、女性限定どちらのコラボでも顔を出すのでそういう人だと思われている。設定的に性別は明かさず、男女どちらにもなれるという人なので中の人の性別を言うのは野暮だろう。

 コメント欄を見れないようにして、相手チームが入って来るのを待つ。ショームさんのように知り合いもいるが、対戦相手とボイスを繋げる意味もないので特にやりとりもなし。

 『Vtuber連合』チャットでも特にやりとりはなしだから健闘を祈る、とかってコメントも必要ないだろう。ここからは純粋な真剣勝負だ。

 

「『ポイントマッチ』は……『エリア666跡地』だね。良かった、既存フィールドだ」

 

「よーし、キヌに祈った甲斐があったぜ。ナイスキヌ!」

 

「確率論で言ったら既存マップが選出される可能性が高いぞ?ポラリス先輩」

 

「無粋なこと言うんじゃねーよ、ケピナ。こういう諸々も込みで運も実力の内ってこと!試合始まるぜ!」

 

 エリアマップを俯瞰するような映像が流れるのと同時に、相手が選出したキャラクターが1キャラずつ紹介されていく。誰が何を操作するのか、キャラの画像と一緒にプレイヤーネームが表示されていく。

 ばあっと見たが、全員『Vtuber連合』チャット欄で話していた通りのキャラを選んでいる。この短い時間で複数キャラの習熟なんて無理だろう。こっちも初日にKP7先輩がキャラチェンジしただけで、それ以降はずっと同じキャラを全員が使っている。

 『ポイントマッチ』の点数計算だが、役職ごとに得るポイントが異なり、サポートは有効なサポートをしたら大幅点数獲得となる。例えば瀕死の味方キャラに回復を使えば3ポイントで、通常キルが2ポイントなのでタイミングさえ噛み合えばポイントが有利になる。

 また、バフデバフをかけられる範囲が決まっているが、1キャラごとに0.5ポイントを貰えるのでできるだけ範囲内に味方を引き寄せて使いたい。とはいえ最初からスキルが使えるわけではなく、ファーストチャージ時間があるのでそれが満ちるまで開始地点で留まっていればキル進行速度が遅くなり他のポイントが稼ぎにくくなる。

 それに有利な場所を相手に確保されたり、バフをかけたは良いものの戦闘中に切れて効果がなくなったせいでやられたとかになったら本末転倒だ。

 

 詰まるところ、いつも通りに試合運びをして、マズイ状況を回避しようとしたらオマケでポイントが貰える、程度の考えで良い。

 アタッカーも残りHPが低い状況で相手を倒せばポイントが多く貰えて3ポイント貰えるが、やられたら意味がない。それに低HPで維持するのは難しく、マシンガンなどの流れ弾で倒されたらおしまいだ。だからわざと低HPで前線へ行って返り討ちを狙うのはあまり推奨しないとはハピハピ先輩談。

 それよりは回復してもらってポイントを稼ぐ方がマシだそうだ。スピードが速い相手にマッチした瞬間に負けるのでむしろ回復ポイントを稼ぐ方が優先。近くにサポーターがいなかったら特攻もあり、とのこと。

 このエリア666跡地はAとGを頂点というかお互いのチームのリスポーン地点になっており、このエリアは狭い。そしてすぐXの字になるように上からBCDEFのエリアがあり、Dが最大エリアでありちょうど真ん中なので戦う地点になりやすい。

 D以外は各々のリスポーン地点側から隠れられる場所が多いので、引き篭もらないのであればDで戦うのがメインになる。

 

「アタッカー3、サポート2、スナイパー1!ほぼこっちと同じ構成、ケピナ、索敵任せた!リリ君はケピナの指示通りに狙撃よろしく!」

 

「任せろ」

 

「了解です!」

 

 試合が始まった。5人は集団行動、俺だけ別行動。スナイパーとして良いポイントへ移動するが、これは『Vtuber連合』にも教えていない場所だ。というか、別に狙いやすい高台とかじゃない。むしろ高台だと目立ちすぎて相手のスナイパーに狙われる。

 だから俺が行くのは、逆に下。ビルの間とかでもなく、瓦礫が溜まっている左側エリアの割と真ん中の辺り。そこでキャラをうつ伏せにしてスナイパーライフルのスコープを覗く。

 

『え?そこ?』

『見つかりそう……。嫌でも、そんなところにスナイパーがいるとは思えないか?』

『芋スナしない+10000点』

『誰やこの評論家もどき』

 

「リリ、B-16地点で止まっているキャラ1人。ポイント的にスナイパーだ」

 

「了解。……見付けました。先制攻撃します」

 

「OK!やっちゃえリリ君!」

 

 俺が教えたスナイピングポイントに、のこのこと現れるスナイパー。バニーメロさんだ。同じスナイパーキャラを選んでいたのでチャットでは結構会話もした。

 あそこに陣取ったということは、このマップではあそこが最適解って結論になったんだろうな。それは俺も同意見だけど、だからこそ陣取らない。

 3発連続でヒット。スナイパーは耐久もそこそこなので3発でしっかりとキルができた。とはいえ普通のキルなので2ポイントだ。狙撃を防いだだけ大目に見てほしい。

 

「スナイパーキル。弾倉リロードします。リロードまで残り12秒」

 

「リリナイス!攻め込むよ!」

 

「おっしゃあ!暴れるぜ!防御スキル使うぞ!」

 

「バフ全員にかかったことを確認!みんな、頑張って!」

 

「アタッカー2、サポート1、D-22から出てくるぞ!デバフを発射する!」

 

 前線組も始まった。その間に俺も移動してメイン戦場のDエリアに近い現在のEエリアの最北部へ向かう。今度はうつ伏せにしないまま、さっきまで使っていた長距離用の対物ライフルではなく、中距離射撃用のスナイパーライフルに持ち替えて前線をスコープで覗く。

 スナイパーだからって遠くから撃つだけじゃない。割と近場からも狙撃はできる。

 

「バフ切れるよ!無理に追うのは禁止!」

 

「デバフも切れるぞ!ダメージコントロール!」

 

「ハピ問題なーし!自バフが残ってるからまだ近くで撃つよ!」

 

「すまん、ポラHP半分!防御バフ切れたら下がるから回復頼む!」

 

「ジョンもヘイト買いすぎたわ!ケピ、回復よろ!」

 

「了解!私がジョンを治すからユーはポラへ回復用意!」

 

「OK!」

 

「リリ問題なし。ジョン先輩をサポートします」

 

 ダメージコントロールもしつつ、前線から下がってくるジョン先輩を追っているアタッカーの琴浦烏兎子(ことうらうとこ)さんへ3連射。それが上手く頭に当たったのかポイントが多めで撃破。そのままポラリス先輩の撤退も援護して、2人が去るのを援護した。

 

『リリ2キル目!』

『ナイスゥ!』

『中遠距離の切り替え、良いぞ!』

『スナイパーライフルだと威力落ちるし、結構近付かないといけないけど、スナイパーがそんなに近くにいるとは思えないよなあ』

『こっちだと小回り効くし、うつ伏せにならないから移動しやすいのが狙われにくくて使いやすいんだよな』

 

「スキル使います。ハピハピ先輩、退避を」

 

「良いよ、撃って!」

 

 催涙弾のスキルを使い、着弾した辺りが白い霧に包まれる。目くらましになるし、その霧の中にいたキャラには速度低下のデバフをかけられる。

 味方にもヒットするこのスキルだが、ちゃんと合わせれば強い。ポイント的に3人にヒットしたようだ。そこへハピハピ先輩が猛攻をかけて3人キル。

 あの人、強すぎはしないだろうか?

 

「敵撤退!スナイパーが復帰してるはずだから警戒を密に!リリ、移動しろ!索敵スキルはまだ使えない!」

 

「Eエリアの奥に引きます。移動後に対物ライフルに持ち替えます」

 

「回復リチャージOK!私も索敵はまだリチャージ中だから待ってて!」

 

「ならこっちも一旦Dから撤退!F-15で回復とリロード優先!ポイントは稼いだから態勢を整えるよ!」

 

 全員生き残っているので前線組も引くことにした。『エリアマッチ』や『ゼムキルオール』なら果敢に攻める必要もあるが、今のルールは『ポイントマッチ』。下手にミスをしないことの方が優先だ。

 予想通りスナイパーのバニーメロさんが復活していたようで、さっきまで居た地点にスキルのグレネード弾が上空から降ってきて爆撃された。

 

『あぶねえ!』

『死んでもスキルのチャージ時間は継続だからすぐ使えたのか。やばかったら敢えて死んで次に一気にスキル使うのもありって結論出てたもんな』

 

「よし、間一髪!リリ君、狙撃ポイントはわかってるね⁉︎」

 

「はい、C-35と40辺りをハラスメント攻撃します」

 

 35~40番辺りはちょうどエリアの境目だ。Dが主戦場のままならC-35辺りからDへ入ってくる。前線組がFへ撤退しているので索敵スキルを使って追ってくるなら中央エリアのDを経由するか、C-40辺りから直接Fへ入ってくるしかない。

 エリア跨ぎの狙撃は対物ライフルじゃないとできないので、こちらへ持ち替える。スコープで見付けられたらラッキー、見付けられなかったら索敵を待つか、相手が動くのを待つしかない。

 

「あ、マズイ!向こうからの狙撃がキツイ!なんとか避け切れてるけど、一発喰らった!」

 

「スナイパーは確実にDエリアにいるね。リリ君、行ける⁉︎」

 

「そっちを優先します。……D-32にいるので狙撃します。まあ、高台となればあそこしかないので、狙撃手以外にやられない良いポジションですよねえ」

 

 エリア内にはいくつか高台ポイントがあって、そこを攻撃するには直接その高台に登るか、同じく遠距離攻撃で倒すしかない。だからスナイパーは場所取りをしっかりすれば案外安全なんだけど、逆に安全すぎる場所は決まっているのでそこに居続けたらいつかは撃たれる。

 俺が移動している間にポラリス先輩とジョン先輩がやられていた。回復スキルのリチャージ中にバニーメロさんに集中砲火を受けたらしい。弾数増加のスキルを使って一気に刈り取ってきたんだろう。

 だけどそれだけ撃ち込めば場所も割れる。索敵スキルを使うまでもなくあの場所に銃弾を届けられる場所は限られている。ちょうどリロード中のようで、リロードをしている時はスナイパーを含めアタッカーは全然動けない。特に弾数増加スキルを使った後はリロード時間が倍になるデメリットがある。

 そこを俺が狙い撃った。

 防御バフも載っていたのか4発必要だったけど、バニーメロさんを撃破。

 

「スナイパー排除完了。リロードします」

 

「こっちが崩れたのを見て総攻撃を仕掛けてくるよ!アタッカーが2人減ってるけど、向こうもスナイパーがいないならこっちから逆に攻める!リリ君、援護よろしく!2人もサポートお願いね!」

 

「消極的なのは配信者じゃないし〜、やっちゃえハピッチ!」

 

「暴れろ。お膳立てくらいはしてやる」

 

 いくら取り繕ったところでウチはハピハピ先輩の一強突出スタイルが最強だ。たとえただのスタンダードなキャラを渡されていようと、彼女のキャラ操作とエイム力は群を抜いている。

 バフデバフをかけることはもちろん、サポートの2人が威力が少ないながらも小銃でヘイトを買うようにダメージを与えたり、俺が当たらないながらも別方向から狙撃することで注目を集めたことで意識を乱してハピハピ先輩の猛攻の援護をした。

 倒して倒されての10分間。結局一度も倒れなかった最強が、チームの勝利を手繰り寄せていた。

 115-62。『ポイントマッチ』による勝負は大差を付けての勝利となった。

 

「よし、マッチ獲った!」

 

「ハピちゃんナイス!何でそんなエイム上手いの⁉︎ポイントダントツじゃん!」

 

「ふあ〜、勝った勝った。格ゲーに比べて1ゲームが長いぜ、ホントに」

 

「いや〜、マップでの有利が出たかな。あれだけ練習したマップだから、負けるわけにはいかないよ」

 

「GG。全員ポイントをしっかり獲得しているな。次は『エリアマッチ』だから戦い方をちゃんと変えないと」

 

「1戦目を取れたの大きいですね。ナイスゲームです」

 

『つえー!』

『ポイントマッチで3桁得点は初!稼ぎ方うめー!』

『ハピハピ強すぎない?これでいつも得意なスピード特化型じゃないってマジ?』

『全員自分のポジションわかってるなー。チームワークが良い』

『スタンドプレーじゃないってこういうゲームだと大きいよな。特に6人チームだとすぐに瓦解しそうだし』

『水瀬夏希:勝った〜!』

『霜月エリサ:リリくん、スナイパーとしてめっちゃ活躍してない?』

『同期もよう見とる』

 

 この後割とすぐ、『エリアマッチ』が始まる。キャラピックなどもないので運営チームがエリア選択をしている間に水分を補給しておく。

 まだまだ1戦目。今日は長いんだからこの集中力が保てるように、一息つきたい。

 

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