守備についての説明を続けていく。勝つためにはコールドとか延長という特別な事情を除いて27のアウトを重ねなくてはならない。まずは一番オーソドックスな三振からだ。
ゲーム画面は守備の画面なのでスライドに戻す。
「では三振について話していきます。これ、簡単な話が漢字の通り3回ボールに当たらずにバットを振ってしまうとアウトになるということです。空振りは最大2回まで、と覚えていれば大丈夫です。正確には3つストライクを宣告されるとダメなので、ストライクについて説明していきます」
「あ。よく見る黄色と緑色と赤色だ!」
「今の状況を示すカウントを見せたものだよ、水瀬さん。黄色がストライク、緑色がボール、赤色がアウトカウントを示しているね。じゃあこのストライクについて、次のスライドにいきます」
次のスライドを見せると、3D状態の宗馬先輩がバットを構えている状態で現れた。そして中央には黄色い線でできた四方形がある。ホームベースも見えるようにちょっと浮かせた状態で表示していた。
『宗馬じゃん。協力してくれたんだ?』
『確かに黒子よりは見やすいか。こいつの格好、ラフなアロハシャツだし』
『膝も肘もよく見える。男での選択なら最適解まであるか』
「はい。宗馬先輩にご協力いただきました。今真ん中に見えている黄色い線、こちらがストライクゾーンと呼ばれるものです。ここを通過したらストライクと思ってください」
「横はホームベースの大きさかな?高さは……膝と肘の間?」
「おお、霜月さん鋭い。80点!じゃあ皆さんに質問です。ストライクゾーンとはどこでしょう?まあ、意地悪な質問なので大体合ってたら正解にしてしまいますが」
「え?その枠線じゃないの?」
霜月さんでも大体正解と言っても大丈夫だ。けど実はこの枠線だけがストライクではない。AIとか機械が全てを判断するならこの黄色い線が正解になるんだけど、審判っていう人間がいるためにこれでは正解とは言えなくなる。
野球ってボークとかもそうだけど、面倒なルールが多い。だからこそ基礎的な話なんだけど。
コメント欄もこの黄色い線だと思っていたのか困惑しているが、中には正解もある。これ初めて聞いた時そんなフワッフワで良いんだと驚いたくらいだ。
「とんち、とかでもなく?」
「違いますね、イソラ先輩。大筋は霜月さんの答えで正解ではあるんですよ」
「奥行きとかそういう話?」
「あ〜。ケイン先輩も鋭い、90点!この平面を通過ではなく、実はホームベースの上を通る、がストライクの条件の1つにあります。なので曲がるボールとかで奥行きの部分に触れていればストライクをもらえますね」
「これでも正解じゃないなんて……!」
いや、実に惜しい。ほぼいい線は行っているどころか、初心者でそんな立体的な考えができるだけでケイン先輩の洞察力はなかなかだ。探偵さんというのはまんざらでもないらしい。
うーん、これ以上は出ないか。
「正解発表してもいいですか?」
「人によって身長とか構えが違うからざっくりとしたもの、とか?」
「お、おおお!ドロッセル先輩大正解!そうなんです。ストライクゾーンって動くんですよ。打者や審判によって変わるので、正解としては『この黄色い線の辺り』が正解なんです。そもそもストライクって審判による『今のボールは打てるよ』って宣告なので、この黄色い線の周辺だったら大体ストライクを取ってくれる審判も、むしろこの線をきっちり守って投手に厳しい方もいます。本当にざっくりなんですよ、ストライクゾーンって」
「それはわかりませんよ、リリ先輩!」
「そーだそーだ!横暴だ、リリちゃん!」
『そんな適当なの……?』
『これ聞いた時びっくりしたよね。ちゃんと決まってるわけじゃないんだって』
『野球のルールブック読むと面白い項目いっぱいあるぞ。バカかな?って思うルールも多いし、マジ複雑』
但馬さんと水瀬さん、それにコメント欄にもブーイングをされるが、そういう規定なんだから仕方がないじゃないか。
ゲームとかだとそういうのは反映されていないだろうから、固定されていることが多い。現実の野球だとビデオで見ると外れていそうだけど、審判がストライクと言ってしまったらストライクだ。
「ボールはストライクの真逆ですね。このざっくりゾーンから外れている、もしくは主審が『今のは打てないからボールね』と判断したものです。3つストライクを奪えば三振、4つボールが宣告されると
「四球以外にも出塁の方法ってあるんだよね?ヒットとか」
「はい。ヒットは代表的な出塁方法なので後ほど説明しますね、イソラ先輩。あとは
「痛い思いをしたから、ってこと?」
「そんな感じです。実際硬球が頭に当たって長期離脱とか、プロの世界でも結構あることなので。正直全然割には合いませんね」
死球が四球と同じ結果しかないのは中々残酷だと思うけど、ルール的に当てたら1点、なんてことにしたら全員打者がホームベースに近寄って立つことになりそうだ。
試合をエンタメ、あくまでスポーツにするための処置なんだろうな。
「続いてファウルの説明をしましょうか。今度はグラウンドの俯瞰図を見せます。ちょっと色で上書きしていますが、よくある球場の俯瞰図ですね。ファウルの説明をするにはフェアゾーンも説明しないといけないので先にフェアゾーンを説明します。簡単な話が、試合を止めるか止めないでプレイを続行するかというゾーンになります。ホームベースからレフトとライトへ伸びている赤い線があると思いますが、これがフェアライン。この線からグラウンド側にボールが落ちたらプレイが続行だと思ってください」
「そっち側に落ちたら、ヒットになったりアウトになるかもしれないけどとにかくプレイが続行ってことかな?」
「まさしく、ドロッセル先輩。バスケとかでもコートの外にボールが出たら試合が一旦止まりますよね?それと同じで野球はこのフェアラインの内側で進行されます」
フェア、ファウルについてこのゾーンのことを話さないと何で今の打球がインプレイではないのかを説明できない。特に今はストライクの概念を伝えているので、ファウルを説明しないと次にいけないからここは重要だ。
実際試合中でも名打者や、ここぞという場面で打者がファウルで粘ってたら手に汗を握る。この粘るということは賛否両論だったりするが、俺としては盛り上がると思う。明らかに打てなさそうな人がやっていたら冷ややかな目線を向けると思う。
「フェアゾーンに落ちない、つまりはこっちの今黄色で示したエリアに打ったボールが落ちたら1ストライクと同じことになります。ただし、ファウルは3回以上打っても三振にはなりません。理論上は100球でも1人で耐えることができます」
「えー!ズルだズル!」
「打者としては拮抗してるわけだからね。ズルじゃないんだよ、水瀬さん。まあ、10球くらい投げたら投手の方が大体根負けするし、付き合いきれなくて四球を出すんだよ。ルール上ずっとファウルをするのは問題ないけど、ファンと相手目線からすると嫌だね。カット戦術っていうわざとファウルを打って相手投手を消耗させる手段もあるんだけど、かなりグレーゾーンだし僕は好みじゃないかな」
水瀬さんがズルと言う気持ちもわかる。投手の肩や肘は消耗品なので無理に球数を投げさせる手段は嫌いだ。けど高校野球とかだとそれを推奨するチームもある。エースを降ろして2番手投手を打ち崩すという、見ててどうなんだと思うようなことをアマチュアだからこそやったりする。
たまにプロがやって炎上したりしているけど、カット戦術は卑怯だという認識が根強い。打った投げたを見に来ている人からすればエンタメでも何でもないからだろう。
「打者のボールカウントについてはこんなところですかね。質問とか疑問とかありますか?……じゃあ次のスライドに行って、アウトの取り方を教えますね」
もし今疑問が出てこなかったとしても、後から聞いてくれれば答えるのでとりあえず次だ。コメント欄の疑問は答えていたら日付を超えそうなので一旦無視。次の雑談配信の時とかに改めて説明すればいいだろう。
次のスライドではアウトの取り方について箇条書きで書いてある。
「まずが三振ですね。これはさっき説明した通りピッチャーがストライクを3つ取ることです。で、その次がバッターが打った打球が浮いてノーバウンドで野手が捕球したらアウトです。ノーバウンドで捕球するならグラウンドのどこで捕球してもアウトです」
「ファウルゾーンで捕球しても、ノーバウンドだったらアウトってことですか?」
「そうです、但馬さん。なのでファウルゾーンでも野手は積極的にボールを追いかけますね。これでアウトにできたら大きいので。次が割と多いのかな。打ったらバッターが1塁へ走るんですが、そのバッターランナーが1塁へ到達するまでに1塁へ野手がボールを投げて、投げたボールが1塁へ着く方が速かったらアウトになります。これは実際にゲーム画面で見せた方がわかりやすいので見せますね」
『ウルプロ』の守備練習で見せるのは本当にわかりやすいと思う。まずは一般的な外野フライ。センターの萩風さんのところに打って捕球。その次は但馬さんの言うようにファウルゾーンへのフライを打つ。ライトのファウルゾーンへ調整して、井上さんが追い付いて捕球。
ついでに同じファウルゾーンへ打球の高さを下げてライナーを打って、ファウルも見せる。逆にフェアゾーンへ調整して井上さんの前に落としてフェアというかヒットも見せる。
「こんな感じでノーバウンドで捕球できたらアウト。ファウルゾーンに落ちたらファウル、フェアゾーンでバウンドしてバッターランナーが1塁に到達した時点でヒットになります。逆にフェアゾーンでバウンドしてバッターランナーが1塁に到達する前に1塁ベースを踏んでいるファーストへボールが届けられたらアウトです。これが基本のアウトの取り方ですね」
「基本は内野ゴロとフライってことですよね?リリ君」
「そうですね、ケイン先輩。それが基本で、あとは打球が上がらずに真っ直ぐ飛んでる打球はライナーと呼ばれますが、それを直接捕球してもアウトです。あとは珍しいパターンですが、ライトゴロというのもあります。外野前進にしたら行けるかな?ちょっとやってみますね」
「ライトゴロ……?リリくんなにそれ?」
霜月さんが困惑の声を出しつつも、やれそうなのでやってみる。ライトの井上さんだけど足と守備はB、肩はSなので守備能力はかなり高いし、このCPUが走力Dで固定されているはずなのでいけそうではある。
速い打球でライトの正面へ打つ。ちょうどワンバンで井上さんの前に転がったので捕球した瞬間1塁へ送球。送球○の特殊能力を持っている井上さんということもあって1塁に綺麗にボールが届いたことでアウトにできた。これかなり厳しい条件なんだけど、こうやってたまに成功したりする。
プロ野球でもたまにあって話題になったりするプレイの1つ。
「おお〜!」
「すっご!ボール速ーい!」
「これもアウトなんだ⁉︎」
「はい。本当に珍しいプレイですが、たまにあります。小学校の野球では良くあるらしいですね。これもアウトになります。今見せたのが基本的にはアウトの条件ですが、あとはボールを持った状態でランナーにタッチするというのもあります。投手が宮下さんだから行けるかな……?これも試してみますね」
バントで一塁線側に転がす。それを宮下さんが捕球した後にランナーへ近付いてタッチするとアウトと表示が出る。宮下さんの能力が高すぎて簡単にアウトができてしまうのは、見本としていいのだろうか。これを誰でもできると思われても困る。
タッチアウトという概念を教えるという意味はあったけど、こんなのできるのは足が相当速い人だけだ。普通のタッチアウトだとセカンドゴロでランナーにタッチが普通だし。
「こんな感じでボールを持った状態ならボールをタッチすることでその本人をアウトにすることができます。衝突もあるのであまりする人はいませんが、タッチアウトにしないといけない状況もあるのでそれを見せますね。ランナーを3塁に置きます。で、内野守備は前進に」
ホームでのタッチアウトがかなりわかりやすいと思う。設定をした後はセカンドゴロを打ってランナーを走らせる。セカンドの灘さんがホームに投げてキャッチャーの羽村さんが3塁ランナーをタッチにしてアウトにする。
「はい。こんな感じでタッチアウトになります。これは後ろが全部ランナーで埋まっていない状況だったらこんな形でタッチアウトにする必要があります。3塁の人をタッチアウトではなくフォースアウトにするなら1・2塁にランナーが必要になるので、満塁じゃないとホームベースではタッチアウトが必要になります」
「じゃあ、3塁でタッチアウトにしない方法はランナーが1塁にいる時で、2塁でタッチアウトの必要がない時はバッターが自動的にランナーになるから自動的にアウトになるってこと?」
「イソラ先輩、大正解です。ちょっとランナー1・2塁の状況と、ランナー1塁の状況でやってみましょうか」
最初に3塁のフォースアウトをサードゴロで見せて、次はセカンドゴロで2塁のフォースアウトを見せた。タッチをしなくてもアウトにできるというのは時短になる。というかこのルールがないとゲッツーなんてほぼできない。
「これ、ベースを踏んでいてボールを受け取ったらアウトにできるのでタッチする時間が必要ないんですよね。なので上手く行ったら2つ3つアウトにできるんですよ」
「え?1回で3つもアウトにしちゃっていいのですか?」
「珍しいプレーではありますが、ルール的にはありですよ。ドロッセル先輩。よくあるのは2つアウトにするゲッツーですのでそちらからやっていきます。ランナーが1塁の時が多いので、やりますよ」
ランナー1塁でショートゴロを打つ。仲島さんが捕球した瞬間2塁ベースにカバーで入っていた灘さんに送球。アウトの表示が出た後すぐに灘さんがファーストの
6-4-3か4-6-3と表記されるゲッツーが一般的だ。この数字はポジションを投手から順に割り振ったらショートが6、セカンドが4、ファーストが3になるからこういう表記になる。
続いて難しいトリプルプレーだけど、俺が配信で作った最強侍JAPANを守備チームにしているので全員守備力と肩が鍛えられてるのでできそうだ。一番やりやすい5-5-4-3で行こう。
サードへ強いゴロを打って、そのままサードの三間さんが自分で3塁ベースを踏む。その後すぐに2塁へ送球。両方アウトにした後最後に1塁へ転送してアウト。
一発でトリプルプレーができてよかった。
「ふ〜。これがトリプルプレーです。上手くいって良かった。ノーアウトランナー1・2塁か、満塁でもないとできないプレイなのでこれも条件が厳しくて滅多に見れませんね。そもそも守備が全員上手くて、ランナーの足がそこまで速くないと成功しないので」
「これ成功したらすぐにチェンジになるの?できたら一発逆転だね」
「まあ、そんな上手くいかなんですよ霜月さん……。現実でも全然現れてないはずです。上のステージに行けば行くほど足の速い人が沢山いますから。それにランナー3人の内2人の足が速かったらそれだけで成立しませんから」
「これ、バッターが足が速かったらそれだけでダメってことだもんね。確かに難しいかも」
基本的な守備のアウトは以上。牽制死も珍しいからなしで、盗塁による刺殺だけは説明しよう。どうせ後で盗塁を説明するのでこの際に盗塁によるアウトも伝えておく。
「後守備で代表的なアウトは盗塁失敗です。ランナーはプレイ中なら好きなタイミングで次の塁に進んでいいんですが、代表的な進み方がピッチャーがバッターにボールを投げるモーションをした時にランナーが走ることが盗塁です。これをキャッチャーが阻止できるので試してみますね」
細かい設定をして投手がボールを投げるようにする。ストレートを投げつつ、キャッチャーの羽村さんが2塁へ送球。ランナーの足が速くないために余裕でアウトにする。
キャッチャーの能力次第だけど、羽村さんの能力が高すぎるのでこの人の前で盗塁を仕掛けるのはかなり無謀だ。肩もSで守備もSの羽村さん相手に盗塁するのは無謀で、CPUだと能力を判断してまず走らなくなる。
「これもタッチアウトの一種ですね。これがセーフならチャンスが広がるので挑む人も多いんですが、ピッチャーとキャッチャーの上手さ、後はランナーの足の速さ次第ですね」
「これって3塁でも、それこそホームベースにも走っていいんですか?」
「成功するなら、ってところですね。ホームに走るのはホームスチールと呼ばれますけど、これもほぼないですね」
「何で金属?」
「……スティール、盗むだよ水瀬さん。まあ、日本語にする時に発音しやすく変えちゃってるからしょうがないんだけど」
「あー良かった!いきなり金属出てきてびっくりしちゃったもん」
和製英語だから仕方がない。似てる言葉なんていくらでもあるし、日本語だって同音異義語が多数あるから文脈で判断するしかないんだよな。
アウトの方法については全部伝えられただろう。
後は攻撃の方法だな。ラストスパートだ。