続く『エリアマッチ』のフィールドは『大自然保護区』が選ばれた。エリアはA~Eのたった5つで、AB、DEがそれぞれのチームのリスポーン拠点であり、ここは本当に小さいエリアしかない。メインはCでここはバカみたいに広いので索敵が大変だ。
それにスナイパー的にやりにくいのが、隠れられる場所がほぼない草原ということだ。精々木が数本あるくらいで、身体を隠せるほどの草むらもなく、たとえうつ伏せになったとしてもキャラの服的にバレる。
新ステージが選ばれなかっただけマシか。ここならやりようはいくらでもある。
俺たちの拠点はDE側。誰がどっちでスタートするのかはランダムで、合流するのが割と大変だったりする運ゲー部分もある。正直この仕様はFPSガチ勢を取り込みたいのか、エンジョイ勢にジャイアントキリングをしやすくさせたいのか不明だ。
『エリアマッチ』ではエリアにある集積地というオブジェクトで3秒間Aボタンを長押しするとエリアを取得できるシステムだ。相手が既に取得している集積地を獲得するには倍の6秒かかる。
10分経った時点で獲得しているエリアの%が高い方が勝利か、時間内に100%を達成したらその前に終わる。終わるんだが、相手のリスポーン拠点にも集積地はあるので最後なんて敵が雪崩れ込んできて撃ち合いになりながら3秒間無傷でボタンを長押しする必要がある。
防御スキルを持っている仲間に庇ってもらうにも限界があるので、エリア制圧による勝利はほぼ無理だろう。リスポーンに20秒かかるから、全員キルした後に余裕を持って、というのが無難な制圧方法だ。
ちなみにこれ、NPC戦で何度もやられた。ノックバックもなく、弾も無限なNPCはこっちがパワー負けして軽々とエリアを占拠していくのでNPC戦は全敗だったりする。だからエクリプスでも苦手意識がある種目だ。
一応エリアごとの対処法を考えて練習はしたものの、勝ったことがないからどこまでやれるかわからない。
あとはゲーム画面の上部にエリアを確保した情報がポップアップで表示されるので、相手がどこにいるのかバレやすいのが問題だ。だから隠密行動というのはしづらい。本当にルールごとに行動が激変するから考えることがたくさんだ。
「2勝すればレインボードロップスとのマッチは勝ちだからね。この『エリアマッチ』で勝って安心感を手に入れるよ!」
「フィールドインしたら場所報告をオレとジョンでやる。どっちもいなかったらケピナが、そのケピナもいなかったらキヌがするように。Dから優先で報告な。そんでもって『大自然保護区』だから、まずは合流を目指すぞ」
ハピハピ先輩の号令とポラリス先輩の指示に頷いて試合が始まる。俺が配置されたのはEエリア。一緒にいたのはジョン先輩とユークリム先輩だ。
「D班、ハピとケピナ!このままC-72を目指すぞ!」
「E班ユーちゃんとリリ!オレだけ単独行動するぜ!」
「ヒャッホウ!組み合わせ最高では⁉︎ジョン先輩合流よろ!ユークリムとリリ君、後ろは任せた!」
「「「了解!」」」
『リリとユークリム一緒じゃん!これは勝ったな!』
『練習で一番良いとされた組み合わせ!合流の手間が省けるのは良いぞ!』
『何で2人が一緒だと良いの?』
『このエリアだと団体行動を捨ててるから。あくまでエリア確保となると後方のエリアをたくさん確保すべきなんだよ。だから後方でとにかくエリアを確保する人間が居た方が良い。遠距離から攻撃できるリリとサポーターであまり攻撃できないユークリムは相性が良いんだ』
『別にケピナでも良くない?』
『ケピナのサポートがデバフ系だから、相手に使う必要があって接敵しないといけないんだよ。どっちかが後ろって考えたらユークリムが後ろの方が効率が良い。バフをリリに与えられるからサーチ&デストロイも狙えるし』
『水瀬夏希:へ〜。みんなかしこ〜い!』
『へへ、みなちぇに褒められちったぜ』
『ハピハピが考えた作戦をそのまま書いてるだけなのに……』
ユークリム先輩が早速Eの集積場を確保して、そのまま移動を開始。ジョン先輩や他の3人はエリア確保をすることなく合流地点へ向かう。俺とユークリム先輩も最初は別行動を取って確保できそうな近くのエリアを奪いにいく。
レインボードロップスは律儀に拠点どちらも確保して、拠点周りもある程度確保しているようだ。エリアローラーをしているようで、これもエリア数を確保するなら順当な手段だ。ある程度確保して、その後は銃撃戦に集中する。そうすればスキルなども死蔵させないので真っ当なFPS戦になる。
ウチはそれを考えると邪道だろう。
相手は何人もの名前が表示されるのに、こっちは俺とユークリム先輩しか名前が表示されない。これで相手は疑問を覚えるかどうか。
「相手はAメンバーの3人でエリアを幅広く確保中。Bの方がそろそろC-14に到着するぞ。この辺りで合流してメンバー編成をしそうだな」
「OK。ユークリムとリリ君はまだエリアローラーで良いよ。ウチらはこのままC-40辺りまで進軍。FPSでの陣取り合戦だろうが、撃ち合いが優先だって教えてあげようねえ」
前線組4人は通るエリアの集積場をことごとく無視して進軍を続ける。俺とユークリム先輩は
1つ2%なのだが、ウチが14%なのに対して向こうは34%だ。6人全員でエリアを確保しているんだからそうもなる。
「ユークリム、索敵スキル要らないや。こっちで見付けた。ケピナ、仕掛けて」
「デバフ使うぞ!」
「バニーメロさんはまだC-12付近にいます。さっきエリア確保のポップアップ出てました」
「リリサンキュー!スナイパーもいないよ、突撃!」
「やったらあ!」
前線組が仕掛けたようだ。あまり突出しすぎるとスナイパーにおびき出されて撃たれるのだが、このフィールドのCはかなり広く、数字が20も離れていたらスナイパーでも狙撃できない。だから俺は序盤はとにかくエリア確保をするしかない。定跡として『Vtuber連合チャット』にそう伝えたのはハピハピ先輩だし、ほとんどのチームが仕様を知ったらこの方針で来るはず。
だがウチは4人、いやほぼ3人による突撃によってそもそもスナイパーなんて知るか戦法に打って出た。一気に中層まで駆け寄ってデバフをかけたKP7先輩はすぐに戦線を離脱してハピハピ先輩たちが守っている前線ラインのエリアを確保。デバフのスキルのリチャージが終わったら合流してデバフを撒いて制圧した後のエリア確保係になる。
3人で相手を倒した後はリスポーン中にエリアを確保しつつ、ハピハピ先輩の猛攻によって相手にエリアを確保させない前線ロックを仕掛ける。前線組の負担が半端ないが、それだけエースたるハピハピ先輩に全幅の信頼を置いているからこその作戦。
後ろもしっかり俺たちで確保しつつ、真ん中のエリアを確保することで真ん中以降のエリアに進軍させない防衛ラインを作る。あとはFPSに則ってエリアを奪い返される前に前でずっと圧をかけ続けるという戦法だ。
「4人撃破、こっちはポラリス先輩がちょっとダメージ多いかも!ケピナ、C-37来られる?」
「今行く」
「リリも前線合流します。C-24に残りの2人がいるみたいなのでそっちを落としに行きます」
「リリ君にはバフかけたよ!私も同じ方角に行ってまだ未確保のエリアを虱潰しに埋めてく!」
ここからは後方ガン無視だ。全員で中層ラインの維持かつ敵撃破を目指す。俺もスナイパーとしての役割を果たす。エリア確保のポップアップのおかげで大体の位置を掴めるから索敵があまり必要ないのがこのルールの特徴だ。
それに既存マップなら集積場の場所を把握している。次に目指しそうな場所も絞り込めるのでその辺りを中心にスコープで監視する。
エリアを確保しようとしていたショームさん、その周りで警戒するバニーメロさんが狙撃をしようと寝そべった隙に俺は3連射。ヘッドショットも決まったようでその3発で倒せた。すぐに隣のサポートのショームさんにも残りの2発を撃ってダメージを与えた。エリアは確保されたものの、ダメージを与えられたのとスナイパーを排除したのは大きい。
「スナイパー撃破!C-33からローの1人が後退しました!リロードします!」
「スナイパー排除ナイスぅ!ジョン、一気に攻めるぜ!」
「ポラさんHP管理は気を付けろよ。オレたちの役目はあくまでハピ嬢の護衛なんだからな」
「わかってるって!ボディガードの名にかけて、ハピちゃんは守るぜ!」
リロードが終わったので近くのエリアを1つだけ確保して俺もB寄りのハピハピ先輩たちがいる方へ向かう。ハピハピ先輩たちがどこにいるのかは味方側のマーカーのおかげでわかるのでその辺りで交戦しようものなら俺でも狙える。
2度目の相手の前線部隊との交戦中、俺は対物ライフルで届く距離から狙撃をした。2度目の前線部隊全滅だ。
「悪い!やられちまった!でも最前線までハピちゃんを送り届けたからな!」
「本当にありがとう!そのままポラリス先輩はウチらの拠点周りを確保して!ケピナとリリも合流!相手のエリアを奪いつつウチの壁になって!」
「任せろ。死んだとしても自陣のエリア確保をしてやる」
「僕は後ろから狙撃させてもらいますよ」
この圧作戦の欠点は回復が追いつかず、前線組の負担が大きいこと。そしてエースのハピハピ先輩がやられた瞬間瓦解する作戦であること。
一応対応策として主戦力組のリスポーン拠点側の集積場を確保していなかったので残り時間でひたすらその辺りを確保してもらって数字的に勝つという戦略も残している。だから俺とユークリム先輩はあまりD側のエリアを確保しなかった。後方から最前列に戻るのは時間的にも厳しいので、だったら最後は数字を確保してもらうことを優先した方がエリアを稼げる。
相手の陣地を奪いつつ、後方はしっかりと確保する。この二面作戦によって優位を保ちつつ、最後はちゃんとスナイパーとして戦力を逐次投入する、数段階でのフェーズを経て戦略を練った。
「このままA方向は無視!Bを制圧してジョン先輩とケピナはひたすらエリアの確保!敵を倒すのはウチとリリでやるよ!」
「その前に回復持っていけ!最初の当たりではデバフも撒くぞ!」
「さっきは壁になってって言ったけど、優先は生き残ってエリア確保だからね!相手のエリアを削る方が勝率は上がる!」
「C-13で3人を発見。アタッカー3人ですね。撃っていいですか?」
「1人削ってくれれば嬉しい。2人ならデバフ込みで確殺できるから!」
「OKです。先頭の
大体この辺りにいるだろうという推測で探していたら見付けたので報告。撃っていいということなので5発全部使って
リロードが終わってもう一度スコープ越しに索敵をする。撃たれたとしてもハピハピ先輩を止めるために進軍していた。ハピハピ先輩を放置していたらエリアもキルも取られまくるのでどうにかしないといけないわけで。
俺が次の攻撃をする前にKP7先輩のデバフが入る。そして一気に近付いたハピハピ先輩がアサルトライフルで確実に倒していく。鮮やかだなぁ。
ポップアップに俺とハピハピ先輩以外の人のエリア確保がポンポンと流れる。こっちが66%で向こうが18%か。大分差が付いたな。
相手の部隊への対処は俺とハピハピ先輩だけ。ここまで差が出たらハピハピ先輩を倒すことを優先するか、勝つためにエリアを確保しに行くか。どっちにしろ俺とハピハピ先輩はBでリスポーンする人たちを出待ちで襲撃するだけだけど。
そう思ってたら俺が撃たれた。ダメージ的にスナイパーだ。
「すみません!スナイパーにやられました!」
「もう後30秒で終わる!全員無理しないでいいぞ!」
「いいや、オレは最後まで相手の陣地を奪うね!ポラもケピナもまだ空白地点あるぞ!」
「ウチも突撃するよ!攻勢による防衛陣を敷くね!」
「ハピちゃん、それって自暴自棄の突撃じゃない⁉︎まあいいや!やっちゃえー!」
全員でエリアを確保しようとするのを俺は復活待ちしながらポップアップで見る。復活した時にはもう10秒も残っていなかった。マップを見てみんなが何の動きをしているのかを確認していると試合が終わった。
72%対20%。圧勝と言える結果に、マッチでの勝利決定に俺は現実で拍手する。作戦がきっちりとハマるとこんなに勝てるのかと驚いたくらいだ。NPC戦だけだったから対人戦の『エリアマッチ』で上手くいくかさっぱりわからなかったが、上手くいったのなら作戦立案のハピハピ先輩は間違っていなかったんだろう。
「GG!マッチ勝利確定!」
「結局ハピハピちゃん死んでなくね?つっよ」
「あん?オレも死ななかったんだけど?ケピナも。死んだのポラリスとリリだけじゃん」
「タンク役と火力があって狙われやすいスナイパーは仕方がないのではー?」
「ユークリムもエリア確保ナイス。後ろの空白地帯、ほぼないのは丁寧な仕事だ」
「エリアを確保をしてなくても索敵スキルとスナイパーのコンボはやっぱり脅威ですね。スナイパーの性質上立ち止まっていることが多いので、そこはやられるのは仕方がないって割り切るべきなんでしょうけど……」
『レインボードロップスに勝利!』
『2戦先取ナイス!』
『『エリアマッチ』は全敗だったから不安だっただろうに、よくやったわ』
『後ろのカバー手厚。しかもこれ、フィールドごとに作戦考えてるとかマジ?』
『メンバーで煽ったり反省したりすんなやw勝ったんやぞ』
『次がプロチームだからね……。しゃーない』
試合後のじゃれ合いもそこそこに、最後の『ゼムキルオール』に移る。マッチに勝ったとはいえ、一応勝ち点のシステムもあるのでできたら勝っておきたい。全員勝数一緒で勝ち点による決着もあり得る。今の時点でレインボードロップスが2敗になってしまったので、正直勝ち点はオマケではある。
どちらかというと新フィールドを引いてエリア確認をしたいんだけど、残念ながら選ばれたのは既存フィールドの『宇宙第4前線基地』だった。パッチバージョンが上がって、仕様が変わったのかを確認するのがメインになりつつ、それでも勝って気持ち良く終わりたい気分ではある。
そう思ってたんだけど。
「うわああ⁉︎ごめん、グレでやられた⁉︎」
「ハピちゃん落ちたとかマジ⁉︎」
「バニーメロちゃんのスナイプうまっ!いや、1回死んだら終わりのこのルールじゃマズくね⁉︎」
「バニーメロさんは処理しました!」
「数は同数!向こうもスナイパーはいないのならまだやれるぞ!」
「ポラリスさん治します、ってやられた⁉︎」
「ユークリムちゃーん⁉︎」
スナイパースキルの上空爆撃で運悪く、というよりバニーメロさんが上手くてハピハピ先輩が脱落。それに乗じるようにユークリム先輩もやられた。
既存フィールドだからとはいえ警戒を密にしていたものの、初動でやられたのは大きい。その後どうにかしようとしたものの、人数不利なまま押し潰されて負けてしまった。
残機1の復活なしルールだと、こういう初動でやられたら一気に不利を押し付けられるからなあ。これは相手を褒めるしかない。レインボードロップスもかなりの時間を練習に宛てていたし。
『勝って兜の緒を締めよ、とはいかんかったか』
『まあ、マッチには勝ってるし?』
『連戦だけど頑張れよー』
『霜月エリサ:ナイファイ!次のマッチも勝って決勝にいこー!』
まずはマッチの勝利を噛み締めつつ、『Vtuber連合チャット』へ通知が来たのでそのポップアップを見る。メインモニターではなくサブモニターの方に通知が来るようにしていたし、音は鳴らないようにしていたので試合中は気にならなかった。
今は休憩中だから見ても良いだろう。
『ショーム@飴:エクリプスの皆さん、ナイスゲーム!この後は応援に回るのでぜひ決勝に勝ち上がってね!配信したまま応援してるよ!』
『ピースラブ@星々:ウチも全敗なので応援に回りますね……。Vtuber代表として頑張れ、エクリプス!』
両事務所に応援されてしまった。そうか、スターティンクルも負けたのか。となるとVtuber事務所で決勝に上がれる可能性があるのはウチだけ。
しかもプロチームに勝たないとダメだ。負けた時点で向こうが2勝になって勝ち上がり。つまり次のマッチを制した方が決勝進出だ。Bリーグもプロチームと顔出し配信者チームが決勝進出を賭けて次のマッチで争う。
試合は10分後で、それまでに次のルームに入る必要がある。コメント欄を見てしまうと隠し忘れそうなので見ないようにしよう。
「やっぱり初動でいかにスナイパーを潰せるか、それとスナイパーに見付からない位置どりができるかが肝かもね」
「索敵スキル発動までの時間にスナイプポイントに辿り着けるかと、射程に相手が入っているか次第ですね。スキルを使ったタイミングで移動中だったら結局逃げられて撃てないので……。索敵スキルを即撃ちも考えものですね」
「いくら2人で使えるとはいえ、1回使ったら1分は使えなくなるからな。索敵でミスったらその分のデメリットが大きい。できたら既に配置に付いてるスナイパーを炙り出せるのが良いが、フィールドとその人のキャラエイムによって配置に付くタイミングもズレるから完璧な時間というのはないだろう」
「ルームID来たら教えるから、ちょっと休んでおいてね。特にトイレは行く暇ないから今のうちに!」
「行って来るわ〜」
「私も失礼〜」
「飲み物取ってくる」
「僕も少しだけ席外します」
飲み物補給しておこう。緊張からか凄く喉が乾く。報告もめちゃくちゃしてるから言葉もかなり話してるし、状況理解のために頭も使ってるから水分を欲してるんだよな。ついでにチョコレートも食べて糖分補給をしておこう。